●
「ありがとう、ありがとう、カナ」
母の笑顔を見るのはいつぶりだろう。
カナは、目の前で起こった出来事に恐怖するよりも、その笑顔に見入っていた。
母が笑っている。
カナを見ている。
「お母さん、とっても嬉しいわ。お母さんのために、連れてきてくれたのね」
その口元からは、血が滴っていた。足元に転がっているのは、カナの友人であったひとたち。
カナの母親が、血を吸ったのだ。
彼女たちは、ただ、遊びに来ただけだった。
みんなで一緒に、おしゃべりをしていて──いつものようにお菓子とジュースを持って、母が部屋に入ってきて。
カナの耳に、悲鳴がこびりついて、離れない。
「お母さん、いま、とっても幸せだわ」
カナに父親はいない。カナが三歳のころ、病気で死んでしまった。
カナにはもう、妹もいない。一年前に死んだ。交通事故だった。
二人きりになってから、カナの母親は、あまり笑わなくなった。
カナを愛しているといってくれるその瞳が、どこか寂しそうだった。
その母が、いま、こんなに幸せそうに笑っている。
「カナは本当に、いい子ね」
カナの心もまた、幸せに満たされていった。
母の望みがなんであるかを、理解した。
カナは静かに、決意する。
大好きな母親が、笑ってくれるのなら──
●
「十歳の少女が、闇落ちしてダークネスになろうとしています」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は沈痛な面持ちでそう告げた。
少女の名は、三石カナ。母親がヴァンパイアとなったことで、その近親者であるカナもまた、ヴァンパイアになろうとしているという。
「カナさんの父親は七年前に亡くなっており、三年前に妹も事故で他界……カナさんの母親は、心を病んでいたのでしょう。カナさんは、そんなお母さんをなんとか元気づけようとしていたのでしょうが……」
そんなときに、母親はヴァンパイアとなってしまった。
ヴァンパイアとなった母親は、寂しさを紛らわすためか、たくさんの人間の血を欲しているのだという。
カナは母を喜ばせたい一心で、一般人を襲い、母親の元へ連れて行こうとしているのだ。
「カナさんはまだ、迷っています。自分のしようとしていることが、本当に正しいのかどうか。ですが、もしこのまま手を染めてしまったら……そして母親が笑ってくれたのなら、迷いも消え、完全なダークネスとなってしまうでしょう」
もし彼女が灼滅者としての素質を持つのならば、彼女を闇落ちから救い出して欲しい。もう手遅れであれば、殲滅を。二つの道を、姫子は示した。
「カナさんは今夜、人の多い繁華街で、ターゲットを捜すはずです。残っている彼女の良心が、良くない行いをしている人間をターゲットにしようとしています。そんな人間ならば、連れて行ってもだいじょうぶだと思っているのでしょう」
姫子はゆっくりと首を左右に振った。どんな人間であっても、その身に何かがあれば、悲しむ者がいる──それは、あたりまえのことだ。
しかしカナは、それを考えられる状況にはない。なによりもまだ、十歳の少女なのだ。
「みなさんは繁華街へ行き、まずはカナさんと接触を。一般人の多い場所では被害が拡大する恐れがありますので、人気のない場所へ誘い出したほうが良いでしょう」
少し離れれば、あまりひとの訪れない路地裏や公園もあるという。
「カナさんは小さな身体を活かし、素早く動きながら、自らの血を刃として攻撃を仕掛けてきます。これに当たってしまうと、体力を吸い取られるので、注意が必要です。まだ完全なダークネスになってないとはいえ、ヴァンパイアは強敵ですが……カナさんの人間としての気持ちに訴えることができれば、勝機はあるはずです」
姫子は穏やかな瞳の中に、強い意志を宿して、灼滅者たちを見据えた。
「危険な任務になると思います。ですがどうか、カナさんを止めてください。皆さんの活躍を、心から祈っています」
参加者 | |
