目が覚めたら未来とか、よくあるよくある

    作者:黒柴好人

    「はぁ~、ふぅ~ん、へぇ~、なるほどぉ~」
     南国と呼ばれる事もある地方にある港町。
     5月になり暖かくなってきたとはいえ、もう夏を先取りしたかのように薄着の少女がタブレット型PCをついついしながら声を漏らしていた。
    「つまりあたしはよくわかんない時間に起きちゃった、と……はぁ~」
     何度目かのわざとらしい感嘆の息を吐くと、少女の正面に立つ男がもじもじしながら口を開いた。
    「あー、その……リースちゃん? ずっと寝てて最近目が覚めたとか、記憶喪失か何かなの?」
    「別に寝たくて寝てたわけでもないんだけどね~。ふぁ~、近頃は便利なモノがあったものだねぇ~」
     時折すいすいする指を止め、真剣な眼差しで画面に視線を落とす少女。
     わざとらしいくらい薄く、布面積の少ない服装は最近の流行り……というわけでもないだろう。
     コスプレにも見え、しかし古い時代のものにも見える。
     それが一層少女の神秘性を高めていた。
    「最近はこういうのがいいんだ~……」
    「あ、あのー、リースちゃん?」
     リースと呼ばれた少女は、男の前で前かがみになり、ちょこんと上目遣いで見上げた。
    「あたしのためにい~っぱい! 協力してねっ、おにいちゃんっ♪」
    「おっほぉ! よくわからんが、任せとけぇ!!」
    「(ちょろい。ま、情報はこの人間とこの、なに、コレから集めるとして、っと~)」
     そんなリースの呟きは聞こえていないくらい、男のテンションは上がっていた。
    「まずはあたしのハーレム、つくらなきゃ~。サイレーン様は……ま、あとでいっか~」
     彼女が本当に永い眠りから目覚めた淫魔だとも知らずに。
     あ、いや。知ったら知ったで高揚しそう。
     
    「……世間では薄着になる人が増えてきましたね」
     武蔵坂学園の高層階の一室で、高見堂・みなぎ(高校生エクスブレイン・dn0172)がなんとなく嬉しそうに集まった灼滅者たちを迎えた。
    「……だから、春は素敵です。ね?」
     同意を求められた。肯定しても否定してもややこしそうなので早く本題に入るように促され、みなぎは首肯する。
    「……武蔵坂学園、いえ、皆さんは大きな選択を迫られました。その結果、『サイキック・リベレイター』の使用とその最初の目標が決定されました。ご存知の通り……淫魔です」
     サイキック・リベレイターは既に打ち込まれ、その結果『大淫魔サイレーン』に属する淫魔たちの動きが活発になり始めた。
    「しばらく眠っていた淫魔を叩き起こした……という事ですね。当然……現代の情勢には疎いと考えて良いでしょう」
     よくわからない状況で派手に動きまわるほど淫魔は愚かではない。
     右も左もわからなければ当然、情報を集めようとするだろう。
    「……淫魔が情報を得るといえば、どういった手段を取るかはお分かりでしょう」
     復活した淫魔同士が連絡を取る手段もなく、そして上からの命令がない以上、彼女らは彼女らの本能に従って行動する。
     要は、一般人を籠絡して自分の居場所を作っているのだ。
    「……とはいえ、まず最初に復活した彼女たちより上位の淫魔が目覚めれば、集結しひとつの戦力として確立するものと思われます」
     今後の戦いを有利に進めたいならば、今の内に数を減らしておく事が肝要となる。
    「……今回皆さんに相手をしてもらうのはリースと名乗る淫魔です。特別な力などはなく、普通の淫魔ですね」
     まだ今の状況に慣れない様子は見られますが、とみなぎは続ける。
     ぼーっとしたような顔をし、その動きや言動はやや緩慢。
     しかし意外にも順応性はあるようで、一般人のガジェット類を使って情報収集に活用したりと抜け目ないところもあるようだ。
    「武器はナイフを使うようです。間合いには多少気を配った方がいいかもしれませんね」
     そして少し厄介なのが、1人の一般人が同行している点。
    「……地元の青年のようですが……残念ながら籠絡され、強化一般人となっています」
     勿論助ける事はできるので、そう心配する事はないだろうが、油断できない要素である事も確か。
    「……最初が肝心ですが、やる事はこれまでと変わりません。リラックスして、いつも通りの気持ちで挑むといいでしょう」
