目覚めし闇は淫らに探る

    作者:飛翔優

    ●波濤が見える洋館で
     静かな波音が、陽を浴びた海の輝きが心を鎮めてくれる海岸線。水平線の彼方へと沈んでいく太陽を何かに邪魔されることなく眺める事ができる場所に、その洋館は佇んでいた。
     門はとうの昔に錆びついて、壁もひどく傷んでいる。持ち主が居るかすら定かではなかったその場所に、明かりが灯り始めたのは数日前。
     体のラインを美しく見せる、艶やかな黒のマーメイドドレス。輝く金のロングウェーブヘアが特徴的な女性が、淫魔が、穏やかな微笑みとともに閉ざされていたはずの扉を開けた時。
     淫魔は波打ち際で遊んでいた数人の若者を連れ込んで、夜な夜な淫らに籠絡する。籠絡した若者たちを、自らの手足とみなして指示を出す。
     様々な情報収集や、館に済むに相応しい……自ら手にするに相応しい、新たな若者の探索。時には自分が赴いて、直接勧誘の言葉を投げかけた。
     夜になれば、再び秘められし時間が訪れる。
     淫魔の心赴くまま。
     淫魔としての本能、赴くまま……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、変わらぬ笑みを浮かべたまま説明を開始した。
    「サイキック・リベレイターを使用した事で、大淫魔サイレーンの配下の動きが活発化しているのが確認されています。皆さんには、復活した大淫魔サイレーン配下の淫魔の灼滅をお願いしたいんです」
     復活した淫魔たちは状況を把握しておらず、命令なども出されていない。そのため、淫魔の本能に従って行動している様子。しかし、より上位の淫魔が復活すれば、その命令に従って軍団を作り上げる可能性があるため、今のうちに灼滅できるだけ灼滅しておく事が重要になるのだ。
    「今回、皆さんに灼滅していただく淫魔の名は、ルイ。艷やかな黒のマーメイドドレスと金色のウェーブロングヘアが特徴的な女淫魔、ですね」
     均整の取れた顔立ちと美しいボディラインを持つ淫魔、ルイ。海辺の洋館を占拠して、海岸や街に居る若者を籠絡。洋館の中で欲望の宴を開きながら、籠絡した若者たちを使って情報収集、新たな人員の確保などを行っている。
    「恐らく、大淫魔配下であるため、命令が来たらすぐに動ける環境を保ちながら、貢献できるよう行動しているのだと思います」
     また、その活動を隠そうともしていない。恐らく、武蔵坂学園のことを知らないのだろう。
    「ですので、洋館には容易に入り込めるかと思います。ルイの好みは若者というだけ……男女の区別はないようですので」
    「続いて、戦闘能力について説明しましょう」
     淫魔ルイ。立ち振舞は穏やかだが、戦いとなれば前線に立ち、スカートの中に隠しておいたガトリングガンを軽々と操りガンガン攻撃していくという豪胆さを併せ持つ。
     行動としてはディーヴァズメロディに似た誘惑の歌声、パッショネイトダンスに似た優雅なダンスを描きつつ、ガトリング連射やブレイジングバーストで撃ちぬいてくるだろう。
    「また、まだ活動して日が浅いのか、幸いにも強化一般人と化している方はいません。ですので、ルイが侍らせている方々を退避させてから戦いに挑む……と言う形になると思います」
     もっとも、ルイも自ら籠絡した者たちが……好みの男たちが無意味に傷つく事は望まないだろう。故に、戦いの気配を感じたルイが自ら退避させてくれる可能性が高い。
    「以上で説明を終了します」
     葉月はルイが根城としている海岸近くの洋館へ至るまでの道を記した地図など必要なものを手渡しながら、締めくくりへと移行した。
    「今は小さな脅威でも、放置すればどのような脅威に成長してしまうかわかりません。ですのでどうか、全力での行動を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    剣部・美夜子(剣の巫女・d02295)
    九条・泰河(祭祀の炎華・d03676)
    龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)
    シノミ・マールブランシュ(恍惚なる白金・d08503)
    穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)
    藤野・都(黒水蓮の魔女・d15952)
    黒木・唄音(藍刃唄叛・d16136)
    草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308)