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灰音・メル(悪食カタルシス・d00089) |
八千穂・魅凛(シャドータレント・d00260) |
ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617) |
天上・花之介(残影・d00664) |
ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019) |
月宮・白兎(月兎・d02081) |
九曜・亜門(白夜の夢・d02806) |
安土・香艶(メルカバ・d06302) |
●接触 side A
繁華街は、光に溢れていた。
空は闇だ。しかし闇などものともせず、店からは灯りが漏れ、看板は光り輝き、等間隔に並んだ街灯が町を照らす。通り抜ける車は光だけでなく音も提供し、道行く人々の喧噪がそれに負けじと飛び交っている。
ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)──ミリーは、猫を抱いて道の脇に立っていた。正確には猫ではなく、キャットスーツで猫に姿を変えた、月宮・白兎(月兎・d02081)だ。
まだ小学四年生のミリーは、夜の繁華街でさすがに浮いていたが、それでもこうして待つ必要があった。もし第三者が近づいてくるようなことがあれば、仲間たちが遠ざけてくれるだろう。
「おじょーちゃん、ひとり?」
不意に、声をかけられた。天上・花之介(残影・d00664)が、高圧的に見下ろしながら、近づいてくる。
ということはつまり、作戦開始だ。ターゲットである三石カナが近くにいるのだろう。ミリーは、怯えた表情で後ずさる。
「あの、なんですか?」
普段とはまったく違う口調で、震えた声を絞り出した。花之介と一緒に歩み寄ってきたホスト風の大男、安土・香艶(メルカバ・d06302)が、にやにやと下卑た笑みを浮かべる。
「こんな時間にこんな場所で、危ないんじゃねえの?」
あまりにも堂に入っているので、ミリーは一瞬本気で身を引いた。
「おっと、可愛いの連れてるな」
「あ……っ」
花之介が猫の首根っこをつかみ、ひょいと持ち上げる。ニャーニャーと鳴きながらミリーにすがる猫を、花之介はおもしろそうにつついた。
「これで遊ぶか」
「やめて、返して!」
「やだね。オレらヒマしてんだよ」
ミリーは取り返そうと手を伸ばすが、そもそも身長差がありすぎる。高く掲げられてしまえば、届くはずもない。
「俺、猫よりこのガキがいいわ。ちょい遊んでやろうぜ」
香艶がミリーの頭をつかみ、押さえつける。
「猫で充分だろ。行くぞ」
しかし、花之介はあっさりとミリーに背を向けた。見せつけるように猫をぶらぶらと揺らしながら、灯りの少ない裏路地へと入っていく。
「ま、待って! 返して!」
ミリーは香艶の手を振り払うと、涙声で叫んで駆け出した。すぐうしろから、慌てたように香艶が追いかけてくる。
ちらりと、背後に目線を投げた。
こちらをじっと見つめている少女がひとり。その足が、ミリーたちのあとを追おうと動いたのを、ミリーは見逃さなかった。
●接触 side B
「お、来たで。おうおう、花之介くんも香艶くんも、悪い顔しとるわ」
電信柱の裏で、ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)は目を光らせた。手にはなぜか、アンパンと牛乳。正しい待ち伏せスタイルだ。
「いまのところ、順調にいっているようじゃのう」
ベルタの隣で、老成した雰囲気で深くうなずくのは、九曜・亜門(白夜の夢・d02806)。外見はベルタと同じく十代前半だが、口を開くとずっと大人びている。足元には、白い霊犬、その名もハク。白いからハクと名付けられたのは想像に難くない。
「まんまと誘いに乗ったか。彼女の残った良心につけこもうというのも、悲しい話だが……」