     説明を終えたみなぎは、
    「……しかし寝起きを攻めるとは、なかなかどうして。高揚するものですね」
     人様に聞こえてはいけないような独り言をこぼしながら灼滅者たちを送り出すのだった。


    参加者
    蒔絵・智(双離法師・d00227)
    ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)
    ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)
    沢渡・花恋(舞猫跋扈・d24182)
    高嶺・円(蒼鉛皇の意志継ぐ餃子白狼・d27710)
    饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)
    海弥・障風(阻む風・d29656)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)

    ■リプレイ

    ●おはようございます
    「しむふりー」
    「イエス」
    「そっか~、お兄ちゃんのおかげでまた賢くなっちゃった♪」
     静かな港町の砂浜で寄り添うように歩く2人は、この情報化社会を行き抜く為に必要な現代用語を教える青年とその妹……に見えなくはない。
    「それにしても静かだね~。こんなに人っていないものなの~?」
     青年の物であろうタブレット型パソコンから視線を上げた少女が波の音しか聞こえない浜を見て訊ねる。
    「ん、あれ、そういえば誰もいないな」
    「じゃあ~、もっと街の方にいこっか。それとも~、ここで楽し~いコト、しちゃう?」
     おおっと。
     ここからは良い子にとっては刺激の強い光景が繰り広げられてしまうというのか。
    「ちょーっと待ったそれ以上はいけないよ!」
     海岸に第3の声が響き渡ったのは青年が「はい喜んで!」と応じそうになった瞬間の事。
     まだ開いていない海の家の影から飛び出してきたのは饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)と海弥・障風(阻む風・d29656)の小学生コンビ。
     地元の小学生だろうか。ぽっちゃりしてて柔和そうな樹斉はそうだろうと察しは付く。
     しかし。
    「おはようございまーす灼滅宅急便でーす、目覚めはどうですかー」
     障風は大人が持つにしても困難であろう交通標識を肩に担ぎ、とんとんと軽い調子で弾ませている。
    「キミたち~、宅急便ごっこはよそでやってくれないかな~?」
    「心当たりないって顔してんな。まだ寝ぼけてんのか?」
     そんなに眠そうに見える? 少女――リースは笑う。
    「お子様を相手にしても仕方がないし~。ねぇ、オトナがたくさんいる場所、知らない?」
    「それは好都合。生憎、俺も猫かぶりには興味がないんでな」
    「にゃ~ん♪ なんてね」
    「はいはい、かわいいかわいい……とでも思ってるのか?」
     障風とリースの煽り合いが勃発しようとした時だった。
    「それは知らないけど、最近の流行りなら教えてあげられるかな」
    「それからもう1つ」
     防波堤の方から近付いてきた富士川・見桜(響き渡る声・d31550)、そしてミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)がリースではなく青年に視線を向け、言葉を続ける。
    「お兄さん、そこの女……に見える『淫魔』に操られてますよ」
     ミカの助言は青年の首を傾げさせ、そしてリースを笑わせた。
    「へ~、あたしのコト知ってるんだ~。あ、お友だちだっけ~?」
    「いいや、淫魔の知り合いなんていないし、いらないよ」
     言葉こそ穏やかだが、ミカの目は笑っていない。
     ミカの足元に添うシベリアンハスキーの霊犬、ルミもまた敵意を剥き出しにしている。
    「でも、あなたの事はよく識ってるよ。大淫魔サイレーンの配下の淫魔、リースって」
     試すように見桜はそう宣言する。
    「あたしも有名になったものだね~? わ、なにそれもふもふ~!」
    「おや、こういった姿を見るのは初めてですか」
