ミノタウロスの迷宮

    ●栃木県某所
     かつて攻略不可能と言われた巨大迷路があった。
     この迷路は壁に手を当てながら進むと、似たような場所をグルグル回っているような錯覚に陥り、『ひょっとして、この法則だと逆に迷ってしまうのでは……』という気持ちにさせてしまうらしく、別の道を進んで『やっぱり、そうだ! さっきのやり方だと永遠に迷ってしまう!』と思い込ませ、出口から離れた最深部へと招き入れる作りになっていたようである。
     しかし、あまりにも難易度が高過ぎたせいで、迷路の中で迷ったまま出られなくなった者が続出し、閉園時間になっても出られないという事態が続出したため、現在では閉鎖されているだ。
     そのせいか、『この迷路には出口がない』と噂され、その過程で都市伝説が生まれてしまったようである。

    「パズルタイム的な何かが始まりそうだな」
     そんな事を口にしつつ、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。

     今回、倒すべき相手はミノタウロスの姿をした都市伝説。
     コイツは迷路の中をウロついていて、侵入者を見つけると棘付きハンマーを振り上げて襲いかかってくる。
     まあ、開園当時と違って目印をつける事が出来るようになったんだが、わざと迷わせようとして間違った方向に道しるべがあったりするから、自分達で新しい目印を付けておいた方がいい。
     おそらく、お前達が着く頃には誰かが襲われている頃だろう。
     場合によっては、死んでいる奴がいるかも。
     どちらにしても、一般人を出口まで避難させなければ、途中で……迷う。
     それだけ、気を付けて都市伝説を倒してしまってくれ。


    参加者
    巽・空(白き龍・d00219)
    藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)
    八坂・千鶴(まひるのみかづき・d00751)
    古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029)
    リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)
    安曇・結良(ローザヘクセ・d03672)
    織田・のすり(熱き矢の如く・d07363)
    遠近・レイラ(高校生殺人鬼・d07857)

    ■リプレイ

    ●攻略不可能!
    「攻略不能な迷路かぁ……。きっと、みんなこのキャッチコピーに惹かれてきちゃったんだろーね。それにしても、閉鎖した施設に無断で入るなんて……、いけない事だと思うけど……。人の事は言えないか」
     苦笑いを浮かべながら、安曇・結良(ローザヘクセ・d03672)が都市伝説の確認された迷路に足を踏み入れた。
     この場所は迷路ブームの中で作られたものの、あっという間に廃れてしまい、今では廃墟になっている。
    「壁を壊したり、乗り越えたりするのは、難しそうですね」
     近くにあった壁をコンコンと叩いた後、八坂・千鶴(まひるのみかづき・d00751)が見上げるようにして呟いた。
     迷路の壁は参加者がつけたと思われる足型がいくつも残っていたが、そう簡単には壊れないようになっているらしくヒビひとつ入っていない。
     また、ズルをする参加者を防ぐため、壁も高めに作られていた。
    「ううっ……、元々不気味なのに、何が飛び出てくるか分からないから余計に怖いですね……。早く帰りたい……はっ! 気持ちで負けちゃダメです!」
     気合を入れるようにして大声で歌いながら、巽・空(白き龍・d00219)が藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)と一緒に、金色のスプレーで床に目印をつけていく。
     床には黒や赤のスプレーでいくつも目印が掛かれていたが、誰一人として金色のスプレーを使っていなかったらしく、とても目立っていた。
    「まあ、一般人をすべて救ってこいと言う訳でもないし、アリアドネという柄でもないから、無駄死にする人が出ない程度には頑張るとしましょうか」
     学園のオーダーに最低限は応えるつもりで、リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)が通路を進んでいく。
     迷路の中で一般人を守りつつ、都市伝説と戦う事など、ほぼ不可能。
     そんな危険を冒してまで戦うのは、逆に言えば自殺行為である。
    「どちらにしても、ゴールのない迷宮などあるわけがない。箒に乗って少し様子を見てくるとしよう」
     すぐさま空飛ぶ箒に飛び乗り、織田・のすり(熱き矢の如く・d07363)が空飛ぶ箒に乗った結良と一緒に、上空から迷路全体を見渡した。
     その途端、何か異常を見つけたのか、大声をあげてどこかを指差している。
    「どうやら、急いだ方が良さそうだな」
     険しい表情を浮かべながら、遠近・レイラ(高校生殺人鬼・d07857)が結良達の指差した方向に向かう。
     そこで待っていたのは……。
    「きゃああああぁぁぁ!? で、で、で、出たあああ!!」
     今にも腰を抜かしそうな勢いで、空が涙を浮かべて悲鳴をあげる。
     そこには巨大な棘付きハンマーを持った都市伝説がおり、荒々しく息を吐いて一般人達を追い詰めていた。
     一般人は全部で3人。
     そのうちの一人は右足があらぬ方向に曲がっている。
    「閉鎖されているところに入ってくるから、こうなるんだ。ともあれ無事でよかった。他に連れはいるか?」
     少し怒った様子で叱りつけ、悠二郎が一般人を守るようにして陣取った。
    「い、いや、俺達だけだ」
     恐怖のあまり、そう答えるのが、やっとの一般人。
     しかし、都市伝説は纏めて始末してしまえと言わんばかりに、巨大な棘付きハンマーを振り回す。
    「あなた達、邪魔なの。はやくここから立ち去るの」
     都市伝説の注意を引きつつ、古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029)が一般人達に警告をする。
     だが、一般人のうち一人は怪我をしており、他のふたりは恐怖で足がすくんで動けない。
     その上、恐ろしい思いをした後のため、『い、嫌だ! 死にたくない!』と叫んで、身を強張らせた。

