若さと復讐をこの手に

    作者:小茄

    「私の時代はもう終わっただなんて、そんな言いぐさは絶対に許せない……母親役? 老人役? 笑わせないで頂戴」
     その老女は、かつて女優であった。
     演技自体に見るところは無かったが、美しい容姿で劇団の看板女優を務め、テレビドラマに出演した時期も有ったと言う。
     が、歳を重ねるにつれ、彼女を取り巻く状況は、彼女の望まない方向へ変わっていった。
    「あの女どもは俺を裏切った……手の平を返すように俺を捨てたんだ……俺の人生はアイツらのせいで……」
     この老人はかつて接客業に携わり、女性達に取り入って金銭の援助を受け、バブリーな毎日を送っていた。
     その後中年になっても定職に就く事は無く、彼女達の家を転々としながら遊び暮らして居たと言う。
     が、その様な生活がいつまでも続くはずもなく、ある時を境に、彼の生活は坂道を転がり落ちるように没落して行った。
    「サイレーン様、どうか私にもう一度……昔の様な輝きを……皆を見返させて下さい」
    「サイレーン様、あの薄情な女達に復讐を」
     波打ち際を、沖に向かってフラフラと歩む老人達。
     彼らが膝まで濡らしながら一心に祈り続けると、やがて海は桃色に輝き始める。
    「おおっ!?」
     のみならず、老齢に相応の外見だった彼らが、見る見るうちに若々しく変貌してゆくではないか。
     彼らは人間である事を辞める代わりに、若さと美しさを得たのである。
     
    「若さへの憧れ……私達には余り実感の無い感覚だけれど、想像は出来ますわね」
     有朱・絵梨佳(中学生エクスブレイン・dn0043)の話によると、今回の事件もサイキック・リベレイター使用により、大淫魔サイレーンの力が活性化した影響だという。
    「年老いた一般人が海に集められ、一斉に闇堕ち……淫魔になる事件が発生しようとしていますわ」
     彼らはかつて、若さと優れた容姿によって我が世の春を満喫していたが、歳を重ねるにつれて没落し、今は惨めな毎日を送っていると言う。
    「彼らの若さを取り戻したいと言う想いにつけ込んで、自らの手駒にしようと言う事でしょうね」
     当然、我々としては阻止せねばならないだろう。
     
    「貴方達に担当して貰うのは、3人の男女ですわ。説得によって闇堕ちを防ぐのは、正直言ってかなり難しいかも。一方で、闇堕ち前に攻撃を仕掛けようとしても、自分を守る為に闇堕ちされてしまうでしょうし……やるとして、ダメ元で説得してみると言う感じにはなるかしらね」
     また、ESPを使った説得も彼らの闇堕ちを誘発する事になりそうだ。
     若さが手に入るならば何も要らない、それほど強く願っている人々を思いとどまらせるのは至難だろう。
    「一人目は安条・幸子(あんじょう・さちこ)。自宅に独り暮らし、家族は無し、親戚とも疎遠ですわね。女優や芸能人として、煌びやかな生活を送っていた過去がある様ですわ。ただ性格はワガママで独善的、才能もなかった様ですわね」
     最も美しく輝いていた頃に戻り、再び周囲を傅かせたいと考えて居る様だ。
    「二人目は西野・裕二(にしの・ゆうじ)。アパートに独り暮らし、こちらも家族は無し。二十代の頃、飲食店で接客業をしていたが、客の女性達に取り入り、金銭や住居を提供させていた……いわゆるヒモという奴かしらね。結婚詐欺紛いの事件も、幾つか起こしていた様ですわ」
     女性達を食い物にして生きてきた彼だが、いざ自分が捨てられる側になった途端、裏切られたと逆恨みするのだから自分勝手なものだ。
    「三人目は吉城・昭子(よしき・しょうこ)。裕福な家庭に生まれた、いわゆるお嬢様。美貌も相俟って、若い頃は好き放題に過ごして居た様ですわ。三度結婚をしているけれど、いずれも彼女の方から一方的に離婚していますわね。いざ親の遺産が底を突いて生活が困窮すると、かつての旦那や子供達に援助を求めるも拒絶され、今は施設に入っていた様ですわ」
     こちらも身から出た錆という奴なのだろうけれど、自分が悪かったとは一切思っておらず、若さを取り戻し、裕福な男性を捕まえて貴族の様な生活を送ろうと夢見ているらしい。
     いずれも、いざ闇堕ちしてしまえば救う事は出来そうに無い。
     また、サウンドソルジャーに似たサイキックを駆使するが、三人に繋がりは無い為、連携を重視する事は無いだろう。
     現場はひとけの無い海というロケーションの為、視界や足場も戦闘に支障は無い。逃亡を阻止する事も容易だろう。
     
