深き海に誘う魔女

    作者:天木一

     暖かな日差しが透き通るような海に反射してキラキラと宝石のように輝く。
    「やっぱ沖縄の海は最高だな!」
    「一足早い夏って感じだよな!」
     サーフボードを持った日焼けした男達が浜辺に上がってペットボトルのジュースを飲み干す。
     喉を潤しもう一度波に向かおうとした時、岩礁の方から女性の他の楽しそうな歌声が聞こえてくる。
    「あっち誰か居るのかな?」
    「なんか気になるな、行ってみるか……」
     ふらふらと誘われるように男達は岩礁へと向かう。するとそこには既に何人もの同じように水着や軽装の男達がぼうっと上を見上げている。釣られるように見上げてみれば、そこには3人の美しい女が舞い踊っていた。
    「うふふふふふ、さあさあいらっしゃい」
    「私たちのダンスを楽しんでね!」
    「た~っぷりサービスしてあげる♪」
     妖艶に笑み浮かべ、ひらりひらりと一枚ずつ体に巻きつけた布を外していく。少しずつ露出が増え、瑞々しい肌が露になっていく。その様子に男達の目は釘付けとなった。
    「うふふ………そろそろかしら?」
    「そうみたい、じゃあ仕上げね!」
    「一緒に気持ちよくなりましょ♪」
     ダンスのテンポが激しく、そしてポーズの一つ一つが男性を誘惑する官能的なものになる。
     夢中になっている男性達は気付かない。その体が少しずつ変化している事に。肌に緑がかった鱗が浮かび上がり。手足には水かきとヒレが生えている。そして顔は突き出て丸々とした目はぱっちりと開いている。
     集まった男達は人から半魚人へと変化を遂げ、それに違和感を覚えもせずにただ興奮してダンスを見続けていた。
     
    「やあ、新しい事件の説明を始めるよ」
     能登・誠一郎(大学生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者達に資料を渡す。
    「サイキック・リベレイターを使用した事で、大淫魔サイレーンの力が活性化しているのが確認されたんだ。その影響の一つとして、サイレーン配下の淫魔達が一般人を集めて半魚人のような姿に変貌させ、配下にするという事件が起きるんだよ」
     半魚人となった人々は淫魔の忠実は僕となりダークネスの戦力となってしまう。
    「そんな事件が起きる現場に到着した時には、男性達が集まってはいるけど、まだ半魚人化していないんだ。でも淫魔を攻撃しようとすると、淫魔を守る為に一気に半魚人化して灼滅者に襲い掛かって来ちゃうんだよ」
     淫魔を守ろうとする意思が半魚人化を加速するようだ。
    「そこで、半魚人化させようと歌い踊る淫魔から意識を逸らす為に、こちらも対抗して歌や踊りで人々の意識を戻せば半魚人化を阻止する事が出来るんだよ」
     淫魔は人を魅了するエキスパートだ。対抗するのは難しいかもしれないが、やってみる価値はある。
    「半魚人かした人々は淫魔を灼滅しても元には戻らないんだ。だからなってしまった人は倒してしまうしかないんだ」
     ほんの僅か前まで人だったものでも、化け物になってしまえば倒すしかない。誠一郎は説明をしながら表情を曇らせる。
    「場所は沖縄の海辺。もうかなり暖かいようで人もレジャーに来てる人も居るみたいだね。その近くの岩礁に淫魔と誘われた人が集まっているみたい。歌声が聞こえるからすぐに気付けるはずだよ」
     その場には淫魔3体と一般の男達が10名集まっている。
    「淫魔は戦闘力自体は高くはないようだけど、相手を魅了したり動きを封じたりするのが得意みたいだから気をつけて」
     淫魔が行動を封じている間に半魚人が物理攻撃で叩くという戦法を使う。
    「半魚人は全員淫魔を命がけで守ろうとするみたいだよ。だから淫魔を先に倒すのは難しいかもしれないね」
     半魚人の戦闘力は低いが、数が多ければ厄介な事になるだろう。
    「人を半魚人に変えてしまうなんて恐ろしいね。それもただ歌や踊りに魅了されただけという理由なんだから厄介極まりないよ。こんな事をされたんじゃあ幾らでも被害者が出てしまう。だから淫魔達の被害が広がる前に、みんなの力で解決してほしい。お願いするね」
     誠一郎の真剣な言葉に頷き、灼滅者達は一般人を救い、淫魔を倒す方法を考え始めた。 


