ともに碧き水底へ

    作者:六堂ぱるな

    ●招く魔の手
     夕暮れ時を迎えて、蒸し暑さすら感じる気温が落ちついてきた。
     バーベキューにほどよく酒も回って心地よさに身を任せていた時。
     それは耳に忍び入ってきた。
     どこからか聞こえてくる美しい旋律と、華やいだ嬌声。

     彼らが海辺に出て岩場を覗くと、三人の娘たちが楽しげに笑っていた。細工の美しいハープを手にした栗色の髪の娘が振り返る。
    「あら、こんばんは」
     瓜二つの美しい顔をした、金髪の娘二人が妖艶に微笑む。
    「すてきな人たちばかりね」
    「でもちょっと恥ずかしいわ」
     栗色の髪の娘が再びハープを爪弾き歌いだすと、金髪の娘たちも踊りを再開する。ほどいたパレオを大胆に翻したかと思えば、恥じらうように背を向けて流し目を送る。
     青年たちが岩場へ我先に下り始めた。岩場で苦もなくあでやかに踊る彼女たちに、疑問を感じる理性は消し飛んでいる。
    「ふふ。アトリ姉さまのお歌の綺麗なこと」
    「ええ。アトリ姉さまの演奏も素敵だこと」
     ビキニのトップスを外して海へ放り、金髪の娘たちの踊りは一層危うい色香を増した。
    「貴女達の踊りも素晴らしいわ。コルヴィデ、トゥルディデ」
     歌うのを止めた栗色の髪の娘が、鈴を振るような美声で二人を称賛する。
     彼女たちの間近までやってきた青年たちはもう、決定的に大切なものを失っていた。

     みしみしと音をたて、顎の下に深い切れ込みが入り、眼は互いに離れて大きくなる。
     鱗がういた体は猫背ぎみに曲がり、水かきのできた手を伸ばし、彼女たちに誘われるまま水面へ身を躍らせる――。

    ●魂を掬いあげろ
     サイキック・リベレイターの発動以来、淫魔の活動が極めて活発だ。
     今日も埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)が、苦虫を噛み潰したような顔で灼滅者たちを待っていた。
    「被害者はシーカヤックをしに海岸を訪れていた大学生たちだ。総勢8名、全員が半魚人としか言いようのない姿に変えられ連れ去られる」
     灼滅者たちの到着時点では大学生たちは人の姿をとどめているが、既に淫魔たちに魅了されている。淫魔を攻撃すれば彼女たちを守ろうとして異形化が加速し、半魚人となって敵対するだろう。
     大学生たちは一度半魚人と化してしまえば、たとえ淫魔を灼滅しても救えない。彼らも灼滅するしか道は無くなってしまう。
    「そこでだ。なんとか淫魔に歌や踊りで対抗して、大学生たちの注意をひき意識を取り戻して貰えないだろうか。そうすれば彼らの半魚人化を阻止でき、敵の配下も増えず有利に戦える」
    「どうやって?!」
     思わず灼滅者数人からツッコミが入った。
     淫魔相手に歌や踊りで対抗するのはどう考えても困難だが、他に彼らを救出する術はない。これは灼滅者のアイディアが重要になる。
     考え込みはじめた灼滅者たちに、玄乃は資料を配り始めた。
    「場所は宮崎県南部の日南市。詳細は資料を見てくれ」
     郷愁を誘うような歌を歌い演奏する淫魔はアトリ。艶めいた一方で庇護欲をそそるような踊りを見せる双子の淫魔、コルヴィデとトゥルディデ。
     アトリはバイオレンスギターと、サウンドソルジャーのサイキックの一部を使う。コルヴィデとトゥルディデはダイダロスベルトと、サウンドソルジャーのサイキックの一部。配置は踊り手二人がクラッシャー、弾き手がメディックだ。
     もし大学生たちが半魚人と化しても攻撃力は低いが、命がけで淫魔を庇う。数がいれば淫魔の灼滅は困難を極めることになるだろう。その点でも大学生たちをどう歌や踊りで引き戻すかがポイントになる。
     ファイルを閉じて、玄乃が溜息をついて眼鏡のブリッジを押し上げた。
    「友人と連れだって行った海で美しい音楽と踊りにまみえる……それだけならよい思い出だったものを。こんな勢いで一般人が片っ端から半魚人にされてはたまらん。無論、諸兄らも無事に戻って貰いたい」


