●
名古屋での大規模戦闘の後、散り散りになった有力なダークネス達の動向を探る羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)達、灼滅者は初夏の草木薫る赤石山脈へと足を運んでいた。
敗北後、南アルプスへと逃げ込んだ『うずめ様』が所有する『刺青』――刺青を収集するという行動をとっている以上、刺青羅刹『依』が彼女と接触しない筈がない。
『南アルプスに逃げ込んだうずめ様の持つ予知能力……朱雀門高校は彼女の能力を目当てにうずめ様と接触する可能性も高いだろう』
朱雀門の刺青羅刹『鞍馬天狗』や交渉事を得意とする本織識音等の接触も見込まれていた。鞍馬天狗とうずめ様が接触するとなれば、二つの刺青が一度に収集できる好機となることだろう。この好機、天海と外道丸の二つの刺青を手に入れた依が逃すわけがない。
その考えを同じくした灼滅者達によって赤石山脈、通称『南アルプス』での捜索活動が行われている――そして、連絡用として所持していた携帯電話は大きく鳴り響いたのだった。
●『連絡』
南アルプスでの捜索活動に進展が見られたのだと電話の主は告げていた。
スサノオ壬生狼組の精鋭を連れた刺青羅刹『依』の発見。
依は朱雀門高校の鞍馬天狗とうずめ様の接触を察知した可能性が高い事が様子を見て伺われた。予知能力を持つうずめ様が容易に居場所を特定されるとは思えないが――……。
「まずは、依とスサノオ壬生狼組が向かっている場所に向かおう。
敵の戦力は脅威だが、依の狙いは『うずめ様』や『鞍馬天狗』の襲撃――そして、刺青の奪取だと考えられる」
うずめ様と鞍馬天狗の対応に追われる刺青羅刹『依』。
この状況を打開すべく、混戦状態に参入する事が出来たならばまた事態も動く事だろう。
――。
――――。
――――キンッ。
決して遠くは無い、響き渡る鈴の音。
玲瓏なる響きは鈴では無い、刃がぶつかりあう音なのだろう。
戦闘場所が近いのだと鮮やかな新緑の中を駆ける灼滅者に状況を伝える連絡は混戦状態を示唆していた。
先程発見された依とスサノオ壬生狼組100体の勢力はうずめ様の潜伏する洞窟へと辿りついた。
うずめ様が配下として連れる旧日本軍風の羅刹30体の他、予測の通り交渉へと訪れていた鞍馬天狗と本織識音と彼女達の護衛役を担うクロムナイト20体が依の軍勢に襲われたとのことだ。
「戦況はスサノオ壬生狼組が優勢」
その言葉は依がうずめ様と鞍馬天狗の刺青を手に入れる可能性を十分に感じさせた。
連絡係を担ったチーム以外、灼滅者達は現場に到達していない状況だ。
生い茂る草木に、遠く聞える声を辿り、いち早く到着しなくては刺青羅刹『依』が強大な力を所有する事になる。
名のあるダークネスが4名。其々の思惑があり、朱雀門やうずめ様といった名のある存在が欠ける事が他の勢力等に大きな影響を及ぼす可能性は否めない。新興勢力である依が更なる戦力を増強させ手に負えなくなる可能性さえもある。
戦闘中に乱入すると依の勝利を防げる可能性もある。しかし、相手は『ダークネス』だ。
灼滅者を脅威と認識した場合は同盟を組み、灼滅者を先に全滅させるが為に手を討つ可能性もある。
「刺青を奪わせない事を目的として――どう、行動するかが鍵なんだな」
誰かが呟いた言葉は今回の作戦の重要な部分だったのだろう。
驚異的な『刺青羅刹』。その力を集める『依』。彼女の勝利を防ぎ、同時に自分達も生還を果たさなくてはならない。
情報を齎した班は戦禍の中にいることだろう。急ぎ向かう上で考える事は山積みだった。
いつ介入し、どのように相対するか。どのような言葉を掛けるか。
重要な『タイミング』、『行動』――鍵を握る二つの要素を掛け合わせ、より良い未来へと打開の道を開くのだ。
参加者 | |
---|---|
羽柴・陽桜(波紋の道・d01490) |
今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605) |