    「では、吉報をお待ちしておりますわね」
     そう言って、絵梨佳は灼滅者達の後ろ姿を見送るのだった。


    参加者
    一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)
    火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)
    富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)
    鈴森・綺羅(自然の旋律・d21076)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)

    ■リプレイ


    「輝きに満ちていた……あの頃をもう一度……」
    「……手の平を返し、私を忘却に葬り去った者達に復讐を……」
     黄昏時の浜辺。
     靴や衣服が濡れる事も構わず、沖に向かって歩み出す者達が居た。
     いずれも、七十代以降と思しき老齢の男女。
    「サイレーン様……!」
    「若さ……若さを……!」
     彼らは若さと復讐を渇望していた。
     祈りを捧げる相手は、大淫魔サイレーン。
    「本当にそれが貴方達の望みですか?」
    「っ?!」
     奇跡の到来を待つ彼らに、背後から掛かる声。
     振り向けば、そこには学生と思しき若者達の姿。
    「なんだお前達は、邪魔をするな!」
    「そうよ、今は大事な祈りの最中なの!」
     大切な儀式を邪魔されてはたまらないと、シッシッと手を振る老人達。
    「一度しかない人生を若返る事で繰り返すのは楽しいのでしょうか? また、年を取ったら若返る気ですか?」
    「な、何?!」
     アイロニーを篭めつつ問うのは、火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)。
     それでもさほど嫌味っぽくならないのは、彼女自身が纏う友好的な雰囲気のなせる技だろう。
    「何を決まり切った事を言っているの。若ささえ取り戻せば、全ては思うままよ!」
     彼女達は、当たり前だとばかりの反応を示す。
    「確かに若さを得られるかも知れませんが、それを手にしたら貴方達は人間では無くなってしまいます」
     若さを得る事の代償を警告する鈴森・綺羅(自然の旋律・d21076)。
     説得の成功率が低いとは知りつつも、手を抜く事無く言葉を尽くす。
    「えぇ、若さを取り戻した代償に人ではなくなるのですよ? 人間を捨ててどうするのですか?」
     頷きながら、篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)も重ねてそう告げる。
     感情を言葉に籠めるのは得意ではない彼女だが、老人達を救う一助になればという想いだろう。
    「貴方達の望んでいる若さって、そういうのではないでしょう?」
    「むっ……そ、それがどうした。今の様な惨めな暮らしが人間の暮らしなら、そんな物は捨ててやる!」
    「そうよ! 今だって、人間扱いなんてされちゃいないんだから!」
     ずばり指摘されて多少狼狽える様子こそ見せるが、超常の力に頼ろうとする三人にとって、一般的な人間ではなくなる事も、ある程度は覚悟済みなのかも知れない。
    「でも、若返ったら同一人物とは見なされないでしょう、つまり戸籍のない人間になるわよ。今の日本で戸籍ないと不便なんてものじゃすまないと思うけれど?」
    「……」
     切り口を代えて、現実的な問題点を指摘するのはエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)。
     内心、助ける価値が有るのだろうかと考えつつも、説得に手抜きは無い。
     過去をやり直すのとは違い、今の時代に自分だけが若返ったとして、当然それまでの自分として過ごす事は困難になるだろう。
    「そ、それくらい……どうにかなるわよ!」
