角にリボン

    作者:水上ケイ

     朝八時すぎ。
     とある中学校の校門が閉ざされて、門前に立つ生活委員たちが、あッと指をさす。
     これから後に来る生徒はチコクーなのであるが。
     ……が、大柄の女生徒と取り巻きらしい4人が、悠々とやってくるではないか。
     まるで正面突破な勢いである。
    「アイツ……女でも容赦しないぞ」
     力自慢の体育教師がずずいと校門に立ちふさがった。
     女生徒は一向に悪びれるでもなく、足を早めるでもなく、すたすたやってきて、ギロリと校門前の連中を見回した。
    「おどき! あたしはね、好きな時にガッコに来るんだよ。文句いうな!」
    「は、遙! その言葉遣いは……こ、この前まではおとなしかったくせに。それに、お前らもなんだ! 目立たない日陰生徒がそろって何をやってるんだ!」
     遙の後ろの男子2名、女子2名。どうやら配下。
     っていうか力をわけてもらったらしい。 
    「うるせぇ、失礼なこと言ってんじゃないよ。 大体あんたのやり口は気にいらなかったんだよ。人をおとなしいお嬢と思ってみくびるなよ」
     生活委員や他の教師生徒はさっさと逃げ、残ったのは一人だけ。
     体育教師は足を踏みしめて砕けそうになる腰を支えた。
    「ぁあ? もう一度こないだみたいにあたしの体型を冷やかしてみなよ?」
     ブルルンと胸を揺らせて遙は教師に迫る。
     そして、制服のポケットからカミ束を取り出してぱさぱさ扇いだ。
    「そ、それは何だ、てっしゅを粗末にするな」
    「これはそんな生易しいもんじゃねえ、あんただってヤれるかもしれねえもんだ……」
     詰め寄った遥には素敵な黒曜石の角。
     それに気づいて教師は悲鳴をあげた。
    「ば、ばけも……」
    「何だって?」
     ぷるんと髪をそよがせて遙は面白そうに威嚇する。
     ロングヘアにあしらった可愛いリボンが妙に角とあって……るのか?!
     そこだけお嬢様の名残で、残りはこわいダークネス。
    「遥さん、こんなヤツ俺が」x2~。
    「いや、私に任せな」x2~。
     元クラスメートだと思われる一般人がそんなノリでずずいと前に出る。
     羅刹のお嬢様はとても楽しそうに笑って。

     戦闘開始!

     

    「皆さん、事件ですッ」
     鞠夜・杏菜(中学生エクスブレイン・dn0031)はてきぱきやってくると灼滅者達に事件の説明を始めた。
    「今日は、一般人が闇堕ちしてダークネスになりそうな事件を解決して欲しいんです」
     行く先は某地方都市の中学校。
     時刻は朝の八時ごろ。
    「悠々と遅刻してやってくる羅刹になりかけの少女とその仲間を何とかして欲しいんです」
     通常なら、闇落ちしたダークネスは、すぐさまダークネスとしての意識を持ち人間の意識はかき消えてしまう。だが、遙は、元の人間としての意識を残しており、ダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきっていない状況なのだ。
    「もし、遥さんが、灼滅者の素質を持つなら闇堕ちから救い出して下さい。それとも、完全なダークネスになってしまうようなら、その前に灼滅、お願いします」
     戦いの結果、遥が生き残るか、灼滅されて消えてしまうかはエクスブレインにもわからない。
    「遥さんへの説得をがんばってください。ダークネスとの戦いはおそらく避けられないと思いますが、説得できれば羅刹の戦闘力も下がるはずなんです」
     杏菜は一生懸命そう話し、それからさらに詳細な状況を説明した。

    「とにかく、遥さんを助けるには戦闘に持ち込んでKOしてあげないといけません。さっきも話したとおり、それで灼滅者として生き残るかどうかは、彼女次第です」
     遥さんの心に呼びかけてあげれば。
     そうすればきっと、と杏菜は言葉を飲み込む。

     皆が接触できるのは、この中学校の校門付近。
     校門前には戦闘できる程度のスペースはある。
     校門はしまっており、前には体育教師が一人でがんばっている状況だ。生徒達と他の先生は勝手に逃げ出すのでほうっておいてよい。