     二足歩行したライオンのような姿をしたロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)がまた別の方向から現れた。
    「ちょっと、ロジーをそんにゃ目で見にゃいでくれる!?」
     ロジオンの背中から顔を覗かせ、半眼でリースを睨むのは沢渡・花恋(舞猫跋扈・d24182)。
    「おやおや~、猫の彼女がいるんだ~。別にいやらしい目でなんて見てないのに~」
    「にゃっ!?」
    「それに、皆仲良くお話をしに来たってわけでもないんでしょ?」
     さすがに穏やかではない雰囲気には気付いているのだろう。
     だが同時に、状況を完全に把握できていない様子でもある。
     そうこうしている内に、リースと青年は8人に囲まれる形となった。
    「お察しの通り。いやー話が早くて助かるねー」
     蒔絵・智(双離法師・d00227)が若干むくれ顔で応じる。
    「そう、そうなんだよ……」
     智に同調しながら頭を垂れ、ゆらりと出てきた高嶺・円(蒼鉛皇の意志継ぐ餃子白狼・d27710)。
    「淫魔はそこのお兄さんにしたように篭絡術を使うけど……元・某アイドル大淫魔の無差別篭絡術を悪用したタカトのせいで……わたしの初恋の人は……初恋の人はっ!」
     溜め込んでいた思いを一気に吐き出すように、円は裂帛の叫びと共にスレイヤーカードを展開する。
     ビスマスくんとは、かのロード・ビスマスに違いない。
     ダークネスは灼滅すべき敵であり、それは禁断の恋、のようにも思える。
     しかし彼はそう断言するには惜しかった――そう言えるかもしれない。
    「えっと~、つまり……あたしのお仲間のせいで死んじゃった人の復讐でシメに来て……? あ、お礼参り?」
    「違うよ!? 集団で暴走したりする人たちじゃないからね!?」
     ただのやんちゃな集団だと勘違いされてしまった。
     身を乗り出して否定ツッコミする樹斉。
     少なからず淫魔に対して明確な敵意を持っている者もいるため否めない所もあるが、そんな短絡的な考えで乗り込んで来ているわけではない。
    「まぁね~、淫魔だからね~。誰かにケンカふっかけられるコトもあるけどさ~」
     リースは逡巡し、灼滅者たちに尋ねる。
    「君たち、どこのだれ?」

    ●おやすみなさい
     当然の反応だろう。
     が、自己紹介をする義理もない。
    「とにかくお前たちはリースちゃんの敵なんだな!?」
     リースに籠絡された青年はナイフを取り出すと手近な智へと駆け、斬り付けた。
    「さっきから蚊帳の外だしよォ!」
    「んー。どっちかってーと、そっちで怒ってるんじゃ?」
     強化一般人にされたとはいえ、その攻撃はあまりにも直線的。
     智は鉾の先でナイフをからめ、攻撃を逸らす。
    「私も言いたい事言っていい? こういうあざとい隙だらけ女の……」
     そして返す刃で、
    「何がいいんだってーの!」
    「ぐっは!?」
     青年を柄で強烈に打ち付けた。
    「ナイフ使いもなってないし、情けないったらないねえ」
    「ぐぐっ……そりゃ、そんなあるかないか分からない胸の凶暴女と比べるべくもなく、リースちゃんを選ぶだろ……」
    「はあ!?」
     うつ伏せ大の字に倒れた青年の思わぬ反撃。
    「慎ましいは褒め言葉とは限らないからね~。頑張ってくれたらこのちょうどいいカンジのココでいいコトしてあげるよ~」
    「うっす! 頑張るっすリースちゃん!」
     ぽよぽよと程よく大きめな胸を強調するリースに応援され青年復活。
    「誰が美しいシンデレラバストだって? もう一回言ってごらん? 言ったら手加減忘れそうだけど!」
    「サイアクにゃ、ただのドスケベにゃ」
    「これだから籠絡術はっ……!」
    「ごめん、ちょっと今の発言はフォローできないかなー」
    「ぐああああああ!!」
     即撃沈。
     女の子たち(ルミ含む)からの容赦無い『手加減攻撃』に青年は気を失った。
    「いや、やりすぎじゃないか……?」
    「生きてます? 生きてますか……?」
     障風と樹斉が恐る恐る声を掛けると智がゆっくりと振り返り、親指を立てた。
     笑顔で。
    「お~、見事にボコボコだねぇ~」
    「現代の女の子は気が強いから気をつけないと、ねっ?」
     智はリースに向けて親指を反転させた。