    参加者
    稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)
    万事・錠(ハートロッカー・d01615)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    呉羽・律希(凱歌継承者・d03629)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    青和・イチ(藍色夜灯・d08927)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)

    ■リプレイ

    ●淫魔に挑め
     夕陽の中に見え隠れする、三人の淫魔の白い肌。
     すっかり惑わされ怪我も厭わず我先に急な崖を下りてゆく大学生たちに、青和・イチ(藍色夜灯・d08927)が憐れみの眼差しを送った。
    「何という、か……淫魔って、ずるいよね……」
    「美女に釣られてインスマス面になるとかぞっとしねぇな」
     北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)もなんとも複雑な顔でぼやく。
     淫魔たちの演奏と歌声、典雅な舞いの美しさはともかく、北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)に負ける気はない。
    「優雅な歌や踊りもいいですが、かっこいいロックな演奏も魅力的なのです! ロッテ、いきましょうですっ」
     呼応するように彼女のナノナノ、可愛らしい衣装を着こなすクリスロッテがはばたく。
    「……僕、見えないよう……眼鏡外しとこ」
    「まあエロ成分は向こうが格段に上だが、その分音楽では負けねぇってとこ見せてこいよ。存分に歌ってきな」
     眼鏡をしまいこむイチをよそに、一・葉(デッドロック・d02409)が女子たちを振り返った。水着のトップスの裾を引っ張り、城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)が頷いてぐっと拳を握る。
    「女子で振りも合わせていきましょ。あとこっちにはくろ丸もロッテもいるもの、この可愛さだって彼らを引き付けると思うの!」
     もちろんと言いたげに、イチの魂を分けた相棒であるくろ丸が尻尾を振ってみせた。お顔は怖いけれど最上級もふもふの、こちらも女子。クリスロッテも可愛らしい声をあげる。
    「もちろんです千波耶姉さん。全力を尽くしましょう」
     オペラ歌手を目指す呉羽・律希(凱歌継承者・d03629)も微笑んだ。学園祭やイベントのライブでの音で繋がる一体感――あの感覚に、大学生たちを巻き込みたい。
     一方、思いがけない事態に目が遠いどこかを見ている者もいた。
    「玄乃が人を募集してるっていうから来てみたら、なぜこんなことに……」
     他が全て軽音部員と気付かずに飛び込んできたプロレスラーの稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)である。
    「ちょっとこれ、戦いより緊張しちゃうかも……とはいえ、これもエンターティナーとしての幅を広げる好機ってね」
    「その意気っすよ稲垣先輩。それにしても女子が水着で揃ってるとアガるなー。おっし、下りて一発ぶちかますか!」
     晴香を激励して、軽音部部長の万事・錠(ハートロッカー・d01615)が簡易アンプの準備を済ませて仲間に笑いかけた。グレーのカモフラ地に白のスプラッシュのハーフパンツと自身も水着で臨んでいる。
     大学生たちを悲劇から救出するための戦いが、始まる。

