●
複数のバイクがエンジンを吹かす音が、少年の鼓膜を震わせる。
耳障り極まりないその音が聞こえてくる方向に、彼はゆっくりと歩を進めていた。
いつも自分の前を歩いていた兄の広い背中を、ふと思い出す。強く、優しかった兄。自分たち兄弟が通っていた道場でも、兄の右に出る者などいなかった。それなのに。
あの日――兄は呆気なく死んでしまった。信号無視のバイクにひかれたのだと、大人たちは口を揃えて言ったけれど。自分は、そんなこと信じてはいない。
兄は、強大な敵との死闘の末に命を落としたのだ。そうに決まっている。
どんなに手を伸ばしても、届かなかった兄。その背を、ずっと追い続けていた兄。
その兄が、バイクなどに負ける筈がないではないか。
そんなこと、決してあってはならないのだ。
今から、自分はそれを証明しに行く。バイクなど、兄の敵ではないと。
兄は自分よりも、もっと、もっと強かったのだから。
その兄の名を、これ以上汚させはしない。いつか兄を超え、最強の称号を手に入れる日まで。
●
教室に集まった灼滅者たちを見て、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は柔らかな微笑みを浮かべた。
「皆さん揃ってますね」
手にしたノートを開き、彼女は事件の説明を始める。
「一人の少年が、闇堕ちしてダークネスになろうとしています」
通常、闇堕ちした人間はダークネスに乗っ取られて元の人格を破壊されてしまうのだが、この少年はダークネスとしての力を持ちながらも、人としての意識を僅かに残しているという。
「もし、彼が灼滅者の素質を持つのであれば、闇堕ちから救い出して下さい。万が一、完全にダークネスと化してしまうようであれば、その前に灼滅をお願いします」
ダークネスになりかけている少年の名前は『原坂・将平(はらさか・しょうへい)』。道場で格闘技を習っている中学生だ。
「彼には同じ道場に通う兄がいたのですが、少し前に事故で亡くなっています。横断歩道を渡っているところを信号無視のバイクに突っ込まれて、即死だったとか」
兄を尊敬し、その背中を追い続けてきた将平は、目標を失ってすっかり意気消沈してしまった。そして、それ以上に、兄の命を奪った『バイク』に対して憎しみを抱くようになったという。
「誰よりも兄の強さを信じていたからこそ、交通事故で兄が亡くなったという事実を認めたくなかったのかもしれません」
思い詰めた将平は闇に魅入られ、そして一つの結論を得た。
兄を死に追いやったのは、バイクではない。もっと強大な『何か』だ。あんな鉄の塊なんかに、兄を殺せる筈がないのだから。
その証拠に、自分がこれからバイクを打ち破ってみせよう――。
「将平さんは廃業したガソリンスタンドに向かい、そこにいるバイク乗りの男子高校生五人に戦いを挑もうとしています。放っておけば、間違いなく全員を殺害するでしょう」
人を手にかけてしまえば、もう取り返しがつかない。その前に、止めなくては。
「指定した時間に向かえば、将平さんが到着するより少し前に辿り着くことができます。まずは、何らかの手段で男子高校生たちを現場から引き離して下さい」
五人の男子高校生はいずれも喧嘩っ早い性格だが、所詮はただの一般人に過ぎないので、追い払うことはそう難しくない。問題は、その後だ。敵を見失った将平は荒れ狂い、灼滅者たちに戦いを挑んでくるだろう。
「皆さんもご存知の通り、闇堕ちした将平さんを救うには戦ってKOするしかありません。ストリートファイターとバトルオーラのサイキックを用いる彼は、この人数をもってしても強敵です」
ですが――と、姫子は続ける。
「将平さんが持つ『人の心』に訴えかけることができれば、彼の力を弱めることができるかもしれません」
言葉だけで止めることは不可能だが、説得が上手く効果を発揮すれば、戦いを有利に進められる可能性がある。
「彼の心が、完全に闇にのまれてしまう前に……どうか、止めてあげてください」
姫子はそう言って、灼滅者たちにお辞儀をした。
参加者 | |
