をんなという毒で集落は死に到る

    作者:一縷野望

     とある海辺の村は未だ閉鎖的で時代に取り残されたような場所である。
     主に漁で生計を立てるこの地では、村長の気に障り一度『わ』から外されてしまったら生きるのもたちいかなくなるからだ。

    「……ふふ♪ おじいちゃんったらはっげしぃ♪」
     放心状態の村長の傍らから身を起こしたのは、漆黒の髪を持つ見目15にもならぬ娘。
     古びた着物を手早く着付けて娘は玄関戸をあける。
    「ねぇ、左一(さいち)これだけだと足りないぃ」
     クスという名の淫魔の娘は、玄関の前に番犬のように立っていた浅黒い同じ年の頃の少年へ背中からしなだれ掛かった。
     クスは先日、長い眠りから目覚めた。
     勿論リベレイターの影響だなんて知るよしもない。それどころか何の情報も得ていない彼女は、武蔵坂だの灼滅者だのどころか現在の常識にすら疎い。
     サイレーンの指示はない。
     仲間達へ連絡もできない。
     ……であれば、とりあえずは愉しく過ごせてすぐに捨てていける『巣』を造るのが定石。
     故に娘は黙々と海辺でクズ拾いをする少年をまず誘惑した、それが左一だ。
     左一はクスの話を聞き、要望に応えるためまず村長の家に連れて行った――俺のやりたいことと合致するや、なんて嘯いて。
    「今晩、男衆が漁から戻る。そこへ連れてってやるよ」
     左一の唇は、見るモノの頬をそそけ立たせる程に酷薄にねじ曲がっている。
     こんな村は壊れればいい。愛しきこの女の手で、完膚なきまでに。
     死んでしまえ。
     死ね。
    「わぁ、楽しみぃ♪」
     しかしクスは泥のような恩讐を恐れるタマではない。なにしろ人外、淫魔なのだから。
     

    「サイキック・リベレイターの起動で復活した淫魔を見つけたから、灼滅してきて」
     端的な口調で灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)は言い切った。
    「淫魔の名前はクス。状況がまったく分かってない彼女は、まず手下にした男の子の手引きで村長を篭絡して気持ち良く過ごしてるようだよ」
     淫魔の本能に忠実であり、上位から命令がくればいつでも出て行ける身軽さも確保する狡猾さも持ち得ている。
     故に、潰さねばならない。
    「彼女は左一の手引きで、漁から戻る男衆の元に行く」
     海辺の船着き場、十人の男達が降りてきた所にクスが話しかける。その時点で介入可能だ。
     介入し即戦闘を仕掛けてもよいし、その他のアクションをかけるコトも可能だ。
    「勿論、最終目的は戦って灼滅の1択だよ。ただ、即座に仕掛けると男衆は無事では済まないのもまた、確定してる」
     武蔵坂を知らないクスと、村以外の人間との交友がほぼない左一……接触の方法次第で、より有利な状況で戦闘開始に持ち込める可能性も、ある。
     
     とにかく戦闘になると、淫魔のクスと強化一般人化されている左一の二人を相手取るコトになる。
     クスはスナイパーでサウンドソルジャーと妖の槍のサイキックを、左一はディフェンダーで解体ナイフのサイキックを使用する。
    「プラスして二人ともシャウトも使える。あとは……クスの怒り付与、前衛と中衛に入る人は気を付けてね」
     所持サイキックの噛み合わせによっては具合の悪い事になる。どうやらクスはそういった戦術を好むようだ、注意されたし。
     ――さて、強化一般人の左一は説得に寄り戦闘放棄させるコトはできるのか?
     標は確固たる口調で「無理」と断じた。
    「もう、戻れない」
     余談かも知れないけれど、と標は以下の話を添えた。
     左一が幼い頃の話。
     父が漁に出ている間、母が現村長を始めとした男達に浚われ慰み者にされた。怒り狂い取り返しに言った父は、数日後溺死体となってあがり、母も自ら命を絶った。
    「……だから、ね。左一は自分の復讐にクスを利用してるつもり。実際はいいように使われてるだけなのにね」
     そして彼はもう戻れない、それはなにをどうしたって。
    「巻き込まれる男衆の生死は問わないよ、とにかくクスを灼滅して。それが今回の依頼だよ」
     重い口調でそう言ったっきり標は唇を切り結んだ。そこに燻るのは左一へのやるせなさか……復讐を肯定してやりたくなる自分への自己嫌悪か。