    参加者
    古海・真琴(占術魔少女・d00740)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    公庄・巫音(停滞の迷い刃・d19227)
     

    ■リプレイ

    ●岩礁
     目の前には青い海が広がる。夏のような日差しの中、熱い砂浜を歩くと、岩礁の方から歌が聞こえてきた。それは人を惹き付ける魅力的な女性の歌声。
     声に誘われるように進むと、そこには10名の男性が集まっている。その視線は全て一点に集中していた。
    「さあさあ、もっとよく見てちょうだい!」
    「貴方たちのために、踊るわよ♪」
    「ふふ、もっと近くで見てもいいのよ」
     岩礁では魅惑的な3人の女性が歌い踊っていた。男ならばつい魅入ってしまうような肢体を見せびらかすように舞い踊る。全てが計算されたように異性を誘惑する仕草で観客を虜にしてしまう。
     辿り着いた灼滅者達は一見してそれが人間ではない、人を惑わす淫魔だと確信した。
    「歌や踊りで一般人を魅了して下僕にする……惚れ惚れする程に本道を行く淫魔ね」
     その様子にフレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)は実に淫魔らしいやり口だと笑みを浮かべる。
    「アタシも負けてられないわね」
     ビキニの水着姿でフレナディアは挑戦的に淫魔達を見渡した。
    「魅了、ですか……そんなプレーなら、してみたい物ですが、それはここぞ! と言うところで出す個人技ですし」
     淫魔のパフォーマンスを見た古海・真琴(占術魔少女・d00740)は、自信無さそうにしながらも、一般人に視線を向けて何とかしなくてはと握り拳を作った。
    「歌や踊りは正直苦手ですが……やれるだけのことは、やってみます!」
     気合を入れた真琴が取り出したのはサッカーボールだった。
    「……サイレーンとは、一体、どんな、淫魔、なの、でしょう、ね。……お話、出来れば、いい、のです、けれど」
     淫魔達を見て支配者である大淫魔を神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は想像する。
    「……とりあえず、目の前の障害を、なんとか、しないと、ですね」
     今はいくら考えても憶測でしかないと、蒼は目の前の事件に集中しようと周囲を見渡し、淫魔達と同じような高さの岩礁を登る。
    「素人の私たちが淫魔さんの歌や踊りに対抗するためには、淫魔さんたちよりも目立つしかない……!」
     やる気一杯の山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)は、目立つ事でも淫魔に負けないと闘志を燃やす。
    「全員目と耳を潰せばよろしい、解決にございます」
     冗談ですけれどと公庄・巫音(停滞の迷い刃・d19227)は付け足すが、その目は半ば本気の殺気を宿して周囲に向けられていた。
     灼滅者達は淫魔に近づき、それぞれの方法で聴衆の視線を奪おうと行動を開始した。