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龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176) |
夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) |
シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984) |
レイン・ウォーカー(隻眼の復讐者・d03000) |
土方・士騎(高校生殺人鬼・d03473) |
マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680) |
方円・吾紋(NightHeron・d04762) |
小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978) |
●
潰れたガソリンスタンドに、五台のバイクが止まっている。柄の悪い少年たちが、バイクに跨って笑い声を上げていた。
「なんというか、いかにもという感じですね」
指先でサングラスの位置を直しつつ、龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)が呟く。まずは、この不良少年たちを現場から追い払わなくては。
「こんな時間にお喋りかい」
男物の服に身を固めた夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)が、少年たちに歩み寄る。その後ろから、シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)が遠慮がちに口を開いた。
「あのぅ……もう夜ですし。危ないです、よ……?」
「あぁ? 何だって?」
少年の一人が、わざとらしく大声を上げる。分厚い丸眼鏡の上で、シャルリーナの眉が八の字を描いた。
「この辺りは物騒だし、もう遅い時間だから別の場所に行った方がいいわよ」
腰まで伸びた白い髪を揺らし、レイン・ウォーカー(隻眼の復讐者・d03000)が前に進み出る。少年たちが、落ち着きを無くしたように周囲をきょろきょろと見回し始めた。
「お、お前らだって人のこと言えるのかよ」
虚勢を張りつつも、無意識にバイクをじりじりと後退させる。灼滅者たち――いや、正確には方円・吾紋(NightHeron・d04762)から遠ざかろうとしているのだ。
「ここ、俺等がこれから使うんだよ。悪ィな」
ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、吾紋は少年たちを睨む。柄の悪さは互角だが、纏う空気はバイク少年たちのそれとは段違いだ。肌を刺すようなプレッシャーが、彼らを追い詰める。殺気を放ち、一般人を遠ざけるESPの力だ。
「すまないが、暫くこの場を空けてはもらえないか」
どこか剣呑な響きを帯びた土方・士騎(高校生殺人鬼・d03473)の言葉に、少年たちがさらに後ずさる。
「……なんだよ、何する気だよ」
駄目押しをするべく、マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)が自らの指先を傷つけて炎を生み出した。
「ここ燃やすの、地下の残ってるガソリンごと」
色めき立つ少年たちに見せつけるような態度で、柊夜が日本刀の柄にゆっくりと手をかける。治胡が、そこに止めの一言を放った。
「それはそうと良いバイクじゃん、俺にくれねーか」
鉄塊の如き巨大な刀を軽々と肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべる彼女を見て、少年たちはとうとう逃げ出した。散り散りに走り去るバイクの音が、道路にこだまする。
彼らが姿を消した後、ガソリンスタンドに一人の少年が現れた。
禍々しいオーラに身を包み、瞳を爛々と輝かせる彼こそ、原坂・将平に違いない。