    参加者
    風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・d00155)
    杉本・沙紀(闇を貫く幾千の星・d00600)
    玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)
    篠原・朱梨(夜茨・d01868)
    望月・心桜(桜舞・d02434)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    三和・悠仁(手刈り・d17133)
    晶石・音色(水晶細工の姫君・d30770)

    ■リプレイ

     赤と聞いて連想する物はと問われたら、母が垂らしていた血の筋としか答えられない。


     寂れた海岸線にぶちまけたような喧噪が突如沸き上がる、漁に出ていた男衆が帰還したのだ。
    『こんばんは。村長さんの所でお世話になってるクスって言います』
     ざわり。
     粗末な着物の娘が村の絶対的権力者の客人――失礼を働く即ち村では死を意味する。
    「村長のって……その、本当ですか?」
     左一へ侮蔑と疑いを向け伺う。客人の傍に鼻つまみ者がいるのは解せぬ話。
    『さっきまで村長さんに遊んでもらってたのぉ。でね、もっと沢山と遊びたいなって』
     しかし無垢な笑顔で喉下の吸い跡を見せる様は、疑問など淫猥へ塗り替えてしまう。
    「わあ、お魚! いっぱい獲れたんだね!」
     破廉恥な乱交に堕ちかけた空気は無邪気な声で破られる。
    「でも、もっと色んな種類が見たいな」
     晶石・音色(水晶細工の姫君・d30770)は銀の腹をつつき、硬質的な瞳をあやしく煌めかせた。
    「ね、もう1回獲ってきて! そうしたら、疲れが吹っ飛ぶようなこと……してあげるから」
     この時刻から船を出すなんて有り得ぬ。しかし咎めはあがらない。音色から立ちこめる某かがそう仕向けた。
    「ほんま晶石はんも好きやなぁ」
     くくと喉鳴らし含みある眼差しで煽るのは玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)だ。
    「あんたはんらも期待して行ってき」
     片目眇め軽口芝居。だが左一への根の深い陰湿さを感じ不快さを出さぬがやっと。
     いざとなれば船に押し込む所存の望月・心桜(桜舞・d02434)もまた、噎せ返るような排斥の悪意に胸元で拳を握った。
    (「個人的には、復讐させてあげても良いんだけどねぇ」)
     予知を聞いてからずっと風雅・月媛(通りすがりの黒猫紳士・d00155)にある気持ちも強まる一方。
     それでも若者は仕方なく合わせていると月媛からは見て取れる。左一は一向に構ってないけれど。
    (「彼は、こうしないと心が持たなかったのかな……」 )
     助けられぬ程に堕ちてしまった左一へ募る哀しみ押し殺し、篠原・朱梨(夜茨・d01868)は、音色へ興味津々のクスの前に立つ。
    「あのね、お話いいですか?」
    「単刀直入に言います。我々はさる淫魔の御方の配下です」
     続きを引き取るは三和・悠仁(手刈り・d17133)
     ……海の底から見上げる景色は如何程か? 綺麗だなんて寝ぼけたコト言えるわけがない。
     透かす天井頭打ちの善意、絡みつく悪意が下へと引き摺り下ろすから、一見善意が無限で救いに見紛うだけの話だ。
    『へぇ、そぉなのぉ?』
     クスはその名の通り葉が擦れるような笑いを零す。
     続く文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は自己紹介しクスが名乗るよう仕向けた。予知を気取らせぬためだ。
    『あたしはクス。つまりあの子もあんた達の仲間?』
    「はい。音色さんは内通者がいるとまずいから気をそらしてます」
    「人払いも兼ねております」
     朱梨と悠仁の台詞に気を揉んだ左一が声をあげる。
    『なあ、クス……』
    「此方が愉しむかクス様が愉しむか、皆でかの違いやって」
     その異議を一浄は流れるように叩いて下げた。
    『俺はっ』
     更なる抗議は肩に掛かる指の感触に堰き止められる。
    「あの子可愛いし、村の男達をみんな誑かしちゃうかもしれないわね」
     腹に挑発抱き口元を吊り上げる杉本・沙紀(闇を貫く幾千の星・d00600)の目的は左一の関心を逸らすコト。逆に引き裂くとの誤解を与えぬよう気を払う。
    『別に』
     そう言ってそっぽを向く左一は行動だけなら口べたな少年だ。
     が。
     その表情が、裏切る。
     ふつりふつり。
     昏い液を業火にかけた鍋で煮込むとでも著せばいいのだろうか、鬱蒼と翳る瞳と目立たぬ口元だけの笑みは。
    『そりゃ愉しみだ』
     母が首を吊った日から初めて感じた未来への期待に左一の肩がカタリ震えた。
    「…………あなたは彼女が好きなのではないの?」
     沙紀の声が別の意味で震える。
    『ああ好きだ。この村を壊してくれる彼女がさぁ!』
     そんな彼の怒りを昂ぶらせぬために、沙紀は村外の話題と村情報の収集を控えざるを得なかった。
    「あなたはなにをして生計を立てているの?」
     でも時間は稼がねばならない、故に沙紀はそう問いかける。
    『ゴミ拾い。あと金はある』
     言い捨てた唇はまた昏く奈落へ堕ちていく。
    「魚とってきてやらぁ。そんかわし嬢ちゃんはみんなのモンだよなぁ?」
    「うん!」
     音色に下世話な口効く船頭はじめ次々と船に乗り込む男衆。
    「しっかし、やっぱあの親にしてその子あり」
    「ああ左一は女でやらかした親父まんまだなぁ」
     聞こえよがしの陰口にしゃがみ握った砂粒、引っかけてやりたい衝動は辛うじて堪え、心桜は乱暴に背を押し乗せる。
    (「クスはんのがまだ優しいかもやね」)
     既に左一の精神は潰滅的に崩壊している。父と母を村ぐるみで玩具にされた日から彼は『終わっていた』のだ。
     一浄からの気遣う気配に心桜はふるりと頷いた所で、クスとの会談は一区切りを見せる。
    『ふーん。あたしに協力して欲しいんだぁ』
     今の世は勢力争い盛んで手が足りないらしい。話す内に手駒の彼らが当時の『か弱い天敵』と勘づくも、それ程までに切羽詰まっているとすれば納得はいく。
    「力の強い淫魔の方々に力を借りたいの」
    「実際に幾人かの方と協力体制は敷けています」
     言い募る朱梨と悠仁を面白がるように眺めふふと顎を逸らす。
    (「結局は喋らされっぱなしか」)
     業腹だが自分達とて嘘を並べたお互い様と悠仁は苦笑い。
     情報をねだればクスは「別にあなた達が勝手に喋ってるだけ」とはぐらかす。実際、クスには何れかに組みする気は全くない、だって彼女は気ままに生きたいだけだから。
     其れでも話続けたのは男衆から気を反らすため。そして時間稼ぎは見事成功している。
    「クス様はいつ頃からお眠りで、当時はどのようにお過ごしだったのですか?」
     動画は自分の常識外過ぎて却って興味を示さなかったクスへ、それでも咲哉は探りを入れてみる。
    『なにやってたかって、それは……ねぇ?』
     何時からには答えずもう一つには淫靡な舌なめずり、言外に今と同じと匂わせた。
    「愚問でした」
     頭を下げる咲哉は視線の端で船が陸を離れるのを確認する。
    『じゃ左一村長の家行こ♪ 今度は左一も混ぜてあげるぅ』
     話は終わりと打ち切る彼女が、サイレーンその他諸々についての情報を喋るわけもない。聞き出すのは諦めて咲哉は仕掛け時と判断、皆へ目配せした。
     ひゅるり。
     呼応するように突如場を支配する大漁旗、左一は顔色変えてクスを突き飛ばす。
    「左一、あんたは越えてはいけない一線を越えてしまった」
     腕から血を吹きのたうつ左一へ、影旗を戻す所作で額に手を翳す黒猫は宣告する。
    「だからもう、眠りなさい」