    ●半魚人
    「……静かな海の唄を、歌い、ます」
     蒼が普段のたどたどしい口調とは違う、透き通るような声で歌い出す。それは海の魔女が人を攫って閉じ込めてしまう、そんな物語の歌だった。
     両手を組み祈るように歌い上げる。その歌声に惹かれたように数人の男の視線が淫魔から蒼へと移る。閉じ込められた男達の心の扉を少しは開く事が出来た。
    「あら、もしかして私達に対抗する気かしら?」
    「可愛らしい歌声だけど、それで私達の観客を奪えるかしら」
    「男ってみんなエッチなのよ、さあ、私達をもっと見て!」
     蒼の歌で振り向いた男の視線を取り戻そうと、淫魔達のダンスに熱が入る。体に巻いた布を外して投げ捨て、男達の注目を引き寄せる。
    「お姉様方、アタシもま~ぜて!」
     そこへ跳ねるようにフレナディアが淫魔達の間に飛び込み、同じように踊り出した。健康的な肌を惜しげもなく見せ、躍動的に、そして情熱的に踊る。それは官能というよりも、燃える炎のように激しく周囲を感化する踊りだった。
     淫魔に混じってのダンスに、徐々にフレナディアへ視線を向ける人間が増える。
    「あら、飛び込み参加は大歓迎よ! さあ、どっちが男達の目を釘付けにできるか勝負よ!」
    「ふふふ、私達のこの悩殺ボディでKOしちゃうわ!」
    「もう一枚脱いじゃうわよ~♪ そ~れっ♪」
     全ての帯を踊りながら投げ捨て、その身には局部を隠すだけとなった水着で男達を悩殺する。ぱさりと男の頭に布が落下し、鼻の下が伸びる。
     仲間が勝負している間に透流と巫音がラジカセにアンプを繋げ、簡易のライブステージを作り終えた。
    「ミュージックスタート!」
     準備が整うと透流がラジカセのボタンを押し、流れる音楽に合わせてマラカスを振って元気に踊り出す。淫魔に対抗するように愛用のワインレッドの三角ビキニ姿で堂々と踊る。ダンス自体は単純なものだが、その身体能力を生かして派手に動き回る。
    「皆様の勇士、しっかりと記録しておきます」
     スマホを構えた巫音が、仲間の歌い踊る姿を録画する。
    「みんなそういうパフォーマンスなんだ……」
     あっけにとられそうになった真琴は首を振って意識を切り替え、自分に出来る事をやろうと足元を見る。
    「個人技も求められるのは、いまここ!」
     試合の時のように集中した真琴は慣れた様子で地面に転がしたボールを蹴り上げる。それを膝で更に上昇させ、頭でトントンとリズムよくボールを浮かし続ける。それは以前の学園祭でやった、リフティングパフォーマンスだった。
     一度もボールを落とすことなく、頭、胸、膝、足、そして背中と器用にボールを操る。その華麗な技にサーフィンを持った男が夢中になって見ていた。自分もサッカーの経験があるのか、真琴に合わせて男の体が揺れた。
    「へえ、なかなかやるじゃない!」
    「でも色気はまだまだ私達が上よ! そして男性の心を射止めるのに必要なのは色気」
    「貴女たちにはそれが足りてないわ。さあ、ラスト行くわよ!」
     淫魔達の動きが艶かしく、男を誘うようになっていく。
    「まだ魅了されてる方がいらっしゃるようですね。仕方がありません。ではわたくしも参加致しましょう。まぁ、剣舞の真似事くらいしかできませんけれど」
     嫌々ながらも巫音が着物を軽く肌蹴て水着姿を晒すと、手にした刀を振るい剣舞を踊る。穏やかにそして鋭く、剣が見えぬ敵と戦うように弧を描く。
    「結局、肌が見えればなんでもよろしいのでしょう? 気持ち悪い、その眼球より硝子の方がマシなものを映しますよ」
     巫音の毒舌も聞こえていないのか、あっちへ行ったりこっちへ来たりと彷徨っていた観客の視線が向けられる。
    「もう! どうして男どもは全員こっちに靡かないのよ!」
    「いいじゃない、見る目がない男はもういらないわ」
    「私達の良さがわかる者だけたっぷり可愛がってあげましょう♪」
     男達の視線が半数以上灼滅者に奪われ、業を煮やした淫魔達が灼滅者に敵意を向ける。それと同時に淫魔に魅了された男達がその姿を変貌させていった。顔が突き出て、肌が緑がかり、手足には水かきやヒレが生える。それは物語で語られる半魚人の容貌だった。
    「4体だけか……まあ十分ね。さあ私達のダンスを邪魔するあの女たちと、そこの男達をいたぶってあげなさい!」
    「ダンス勝負はもう終わり、次は実力行使でいくわよ!」
    「ほらほら、良い子にしてたら後でご褒美あげるから頑張りなさい♪」
    『ァ、アアァァアアアア!!』
     淫魔の指示に従い、異形の姿となった男達が襲い掛かってくる。その手には三叉の槍が握られていた。
    「お願い、ペンタクルス! サポートを!!」
     真琴はウイングキャットのペンタクルスに呼びかけながら華麗に変身する。そしてエネルギーの盾を拡大して半魚人達を押し留めた。そこへウイングキャットがにゃーと魔法を放って拘束した。
    「ここどこだ? 俺いったい何をしてたんだ?」
    「なんだあれ……ばっ化け物!?」
     灼滅者達の魅力的なパフォーマンスで魅了が解けた男達が、目の前で暴れている半魚人に驚きの声を上げる。
    「此処にいては、危険です……あちらへ、逃げて、ください」
     縛霊手を展開し敵の動きを封じる結界を張った蒼が、振り向きながら男達に指示をする。男達は手にした荷物を投げ出し慌てて逃げ出す。
    『マァテェェエエー!』
    「行かせないわよ! アタシのダンスに付き合ってもらうわ!」
     緋の刀身をしたグルカナイフを逆手に持ったフレナディアが舞い踊る。すると纏う羽衣が風に靡くように伸びて半魚人の胸を貫いた。どろりと濁った血を流して半魚人が倒れる。
    「人間を半魚人に変えるダークネスさんたち……道理で、浜辺から腐った魚のような臭いがすると思った」
     淫魔を挑発しながら透流が影を纏った拳で半魚人の横っ面を殴りつけた。
    「全くです。化粧が濃すぎるのではありません?」
     離れた場所から着物を着た巫音が刀を振り下ろす。すると風が刃となって半魚人を袈裟に斬りつける。
    「何ですって!? 小娘が生意気な! いいわ! 逃げた男たちは後でっ先にその子達を滅茶苦茶にしてあげるのよ!」
    「そうよ! まずはその子達の自由を奪って剥いちゃいなさい」
    「ふふふふ、泣き叫ぶ顔が楽しみね。でも私達の邪魔をした貴女達が悪いのよ?」
    『アアアアァァーー! ォンナァ! オンナァアア!!』
     淫魔が怒鳴ると一斉に残った3体の半魚人が槍を手に突っ込んでくる。
    「変異してしまったらもう戻れないんですよね、ごめんなさい」
     槍の攻撃を盾で防ぎながら、真琴の影が大旗のように広がり敵を呑み込む。
    「……止めるには、倒すしか、ありま、せん……」
     蒼は跳躍して胸を狙う槍を躱し、その槍の上に乗って半魚人の顔を蹴り飛ばした。顔面を陥没させて半魚人が吹き飛ぶ。
    「何を簡単にやられてるのよ! ご褒美が欲しいならもっと頑張りなさい!」
     淫魔が布をひらひらと脱ぎ捨てる。すると傷ついた半魚人が元気になって手から水球を次々と投げつけてきた。真琴が蹴って球を逸らすが、避け切れないものが体に被弾する。
    「アタシからもご褒美あげちゃう!」
     踊りながらフレナディアが魔導書を宙に投げる。するとページが捲りあがり魔力が敵の中心に放つと、炎と爆発が巻き起こり半魚人達を薙ぎ倒す。全身を焼かれもがいていた一体が動きを止め、そのまま焼死した。
    「今のうちに!」
     敵が怯んでいる間に透流が護符を投げる。飛翔した符が真琴に張り付くとすぐさま傷を癒し、敵の力に対する抵抗力を上げる。
    「あのような年増のお色気に惑わされた結果にございます」
     踏み込んだ巫音は拳に雷を宿して倒れた半魚人の頭を殴りつける。ぐちゃりと液体が飛び散り半魚人は息絶えた。

