●沖縄の海上・岩礁の上
「~♪」
十分にスペースがある岩礁の上で淫魔達が魅惑的な歌声を響かせ、淫靡なダンスを踊っていた。
「おおっ!」
「美しいっ!」
「これぞ、生命の神秘!」
それを見た一般人達が感動した様子で声を上げていく。
だが、その姿は次第に異形のモノ……半魚人に変わっていった。
「ふふっ……」
淫魔達は変わり果てた一般人達の姿を見て、不気味に笑う。
そんな中、半魚人と化した一般人達が、ケモノのような唸り声を響かせた。
●エクスブレイン
「サイキック・リベレイターを使用した事で、大淫魔サイレーンの力が活性化しているのが確認されています。その事件の一つとして、サイレーン配下の淫魔達が、一般人を集めて、半魚人のような不気味な姿をした配下に変えてしまうという事件が発生するようです。灼滅者が現場に到着した時点で、集まった一般人は変化を始めていません。しかし、淫魔を灼滅者が攻撃しようとすると、淫魔を守るため、半魚人のような姿に変化し、戦闘に加わってしまいます。これを阻止するには、淫魔に対抗して歌や踊りによって、一般人達に訴えかける必要があります。歌や踊りの分野で淫魔と対抗するのは難しいかもしれませんが、うまくすれば、一般人が配下となる事無く、有利に戦闘を行う事が出来るかもしれません。ただし、半魚人化した一般人は淫魔を灼滅しても救出する事は出来ません。残念ながら、半魚人化してしまえば、灼滅する以外に方法は無いでしょう」
エクスブレインからの依頼はこうだった。
「淫魔達の数は3体で、岩礁の歌や踊りは、アラビアン風。淫魔達の格好も、それに近い恰好をしているようです。彼女達は歌と踊りによって魅了した一般人達を半魚人に変化させ、自分達の身を守らせています。彼らの戦闘力は低いものの、命懸けで淫魔を守ろうとするため、少し厄介な感じです。しかも、捨て身の覚悟で攻撃を仕掛けてくるため、半魚人と化してしまえば、戦闘は避けられないでしょう。それに加えて淫魔達が連携を取りつつ、衝撃波を放ってくるため、油断していると、大怪我を負ってしまいます。淫魔達だけならばまだしも、強化一般人を無視して戦う事が出来ない分、場合によっては苦戦を強いられるかもしれません」
エクスブレインの話を聞く限り、淫魔達を灼滅するためには、半魚人と化した強化一般人達を倒さなければならないようだ。
もちろん、淫魔達の歌や踊りを阻止する事が出来れば、一般人達が半魚人になる事を防ぐ事が出来るかも知れないが、時間的に考えて全員を救う事は不可能であると考えるべきだろう。
だが、淫魔達よりも興味を引く歌や踊りをする事さえ出来れば、彼らを救う事が出来るかも知れない。
「半魚人化した一般人を救う事は出来ません。それだけは忘れず、覚悟を決めて依頼に参加してください」
そう言ってエクスブレインが、灼滅者達に淫魔を依頼した。
参加者 | |
---|---|
井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659) |
神無月・佐祐理(硝子の森・d23696) |
シャル・ゲシュティルン(調べを識る者・d26216) |
安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263) |
ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖崇拝者・d35780) |
●沖縄の海上
「思った以上にエグい事をしてくる淫魔ですね。こちらの策が通じれば良いのですが……」
安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)は険しい表情を浮かべながら、仲間達と共にボートで淫魔達のいる岩礁に向かっていた。
淫魔達は十分なスペースのある岩礁に一般人達を集め、魅惑的な歌声と、淫靡なダンスで彼らを半魚人に変えるつもりでいるようだ。
「……何だか空気が重いですね」
神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
淫魔達がテリトリーにしている岩礁が近づいているせいか、空気までピリピリしており、空には暗雲が立ち込めていた。
「な、なあ……、これってヤバくないか? ほら、海も荒れてきたし、今日は帰らねーか? い、いや、別に怖いとか、久しぶりの依頼でブルッている訳じゃねーぞ。牙を抜かれた狼でもなければ、飼い馴らされたワンコでもねーから!」
そんな中、佐藤・誠十郎(大学生ファイアブラッド・dn0182)が、酷く緊張した様子で汗を流す。
しばらくマトモに戦っていなかったせいか、感覚が鈍っているという自覚があるようである。
「誠十郎ー、さぼったら晩飯のランク下げるぞー」