    「そ、そうだ! どうにかなる!」
     しかし彼らは、明らかに根拠も無い様子でそう反論する。
    「あなた達の経歴は調べましたが……。若かったから上手く行っていたのではなく、色々工夫していたから上手く行っていたのではないでしょうか? 同じ事を繰り返していた為に、上手く行かなくなったのでは?」
    「な、何……私達の事を知ってるって言うの?」
     眼鏡越しに見透かすような視線を向けつつ、安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)は矢継ぎ早に尋ねる。
     目の前で闇堕ちされ、それを灼滅するのも後味が良くないと考える故だ。
    「ち、違うわ! 私が歳を取ったからと言って、周りの人間が突然裏切ったのよ!」
    「顔と若さだけでどうにかなるほど、世の中甘くないと思いますよ」
    「ぐっ……貴方達に何が解ると言うの!」
    「そうよ、子供には私達の事なんて解らないわ!」
     続く正論に対しても口調を荒げて、ヒステリックに反論する。
    「とりあえず、反省して心を入れ替えるという選択肢は無いの? 若返ったところで、今の性格じゃあ同じ事の繰り返しだよ」
     内心では、一発殴ってやりたいとさえ思いつつも、根気強く竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)は訴える。
    「それにモテる顔にも流行りがあるから、若返ったところで昔のようには行かないと思うよ。常識だって変わってるし」
    「そ、そんな事は解らん! いや、今だって必ず上手くいく! とにかく若さ……あの頃の自分に戻りさえすれば、全て上手くやれるに決まっている!」
     その現実的な訴えに対しても、彼らは反射的に言い返してくる。が、反応を見る限り、灼滅者達の言葉に多少の動揺は感じて居る様でもある。
    「あんた達の醜さは年齢云々じゃぁねぇのさ。それに気が付けるか否か……そこが要だぜ?」
     若返りさえすればと繰返す彼らに、さほど熱を篭める事もなくアドバイスする一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)。
     普段は面倒見の良い兄貴肌な彼だが、利己的な大人に対しては、それを発揮する義理も無いと言う事だろう。
    「何を言うの、失礼な子ね! 私はかつて、輝いていたわ……町を歩けば誰もが振り返り、社交界でも皆が一目を置いていた……」
    「そうだ……どんな女だって、俺に口説かれればイチコロだったもんだ」
     智巳の重要なヒントに対しても、やはり三人は懐古するばかり。
    「闇堕ちするというのは、若返るのではなく別の存在になる事ですよ。思うような容貌を手に入れても、もはや若い時と同じ事は出来ません」
     改めて、闇堕ちし若返る事のデメリットを解く富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)。
     彼らへの説得に真摯な姿勢を見せる一行の中で、一際強い気持ちで臨んでいるのは彼なのかも知れない。
    「常に他のダークネスや、僕達のような灼滅者に怯える日々が待ってますよ。それでも良いんですか?」
    「な、なに……俺達が若返ったら、お前達の様な連中が危害を加えるって言うのか!?」
     良太の言葉に、たじろぎつつ問い返す男。
    「その通り。闇堕ちしたらオレ達にここで灼滅されるけど、それでも若返りたい? ダークネスになるという事は、人類の敵になるという事だよ。その覚悟はある?」
     事も無げに答えながら、重ねて覚悟を問う登。
    「殺されて終わる人生なんて最悪ですよ。僕の故郷の人達のように……」
     声のトーンを落としつつ、しかしはっきりと良太は告げる。彼の故郷はダークネスに襲撃を受け、滅ぼされたと言う。
    「……」
     若返りのメリットのみを考えて祈りを捧げていた彼らだが、そのデメリットを突き付けられた以上、両者を天秤に掛けざるを得ないはずだ。
     三人は暫し、黙り考え込む。