    ●宣戦布告
     どこか寂しげな色を帯びる美しい歌。舞う二人の楽しげな嬌声。
     それらを遮り、不意に身体の底から揺さぶるようなベースの低音が海辺に響き渡った。半ば魂を奪われかかっていた大学生たちが思わず振り返る。
    「まずは鼻の下伸びきっているヤロー共にガツンと一発」
     黒いベースを爪弾いて葉が呟き、簡易式のドラムを持ち込んだ錠が葉のラインに合わせて力強く叩き始めた。
     顔を見合わせるコルヴィデとトゥルディデに、ギターを提げた葉月が宣戦布告する。
    「歌と美貌で野郎共を誘惑するなんて、まさに伝説のサイレーンだな。だけど、そう簡単には海の藻屑になりはしねぇぜ。俺らの音楽と、どっちが魅せることができるか勝負だ!」
    「私たちの邪魔をするの?」
    「w邪魔はさせないわよ?」
     見分けもつかない金髪の娘たちが柳眉を逆立てた。
     当のアトリは突然現れた闖入者を不審げに見やりつつも、演奏も歌もやめようとしない。むしろ他者に気を取られたことを嘆くような哀愁を帯び、大学生たちが再びふらりと娘たちの方を向く。
     虚ろな目の大学生たちへ、キーボードに指を滑らせながらイチが呼びかけた。
    「夏間近の、海、見るだけより……一緒に、盛り上がりません?」
    「舞台度胸なら武蔵坂の誰にも引けを取らないわ! 歌って戦うプロレスラー稲垣晴香、オンステージよ!」
     技術的には軽音部の皆には敵わなくとも、プロレスで鍛えた体力と精神力でできることを。愛用の真っ赤なリングコスチュームに黒いハーフジャケットを羽織った晴香の名乗りに続き、イチが無表情のままライブの開幕を告げる。
    「武蔵坂軽音部with稲垣晴香……さあ、祭が始まります」
    「即興ライブを楽しんでくれや。アゲていくぜ!」
     黒と赤のパンクな柄のハーフパンツで葉月がシャウトと同時に『Essentia』の弦を弾き、勢いのついたメロディにノった錠がスティックを回した。
    「最高のパフォーマンスを魅せてやらァ!」

    ●ミュージックバトル!
     甘いフリルたっぷりの水着をまとった千波耶のメゾソプラノが響く。願いは、大学生たちが一緒に音楽を楽しんでくれるように。つれない相手へのちょっと拗ねたような歌詞は、彼女のスモーキーな声によく合った。

     あなたの背ばかり見ている あなたの笑顔を後ろで見てる
     華やかで鮮やかな人魚が好きなのね
     あなたの手には入らないのに

     律希がボーカルを引き継ぐや一転、黒のビキニで際立つクールビューティ。
     その歌声が熱を帯びた。一度は闇堕ちしたからこそ伝えたい。
     闇の底はとても悲しく寂しい場所だということを少しは知っているつもりだから。

     水底はとても暗いところ 暗い男は好きじゃないわ そちらに行きたいならご勝手に
     けれど私はあなたを放っておけないの
     あなたの視線を海の闇に取られるのは悔しいから

     くろ丸がきゅーん、と寂しげな鳴き声をあげて大学生たちの足元を駆け回った。三人が足を止め、呆然とくろ丸を見――後ろから響く歌と演奏に動きを止める。
     愛用のコスチュームの燃え上がるような赤の情熱をこめて晴香が歌った。

     何もしないで諦められない 傷つくことも厭わない
     たとえ心が折れかけても 立ち上がり前を向く姿がきっとあなたに届くから

     楽しげに舞うクリスロッテと笑いあって、朋恵が伸びやかな歌声を響かせる。大きなフリルとリボンのキュートな水着姿は妹系の王道そのもの。
     明るい振りつけと笑顔でサビへ盛り上げながら、胸の中は焦燥にかられていた。

     振り向いて いいえ 振り向かせてみせる 行ったらあなたは人魚の虜
     私はあなたを忘れられないの
     あなたのこころを水底に閉じ込められるのは嫌だから

     駆け上がるようなアッパーチューン。
     千波耶の、律希の、晴香、そして朋恵の声が同じ言葉を歌い上げる。

     あなたの見ているのがどんなきれいな人魚でも
     水底はあなたの居場所じゃないわ
     こっちを向いて 手をとって 笑って歩いていきたい

     『音』で勝負するのなら余計な言葉はいらない。
     ピックを使わない葉の弾く音は強いけれど柔らかくしなやかで、スティックを自在に操る錠のドラムはビートのきいたパワープレイ。阿吽の呼吸で刻む二人のリズムが仲間を支える。ボーカルに寄り添ってきたイチのキーボードの音が一際広がって踊り、くろ丸もキラッキラに目を輝かせ、楽しげに仲間たちの周りを駆け回った。