    ■リプレイ

    ●熱き宴に溺れぬよう
     ――月が水面に浮かぶ時、その宴は開かれる。
     星々の輝きを映す海岸線。波風と潮の香りが集う場所。闇に隠され陰りなど伺えぬ洋館で、紡がれ始めていくのは熱い時間。
     大広間の中、誰が合図を送り合うでもなく人々が互いを求め合い始める中……草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308)は、最奥の豪奢な椅子に座する艶やかな黒のマーメイドドレスと金色のウェーブロングヘアが特徴的な女性……淫魔・ルイを前に唇を震わせた。
    「ボ、ボクみたいなタイプは珍しいと思うけど、どうかな?」
    「……」
     柔らかな微笑みを浮かべながら、ルイは夜雲の全身を瞳の中に映していく。
     しばしの後、瞳を閉ざしながら立ち上がった。
    「そうね……」
     距離を詰め、手を伸ばしていくルイ。
     体をビクつかせながらも、受け入れていく夜雲。
     九条・泰河(祭祀の炎華・d03676)を加え、三人の世界へと没入していく中、剣部・美夜子(剣の巫女・d02295)はシノミ・マールブランシュ(恍惚なる白金・d08503)はサポートを行うため……合計三人でルイの気を引き他へ意識を向けさせぬため、頬を上気させながら動き始めていく。
    「ちょっと恥ずかしいかもだけど、シノミと一緒だし……平気かな」
     瞳をうるませながら、サマードレスの肩紐に手をかける。
     半ばにてシノミが制止をかけ、そっと肩に手を載せた。
    「この子は愛する子猫……見られると普段より燃えますの」
     ルイへと意識を向けながら、互いに唇を奪い合う。熱を想いを与え合いながら互いを暴いていき、着々と準備を整えていく。
     互いに触れ合う中、小さな音が鳴り始める。
     音は熱っぽさを増していき……やがて、抑えきれない声音も混じり始めた。
     微笑みながら、ルイは夜雲と泰河と共に、二人とも時を重ね始めていく。
     道具などは無粋だから、各々の肉体だけを用い。いつまでも、いつまでも……天窓から差し込む月が見守る中……。