それに気づいた井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)が、誠十郎にヘッドロックをかます。
せっかく沖縄に来たのだから、依頼でなければ、のんびり海で泳ぎたいところである。
「……って、オイオイ! ちょっと待ってくれよ。それはないだろ。つーか、俺……結構、頑張ってんだぜ! 今日だって、二度寝するのを我慢して、ここまで来たんだからっ!」
誠十郎が納得のいかない様子で叫ぶ。
最近、グータラ生活が続いていたため、『これじゃ、いけない!』という気持ちがあるものの、しばらく辛い日々が続いていたため、ついついダラけてしまうらしい。
「いや、それ……自慢にならないから」
雄一が誠十郎に生暖かい視線を送る。
これで結果を出す事が出来ないようであれば、何かトレーニングをさせた方がいいかも知れない。
「とりあえず、岩礁につく前に気持ちを切り替えてください」
シャル・ゲシュティルン(調べを識る者・d26216)が、呆れた様子で溜息をもらす。
おそらく、誠十郎は春の陽気に誘われて、グータラモードに突入した後、元に戻る事が出来なくなってしまったのだろう。
さすがに誠十郎もマズイと思ったのか、キリリとした表情を浮かべ、淫魔達がテリトリーにしている岩礁を睨む。
岩礁には下着のような恰好をした淫魔達がおり、魅惑的な歌声と、淫靡なダンスで一般人達を魅了していた。
今のところ、一般人達は半魚人に放っていないものの、ボーッとした表情を浮かべ淫魔達に釘づけだった。
「深きものどもは歌を響かせ、暗黒を謳っている最中か。驚異は脅威を孕み、恐怖と狂気を呼ぶ。俺の好む怪奇に似た事柄。淫魔とは厄介な奴等よ」
ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖崇拝者・d35780)がボートから飛び降り、淫魔達の前に陣取った。
しかし、淫魔達は全く気にせず、ニアラ達に対して、笑みすら浮かべていた。
この様子では、ニアラ達も半魚人にするつもりでいるだろう。
実際にそんな事が可能かどうかは別として、ニアラ達も魅了する気でいるようだった。
●岩礁
「随分とバカにされたものだな。まあ、そっちがその気なら、こっちも本気を出すだけだが……」
そんな中、雄一が仲間達と一緒に、テキパキと準備をし始めた。
「あらあら、ひょっとして、アタシ達の宴を盛り上げてくれるの? だったら、歓迎するわよ。さあ、一緒に楽しみましょう」
淫魔のひとりが妖艶な笑みを浮かべ、雄一に身体を擦り合わせていく。
そのたび、甘い匂いが鼻をくすぐったが、ここで我を失う訳にはいかないため、まったく興味がない素振りで、準備を進めていった。
「宴を盛り上げる……ですか。ある意味、そうかも知れませんね。ただし、淫魔達が望む形ではありませんが……」
シャルが配置を考えながら、怪力無双で機材を運んでいく。
その間も淫魔達は歌や踊りで、一般人達を魅了し、とても楽しそうだった。
「さて、そろそろ始めるか」
そう言って雄一が、仲間達に合図を送る。
テーマは『危機』。
人から自我を失って異形の怪物になりかわる恐れや、恐怖を人造灼滅者ならではのやり方で見せた自信作!
それと同時にシャルが用意した機材から、少しクラシカルな曲を流れ出す。
「まあ、なかなか面白い事をしてくれるじゃない!」
淫魔達が含みのある笑みを浮かべ、シャルが流した曲に合わせて歌う。
最初は曲の雰囲気が分からなかったため、かなり無理のある歌い方をしていたが、だんだんコツを掴んできたものか、次第に違和感がなくなった。
「こ、これで誘惑できなければ、まさに役立たず……。心して掛かりますか!」
佐祐理が覚悟を決めた様子で、淫魔達に対抗するようにして歌う。
そのため、互いに食い合うような形になり、目には見えない力と力がぶつかっているような状態になった。
「おお……!」
まわりにいた一般人達は興奮した様子で立ち上がり、瞳をランランと輝かせながら、彼女達の戦いに心を奪われた。
それでも、淫魔達は佐祐理に対抗心を燃やし、歌とダンスで一般人達を魅了しようとした。
それに合わせて、雄一が苦しむ演技をしながら、少しずつダークネス姿に変わっていく様を、一般人達に見せつけた。
「うぐっ……ぐおおお!」
誠十郎も役者顔負けの演技で苦しみ、わざと音を立ててドテッとその場に倒れ込む。
「お、おいっ! 大丈夫か?」
すぐさま、眼鏡を掛けた一般人が誠十郎の傍に駆け寄った。
「あ、ああ……、俺は大丈夫だが、ア、アイツが……」
誠十郎が思わせぶりな態度で、雄一に視線を送る。
「うぐ……、ぐわああああああああああああああ」
そこで雄一が苦しみと自分が消える恐怖を込めた雄叫びを響かせた。
「こ、これは一体……。何が起こっているんだ?」
船乗り風の一般人が、気まずい様子で汗を流す。
