暴を砕く狂の力は

    作者:波多野志郎

     ――その和風の屋敷は山奥にひっそりとあった。
     この屋敷に住むのは、道を踏み外した者ばかりだ。だが、最低限の仁義は持ち合わせている――だからこそ、山奥に居を構えていたのだ。
     そして、そこに目をつけた者がいた。
    「ほうほう、これはこれは」
     その屋敷の入り口に立って、その男は薄い微笑を浮かべる。特徴のない顔立ち。中肉中背。高くも低くもないその背。地味なスーツに身を包んだどこにでもいるようないそうな男だ。
     しかし、作務衣姿の一人の男は素早く仲間に視線を送る。奥へとすかさず引っ込んだ別の者を見つけると男は感嘆の声と共に問い掛けた。
    「おや? もしかして襲撃者だとバレましたか? どこで気付いたか、出来れば後学のために聞いておきたいのですが?」
    「――こんな山奥に、徒歩で来る奴がいるか。そういうのは探りを入れに来た奴か、迎えが来る予定のある奴か――行って来いの馬鹿か、どれかなんだよ」
    「なるほどなるほど、どれでもありませんが『怪しまれる』――その事は理解しました」
     男がそう満足気に笑うと、何人もの男達が刃物や鈍器をもって姿を見せた。銃器はないのを見て、男は一つうなずくと一歩前へと踏み出した。
    「ええ、全てを殺し終えてから歩いて帰るつもりでしたが――偽装のために、あの車はいただいても?」
     ゾブリ、と男の足元から影があふれ出す――様々な無数の武器へとうごめきながら姿を変える影から、刀の形をした影を手に取り、男は言い捨てる。
    「朝嵐狂死――推して参ります」

    「――六六六人衆が出たぜ?」
      神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の表情は厳しい。その声色だけでもそれが何を意味するのか? ――灼滅者全員の間に緊張が走った。
    「六六六人衆の一人の……あさあらし、きょうじ? 朝の嵐に、後、狂うに死ぬ、で朝嵐狂死だ」
     外見こそどこにでもいるサラリーマンといった没個性な姿だ。というよりもこの狂死は意図して自身を没個性に演出している節がある。
    「六六六人衆は殺人技術を自分達で殺し合う事で高めるような連中だ。だからこそ、いついかなる時も命のやり取りがある、という覚悟がある。そのダークネスとしての技量も当然だが、戦局を見極めるその目は……うん、強敵と言うよりも難敵って言った方が良いだろうな」
    「はぁ、すごいんですね~」
     隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)がわかっているのかわかっていないのか判別出来ない相槌を打つ。ヤマトも手馴れたもので、それに一つうなずいて答えた。
    「おお、すごいんだぜ? こいつの番号は五九五――それでも、俺達にとっては恐るべき脅威なんだ」
     狂死に狙われたのはとある山奥の和風の屋敷だ。
     そこには道を踏み外してはいるが、仁義は弁えた者達が居を構えていた。しかし、一度暴力を取れば、そこらのゴロツキなど問題にならない実力の持ち主ばかりが三十人揃っている。
    「だが、狂死はこれを一人残らず殺し尽くす――それこそ、巻き藁でも斬る調子でな」
     だからこそ、狂死を足止めしながらこの屋敷の者達を逃がす必要がある。
    「……六人、だな。六人までは……仕方がない」
     苦渋の選択だ。ヤマトの表情も渋い――敵はそれほどまでに強力なのだ。
    「お前達には狂死を足止めする役と被害者達を逃がす事、この二手に分かれて欲しい」
    「ええ、私もお手伝いします」
     コクン、と桃香は真剣な表情でうなずいた。狂死を足止めするとなると最低でも四人は必要だろう――それでも、稼げる時はわずかだ。残りの者や手伝ってくれる者がいるのなら、被害者達を連れ出す事も簡単だろう。
    「まぁ、そこはサイキックであれこれ工夫してくれ。少しでも早く足止めしている奴等を助けに行けるようにな」
     狂死は凶悪なまでに強い。六六六人衆としてのサイキックのみではなく、影業を好んで使い無数の武器のサイキックさえ使いこなす。倒せなくとも被害を最小限度に抑え、撤退に持ち込めれば――こちらの勝ちと言ってもいいだろう。
    「俺の未来予知でわかったサイキックは以上だ――しっかり確認して対策を立ててくれ」
     サイキックの書かれた黒板を指差し、ヤマトは続ける。
    「……はっきり言って、危険な戦いだ。だからこそ、挑むからには万全を期して挑んでくれ」
    「皆さん、頑張りましょう」
     ヤマトが締めくくり、桃香が深く頭を下げた――恐ろしい難敵を相手とする死闘が、幕を開ける……。