     ブリッジを担当する葉月がソロで歌い出す。英語に変えた歌詞を滔々と歌い上げるその力強さに、更に二人が頭を揺らしながらも立ち止まる。
     メロディラインを支えてギターを響かせ、葉月は想いのたけを叩きつけた。
    「甘い罠につられて魚面になるなんてもったいねーぜ。俺らの歌で目ぇ覚ましやがれ!」
     全身全霊を込めた演奏と歌が、ひとつの想いに集約する。

     そして。
     水底へ招かれていたすべての足は止まった。
     操る糸が切れたような大学生たちが、ついに三人の淫魔たちに背を向ける。

    ●悪意ある海の魔
     何が起きたのかわからない大学生たちへ、律希がすかさず駆け寄り微笑みかけた。
    「こんな崖の下にいたら危ないですよ。キャンプ場に戻って下さい」
    「えっ、崖?」
    「酔いすぎ、じゃない、かな……」
     イチの言葉にも納得した大学生たちは素直に律希の指示に従った。ラブフェロモンが絶大に効いていることもある。錠や葉月の発する殺気に背を押され、後も見ずに崖を上っていった。
     誰一人奪えなかったことに、アトリが愕然と呻いた。
    「そんな馬鹿な……!」
    「アトリ姉さまの邪魔をするなんて」
    「私たちの下僕を逃がすだなんて」
     いきまくコルヴィデとトゥルディデを通せんぼして、錠がにやりと笑った。
    「こっから先は俺等と対バン勝負といこうじゃねェの!」
    「男獲られたからってそうヒスんなって。代わりに俺らとあそぼーぜ? 死ぬまで離さねぇよ」
     ベースを下ろした葉がカードの封印を解き、誰のものとも知れぬ血糊にまみれた槍を手にけだるげに応じる。次いで葉月もカードを解放した。
    「Are you ready?」
    「こちらはOKよ!」
     アトリの手の中でハープが異様な響きをたてた。葉月に向かった音の刃にはくろ丸が割り込みダメージを引き受ける。
     入れ替わるように前に出た葉月の手から放たれる槍の紅い飾り紐が揺れた。捻りの入った一撃がしたたかにコルディデの腹を突く。
     ジャケットを脱ぎ捨てた晴香がエルボー・ドロップで打ちかかり、破邪の光を灯した錠の『JUDAS』の斬撃と葉の螺旋を描く『Unknown』の刺突が続けざまに襲った。
    「もう、惑わされない」
     イチが元通り眼鏡をかけて淫魔たちに向き直る。ライブの後の、音楽に勝る魅力など存在しない。まとう至高のベルトがきらっと輝いて疾り、コルディデの胸を深々と抉った。
    「くっ!」
     血を吐いたコルディデは体勢を立て直すと、トゥルディデとステップを踏むように位置を入れ替えながらパレオを放った。パレオは刃物のように鋭く、晴香とイチ目指して翻る。
    「させっか!」
     イチの前には錠が、晴香の前にはクリスロッテが飛び込んだ。
    「さぁ、戦劇を始めようか!」
     オペラの一幕のように律希が声量豊かな声を張り、ファンファーレの如くディーヴァズメロディがコルディデを揺さぶる。ふらついている間に千波耶が縛霊手を振り下ろすと、祭壇が展開して結界に二人を捕らえた。
     目に見えて足を引きずり始めたコルディデに、朋恵がダイダロスベルトを疾らせる。