     五人だけの世界が描かれていく中、洋館大広間の入口近く。玄関へと繋がる廊下では、他の灼滅者たちが避難誘導を行っていた。
    「しーっ。こっち。こっちだよ」
     黒木・唄音(藍刃唄叛・d16136)は肌を重ね始めようとしていた男女に声をかけ、仲間の力の影響下にあることを確認しながら玄関への道を示していく。
    「ここはこれから危なくなるから、こっちにおいで。外に出よう?」
     力強い言葉に導かれ、一人、また一人と大広間を後にし始めた。
     中には想いを通じ合わせ始めたばかりだったと不満を述べるものもいたけれど、概ね素直に従ってくれている。
     藤野・都(黒水蓮の魔女・d15952)は安堵の息を吐きながら、大広間の中を確認した。
    「これで全員、かな」
    「……そうだね」
     同様に確認を行った穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)は、最奥で描かれている饗宴から素早く視線を外し深い溜息を吐いて行く。
     綺麗な人なのに勿体ない……と。
     様々な思いを胸に抱き、避難誘導を行うこと十数分。洋館へとかどわかされた若者たちは皆、帰路についた。
     避難誘導完了を知らせようと舞い戻った時、描かれていたのは泰河とルイが紡ぐ時間。
     唇で熱を伝え合い、全身で温もりを与え合う。熱っぽく瞳をうるませながら、見つめ合い愛を囁き合う。
    「凄く……気持ちイイの……ね……もっと……ぎゅってして……お姉さんの中でいっぱい……いっぱい蕩けさせて…?」
    「ええ、喜んで。もっとも、すべてが終わった後に……だけど」
     微笑んだまま、ルイは泰河を手放していく。静かな息を吐きながら、様々な形で熱い時を過ごしていた三人へも視線を向けていく。
    「貴方たちも演技……ではなかったかもしれないけれど、でも……一時の夢はおしまい。これからは、貴方たちを再び夢へと誘うための時間……」
    「……」
     泰河はまっすぐに見つめ、尋ねていく。
    「無理だと思うけど……聞こうか僕らの元に下る気はない?」
    「答えの分かっている質問は無粋よ?」
    「……」
     肩をすくめ、武装した。
    「うん、解ってた。なら……僕らがする事は一つだけだ」
    「ええ」
     瞳を瞑り、マーメイドドレスを纏い直していくルイ。
     再び瞳を開いた時、映していたのは避難誘導を行っていた唄音たち。
    「感謝するわ。彼らを逃がしてくれて。守ると誓ってくれたのなら別だけど……彼らはまだ、そうじゃなかった。戦いに巻き込むには早すぎたもの。貴方がたが野蛮な掠奪者でなくて、本当に良かった」
    「……」
     受け止め、唄音は身構える。
    「さあてルイちゃん。遊ぼっか♪」
    「ええ」
     視線がぶつかり合った時、龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)が飛び出した。
     纏うは二龍。ルイの側面へと至るとともに、後ろふくらはぎめがけて解き放つ!
    「斬り刻め、九頭龍……龍翔刃」
     絡み合いながら向かう二体の龍は、半ばにて不可視の力に弾かれた。
     響く音色が、戦いの始まりを告げる鐘。
     月明かりを頼りにした戦いが、今……!

    ●宴の後には戦いを
     警告を促す交通標識を掲げながら、夜雲は告げていく。
    「目覚めたばかりで悪いのですが、もう一度、大人しく眠ってもらうんだよ」
    「私は貴方と眠りたい、一緒に夢を見たい」
     歌うように語るルイの元、向かうは菫のはなった朧な焔。
     ルイ対して、宴に対しての思いは色いろある。けれども今は、灼滅することが最優先。
     焔は不可視の力に阻まれながらも、勢いを弱めながらも横を抜けてルイの足元へと至っていく。
     熱き炎に蝕まれながらも、ルイのほほ笑みが絶えることはない。
     ただたださえずるように歌いながら、情熱的な舞を描き始めていく。
     すかさず都が距離を詰め、移動を制限し始める。
     ルイはスカートの隙間から流れるようにガトリングガンを取り出して、都に向かって振り下ろした!
    「っ!」
     斧を掲げ、受け止める。
     ガトリングガンを弾くと共に手首を返し、斧を縦横無尽に振り回す。
    「あんたの相手は、この私だ」
    「ふふっ、エスコート願うわ。凛々しくて可愛らしいお姉さん」
     見つめ合い、牽制を交わし始めて行く都とルイ。
     補助するため、美夜子は天魔の陣を降臨させた。
    「わたしはまず、耐えるための準備を整えるから……太郎丸は細かい治療をお願いね」
     うながされ、都の治療を始めていく霊犬の太郎丸。
     万全の状態が保たれていく中、唄音は踏み込み影を放つ。
    「世間知らずなお寝坊ちゃんは、取り敢えずぶっつぶすよー♪」
    「なるべく早く……苦しまずに済むように……」
     泰河も縛霊手をはめた拳を固く握りしめ、懐へと踏み込んだ。
     影が不可視の力に弾かれて、拳が右肩をかすめ傷つけていく中……前線へと魔力を送り込んでいたシノミは、一気に大気を氷結させた。
    「あなたに見られながらの熱いひととき、名残惜しくはありましたが……」
    「……」
     マーメイドドレスを凍りつかせてなお、微笑みが絶えることはない。
     動きを鈍らせながらも余裕を保ち続けるルイの懐に、菫がナイフ片手に踏み込んだ。
    「……」
     語り合う言葉を、持ち合わせているわけではない。
     けれども抱いた思い導くまま、顔だけは避ける形でナイフを縦横無尽に振り回す。
     肩が腕が傷つくたび、炎が強さを増していく。氷も厚くなっていく。
    「……この調子で」
    「おっと……」
     直後、都がルイと菫の間に踏み込んだ。
    「あなたの相手は、この私」
    「知っているわ」
     楽しげに笑いながら、ルイがガトリングガンのトリガーに指をかけた。
     吐き出されていく弾丸を、菫は斧でさばいていく。
     弾ききれず刻まれてしまった傷を癒やすため、ジェムに力を込め始めた。
     仲間を守ること、立ち続けること。それこそが、己に課した役割なのだから……。

