かつての栄光

    ●とある海
     かつては美貌を誇っていた老人達が、何かに導かれるようにして、ふらふらと海に向かっていた。
    「サ、サイレーン様、私の美貌を取り戻してください」
     ミス美尻に輝いた事もある老婆が、海に向かって叫ぶ。
     未だは見る影もないが、かつてはその美尻で、男達を手玉に取っていたようである。
    「サイレーン様、わしを馬鹿にした若い奴らに天誅を!」
     ヨボヨボとした老人も、一緒になって叫ぶ。
     以前はこの辺りで名の知れたワルであったが、今では歩くのが、やっと。
     それを馬鹿にした不良達に財布を取られ、すってんてん。
     明日食べるものにすら困っているため、絶望感も半端がないようである。
    「サイレーン様、私を捨てたアイツを殺してください」
     やけにハデめのメイクをしたボディコン姿の老婆も、涙ながらに叫ぶ。
     これもすべて彼のため。
     彼に愛されるためにやった事。
     だが、そのすべてが茶番と知った時、彼女は心の底から絶望した。
     そんな老人達が膝くらいの深さまで海に入り、一審に祈りを捧げていた。
     それから、しばらく祈りを捧げていると、海がピンク色に光り、祈っていた人々が次々に闇堕ちして、若々しい美貌の淫魔に変貌していくのであった。
    ●エクスブレイン
    「サイキック・リベレイターを使用した事で、大淫魔サイレーンの力が活性化しているのが確認されています。その事件の一つとして、一般人が海に呼び集められ、一斉に闇堕ちするという事件が発生するようです。集まった人達は、かつてその美貌によって良い思いをしていたようですが、年を取り容色が衰えるとともに没落していった人達のようです。そのため、若いころは、美しさを利用して、悪徳を重ねていたようなので、没落したのは自業自得なのですが、淫魔化により、全盛期を超える美貌を手に入れて、過去の栄光を取り戻そうとしているようです。また、彼らが淫魔に闇堕ちする直前に到着する事は可能ですが、攻撃を仕掛けようとすれば、防衛本能からかすぐさま闇堕ちしてしまう為、闇堕ちする前に攻撃する事はできません」
     そう言ってエクスブレインが、老人達について説明をし始めた。
    「ミス美尻こと本田・梅(ほんだ・うめ)は、結婚詐欺の常習犯でしたが、老いと共に尻が垂れ下がり、男達を誘惑する事が出来なくなってしまったため、今はホームレスをしているようです。闇堕ちした後は、自慢の尻を突き出し、ヒップアタックで攻撃を仕掛けてきます。また、稀代の悪と呼ばれた権田稿・作蔵(ごんだわら・さくぞう)は田舎から上京したきた娘達を言葉巧みに騙して、薬漬けにした上で如何わしい店で働かせていたようです。それが原因で仕返しされ、身体が不自由になってからは、ひっそりと暮らしていたようです。ただし、闇堕ちした後は本能の赴くまま女性達に襲い掛かってくるので注意しておきましょう。最後に、加賀谷・琴音(かがや・ことね)ですが、若い頃はその美貌で男達を手足の如く扱っており、財布が空になるまで、搾り取っていたようです。今では、その美貌も通用せず、若い男に騙されて男に騙されて、悲惨な人生を送っています。闇堕ちした後はフェロモンを撒き散らし、相手を誘惑して手駒のように扱おうとするようです。闇堕ちする一般人は、戦闘を仕掛けたり、ESPをかけたりすれば、すぐに闇堕ちして戦闘開始となってしまうが、海が光るまでに説得を行う事は可能です。そこで、うまく説得する事ができれば、闇堕ちを防ぐことができるでしょう。ですが、元々悪徳を積んだ人間であり、かつ、衰えた美貌を全盛期以上にしてくれるという、サイレーンの呼び声に対抗する事は困難です。ですから、説得の難易度は高いでしょう」
     エクスブレインの話を聞く限り、説得はほぼ不可能。
     自業自得なのだから、倒してしまって問題がない、と言っているように聞こえた。
    「どちらにしても、彼らが望んだ結果です。その事を踏まえた考えても、危険を冒して説得する必要はないでしょう」
     それがエクスブレインの考えだった。


    参加者