    参加者
    佐々木・侑(風・d00288)
    枢流・縊(狂繰・d00346)
    ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)
    外法院・ウツロギ(都市伝説:シリアルキラー虚姫・d01207)
    若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426)
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)
    リーファ・シルヴァーニ(翡翠姫士・d07947)

    ■リプレイ


     ――その屋敷に重苦しい空気が流れる。
    (「おやおや、仁侠映画ってやつだね?」)
     外法院・ウツロギ(都市伝説:シリアルキラー虚姫・d01207)はその部屋を見回し、一人納得した。
     そこは二十畳ほどある和室だ。華美な装飾はなく、襖も上品な白を基調としたものだ。だが、よく見れば欄間には細やかな花鳥風月の彫刻がなされ、その柱一つ一つも厚く重厚だ。剛健実直、それでいて格を飾る事を忘れない――そんな屋敷の主の人柄が透けて見える。
    「まぁ、何だ。若いもんの口に合うかわからんがな? 茶でも飲みなぁ」
    「あ、おおきに」
     小柄な老人が皺だらけの顔に笑みを浮かべてそう告げると気楽な調子で佐々木・侑(風・d00288)が答えた。
     プラチナチケットにより丁寧にここまで通された。この屋敷の主である老人も、明らかに自分の子供どころか孫の世代の彼等に対して気安さは見せても侮りは見せない――礼を尽くして接してくれた。
    (「ま、そこは人柄やろうなぁ」)
     お茶をすすりながら、侑は思う。この襖の向こうでは何人もの人間がこの老人が危害をくわえられようものなら即座に飛び掛ってくる用意をしている事だろう――その気配を察するからこそ、侑はこの老人の態度に裏がない事を察した。
    「で? どんな用件だい?」
    「ここに殺し屋が来る」
     ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)の端的な言葉に、老人の笑顔が消えた。
    「そいつぁ、冗談にしても笑えねぇよ? ワシ等も道を踏み外したはぐれ者じゃがな? 殺し屋送られる憶えは最近はねぇぞ?」
    「誰かに雇われて、そういう相手ではないのだよ」
     ウツロギがそう答えれば老人は顎鬚に手を伸ばす。その表情の渋さに、ジャックは言葉を重ねた。
    「奴には仲間をやられたので追ってきた俺達でカタを付けたい」
    「喧嘩売られて手ぇ出すな……あんた、ワシ等にそう言ってんのかい?」
     老人の語調は抑えられたものだ。だからこそ低く、よく通る――あぁ、この老人の若い頃に殴り合いたかったな、とジャックは素直に思った。それはジャックにとっては最大級の賛辞だったろう。
    「……仲間に仇討ちをさせてやって欲しい。 あいつは身を眩ますのが上手くて、今日此処にあいつが現れると言う情報をやっと掴んだんだ。今回を逃してしまったら次は何時になるか……重ねて頼む! 仲間達に仇討ちをさせてやってくれ!!」
     共にその交渉の場に訪れていた者の一人、剏弥がそう頭を下げる。それに十八歳に変身した若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426)が真っ直ぐに老人を見つめ言った。
    「お気持ちはわかりますが、ここはめぐみ達の顔を立てると思って、避難してくれませんか?」
     めぐみは見る。その老人の瞳は気の弱い者ならばその場で逃げ出すほどの鋭い圧力を持っていた。だが、そこに込められた真意は別にある、とも。
    (「……めぐみ達を巻き込みたくないんですね」)
     仁義とは優しさと義侠心の事を言う。この老人は、確かにその二つを持ち合わせているのだ。
    「親父ぃ! 襲撃だ!! 兄貴が得物持たせて玄関に人集めろって!!」
     その時だ、竹箒に作務衣姿の男が飛び込んで来たのは。襖の向こうでいくつもざわめきが起こり、灼滅者達も反応する。
    「おたつくんじゃねぇ!!」
     そのうわつきかけた空気を、老人が一喝した。静まり返った室内で、ジャックが告げる。
    「どうか義理人情の想いがあるなら、俺らの無念、汲み取って貰えないか」
     その言葉に老人は無言――堅く、その目を閉じた。


