お還りなさいませご主人様!

    作者:空白革命

    「大胆に振りかぶって投げる。大胆に振りかぶって投げる。大胆に……」
     戒道・蒼騎(ナノナノ毛狩り隊長・d31356)がゲーセンでとってきたぬいぐるみを片手に投球フォームの練習をしていた。
     待ち合わせまでの時間つぶしらしく、わりと日常的な風景なので一緒に待ってる仲間も放置状態である。
     全員がそろった所で、蒼騎はふと投球練習の手を止めた。
    「集まってくれてサンキューな、皆。実は俺が調べていた都市伝説なんだが、実体化したことがわかった」
     キリッとした彼の表情に、仲間たちの表情もまた引き締まる。
     実体化都市伝説。
     人々を苦しめ、時として死に至らしめるそれを駆除できるのは、他ならぬ自分たち灼滅者である。
     いわば使命。
     いわば宿命。
    「その都市伝説とは……」
     ごくりと息を呑む仲間たちに。
     蒼騎は重々しく語った。
    「メイド喫茶なんだ」
     直後、帰ろうとした仲間たちを蒼騎は掴んで止めた。
     
     メイド喫茶。
     都内じゃいくらでも目撃するアレでソレな飲食店である。今更説明するまでもなくみんな知っているタイプのお店だが、蒼騎たちが向かったのはまさかのド田舎である。
     地元住民が『この辺にもメイド喫茶ができたらしい』とありもしない噂を語ったことから田舎のメイド喫茶として都市伝説となり、実体化したのだという。
    「都市伝説は店舗ごと実体化している。いわばこれが一個体の都市伝説なんだが、入店した客に襲いかかってくるそうだ。あくまで予想だが、メイドらしい戦闘方法だと思う……」
     バス停におりたち、グッと拳を握る蒼騎。
    「皆、地元住民の平和を守るために……メイド喫茶に行こうぜ!」


    参加者
    城・漣香(焔心リプルス・d03598)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    ヴィンツェンツ・アルファー(機能不全・d21004)
    白凪・星夜(おそれずかたりて・d27451)
    戒道・蒼騎(ナノナノ毛狩り隊長・d31356)
    ミーア・アルバーティ(猫メイドシスターズ・d35455)
    神無月・優(ラファエルの名を冠る者・d36383)
    野々村・まゆ(まゆサーのまゆ・d36734)

