ぜっぺきのおんな

■リプレイ

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　ざざーん。
「……漢女ってホントにいたんだな」
　潮風になびく髪を押さえ、白峰・歌音（嶺鳳のカノン・d34072）はぼそりと呟いた。
　波音を耳に海岸へとやって来た灼滅者達が見つめるのは一人の淫魔。
「これは見るからに女子力の高い相手ですよ！　寮母さん、うちの女子力担当としてその辺りはどうお考えです？」
「どう思うと訊かれても……」
　女子力（物理）が凄く高そうな淫魔を目に白川・雪緒（白雪姫もとい市松人形・d33515）と言葉を交わす寮母――坂東・太郎（もう寮母さんでいいです・d33582）はふとウィスタリア・ウッド（藤の花房・d34784）を見やり、
「ところで林お前最近やたら背ぇ伸びてるけど、将来あんな感じを目指したりは……」
「え、将来像？　……あんだけタッパ伸びたら考えるわ」
　林と呼ばれたウィスタリアはさらりと応えた。
「『みるきぃ』とはまた、意味からはかけ離れた名前ですね。現実を見て欲しいものですね」
　黒乃・璃羽（キングダム系怪人ハンター・d03447）が言うように、灼滅者達が見つめる淫魔の名前はみるきぃ。
　本名ではないとの事なので、こうありたいという無茶な願望が表れている様だと璃羽は内心で思い、
「それにしても、三国先輩がああいう淫魔に興味があったとは……」
「あ、いや、そんな訳じゃ……」
　なんとなくジト目で見れば、三国・マコト（正義のファイター・dn0160）はぶんぶんと手を振った。
　一般的な淫魔と異なる外見の、かなり個性的なダークネスなので、興味を持ってしまうのも仕方がない。
「事前情報だけでも中々の逸材よね、みるきぃ……」
　仲間達と共に淫魔・みるきぃを見つめる蒼羽・シアン（ハニートラッパー・d23346）の隣では、銀城・七星（銀月輝継・d23348）もまたダークネスへと瞳を向けている。
　女性とは思えないスペック、そして身体的には女性ではない、乙女。
　あんな姿ではあるが、彼女（？）はれっきとした大淫魔・サイレーンの配下なのである。
　……そう、れっきとした淫魔なのだ。外見はともかく。
　遠くから聞える学生達の声を耳にした淫魔は立ち上がるとエクスブレインの説明通り、スカートについた砂を払って歩き出した。このままではあの学生達はダークネスの配下となってしまうだろう。
　接触できるタイミングで引き離すしかない。
「そろそろだな」
　鋼糸を手にする茶倉・紫月（影縫い・d35017）の声に仲間達は無言で頷くと、攻撃班は気付かれないよう淫魔へと近づきダイレクトアタック！
「この身、一振りの凶器足れ」
　解除コードと共に七星はＬＥＤ標識を振り上げ、太郎が放つ影とウイングキャット・信夫さんの肉球はダークネスを捉えたかのように思えたが、それも一瞬。
「消えた？」
　目前にいたはずの姿は消えていた。
「先輩、上よ！」
　縒糸を手に見上げるウィスタリアの声に太郎は見上げ、そして――。
　灼滅者達は見てはいけないものを見た。
　
●
　ふわりとブロンドのポニーテールが揺れ、アイドル風の衣装――スカートがひらりとめくれ、淫魔・みるきぃの体はくるりと舞う。
　灼滅者達のダイレクトアタックをかわしたみるきぃは、ふわりと砂地に着地した。
　そして、
「……見たな？」
　第一声に灼滅者達は凍りつく。
　可愛らしくスカートの乱れを直しながらの声は、とてもとても漢らしかった。乙女らしさが欠片もない。
「見たな？　と聞いている」
　じろりと見渡すみるきぃが『見たか』と聞いたその光景は、もし、みるきぃが一般的な淫魔――可愛らしいとか、せくしーとか魅力的な女性であったなら、ラッキースケベとでも言うのだろう。
　だが、相手は『身体的には女性ではない、鍛え抜かれた肉体の持ち主』である乙女。攻撃を避けられたというのに、こっちがトラウマレベルのダメージを受けてしまうとは想定外。ついでに学生達もダメージを受けたようだ。