     いち早く動いたのは虎視眈々と狙いを定めていた月媛であった。
     続けて飛びかかるフォスフォロスは左一の肘打ちで失速、だがくるり宙返りで無事着地。
     同時に音封じの結界が広がり、方々で灯るランタンが焔を海風に任せ揺らめかせる。
    『……ふぅん』
     翼の如く翳した片腕は招聘の合図。古びた布が絡みつく槍が現れると同時にクスは斬り込み精神乱す円舞を描く。
    「わらわな、左一殿が村を憎む気持ち、わかるのじゃよ」
    「ナノ~」
     一浄庇い血を溢れさす心桜の気持ちを感じ取りここあは哀しげに。
    「でも、それで不幸を願うのも何か違うのじゃ」
    「ああ、復讐で罪を重ねても命が返る訳じゃ無い」
     伝えども無為とわかっていても、親友の形見を抱き持つ咲哉は言わずにはおれなかった。
    「あの男衆の中には当時と無関係の者も居るんじゃないか? 」
     迷いない太刀筋は逆手のナイフで力任せに払い、勢いに乗るように心桜の腹をさした。
    『だからどうした、よそモンになにがわかる』
     しかし怒り任せに見えて血花咲かせる眼差しはゾッとするほど感情が、ない。
    『俺がなんて言われて育ったか知ってるか?』