    ■リプレイ

    ●メイドオオオオオオ! ウワアアアアメイドオオオオオオオオオ!
     早速で申し訳ないが、脳の限界に挑戦して欲しい。
     ビハインド・煉。ライトグリーンを基調としたロングスカート式のフリルメイドドレス。
     ビハインド・エスツェット。ブルーが基調の同じメイドドレス。
     ミーア・アルバーティ(猫メイドシスターズ・d35455)とビハインド・マーヤ。いつものイングリッシュメイドドレスでシンメトリーポーズ。
     二人で持ったトレーの上のナノナノ・白豚。ペット用メイド服にくるんでぐーすか眠る。
     はい、せーの。
    「「おかえりなさいませ、ごしゅじんさま☆(ナ゛ノォ)」」
     その様子に、城・漣香(焔心リプルス・d03598)は頭を抱えた。
    「おかしい! 喋れる人が一人しかいないはずなのに複数の幻聴が重なって聞こえる! そしてなのより……!」
     漣香はカッと目を見開く。
    「なんでオレもがっちりメイド服着てるんだよ! そうです、避難誘導に丁度いいからです!」
     うあーと言いながら頭を振り回す漣香。
     ヴィンツェンツ・アルファー(機能不全・d21004)がぽんと肩を叩いた。
    「大丈夫大丈夫。武蔵坂男子のうち九割は骨格ごと変わったような女装をするって統計が出てるから」
    「誰なのそんな偏った統計を取った人は」
    「大丈夫。金は下ろしてきたから」
     ぞろっとお札の束を財布から覗かせる。
    「エスツィット、オムライスにポーズともえもえオプションで」
    「……」
     完全無視するエスツィット。
     無料で突いてくるツンツンオプションを堪能するベンツ先輩。
     戒道・蒼騎(ナノナノ毛狩り隊長・d31356)がゆっくり歩いてきて、トレー上の白豚を掴み上げた。
    「遊んでいる暇はないぞ。俺たちは都市伝説の驚異から人々を守らなくてはならなオラァァァア!」
     台詞の途中で白豚をぶん投げる蒼騎。
     営業中のお店だと思って入ってきた客の手前にぶつかって弾む白豚。
    「ひいっ、へんなの飛んできたでござるの巻!」
    「このメイド喫茶は営業中じゃないでござるか!?」
    「お客さんお客さん」
     野々村・まゆ(まゆサーのまゆ・d36734)が瞬間移動で客たちの背後に現われた。
    「あるところにあるオタクがおりました。オタクはメイド喫茶に入りました。ご飯は美味しくメイドは可愛く値段も手頃。通い詰めようと思ったオタクでしたが、差し出された伝票のトップには……チャージ料4万8千円の文字が!」
    「「アアアアアアアアアア!」」
     底冷えする恐怖に身を震わせて、オタクたちはダッシュで逃げ帰っていった。
     自分らメイド服着た意味ないなと思った漣香である。
     さておき、椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)と白凪・星夜(おそれずかたりて・d27451)が椅子に座ってなんか喋っていた。
    「メイド喫茶ってなんなんだよ。メイドってあれだろ、太った黒人のおばちゃんが家事を代わりにやるやつだろ?」
    「それがきゅあきゅあするの? ……つまり、どういうこと?」
    「俺もそう思って、調べてきた」
     椅子で足を組んでティーカップを揺らしつーつゆっくり振り返る神無月・優(ラファエルの名を冠る者・d36383)。斜め下からスローモーションで横切っていく白いハト。
    「要約すると、いやらしい服を着た女性のサービスを受ける店だ。しかし風営法にかかるのでケーキやコーヒーを買うことで料金とするシステムだ」
    「えっなにそれこわい」
    「さあ、美しく散らそうかっ――」
    「まってこの空気のまま本番入らないでまって!」