「一般人の避難は頼むわよ、お嬢様がた」
「よろしくね」
　そんな中、ウィスタリアと太郎の声に女性陣は動き出す。
「あの人はちょっと困った性癖を持っていて、今それを止めようとしているのです。お兄さん達は遠くへ離れてくれると助かります」
　固まったままの学生達に近づき、璃羽はそっと話しかけた。
「因みにその性癖……聞きたいですか？」
　無表情でじーっと迫る様に見つめられれば、学生達は璃羽の問いにぷるぷると首を振り、
「ポニーテールは俺が目を付けているから手を出すなよ！」
　ＥＳＰと共に紫月が放つ言葉で学生達は思いっきり勘違いをしたようだ。
「あ、ああ……そうですか……頑張って下さい……」
　いや違う、灼滅対象として目をつけているからであってそう意味ではない訳で。それに俺には愛しのツンドラ彼女がいるから！　と言いたい所だが、それができないのが灼滅者の哀しき運命（ださめ）である。
「応援してますね……」
「お幸せに……」
「む、待て！」
　みるきぃは引き止めようとするが、学生達は紫月に微妙すぎる言葉を残してランニングへと戻っていく。そしてＥＳＰを展開させた雪緒と歌音が人払いを済ませれば、灼滅者とダークネスだけとなった。
「配下として見込みのある若者だったのに……」
「よぉ、そこのワケわかんねぇヤツ。配下に強い奴探してるんだって？　仲間と逸れるなんざ世話ねえな」
　遠ざかる学生達を目に言うみるきぃだが、七星の声にぐるりと振り返る。
「強いかどうかをビジュアルだけで判断してない？　それともこーんな綺麗所を配下にして、自分が霞むのが怖い？　そんな下らないプライドとツマラない目利きしかできない配下をもってるボスがかわいそー。ボスの器も知れるってものね」
　弟に続いてシアンも言い放てば、ダークネスは瞳を細めた。
「どうやら勘違いをしているようだ。私が配下にしたいのは『強い者』であって『綺麗所』ではない」
　低く言うみるきぃはポニーテールをふわりと払うと、
「私をどう言おうと構わない。だが、サイレーン様を侮辱する事は断じて許さぬ！」
　言いながら足元にあったリンゴくらいの大きさの石を手に取り、ぐっと握れば、ばがんと音を立て砕け散る。握力測定不能は伊達じゃなかった。
　ぼろぼろになる石を目にアンブレイカブルといい勝負すぎると思った紫月だが、どうやら似たような思いをした者はいたようだ。
「強そうなアンブレイカブル……」
「淫魔ですよ、三国先輩」
　ごくりと息を飲むマコトに璃羽はツッコミを入れる中、ダークネスは得物を構える学生達の存在に疑問を感じたようだ。
「お前達、只者ではないな？」
　眉をひそめる淫魔の前にすと七星は歩み出る。
「１つだけ教えてやる、オレらは『灼滅者』だ。さあ、ダークネス。配下なんざ小細工使わねえでここでオレらを殺してみろよ、お前らのボス・大淫魔サイレーンとやらの為にも」
「……ぬかしたな、小僧」
　睨みつける瞳に灯るのは殺意。そしてぶわりと殺気が周囲を取り囲み、そして――、
「この淫魔・みるきぃの手に掛かって死ねる事を名誉と思うが良い……！」
　淫魔とは思えない言葉を放ち、ダークネスはすと構えた。
　
●
「今回は肉体と肉体のぶつかり合いの決闘だぜ！！　……だから、今回は兄ちゃん達の応援するのでマギステックカノンはお休みします」
　スレイヤーカードを解除し、アイドル衣装となった歌音は羽環とマイクを手に声を上げれば、真っ先に太郎は砂を蹴り飛び出しウィスタリアも続く。
　二人の攻撃をいとも簡単に捌くみるきぃは雪緒の影も避けようとするが――ざくり。
「いかん、スカートが」
　避けたスカートから見えるのは逞しい太もも。
　スカートをおさえつつ歌音とマコトの攻撃をばしんと弾く様子を何となくげっそりと見てしまった七星だったが、
「がんばりましょ、ナナ」
　姉の声に力強く頷いた。
「ヤミ、ユウラ！」
「エレル、あたし達もいくわよ！」
