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宮崎県。
海沿いに位置する町の神社にて、外国人観光客のような一人の女が鳥居を物珍しそうに見上げていた。
海に面した神社の風景に『ビューティッホー!』と感嘆の声を上げる。
「ココ、ステキ!」
周囲を見回せば人もそれなりに多い。
「適当に歩いてきたケド、ン、なかなか便利そうな場所ね」
波打つ豊かな金髪をふぁさぁとかきあげたのち、胸のボタンを一つ外し、谷間を強調させた。上品な服をわざと着崩したファッション。
(「やることリスト。まずはハーレム作り、流行りのファッションを調べて、あとはここがドコなのかとかも調べなきゃ……あーどっかに権力者、石油王かなんか落ちてないかなぁ。一番お金持ってそー」)
「ン!?」
この神社を当面の住まいにしようと歩いていた彼女は、何やら彩り豊かな『カワイイ』に遭遇した。
木の板に描かれた『カワイイ絵』と日本語。
「コレ何!」
「それは絵馬ですよ」
現れ、話しかけてきたのは、赤いスカートのようなものと白い不思議な服の娘。
「エマ。あ。アナタもカワイイ……ステキな赤ね……」
妖艶な笑みを浮かべれば、不思議な服装の娘はほんのりと頬を染めた。赤の映える子は大好きだ。
言葉を交わしていくと、この絵馬は願い事をするものなのだと知る。
彼女――淫魔キャシーは、こう書いた。
『石油王にあいたい』
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「名古屋での戦い、学園での迎撃戦、そして名古屋に残存する事件の解決と、大変だったわね……」
遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)が教室に集まった灼滅者へと言う。
一つ、こくりと頷いたのち、彼女は説明に入った。
「サイキック・リベレイターを使ったことで、大淫魔サイレーンの配下が目覚め始めたわ。
皆さんには、復活した大淫魔サイレーン配下の淫魔の灼滅をお願いしたいの。
今のところ復活した淫魔たちは、状況を把握していなくって命令も出されていないから、淫魔の本能に従って行動しているみたい」
篭絡、ハーレム作り、強化一般人の確保などをするべく、身の回りを整え始めるところ、と言っても良いだろう。
「上位の淫魔が復活すれば、その命令に従って軍団を作り上げる可能性があるから、今のうちにできる限り灼滅へ導いておきたいかなというところね」
そう言って、鳴歌は宮崎県海沿いの神社に居座り始めた淫魔・キャシーの説明へと入った。
「キャシーは、参拝に訪れるなかの気に入った人たちを篭絡しているのだけれど、その人たちを強化一般人にはしていないみたい。今は、まだ。
上位の淫魔から命令を待っている状態みたいね」
灼滅者が到着した時、巫女服を着たキャシーは猫耳を出し、二人の巫女を従えて絵馬掛所で絵馬を配っている。絵馬も巫女も、かなり気に入ったようだ。
参拝客として鳥居をくぐれば、淫魔のバベルの鎖をかいくぐり、近づくことができる。
「そこは参拝にきた人々もいるし、戦闘には不向きだから、違う場所へと誘き出すのをお勧めするわ」
と、鳴歌はひと気がなく戦闘に向いた場所を地図に記した。
淫魔は目覚めたばかりで、状況もよく分かっていないため少しの警戒はあるが、彼女の好みそうなものを持ち出せば、ころりと引っ掛かりそうだ。
キャシーはクラッシャー。
サウンドソルジャーとウロボロスブレイドに似たサイキック攻撃を使う。
「無邪気で奔放なキャシーの好きな色は赤なの。それは、流れる血のことも含まれているのよ。
人懐っこそうな彼女に翻弄されないよう、十分に注意してね」
参加者 | |
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エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821) |
夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) |
忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774) |
華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983) |
水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774) |
七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155) |
迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801) |
真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302) |
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商店の並びを抜ければ、海に向かってすうっとのびる一つの道と橋。その先には熱帯植物が繁茂する島がある。
霊地とされた島を囲うように波状岩の通称『鬼の洗濯岩』が広がっていた。
『昨日は、一昨日来てくれたオジサマが、スマホをプレゼントしてくれましたっ。お願い叶えてくれてありがとねっ神様!』
と、英語で絵馬に書いた淫魔のキャシーは、神門に設置した掛け所に絵馬を奉納。
「カミサマにアリガトの絵馬したよっ! ねっ、キャシー偉い??」
「偉いですぅ、キャシー様っ」
「きっと神様も、喜んでますよぅっ」
「わぁいチョロッ」
篭絡した巫女達と楽しそうにしている淫魔。
(「サイキック・リベレイターの影響ってこうなるんだな。完全封印中の奴に撃ったら事件が起きるだけになるのかもな」)
様子をうかがいながら考える七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)。
(「……とにかく、目の前の相手を止めないとな!」)
他に篭絡した者は、神社に滞在する彼女へ貢物を連日持ち込んでくるらしく、現代の情報収集は好調のようだ。
「むーん、そろそろ接触なの、どうなるかなぁ」
観察しつつ木陰に隠れているエステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)は呟き、隣でスヤァと寝ている霊犬のおふとんをぺちぺちした。片目を開き、くあっとあくびをしたおふとんがゆっくりと体を起こし、エステルを見上げる。
先程、鳥居をくぐった時、肌も髪も白く、赤の瞳に赤のワンピースとケープ姿のエステルは淫魔に話しかけられてしまったのだが、「外国人なので神社を見に来た」と応じるといたく共感されていたり。
五月の強くなってきた陽射しと波の音は眠くなってくる。
その時、ふわりとなびく赤い髪の女性が淫魔へと近付くのを見た。
「すみません、絵馬を頂きたいのですが」
白いワンピース、白梅の髪飾りは、潮風に揺れる水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)の赤が映える。
「ハイッ、ドウゾ♪」
一目で惹かれたらしいキャシーはまじまじとゆまを眺めた。
次に淫魔の視界に入ったのは、二人の横を足早に通り抜ける少年。
「あっちが面白いみたいだし行ってみようっと!」
良家の子なのか、白い服を着た少年は世間を知らない無邪気そうな動き――悠里を追うのは淫魔の視線と、忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)だ。
「遊歩道みたいになっているのね」
白地の着物に咲くは赤い牡丹、描かれた蝶は舞うが如く。
「Very beautiful!」
着物がドストライクしたらしいキャシーは、ゆまの注意をひき玉緒を指差す。
「見るからに外人の貴女が、どうして巫女さんを?」
ふと興味をひかれた様子で尋ねるゆまは、そのまま、誘うような笑顔のキャシーと親しげに会話を重ねていく。
「そうなのですか、行き場がなく……それは大変でしたね。