     学校のすぐ横に細い抜け道があるので、皆はこれを利用して道の向こうから歩いてくるダークネスとその配下を確認することができる。
    「体育教師と羅刹の間に割り込むことができる位置で、羅刹は皆さんが歩道に飛び出せばすぐに確認できる距離にいます」
     この状況からどうするかは、皆さん次第です、と杏菜は話した。
     黙って放置すると体育教師は怒った羅刹に殺されてしまうだろう。
     できれば、先生の命は助けてあげてほしいと杏菜は頼む。

    「遥さんですが、神薙使いのサイキックと同様のものを使用できます。他に配下らしい人たちが4名います」
     ただ、遥はなりたてのダークネスなので、配下もそんなに強くない。
    「と、いうか、皆さんの敵ではないでしょう。多少は強化されていますが一般人です。先鋒を務めたいみたいなので、さくっと拳で説得してあげてください」
     そこまで説明して、杏菜は顔をあげた。 
    「羅刹になってしまった遥さんですが、闇堕ちする前はどうやらおとなしいお嬢様タイプだったようですね。今は半堕ち状態でしょうが、性格が変わってしまっています」
     どうやら我慢強い優しいタイプだったらしいが、今は、反動といっていいほどやり放題のようだ……。
    「ちなみに遥さんは美人ですが、大柄で肉感、いや、肉体派の方のようですが」
     共感してあげるなり、励ましてあげるなり、ともかく説得お願いします、と杏菜は皆に頼んだ。
    「灼滅者の皆さんなら、きっとどうにかしてくれると信じています!」
     エクスブレインはぺこりと頭を下げた。


    参加者
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    望月・心桜(桜舞・d02434)
    居島・和己(は逃げだした・d03358)
    月島・立夏(ヴァーミリオンキル・d05735)
    ブリギッテ・ヘンネフェルト(なまけもの天国・d05769)
    龍統・光明(龍眼の使用者・d07159)
    往羽・眞(筋力至上主義・d08233)
    凍島・極北(絶対零度・d08712)

    ■リプレイ

    ●BAD MORNING!
     リンランルンラン♪
     始業チャイムをBGMに往羽・眞(筋力至上主義・d08233)の元気の良い声が響いた。
    「てりゃーっ!」
     その掛け声と共に、羅刹の元クラスメイト今は配下の男子が早くもよろり。
    (「あれれ、大丈夫……だよね?」)
     眞は心配したが一般人といえどそれなりの強化はされているらしい。
     ……しかし、弱そうだな。
     水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)は眼鏡越しの一見眠そうな目で、そんな羅刹のお供を見たがもちろん感想を口にはしない。
    「はいはい、お邪魔しますよっと。ちょいと遥さんに話があってねぇ、怪我したくなけりゃ帰んな」
     気丈に「てめぇ」とか何とか突っかかってくるのをふいっとよけて、
     がこん。
     相手がぶっ倒れた。

     清々しい朝の、とある中学校の校門前のこと。
     ダークネスの遥率いる4人組と体育教師は校門前でにらみ合っていた。あわや戦闘開始というところに、武蔵坂学園の灼滅者達が飛び込んできたのである。

    (「私たちが羅刹にとっての分割線。まだ良心が残ってることを信じて動くしかないね」)
     ブリギッテ・ヘンネフェルト(なまけもの天国・d05769)は配下を迎え撃ちながらも、大柄の羅刹少女を意識する。
     前衛4名が羅刹側に布陣する傍ら、中衛と後衛の4名は体育教師側に駆け寄る。
    「ちょっと待った!」
     居島・和己(は逃げだした・d03358)も両者の間に割り込んだ。
     かと思えば。
    「邪魔ですわっ!」
     小学5年生凍島・極北(絶対零度・d08712)がいきなり高飛車に配下を凍りつかせ、続いて教師を守る様に下がった。
     望月・心桜(桜舞・d02434)も、言いたい事は後回しにとりあえず教師をかばうように立つ。
    「チューッス、話があるンスけどちょっとイイッスか?」
     続いて月島・立夏(ヴァーミリオンキル・d05735)もにこやかに挨拶し、ついでに除霊結界を一般人に放っておいた。
    「よよよ良くないッ! 貴様らどこの学生だ?」
     体育教師は可哀相なほど取り乱している。
     いやー怪しいのはわかってるッスケド、それを言ってもナー。
     てなわけで、立夏は教師からそっと視線をはずして何も言わないことにしたのに、過激な答えが龍統・光明(龍眼の使用者・d07159)から返ってきた。
    「気にするな、通りすがりの武装学生だ」
     電光石火。
     その言葉が終わらないうちに、刃がキラリと朝の光を反射して、羅刹配下の女生徒が地を舐めた。
    「ひ、人殺しィ!」
     今更ながら教師が声を振り絞る。
    「安心しろ、手加減してある。こぶくらいは我慢してもらおう」
     あっけにとられていた羅刹は漸く動いた。だからブリギッテの一撃は配下を庇った遥の胴を掠めた。
    「ふん。手加減攻撃とは痛み入りますわ……じゃねェ、痛くないしな! どうやらどこぞの『成り損ない』が紛れ込んだ様だな? おどき、あたしが相手だよ」
     羅刹は配下を退かせて入り乱れた口調を取り繕った。力を与えられた一般人はどのみちダークネスを倒せば正気に戻るが……。
    (「ディフェンダーか。配下を庇う辺りがまだ半分ダークネスってことなのかな」)
     ブリギッテはふうと小さく息を吐き、殲滅道具を握りなおした。羅刹相手なら、まずは行動制限を狙っていくつもり。
     だがその前に、灼滅者達は遥に話があった。

