キャベツ畑の夏野菜

    作者:佐和

     収穫が終わりかけたキャベツ畑。
     そこに灼滅者達を案内した神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)は、どう説明を始めようかと少し考えて。
     説明するまでもなく状況を理解した様子の皆を見て、にっこり笑った。
    「つまり、こういうこと」
     手を掲げて示した先では、キャベツ畑が荒らされていた。
     この時期に収穫ということは、葉が柔らかく巻きが緩い春玉か。
     そんな春キャベツにキュウリやトウモロコシが突き刺さり。
     ナスやピーマンが土を掘り起こせば、トマトやオクラがその土をひっかきまわして。
     カボチャがずっしりと春キャベツを潰す。
    「春野菜の畑を、次は自分達の季節だ、って感じに夏野菜が荒らしてるんだよ。
     朝の作業が終わってから現れたからかまだ誰も巻き込まれてないみたいだけど、放っておいたら次の作業に農家の人が来ちゃうんだよね」
     確かに、人的被害が出る前に何とかしたいところだろう。
    「とりあえず、夏野菜はぶつかってくるくらいの攻撃しかしないみたい。
     種類によってはそんなに痛くなさそうだよね」
     むしろ、どちらかというと問題は。
    「……何かいっぱいいるけど」
     八百屋さんが開けそうなくらいの夏野菜の量ですね。
     何からツッコむべきか迷う皆に、天狼は笑顔のままで両手を広げた。
    「適当に何か上手くよろしく!」


    参加者
    笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)
    白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)
    瀬芹・慧一(銀皆守・d01052)
    宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)
    橘・彩希(殲鈴・d01890)
    逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)
    神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)
    逢坂・豹(臥豹・d03167)

    ■リプレイ

    ●夏野菜への思い
     ぽーんぽーんと弾むナスの後を、オクラの群れがぞろぞろと追いかけて。
     キュウリとトウモロコシがキャベツの葉の上に立ち、くるくる踊る。
     その光景に白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)は顔面蒼白で固まった。
    「敵は夏野菜? え? 何これ拷問?」
    「てんろー、なんでこんな敵見つけちゃったの!?」
     笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)はちょっと涙目になって、神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)に詰め寄る。
     これだけショックを受けているのは2人が野菜嫌いだからで。
     それを知っている天狼は、困ったような表情で少し俯いて見せてから。
    「見つけちゃったもんはしょうがない訳だし?」
     明るく言いながら顔を上げ、晴れやかに笑った。
    「天狼も変なの見付けてくるよな」
     あ、これ確信犯だ、と思いながら苦笑する逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)。
     その肩に寄りかかるように逢坂・豹(臥豹・d03167)の手が置かれて。
    「新鮮野菜よりどりみどり、ってちょーっと新鮮すぎっけど」
     双子の兄は面白がるように、弟に笑いかけた。
    「夏野菜狩りだねえ」
     そんな皆を眺めて、宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)はのんびり微笑むと慣れた様子でエプロンをつける。
     戦いには似合わない格好だが、彼の周囲にあるのはアウトドア用品や調理器具。
     皆で持ち込んだその荷物越しに都市伝説を見ると、エプロン姿がすごくしっくりきます。
    「……夏野菜カレー」
     飯盒を運ぶのを手伝っていた橘・彩希(殲鈴・d01890)がぽつりと呟くと、冬人は荷物からカレールーの箱を取り出して見せて、任せてとばかりに頷いた。
    「それじゃあ豹、一緒に頑張ろうか」
    「おう。任せろ冬人」
     応える豹も、当然のようにエプロンを手にする。
     どこからどう見ても、野外炊飯をしに来た仲良し御一行です。
     しかし、その戦いからはズレた用意周到さに物申す者は誰1人としておらず。
     彰二と勘九郎の嫌がり方も、それを前提とした反応のようで。
    「みんなと一緒は久々だし、ちょっと張り切っちゃうね、スイゲン」
     瀬芹・慧一(銀皆守・d01052)も、傍らに現れた霊犬に笑いかけてから、畑を飛び交う夏野菜へと視線を向けた。
    「頑張って倒して美味しくいただいちゃお!」
     つまり全員そういう目的なんですね。

