今治の地にオムソバを愛するガン黒ギャルは実在した

    作者:小茄

    「これは聞いた話なんだけどさ……ガン黒ねーちゃんが、ご当地怪人になって暴れてるみたいなんだよな」
     イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)の話によるとどうやら、愛媛県今治市の一角で1人の女子高校生が闇堕ちし、ご当地怪人になりつつあるらしい。
     このまま時が経てば完全なダークネスとなり、取り返しのつかない被害が出たり、ひいては武蔵坂の脅威にもなりかねない。
    「きょういと言えば、胸がデカイらしいぜ。ガン黒で巨乳なら、見つけるのは簡単かもな」
     そう言うイヴも大概だが、ともかくその巨乳ガン黒ギャルは、地元とオムソバ(オムレツの中に焼きそばが入ったB級グルメ)をこよなく愛し、ご当地怪人となった今、その郷土愛が悪い方向に暴走している様だ。
     戦いを避ける事は出来ないが、彼女に残された人としての意識に訴えかける事で、闇堕ちから救い出すチャンスも生まれるかも知れない。
     
    「これも不確かな情報なんだけど、ソイツはご当地ヒーローに似たサイキックの他に、焼きそばを鋼糸の様に使って戦うみたいだ」
     これまでに得られた情報を聞く限り、彼女は地元の人間や周囲の建築物等に被害を出す事は好まないはず。
     ひとけの無い、広い場所に誘導して戦う事も可能だろう。
     
    「胸の大きい奴に悪い奴は居ないって言うし、何とかしないとな!」
     イヴの言葉に頷いた(前半に対してか、それとも後半に対しての同意かはそれぞれだろうけれど)一行は、早速事件の現場である今治市へと向かうのだった。


    参加者
    イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)
    鑢・真理亜(月光・d31199)
    晴紗季・こより(ふぁいあーばにー・d36380)
    華上・玲子(高校生ご当地ヒーロー・d36497)

    ■リプレイ


     オムソバとは、オムレツで焼きそばを包んだ卵料理であり、近年B級グルメとして市民権を得つつある。
     発祥の地は大阪であるとも言われるが、このオムソバをご当地グルメとして採用している地域は複数存在する。
     此処、愛媛県今治市もまた、その一つであった。
    「キタ~! 今治!」
     イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)の情報網に拠ると、この町で一人の女子高校生が闇堕ちし、ご当地怪人になりつつ有るのだという。
     重要な局面に立つ武蔵坂では有るが、こうした闇堕ち事件も見過ごす訳にはいかないのだ。
    「イヴ、ここ今治市はオムソバだけで無く、著名な方々が多数輩出されているのですよ。また造船や海運の街としても……」
     活発なイヴを諫めつつ、街について補足説明をするのは鑢・真理亜(月光・d31199)。
     イヴの双子の姉で共に小学三年生だが、こちらはかなり落ち着いた印象の少女だ。
     とは言え、二人とも小学生とは思えないレベルで胸部が豊かな点は共通している。
    「ところで、その鞄はなんですか?」
    「これは……後で必要になるかと思って」
     真理亜が指摘したのは、イヴが抱える大きな衣装ケース。
    「見せて下さい」
    「い、いや、大した物は入ってないって」
     表情を変えず追求する真理亜に、気圧され気味のイヴ。
     双子と言えど、姉妹のパワーバランスは明確に存在するらしい。
    「ハァハァ……あの二人は相変わらず可愛いですわね」
     そして、そんな双子のやり取りを息づかいも荒く鑑賞……もとい見守っているのは、晴紗季・こより(ふぁいあーばにー・d36380)。
     金髪の縦ロールに豊かな胸、そして由緒正しき家柄の高校二年生である。
     イヴや真理亜とも旧知の仲であるが、余りにストレートな好意の示し方ゆえ、二人には若干引かれているとか居ないとか。
    「それに、今治と言えばタオルとかも有名もっちぃ。こよりちゃん、あそこで今治焼鳥弁当が売ってる! どっちが早く食べられるか勝負するもっちぃ」
     特徴的な語尾で誘うのは、華上・玲子(高校生ご当地ヒーロー・d36497)。
     鏡餅のガイアパワーを持つご当地ヒーローである彼女もまた、もち肌と圧倒的質量のおもち……お胸を誇る女子高校生である。
    「こより様、玲子様も、任務中ですよ」
     はしゃぐ一同を諫める真理亜だが、ご当地怪人は県外からの観光客を標的にすると言う。多少目立っておくのも、悪い事ばかりでは無いかも知れない。
    「ねぇ、あなた達」
     と、そんな一行に声を掛けて来たのは、これまた一際目を引く人物だった。
    「すげぇ……! あれが黒ギャルか」
     イヴが思わず感嘆の声を上げたのも無理は無い。
     小走りに駆け寄ってくる制服少女の胸は、漫画だったらバインバインと効果音が出てもおかしくないレベルで上下に揺れていたのである。
     胸が大きいのみならず、肌は小麦色にしっかり焼かれており、もちろん顔も例外では無い。
     90年代後半、その奇抜さ故にメディアに注目されたガングロギャルその物だったのだ。
    「地元じゃないっしょ、どこから来たの? え、東京? マジで?! ちょーヤバイんだけどー!」
     コギャル風の口調に、ゴム抜きのルーズソックス。四人が東京からやって来た事を知ると、ますますテンションを上げるガン黒ギャル。
    「私以上に目立つとは、許せませんわ……」
     こよりの対抗心に火を付ける様な少女が何人も居るとは思えず、おそらく彼女がターゲットの手折・伊与(たおり・いよ)に違い有るまい。
     それを裏付ける様に、黒ギャルはこう切り出した。
    「所でさ、この町のご当地グルメでオムソバって言うのがあるんだけど、知ってる?」