     笑顔で。
    「うしっ、準備運動も終わってコンディション最高!」
     汚れのない、明るく元気そうなイメージが伝わってくるビビッドな色使いのエアシューズの爪先で軽く地面をノックする花恋。
    「わたしも万全だよう。早く、はじめよう?」
    「んじゃ、ヤッちゃう?」
    「ヤッちゃう」
     円と花恋は正面を向きながら呼吸を合わせ。
    「ふ~ん?」
     対するリースも禍々しい刃を片手にぶら下げ。
    「ニャッハァ!」
     止まりかけた時は、花恋のよく通る声に叩き起こされた。
    「ロジー、ナイスサポート期待してるっ!」
    「サポート任されました、援護いたします!」
     花恋が地面を蹴り付けると、空気を切り裂かんばかりの速さと勢いでリースとの距離を詰める。
     当然リースは急接近してきた花恋に意識を向ける。
     真正面から突撃する花恋の攻撃は防がれるか、迎撃されるか。
    「魔を貫くは魔、破れや破れ!」
    「っ!」
     いや、そのどちらでもない。
     詠うような声と共に奔った衝撃はリースの側面、ロジオンのアンチサイキックレイ。
    「フーッ、シャー!」
     思わぬ攻撃に姿勢を崩され、花恋の閃光百裂拳という名の乱れ引っかきが見ていて気持ちいいくらい命中していく。
    「花恋さん、前衛だからといってあまり突っ込みすぎませんように!」
    「分かってるって、心配しすぎっ! それに、何かあってもロジーが守ってくれるでしょ!」
    「まったく、花恋さんは……」
     嘆息しながらも、ロジオンの口角は上がっていた。
    「まだまだ目覚ましには足りないくらいだよね!」
     的確に弱点を狙い斬り込んでくる樹斉。
    「ギョウザキャノン!」
     円にとって動きの鈍った相手は静止している的に等しい。
     その隙に花恋と樹斉は後方へステップし、それを追いかけようとするリースを、
    「貫くは光条、穿てや穿て!」
    「また~!?」
     ロジオンが彗星撃ちで抑える。
     このネコ科からのイヌ科への流れるような戦闘連撃。
     これをケモコンビネーションとでも呼ぼうか。
    「……うぬ~、戦い慣れてるっぽいね~」
    「これでもたくさんの戦いを生き抜いているから……。それはそうと……サイレーンの事、話す気はない?」
    「そうですね。サイレーンについて教えてくれれば、灼滅は考えるかもしれませんよ?」
     円とロジオンは殲術道具を向けつつ、取引を持ちかける。
    「ってな感じにロジオン先輩も言ってるし、ぶっちゃけ灼滅しなくていいのならしたくないけどねー」
     樹斉もロジオンの言葉に乗り、ついでに威圧感も与えてみる。
    「僕たちはスキュラだって灼滅できたんだしねー。おとなしくした方がいいかもよ?」
    「キミたちの力はさっき見たけど、あたしが何も知らないからってそんな話をされてもねぇ~。それにどうせ話してもヤるつもりなんでしょ~?」
    「それはそっち次第かな。サイレーンってそんなに偉大ってか、つよい淫魔だったの?」
    「どうだったかな~?」
    「あくまでも教えてくれないみたいだね。じゃあ、リースはいつから眠ってたの?」
    「ダメだよ女の子にそんなコト聞いちゃ。えっち~」
    「ええ!? どうしてそうなるの!?」
     樹斉の質問攻めにイタズラっぽく笑うリース。
    「ずっと眠っていたにしては頭が回るようだね。久々に目覚めた気分はどう?」
     肩を竦めたミカが一歩前に出る。
    「キミたちが来なければハッピーなモーニングだったかな~。お兄さんだけでもあたしの仲間にならない?」
    「まだ夢を見足りないみたいだ。今度は永遠に、どうかな」
     ミカが踏み込むと同時にリースもナイフを下段に構える。
     縛霊手を大きく振りかぶり、ミカは渾身の力で叩き付け――しかし器用にもナイフで縛霊手を受け止め、身体を回転させながらいなすリース。
     回避で得た威力をそのままに、ミカの肩口を浅く斬りつける。
     だが、今のミカの攻撃は。
    「思ったより侮れないかな。でも、それだけだね」
     ざわめくミカの影。
     それは音も無く刃へと形を変えると、眼前の淫魔へと襲い掛かった。
    「ボクにそんな色気は通じないと、解ってくれたかな」