    「……おや?」
     四人の屋敷の男達へと歩み寄ろうとして、ふとその男は足を止めた。自分に放たれる殺気に気付いたからだ。枢流・縊(狂繰・d00346)は鏖殺領域を放つ直前で止める――確実に、反応されると悟ったのだ。
    「そこから先に進みたかったら、通行料をもらうよ」
    「通行料、ですか? あいにくお菓子の持ち合わせは……ああ、ガムならありますが」
    「……同じ殺人鬼ならわかるでしょ?」
     縊の言葉に、男――青嵐狂死は小さく小首を傾げる。
    「おや? もしかして襲撃者だとバレましたか? どこで気付いたか、出来れば後学のために聞いておきたいのですが?」
    「殺しをする者はそれだけで空気が変わる。それは少しでも知っている者には判ってしまうもの……」
     リーファ・シルヴァーニ(翡翠姫士・d07947)の言葉に、狂死は口元に手を持っていき考える事しばし――わずかにその目を細めるにとどめた。
    「不可解ですが、そういう事にしておきましょうか?」
    「こんちゃ、朝嵐狂死サン」
     ゾブリ、と足元から影を吹き出させた狂死から視線は外さずに九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)が笑みと共に告げる。
    「……無理はすんなよ。回復よろしくな」
     それにめぐみのサーヴァントであるナノナノのらぶりんを胸に抱いた隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)がコクンと一つうなずいた。
    「はい、お任せ下さい~」
    「――ま、構いませんけどね?」
     狂死の影がゾブリといくつもの半月側の刃となり、射出される――それは四人の男達へと容赦なく降り注いだ。
     いくつもの肉を斬り、骨を断つ――人の命が奪われた湿った切断音がした。
    「……な……!?」
    「エグイ技使ってくれるじゃん。さすがに強烈……痛てぇ」
    「逃げて……早く!」
     狂死の虚空ギロチンの刃を庇う事でその身に受けた獅央が唸り、忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)がそう鋭く告げる。一撃が鋭く、ひたすら重い――それでも自分達を守ってくれた玉緒と獅央に、二人の男はコクコクとうなずいて駆け出した。
    「わ、わかった……き、君達も気をつけてくれ!」
     ラブフェロモンの効果だ――二人の男は疑う事なく、玉緒の言葉に従った。
    「貴方は、何を思って命を奪うのかしら?」
     真っ直ぐに視線を向けてくる玉緒の問い掛けに狂死は素直に答える。
    「――効率です」
    「……最悪だな」
     顔をしかめて縊が吐き捨てると、狂死はむしろ誇らしげに微笑した。
    「最小の労力で、最速をもって、最短の手段で、標的を死に至らしめる――殺人とは、効率のいい作業であるべきなのです」
    「もういいわ」
     玉緒が狂死の言葉を遮るように言い捨てる。そして、玉緒と縊はどす黒い殺気を放出――鏖殺領域で狂死を包み込んだ。
    「私が私で、人間であるために、あなたの所業を認めるわけにはいかないわ」
    「倒しちゃってもいいんでしょ? さぁ、遊びの時間だよ」
     その殺気を浴びながら狂死は無表情で言い捨てた。
    「その感情自体が、もう効率の悪いものですよ?」
    「それが矜持だとしても超えてはいけない線はある、あなたは止める」
     リーファが一足跳びで間合いを詰め、その無敵斬艦刀を振り下ろした。その刃を狂死は影によって受け止める。
    「あんたは通行止めだなー」
     そこへ横合いから駆けた獅央がWOKシールドを叩きつける――それを影によって生み出された無数の糸が阻んだ。
     ズキン、と獅央の左腕の傷が疼く――狂死を間近にして、かつて感じた同質の殺気を思い出しながら、それでも獅央は笑みと共に名乗った。
    「俺は九牙羅獅央、覚えなくてもいいけどな!」
    「助かります、無駄な事ですので」
     獅央とリーファが後方へ跳ぶ――桃香が獅央へと防護符を飛ばし、らぶりんが玉緒をふわふわハートによって癒す。
     それを見ながら、狂死は静かに言い捨てた。
    「朝嵐狂死――推して参ります」