村雨・嘉市(村時雨・d03146) |
槌屋・透流(トールハンマー・d06177) |
羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908) |
護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128) |
牧瀬・麻耶(月下無為・d21627) |
日向・一夜(雪歌月奏・d23354) |
●
「接触すると睨んだ通りね」
幼い声色に少々の焦りを滲ませて羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)は小さく呟く。
走り続ける爪先を避ける様に開いた草木の中、耳元で揺れた星と蝶々が思いを乗せ、結衣菜は落ち付き払った様子で周囲を見回した。
「朱雀門の参戦はあまり好ましくないの。……ここから先で大丈夫?」
柔らかな緑のワンピースを揺らし、幼さをひた隠しにした怜悧な新緑の瞳を細めた今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)が持ち込んだ地図と現在地を照らし合わせる。
『ああ、こっちももう少しでたどり着けそうだ。かなりの強行軍だけどな』
携帯電話を手に素早い到着を目標としていた羽柴・陽桜(波紋の道・d01490)は別働隊である悠が伝える現状に小さな笑みを含ませて「あたし達もあと少しです。どうぞ、ご武運を」と悪戯めかして告げた。
決して、容易な道では無い事を陽桜は知っていた。それは、連絡先である悠達の言葉からもよく分かる。跳ね上がり、岩へと飛び上がった日向・一夜(雪歌月奏・d23354)は蒼褪めた空に息を飲んだ。
「進もうか?」
「行くはよいよい、帰りは怖ッスよね――行きやしょう。もうすぐッス」
長い雪色の髪を揺らした一夜の声が空に吸い込まれてゆく。赤石山脈の青々とした木々達の中、空の色は余りにも『綺麗すぎた』。ズリ落ち掛けたフードを被り直し、悪を滅するが為に行く牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)は何処か気だるげに小石を蹴る。
彼女の小間使い役をしていたヨタロウは投げ遣りな雰囲気ながらも、目的を持ち進む主人を後押しする様にその小さな手で背中を押した。
障害とならんものを両腕で抱え上げた村雨・嘉市(村時雨・d03146)は鋭い両眼でちらり、ちらりと周囲を見遣る。女性を中心とした班構成に嘉市は喜ぶ訳でもなく静かに息を吐いた。
「女性は苦手でいすか?」
同じクラブに所属している護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)には彼の視線の訳が良く分かる。
黙々と進む嘉市が不良の様な面立ちをしながらも、女性が苦手なのだというのだ。頭にぐるりと巻いたタオル越しにがしがしと乱暴に掻き毟った嘉市がサクラコに「仕方ねえだろ」と緩く笑みを漏らす。
「仕方ないでいすね」
「ああ。――何か、聞こえないか」
二人のやり取りに、相槌を返す槌屋・透流(トールハンマー・d06177)の耳に遠くから聞こえた刃の音。
聞き覚えのある声が聞こえ、「急ごう」と紅葉が地面を蹴った。
●
紅き焔が揺れている。鋭利な角を覗かせた半獣人の姿が見える。『それ』が康也であると気付いた透流が「犬っころ」とぽそりと呟く。
「嘘――だろ」
余り表情を変える事の無かった透流の瞳が緩く見開かれる。獣と化した彼だけでは無い、黒衣の青年の後姿も見える。
「闇堕ちが二人……ハードな状況だね?」
凛と、鈴を鳴らす様な朗らかな声音で一夜は伺う様に紡ぐ。連絡役を買って出ていた陽桜はどうしたものかとぐるりと仲間達を見回した。
「助けにいくでいす。見過ごせませんよ」