「どうやらいらっしゃったようですよ。ここからが本番ですね」
柊夜の言葉に、全員が気を引き締める。小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)の瑠璃色の瞳が、闇に堕ちかけた少年の姿を真っ直ぐに捉えた。
(「何とか彼を止められるといいんだが……」)
追うべき背中を失った、その気持ちが理解できるからこそ――放ってはおけない。
●
「よぉ、バイクをお探しかい」
治胡の声に、将平が足を止めた。
「わりぃがあいつ等は邪魔だったんで、俺達が追っ払っちまった。弱くて話にならなかったぜ」
灼滅者たちを睨む少年に、士騎が静かな口調で語りかける。
「少し話をしよう」
しかし、将平は彼女らには答えず、小刻みに肩を震わせた。
「……なんで邪魔をした」
彼の全身を覆うオーラが勢いを増し、急速に膨れ上がる。
「兄貴が、負けるわけないんだ……!」
できれば刃を交える前に説得を試みたかったが、流石に難しいか。全員が身構える中、士騎は少年の心情を思った。
彼にとっては、兄の後ろ姿がそれだけ大きかったのだろう。もう二度と追いつくことがないと感じてしまったのなら、尚更のこと。
「私が見届けよう、君の誇り、兄君への想い」
胸の前に差し出した刀をゆっくりと抜き、将平を見据える。この戦いは彼にとって、闇に堕ちてまで求めた答えを見出す切欠になり得るか――。
灼滅者たちは素早く隊列を整え、戦闘態勢に入る。愛用の護符揃えを携えたマリーゴールドが、ナノナノの『菜々花』を振り返った。
「死んじゃった人の事は判らないけど、お兄さんも将平さんも、きっと良い人だよね?」
「ナノナノ」
主の言葉に、うんうんと頷く菜々花。その直後、将平が動いた。瞬く間に距離を詰め、鍛え抜かれた拳で前衛に立ったレインを打つ。鋼鉄の威力を秘めた打撃が、少女の鳩尾を捉えた。
「バイクを憎むのはただの八つ当たりだと、どこかで気づいてるのではないですか」
どす黒い殺気を呼び起こした柊夜が、将平を攻撃すると同時に自らのジャマー能力を高める。怒りに満ちた少年の視線を平然と受け止め、彼はさらに言葉を続けた。
「あなたがしなくてはならないのは、お兄さんの死を受け止め、その死を悼むことではないのですか」
将平に口を挟む隙を与えず、シャルリーナが声を重ねる。
「お兄さんは将平さんに復讐なんて望んでいません……自分より強くなって欲しい、そして強い心を持って欲しいと願っている筈です……!」
彼女は将平の死角に回り込むと、稲妻の如き青白色のオーラを利き足に伝えた。鋭い下段蹴りが、少年の足を払う。眼鏡のレンズ越しに、シャルリーナは彼の瞳を見た。
「私が、私達が止めてみせますから!」
「うるさい!」
苛立たしげに叫ぶ将平を視界に収め、葵は傷ついたレインを治癒の光で包む。面に湛えた微笑はそのままでも、彼の目は決して笑ってはいなかった。
亡き祖父の厳格な背中を、脳裏に思い描く。幼い頃からずっと追い続けてきた存在を失った身として、突然に兄を奪われた少年の気持ちは痛いほどに解った。まして、それが理不尽な事故によるものならば。
「――けど、乗り越えなきゃいけないんだ」
表情を変えることなく、葵は呟く。中衛についていた吾紋が、将平に向かって駆けた。
「実体のねェモンを追っかけ続けるのは……ま、しんどいよな。とっとと軌道修正させてやるか」
足元から二本の腕を伸ばすように影業を展開し、巨大な両腕でファイティングポーズを取る。トラウマを具現化する漆黒の拳が、将平の腹に叩き込まれた。
「幻……つーより、現実と向き合ってもらおうじゃねぇか」
その目に何を映したのか――将平が絶叫する。少年の拳に、蒼き雷が宿った。仲間の顎を砕かんとするその一撃を、治胡が己の身を割り込ませて受け止める。
「原坂に、信で結ばれた力ってモンを見せてやらねーとな」
唇の端から流れる血を拭いつつ、彼女は紅蓮の焔にも似た赤い髪を揺らした。誰一人、仲間を倒れさせはしない。
「バイクを壊したら、天国のお兄さんはあなたを認めてくれる、そう思ってるんですか?」