    「……ふ、ふは……ははは!」
     白くなった頭髪も僅かに残るばかりの男が、沈黙を破って突然笑い出す。
     かつては色男として何人もの女性と浮き名を流し、遊んで暮らせる程の金銭を貢がせていたと言う彼。
    「何が若返ったら殺すだ?! そんな脅しで俺が屈すると思うのか、こちとら若い頃は修羅場を幾つも潜ってきたんだ……若造に舐められてたまるか!」
     人を騙し、食い物にすることで生きてきた彼が、他者の言葉を信じる事はどだい無理だったのか。血走った目で灼滅者を見据えつつ、そう叫ぶ。
    「……そうよ。貴方達の言っている事が本当だったとして、このまま生きる事に何の意味があるって言うの。そこにはドラマも輝きもありゃしないわ」
     かつては華やかな芸能の舞台に立ち、スポットライトを浴びていたと言う女。
     才能の無さや独善的な性格が災いし、次第に声は掛からなくなり、ついには完全に干される形で表舞台を去ったと言う。
    「例え一瞬だろうと構わない。あの頃の輝きを取り戻して、世間を見返せるなら!」
     元より大きく闇に傾いていた二人の天秤を、逆転させる事は出来なかった。が、
    「わ、私は面倒ごとは嫌よ! 若返ってお金持ちの男性と一緒になって、好きに暮らせると思ったから来たのに……」
    「ばあさん、こっちだ」
    「手を伸ばして」
     智巳と誘魚が手を掴んで、一人の老女を海から引き揚げる。
     ワガママなお嬢様育ちの女性だと言うが、灼滅者達の話を聞いてデメリットの大きさに二の足を踏んだ様だ。
    「失礼ね、私には昭子と言う名前が」
    「ここは危険ですから、離れていて下さい」
     抗議がましく言う彼女を下がらせつつ、明がサウンドシャッターを展開する。
     海が桃色に輝き、居残った二人の老人を包み込んでいたのだ。
    「ふふ……あはは! これだ、これが欲しかったんだ!」
    「そうよ、これ……スベスベでシワもシミも無い、美しい手。これこそ私の手だわ」
     光が収まると、そこに居たのは二十代前半と思しき若い男女。
    「力が溢れてくる……まるで湧き出るようだ。おい、お前ら……さっき何とか言ってたよなぁ? 俺を殺すとかなんとかよぉ? やれるもんならやってみやがれ!」
     海の中から、五メートル近い跳躍。一瞬のうちに砂浜へ降り立つ男。当然ながら、髪もふさふさである。
    「貴方達には何の恨みも無いけれど、私の復讐を邪魔するなら仕方ないわね。死んで頂戴」
     同様に、女も海から浜に上がって来る。
     服装は老女の時のままだが、眉目秀麗の艶っぽい美女。見た目のみで役に起用されたとしても頷けるレベルだ。
    「最早言葉は無駄ですか……。それなら、あなた達の人生のツケを纏めて払ってもらいますよ」
     スレイヤーカードを解放する良太。他の灼滅者達も一斉に臨戦態勢を取り、老人――いや、かつて老人だった二人の淫魔もまた、身構えた。