気になるのはうずめ様――しかし、この窮地を見捨てて『洞窟』へと飛び込む事も出来ない。到着の早かったサクラコ達にとって、この窮地を救う綱は握られているのだ。
ちら、と視線を零した嘉市は「厄介だな」と頬を掻いた。女性を得意としない彼にとって、女性だらけの陣営は不安が大きい。そうも言っていられないかと両の足に力を込め、息を潜めたまま傍らの陽桜へと「援軍だ」と笑みを零した。
『俺達の班は全員到着した。あっちじゃ二人も闇堕ちしてる、間違いない』
互いの存在は認識している。携帯電話越しに聞こえた声音が僅かに緊張を孕んでいる事に陽桜は身を固くして仲間達を見回した。
「行くしかないっすよ」
ぽつりと麻耶が零した言葉に、突入の言葉を渋った陽桜は震える声音で絞り出した。
「――いきましょう。このままでは、誰かを喪う事になります」
窮地へと飛び込む恐怖に打ち勝つ様に立ちあがった陽桜は時を同じくして動き出したもう一つの班の姿を両眼へと焼きつける。
竦む両足を止めること無く飛び込むその場所が難境であると知りながら、今は、もう止まることはしない。
スサノオ壬生狼組を嗾け、先陣切って戦闘を行っていた班員達の追撃を行わんとする依の姿に結衣菜が大きな双眸を見開く。
結い上げたブラウンの髪を揺らし、エアシューズで靱やかに地面を走った結衣菜は「加賀さん……!」と声を荒げた。
「依に集中し、彼女を討つしかないでいすね!」
「敗走? そんなの冗談じゃない。援護がくるまで耐えきるしかないね」
人差し指に嵌めた指輪へと口付けを落とした紅葉が淡々と告げる。周囲を確認したサクラコは『うずめ様』を心配する様に遠巻きに洞窟の入口へと視線を向けた。
状況は圧倒的不利に陥っていると紅葉は推測する。重篤なダメージを受けた別働隊の撤退の機を作り上げ、洞窟を封鎖する壬生狼組と相対する壬生狼組の数に固唾を呑む。
「死んだ奴を生き返らせてまで、奪って集めて御苦労な事で。
状況もかなりメンドくさいし、いい加減刺青関係もメンドくさい――この機会に終わらせちまいましょ」
先陣切り、放った帯が制度を上げて飛び込んでゆく。白い猫の耳のフードをくい、と引っ張った麻耶が壬生狼組を蹴散らさんと周囲へと警戒態勢を敷く。
続く透流が持ち前の機動力を生かしてスサノオへと一打加えれば、サクラコが「やりますねい」とへらりと笑って見せた。
その細腕のどこに力が籠められているのかは分からない。華奢な両腕で抱え上げた武器はよく使い古されている物だ。
「うずめ様も気になりますが、依を討つ――それがサクラコに課された確定事項ですねい」
へらりと笑い、鮮やかな紅の衣を揺らすサクラコは壬生狼組の攻撃をひらりと躱す。
周囲で巻き起こる戦火が広がりつつあるのをその背で感じ、うずめ様がどの様に考えて洞へと逃げ込んだのかを茫と考えた。
「うずめ様も気になるが――『迎えにきたんだ』」
涼やかな目元に僅かな熱を孕み透流は壬生狼組の背後へと控えた依を見遣る。
「依ではない加賀・琴さんに用があるのよ。加賀さん――! 聞いて!」
落ち付き払っていた結衣菜の声色が変化する。
朱雀門のオプションが付き、的確に灼滅者を死に追いやろうとする依の所業は彼女の知る『琴』とは余りには違っていた。焦りを滲ませ、壬生狼組の一太刀を受け止めた結衣菜は強打に痺れた掌へと力を込める。
「四季彩の、いろんな人が待っています。加賀さん、あなたが欠けて哀しむ人が居るんです!」
「依さん、あたしは依さんとお別れしたくないです。灼滅、したくないです……!」
結衣菜の言葉に続き、陽桜が声を張り上げる。多勢の中、聞こえる事の無いかもしれない懇願にそれでも良いと藁にも縋る思いで陽桜は声を震わせた。
「もう後回しにするつもりはないわ! 加賀さん、戻って来なさい――!」
明日等の強い訴えの声は、敵意と説得の中でも惑う事はない。
遠く、壬生狼組の後ろに控えた彼女に届かないかもしれない――理解しながらも『出来る事はやりたい』のだ。
