撫でられただけで惚れるわけないだろう!?

    作者:泰月

    ●タイトルがフラグ
    「皆ー。こっちやこっち!」
     呼びかけに集まった灼滅者を見つけて、荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)が手を振る。
     都市伝説を見つけた――という千鳥の連絡を受けて集まったのだが。
     そこは、とある繁華街であった。
     居酒屋にゲームセンター、カラオケなんかが並んでいて、昼間でもそこそこ人通りが多い場所だ。
     都市伝説が現れたにしては平和そうな場所だ。
    「あれや、あれ」
     千鳥が指差した方に目をやると――。
    「……////(ポッ)」
     なんか背の高い男性(イケメン)に撫でられて頬を染めている女性がいた。男がその場を後にしても、女性は頬を染めたまま立ち尽くしていたが、やがてふわふわした足取りで去っていった。
     心此処に在らず。すっかり骨抜きにされたようだ。
    「男の方が、都市伝説や」
     ナデポとは、ヒロインが撫でられただけで「ポッ」となるパターンの事らしい。
     一体どんな噂が広まって実体化になったのかは定かではないが、とにかく『ナデポ』を体現する都市伝説が、街中に発生してしまったのだ。
    「しかも、アレともっと向こうに1人、あっちとこっちの通りにも1人ずつ。4人もおるから、手分けして早いとこ倒した方が良さそでな」
     方々を指差しながら、状況を伝える千鳥。
     いや、何でそんなに増えちゃってるんだろうね!?

    ●取り合えず状況を整理しよう
     撫でられてポッとなった女性だが、いずれも骨抜き状態になるだけで、意識はあるようだ。と言う事は攻撃ではない、この都市伝説の能力と言う事なのだろうか。
    「問題は、うちらもああならんかどうか、よう判らんのや」
     撫でられてみたら灼滅者でも――という可能性は否定できない。
     ついでに、対象が女性限定かも判らない。
    「せやけど、武器は持っとらんみたいやから、戦いには強くないんやないかな?」
     ナデポの特徴から考えると、攻撃も精神に作用する類の可能性はありそうだ。
     今わかることは、このくらいだろう。
     いや、本当この都市伝説、何がしたいんだろうね!?
    「色んな意味で厄介そうな相手や。街中に野放しにはしとけんやろ?」
     千鳥の言葉に、集まった灼滅者達も頷く。
     危険と言う意味では害はなさそうな気もしないでもないが――放っておけないだろう。


    参加者
    黒乃・璃羽(キングダム系怪人ハンター・d03447)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)
    カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)
    荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)
    隼人・来須(カミナリ娘・d32336)
    シャオ・フィルナート(傷だらけの蒼人形・d36107)
    神代・蓮(神に愛された無頼漢・d36326)

    ■リプレイ

    ●行動開始
    「動き回っとる筈やから、確実な事は言えんよ?」
    「それでも、あった方が良いと思うのじゃ」
     カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)がそこらのコンビニで入手してきた一帯の白地図に、荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)が4体の都市伝説を確認した位置と予想される行動範囲を書き込んでいく。
     灼滅者達は地図を手に、4組に別れて行動を開始した。

    ●足で探せ
    「美味しいですね」
    「うん、思った通りですっ!」
     朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)と黒乃・璃羽(キングダム系怪人ハンター・d03447)は、コロッケ片手に食べ歩きしていた。
     くしなのESPでピンと来た店を巡り――って、あれ?
    「しかし、何やら不可思議な都市伝説ですね!」
     赤い顔でぼんやりと歩く女性とすれ違い、くしなが声を上げる。良かった、都市伝説忘れられてない。
    「……『ナデポ』とははまた、マイナーなオタク文化が実体化したものです。漫画やアニメの中だけにあれば良かったものを」
     丁度、璃羽がコロッケを食べ終えて口を開いたところで、視線の先に、女性を撫でる大柄な男の姿を見つける。
    「私は撫でられたくらいで頬を染めたりはしませんが。そういうシーンに憧れる人も少なからずいるのですね。早々に倒して犠牲者を助けましょう」
    「被害らしい被害は出てないらしいけど、灼滅者として退治しなければ! ですね!」
     璃羽は殺気を広げ、くしなは力強く拳を握るのだった。