エンチャントを焼き払う炎の奔流を掌から放ちながら、マリーゴールドが将平に呼びかける。菜々花が、傷を癒すふわふわのハートを治胡の背に届けた。
「兄貴がバイクに殺されたなんて嘘だッ! 俺が、それを証明してやる!」
歯を剥き出し、将平が怒鳴る。レインは日本刀を一閃させると、赤きオーラの逆十字で少年の心身を裂いた。
このまま放っておけば、将平は必ずや一般人に被害を及ぼしてしまうだろう。
(「――それは、原坂さんが本当に望んでいることではないはず」)
彼を闇堕ちから救い出すべく、レインは説得のタイミングを窺う。士騎の居合が、将平に鋭い斬撃を浴びせた。
彼女は将平の兄を知らない。しかし、これだけははっきりしている。
少年が道を誤れば、彼の亡き兄までもが穢されてしまう――それはとても、哀しいことだ。
「刃を曇らせるな、原坂将平」
水底から声を響かせるように、士騎は静かに囁く。心の闇が湛える衝動と常に戦ってきた彼女は、少年が己に打ち克つことを信じていた。
●
五芒星型に護符を放ったマリーゴールドが、咆哮を上げて襲いかかる将平に向かって攻性防壁を展開する。攻撃を受けながらも、彼女は少年に呼びかけることを忘れなかった。
「お兄さんが何を望み目指していたのか、それをちゃんと思い出して! あなたが代わりにそこを目指すんでしょ!?」
暴力も厭わず、ただ強さだけを求める――それが彼の望むあり方なら、灼滅も止む無しと思う。
でも、違う筈だ。少年が尊敬し、憧れていた背中は、きっと。
「あなたが追いかけていたお兄さんは、こんなことをして喜ぶと思っているのですか?」
日本刀を上段に構えた柊夜が、そこに言葉を重ねた。
「違うでしょう? もっと真直ぐに自分を乗り越えることを望んでいるはずです!」
説得の間にも、彼は冷静かつ的確な攻撃で将平を追い詰める。少年の全身を覆うオーラが、勢い良く断ち切られた。
灼滅者たちの声を振り払うように、将平が首を横に振る。レインはその側面に素早く回ると、弧を描く斬撃で彼の服を裂いた。
「誰かを傷つける強さではなく、誰かを守れる強さと優しさにあなたは憧れていたはず……なら、こんなことをしてはいけない」
「……うるさい! 他人が兄貴を語るな!」
諭すようなレインの言葉を受けて、将平が猛る。オーラを集束させた拳が、正面に立つ士騎を立て続けに打った。
「強い兄君が誇りだったのだな」
強烈な連撃を真っ向から受け止め、士騎は口を開く。あるいは、将平の兄もまた、己の背をひたむきに追う弟を誇りに思っていたのではないだろうか。
「――だが、今の君はどうかな。君の求める敵、その強大な『何か』とはなんだ?」
将平が返答に詰まった隙を逃さず、彼女は影を宿す一撃で少年の横面を張る。あたかも、兄が弟を叱るかのように。
「それは己が創りだした闇。兄君より弱く、容易い相手だ。敵を間違えるな、原坂将平」
少年の表情が、はっきりと揺らいだ。殺意と怒り、驚愕と畏怖――さまざまな感情に満ちた瞳が、士騎の顔を映す。吾紋がすかさず影の両腕を伸ばし、将平の全身を抱え込んだ。
「目標にしてた奴がある日突然消えちまって……何処にもやり場がねえ、そういうどうしようもねえ気持ちは俺にも、覚えがある」
過去を覗くように、橙色の目が細められる。しかし、それも一瞬のこと。
「……けど、こんな事したってお前の兄貴は多分喜びもしないし、認めてもくれねェだろうぜ。見境無く傷つける今のお前の力は、お前の憎む『鉄の塊』と同じモンだからな」
将平が、大きく目を見開いた。拳を握り、奥歯を強く噛み締める少年に、葵が問いを投げかける。
「悲しみに任せて手に入れようとしているその力は本当に強さなのか? 君の兄さんが持っていた、君が憧れていた強さと同じものなのか?」
――違う。それは、弱った心が見せた幻に過ぎない。ただの逃避だ。
「ここで闇に堕ちてしまえば、君はもう二度と兄さんを超えることはできないだろうな」
傷ついた仲間を温かな光で癒しながら、葵は淡々と言う。穏やかな口調から紡がれる言葉には、確かな重みがあった。