その内にも戦況は悪い方向へと転がり続ける。嘉市が地面を蹴り、苦手とする女性陣をしっかりと庇わんとその体を戦火へ投じる。
「ッ、随分厄介な状況じゃねえか」
平静を装いながらも焦りをにじませる嘉市がその武骨な掌を包み込んだ縛霊手をしかと握り込む。
「ここで負ける訳にはいかねえな?」
「そうね。私は……加賀さんを、迎えに来たのだもの」
進み続ける時計の針を止めることは出来ない。
襲い掛かる暴虐の向こう側へ行く事が出来ない事を結衣菜は酷く歯噛みした――傷が、深くなりつつあるそれを癒しながらも感じとった『不安』を拭う様に「琴さん」ともう一度呼んで。
●
「女だからって容赦しねえぜ?」
口端が切れ、零れた血潮を拭った嘉市が鋭い瞳で依を射る。
彼女へと言葉は聞こえて居ないだろう。彼の背後で言葉を張り続けた仲間達の『想い』が届いていないのは重々に承知だった。
「刺青の入手だけは阻止しねえとな……? 掛かってこいよ」
臆することなく地面を蹴り上げる。地面を擦り勢いよく飛び込む蹴撃に一体のスサノオが怯む。
「そのままぶち抜く!」
と、嘉市の攻撃に続く透流は帽子を押さえ、クルセイドソードを振り上げた。
心の奥底で、『友人』が笑っている。喪ったいのちが疼く様に彼女の心をとんとんと叩き続ける。
透流はその感覚を拭うことなくただ、直走った。
(「犬ッコロ――! 負けて、堪るかよ。ここで、アンタ達はぶっ壊す」)
ぎり、と奥歯を噛み締める。出来る事は出来るだけやるしかない。それは、依を琴に戻す事も『この場で生還することも』両方だ。
彼女達の班はアタッカーを編成せず、攻撃を当てる事を重視していた。多数の敵を的確に打ち払う事には特化していたが大挙をなす相手では難しい。
狙い穿つ様に放たれた一閃に結衣菜が息を飲む。「加賀さん」と幾度も繰り返した声が掠れ、途切れかけた意識を繋ぐ。
膝をつく嘉市を庇う様に後方へと押しやって一夜は「各個撃破なんて言ってる場合じゃない」と涼やかな声音で告げた。
流星散らす如し鮮やかな一撃も、振りを悟っては鈍り続ける。このままでは死人が出ると一夜が息を呑んだその傍らで透流が地面へと伏した。
「撤退を――!」
声を振り絞る陽桜に応える仲間達の数は少ない。不安を滲ませた夜色の瞳が大きく見開かれる。
ダークネスとの戦力差が『当たり前の日常』を壊さんと災となって降り注ぐ。両の目が見てはいけないもを見ていると彼女は実感し震える足に動いて、と幾度も繰り返す。
「こんな……あたし、あたしは、琴さんと、依さんと、一緒に話せる未来が欲しいんです!」
「陽桜!」
無邪気な笑みをひた隠しに紅葉が声を張る。地面を蹴り、窮地に陥る戦陣を見通す双眸は冷酷な色を移した。
(「――灼滅者(なかま)じゃない、脅威(ダークネス)だ。倒さないと……」)
普段被った笑顔の仮面がどろりと融ける。柔らかな少女の表情に浮かんだ一つの冷淡さ。
紅葉の指先で点った契約の標から放たれた一筋の光が、陽桜を狙った攻撃を穿つ。
身体を捻り上げ、己に差し迫った『脅威』に此処までかと瞠る瞳の向こうにサクラコが柔らかに笑っていた。
「サクラコには限界なんてないでいすよ」
大きく揺れたのは彼女の髪を飾った黄のリボン。全てを押し潰さんと振るわれた大鎚が壬生狼組の身体を薙ぎ払う。
傷を負ったサクラコの体が大きく宙を舞う。後方で仲間達を護らんと陣を張ったヨタロウと麻耶が彼女の身体を受け止め、小さく舌を打つ。
喧騒が、遠巻きにも聞こえてくる。それが何かを麻耶はまだ解らないでいる。攻撃を重ね、壬生狼組から嘉市を庇う様に身を投じた麻耶の眼前で壬生狼組の一撃を受けた結衣菜の脚が縺れる。
「琴さ……ん。この機会を、逃す、わけには――」
「危ない……!」
張り上げた声と共に陽桜の体が地面へと薙ぎ倒される。透流に嘉市、サクラコと陽桜に結衣菜と倒れた仲間達へと視線を零し麻耶の額からは冷や汗がつう、と流れ落ちた。
「て、撤退をするでいす……」