    「今治にオムソバ有りって、東京まで知れ渡ってるんだね。ちょー嬉しいんだけど」
     灼滅者達が話を合わせると伊与はすっかり上機嫌になり、彼女の屋台でオムソバを振る舞ってくれると言う。
     邪魔が入ってはいけないと、彼女の方からひとけの無い空き地へ四人を招待してくれたのだから、願っても無い展開だ。
     そして彼女は、席に着いた四人の目の前で、手際良くオムレツの具材と焼きそばを炒めてゆく。
    「うわ、良い匂いがして来たぜ」
     香ばしい匂いと音に、ごくりと生唾を飲むイヴ。
    「ヴミャー」
    「タマネギが入ってるから、ジョセフィーヌは食べられませんわね。でも確かに食欲をそそられますわ」
     相棒であるウイングキャットのジョセフィーヌを抱きつつ、こよりも率直な感想を口にする。
    「その猫ちゃんには別のオムソバを作るよ。ってか、あなた達とはさぁ、何か気が合いそうだし。会えて良かったよ」
    「えぇ、私達も。……その様に調理するのですね。お見事です」
     真理亜は短く相槌を打ちつつ、焼きそばが綺麗に卵に包まれて行く様を見て、感心した様に言う。
    「白餅さんは何でも食べられるよね? それにしても……今にも溢れそうもっちぃ……」
     ナノナノの白餅さんに確認しつつ玲子は、やや前のめりで調理する伊与の胸に視線を奪われていた。今にも制服から溢れ出さんばかりだ。
    「さっきもさー、大阪から来たって言う大学生にオムソバを振る舞ったんだけどぉ、人の胸にしか興味示さないし。しかも『美味いことは美味いけど、オムソバの本場は大阪やろ』とか言ってくるからー」
    「どうしたんだ……?」
    「ちょっと教育してあげた」
     あわれ、灼滅者達の到着前に貴い犠牲が出ていた様だ。ただ彼女の口ぶりから察するに、命まで取る事は無かったらしい。
    「あなた達みたいな、オムソバと今治を愛してくれそうな子達を求めていたの。盗み聞きするつもりはなかったけど、今治の歴史や文化にも興味を持ってくれてるみたいだし、ホント理想的って感じ?」
     四人の前に出来上がったオムソバを差し出しつつ、熱っぽく訴える伊与。
    「もぐもぐ……うん、美味い! 地元に愛着を持つことは立派だと思うぜ!」
    「私もそう思います。あ……もし良ければ、レシピを教えて頂けませんでしょうか。私も今治オムソバを作ってみたいです」
     イヴの言葉に頷きつつ、真理亜もそう尋ねる。
     伊与の警戒を解き油断させる為の演技と言う側面もあるが、オムソバは実際美味であった。
    「ジョセフィーヌも美味しい? それにしても、地元の為に行動されるとは立派ですわ」
     専用のオムソバを食べさせつつ、こよりも賛辞を惜しまない。
    「やっぱ自分が生まれ育った場所には、愛着あるしね」
    「今や渋谷でも殆ど見ないスタイルを貫くのも、偉いもっちぃね」
    「え、東京の女子高生は今でもこうじゃないの……?」
     一方玲子の言葉に、意外そうな反応を示す伊与。やはり何か勘違いをしていた様だ。
    「まぁ都会の流行は追々教えて貰うとして……ねぇ、私と一緒に今治とオムソバを全国区にしていこうよ! あなた達の協力があれば、日本どころか世界を今治に染める事だって夢じゃないし!」
     確信を持っているらしく、益々身を乗り出して言う伊与。
    「それも良いかも知れないな。でも……」
    「でも?」
     伊与はイヴの言葉に首を傾げつつ、先を促す。
    「今の姿じゃ、オムソバや今治愛を伝えられないぜ」
    「ど、どう言う事? もっと露出度が必要とか?」
    「それは一理あるもっちぃ。オムソバよりど胸囲を振り回した方が、世界を制圧出来るのでは……」
     二人のやり取りに、ぼそりと小声で呟く玲子。
    「それも……そうだけど、さっきの大阪の兄ちゃんの話もさ」
    「アイツらが何?」
    「その方々は今治に理解や興味がなかったかも知れませんが、強硬手段でご当地愛を広める事は出来ませんよ」
    「この町を好きになってくれたかも知れないのに、逆に今治を怖い所だと誤解してしまったかも?」
     真理亜、こよりも言葉を引き継ぐように言う。
    「そ、それは……」
     灼滅者達の説得に、伊与は口ごもって俯く。
    「……私のやり方が間違ってるって言うの?」
    「このままじゃ、ご当地愛を強要する怪人になってしまうもっちぃ」
    「……」
     伊与は無言でエプロンを外すと、屋台から広場の中央へと移動する。
    「じゃあハッキリさせよ。私が正しいか、あなた達が正しいか」
    「……望む所だぜ!」
    「拳で熱き焔の如く語り合いましょう」
     ファイティングポーズを取る伊与に応え、灼滅者達もスレイヤーカードを解放する。
     今治市の一角において、巨乳対爆乳……もとい、ご当地怪人対灼滅者の戦いが幕を開けた。


