マネキンたちは仲間を求めて

    作者:飛翔優

    ●夜のデパートで蠢く怪異
    「ここが、噂の現場」
     月明かりをもはねのけ輝き続ける繁華街。一足早く灯りを落としたデパートを、六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)は見上げていく。
    「都市伝説、仲間づくりのマネキンの舞台」
     ――仲間づくりのマネキン。
     夜、誰もいなくなったデパートで、マネキンたちは自由に行動する。
     様々な服を試したり、いろんな遊具で遊んだり。
     しかし、マネキンたちは求めてる。新たな仲間を。
     出会った人を材料に、マネキンへと変えていく……。
    「警備の人とか、危険だと思うの。だから、裏口から侵入して打ち倒す……そんな流れになる……かな」
     マネキンたちがどのフロアに出現しているのかは不明なため、ある程度探す必要もあるだろう。
    「噂がマネキンたち……だから、きっと複数を相手取ることになる。でも、何体いるのかは分からないし、戦い方も……きっと、私たちをマネキンに変えようとしてくるような攻撃があるって事以外にはわからない。だから、十分注意しておく必要がある」
     以上で分かっていることは全てだと、薫は締めくくる。
    「未知数なところが多い相手だけど……私たちが全力を尽くせば大丈夫、だと思う。だから頑張ろう。平和を取り戻すためにも……」


    参加者
    六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)
    七音・奏(小学生サウンドソルジャー・d03328)
    ヘルミ・サブラック(小学生魔法使い・d05618)
    相良・千鶴(閃剣小町・d09390)
    彼岸花・深未(石化系男子・d09593)
    河本・由香里(中学生魔法使い・d36413)
    平坂・穣子(インペリアルハムスター・d36486)
    神山・美佳(芝刈り機は待ってくれない・d36739)

    ■リプレイ

    ●夜のデパート探検だ!
     月明かりが差し込まず、街の灯が届くこともない。次の営業に向けて休息という名の静寂に沈んでいる、深夜のデパート。
     小さな灯りが点ったのは、動き続けるモノを探すため。
     デパートの平穏を乱す都市伝説・仲間づくりのマネキンを倒すため。
     まずは服飾品の店が立ち並んでいるフロアに……と足を踏み入れた灼滅者たちは、二班に戦力を分けて都市伝説探索を開始する。
     シャツにワンピース、スーツにカーディガン……今の時期に合わせた、もしくは夏に向けたコーディネートを施されているマネキンを一つ、一つ観察しながら、河本・由香里(中学生魔法使い・d36413)は呟いた。
    「仲間が欲しい……ですか。マネキン達は寂しいだけかもしれないですね」
     買い物客で賑わっている時も、誰もいない時間でも、変わらずポーズを取り続けているマネキンたち。たとえ仲間が近くにいたとしても、ふれあうことも語り合うことも出来ない存在。
     顔色一つ変えることなく仕事をまっとうし続けているマネキンたちを時間を置かずに見つめているうちに、背中を叩かれた。
     振り向けば、唇の前で指を一本立てている七音・奏(小学生サウンドソルジャー・d03328)が、階段の方角を見るよう促してきた。
     視線を向ければ、灯りが一つ。
     灼滅者たち以外の者が持つ灯だ。
    「警備員……だよね」
    「……」
     平坂・穣子(インペリアルハムスター・d36486)が頷き、灯りを消しながら抜き足差し足で近づいていく。
     手を伸ばせば届く位置にたどり着いた時、力を用いて眠らせた。
     更には素早く距離を詰め、倒れゆく警備員を受け止めていく。
     近くのベンチに寝かしつけた後、仲間たちへと振り向き盛大なため息を吐き出した。
    「にしても、動くマネキンなんてベタだよな。仲間を増やすために人間をマネキンにするなんて、怪談話の定番じゃねーか。くだらね。子供だましかよ。こっちはさっさと終わらせて帰りたいんだ。さっさと出てこいよ」
     暗闇の中に表情を隠し、口数多めにまくし立てた穣子。
     一瞥した後、ヘルミ・サブラック(小学生魔法使い・d05618)は瞳を細めていく。
    「仮に遭遇したなら……仲間っぽさをアピールして、時間稼ぎができると良いのですが……」
    「それをするにも、まずは発見しないといけませんね」
     由香里は静かに微笑みながら、マネキン探索を再開する。
     一方……。