洞の奥へと退去したうずめ様の動向を気にしながらも動く事も出来ず、意識の糸をぷつりと途切れさせたサクラコに一夜は両の掌へと力を込める。
(「僕らは共存できるかもしれない――しれないのに、言葉が……」)
届かないのだ。壬生狼組は依の命を受け、只、暴虐の限りを尽くす。
闇に身を投じた別働班達でその数を削り、二つの班で壬生狼組と相対しても数の暴力には敵わない。ひたりひたりと近寄る闇の気配を拭う様に陽桜はポケットに入れた懐中時計へと指を這わせた。
●
「ここから先は行かせませんよ」
凛と、聞こえた庵の声に一夜が目を瞠る。続く、筆一の「支えます、任せてください」という一声に背を押される様に一夜は安堵の息を吐いた。
無論、戦況が好転したわけではない事を紅葉はよく理解している。回復を送り、前線での攻撃手として成り変わった仲間達の背を押す様に紅葉は懸命に回復を続ける。
(「戦況を切り開かなくちゃ――どうしよう……? 考えなきゃ、考えなきゃ」)
冷静な紅葉にとって、この状況が如何に難しいのかをよくよく理解していた。倒れた仲間達を護る事が何よりも大事なのだとしっかりと理解してか、その細い腕に力を入れ、クルセイドソードを握りしめる。
「麻耶さん、危ない!」
「やれやれッスね……依にとって灼滅者は鬱陶しいタイミングで邪魔しにくる。いつもの事ッスよ」
だからこそ、敗走を目前としているのかもしれないと麻耶は自虐の笑みを零す。
遠く見えた、紅の髪が揺れている――彼女の事を麻耶は知らない。
彼女の事を『ダークネス』だと紅葉はよく理解している。
彼女の事を『仲間』なのだと一夜は諦めきれない心地で見遣った。
「仲間を殺されれば灼滅者は動揺する。そこを狙って全滅させます」
淡々と告げられた指示に壬生狼組の標的が変化する。さ、と蒼褪めた麻耶の表情は普段の薄情さをひた隠しにしたかのようなものだった。
「守れるなら、怖くない」
ふわり、と雪の気配がする。凛と鈴鳴らす声音で告げた一夜がくるりと振り仰ぐ。
「麻耶、僕に任せて」
「日向さん!?」
周囲を見遣れば、闇に身を投じた灼滅者達が居る。一夜はまるでセイレーンを思わせる海色のドレスを揺らし声を震わせた。
蒼き海を感じさせるその歌声に壬生狼組が怯みを見せる。それだけでは臆さぬ相手だと知っているからだろう。灼滅者達は一転して攻勢を見せた。
ダイヤが浮かびあがった指輪へと視線を向けて紅葉は「守り切らなくちゃいけないのね」とぼそりと呟く。攻勢に転じた中でも、『殺しに来ている』と解る壬生狼組の行動は脅威に他ならなかった。
「帰ってお菓子食わなくちゃいけないんスけどね」
「じゃあ紅葉もお供するわ。美味しいのを用意して頂戴ね?」
小さく溜め息を漏らし、麻耶は消えた相棒へと視線をくべる。
スカートを持ち上げた紅葉が柔らかに微笑みを浮かべ、ゆっくりと顔を上げた。防衛戦ならば、灼滅者達は得意としていた。
死守して見せると一夜は笑い、美しい歌を奏で続ける。煌めく様な星空を纏わせた武器がゆっくりと地面を付いて、只、その戦況を見守り続けた。
遠く、赤い髪が広がり、眩い光が周囲へと広がったそれに麻耶は視線を奪われる。
「――琴、」
呟いた一夜の声は蒼褪めた空に呑まれて消えてゆく。
遠く消えてゆく壬生狼組達を見守って、少女は幼さを残したかんばせに柔らかな笑みを乗せ蒼褪めた空を只、見上げた。
作者:菖蒲 |
重傷:槌屋・透流(ミョルニール・d06177) 死亡:なし 闇堕ち:日向・一夜(蒼界ラプソディ・d23354) |
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種類:
公開:2016年6月1日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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