    「頭撫でられるだけで惚れてたら、世の中カップルだらけになりそやねぇ」
     ふらふらと心此処にあらずと言った様子の女性とすれ違い、千鳥が苦笑を浮かべる。
    「まあ、人に傷つけてるってわけじゃねぇから、俺個人としてはそこまで怒ることじゃねぇと思うが……」
     自身も人の頭を撫でるのは好きだからか、神代・蓮(神に愛された無頼漢・d36326)は親近感も感じていた。
     それから程なく、なんかこうキラキラした雰囲気をふわっと纏うイケメンが、壁際に追い詰める形で女性を撫でているのが見えた。
    「……撫でて迷惑をかけるのは、ちょっと問題だろ」
    (「シャオの方は、こんな強引な相手じゃないといいんだが」)
     蓮が呟くと同時に、街中の気配が変わる。少し離れた後ろの方で、慌ててそこらの店に駆け込んでいく人々が見えた。
     他の灼滅者達が広げた殺気によるものだろう。
     2人が向き直ると、女性を撫で終えたイケメンが此方を向いていた。

    「ようし、あたしは壁ドンしよう!」
    「……?」
     その頃、シャオ・フィルナート(傷だらけの蒼人形・d36107)は殺気を広げながら、隼人・来須(カミナリ娘・d32336)の唐突な言葉に首を傾げていた。
    「撫でてポッとさせるって言うのは、イケメンだけに許されているらしい!」
    「そうなの? ……なでぽなんて、初めて聞いたから……」
     自信ありげな来須の言葉に、シャオは素直に頷く。
     確かに、少し離れた所で女性を撫でるビシッとスーツを決めたエリート風の眼鏡の男はイケメンと呼べるのだろう。
    「殴られてポッとなったりしたら……さすがにあたしでもそれは、ドMだと思っちゃう! だから、こっちから壁ドンする!」
     どうして来須の中で殴られたら、の話に飛んだのか判らなかったが、シャオはそれ以上の追求を諦めた。
    (「蓮はいない……けど、あんまり弱いところは、みられたくないしなぁ……」)
     あえての別行動に感じる不安を押し殺し、シャオは来須の後に続いた。

    「噂を元にするだけあって、都市伝説は謎なモノばかり出てくる。今回は、凶悪なやつでないだけマシか」
    「まあ、確かに凶悪ではないがのぅ……」
     御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)と、カンナの嘆息が重なる。
     2人の視線の先では、顔を真っ赤にして固まる女性の頭を撫で続ける男の姿があった
     やがて、男は女性から離れて歩き出す。
     その前に割り込むべく、2人は足を速めて動き出した。

    ●手が早い男達
     逆三角にムキッと鍛えられ引き締まった長身の体躯。脇にハードカバーの本を抱え、口には赤い唐辛子が咥えている。
    「体格は良い感じけど……何系なんですか!」
     色々混ざって方向性が良く判らない男の外見に、くしなが思わず声を上げる。
    「あの、辛いもの、激辛好きなのですか……? あと、本も?」
     それを他所に、璃羽はいつもの半眼のまま男に吸い寄せられていく。
    「おう。好きだぞ。咥えジョロキアしながら、本を読むのが日課だ!」
     そんなナデポの答えに、璃羽は記憶にある限り人生で初めてズキュンと来ていた。無言でいつも持ち歩いている辛味調味料をナデポに見せる。
    「マイ辛味女子か。いいね。俺のジョロキア、いってみるか?」
     ぽんぽんと撫でられ、唐辛子をあーんされる璃羽。一見するといつもの無表情のままだが、その頬は真っ赤になっている。
     唐辛子のせいなのか、トキメいてるからなのか。
    「君もマイ辛味女子かな?」
     それでもナデポはポッとさせたと認識したのか、くしなに向き直る。
    「ええっと……良く食べる方ではありますが……」
    「そうかそうか。良く食べる女子も好きだぜ」
    「な、な、な……っ」
     空気を読むというより呑まれた感のあるくしなを、一気に間合いを詰めたナデポが大きな手でわしわしと撫でてきた。