    ●魔に滅びを
     庇い手を調達できずに攻撃を集中させられ、コルディデは見る間に弱っていった。
    「これで最後よ!」
     よろける彼女をを捕まえた晴香がクラッチして一気に持ち上げる。
     プロレス技を喰らったことのない淫魔に逃げる術はなかった。頭から叩き落とされ、衝撃に苦鳴をあげた次の瞬間、コルディデの体は氷のように透き通り砕け散った。
     癒し手であるアトリの回復を一身に受けたトゥルディデも、見る間にジリ貧に追い込まれた。身を守ろうと重ねた盾の加護は非物質化したクルセイドソードを振るうイチの斬撃と、勢いをつけた晴香のラリアットに剥ぎ取られている。
    「アトリ姉さま!」
     そこに葉が回り込んだ。演奏の最中に地形を確認し、目星をつけていたのだ。無造作に血塗られた槍が迸り、トゥルディデの細腰を貫いた。
    「どんだけ乳ぶら下げてよーが、ナノナノの魅惑の曲線とやわっこさには敵わねぇよ」
    「……貴方、どうかしているわ」
     そばを舞うクリスロッテを眺めながら言う葉に、真顔のトゥルディデが首を振る。
    「まあ淫魔に釣られるようなヤロー共にこの良さはわかんねぇだろうがな。つか見慣れ過ぎててピクリともこねぇわ」
     槍がゆっくり引き抜かれ、トゥルディデの体が透き通るとヒビが入っていく。
     がしゃりと音をたて、砕けて崩れ落ちていった。
    「トゥルディデ!」
     妹分の淫魔を失って跳び退くアトリを追撃し、千波耶の操る断斬鋏が無残に斬り刻む。血に染まってよろけた一瞬に、距離を詰めた葉月が『Essentia』の緋色のボディを渾身の力で叩きつけた。
     勢い余って吹き飛んだアトリに、朋恵がローラーダッシュで火花を散らせて肉薄する。避けようとした足は麻痺し、棒立ちの隙をついて炎をまとった蹴撃が喰らわされた。 
    「くっ……!」
     海へ逃れようと身を翻したアトリの前には錠が立ち塞がっていた。
    「アンタ、イイ声してるよな。人魚姫は王子を殺したら泡にならずに済むんだっけか。俺は王子にはなれねェけど、アンタの歌は忘れないよ」
    「優しいのね。逃がしてくれないかしら?」
     言葉に込められる催眠。盾の加護を重ねた錠にはダメージは入らず、赤い閃光を帯びた『St. PETER』の斬撃は体に傷ひとつつけずにアトリの精神を引き裂いた。
    「さらばだ、淫魔アトリ!」
     がくりと膝が崩れる体を、律希の放つ裁きの光が撃ち抜く。
     硝子が割れるような音を残し、アトリの体は氷の粒になって微塵に散っていった。

    ●笑顔の虜
     岩場は静けさを取り戻した。
     人を半魚人に変えるというホラーじみた事態を思い返して葉月が顔をしかめる。
    「サイレーンってのはやっぱスキュラばりに良い性格してるんだろうなぁ。やる事がえげつねぇぜ」
     人を半魚人にする淫魔を率いている段階で見通しは暗い。気を取り直して昏い海を覗き込み、葉月が残念そうに呟いた。
    「海開きもまだだし、水ん中に入るにはまだちっと寒いかな」
    「皆、今回は本当にありがとう! 楽しかったわ!」
     声を弾ませる晴香に、武蔵坂学園軽音部の面々が笑顔になった。無表情のままのイチの気持ちは、隣で楽しそうに尻尾を振るくろ丸が如実に表しているらしく。
     話している間に夜の帳がおり、岩場はみるまに暗くなっていく。慌てて律希が持ち込んだ機材の片づけを始めた。
    「錠兄さん、ドラムしまわないと崖上がるの大変ですよ?」
    「背負って上がればいいんじゃね」
    「錠くんなら気合いでいけそうよね」
    「えっ、俺だけMUSASHIの特訓でもすんの?」
     すごく本気っぽい葉の提案に千波耶が乗り、錠が仰天して振り返る。仲間の真ん中で、クリスロッテを抱きしめた朋恵が天使のような笑みを浮かべた。
    「お片づけして帰りましょう。ロッテとお手伝いするのですっ」

     サイレーンの配下たる淫魔たちの復活が続く。
     大淫魔の本丸に手がかかるのはいつの日か。初夏の海を背に、灼滅者たちは巣へと帰る。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