    室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)
    ゲイル・ライトウィンド(星五出た端末線路投げ込む明王・d05576)
    秦・明彦(白き雷・d33618)
    茨木・一正(鬼機快解の黒鉄童子・d33875)

    ■リプレイ

    ●とある海
    「……何やらピリピリしていますね」
     ゲイル・ライトウィンド(星五出た端末線路投げ込む明王・d05576)は仲間達と共に大淫魔サイレーンが現れた、とある海にやってきた。
     大淫魔サイレーンはその歌声によって、老人達に力を与えようとしているらしく、ゲイル達がいる場所までピリピリとした空気が漂っていた。
     そのせいで身体がずっしりと重く、海の中を歩いているような息苦しさがあった。
     もちろん、それは単なる気のせい……のはずだが、海に近づくにつれて、だんだん進みづらくなってきた。
    「自ら進んでダークネス化しようとするだけあって、どいつもロクなもんじゃないなあ」
     秦・明彦(白き雷・d33618)が事前に配られた資料に目を通し、呆れた様子で溜息を漏らす。
     老人達がどのような理由で大淫魔サイレーンの存在を知ったのか分からないが、どちらにしても放っておく事は出来ないだろう。
     ただし、彼らが望んで闇堕ちしようとしているのだから、無理をしてまで救う価値はない。
     それでも、救えるのであれば、出来るだけの事はしたい、と言うのが本音のようである。
    「言うべき言葉は多々あれど、見殺す理由にはなりません。何とかして救うのが、僕達にとっての使命と言えるでしょう」
     茨木・一正(鬼機快解の黒鉄童子・d33875)が、自分自身に気合を入れた。
     色々と思うところはあるのだが、例えどんな理由であったとしても、見殺しにしていい理由にはならない。
     だが、彼らを救うためには、あまりにも時間がなく、自ら望んで闇堕ちしようとしているのだから、説得するのは難しそうだ。
    「サイレーン様……サイレーン様……サイレーン様……」
     そんな中、灼滅者達が海の中に向かう老人の姿を発見した。
     ……権田稿・作蔵(ごんだわら・さくぞう)。
     それが老人の名前。
     灼滅者達が救わねばならない男の名前である。
     作蔵は杖を突きながら、ゼエゼエと息を吐き、フラフラと海に向かっていた。
     だが、歩くだけでも、かなり辛いらしく、ちょくちょく休憩を挟みながら歩いていた。
    「おじいちゃん……、大丈夫ですか?」
     それに気づいた室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)が、心配した様子で作蔵に駆け寄った。
     その間に仲間達が岩陰に隠れ、しばらく様子を窺う事にした。
    「ええい、邪魔じゃ!」
     その途端、作蔵が鬱陶しそうに、持っていた杖を振り回す。
     よほど大淫魔サイレーンに願いをかなえてほしいのだろう。
     『もう時間がないのじゃ!』と言わんばかりにイラついているようだった。
    「で、ですが、とても辛そうですし……。そ、その……、何か手伝える事があれば……」
     大豪院・麗華(大学生神薙使い・dn0029)も心配した様子で、作蔵に肩を貸す。
    「……何か手伝える事か。ならば、わしを満足させろ!」
     そう言って作蔵がいやらしい笑みを浮かべ、麗華の胸を乱暴に揉むのであった。

    ●作蔵
    「な、な、な、何をするんですかっ!?」
     突然の出来事に驚きながら、麗華が作蔵の手を払いのけ、恥ずかしそうに頬を染める。
     まったく予想をしていなかったため、信じられない様子で、目をパチクリさせていた。
    「うひょひょひょひょ、お前が言ったじゃないか。何か手伝える事がないか、と……。だから、胸を揉んだのじゃ。当たり前の事じゃろ! それとも、何か? 自分で誘っておきながら、嫌というのか?」
     作蔵がいやらしい笑みを浮かべ、両手をワシャワシャさせる。