    「私が勝ったら、あなた達には今治オムソバギャルズに加わって貰うから!」
    「では此方が勝ったら、トップバスト三桁同盟に加わって貰おう」
    「ナニソレ?!」
     闇堕ちすると胸が大きくなる(※個人の感想であり、全ての闇堕ち者に効果を保証するものではありません)と言う。
     闇堕ち以前でも94と言う超高校生級の数字を叩きだしていた伊与。もしもそのサイズが更に強化されたとすれば、確かに三桁超えも夢ではない。
    「先手必勝、いくぜ!」
     バベルブレイカーのロケット噴射と共に、先陣を切るイヴ。
    「速いっ?! くうぅっ!」
     高速回転する杭が、艶やかに黒光りする伊与の胸元を抉らんばかりに迫る。
     が、相手もさるもの。真剣白刃取りよろしく、ギリギリの所で受け止める。
    「真理亜!」「はい」
     しかし直線的な攻撃が防がれる事は、最初から織り込み済み。
     妹の合図に応えるが早いか、無数の風刃を乱舞させる真理亜。
    「うぁっ!?」
    「お~ほっほ! 私以上に目立つ事は許されませんわ!」
     制服をジワジワと切り裂かれ露出度を高めて行く伊与に対し、超☆カッコいいサイガシールドを叩きつけるこより。
    「くっ、この子達……力だけなら、私が上のはずなのに……!」
    「ヒーローは独りの力で戦うのでは無いもっちぃ」
     表情に焦りの色を滲ませる伊与に、玲子はきっぱりと言い放つ。
    「地元の人達、その地を愛して訪れる人達、皆の力を合わせて平和を守るのがご当地ヒーローもっちぃ!」
    「……私のご当地愛は、所詮独り善がりだと言うの!?」
     白餅さんに援護を命じつつ、結界を展開する玲子。
     彼女自身、かつて闇堕ちによりご当地怪人となりつつあった所を救われた過去を持つ。それ故、伊与の気持ちは十分に理解出来るのだろう。
    「例えそうだとしても……今更後へは退けない! 私のオムソバ道を突き進むしかない!」
     伊与もまた、そんな玲子の言葉が口先だけの物では無いと理解しつつ、振り払う様に叫ぶ。
    「行くよ、必殺のハリガネ焼きそばを食らえ!」
     焼きそばにハリガネの堅さは無いだろうと言う常識的なツッコミさえ許さない、圧倒的な麺の長さと強度。
     蜘蛛が糸を張り巡らすかの如く展開し、灼滅者の行動を阻む。
    「くっ、ソバが絡まる!?」
    「あぁっ、ソバのせいでイヴちゃんと密着状態に」
    「いや。こより先輩、それは嘘だろ」
    「ヴミャー」
     どさくさに紛れてイヴに密着するこよりと、そんな彼女にツッコミを入れるジョセフィーヌ。
    「ここは私達が。闇さん、お願いします」
     真理亜はビハインドの黒巫女に伊与の牽制を任せ、自身は清浄の風で仲間達を解き放つ。
    「わ、私の焼きそばが!?」
    「貴方のご当地愛は本物! ここで負けちゃいけないもっちぃ」
     浮き足立つ伊与に、ここぞと間合いを詰める玲子。
    「はぁっ!」
    「くうっ?!」
     死角を突いた拳が伊与を捉えると同時、霊力の網がその身体を絡め取り、焼きそばのお返しとばかりに彼女を縛める。
    「さぁ、そろそろトドメと参りましょう!」
    「目を醒ませ、伊与先輩!」
     こよりとイヴの足下から伸びた影業が、黒い刃となり一斉に伊与へ斬り付ける。
    「う、あぁぁーっ!」
     胸元のボタンが弾け飛び、色々な物が零れ出る。謎の光が差していなければ大変な絵面になる所だ。
     まぁ、ここに居るのは皆女子だから特に問題は無いだろう。
     そんなこんなで、今治オムソバ怪人は灼滅者達の手によって倒されたのである。