　猫と鴉を放つ七星はシアンからの癒しを背に受け、
「俺はどっちかというと拳より道具派なんだよ。悪いが拳での殴り愛は出来そうにない」
　にっと口元を引き締めるみるきぃに紫月は切りかかると、璃羽は弾丸を放ち、
「愛の表現は多彩であるものだ」
　みるきぃは攻撃をものともしなかった。
　灼滅者達が構える中、すと下ろした両腕をすすす、と円を描くように頭上に上がるみるきぃの手は胸の前でハートの形となり――、
「気をつけて！」
　見覚えのある構えにシアンが声を上げるが間に合わない。
「ラヴ・エターナル！！！」
　放たれたのは、きらきら輝くピンクゴールド。
「させないよ」
　シアンへと放たれたそれを太郎は身を挺し、ずずと下がる体で耐え切った。
「ありがと」
「どういたしまして」
　礼を言うシアンに応え、お返しとばかりに攻撃を放てば仲間達が続く。
「くくく……久しい戦い、そう簡単には倒れてくれるなよ？」
　にやりと笑い、淫魔らしかぬダークネスは灼滅者達の攻撃を捌き、そして受けた。
　こうして戦いは続くが、その攻撃は衝撃的だった。
　本来ならば軽やかに舞い、踊るであろうそれは武術の演舞のようであり、人々を魅了するであろう歌声は、裂帛の気合であった。
　ついでにスカートが裂けているので、動くたびにスカートをおさえたり、乱れた髪をふわりと払う。
「この強さ……無駄の無いプロポーション……ああ、拳の軌跡さえもが美しいのに、灼滅依頼なのがただただ口惜しいです！」
「確かに惜しいわねー」
　放つ攻撃を華麗に、そして豪快に捌く姿に雪緒とウィスタリアが言葉を交わす中、どんな攻撃をするかと歌音は目前で繰り広げられる戦いをわくわく見ていたが、
「……え？　任務？　……わ、わわわ忘れてはいませんのだぜ？」
　そう、ちゃんと依頼も忘れない。
　ぶんと放つリングスラッシャーにみるきぃの腕につと紅線が引かれ、淫魔っぽさがまったくないダークネスとの死闘は繰り広げられていく。
　身体的には女性ではないみるきぃだが、戦いの中で漢女（おとめ）である事を忘れはしなかった。
「太郎兄、そこだ！　渾身の右ストレートー！！」
　歌音の声を背に太郎は信夫さんと共に駆ける。そして、三徳包丁を構え、一閃！
「お藤」
「任せて」
　ばしんと刃を弾かれ、声を発せばそれに応えたウィスタリアの縒糸が迫り、
「まった」
　突き出す手に思わず雪緒はぴたりと止まる。
「どうした、降参か？」
　不思議な挙動に紫月が問えば、
「化粧が崩れてしまった」
　……？！
　破壊力のある衝撃の言葉に唖然とする灼滅者達だが、ダークネスは気にしない。
「しばし待たれよ」
　そう言うと、どこからともなく化粧ポーチを取り出したではないか。
「……化粧してたのか」
「ナチュラルメイクだったのねー」
　化粧直しにいそしむみるきぃを目に七星とシアンは言い、
「なんという女子力の高さ！」
「うんうん、凄く高そうだね女子力」
　女子力の高さを目の当たりにした雪緒に太郎は頷いた。
　ダメだ、このままでは色々な意味でみるきぃのペースになってしまう。
　うっかりお化粧風景を凝視してしまう灼滅者達であったが……。
「みるきぃさんの体重は１１０ｋｇ位ですか？」
　璃羽の声にみるきぃの手がぴたりと止まる。
「大丈夫ですよ。私も絶壁ですから」
　じっと胸を見つめ、そして淡々と、あっさり続く言葉にみるきぃのコンパクトがばきんと手の中で砕け散った。
「……そこまで重くはない！！！」
　あ、１１０キロじゃないんだ。
　怒号ともいえる声に周囲をとりまく殺意が膨れ上がる。
「仕切りなおしだな」
　得物を構える紫月に璃羽が続き、
「さあみんな、ちゃちゃっと片付けちゃいましょ」
　シアンの声に仲間達は頷き続くのだった。
「お……おのれ！　我が想いを否定するか……！！」
　璃羽が放つ攻撃の効果か、みるきぃは何かものすごいトラウマに苦しめられているようだ。
　どんなトラウマかは気にしないほうがいいだろう。自分達の為にも。