「それって、救う余地があるってことだよ」
少し離れた位置から様子をうかがっていた八千穂・魅凛(シャドータレント・d00260)が眉間に皺を寄せ、灰音・メル(悪食カタルシス・d00089)が穏やかにいう。
メルは、手にしていたメモを折りたたんでポケットにしまった。事前にこの裏路地の位置を調べ、皆に示したメモだ。すべて、予定通り。
路地裏へと、四人──三人と一匹が、入っていく。遅れて、一人の少女が続いた。
三石カナだ。
「よっしゃ!」
「行くぞ」
ベルタと魅凛が率先して、路地裏へと向かう。先の四人とこちらの四人で、挟み撃ちだ。
「一応、事前準備もね」
メルは目を閉じると、意識を集中させた。
時間をかけて息を吐き出していく。赤い目を見開くと、音もなく銀髪が舞い上がる。
「殺界形成!」
殺気を放った。これで、半径三○○メートル以内の一般人は、意識せずここから遠ざかるはずだ。
「堕ちてしまった者は仕方ないが……救える者は救ってやらねばのぅ」
メルが行き、最後に亜門が路地裏へと入る。
薄暗い電灯の下では、カナが立ちすくんでいた。
自分が追っていたつもりが、突然現れた四人に背後を突かれ、動揺しているようだ。見開いた目をこちらに向けている。
「そこまで」
そんなカナに、亜門は鋭くいい放った。
「悪しき因果、ここにて断ち切らせて貰おう」
●残された良心に
「どういう……こと……」
カナは力なく呻いた。
繁華街の裏へ一本入れば、そこはもう人通りのほとんどない路地だった。使われている様子のないポリバケツが端に転がり、街灯が申し訳程度に道を照らしている。繁華街の喧噪はすぐそこにあるはずなのに、随分遠くに聞こえる。
「悪い大人を追ってきたはずだったのに、か?」
花之介は、そっと猫を放した。肩をすくめて、カナを見る。
「もう解放したぜ。あいにく、オレはこいつらに危害を加えるつもりはない」
「ま、そういうことだ。悪ぃな」
香艶は敵意がないことをアピールするように、両手を挙げた。ますます混乱した様子で、カナは後ずさる。しかし、すぐうしろにもまた、四人が控えている。結局、立ち止まるしかない。
「でも、猫が……」
逃げる様子のない猫を不審に思ったのか、それともどうすればいいのかわからないのか、カナが猫に視線を落とす。そして、表情を変えた。
猫は静かに発光していた。輪郭がふくれあがるようにして、人の姿を形作っていく。
数秒の後には、そこに猫の姿はなくなっていた。
代わりに、首からゴーグルをかけた、落ち着いた風貌の少女。白兎の、本来の姿だ。
「私たちを助けようとしてくれたんですよね。ありがとうございます。でも……」
白兎は、首を左右に振った。
「そんなあなたなら、わかっているでしょう。良くないことしたからターゲットでいい、そんなはずないです」
「なんで……猫が……! 騙したってこと? あ、あたし……騙されたってこと……」
カナが唇を噛む。その身体が小刻みに震えていた。恐れなのか悔しさなのか、それとも怒りか。不穏な空気が、小さな身体を覆っていく。
「待って。ボクたちは、キミと話がしたいんだ、三石カナちゃん。キミとボクは似てる。キミのこと全部はわからなくても……話せるよ、きっと」
ミリーは懸命に、語りかけた。不用意に刺激してしまわないよう、言葉を選ぶ。
「だから、聞いて」
「そういうことや。ボクらは敵やない。まずは落ち着いて……あ、アンパン食うか?」
ベルタが緊張した空気をほんの少し和らげる。しかし、カナの震えは止まらない。
メルは、意識的にゆっくりと、口を開いた。
「悪人を連れて行っちゃったら、カナちゃんも同じ悪人になっちゃうよ。一人じゃ大変なら、私も手伝ってあげる。だから……ね?」
立場が変われば正義も悪も変わる、それをわかっているからこそ、カナの目線に立とうとする。その場にいる全員が、同じ気持ちだっただろう。
しかし、カナには、届かなかった。