    ●淫魔
    「やるわね!」
    「クッ……こうなったら私達が直接やるしかないわ!」
    「女の子でも可愛い子なら魅了してあげる♪」
     踊りながら淫魔が遅い掛かって来る。その爪はナイフのように鋭く襲い来る。
    「お断りします!」
     攻撃を跳躍して回避しながら、真琴は空中でオーラの塊を撃ち出す。それをもう一人の淫魔が受け止める。
    「遠慮しなくていいのよ、私の美声で虜になりなさい!」
     妖艶で魂に届くような歌が響く。すると近くにいた灼滅者たちの意識が朦朧となっていく。
    「同性にときめく趣味はない」
     透流が黄色い標識を掲げると、仲間達に力が行き渡り眠気を誘う歌声から目が覚めていく。
    「わたくしを虜にするには少々物足りないですね」
     跳躍した巫音の腕が異形と化す。叩き伏せるように振り下ろした拳が直撃し、岩とぶつかった淫魔の体が大きくバウンドした。骨は折れ手足があらぬ方向へ曲がっている。
    「……人を、惑わす、歌は、不要、です!」
     蒼の腕がまるで獣のように大きく膨らむ。そして横一閃に振り抜き淫魔の腹に叩き込んだ。体が捻れ飛び岩にべちゃりと張りついて絶命した。
    「なんてことをするの!」
     激昂した淫魔が踊り狂うように手足の爪で攻撃してくる。そこへ庇うように前に出たペンタクルスが攻撃を受けて吹き飛ばされる。
    「お姉様を虜にする歌をプレゼントしちゃうわ!」
     リズムを取りながらフレナディアが歌う。手を打ち鳴らし高揚するような歌声が響く。すると淫魔の目が釘付けとなり無防備になる。
    「おやすみなさいませ」
     風を切る音。巫音の刀が一閃し、淫魔の胴を断ち斬っていた。
    「……げほっ」
     口から大量の血を吐き、淫魔の目から光が失われる。
    「こんなことって……ありえないわ!」
     活路を見出そうと最後の淫魔は踊り、蹴りで攻撃しながら灼滅者たちを突破しようと試みる。
    「後はあなただけです。逃がしませんよ!」 
     真琴がタロットカードを突き出す。それは守りの力となって攻撃を受け止めた。敵が動きを止めたところに、背後からペンタクルスが後頭部に肉球を叩き込んだ。
    「……これ以上、犠牲者を、出さない、ためにも……!」
     蒼の周囲に風が舞う。腕をすっと差し出すと、緩やかだった風は烈風となって淫魔に襲い掛かる。肩口から血を流し淫魔がよろめく。
    「これが、私たち灼滅者の時代を作るための第一歩……!」
     雷の如きオーラを纏った透流が閃光のように間合いを詰め、拳の連打を浴びせる。
    「ありえないありえないありえない! 男達を虜にして好き勝手遊ぶはずだったのに、こんなぁ!」
     最後の力を振り絞り、淫魔は一段と激しく踊りながら強行突破を試みる。
    「フィナーレまで付き合ってもらうわよ!」
     対抗するようにフレナディアも激しく踊る。舞踏のようにナイフと爪がぶつかり合い、淫魔の爪が肩に刺さる。だが同時にフレナディアのナイフは淫魔の鳩尾に突き刺さっていた。そのままナイフを抉り胸へと突き上げる。
    「あぁ、こんな……」
     力を失った淫魔の体は泡のように消え去った。