    ●夏野菜との戦い
     真っ先に夏野菜へ飛び込んで行ったのは、クラッシャーの兎紀と天狼。
    「天狼、どっちが多く落とすか競争しよーぜ」
    「そんなこと言っていいの? 兎紀が負けたらご飯抜きだよ?」
     奇譚を語る合間に軽口を飛ばせば、矢を放ちながら返ってくる余裕の答え。
    「ぜってー負けねーからなっ」
     にやりと笑って拳を握る兎紀に、天狼もナイフを掲げてにっこりと笑った。
    「勘ちゃん」
    「うん、任せてけーちゃ」
     慧一とその声掛けに頷いた勘九郎は揃って結界を構築し、いくつもの野菜を落とす。
     もう動かなくなったナスに近づいた勘九郎は、恐る恐るそれを拾い上げて。
     普通のナスの感触にほっとしてから、慧一に確認する。
    「ゆっととひょーくんにパス、だよね?」
     問いかけに頷きかけた慧一だが、ふと思う。
     大抵の都市伝説は、倒したら消えるか元に戻るかのどちらか。
     残ったということは、この野菜達も食べられるようになったのだろうか、と。
     さすがに食べられないものを調理してもらうのは悪い気がして、慧一はキュウリを1口食べてみる。
    「……うん、大丈夫」
     いつもの味を確認して、改めて勘九郎に頷いた。
     調理担当へとパスされるナスを見ながら、慧一もトマトを拾い投げる。
     それを受け取った豹は、何かを思いついたようににっと笑うと。
    「ちゃんと食べれるか確認しねーとなー」
     棒読みで言いながらトマトを投げ返した。
     驚く慧一の前を駆け抜けながら、兎紀がそのトマトをキャッチ。
     そのまま真っ直ぐに彰二へと向かうと口の中へと押し込んだ。
     飛び交う夏野菜ばかりを警戒していた彰二にとっては完全に予想外の奇襲。
    「トマトだけは……ホントもう、無理なん……」
    「わあっ、しょーちゃ! しっかり!? ジュース飲んで!」
     成す術なく倒れる彰二に、勘九郎が慌てて紙コップを差し出し、ナノナノのこりんごがふわふわとハートを飛ばした。
     その横でぐっと親指を立てて見せる兎紀に、豹はうんうんと頷いて。
    「よし。大丈夫だな」
    「……ねえ豹くん、僕が確認したの見てたよね?」
     笑みを引きつらせた慧一の肩を、冬人が慰めるように軽く叩いた。
    「豹! うさぎちゃん! 毎度毎度何すんだよっ!」
    「栄養栄養。好き嫌いしてっからでかくなんねーんだぞ?」
    「それにほら、そのジュース持って来たの俺だから。優しーな、俺」
     にやにや笑いの双子を睨み据えて、彰二の周囲にどす黒い殺気が広がった。
     そしてゆらりと立ち上がった彰二の身体を、ファイアブラッドのルーツを体現するかのように激しい炎が覆っていく。
    「野菜なんか、みんな跡形もなく消えてしまえばいいんだ!
     真っ黒焦げの炭になるまで燃やし尽くしちゃる!」
    「……しょーちゃの殺る気スイッチすごいね」
     ちょっぴり怖い、と呟いた勘九郎は、触らぬ神に祟りなしと言うように後ずさった。
    「野菜に立ち向かう皆、かっこいいわよ~」
     そこに彩希のおっとりした声と、支援する白い炎が広がる。
    「はぁい。頑張りますねー」
     天狼は呑気に答えながら、ズッキーニをジグザグと1口大に切り刻んだ。
     そんなこんなで前衛陣に野菜の確保を任せて、冬人と豹は手際よく調理を進める。
     タマネギを飴色になるまで炒める隣で、ピーマンとナスをみじん切りにして。
     合わせて鍋に入れたら、カレールーと共によく煮込む。
     カレーの具にする野菜は、ご飯を炊く飯盒の横で焼き上げた。
    「あ、彩希。トマトざく切り、よろしく」
     回復役として前衛陣を支援する合間に彩希は花逝を振るい、飛んできたトマトを豹の指示通りに切り刻む。
     さんきゅ、と受け取ったそれに鰹節とポン酢を加えて。
     湯がいた豚肉と和えたら、さっぱり冷製豚しゃぶの出来上がり。
     そこにずっしりとカボチャが飛んできたけれども、ライドキャリバーのワルツが調理場を守るように割り込んだ。