カナはひどく震えていた。自らの腕を抱きしめるようにして、唇を噛む。
「だって……でも……そうしないと……そうすれば……──お母さん……お母さん……」
彼女を纏う空気が変わっていくことに、魅凛は気づいた。
「戦闘しながらの説得、となりそうだな」
そっと間合いを取る。カナはもう、いつ襲いかかってくるかわからない状態だ。
白兎は眼鏡を外すと、首から提げていたゴーグルを当てた。息を吸い込み、意を決する。
「ほな、行こか……」
それを合図とするかのように、全員が武器を構える。ほぼ同時に、赤い光を全身に帯びたカナが、奇声と共に跳躍した。
●戦いの中で
「もう知らない! もう考えない! お母さんが笑ってくれるなら、あたしはそれで、いいんだもん!」
カナは路地の壁を蹴り上げるようにして高い位置へ飛び出すと、両手を前に突き出した。カナの身体を覆っていた赤い光が、まるで意志を持ったようにうねりを帯びる。
否、それは光ではなかった。血そのものが、凶器となっているのだ。
「おっと」
前衛に躍り出て、香艶が龍砕斧の刃でガードする。まだ、説得の余地がある。仲間達が説得をしている間は手を出さないと、香艶は決めていた。
「速いのはわかっとるでぇ。鏖殺領域!」
先手を打とうと、ベルタが鏖殺領域を展開する。放出された黒は赤を捉えるべく一気に広がるが、カナは素早く後方へ引き、それをかわした。
「ほんまに速い!」
「わかってたんだろ。これでどうだっ」
隙をついて、花之介が回り込む。完全にカナの死角に入っていた。抜刀し、打刀を振り下ろす。
「こんなの!」
しかしそれすら、ダメージを与えるには至らなかった。カナは身をよじり、転がるようにして前へ跳ぶ。瞬きの間すらなく体勢を立て直し、そのまま突っ込んでくる。
「邪魔しないで──!」
声と同時に血の刃を飛ばす。それは彼女の前方のみならず、四方すべてに及んだ。
「ぐっ」
「ああっ」
香艶はとっさに防いだが、まさに攻撃を放とうとしていたミリーは腹部に刃を受ける。もっとも近づいていた花之介もまた、深く傷を負った。果敢に飛びかかろうとしたハクも、血の刃が生み出した風にあおられるように吹っ飛ばされる。
「ダメ、このままじゃ……!」
「流れを変えないといけませんね。こちらはダメージを与えていないのに、カナさんの力はどんどん上がっていきます」
ミリーが膝をつき、白兎はゴーグルの下から冷静にカナを見据えた。攻撃を繰り出すだけでは、捉えられない。加えてカナの血の刃は、こちらの力を吸い取っていくのだ。
「誰も倒れなければ、我らの勝ちじゃ。そうじゃろ?」
後方から戦況を見守っていた亜門は、的確に防護府を飛ばした。まだ、焦るべき段階ではない。花之介とミリーの傷口に、防護府がひらりと舞い降りる。
「やることが変わるわけではないな。──カナ、聞け!」
日本刀を構えつつ、魅凛が声を張り上げた。冷静な目が、彼女の落ち着きを示している。
「私たちがなにをいおうが、『本当』は見えてこないのだろう……母に喜んでもらえればそれで幸せなのではないかとも、思う。だが、おまえにとっての真実は、おまえの中にあるはずだ。考えることを、放棄するな」
母という言葉に、一瞬、カナが反応した。動きが鈍る。
その隙を見逃すはずもなかった。構えた日本刀の下、魅凛自身の影がうごめき、直線を描いてカナに伸びる。
「…………っ」
飛び退こうとしたカナの右足を、影が絡み取った。
「キミの母親は優しかったか? 誰かを手に掛けて喜ぶ人だったか?」
影に力を込め、魅凛が問いを重ねる。
「今の母親に、疑問は、無いのか?」
「──う、うう、煩い!」
カナは頭を大きく左右に振った。血の刃が影を切り裂く。
「逃がさないよ! 制約の弾丸!」
紙一重──まさにカナが動き出すその隙間に、メルの放った弾丸が飛び込む。カナの小さな身体は、はじけ飛ぶ光に包まれた。動きが重くなる。
「本当はわかってるんだよね?」