    「そ、そんなつもりは……」
     それでも、のぞみが困った様子で汗を流す。
     多少の事ならば我慢しようと思っていたが、作蔵はヤル気満々。
     既に下半身を丸出しにして、欲望を巻き散らす準備が整っていた。
     もちろん、他の事であれば喜んで手伝っていた事だろう。
     だが、これは違う。こんな事をするため、近づいた訳ではない。
     それは麗華も同じだったらしく、ゴミを見るような目で、作蔵を睨みつけていた。
     しかし、作蔵はクズ。
     吐き気を催すほどのクズ。
     自ら望んで、闇堕ちするのに相応しいほどのクズだった。
    「ほれほれ、どうした、どうした、どうしたァ! わしの役に立ちたいんじゃろ!? だったら、脱げ! お前らには、その程度の価値しかない! その上で、わしを満足させろ!」
     そのため、作蔵はまったく悪びれた様子もなく、舌舐めずりをして、今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だった。
    「そ、それは……ちょっと……」
     麗華がドン引きした様子で、ジリジリと後ろに下がっていく。
     出来る事なら今すぐ逃げ出したかったものの、作蔵の説得が目的なので必死に踏み止まっているようだ。
    「あ、あの……多少のボティタッチであれば構いませんが……その……それは……ちょっと……」
     のぞみが言葉を選びながら、作蔵の考えを改めさせようとした。
    「多少のボディタッチ……だあ!? この作蔵様を目の前にして、どの口が言っていやがるゥ! どいつもこいつもわしをバカにしおって! ふざけるなアアアアアアアアアアアア!」
     作蔵がイラついた様子で、狂ったように杖を振り回す。
     その時、海がピンク色に光り、若い女達の笑い声が辺りに響いた。
    「ぐぬぬぬっ! お前達のせいで、出遅れてしまったではないかっ! サ、サイレーン様っ! わしの話を聞いてくだされ!」
     作蔵がフラフラとしながら、海の中に入っていく。
     それに応えるようにして、海がぼんやりとピンク色になった。
    「やめた方がいいですよ。何せ、力を与えて若返らせるなんて事が出来る連中です。その逆も然り。力を奪って元の姿に戻す事も自在でしょうよ。つまり、淫魔になっても……いやなれたからこそ元に戻すぞ、なんて脅しもできる。そうやって首根っこ掴んじまった相手をどうするか、賢明な皆さんならば想像に難くないと思いますが……」
     一正が思わせぶりな態度で、作蔵に視線を送る。
    「だから、どうした。覚悟の上だ。どうせ、老い先短い人生、利用されたところで、今よりマシじゃ!」
     作蔵が吐き捨てるようにして答えを返す。
     この様子では、よほど酷い扱いを受けていたのだろう。
     もちろん、作蔵が今までまわりにしてきた事を考えれば、自業自得であるのだが、
     しかし、作蔵はそうとは思っておらず、自分の事をバカにした相手に復讐をするつもりでいるようだ。
    「だからと言って、ここで人間を止めてしまったら、後は魔物として倒されてしまいますよ。残された人生、真っ当に生きて天寿を全うしませんか」
     それでも、明彦は諦める事なく、作蔵の説得を試みた。
    「うるさい、黙れ! ここで祈る事を止めれば、待っているのは惨めな人生……。まわりにバカにされ、ゴミのように扱われ、毎日……下だけを見ながら生きていくような生活をしなきゃならん。そんなモノはお断りじゃ!」
     作蔵が両目を血走らせ、再び祈りを捧げる。
     それに合わせて、作蔵のまわりの海も、ピンク色に染まっていく。
    「……無理、か。他者に理不尽を強いる道を選んだのは貴方達自身だ。覚えておくといいよ、悪い事する奴には報いが待ってるんだって事をさ。……できれば止めたかったけど『鬼機快解』!」
     一正がやれやれと言わんばかりに、スレイヤーカードを使う。
     その間に作蔵の姿が見る見るうちに若返っていった。
    「ここまで酷い相手を改心させられるほど、俺も人間出来ていないから、仕方ない」