     ――お袋の花代で生きながらえる恥知らず。

     花代。
     浚って無理矢理蹂躙した者達がどの口でほざくのか。灼滅者達一様に怒りが充ちた。
    『村長はよぉ、口封じに金をくれたんだわ。俺とばっちゃがこの村で生きてけるギリギリのはした金』
     広げられた怒りの儘にオーラを射出する心桜。この怒りはきっと彼の人生への理不尽さにだ。
    『左一は可哀相だよねぇ』
     オーラを受け流し無傷でクスは口元を吊り上げた。
    「F.W.t.B.T」
     ぱきり。
     それは人魚姫が足を手に入れた時を逆さまわししたかの如く。音色の下肢が『いしのおと』をたてて繊細な細工のベルへと変じた。
    (「本当に悪いのは、誰なんだろう」)
     風孕み捻った槍は左一の腰を削り取る。
     分からない。
    (「私には何もできなかったし、この先もきっと何もできない」)
     異界に煌めく星々は沙紀を包み手元に白銀の星弓を与う。
    「過去の出来事は残念だけど……」
     されど左一は星の輝きからは遠く淀んでしまった。
     沙紀の拳は同情の迷いなく、だが当たりに行くように身を乗り出し勢い殺し、上体揺らして避けた。
    『この村に棲んでる奴ぁ、誰ひとり『残念』だなんて考えちゃいない』
    「だから殺す、か」
     怒りを抑え込み纏う帯で狙うは左一の手元。切り払われ手ごたえは無くも、悠仁は沼の底めいた眼差しで淡々と続ける。
    「そんな願い抱いたんだ、覚悟はあるんだろ?」
     自分達は正義の味方じゃない。だから煮凝る怒りとか願いとか全て、刈る。
     溜息で怒りを吐き出し落ち着いた一浄の帯も左一は冷静に切り払った。
    「お気の毒やけど――同情は出来ひんわ」
     所詮、最悪と最悪を天秤にかけてクスが僅かに軽かった所で、それがなんなのだ。


     クスの手口は予知で判明していた。
     故に朱梨は落ち着いた心で招いた風で前衛の怒りをぬぐい去る。合わせてシッポのリングを光らせる紫乃。
     以降朱梨は味方のケアを最優先、クスが心に与える負荷を左一が広げる戦術を封じ続けた。
     灼滅者側が回避を阻む技に欠けたため時間は掛かったが、身を盾にし続けた左一は集中砲火も喰らい足元おぼつかない。
    『……あたしが知ってるのより強くなってるかも』
     あっさり下すには荷が重いと勘づいてクスは初めて笑みを崩した。
    『アイツを殺せばいいのか?』
     左一はナイフを頭上に構えドス黒い渦が臨界点まで膨らんだ刹那前へと倒す。
    「みゃぁ!」
     果敢に飛び込む紫乃が朱梨を庇い、フォスフォロスは月媛へ向けてリングを光らせる。
    「ありがとう」
     ウインク一つ投げて月媛は影で左一を抑え込む。
    『くっ……』
    『――』
     ずざりと砂浜に膝をつく左一へ投げるクスの瞳は、
    『ねえ立ってぇ、さ・い・ち』
     道具を見るように冷え冷えとしている。
    『ああ、まだいける』
    『頼もしいなぁ♪』
     満身創痍で立った男へ堕天使の歌で疵を塞ぐのはまだ壊れてもらうと困るからだ。
    「……朱梨は復讐を肯定はできない」
     朱梨は祭壇を展開する。音色の回復に集中をしながらも、紅藤の瞳はふらつきながらも立つ男へ毅然と向かう。
    「だから、あなたの命と淫魔の命。ここで、終わりにするよ」