    「俺の名は神無月優。死ぬまで甘やかしたい妹的存在にコスプレ用のメイド服を着せたら可愛いだろうと考えている高校三年生だ。そんな俺はひょんなことから仲間に誘われたメイド喫茶で都市伝説に遭遇し――」
    「やめろ! この後一人ずつ真っ黒な犯人に殺されていくようなモノローグを語るな! 第一都市伝説を倒しに行くって説明しただろ! 冒頭で!」
     蒼騎が白豚をだむだむドリブルしながらスライドインしてきた。
     そんな彼らを出迎えるように現われる実体化都市伝説!
    「「お還りなさいませご主人様!」」
     さあ戦闘の始まりだ!(TRPGのシナリオブックでよく見る下り)
    「ここはオレに任せてよ。着てきたメイド服を無駄にしないために、ここは戦闘をきって戦うから!」
     漣香が変身前の特撮ヒーローみたいなポーズで(でもメイド服で)スライドイン。
    「俺はメイドさんの魅力になんて負けたりしない!」
     両手にライフルとガトリングを構えるとパンチラ覚悟で飛びかかった。
     メイドさん(黒髪ロング。黒縁眼鏡。やや巨乳。清楚系)がオムライス片手に現われた。
    「『もえもえオムライス』でお待ちのご主人様ー」
    「はーい!」
     飛びかかったフォームからコマ送りで武器をしまってお膝にナプキンしいて椅子に座って右手をぴーんと立てる。
    「あ、あの、ダイスキって書いて貰っていいですか? オ……僕こういうとこ始めてて、はい……」
    「だめだ、いけない店に初めて来たDTみたくなってる」
    「負けない宣言から1秒、か……」
     こめかみに指を当てる蒼騎と優。
    「しょうがないんだ。オムライスの魅力には誰も勝てねえ!」
     振り向くと、武流がオムライスがつがつやっていた。
     多分負けたのはオムライスにではないが、都合のいい解釈なので乗っかっておくことにした。
    「だよね!」
    「オムライス美味しいしね!」
     もっかい振り返るとベンツ先輩も一緒にオムライスをもぐもぐやっていた。
    「エスウィットおかわり!」
     言われたとおりにオムライスを出してケチャップで『しね』って書くエッツ先輩。
     すげえニヤニヤしながらその文字を眺めるベンツ先輩。
     蒼騎は咳払いで誤魔化した。
    「深く突っ込むとやけどしそうだ。優、これもオムライス大好き説で流す方向で……」
    「「ハイッ、もーえもーえきゅん☆(ナノッ)」」
     優が両手でハートを作ってウィンクしていた。背景に散るバラ。横切るハト。頭上で胸のハートを強調する白豚。
    「……おまえ、いま」
    「記憶に無いな」
     同じポーズでシラをきる優である。
     さすがにこう堂々と誤魔化されると突っ込めないのが日本人である。
     視線をシフトする……と、まゆが白豚と一緒にオムライスをつついて和やかな時間を過ごしていた。
     メイドさんを横に立たせて30分くらいお喋りするオプションサービスつきのやつである。
     ちなみにこのときのお喋りは大体『わかりますー』と『すごーい』で返してくるキャバクラ方式である。っていうか多分この人たちの前職がそれなんだろうなって思うような心地よい返しであった。
    「まゆちゃん知ってますよー? 地方のメイド喫茶って時給安いんですよねー?」
    「同年代のサラリーマンの三倍くらいは稼ぎますよ?」
    「……まじ?」
    「先月パソコン三台くらい貢がれました」
    「……まじ?」
     この都市伝説はフィクション性のものです。実在の人物団体店舗とは一切関係ありません。
     あと絶対こういうこと言わないと思うし。
    「でも上手におもてなししたのでお小遣いをあげましょー」
    「ありがとうございますお嬢様ー!」
    「もっと言ってそれ!」
     まゆちゃんはお嬢様プレイにご満悦である。
     ゆうてもメイド喫茶って昔で言うホストやキャバクラと同じ『お金払ってもてなされる店』なので、割と似た営業形態になるし似たバックがつくものである。
     そんな事実はまったくしらない無垢な星夜はこの状況に軽く引いていた。
     こんなん圧の強すぎる遊園地みたいなもんだ。
    「いま戦闘中だし……」
     というわけで真面目な星夜はオムライスを我慢すべく自分の腕をつかんでうぐぐーってやっていた。
    「でも一口くらいは……ああっ、だめだめボクは場の空気になんて負けたりなんてしな――」
    「はいご一緒に」
    「「もーえもーえきゅん☆」」
     身体を傾けて両手でハートつくる星夜とメイド。
    「あああああああああああああ!」
     星夜は頭を抱えてごろごろ転がった。
     その横で白豚がビハインドチームたちと一緒にサイリウム振りながらメイドのもえもえじゃんけんステージに夢中になっていた。
    「だめだ。全員これでもかってくらいやられている……」
    「諦めちゃだめですにゃ!」
    「その声は!」
     ハッと振り返ると、ステージの上にミーアとマーヤがいた。
     なんかネコを意識したポーズでアシンメトリーに構えていた。
    「この構図! この構図で写真をとってくださいにゃ! ビハメイドを集めたピンにしますんで! アトリエにじゃぶじゃぶ課金してくるんで!」
    「お前もやられてんじゃねえか!」
     ミーアはマーヤやエッツ先輩たちと一緒にもえもえにゃんにゃんじゃんけんの振り付けをしながら息を荒げていた。
    「ハアハア、考えてくださいにゃ。今ならコーヒー6杯分の値段でマーヤたちがメイド姿で踊るピンが挿絵にできるんですよ」
    「あ~っ心がジャブジャブするんじゃ~」
    「おちつけ! みんな意味の分からないこと言い出してるからおちつけ!」