    ●広大な海
     海辺には静けさが戻る。もう男性を魅了する歌声は聴こえない。
     半魚人となった人々も既に泡のように消滅していた。
    「女性相手では、お得意の魅了も無駄でございましたね。まあ男であっても、そこまでの魅力はございませんでしたから無駄でしょうか」
     戦いで乱れた服を直し、巫音は最後まで毒舌で淫魔を貶める。
    「リベレイター発動させたのは、ある意味私たち。速く出てきなさい、サイレーン!」
     これ以上犠牲が増える前に大本を倒してしまいたいと、真琴は海に向かって叫んだ。
    「……配下で、これだけ、魅了、されると、サイレーンが、現われると、どんな、被害が、出るの、でしょう、ね」
     最悪の状態を想像した蒼は手に胸を当てる。そして首を振ってその最悪な事態を阻止するのが自分達の役目だと海を見つめた。
    「サイレーン相手ならもっと熱く激しく踊れそうね」
     息を整え汗を拭うフレナディアは、健康的でありながらも色気のよなものを放っていた。
    「こんなふうにいきなり活動を開始しているってことは、サイレーンさんの配下にもサイキック・リベレイターの効果で目覚めたんじゃなくって、元から活動をしていた人たちがいたのかな?」
     透流は敵の行動の早さにあれこれと思考を巡らせる。
     各々思い思いに光り照らす美しい海を見つめる。穏やかに潮風が吹きぬけ、波の音が心地良い。灼滅者達はサイレーンがどれほど強敵であろうとも、この平和な景色を守ってみせると心に誓った。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月26日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
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