　とりあえず紫月は考えない事にして攻撃に集中する。
　灼滅者達との攻撃を捌き、そして回復を図るみるきぃだが、徐々にダメージが蓄積されていく。
「あと一息よ！」
　血を流し、荒く息を吐くみるきぃの限界が近い事に気付いたのだろう。標識を手にしたままのシアンの声が響く。
「負けぬ！　これしきで負ける訳にはいかぬのだ！」
「兄ちゃん」
「太郎ちゃん」
「ああ、信夫さん」
　動きに気付いた歌音と雪緒の声に応え、太郎は信夫さんと共に動き、
「させませんよ」
　璃羽もまたみるきぃの演舞から仲間達を守った。
「さあ、みんな頑張ろう」
　太郎の影と信夫さんの攻撃を避けれらなかったみるきぃはウィスタリアが放つ黙示録砲によって肩口がざくりと裂け、
「義姉さん」
「蛙（かわず）よ蛙」
　ウィスタリアからの声に雪緒は応えると、語る奇譚と共に５匹の巨大カエルが飛び出した。
「ぬう……！」
「ヤミ、ユウラ！　一気に行くぞ！」
　顔をしかめるみるきぃに七星が放つ影が襲い掛かり、
「流石、あたしのナナ♪」
　弟の攻撃を目に青のピンヒールで砂を駆けるシアンもダークネスへと蹴り上げる。
　そして。
「これで最後だ……！」
　紫月の封縛糸はその姿を捉え、切り裂いた璃羽は血を流すみるきぃが放つ渾身の一撃を耐えきり、そして。
　ごぶり。
　みるきぃは血の塊を吐く。勝負はついたようだ。
　得物を手にした灼滅者達に囲まれたダークネスはどこか満足気な笑みをたたえ、口元の血を拭い。
「よき……戦い、で……あった……」
　みるきぃは膝を突く事なく立ったまま、命のともし火は消えたのだった。
　
●
　ダークネスの体はきらきらとハートを散らし、潮風にのって流されていく。
「みるきぃさん……ああ、これが灼滅依頼でなければ……！」
「灼滅対象でなきゃ、仲良くなりたいタイプだったのにねー」
　消え行く淫魔であったものを目で追い、雪緒とウィスタリアはみるきぃの灼滅を心から残念がった。
　淫魔らしかぬ外見に、これまた淫魔らしかぬ言動と戦闘スタイルは二人の心に深く刻み込まれたに違いない。
「すごい漢女だったな、みるきぃ」
「確かに凄く女子力が高かったね、歌音ちゃん」
　歌音と太郎のやり取りを耳に、信夫さんは太郎の頭の上でだらーん。
　とにかく凄かったとしか言いようのないダークネスとの死闘は終わった。
　様々な思い胸に波の音を耳にする灼滅者達。
「強かったね、あの――」
「淫魔ですからね？　三国先輩」
　刀を手に言いかけるマコトに璃羽は先にツッコミをいれ、
「ダークネスも無事灼滅できましたし、帰りましょうか」
　激しくも厳しい戦いを共にした仲間達をぐるりと見渡した。
「そうだな、帰ろうか」
「帰りましょ」
　七星は頷き、シアンも応え、あのダークネスからサイレーンの情報を引き出せればよかったのにと少しだけ残念な気持ちになる。
　さすがに情報を引き出すにはもう少し工夫が必要だったかもしれないが、そこまで重要な配下ではなかっただろう。個性的過ぎたし。
　戦いも終わり、この場に留まる必要もないので仲間達は歩き出す。
　そんな中、紫月は水平線をじっと見つめ考える。
　大淫魔・サイレーンの配下は他にもどこかで復活しているのだろうか。そして、サイレーン自身もまた、復活をしているのに違いない。
「茶倉先輩、置いていきますよ？」
「悪い、すぐ行く」
　遠くなりつつある璃羽の声にはっとなり、紫月は仲間達の後を慌てて追った。
　
　こうして戦いは幕を閉じ。
　灼滅者達は去り、海岸は平穏な日常へと戻っていくのだった。

作者：カンナミユ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年6月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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