     由香里たちの対角線上に位置する区画を探索している四名の灼滅者たち。
     六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)は梅雨に向けた衣装に身を包んでいるマネキンに触れながら、思いを巡らせていく。
     曇ることのない、すべすべの肌。羨ましく思ってしまうのは何故だろう?
     もっとも、心を奪われることはない。
     やるだけのことをやらなければ、八体のマネキンが増えていたという事態が起こりかねないのだから。
     決意を抱く薫の隣、相良・千鶴(閃剣小町・d09390)は瞳を細め呟いた。
    「マネキンが襲ってくるって何か怖いわよね……」
    「そう……だね」
     頷きながら、薫は千鶴の手を引き後ろに跳ぶ。
     レジの近くに、暗闇の中で動く影を見つけたから。
    「……」
     向けた灯りの中に映しだされたのは、顔を持たぬ三人の女性。
     都市伝説、仲間づくりのマネキンたち。
     灼滅者たちの到来に気づいたのだろう。仲間づくりのマネキンたちはいきり立つ。
     言葉などによる時間稼ぎは難しいだろうと、薫は腕を肥大化させながら走りだした。
    「まずは合流まで保たないと、ね」
    「でたよー!」
     神山・美佳(芝刈り機は待ってくれない・d36739)は他班への伝達を行いながら、マネキンたちの周囲に魔力を送り込んだ。
     薫の肥大化した拳が戦闘に位置するマネキンの腕とぶつかり合った時、大気は氷結しマネキンの一部が凍りつく。
     表情を持たぬマネキンたちは堪えた様子などつゆほども見せず、静かに身構え始めていく。
     不気味だ、と千鶴は思い抱きつつ、巨大な剣を上段に構えた。
    「とにかく、まずあ合流を目指さないとね」
    「仲間作りのマネキン……とても恐ろしいですぅ……! でも、犠牲者が出る前にボクたちで何とかするですぅ!」
     彼岸花・深未(石化系男子・d09593)もまた気を張って、マネキンたちの周囲に送り込んでいた大気を氷結させた。
     冷たさにも氷の煩わしさにも特に反応を見せた様子なく、マネキンたちは灼滅者たちへと近づいてくる。
     マネキンたちが伸ばす腕。
     灼滅者たちは避けるためにステップを踏み、視線から逃れるためにワゴンの影に身を隠す。
     死角から刃を差し込んでいく。
     二度の攻防を終えた後、状況は拮抗し始め……。
    「だ、大丈夫か!?」
     穣子の放つ新たな風が、先頭に位置するマネキンを斜めに斬り裂いた。
     視線を送れば、別所を探索していた四人の姿。
     灼滅者たちは合流を果たし、全力でマネキンたちに挑んでいく……。

    ●お前もマネキンにしてやろう
     戦いは、概ね総力を結集した灼滅者たち優位に動いていた。
     しかし、デパートはマネキンたちの主戦場……といったところだろう。先頭に位置するマネキンへと魔力の弾丸を撃ち込んだ深未の体が、不意に物陰へと消えた。
    「むぐっ」
     冷たき感触に口をふさがれ視線を向ければ、気づかぬうちに背後に回っていたマネキンが一体。
     助けを呼ぼうとしても、言葉が外に漏れることはない。そればかりか、唇が硬化し始め動かなくなっていく。
     一方、奏は体を震わせていた。
     また別のマネキンに、お尻と胸を撫でられて。
    「ちょ、ちょっと……」
     顔を真赤にしながら抵抗するも、その力は何処か弱々しい。
     悠々と離脱していくマネキンを、追いかけようとして立ちすくむ奏を見つめながらヘルミは紡ぐ。
    「大丈夫? 癒やしますわ」
     風に、言葉をのせるため。
     仲間たちを救い出すために。
     けれど……全てを救うとは、中々行かない。
     自分の分だけでも治療しようと声を上げようとした薫が、先頭に位置していたはずのマネキンに口を塞がれたように。
    「――!」
     声を出そうとしても出しきれず、薫るはマネキンの型に押し込められた。
     救い出さんと、奏が――。
    「っ!」
     ――手を伸ばそうとした時、視線を感じて固まった。
     心が恐怖に支配され、別の個体に引っ張られ……。
     体をかがめたような格好をしたマネキンが一つ、できあがる。
    「くっ」
     救出を目指し動こうとした由香里もまた、足を固められて立ち止まることを余儀なくされた。
     故に、まずは自分の治療を。
     そのための力を集わせていく中、千鶴もまた足を止めていく。
    「足が……動かなムグッ」
     口をふさがれ、闇の中。
     真新しいマネキンへと。
     その頃には、物陰へと消えていた深未が顔を出す。
     新たなマネキンとして、胸をそらし、腕を頭の後ろに回している……そんなポーズを取りながら……。