     狂死から溢れ出す殺気が、後衛を飲み込んでいく。
    「ナ、ナノナノ……ッ!」
    「あ……らぶりんさん!?」
     きゅう、と地面に落ちてしまったらぶりんに桃香が声を上げる。それを見て玉緒が叫んだ。
    「大丈夫、その子は後で元気になるから!」
     結界糸によって狂死の頭上からプレッシャーをかけようとするも、それは狂死に掻い潜られる。そして、そこへ獅央が跳び込んだ。
    「調子に乗るんじゃねぇ!」
     獅央は影業を刃にして横一閃に振り抜く――ティアーズリッパーが狂死の胸元を切り裂いた。更に死角へと回り込んだ縊が逆手に握った解体ナイフでその足を切りつける――!
    「あはははっ、強いなぁ。楽しくなってきたよ」
     縊がこみ上げる笑いを止められない、そう言い捨てた。解体ナイフの刃は、狂死の影によって編みこまれた糸に食い止められていたのだ。
     そこへリーファはギルティクロスを放った。その真紅の逆十字に切られながらも、狂死の動きは鈍らない。
    (「没個性に隠れ、気付かれないうちに死を……六六六人衆の中で暗殺者としての研鑽か」)
     リーファは思う。その没個性もまた効率のためなのだろう、と。
     標的を欺き、抵抗を最小限にする――ただ、それだけに我を殺す。殺す事に全てを捧げた六六六人衆の恐ろしさ、その一端を見た気がした。
    「――!? 桃香!」
     不意に吹いた優しい風の癒しに獅央が振り返った。清めの風――神薙使いのその癒しの風は、もっとも傷の深い自分ではなく前衛を癒すために招かれたのだ。
    「回復しても、その、次は駄目そうなので~」
     桃香はいつもと変わらない笑顔で仲間達へと告げる。
    「――信じてますから」
     それを狂死が見逃すはずもない――地を走った影による影喰らいの一撃に、桃香が地面に崩れ落ちた。
    「ようやく一人ですか。あなた達程度の実力を相手にする時は、この構成では――」
     そこへ銃弾の雨が降り注いだ――銃弾は二種類、侑のデッドブラスターとそのライドキャリバーであるシェリーの機銃掃射だ。
    「……遅れてすまんな、桃香ちゃん。みんな」
    「桃香さんもらぶりんも……後は、めぐみに任せて」
     倒れた桃香に哀しげにそうこぼし、めぐみが狂死へと鋭い視線を向けた。
    「お待たせしたね」
     バスタービームで狂死の右肩を打ち抜き、ウツロギがそう足止めをやり遂げた仲間達へと言った。
    「一般人の人達は?」
    「あぁ、避難はある程度すんだ。残りはみんなに任せて来たから安心してくれ」
     リーファの問い掛けにジャックはそう答える。誘導を手早く切り上げられた――だからこそこのタイミングに間に合ったのだ。そして、ジャックは自身の肩に残った感触に想いをはせた。
     ――そうか、ならお前等の心意気に任せようじゃねぇか……ただな、死に急ぐ生き方だけは、しちゃいけねぇぜ?
     老人はジャックの肩にそう手を置いた。嘘は見抜かれたのかもしれない――自分の戦いを求める、その心まで。
     だからこそ、ジャックは真っ直ぐに言い放った。
    「待たせたな、俺の相手もして貰おうか!」
     ジャックがその鋼鉄拳を振るい、仲間達も狂死へと攻撃を叩き込んでいく。その猛攻の中で――縊が、小さく息を飲んだ。狂死の口元に一瞬だけ歯を剥くような獰猛な笑みが浮かんだからだ。
    「ああ、なるほど……やはり、これではここまでですか」
     狂死の殺気の質が変わる――自然体からわずかに半身踏み出し腰を落とす構えに変わったその意味を、獅央も気付いた。その事実に、比喩でなく震えが来るほど背筋が凍りつく。
    「お前、今までディフェンダーで戦ってたのかよ!?」
    「えぇ、今回はそういう試しでしたから。ですが、ここからが本領です」
     守りから攻めに――狂死の猛攻が始まった。