「黙れ……黙れよ……ッ!」
血を吐くような叫びとともに、将平が突進する。中衛を狙った鋼鉄の拳を、シャルリーナが己の身で受けた。
「大丈夫ですか? しっかり守りますからね」
庇った仲間を振り返り、微笑みを向ける。大人しく引っ込み思案な少女は、どこにもいない。ここに立つのは、『守る』意志を秘めた戦士だ。
説得の効果が現れつつあるのか、将平の攻撃は次第に威力を失いつつある。シャルリーナは咄嗟に身を翻すと、雷の色を帯びたオーラの蹴りを少年に見舞った。刃の鋭さを秘めた打撃が、将平を切り裂いていく。治胡が、迷わずそこに駆けた。
必ず将平を助け、学園に連れ帰る。その他の選択肢は、彼女に無い。
(「――これは依頼があったからじゃねえ、俺の流儀だ」)
鋭い刃と化した影が、将平の脇腹を抉る。鮮血が飛沫を上げるとともに、少年の唇が動いた。
「兄貴……俺は」
距離を詰めたレインが、彼の眼前で刀を捨てる。
本当の強さとは力ではないと、身をもって示したい。だから――。
全ての想いをのせた拳が、将平を打つ。少年の体が、ゆっくり地に崩れ落ちた。
●
倒れた将平を、シャルリーナが介抱する。レインが放った最後の一撃は、少年を殺してしまわぬよう手心が加えられていた。彼が完全にダークネスに呑まれてしまっていたなら、これで戦闘不能に陥ることはありえない。つまり、将平は闇堕ちから救われたのだ。
後は、本人次第だろうか――と、葵は思う。最後は、自分自身で乗り越えなくてはならない問題であることを、彼は知っていた。
幸い、シャルリーナとレインが診たところ、心霊手術が必要になる傷ではないようだ。十分も経てば、意識を取り戻すことだろう。
灼滅者たちが見守る中、将平が瞼を開く。
「あ、目が覚めましたねぇ」
シャルリーナの声を聞き、少年は上体を起こして周囲を見回した。記憶がまだ混乱しているのか、軽く頭を振って眉を顰める。
「あんた達は……?」
マリーゴールドが、将平の傍らにそっと腰を下ろした。自分達が武蔵坂学園の生徒であることを明かし、ダークネスや灼滅者について簡単に説明していく。
将平は驚いたように口を開けていたが、自分の身に起こったことを思い返すうち、納得せざるを得なかったようだ。
「えっとね、その強さを誰かを守ったり助けるために使ってみませんか?」
俯く将平の顔を覗き込み、マリーゴールドが彼を学園に誘う。なおも黙ったままの少年に、治胡が声をかけた。
「――アンタの兄貴は強かったんだな」
思わず治胡を見上げた将平に、彼女は言葉を続ける。
「じゃあその姿、アンタの宝物にしてやれ。誰も知らねぇアンタだけの想い、大切にしたら兄貴も喜ぶぜ」
横から、吾紋も口を開いた。
「……死んだ兄貴に本当に報いたいなら、正しい力のつけ方を探さねぇとな」
「正しい、力――」
「ま、俺も今、探してる所だ」
吾紋はポケットに両手を突っ込んだまま、将平に背を向ける。黙って考え込む少年に、士騎が語りかけた。
「私は認める。君の強さと、その君が誇りに思う兄君を」
将平の視線を受け止め、迷い無く言い切る。
「答えが欲しければ、逃げるな。前へ進め」
「俺も、あんた達みたいに戦えるか」
「勿論だ」
やり取りを眺めていた治胡が、帽子を被り直しながら将平に言った。
「いつか兄貴を越えたと思った時、その拳を、穢すこと無く伝えていけ。俺がその手助けしてやるぜ」
彼女は鋭く少年を見据え、不敵に笑う。
「……闇の力に頼りっぱなしってのは、ちっとカッコわりぃだろ。今度はアンタの素の力で、俺を負かしてみろよ」
将平はゆっくりと立ち上がり、治胡を真っ直ぐに見た。
「負けっ放しじゃ、兄貴に顔向けできないもんな」
少年の瞳に意志の光が宿ったのを認めて、柊夜は確信する。
もう、彼は大丈夫だ。これからは、学園の一員として灼滅者の道を歩んでいくことだろう。
作者:宮橋輝 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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