    ●一般人
    「うっ、牛頭さん、覚悟です!」
     ビクビクとした様子で、空が都市伝説の行く手を阻む。
     本当は怖くて怖くて仕方がないのだが、ここで都市伝説の攻撃を避ける事は、一般人を見捨てる事にも繋がってしまう。
     しかも、都合が悪い事に一般人が『死にたくない、助けてくれ』と叫んで、空の両足を掴んでいる。
     まさに、まな板の鯉状態。
     出来る事なら、このまま一般人を蹴り飛ばして、逃げ出したいところである。
     もちろん、そうしないのが空の優しさとであるのだが……。
    「入り口があるのだから、最低でもそこから出られます。出口の無い迷宮などというのは都市伝説です」
     一般人に入口まで続く目印を教えた後、千鶴が歌を歌って都市伝説の興味を引いていく。
     だが、一般人はパニックに陥っているせいで、『う、動ける訳ねーだろ! もう一体いたら、どうするんだよっ!』と言って、なかなかその場から動こうとしない。
     おそらく、都市伝説に襲われた事で恐怖心が増しており、いつも比べて弱気になっているのだろう。
     幸い、都市伝説の注意は千鶴達に向けられているが、いつまでも大丈夫であるという保証はない。
    「ほら、どうした。かかって来い。俺が全力でねじ伏せてやる」
     わざと都市伝説を挑発しながら、悠二郎が一般人達から離れていく。
     ……現時点でこれが最善の選択肢。
     そう心の中で思いつつ……。
     都市伝説もその挑発に乗って巨大な棘付きハンマーを振り回し、壁を壊すようにして悠二郎の後を追う。
     そのせいで、何度か壁の破片が突き刺さり、危うく棘付きハンマーの餌食になりかけたが、ここで立ち止まる訳には行けないと思って力を振り絞り、何とか致命傷を避けている。
     しかし、これも時間の問題。
     油断すれば、あっという間に、ぺっしゃんこ。
    「……まったく次から次へと!」
     不機嫌な表情を浮かべ、リリシスがペトロカースを使う。
     だが、都市伝説には効果がない。しかも、一般人達がまだ逃げていない。
    「早く逃げるなの」
     先程よりも口調を強めて一般人達を叱り、智以子がひたすら機械的に刃を振るう。
     その途端、都市伝説が振るった棘付きハンマーが直撃し、智以子の体が軽やかに宙を舞う!
     しかし、智以子も怯まない。
     ただ、ひたすら都市伝説に攻撃を仕掛け……。
    「何とかして引き離さないと……!」
     都市伝説の死角に回り込み、結良がマジックミサイルを撃ち込んだ。
     その一撃を食らった都市伝説が結良に対して敵意を向け、勢いをつけて棘付きハンマーを振り上げる。
    「ああ、早く倒してしまわないとな。悲しい結末などいらん」
     都市伝説の背後からいきなり攻撃を仕掛け、仲間達と連携を取って注意を逸らす。
     そのため、都市伝説が殺気立った様子で、棘付きハンマーをブンブンと振り回し、辺りに壁を壊していく。
    「だが、都市伝説のおかげで、大分離れる事が出来たようだな」
     都市伝説の攻撃を避けつつ、レイラが一般人達のいる方向に視線を送る。
     彼らはまだ逃げていないようだが、これだけ離れていれば巻き添えを食らう事はないだろう。
     逆に言えば、ようやく……本気が出す事が出来る!