わたしは、今日は、近くに願い事が叶う場所が在ると聞いた事があるので。一人で行くのも淋しいですし、一緒に行ってくれませんか?」
「オッケーよっ。アッチも、何だか気になったのよね。じゃ、行きまショ」
と声を掛けたのは篭絡した巫女に向かって――すると境内側から神門をくぐり、一人の巫女が出てきた。
「俺が行こうか」
しばらく様子を見ていた夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)だ。さりげなく、淫魔の手から巫女達へと絵馬を渡す。
(「あんま乗り気はしねーが、勢力を考えると倒しておくべきなんだよな。……にしても石油王ってドコから仕入れた知恵なんだ」)
境内の絵馬掛けをちらっと見てみたが、Oil kingの文字が目立っていた。
一瞬不思議そうに治胡を見た淫魔は、にっこり笑顔。
「ウフフ、二人とも素敵な髪ね。ずぅっと連れ歩きたいくらい」
連れ立って歩くと、真砂の音がざくざくと鳴った。
賑わう客達から離れれば、自然と潮騒の音が大きくなっていく。島をまわるように歩いていく。
「みんな、ナゼ、コッチに来ない?」
「コッチはあまりに後利益があるモンで、人にはなるべく教えないようにしてるんだが。
折角お嬢サン達が来てくれたんだ。良いトコ案内しなきゃァ神様の名が廃るからな」
周囲を観察し歩く淫魔の疑問に、治胡は応じるのだった。
ひと気がないのは、先行していた華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)の殺界形成の成果だ。
「接触開始だぞー」
と駆け足の悠里がやってきて、少し遅れて玉緒が到着。
さらに待っていれば、こちらへと向かってくる仲間と淫魔。
参拝ついでに岩場見学している風を装っていた灯倭。洗濯板みたいにギザギザとした岩場を跳ぶように歩けば、赤いスカートがひらひら動く。
(「神社も絵馬も巫女さんも、気に入って貰えるのは日本人として嬉しいのだけど、ね……」)
掛け所は複数あり、絵馬のトンネルのようになった場所もあった。確かに、あれは見たら好きになるよね、と灯倭。
(「こんな形でさえ無かったら……ね」)
目覚めた淫魔は灼滅者に対する認識も甘いままだろう。
回りこむように歩く。
「Oh,『イケメン』がいるわ!」
覚えたばかりの言葉らしく、ゆまと治胡に教える淫魔はどこか得意顔。
猫耳を弄り、巫女服の襟を少しくつろげたキャシーは二人の青年へと寄っていく。
Hi! my name is Catherineと自己紹介をし、愛称で呼んで♪ と言うキャシー。
「彼女達にココは良い場所と聞いたのだけど」
その言葉に、一つ頷いた迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)は自信溢れた頼れる笑顔。
「実はこの場所で願い事をしたら金持ちになりたいって望みが叶ったんや。
せやから、あんたも何か願い事していきな。絶対叶うで。何せ俺がこうやって大富豪になれたんやからな」
「!! わたしの願い、アナタに……ぅうん、でも。
そちらのアナタはどんな願いゴトを?」
まさかの出会いに動揺する淫魔へ追い打ちをかけるのは真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)だ。
「……また支社が油田を掘り当てちゃってね」
「That’s unbelievable!?」
「それをどう運用していこうか考えてたんだ。莫大な利益を一人で使い切るのは税制度的に難しい――あなたなら、何に使う?」
上物の服。一流老舗ブランドを着こなす、地に足ついた櫟の御曹司スマイルによろろとよろめき、淫魔は交互に二人の男を見た。
「日本、はじめて来たケド、何て凄いトコロなの……!」
海外ですら転がってない者がコロコロ転がっているように、キャシーには思えた。昨日手に入れたスマホを使って調べたら、いっぱい御曹司の話(小説)が出てきた。日本凄い。
うんうんと考え出した淫魔に、炎次郎が言う。
「待って。願い事をする前におまじないが必要なんやで。俺がかけたるから、じっとしててな」