     薄い衣服を裂きながら直撃した斬影刃によろめくリース。
    「とかなんとか言って、脱がせたかったんじゃないの~?」
     綻んだ服を直しもせず、ミカを上目遣いで見つめ……。
     ようとした刹那、リースの背後の砂が幾度か爆ぜた。
    「そういうのが気に入らないよ……。次は外さない」
     片手を突き出した格好のまま睨む円。
    「お~怖い怖い。そうそう、あたし歌声にも自信があって~」
     お返しとばかりにディーヴァズメロディ相当の歌を披露するリース。
     少なからず防御面が疎かになっていた円は音の波に苛まれる。
    「こ、この程度……ビスマスくんが受けた痛みに比べれば……!」
     そう思うや、不意に悲鳴を上げかけていた身体が軽くなっていく。
     顔を上げると障風と見桜の背中があった。
    「無理はするなよ、俺の手にも限度がある」
    「初恋の人を喪ったのは悲しい事だけど、想いを間違った方向に向けちゃ駄目だよ!」
     障風の治癒と、見桜が身を挺し円を護ったのだ。
     これ以上はさせるものかと攻撃の手を引き付ける見桜。
    「過去のためにも、まずは未来を掴もう!」
    「も~、ジャマしないでよ~」
     苛立つリースの連続攻撃も、しかし見桜は一歩も退かない。
    「生きてるものが幸せを分かち合えるようになるために!」
     見桜の持つクルセイドソードが彼女の覚悟や意志に呼応するように青い輝きを放つ。
    「だからって無闇に突っ込んで大ケガしたら意味ないだろ」
    「そこは海弥さんを信じるから!」
    「限度があるって言っただろ。……俺の手だけだったらな」
     障風は見桜にラビリンスアーマーを行使しながら目だけで状況を確認する。
    「ルミ、回復の支援を。ボクは蒔絵さんと攻勢に出るよ」
    「任せて。徹底的に叩かないと気が済まないからね!」
    「私たちもルポネンさんたちに続きます。花恋さん、仕上げといきましょうか! 施しなる祝福――!」
    「了解にゃー! いっけー、パラダイス・ゲイザー!」
     槍が、剣が、光が、蹴りが、奔流となり淫魔を呑む。
     その間に立て直した見桜と円は、
    「さあ、行こう!!」
    「ビスマスくん……力を貸して……。これが宇都宮とビスマスくんの力! なめろう餃子神霊剣っ!」
     見桜の言葉に感情の舵を正した円の餃子が炸裂した。
     それがトドメになり、リースは砂浜に沈んだ。
    「ぐっう……。ふ、ふふ……なかなか楽しそうな時代だったのに、な……」
    「次に目が覚めた時にはまた面白い事になってるだろうよ」
     障風の言葉に苦笑すると、ぽよんと胸を弾ませ。
    「ま……いいや~。ここの女の子の誰よりも……勝ってたと、思」
    「ほいこの話終了ー!」
     智が全てを終わらせる一撃をお見舞いした。

     程なく目を覚ました青年に灼滅者たちはリースが淫魔という存在だった事、籠絡された事などを説明した。
    「帰ってこれる程度の強化で済んでるし……ちょっとだけいい夢見れたんじゃない?」
    「と言われても……」
     当然、非現実が身近にあると言われても困惑するだろう。
    「信用できない? じゃあ……ほい」
     花恋をはじめとした人造灼滅者ズが一斉に獣の姿へと変身した。
    「とまぁ、彼女たちを見れば分かる通りボクたちも」
    「お、おお!? よく出来たコスプレだなぁ」
     ミカの言葉を遮りながら花恋のしっぽへと手を伸ばし、
    「失礼。世の中には、案外人間でないものが紛れているのですよ」
    「お、おぉ」
     がっしりと腕を掴み阻止しつつ、ライオン顔を近付けるロジオン。
    「とにかく、悪い女の人とか怪物はまあ、逆宝くじみたいな? 気にしない方がいいよ」
    「そ、そっか……」
    「生きていればとにかくよし! これから良い事たくさんあるから!」
     そして、護るから。心の中に誓い、元気よくタブレットを青年に返す見桜。
     何が何やらだけどありがとう、と去る青年を見送った灼滅者たちもまた、彼とは真逆の方向に。帰路に就くのだった。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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