先程まで淫魔に魅了されていたため、冷静な判断力を失っていたものの、雄一達の演技で自分達が置かれている状況に違和感を覚え、だんだん我に返ってきたようである。
その間も淫魔達が歌やダンスを止めないため、意識が朦朧としているようだが、それでも先程と比べてだいぶマシになっているようだ。
「歌は毒だ。踊りは蜜だ。ならば中和を成すが好い。灼滅の宴を聴け。滑稽な音に終焉を。呵々。忠告に耳を傾けよ。淫魔に勝った綺麗な精神を作り給え。危機を回避せよ。己を強く保て。異形への変貌は恐怖を孕む」
ニアラが表情ひとつ変えず、一般人達に語り掛けていく。
「つ、つまり、彼女達の歌や踊りを見たら、ダメ……って事か?」
いかにも頭が悪そうな信者が、何となくわかったつもりで呟いた。
「だったら、ヤバイって事じゃねえか!」
船乗り風の一般人も、分かったつもりで何となく騒ぐ。
「このまま淫魔達の歌や踊りを見ていれば、あなた達は間違いなく異形の存在と化してしまう事でしょう。それが嫌なら今すぐボートに乗ってください」
ジェフが警告混じりに呟きながら、一般人達をボートまで誘導する。
最初は半信半疑であった一般人達も、だんだん恐怖を感じてきたのか、ジェフの誘導に従って避難をし始めた。
「ちょっ、ちょっと! 何をやっているのよ、あなた達! 余計な事をして! 絶対に許さないんだからっ!」
次の瞬間、淫魔達が怒り狂った様子で、衝撃波を飛ばしてきた。
●淫魔達
「……って、ちょっ! 待て、待て、待て! 俺達は仕方がないとして、一般人まで巻き込むつもりか!?」
誠十郎が衝撃波を避けながら、一般人達を守るようにして陣取った。
「……あらっ? 別にそんなつもりはないのよ? でも、ボートは別。そんなものがあったら、逃げられちゃうじゃない。あなた達も命が惜しければ、いますぐボートから降りなさい。そうしたら、命だけは助けてあげる」
下着姿の淫魔がクスクスと笑い出す。
命だけは助けたとしても、人間の姿のまま、という事はないだろう。
おそらく、半魚人にされた上で、下僕の如く扱われるだけである。
一般人達はそれをまったく理解していないらしく、ボートから降りるべきか、留まるべきか悩んでいるようだ。
「あまり綺麗事ばかりは言えない立場になってきてのかもしれませんが、それでもやっぱり、一般人は守りたい」
シャルも一般人を守るようにして陣取り、淫魔が放つ衝撃波を、自らの身体で受け止めた。
そのたび、激しい激痛が走ったものの、ここで避ければ後ろにいる一般人達に被害が及んでしまうため、ギリギリのところで踏み止まった。
「あはははは……、面白い! よほど死にたいようね」
ステージ衣装のような恰好をした淫魔が、小馬鹿にした様子でクスクスと笑う。
「夢魔は現から失せよ。未知とは違う」
すぐさま、ニアラがナノナノのぜろと連携を取りつつ、淫魔達に攻撃を仕掛けていく。
「あら、怖い! でも、無駄よ! 無駄! アタシ達がそう簡単にやられるわけ……」
リーダー格の淫魔が、ニアラ達を見下すようにして、何か言おうとした。
「残念でしたね。他の淫魔は既に灼滅しました」
ジェフがウイングキャットのタンゴと一緒に淫魔を仕留め、リーダー格の淫魔をジロリと睨む。
他の淫魔も仲間達によって灼滅され、既に残っているのは、リーダー格の淫魔だけだった。
「う、嘘……嘘よ! こんな事……、一度だってなかったもの。きっと、何かの間違い……いえ、絶対に間違いよ! この程度の事でやられるなんて……絶対に嘘!!!!」
リーダー格の淫魔が吐き捨てるようにして叫び、ジェフ達に衝撃波を飛ばしてきた。
「やれやれ、この状況で戦うのですか。ならば、覚悟は出来ていますね? いまさら後悔したところで手遅れですよ」
シャルが淫魔に対して警告しながら、ブラックフォームを使う。
「後悔するのは、そっち! この一撃を食らって、死になさい!」
淫魔が叫び声を響かせ、再び衝撃波を飛ばしてきた。
「死ぬのはお前だ。……覚悟しろ!」
それと同時に雄一が素早い身のこなしで衝撃波を避け、DMWセイバーで淫魔にトドメをさした。
「う、嘘……」
淫魔は最後まで現実を受け入れる事が出来ぬまま、海に落ちてブクブクと沈んでいった。
「はあはあ……、死ぬかと思った」
その途端、誠十郎が疲れた様子で座り込む。
ボートに乗った一般人達も、ようやく安心する事が出来たのか、ホッと胸を撫で下ろす。
「何とか、助ける事が出来ましたね」
そんな一般人達を見つめ、佐祐理も安堵の溜息を漏らすのだった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年5月18日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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