     硬質な音が響く。
     夜雲の十字架と、ルイのガトリングガンが打ち合った時。
    「っ!」
     しびれを感じながら、夜雲は十字架を引いて退いた。
     入れ替わるように泰河が振るった炎の拳は、炎を白から青へと変えていく。
     揺らめく水に抱かれているようなルイを見つめながら、光明が刃に手をかけながら踏み込んだ。
    「斬り裂く、九頭龍……挟花水月」
     抜刀とともに軌跡を描き、不可視の力さえも切り裂き淫魔を斜めに切り裂いていく。
     仰け反りながらも、ふらつきながらも、ルイは灼滅者たちを瞳に映し続けている。
     視線が重なった時、シノミは魔力の弾丸を発射した。
    「この調子で畳み掛けましょう」
    「……」
     左肩を撃ちぬかれながらも、ルイはガトリングガンを持ち上げる。
     シノミへ向けて、乱射する。
     すかさず太郎丸が治療のために向かう中、美夜子もまた大気の力を注ぎ始めた。
    「大丈夫、シノミ?」
    「……ええ」
     無事を囁き合っていく二人を横に、唄音は刀を横に構えていく。
     さなか、聞こえてきたのは歌声。
     ルイが紡ぎ出していく静かな調べ。
    「……」
     唇を硬く結びながら、唄音は懐へと踏み込んだ。
     勢いのままに切り上げて、ルイを壁際へと後退させる。
     されど紡がれゆく歌声を聞きながら、菫はナイフを振り上げ跳躍した。
    「後もう少しで、この戦いを……」
     振り下ろし、炎を氷を呪縛を増幅させていく。
     更には夜雲が飛び上がり、キックを放った。
     胸元へと突き刺せば、ルイは膝をついて動きを止める。
    「これで……」
    「……」
     頷き、光明が踏み込んだ。
    「咲き誇れ、閃刃流那龍……蓮華」
     幾重にも分裂する刃を振るい、華を描き……。
    「……散華」
     納刀すると共に、泰河はのけぞり仰向けに倒れた。
     炎が消える、氷が消える。
     ルイの存在そのものも、静かに薄れ始めていく。
     肩の力を抜きながら、泰河は静かに歩み寄り抱き上げた。
    「……」
    「……」
     抱きしめ返していくルイは、絶えることのない微笑みのままひとりごちる。
    「ほんと……良かった。もしも……サイレーン様よりも先に出会っていたなら……あるいは……」
     言葉半ばにて泡となり、この世界から消え去った。

    ●戦いの後には静寂を
     静寂を取り戻した洋館の中、寺領などの事後処理が行われた。
     消えていったルイに対しても様々な言葉が投げかけられていく中、光明は玄関へと視線を向けていく。
    「お疲れ様。情報らしい情報はなかったが……たとえ尋ねても答えてくれるとは思えない相手でもあったが……無事、終わったな」
     あまり長いをするわけにもいかない。
     だから、早々に帰還しよう。
     異質なる時間が流れていたこの場所が、再び安らかな眠りへといたれるように……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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