    「ううっ」
    「大丈夫か、伊与先輩」
    「うん、大丈夫……みんなは? 私のせいで怪我とかしてない?」
     程なくして、伊与は意識を取り戻した。
    「オレ達も平気だぜ。な?」
    「えぇ」
     ニコリと笑顔で応える灼滅者達。
    「そっか、そうだよね……正義のヒーローだもんね」
    「手折さん、あなたも成れますわ」
    「えっ?」
     意外そうに聞き返す伊与に、こよりは続ける。
    「あなたの様に有言実行で骨のある御仁とは、仲良く出来そうですわ。それに、オムソバもまた食べたいですし」
    「え、それって……」
    「伊与先輩もオレ達と一緒に、学園に来てみないか? オムソバ仲間も居るし、憧れの東京暮らしだぜ!」
     続いて、イヴも魅力的な条件を示しつつ武蔵坂へ勧誘する。
    「……と言っても、まずは着替えないとだけどな。大丈夫、オレがちゃんと衣装を持って……あれ?!」
    「余りにも過激なので、入れ替えておきました」
     スーツケースを漁るイヴに、事も無げに言う真理亜。
    「とにかく着替えを手伝うもっちぃ」
     いそいそと伊与の背後に回る玲子。闇さんも虎視眈々と機会を窺うが、真理亜の目を盗むのは難しそうだ。

     兎にも角にも、無事伊与を闇から救い出す事に成功した灼滅者達。
     武蔵坂の平均胸囲がまた少し上がった事に関しては賛否両論あるかも知れないが、ともかくご当地ヒーローとして生まれ変わった彼女を伴い、一行は平穏を取り戻した今治の地を後にするのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月31日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
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