    「やぁ、君達。俺に何か用かな?」
     千鳥と蓮に気づいたアイドル系ナデポが、フレンドリーかつ人懐こそうな笑顔を浮かべて近づく。
    「取り合えず今日の記念に、撫でさせてよ!」
     2人の返事を待たずにどストレートに告げると、ナデポは一瞬で2人の前に来て、右手と左手を同時に伸ばしてきた。
    (「顔は割と良えけど、ちぃとばかし顔が良えのに撫でられたかて、そうそう惚れたりなんぞ……あ、でもなんか安心する……?」)
     千鳥の胸中で、何故か生まれた安心感に言葉が途切れる。
    「……あかんあかんっ! こんなん、何かの能力やろ」
     ポッとなりかけた所で我に返った千鳥は、声を上げて頭からナデポの手を振り払う。
    「おっと。俺に撫でられるの、嫌だった?」
     当のナデポは、全くめげた様子もなく左手で蓮を撫で続け、振り払われた右手を再び千鳥に伸ばす。
    「嫌に決ま……でも手ぇ大きくて気持ち良えかも……よく見たら顔も好み……? って、ちゃうちゃう!」
     再び撫でられた上に顔を覗き込まれ、再び流されかける千鳥だったが、必死で抗い頭を振って撫でる手を振り落とす。
    「……なんつーか、撫でられる側ってむず痒いな」
     一方の蓮は、いつもと違い慣れない撫でられる側になることに、少し気恥ずかしい物を感じているくらいだった。

    「なんだ、お前達」
    「えっ、あ……えと……あの……探しててっ」
     エリート系ナデポが眼鏡の奥から向けるきつい視線に、しどろもどろになるシャオ。
    「そう緊張するな。はっきり言えばいい」
     その反応に、ナデポの雰囲気が少し、和らいた。
    「さっき女の人を撫でてたよね? それを見て、追いかけてきたんだよ」
    「良く俺に追いつけたな。良くやった、褒めてやる」
     更に来須が答えると、ナデポの視線は一気に穏やかになり、何故か褒めながら来須の頭を撫で始めた。
    「い、いやぁ、そんなことないよ。あたしいっつも失敗ばかりだし……えへへ」
     念の為、撫でてくるか確かめるつもりだった来須だが、何故褒められたかも判らないまま、顔を赤らめもじもじしていた。
    「お前も、良く付いて来たな」
    「まっ待って、そんな、撫でちゃ…あうぅ…」
     さらに男は反対の手をシャオの頭に伸ばし、撫でてきた。
     冷たいエリート系かと思いきや、一転して優しく褒めながら撫でてくる。これは赤くなっても仕方ない――かな。

    「どうしました? 僕に何か御用ですか?」
     カンナと白焔が阻んだナデポは、丁寧な口調で穏やかな笑みを浮かべ、のんびりとした雰囲気を漂わせていた。
     が、手の早さは他と変わらない。
    「道に迷いでもしましたか?」
    「……っ!?」
     気づいた時にはカンナのすぐ前にいて、優しく頭を撫でてきていた。それで何故、赤面してボーっとしかけてしまったのかは、カンナ本人にも訳が判らない。
    「ふむ。君は、この子のお兄さんですか?」
     ハッとしたカンナに手を払われたナデポは、ひとまず満足したのか白焔に向き直る。
    「違う」
     シュッ。
     サッ。
    「……俺は撫でられて喜ぶ趣味はない」
     伸ばされた手を素早く避けて、白焔は言い放つ。だがナデポは、男相手でも簡単には撫でる事を諦めない。
     シュッ、サッ。シュッ、サッ。シュッ、サッ。
    (「恋人もいる身だしな。そう簡単に撫でられ――っ!」)
     ガッ。
     右手でばかりだったナデポが繰り出した左手を、白焔は咄嗟に肘で押し退ける。
    (「此れは洗脳、此れは洗脳なのじゃ……! わ、妾は惑わされたりせぬぞ?! 都市伝説等に惑わされたりはせぬのじゃ」)
     激しい攻防の横でぶんぶんと頭を振って自分に言い聞かせていたカンナは、額の横にあるシロフクロウの面に手を伸ばした。

    ●大丈夫、皆、正気(多分)
    (「うきゃーっ」)
    「ごふっ!?」
     内心で悲鳴を上げて、くしながぶんぶん振り回した鬼の拳がナデポの厚い胸板を打ち抜いた。
    「て、照れ隠しにしては強烈な……」
    「不用意に女の子にタッチするからです!」
     くしなに指を突きつけられるナデポに、黒い物――影が絡みつく。
    「成程、これが胸キュンというものですか」
     しみじみと呟きながら影を操る璃羽の顔は、いつも通りの無表情だった。
     更に璃羽は、淡々と指を向ける。放たれた制約の魔力が、ナデポを撃ち抜いた。