     攻撃を受け止めながらさらに突撃していくワルツに合わせて、豹もガンナイフを手に飛びかかって。
    「よっし。デザートの材料ゲット」
     カボチャ片手に戻ってくると、フライパンとアルミホイルを準備し始める。
    「もしかしてチーズケーキ?」
     以前もらったレシピと、美味しかったその味を思い出して問う冬人。
     返ってきたのは、当たりと言わんばかりの豹の笑み。
     楽しみだな、と思いながら冬人は鎖ナイフを象った影を操り、飛んできたパプリカを1cm角に切り刻むと鍋で受け止めた。
     他の野菜と一緒に炒めてから、トマトで煮込めばラタトゥイユ。
     どんどん出来上がっていく料理をちらちらと見ながら、彩希は材料切りを手伝って。
     天狼の彗星撃ちが、野菜を焼きやすく串刺しにしていく。
     斬って刺して焼き上げて。
     野菜は減っていってはいるけれども、元々の数が本当に大量です。
    「うわっ。まだまだ、めっちゃ飛んでくるじゃん」
     さすがに辟易する兎紀に、飛んでくる真っ赤なトマト。
    「彰二っ、助けてくれっ!」
    「彰二先輩、お願いしまーす」
     その背に隠れる兎紀を見て、天狼も倣うように彰二を盾にする。
    「ちょっ、うさぎちゃんも天狼も酷くねぇ!?」
     慌ててトマトを蹴り飛ばし、炎で焼き尽くした彰二は非難の声を上げるけれども。
    「嫌がらせじゃねーよ? お前、ディフェンダーだろ?」
    「それに、服が汚れたら嫌じゃないですかー」
     にやにやにっこり返ってきた酷い笑顔に、彰二はいじけるようにしゃがみ込む。
     だがそこに容赦なく襲い来るトマト。
    「……見てられないなあ」
     苦笑しながら割り込んだ慧一が、飛び蹴りでトマトを叩き潰した。
    「しょーじ、大丈夫?」
    「うっうっ……慧ちゃんがセージンクンシュの天使に見える……」
     やっと触れた優しさに、慧一を見上げた彰二の頬を、ほろほろと涙が零れ落ちていく。
     ふう、と慧一は困ったように息を吐いて。
    「みんな、ほどほどにね?」
    「はーい」
     返ってきたのはとっても明るく軽い返事。
     彰二の肩ががっくりと落ちました。
    「ああ、回復するわね」
     それを見た彩希が、鎧とすべくダイダロスベルトを広げ向かわせる。
     しかし、その帯には何故かトマトが巻き込まれていて。
    「……!!」
     トマトと一緒に覆われた彰二が、声にならない悲鳴を上げた。
    「あら? 偶然ね。偶然だから、気にしてはいけないわ」
     さらりと言う彩希に、野菜嫌い仲間の勘九郎が絶句する。
     と、彩希はそんな勘九郎に視線を移して。
    「かんくろくんも?」
    「おっ、俺は大丈夫! 大丈夫だからっ!」
     慌てて勘九郎はぶんぶんと首を横に振った。
     そんなこんなで野菜の群れとの(時折味方との)戦いは続いていく。
    「天狼、そっちどんだけ切った?」
     ナイフを振るう兎紀が、ピーマンを切り裂きながらちらりと振り向けば。
     天狼の影が刃となり、トウモロコシが輪切りとなったところで。
    「影が切った分ももちろん加算だからね」
     そう言って答えた数に、ぜってー負けねえ、と兎紀がオクラに飛びかかる。
     その横では、勘九郎が青ざめていて。
    「彩希センパイやめて! キュウリいたいこわい!」
    「あらあら、遠慮しなくていいのよ。野菜は沢山あるもの」
     もはや回復役だか悪戯役だか分からなくなった彩希の帯が広がっていく。
    「野菜は全部燃やし尽くす! 特にトマト!」
     据わった眼差しの彰二は、炎を振り撒いてトマトを炭へと変えて。
     苦笑しながら慧一が放つ風の刃がズッキーニを切り刻んだ。
     ワルツが守り、スイゲンとこりんごが回復に走り飛び回るうちに。
     野菜の数はどんどん減っていき。
    「よっし、できたっと」
    「みんなー。ご飯だよー」
     最後のカボチャが斬られたのは、豹と冬人がそう声をかけた時だった。