    『終わらせてみろよ』
     ――もう何でもいい、終わらせてくれ。
    「左一……どの?」
     そうはっきり口にした彼へ心桜は息を呑む。闘いながらも救う方法を模索し見つからない答えに心を摩耗させながら。
    「もう、色々と戻らんのはわかってたんやね」
     一浄は左一の覚悟を見定める。其れは其れは憎悪の黒からほど遠い仄白く儚い、諦め塗れの心情。
     やりきれない、本当に。
    「……あのね、ほんとはね、左一さん」
     朱梨もまた毅然の紅藤を涙で燻らせた。
    「あなたをいちばん、助けたかったんだよ。 あなたが昏い復讐に囚われる前に手を差し伸べられていたらって」
     クスより先に出逢えていたならば、なんて。
    『父上を見捨てるのぉ?』
     口元覆う左一へしなだれ掛かり耳元に息を吹きかけるクス。
    『話してくれたじゃない。海に行けば仇とれ仇とれって聞こえるんだって』
    『あぁ、今だって聞こえる』
     母さんを散々辱めて自分の命をゴミ屑みたいに絶壁から棄てたアイツらを赦すなって――!
     でも終わりたいんだ、どんな形でもいいから。
     村を壊す以外の方法があるんなら、それでもいいから。
    「……わかった」
     音色はぽつんと声を落とし砂を蹴るように浮いた。
     ベルは柔らかな音をたて、だが突きつける氷は何処までも冷たく彼の命を奪い去っていく。
    「私にできることは、あなたを終わらせることだけ」
     それでもクスが逃げる暇を稼ぐか、振り回されるナイフは咲哉が腕で止めた。痛みよりずっと濃い哀しみは咲哉の瞳に瞼の影を生む。
    「もう眠るといい」
     間近から刺した杖は魔力の奔流、だが追撃からは後ずさり左一は命をつなぐ。
    「左一殿、左一殿」
     復讐のために村に居残った人生は切なすぎる、でもそれが彼の生きた道。手向けはどうすれば――。
     終ぞ答えを出せぬ心桜が名を呼ぶ中、悠仁は異端を裁く黒を振りかぶる。
     終わらせてやりたい……それは優しいに分類される正の感情。
     でも、
    「殺す」
     鉄球から伝わる確かな手ごたえ、事切れる感触に浸る自分は紛れもない、異常者。
    「左一……どの」
     咲哉を癒した手の甲で瞳を擦れば血がついた。
    「あとはあんただけよ!」
    『きゃああ!』
     こぉっ!
     当て方は弟で充分練習した。更には実践の中で最初から当てていける手ごたえも感じはじめている。月媛は淫魔へ向けてオーラを叩きつける。
    「そうね。もう終わりにしましょう」
    『やだやめて! この村から出て行くからぁ、見逃してぇ』
     命乞いなんて聞かないと沙紀は断じた。
     渾身の力でもってあなたへ贈ろう、人生の終を汚した女の屍を――誓いと共に沙紀はシューティングスターへ口づけを施して、弦に指をかけた。
     目映い閃光、彼方からの彗星に躰穿たれる女の首にかかるは二つの刃。
    「二度と狼藉働けへんよに」
     一浄は嫋やかに笑むと、ちょきり、と刃を綴じる。首から血を溢れさせた女はまるで植物のように、悲鳴もあげずに事切れた。
    「毒の花なら、根から断たんとね」
     それはこの村にも言えるコトだきっと――。

     戻った男衆に思わせぶりな眼差しで有様示し「村長はんへ」とだけ置いて一浄は背を向けた。
     沙紀が濁った風習の産んだ悲劇へ哀しみ零せば、出来れば法が裁かせたいと月媛は呟き踵を返す。
    「俺は……」
     淫魔という言葉に重なる真珠をかき消し咲哉も続いた。
     海岸線、人気のない方へ歩きながら。
    「新曲ができた」
     鎮魂歌をあなたに――音色の鍵盤ハーモニカのメロディを、朱梨と心桜それぞれの後悔を握りしめ聞く。
    「…………」
     気持ちを向けてしまった後悔、でも殺せない死者へと到ってくれた彼へ、悠仁は白き小さな花を海へと投げる。
     寄せては返す波はやがてメリッサを捉え視界から消した。
     水底に沈んだか、此の地を離れ遠くへ旅立ったか――できれば後者であれと願うは自由だ。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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