    「動ける、動けるぞ! どうしたこわっぱどもがぁ!」
     鋭利なナイフを翻し、灼滅者達の陣列をかき乱す男。
     かつて西野・裕二(にしの・ゆうじ)と言う名の人間であったその淫魔は、若さと共に手に入れた新たな力に酔い痴れているようだった。
    「まったく人の醜さってのは年をとろうと変わらんモンなんだな……てめぇは長く生きすぎた。終焉をくれてやるよ」
    「はぁっ!? お前らの様な、経験の浅いガキに何が出来る!」
     智巳の言葉を一笑に付し、ナイフからどす黒い殺気をまき散らす男。
    「黄色標識だ、皆バッドステータスには気を付けてくれ」
     毒風が灼滅者達の体を蝕まんとするが、綺羅はすかさず黄色の標識を掲げて仲間の耐性を高めてゆく。
    「一発殴ってやりたいって思ってたんだ。お年寄りのままじゃそれも出来なかったけど……容赦しないよ。ダルマ仮面!」
    「何?!」
     智巳に注意を向けた男淫魔の背後に、スルリと回り込む登。キャリバーのダルマ仮面が機銃で弾幕を展開するのに合わせ、懐へと飛び込む。
    「はぁっ!」
     深大寺のガイアパワーを原動力とする登。鋼鉄の如く鍛え上げられたその拳を、振り向きかけた男の顔面に叩きつける。
    「ぐばぁっ!?」
     男はグラリと大きくよろめき、数歩後ずさる。
    「て、てめぇ……良くも俺の顔を」
     頬を抑えつつ怒りに震える男だったが、これは不良同士のケンカではない。闇を狩る命懸けの戦いなのだ。
    「若返ったんなら遠慮はいらねぇよなァ!?」
     隙を逃さず間合いに捉える智巳。
     古き雷の王の名を冠する、バベルブレイカー――障破裂甲【ヴァルティ・タスク】が男の顔面。登が殴ったのとは逆側を貫いた。
    「はぐあぁぁーっ!!?」
     人生経験はどうあれ、戦闘の経験において遥かに勝る灼滅者達の連携は、狩りにも似て男を追い詰めて行く。
    「人でないもの、堕ちた魔物に容赦はしません」
    「ま、まてっ……話し合おう!」
     更なる波状攻撃を掛けるのは、誘魚。
     相手を救うために言葉を尽くした彼女であれば尚更、その説得を無視して闇に堕ちた者に対して手心は加えない。
    「せめて、人であった記憶とともにすみやかに葬ってあげましょう」
     捻りを加えて繰り出される妖の槍。螺旋状に渦巻くその穂先は、男の体の中心を易々と貫いた。
    「ひっ、な、何なの貴方達……私達に刃向かう事は、サイレーン様に刃向かう事と同じなのよ!?」
     かつて安条・幸子(あんじょう・さちこ)と言う名の人間であった淫魔は、闇の力を影に宿らせ、無数の鞭の如く振り回す。
    「えぇ、サイレーンさんとは敵同士です。そして、今はあなたとも」
     明はその穏やかな口調とは裏腹、カスタマイズされた長槍を鋭く繰り出す。
     それは影の触手の間をすり抜け、淫魔の脇腹を深々と抉る。
    「ぎっ?! い、痛い……痛いじゃないよぉっ!」
    「サイレーンの事はどうやって知ったのかしら?」
    「選ばれたのよ、私はサイレーン様に選ばれた……啓示を受けてここに導かれたの!」
     エリノアの問い掛けに、喚くように答える淫魔。
     良く信じて行動したものだと思えるが、それ程に若さを渇望していたのだろう。
    「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
     エリノアは槍を握り直すと、気合一閃。その言葉通りに、淫魔の身体を貫く。
    「ぐうっ……がはっ、こんな……これじゃあ、何の為に若返ったか解らないじゃない……こんな所で、終われないわ!」
     夥しい血で砂浜を朱に染めつつ、淫魔は尚も影の触手を蠢かせる。
    「年寄りの冷や水というものですね。しっかり温めますよ。タンゴ、今です」
     ジェフはウィングキャットのタンゴに指示を出しつつ、炎を帯びた数条のダイダロスベルトを放つ。
    「ま、まだ、私は輝かなければいけないの……!」
     スパークする猫魔法と共に、蛇の如く絡みつくベルトが淫魔を魔炎に包み込む。
    「残念ですが……行くよ、中君」
     良太はビハインドである親友に呼びかけ、クロスグレイブを構える。
    「邪魔をしないで……私は、私は……!」
     中君が霊撃を加えて飛び退ると同時、良太は引き金を引く。
     放たれるのは、業を凍て付かせる断罪の光弾。
    「ああぁーっ!!」
     断末魔の悲鳴と共に、淫魔の身体もやがて掻き消える。
     日の落ちた海辺に、静寂が戻ったのだ。

    「サイレーンを倒さないと、こういう事件は終わらないという事か」
    「半魚人化の事例もあるし、厄介な話ね」
     ため息交じりに呟く綺羅に、頷きつつ相槌を打つエリノア。
    「えぇ、あまり後味の悪い戦いは御免被りたいものです」
     こちらも頷きつつ、肩を竦めるジェフ。
    「私も年齢を重ねたら、あの人達の様に考える様になるのでしょうか」
     自問するように小さく呟く明。
    「オレ達はあんな風にならないよ。闇堕ちの意味も知ってるし」
     明るく答えるのは登。
    「人を惹き付けるのは容貌だけではないはず。胸を張ってそう言える歳の取り方をしたいですね」
    「えぇ。過去を顧みて未来に繋げる。その意思が人間として生きると言う事なのでしょう」
     良太の言葉に、誘魚も頷く。
    「さて、行こうぜ。あのばあさんも送り届けねぇと」
     顎で老女を指す智巳に頷き、一行は浜を後にする。

     かくして、サイレーンの誘惑に導かれ、闇に堕ちた者達をいち早く灼滅する事に成功した灼滅者達。
     説得によって闇堕ちを阻止した老婆を伴い、一行は凱旋の途についたのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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