    ●遥の真実
    「貴女は何故こんな事を? この教師と何かあったんですか?」
     クラッシャーの光明がすかさず問いかける。
     羅刹の前に立ち塞がるのは前衛4人。極北は結局中衛に残った。各人殲滅道具を油断なく手にしての話し合いだが、羅刹は別に気にする風でもなく、肩にかかるロングヘアを片手でふいっと後ろに流した。
    「そいつは気にいらねえから体罰を与えるんだよ、そこをおどき!」
     そう言われても灼滅者達は道を明ける気など端からないし。それより二人の間にどんな事があったのかと聞きたがった。
     羅刹はイライラと紙束を弄っている。羅刹と遥と二人の心が葛藤中なのだろうか。
     ンー、復讐ってのは物騒だしネ。二人とも無事に解決するッスよ……。
     立夏はくるりと縮み上がっている教師を振り返った。
    「あの遥って子に覚えあるっしょ? 何か随分ご立腹みたいス」
    「何か身に覚えはないかえ?」
     心桜の視線がチクチク教師を刺す。
    「な、な、な。生意気な! ちょ、ちょっと体育服がきつそうだったから助言しただけだ」
     ……ブツン。
     途端に嫌な音がして、
    「ぎゃー」
    「わー」
     教師となぜか和己も声をあげた。見れば羅刹は手近な学校の外部フェンス網を引きちぎって、歯を食い縛っている。
     心桜が声をかけた。全くこの点は同情するわい……幼児体型のわらわと違って、遥嬢は女性らしい体つきじゃからのう。
    「何と言ったらよいか。わらわはこんな体型じゃが、お主は大変そうじゃのう」
     ダークネスが心桜に頷き、拳を震わせ声を振り絞る。
    「あいつはな、体育の授業の度にあたしの特定の場所をじろじろ見て、妙に接近してきた。発育具合がどうとか、お、男好きとか……しょっちゅう言いやがっただろうが!」
     あーチョット今の羅刹って乙女ぽいと立夏などは思ったが。
     それはともかく。
     教師は青ざめて口をぱくぱくした。恐らく言い訳したかったのだろうが、その前に和己がきっぱり羅刹に同意した。
    「そりゃ傷つくわ。デリカシーの無い男だぜ、同じ男として恥ずかしいぞ」
    「それは酷いな」
     光明もすんなりと頷く。
    「彼女はあんたの言動で傷付いた。言う事があるんじゃないのか?」
    「同じ女子として許してはおけぬのう。人として何をすべきかわかるか?」
     心桜の冷たい視線も突き刺さる。
    「く、くそっ。俺は教師だぞ……ぎゃあっ!」
     風刃が突如晴天の朝を切り裂いた。
     が、教師の前には人間の壁があって。
    「うるせェ。痛いのは俺だぜッ」
     和己が教師を怒鳴りつけた。
    「そこをどけ!」
     羅刹がわめく。
    「一応守るけども、命までは張ってやんねーからな?」
     和己がチクチク。
     次は見捨てられるかも?
     そう教師は思ったかもしれない。何より和己が流す赤い血も、それを癒した心桜の矢も、全てが彼には恐ろしかったろう。ようやく身の危険を悟ったか、捨て台詞に謝って逃げ出す。
    「く……。す、すみませんでしたッ」
    「ち、ちょっと! 真面目に謝って下さい!」
     眞がそれこそ真面目に怒ったが、この手の輩は所詮そんなものだろう。けれども、そんな眞を羅刹は見ていた。
    「嫌な事は嫌って言って良いんだぜ? じゃなきゃ自分が傷ついたまんまだ。でも好き勝手やって人傷つけちゃマズイぞ、このオッサンみたいじゃん?」
     和己が急いで言葉を置いて教師の後を追う。彼の盾になるために。
    (「その力を復讐に使ったら、もう後に戻れないよ……」)
     ブリギッテが射線を遮る様に羅刹との間に移動する。極北も続いた。
     羅刹はまばたきし、すぐにわめいた。
    「待てェー!」