    「……ようやった、シェリーちゃん」
     愛機が仲間を庇い、砕かれるのを見て侑を小さく労った。
    (「あぁ、これが六六六人衆……その五九五、五百番台の実力か」)
     ウツロギが自然と綻ぶ口元を抑えきれない。ゾクゾクと背筋を駆け抜ける戦慄は、もはや甘美な快感にも感じられた。
     攻撃に重きを置いた狂死の攻撃は、灼滅者達を容易く追い込んでいった。鏖殺領域に始まり、虚空ギロチンと結界糸という広範囲攻撃、一撃の威力に長けた影喰らい、優秀な回復能力であるドラゴンパワー――それらを自在に使いこなすその力に、めぐみの回復も追いつかない。
    (「それでも、桃香さんは、らぶりんが頑張ってくれたんです……! 負けません!」)
     清めの風と癒しの矢を使い分け、めぐみは回復役を全うしていく。その灼滅者達の戦いぶりに狂死は小さく苦笑した。
    「まったく……いけませんね、効率的ではありませんが……」
    「逃がさねぇぞ!」
     獅央がロケットハンマーを加速させる。そのロケットスマッシュを受け、のけぞりながらも狂死は笑みを濃くする。
    「ここで倒せば僕が五九五? なんて」
     その間隙に縊のジグザクスラッシュが狂死の背を切り裂いた。それに、狂死は肩越しに振り返り、言う。
    「えぇ、あなたがこちらに来て――私を殺せたなら、差し上げますよ?」
    「逃がさない……! ここで一気に畳み掛けるわよ!」
     玉緒の鋼糸によるティアーズリパーが狂死の影による結界糸により相殺、空中で火花を散らす――そこへ跳躍したリーファが無敵斬艦刀を大上段に振り下ろした。
    「悪いけどネチっこく邪魔させてもらうよ」
    「そやで!」
     ウツロギのマジックミサイルがその両腕を、侑のガトレイングガン乱射がその足を撃ち貫く。そして、ジャックが手裏剣甲を炎で包み、狂死の胸元へと叩き込んだ。
    「……強い、強いなぁ!」
     血湧き肉躍る――ジャックはその言葉の意味を噛み締める。だが、狂死は小さく吐き捨てた。
    「――この試しまで出来ますか」
    「めぐみ!」
     狂死の足元から伸びる影に気付き、獅央が叫ぶ。身構えるめぐみを嘲笑うように、その影がめぐみを飲み込め――ない!
    「力が、足りなくても……この、くらい……!」
     いち早く反応したリーファがめぐみの盾となったのだ。しかし、堪えきれない――守り抜き、そして倒れた。
    「……潮時ですね」
    「もう終わり? もうちょっと付き合ってくれてもいいと思うけど」
     縊の挑発に、狂死はむしろ楽しげに答える。
    「回復役を殺せなかった、この試し、私の負けです……へたにこちらに来られても困りますしね」
     狂死は静かに笑顔でそう告げた。去っていく背中を追う余力はない――どのくらいたっただろうか? ウツロギがようやく息をこぼし言い捨てた。
    「ふぅ、撤退してくれたか」
    「五九五であの強さとかホンマ勘弁してほしいわ。つーか連中同士で戦ってくれよ……」
     侑はしみじみとこぼすと倒れたままのリーファと桃香を診ていためぐみへ問い掛ける。
    「……二人とも、大丈夫か?」
    「うん、傷が深いけど命の方は大丈夫みたい」
    「そうか、よかったー」
     それを聞いて侑と獅央が安堵の息をこぼした。
    「……犠牲者は出てしまったけど」
     斬り殺された二人へ、玉緒は走馬灯を施す。そして、その生前とまったく変わらない姿を見て、憂いの表情でこぼした。
    「命は大切な物……」
     玉緒はそう教えられてきた。だから、自身の中の殺人衝動を抑えて生きてきたのだ。あの六六六人衆にはそれがなかった――それに強い憤りを抱かずにいられない。
     一つに死闘が終わりを告げた――失われた命と、そして守れた命の重さを灼滅者達は確かに心に刻み込んだ……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月4日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 21/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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