立ち上がり、ミリーはカナに呼びかけた。
「キミの母親はもう、堕ちてしまった……人じゃなくなったんだ。ボクもそうだったから、わかるよ。でも、人であった頃の本当の母を思うのなら、一緒に堕ちちゃだめだ!」
カナの顔が奇妙に歪んだ。ミリーはカナと同じ年代の少女だ。心を動かされたのか、苦悶の声を絞り出し、胸元を押さえる。
「……わか……わかって……そんなこと……」
声のトーンが変わりつつあった。迷いが生じているのだ。依然として血の刃が動こうとするが、すでに先程までのスピードはない。
「悪いが、止まってもらうぞ」
そこへ花之介が滑り込んだ。黒死斬を打ち、カナの両足を斬りつける。
「母親の笑顔のために、他の誰かを泣かせて、お前はそれで良いのか? 母親が泣いてたら、おまえはどう思う?」
花之介は、カナを見つめた。
「そういう気持ちを他人に強いちゃダメだよ、カナ」
声に、優しさが滲む。カナの表情が、どんどんくしゃくしゃになっていく。
混乱と、不安と、欲望と──
後悔。
「もう一押しじゃな。神薙刃!」
「こちら側へ帰っておいで! ギルティクロス!」
亜門とベルタがそれぞれ攻撃を仕掛ける。カナの瞳はそれを捉えたが、迷いの生まれた動きでは間に合わなかった。直撃を受け、ぐらりとよろめく。
「そろそろだね──カナちゃん、お願い! 一人で悩まないで、悲しまないで──!」
メルが叫び、カナの意識がメルを捉える。
その隙に、白兎と花之介が、うなずき合って前へ出た。
「──はっ!」
「これで、どうだ!」
白兎はWOKシールド、花之介は鞘で、それぞれ急所を避けて打撃を与える。
「ぐ……う……!」
「まだ終わっていない」
「こっちもだよ!」
のけぞったカナの目前へ躍り出て、魅凛とミリーが武器を振り上げる。魅凛は日本刀で斬りつける直前に、うしろへ跳躍した。ぎりぎりの力加減で斬り込み、ほぼ同時に回転を止めたミリーのチェーンソー剣がうなる。
「悪ぃな」
彼らが攻撃を終えるよりも速く、背後には香艶が回り込んでいた。
「俺には、力尽くで止める事しか出来ねぇんだ。幼かろうが、女子供であろうが、手前ぇで考えて、答えを見つけな」
香艶は、武器を放り出していた。
代わりに己の拳を握りしめ、思い切りたたきつける。
自身の手にも、伝わる衝撃。
それが、仲間となるべく人間を救う礼儀だと、信じていた。
「……ああ……!」
カナは、膝から崩れ落ちた。
●その笑顔のために
どれほどの時間が経ったのだろう。
カナはゆっくりと、目を開けた。
自分がしたことは、覚えていた。戦いを繰り広げたことも、そのときの思いも、苦悩も、なにもかもを。
身体を起こし、両手を見る。
あちこちが痛む。しかし、不快ではない。
明らかに、いままでとは違う、自分。
「目が覚めたかね?」
声がかけられた。亜門が静かに微笑んで、カナを見下ろしていた。
「さて、君は常ならざる力を得た訳じゃが……その力を持ってやらねばならぬ事は、他にあるのでは無いか?」
「あたし、は……」
カナは目を閉じた。
思いは、変わっていない。
母親のために。
大好きな──大好きだった母親の、笑顔のために。
目を開ける。
八人が、こちらを見ている。
カナの瞳から、涙が流れた。しかしカナは、すぐにそれを乱暴に拭った。
「良かったらここを訪ねると良い。力になるぜ」
花之介が手をさしのべる。もう片方の手には、学園の住所が書かれたメモ。
カナはきゅっと奥歯を噛みしめた。差し出された手を、握る。
「──はい」
決意していた。
すべては、その笑顔のために。
作者:光次朗 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 4/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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