    「ハァイッ、ベンツアンドエッツのヘアーセットに一時間かけるほう、ヴェンツェンツだよ。心の隙間がスッカスカの僕らはいつでも充足を求めているよね。そんな時に嬉しいのがこれ。『オムライスのないオムライス』。お皿に『くえ』とケチャップで書かれたものが乗っただけのものさ。こんな扱い絶対ほかの人にはしないよね。特別なつながりを、感じるよね!」
    「病気だあああああああ!」
     ミーアが『にゃんにゃんびーむ☆』とかいって祭霊光を放った。
     ハッとして正気に戻るベンツ先輩。
    「いけないいけない。このままペースに呑まれるところだった。メイドはどうなってるの?」
    「このようになってございますにゃん」
     ミーアとマーヤが右手をご覧くださいのポーズをとると、ステージの上でスタンドマイクを抱え持つ優にスポットがおりた。
    「俺んとここないか」
     左右からずらりと現われるメイドたち。
     テッテッテッテテレテレテー。
    「「フッフー!」」
     テッテッテッテテレテレテー。
    「「フッフー!」」
    「ワンナイトカーニバ――」
    「ストップ! ストーップ! なにこれどういうこと? わかんない、僕わかんないな一切!」
    「俺はメイドの魅力に気づいた」
    「遠回しな気づきかただなあ!」
     あとメイド全然関係ないなあ!
     ベンツ先輩がミーアに『やっちゃって』と指を鳴らすと、ミーアはマーヤと手を繋いでくるくる回り始めた。
    「もえもえたいふーん☆」
    「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー」
     セイクリッドウインドらしきものをうけて正気に戻る仲間たち。
     優は膝をついた。
     地面にバラが散った。
     あとハトが通り過ぎた。
     あと背景に虹がかかった。
     あと知らない人がハープでBGMを奏で始めた。
    「俺は一体何をしていたんだ。全く記憶が無い依頼を受けた瞬間から無い」
    「都合のいい部分消失だなあそれ」
    「ここは――」
     ばーんと扉を両手で開くまゆ。
    「まゆちゃんの出番のようですね!」
     振り返り、しばらく黙るミーアたち。
    「砂漠を花園にし氷河を溶かし空に万年虹を架けたという、まゆちゃんの出番ですね!」
    「完全なる異常気象じゃないか」
    「はー? フォロワー数五桁ない人の言うことはきこえませーん」
    「うっざ!」
    「いまこそまゆちゃんのまゆまゆビームが火を噴きますよー」
    「それ護符揃えだからビームしないよね」
    「火を噴いたら札が燃えるよな」
    「はー? 動画再生数が一万いかない人がなんかいってるなー」
    「「うっざ!」」
    「はいまゆまゆビーム!」
     まゆが防護符をばらまくと、それまでオムライスがつがつしていた漣香たちがハッと正気を取り戻した。
    「オレは一体なにを……そうだ、確か都市伝説退治を手伝いに来て店に入ったんだ。オレはメイドさんの魅力になんて負けたりしない!」
     漣香はライフルとガトリングを両手にパンチラ覚悟で飛びかかった。
     またさっきのパターンかな。天丼はギャグの基本かな。と思ったがそんなことはなく。
    「はーときゃっちしろやおらあああああ!」
     空中から銃を乱射してメイドさんたちに浴びせまくった。
    「おっと、そろそろ俺たちの出番だぜ!」
    「出番とかそういうのあるの!?」
     もえもえじゃんけんに夢中になっていた武流と星夜がそれぞれ武器を構えた。
     武流は椅子とテーブルを踏み台にして大ジャンプすると、空中から激しいスパークを放ちながらのミサイルキックを繰り出した。着地点に炎の翼めいた焼き印が刻み込まれ、メイドさんたちがたちまち消滅していく。
    「さあ、お前も!」
    「う、うん!」
     星夜は鎌を振り上げると、せーので振り込んだ。
    「おかえりくださいませメイドさまがたー!」
    「きゃーん!」
     スカートを押さえてひっくり返るメイドたち。
     返す刀で腕を獣化すると、星夜はメイドたちへおもむろなパンチを繰り出した。
    「またのおこしおー!」
    「うきゃー!」
    「とどめだ、蒼騎!」
    「おう!」
     蒼騎は空になったオムライスのお皿に寝っ転がってぐーすかしていた白豚の頭をむんずと掴み上げると、高く片足を振り上げた。
    「ナノッ!?」
     気づいてもだもだ暴れる白豚を、蒼騎は全力で投球した。
    「くらえっ!」
    「ナノオオオオオオ!?」
     敵に叩き込まれた白豚はボーリング形式にメイドたちを蹴散らし、最後に厨房に突っ込んでいった。

     かくして、蒼騎が見つけてきたというメイド喫茶の都市伝説は無事灼滅された。
     ちなみに吸収したい人が複数いたが、ビーチフラッグス式にまゆが吸収することになった、らしい。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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