櫟が、包囲を終えつつある仲間達に向かって頷いた。
「火を生み給ひて」
淫魔に手をかざす炎次郎は祝詞を唱える。
「御保止を所焼坐しき、如是時に吾が名の命の吾を見給ふなと申す」
刹那。主の呼吸を読んだ霊犬のミナカタが隠れた場所から飛び出し、吠える。
「!?」
直後、構築した霊的因子を強制終了させる結界が発動し、油断しきっていた淫魔はがくりと体勢を崩した。
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ミナカタの吠え声と同時に、治胡のサウンドシャッターが展開されていた。
「むきゅ、いろいろ復活してるけど、取り敢えず倒すのね」
エステルが魔力を宿した霧を展開すれば、前衛の動きは何か湧き立つかのように鋭くなった。
「おふとんご~なの、刷色みんなパワーアップです!」
エステルの声を背に、おふとんが敵に向かって走る。
飛び退き、数歩分距離を作った櫟の周囲に青白い炎が巻き起こる。
「石油ビジネスはそろそろ古いよ、オバサン」
「なっ。お、オバ……ッ!?」
炎纏い射出した帯が、体勢を崩していた淫魔を貫いた。
「イツツバ、さっさとしなよ」
淫魔の反応には構わず、銃を持ち今だ狙いが定められないままのビハインドに命じれば、すうっと銃口が定まり霊撃が撃ち出された。
胸元の鍵のペンダントからゆるりと手を離した玉緒が、接敵した次の瞬間、淫魔に向かって鋭く腕を伸ばした。
「時間との勝負はもう始まっているの」
手にある断斬鋏を翻し、殺人鬼の超絶技巧を用いて敵を斬り刻んでいく。
(「サイレーン達がこの状況を把握しきる前に勝負を決めないといけないわ」)
玉緒の鋏が更なる呪力を宿し、陽光が鈍く照り返る。
「起きてすぐに悪いけど寝てもらうぜ!」
走り、飛び込んだ悠里が異形巨大化した鬼の片腕で敵を殴り飛ばした。
「コドモにこんな力……!」
身を翻し、一旦逃げを打つ淫魔に立ちはだかるのは灯倭と一惺だった。
「残念だけれど、石油王には会えないよ」
「お嬢ちゃん、通シテ」
破れて意味をなさない巫女服を完全に捨て、猫耳と二つに分かれた尻尾にコルセット姿という淫魔の本性を現したキャシーが、灯倭を下におこうとして声を出す。
普通の人ならば魅了されるだろう。しかし、
「此処で、私達と遊びましょう」
粗削りな岩場を蹴りホイールを回した灯倭が炎纏う蹴りを放ち、一惺が跳躍し斬りこんだ。
再び身を翻す淫魔は、ぎくりと体を強張らせた。
親しんだはずの巫女服――緋袴を捌き、懐に飛びこんだ治胡が、敵の胴を抉るが如く拳を突き上げた。変換した闘気が昇雷する。
来るまでは自身の巫女服に少し悩んでいたのだが、
「まァ、ヨシとするか」
敵の瞬時の動揺を捉えた治胡が呟く。
対角に、ふわりと揺れる赤。
「わたしの髪を綺麗だと言ってくれた存在がもう一人いました。梅の精のような少女」
ゆまの剣が破邪の白光を放ち敵を薙ぎ払う。
「わたしは彼女を、灼滅しました。貴女にも……同じ運命をさしあげましょう」
「……っ、アナタ達、ダークネス?」
淫魔が腕を振れば、ひゅっと音を立て白い何かが空を走った。その時、くすりと笑む淫魔の瞳に見下す色が浮かぶ。
「それともスレイヤー? やだ、だったら、たぁいへん」
手首をスナップさせ、狙い定めた悠里へと白いそれを振るう――がそれは庇いに入った炎次郎に巻き付いた。
「悪い、ありがとな!」
作られた隙に石化をもたらす呪いをかける悠里へ笑みを向けたキャシーが武器に力を入れる。
「フフ、ボウヤが一番キレイに染まりそうだったのに」
刀の鞘に咬ませながらも炎次郎の肉に喰いこむのは、白い鱗だった。それが鞭剣のように連なり、鱗から鱗へ伝う血が、熱に揺らぐ。
淫魔はくすくすと笑っている。年若い娘のように、無邪気に。
「可愛いから許す……とでも思ったか! 巫女服で男漁りなんて許さへんで!」
炎が駆け巡り、宿った武器が硬質な音を立てて鱗を打ち払った。ミナカタが浄霊眼で炎次郎を癒す。
「ユルサナイ……? アナタ達、とォっても強気。群れたトコロで、スレイヤーなんてスグ駆逐されるモノなのに」
淫魔の言葉は、嘲りの色が滲み出ていた。
●
弧を描き、加速した敵の武器が後衛を薙ぎ払う。