    ●夏野菜での集い
    「腹減ったーっ!」
     早速駆け戻った兎紀は、何作ったの? と並べられた料理を覗き込む。
     テーブルに並ぶのは、冷製豚しゃぶにラタトゥイユ、カボチャのチーズケーキ。
     そして、飯盒からご飯を、その隣から焼き上がった野菜を乗せて、野菜が溶けるほどによく煮込んだルーをかければ、夏野菜カレーの出来上がり。
    「彰二には労いとして俺直々によそってやろう」
    「あー! 豹! そんなに野菜乗せるな!
     自分でやる! 自分でやるから!」
    「そんじゃ俺は食わせてやろっか?」
    「いらねぇ! うさぎちゃんも放っといてくれよ!」
    「遠慮すんなって」
    「してねぇよっ!」
     双子と彰二との喧噪を見ながら、彩希は冬人からカレーを受け取って。
     じっとその具材を確認すると、見つけたナスをそっと冬人の皿に移した。
    「ナスだけは駄目」
    「彩希センパイ、ナス嫌いなん? 分かる分かるー」
     それを目ざとく見つけた彰二は、相槌をうちながら、その手をせっせと動かして慧一の皿に野菜をどんどん移していく。
    「こら彰二、何やってんだ」
    「ちゃんと野菜食えよ野菜」
    「だから食べないって言ってんだろー!」
     そして再び始まる双子とのやり取り。
     彩希は楽しそうだとその光景を微笑ましく見守り。
     慧一は苦笑しながら、ほどほどにね、と小さく声をかける。
     と、傍らで、野菜たっぷりカレーに固まっている勘九郎に気が付いた。
    「……こりんごに食べてもらっちゃ、ダメ?」
     上目づかいに聞いてくる勘九郎の横で、こりんごがキュウリを抱いてふわふわくるくるしています。
    「勘ちゃん、お野菜おいしいよ。ほら、あーん」
     スプーンで勘九郎の皿からナスとカレーを掬い上げ、優しくそう差し出すと、しばしの葛藤の後、おずおずとその口が開く。
     もぐもぐするうちに、勘九郎は不思議そうに表情を変えて。
    「……あれ? おいしい!」
     ぱあっと笑顔がはじけた。
     カレーという香辛料のおかげか、調理した者の腕か。
    「けーちゃ、もうひとくちあーん!」
    「はいはい」
     今度は大きく口を開ける勘九郎に、慧一はまたスプーンを動かした。
    「勘、野菜食べれてるな。えらいえらい!」
     冬人にも褒められて、勘九郎の笑顔がさらに輝いていく。
     そんな皆からちょっと離れて、静かにカレーを食べるのは天狼。
     ほっこりと皆を眺めながらも、その輪から1人外れているのを見て、冬人は取り皿を手に動き行く。
    「ほら天、育ち盛りなんだからちゃんと食べなよー?」
    「食べてますって! なんでそんな大盛りにするんですか!」
    「豚しゃぶも食べた? トマトが美味しいよね」
    「だからそんなに盛らなくていいですから!」
     慌てて冬人を止めようと寄ってくる天狼を、がしっと兎紀が捕まえて。
    「天狼、食わねーの? 美味いぜー」
     わいわいと騒ぐ中に引きずり込んでいく。
     ちょっと心配していた慧一は、輪に入ってきた天狼の姿にほっと一安心。
    「せっかくだもん、みんなで食べたいよね」
    「うんっ」
     言葉とスプーンとに、勘九郎が笑顔でもぐもぐ頷いた。
    「お、このラタトゥイユうめえな。冬人ー、後でレシピくれ」
    「いいよー。後でスマホでメールしとくね」
     豹は約束を取り付けると、今はこの味を堪能しようと楽しんで。
     彩希も、ナスはしっかり避けながらも満足そうに食べ進める。
    「うーん、この料理をいつも食べられる人が羨ましいわ」
    「いつでも作るぜ。なあ、冬人?」
    「勿論。彩希先輩、また皆で食べましょう」
     料理人達からの嬉しい返事に、彩希はふわりと微笑んで。
     空になった皿を置いて、ごちそうさまと手を合わせる。
     でも。
    「あ、デザートにカボチャのチーズケーキあるけど、彩希はもう……」
    「別腹」
    「ああそう……」
     豹の声にきっぱり答えて、ケーキのお皿を受け取るべく手を差し出した。
    「ケーキっ! ケーキっ! 俺これ好きーっ」
     兎紀も飛び跳ねるように喜んでケーキを受け取る。
     丁寧に切り分けて1口食べた慧一は、その美味しさに表情を輝かせて。
     ふと、彰二も美味しそうにケーキを食べているのに気が付いた。
    「しょーじ、美味しい?」
    「おう。美味いなー」
     ぱくぱくと嬉しそうに食べる彰二に、慧一はカボチャという野菜が入っていることを指摘しようかと少し考えて。
     まあいいか、と苦笑して黙っておく。
     勘九郎も美味しくケーキを平らげて、満面の笑顔を浮かべた。
    「ゆっとー! ひょーくん! おいしいごはんありがとー!」
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