     再び唸る風刃は、しかし、一般人の教師に届くことはなかった。
     光明がさっと仕切りなおす。
    「これでやっと本題に入れる。俺達は貴女を救いに来た。今あの教師と同じで他人を傷付ける立場だと気付いているのか?」
    「何?」
    「まーったくイヤな先生ってのはどこにも居るもんだな。かったるいぜぇ」
     瑠音はふーっと息を吐く。そして。
    「あぁ、お前の気持ちも分かるわぁ。気に入らねぇ先生っているもんな。でもな、それでその力に溺れて傷つけるってのは理不尽な暴力。その教師とやってる事同じだぜ?」
    「……」
     羅刹のリボンが朝風にふあっと揺れる。
    「今ならまだやり直せる、傷つく痛みを知る貴女なら」
     光明が語りかけると羅刹は俯いて、一体何を考えているのだろう。
     極北はそんな遥に自分の意見をぶつけた。
    「角が無くても、自分の想いを伝えられるようになるべきですわ」
     遥の弱さを指摘した、これは確かに正論であるが。
     弱い故に泣き、弱いゆえに闇に堕ちる。
     人の魂が孕む闇をいかに制御するのか、させるのか、それは難しい問題かもしれない。
     羅刹が顔を上げる。遥を見据えて言い放った極北に、鬼の視線が突き刺さる。スナイパーの位置からライドキャリバーが機銃掃射するが、羅刹は動いた。
    「生憎角はあるんだよ。あいつをヤれなかった分、暴れさせてもらう」
    「わたくしには角はありませんけど、貴女にお伝えしたい事は言わせて頂きましたわ!」
     高慢なお嬢様にも意地がある。極北は足を踏みしめ、異形変化の巨腕を振り下ろす鬼にもたじろぐまいとした。
     羅刹の豪快な一撃に、血飛沫が歩道のアスファルトに散る。
    「人を傷つけたらお主も教師と同じじゃぞ!」
     心桜が極北を癒し、声を振り絞る。羅刹は敵じゃが、遥嬢の気持ちはよくわかるのじゃ……心桜も、今ならまだ間に合うことを遥に伝えたかった。
     極北は血に汚れた指輪を羅刹に向け、光明は日本刀に手をかけて遥を呼ぶ。
    「溜まった鬱憤全て俺達にぶつけろ、受け止めてやる」
     双穿閃刃流・龍統光明、いざ参る!
     軽く地を蹴れば銀の髪が翻る。羅刹に迫り光明は鞘走る日本刀で胴を薙いだ。
     ――その瞬間、羅刹が笑う。
     ダークネス遥は嬉々として暴れた。リミッター解除で鬱憤晴らしなのか、ともかく灼滅者達はそれを受け止めて鎮めてあげねばならなかった。
    「遥さん勝負です。早く正気に戻ってください!」
     てりゃーっ!
     クラッシャーの眞が無敵斬艦刀を軽々と振り上げて突っ込む。どん、と大柄な体に戦艦斬りが決まると、羅刹は声高に笑った。
    「はッはッはー! やるな、面白い!」
    「どんどん行きますよッ」
     仲間と共に眞の小柄な体が朝の校門前を駆け巡る。
     羅刹が追えば制服のスカートが翻る。
    「お前の力、もっと見せてみな。そんなんじゃねぇだろ?」
     瑠音が身の丈よりも大きな武器を手に立ちはだかる。レーヴァテインの炎はますます赤い。日頃のだるそうな瑠音は今は影を潜めて……多分彼女の闘志も炎になって燃えていた。その熱い炎に焼かれながら羅刹はカラカラと笑う。
    (「あれは遥じゃない、今私が焼いてるのは、鬼。燃え尽きろ」)
     炎を振り払う羅刹は凄まじい形相である。
     だが立夏はなんと彼女にウインクを飛ばし、
    「遥サンカッコいいッス、俺はスキだナー?」
     だが返礼に巨大鬼の手パンチでぶん殴られ、チョイヤベーみたいな?
     彼は黒い縛霊手の尖った爪先に光を集めて回復した。
    「……暴れるのはチョット困るッスけどネー」
     灼滅しなきゃイイなァ……俺には祈る事しか出来ネーッス、彼女の心次第だからネ。