    ●都市伝説
    「それじゃ、本気を出させてもらいますよ」
     一気に間合いを詰めながら、千鶴が都市伝説に居合斬りを叩き込む。
     予想外の早さに驚く、都市伝説。
     あまりにも速過ぎたせいで、反撃する事すら忘れている。
    「まさか、あれで私達が本気を出していたと勘違いしているわけではないだろうな」
     都市伝説に冷たい視線を送り、レイラが次々と攻撃を仕掛けていく。
     すぐさま都市伝説が反撃を仕掛けようとしたが、それよりも早く空が放った杭雷撃が炸裂した。
    「俺の、いや、俺達の勝ちのようだな!」
     仲間達と連携を取りながら、悠二郎がサイキック斬りを放つ。
     その一撃を食らった都市伝説が涎を垂らして怒り狂い、棘付きハンマーを投げ飛ばす勢いで、狂ったように振り回す。
    「相手が一般人ならまだしも、私達にそれじゃあ……倒してくださいと言っているようなものよ」
     都市伝説の死角に陣取り、リリシスがペトロカースを使う。
     次の瞬間、都市伝説が完全に石化し、持っていた棘付きハンマーがドシンと床に突き刺さる。
     その拍子に都市伝説の体に無数のヒビが入り、派手な音を立てて木っ端微塵に砕け散った。
    「何とか倒す事が出来たようだな。せっかくだから、ゴールまで行かないか? 『この迷路には出口がない』という噂を壊しておいても面白い」
     都市伝説が消滅した事を確認し、のすりがクスッと笑って仲間達を誘う。
     この迷路が営業中ならば、攻略する事が難しかったかも知れないが、目印をつける事が出来る分、当時よりも楽に進む事が出来るはず。
    「えっ……、出口を目指すんですか!? 確かに出口は気になりますけど……」
     険しい表情を浮かべながら、空が気まずい様子で汗を流す。
     確かに、攻略する事は出来るかも知れないが、ここに着くまでもかなり時間が掛かったため、想像するだけでも気が遠くなってしまう。
    「お先に、失礼するの」
     まったく興味がない様子で、智以子がサッと踵を返す。
     だが、のすりに止められ、抵抗虚しく出口まで行く事に……。
    「それじゃ、私は怪我をした人を連れて、迷路を出るね。あのまま放っておくと、いつまでも出ないような気がするし……」
     苦笑いを浮かべながら、結良が一般人達を迎えに行く。
     その後、結良と別れた、のすり達が出口に辿り着いたのは、それから数十時間後の事であった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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