     じー。
    (「何なんだ、あいつの視線……? ……俺に何かしてほしいみてぇな感じか? 撫でてほしい……?」)
     ナデポに視線を向けられ、首を傾げる蓮。
     撫でたい視線なのだが、撫でられたいと勘違い。鈍感のなせる業か、撫でたい気持ちを強制的に呼び起こされていたのか。
     だが、それはそれ。
    「撫でるのは、俺も良くするからな。普通の人として生まれたなら、お前とは仲良くなれそうな気がするぜ」
     連は片手でナデポの腕を押さえて、破邪の光を纏わせた剣を一閃、振り下ろす。
    「――」
    「うちの好みは、もっと顔も撫で具合も上なんやから!」
     何か言おうとしたナデポを遮って、千鳥が赤い光を放つ玉串を叩き付ける。更に玉串を振り抜いて、風を激しく渦巻かせる。
     風の刃に吹っ飛ばされたナデポに、光を纏った拳が立て続けに叩き込まれる。
    「撫でるのはともかく、人に迷惑かけるんじゃねぇぞ……わかったな?」
     蓮は連打の最後にナデポの頭を撫でようとしたが――開いた掌が触れる前に、ナデポは消えていた。

     頭を下げて姿勢を低くしながら、来須が拳を振りかぶる。
    「壁ドン!」
     変異して巨大化した鬼の拳がナデポの頭の横を通り過ぎ――壁に当たる寸前で、ピタリと止まった。
    「中々の迫りょぐっ!?」
     すかさず褒めて撫でようとしたナデポを、雷気を纏った来須の左拳が殴り飛ばした。
    「俺より手が早いとは。褒めてやろう」
     そう言いながら、ナデポが撫でようとしたのは何故かシャオ。
    「お、俺にとっては……蓮、だけだもん……。知らない人のなでなでなんか……嬉しく、ない……だから……も、離してぇ……っ!」
     シャオは咄嗟に影の形を変えて伸ばされた腕に巻きつけ、更に蝙蝠と薔薇の飾りをあしらった銀の刃に緋色を纏わせて、振り上げる。
    「ぬ、ぐっ……!?」
     斬られたナデポは影から抜けようともがくが、再び振りかぶられた鬼の拳がそれを許さず、今度こそナデポを殴り飛ばして壁にドンッと叩き付けた。
    「壁ドンの勝ちー!」

    「ふっ」
     短い呼気以外に前触れも気配もなく、白焔が一足でナデポの間合いに踏み込み、腕に装着した兵器を叩きつける。
     ドリルの様に高速回転する杭が、ナデポの身体を貫いた。
    「……少しくらい、撫でさせて、下さいよ」
     すぐに距離を取る白焔を追って、ナデポが視線を彷徨わせる。
    「乙女を惑わせた報いじゃ! 全力で打ち倒すぞ!」
     それを遮る機で、フクロウの白い翼を背中に広げたカンナが、歌い始めた。響き渡る神秘的な歌声が、ナデポの精神をも揺らしていく。
    「断る」
     短く告げて、白焔が足を振り上げる。摩擦の炎を纏った足に蹴り飛ばされ、ナデポは燃え尽きるように空中で消えていった。

    ●再び繁華街へ
    「食べ歩きの続きを、しなければ!」
    「楽しそうな店も探してみたいですね。ぶらついてみますか」
     何か食べ歩きに使命感のようなものに燃えるくしなは、璃羽の腕を引きながら繁華街へと戻っていく。
    「妾も行くぞ。皆も行くのじゃ」
    「お肉以外やったら、ええよ」
     その後に続いて歩き出すカンナの誘いに、千鳥が笑顔で返す。
    「ん? 帰るのか?」
    「ああ。片付けの必要もないしな」
     それだけ言って踵を返した白焔の背中を見送って、来須も食べ歩きの行列に加わる。
    「あの……あのね、蓮」
     その後に少し遅れて続きながら、シャオは隣を見上げて口を開く。
    「どうした?」
    「俺…やっぱり……蓮のなでなでが、一番、スキ……」
     答えの代わりに、蓮の大きな掌がシャオの頭にそっと乗せられた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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