     実際校門前の大喧嘩は佳境で、朝の清々しさなどとっくに消えていた。
     無事教師を逃がして戻ってきた和己は、この有様に肩を竦めた。
    (「いや~控えめな子ってのはキレると怖いねえ。そんな極端じゃ危なっかしいぜ」)
     しかし力になれっかどうか、ここはやるだけやるしかない。和己はスナイパーの位置からガトリングをぶっ放した。弾幕がバラバラと遥を襲う。
     ダークネス遥は凄まじかったが、元々羅刹に成り立ての上、遥の心が残っていた。8対1で徐々に遥に疲れが見えてくる。
     灼滅者達はもう全力で戦っていた。
    (「私の体形も目立つから、少し気持ちがわかる気がする」)
     多分怖かったんだろうね? 他人に相談したら余計に酷くなるかもって、やり場の無い怒りに苦しんだんじゃないかな?
     ブリギッテは死角から足止めを狙って鋭い斬撃を放つ。遥がウッと腰を折り、二人の視線が交差した。
     羅刹の怒りの眼差しをブリギッテは受け止める。
     そして次手に襲いかかって来た遥の猛烈な一撃をも、受け止める。

     弱い自分を許してあげて。
     もっと自分を褒めてあげて。
     自分を嫌いにならないで。

     ブリギッテは自分の想いを言葉にできなかった。けれども地を踏みしめて、胸にトランプのスートを浮かべて、羅刹に立ち向かう。
     全く忙しいのう……。
     心桜は休みを知らず天星弓を手に癒しの矢を放つ。メディックの彼女とて、遥への想いは深い。
    (「助けに来たなどと言うつもりはない。わらわはただ……」)
     遥嬢に普通に笑ってほしいのじゃ。
     心桜の動きに呼応する様に、瑠音が羅刹に迫る。
    「これで最後だぜぇ!」
     無敵斬艦刀が紅の劫火を宿して燃え上がる。瑠音の炎は最後まで見切られる事もなく、羅刹を打ち倒したのだった。

    ●笑顔とリボン
    「良かった、灼滅せずにすんで」
     遥に駆け寄った光明はホッと息をついた。倒れた遥からはすっかりダークネスの気配が消えている。
     猫変身で心を癒してあげれないかなぁ……。
     そう考えたブリギッテは、やがて遥が目をあけるとにゃおと寄って行った。
    「あら……」
     白い手で猫を撫で、遥はゆっくりと身を起こす。
    「あの、私は」
    「ほら、リボンが曲がっていましてよ?」
     極北がすっと歩み寄って少し汚れてしまった遥のリボンを整えた。
    「有難うございます」
    「あのっ。そのリボンどこで手に入れたんですか? ボクも欲しいかなって」
     眞は早速元気に尋ね、思わぬリボンの話で何だか皆が笑顔になった。
     話が一段落したところで、極北が遥に手を差し出し、学園へと誘う。
    「わたくし達の武蔵坂学園にいらしてはいかが? この手を取るかどうかは、貴方が選びなさい」
     相変わらず態度は高慢ちきだったけど、遥はただ驚くだけだった。
     心桜が言葉を重ねる。
    「助けにきたなんて言えぬが、これから一緒に歩みたいのじゃよ。わらわたちの手を取ってはくれぬか?」
    「……もう少し、お話を聞かせて下さいます?」
     遥は立ち上がって制服の埃を払った。
     それを機に灼滅者達は皆それぞれに歩き出す。猫はブリギッテに戻った。
     立夏がすかさず遥の横に並んで話しかける。
    「イヤな事が合ったら話くらい聞くッスよ、美味いモンでも食べながらネ」
    「えっ?」
     驚く遥の胸がプルルンと揺れて、もちろん立夏はじろじろ見たりはしなかった……。
     ともかく事件は解決した。
    「オツカレッス!」
     今日のところはこれで解散。

    作者:水上ケイ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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