     明彦もアッサリと気持ちを切り替え、スレイヤーカードを構える。
    「……ええ、これもある意味、運命。本人も覚悟の上でしょう」
     ゲイルも同じようにスレイヤーカードを構え、闇落ちした作蔵を灼滅するため、行動を開始するのであった。

    ●闇堕ち
    「うひゃひゃひゃひゃ、この力……。この力じゃ! この力をわし……いや、俺は求めていたっ! これで女たちはやり放題! さっきはよくもぞんざいな扱いをしてくれたな、この小娘共が!」
     若返った作蔵は筋肉質の体を見せつけながら、赤ずきんを狙うオオカミの如く邪悪な笑みを浮かべ、麗華達に飛び掛かってきた。
    「きゃあ! あ、あの……だ、ダメです! 嫌です! 誰かああああああああ!」
     その途端、麗華が腰を抜かすほど驚き、仲間達に助けを求めた。
    「……そこまでです! いい加減にしないと、酷い目に遭いますよっ!」
     ゲイルが警告混じりに呟きながら、作蔵に攻撃を仕掛けていく。
    「ウヒャヒャ! アヒャヒャ! いいね、いいね、その目だ、その目ッ! 俺をバカにした奴らに、よく似ている! 酷い目に遭わせる……ダァ? だったら、やってもらおうじゃねーか! さあ、来いっ! 来いっ! 来い!!」
     作蔵は若返った事で強気になっており、自分の力を過信しているようだった。
     もちろん、人間でいた時よりも、身体能力がアップしている事は間違いないだろう。
     だが、それだけ。
     特別な力を持っている訳ではない。
     強いて言えば、異常なほど精力が増している程度である。
    「それなら、遠慮なく……」
     一正が躊躇う事なく間合いを詰め、作蔵に蹂躙のバベルインパクトを叩き込む。
    「うぎゃああああああああああああああああああ! 痛ぇ! 痛えよおおおおおおおおおお! 何故だっ! 確かに、俺は若返ったはず! い、いや、それどころか、人間の時とは比べ物がないほどの力を得ていたはずなのに……。何故だァァァァァァァァァァァァ!」
     作蔵が信じられない様子で、叫び声を響かせた。
     おそらく、自分が不死身であると勘違いしていたのだろう。
     予想に反して激しい痛みが襲ってきたため、訳も分からず混乱しているようである。
    「この剣はお前の汚れた心を斬る!」
     その間に明彦が距離を縮め、作蔵に神霊剣を放つ。
    「グカアアアアアアアアアア! ば、バカなっ! 俺は無敵……。無敵のはず……! だから、これは間違いだ! 今からそれを証明してやる! 死ねええええええええええええええええええええええ」
     作蔵が愛用の杖を握り締め、唸り声を上げて襲い掛かっていく。
    「因果は応報するってお前は学ばなかった。その結末がこれだ。あばよ」
     一正が作蔵に対して別れを告げ、蹂躙のバベルインパクトを叩き込む。
    「グガアアアアアアアアアアアアアア!」
     その一撃を食らった作蔵が断末魔を響かせ、枯れた花のように萎れて消え去った。
    「闇堕ち直後だったせいかも知れませんが、まだ自我がありましたね」
     のぞみが悲しげな表情を浮かべる。
     しかし、作蔵の人格は確実に壊れ、暴走寸前だった事は間違いないだろう。
     それを未然に防ぐ事が出来たのだから、作戦はとりあえず成功……といったところだろう。
    「……とはいえ、他の二人も早々に倒さないとな。当分忙しくなりそうだ」
     そう言って明彦が何処か遠くを見つめる。
     だが、二人が何処にいるのかわからない。
     そういった意味で、捜し出すのは、困難だろう。
     そんな事を考えながら、灼滅者達が夜空に浮かんだ月を眺めた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月18日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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