その軌道に果敢に飛びこむ一惺とおふとん、そしてイツツバ。
「ちゃんと壁になってよ、俺の服が汚れる」
ヒュンヒュンと飛び回る血濡れた白鱗を見据え、駆ける櫟がイツツバに言った。
「真っ赤っ赤なのはいいけど、汚れちゃうのはだめなの、だからこの人嫌いですよ~」
赤のケープとワンピースは、エステル自らの血により深みを増した色合いとなっている。
ふわふわと軽やかに、足迫る敵の牽制攻撃を跳んで避けたエステル。赤きオーラの逆十字を淫魔の身に出現させて精神を引き裂く。
「赤……赤は私も嫌いじゃないけれど……」
身を低くした灯倭が一直線に跳ぶ。
(「流れる血の色を「赤」に含めたくは、ない。殺人鬼としての本能が求めたとしても」)
敵の胴を捉え、手に持つ断罪輪を叩きこむ。そのままくるりと身を翻し一回転、二回三回と鋭い斬撃を繰り出した。
足幅を広くとり力を入れたラストの一撃は、淫魔をよろめかせる。
皮肉なもの――そう思いながら剣を非物質化させるゆまの金の瞳は凪いでいるようだ。
(「人間が醜いと言ったわたしの赤い髪を、ダークネスが愛でるなんて」)
剣身見えぬ下段からの斬り上げが、敵の霊魂と霊的防護にダメージを与える。
「この力……ホントにスレイヤー?」
「金持ちにホイホイついてくとろくなことないやろ?」
声に、淫魔がハッと気付いた時、炎次郎は既に居合の構えに入っていた。
白鱗の連なりが攻撃の意思を見せる前に、一息で間合いに踏みこんだ炎次郎が敵の胴を抜く。
後を追うように迫る櫟の交通標識を、負けじと己の武器で絡めとる淫魔。
が、櫟は交通標識を振り被ることで豪快に払いのけ、その遠心力に任せて上段から叩きこむ。纏う青白い炎が一、二拍遅れて軌道を現した。
攻撃の精度を一度あげた悠里が逆十字の赤きオーラを、淫魔の身に走らせた。
精神を蝕む攻撃が重ねられ、淫魔の嘲りはトラウマにより自身へと向き、白鱗が彼女を傷つける。
「ナゼ、ナゼ、キャシーが、スレイヤーに……!」
怨嗟を吐くキャシーの己を失ったような、人が変わった姿というものに、ある単語が浮かんだ悠里が問う。
「お前もサイレーンに篭絡されちまった口なのか?」
年相応の真っ直ぐな声色の『篭絡』は、篭絡というものをまだ分かっていないように思えた。
大淫魔サイレーンが無差別篭絡術的な力を持っていたら――あの脅威はまだ記憶に新しい。
ぴくりとキャシーが反応した。
「ナゼ、ナゼ、スレイヤーがサイレーン様のことを……アナタ達は、何者……イエ、一人でも、連れて行ケバ」
海はすぐそこだ。
篭絡し配下となった半魚人を海底へ連れて行こうとする事件もあった。
ふらりと悠里へと手を伸ばした淫魔の背後を、治胡がとる。
「すまないが倒させて貰うぜ、お嬢サン」
白鱗を掴むその手を起点に治胡の炎が噴出した。
「俺の血で燃えてみるかい」
ぐっと引き、体勢を崩す淫魔へ攻撃を叩きこめば、その身は新たな延焼に包まれる。
「ア、アアアアッ!!」
呻き声をあげ、淫魔は海へと向かいよろめいた。
波飛沫の白、ひらりと赤い蝶が舞う――。
体を使い、腕、指先のひとつひとつを的確に躍らせ、鋼糸を捌く玉緒。
意思を持ち動く帯と影が空間を覆うように縦へ縦へと伸びていくなか、玉緒が腕を引いた。
「私のイトからは逃げられない。アナタはここでお終いよ」
幾重の弧を作り絞られた糸が一気にキャシーを裂き、縛り上げる。
「そ、そん……な、サイレーン様」
その一撃に愕然とした声を残した淫魔は泡沫となり、潮風にさらわれ溶け消えていった――。
神社は、鳥居も神門も社も、琉球に在るかのように朱塗りのもので。
参拝をすませた灼滅者は、神域を出るべく、ただ一つの橋を渡り行く。
振り返れば、ただただ広い南の海が、大らかな波音で灼滅者を送り出すのだった。
作者:ねこあじ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年5月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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