     次々と、マネキンに変えられていく仲間たち。
     影を、剣を振り回して回避し続けていた美佳は、同様に無事な穣子へと視線を送った。
    「なんだよみんな! しっかりしろよ!」
     瞳の端に涙をためながらも、時に不必要なほどに距離を取りながらも、しっかりと仲間の治療という任をこなしている。けれども呼吸は早く、手足もひどく震えていた。限界は近いように思われた。
     だから……。
    「絶対に屈してはならない。絶対に、絶対に、絶対に、絶対に」
    「っ!」
     力強く、語りかける。
     偉人の言葉を、今の状況に当てはめて。
    「あなたの脆い部分が、いずれ強さとなるのだから」
     視線を向けてきた穣子に微笑みかけながら、巨大な剣片手にマネキンたちの群れへと突っ込んだ。
     大立ち回りを演じてマネキンたちを遠ざけていくさまを眺めながら、穣子は大きく息を吐く。
     拳を固く握りしめ、新たな風を招き入れ……。
    「て、てめえら……しっかりしやがれ!」
     虚勢混じりの叱責とともに、風に浄化の力を載せた。
     着せ替え人形にされて頬を赤らめていたヘルミは、体に熱が戻ってきたのを感じて急いで脱ぎ散らかされた防具をかき集める。
     申し訳程度に格好を整えた上で、剣片手に先頭に位置していたマネキンへと突っ込んだ。
    「さあ、ここから反撃開始ですの」
     まっすぐに突き出した剣はマネキンを貫き、打ち砕く。
     欠片が跡形もなく霧散していく中、ピシリ……と、小さな音がいくつも響いた。
     マネキンに囚われていた者たちが、型の中から抜け出し始めたから。
     肌で空気を感じるなり、薫は虚空に魔力の矢を浮かべていく。
    「危なかった……」
    「……」
     元気に戦い始めていく仲間たちを見つめ、美佳は安堵の息を吐きながら右側に位置するマネキンに影を差し向けた。
     魔力の矢に貫かれたマネキンが影刃に切り裂かれていく中、奏は天井に向かって矢を放つ。
    「……しばらく夢に見そう」
     きっと現実の物となってしまうだろう予感を抱きながら、無数の矢を降り注がせマネキンたちを貫いた。
     右側のマネキンが動きを止め、消滅の時を迎えていく。
     残るマネキンは、後一体。
     穣子はほっと息を吐きだして、帯を翼のように伸ばし始めた。
    「この調子で最後のやつもぶっ飛ばすぞお前ら!」
     差し向けた帯は、誤る事なく最後のマネキンを拘束する。
     抜けださんと、もがくマネキン。
     すかさず美佳は背後へ回り込む。
     足に、刃を差し込んでいく。
    「これで……」
    「終わらせますわ」
     ヘルミもまた石化の呪詛を送り込み、マネキンの体を硬直させた。
     されど消える様子を見せなかったから、由香里は正面へと歩み寄る。
     炎に染めた大鎌を、振りかぶる。
    「……」
     瞳を細めながら振るい、マネキンを斜めに斬り裂いた。
     倒れゆくマネキンを受け止めて、耳元に囁きかけていく。
    「一晩ぐらいならマネキンになってあげてもいいですよ」
     返答はなく、ただ重さは失われ……マネキンは、欠片も残さず消滅した。

    ●マネキンは今も昔も
     治療や後片付けといった事後処理を行いながら、千鶴はひとりごちていく。
    「恐ろしい敵だったわね……」
    「うん……でも、みんなが無事でよかったですぅ!」
     頷きながらも、深未は笑顔を浮かべていた。
     戦いのさなかに色々あったけれど、終わってみれば皆無事。
     デパートに平和を取り戻せた喜びを抱きながら、懐中時計で時間を調べていた深未は顔を上げ、残された……変わらず佇み続ける本物のマネキンたちへ視線を送る。
    「老兵は死なず、ただ消え去るのみ……このマネキン達もそうなのかな……?」
     昔から変わらず、ただ衣装だけを変えて佇み続けているマネキン。
     彼らが動くことはない、意志を示すこともない。
     ただただデパートの中で、粛々と己の役割を果たしていく。
     人々の視線を集めるために。
     より良いファッションを求める人々の、キラキラした瞳をみつめながら……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年5月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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