ぽんぽこ怪人・タヌキング！

■リプレイ

●出たなぽんぽこ！
　夕暮れ時の公園、その真ん中で。
「あらぶるゆきなのぽーず！」
　天城・優希那（おちこぼれ神薙使い・d07243）はビシっと決めた。
「あの大人しそうな優希那さんがあんなに荒ぶるなんて、でも……可愛いすぎます」
　タヌキ着ぐるみ姿の羽坂・智恵美（幻想ノ彩雲・d00097）が、きらきら瞳を輝かせて、あらぶるゆきなのぽーずを見守っていた。
「あわ、智恵美様そんなに見ないで下さい～恥ずかしいのです」
　頬を染めて身悶えつつも、優希那はあらぶったポーズを崩さない。放たれた殺気が、人々を周囲から遠ざけてゆく。
　散歩などで公園内に居た人たちも、足早に立ち去って行った。
「こんなものかな」
　古土・平人（糖尿病三十三歩手前・d05770）は、公園の出入り口にコーンを並べ終えて手の埃を払う。
「桜子もお手伝いしますよ」
　北大路・桜子（小学生神薙使い・d00952）が、コーンとコーンの間にせっせとロープを張った。
「いたずらダヌキめ、これ以上悪さする前にとっちめてやらねぇとな！ 覚悟しとけよー！」
　信濃・充則（高校生ご当地ヒーロー・d09009）が、作ってきた『立ち入り禁止』の貼り紙をロープに貼り付ける。
　こうしておけば、しばらくは誰も入らないだろう。
「成敗してタヌキ汁にしてくれるわー！」
　囮役の志村・健（ご当地が迷子・d00875）が、防犯ブザーを片手に公園へと入っていくのに皆も続いた。
「では、タヌキングさんを待ちましょう」
　桜子は言って、ささっと散歩コース沿いの植え込みの影に隠れる。
　怪人が出たらブザーを鳴らす手はずになっているので、皆散歩コース沿いの物陰に適当に隠れて、その時を待つ。　
（「今……身近な集まりまでたぬきに侵食されてるのは多分そいつのせい！　ぶらぶら諸共……もげるのです！」）
　霈町・刑一（本日の隔離枠　存在が論外・d02621）は植木の陰で、スレイヤーカードをぎゅっと握った。
「タヌキの着ぐるみ会を開いてた一人として捨て置くわけにはいかないのです！」
　たぬき着ぐるみ姿の智恵美が、どんどろと怨念を発している刑一の隣でキリッと決意を呟いている。
（「タヌキングさん、どんな怪人さんなんでしょうかねぇ？　智恵美様のタヌタヌさんみたいに可愛いですかねぇ？」）
　智恵美の隣の優希那は、可愛い着ぐるみ姿を横目に、期待で瞳をきらきらさせていた。後の惨劇を、彼女はまだ知らない……。
　そんな間にも、健は順調に公園の散歩コースを先へと進んで行った。
　――と。
　いくらも経たないうちに、防犯ブザーの音が夕闇の中に響く。
　出たなタヌキング！！
「日沈む夕暮れ時。さぁ、狸狩りの時間だ」
　ウルフラム・ヴィーヘルト（鋼鉄のウルフライダー・d03246）が、フルフェイスのシールドをさっと下ろしてヴリッツシュバルツ（ライドキャリバー）に跨って突撃していった。
「おらたちも行くぞイナサク号ー！」
　充則も、イナサク号（ライドキャリバー）を伴って飛び出してゆく。
　唸る単輪が目指す先には、頭に袋を被せられてじたばたしている健の背後に回りこんで足をかけようとしている、尻尾のぶらぶらした後姿。
　その１ｍ半くらい手前でウルフラムが止まり、ブォンブォンと威嚇するようにアクセルをふかす。少し遅れてほぼ同時に、他のメンバーも集結した。
「なにっ！？」
　流石に異変に気付き、周囲を見回すたぬきスーツ姿の中年男。尻尾もぶらぶらしていたけれど、前もぶらぶらしていた。
「う……。なるたけ隠せるよう動こうじゃねぇか。な、イナサク号！」
　ディフェンダーとして前に立つ充則が、背後の女子たちを意識して言うと隣のイナサク号も答えるようにアクセルを吹かす。
「ほほう！　貴様らさてはご当地ヒーローとその仲間たちから成る戦隊というところか！？　しからば、名乗ろう！　わが名はタヌキング！　この名を胸に刻むが良い！」
　ぶらぶらぶらぶらぶらぶら。
　ダメだ！　ディフェンダーとクラッシャーが３人でがんばっても、ずっと前に居られるわけでもない。それに、こんなに激しく左右に揺れるものを隠し切ることはできない……ッ！！　不可能……ッ！
「タヌキングさん、目によろしくないです……」
　桜子が、隙間から見えてしまったものにぶるぶるっと頭を振る。おまわりさんこっちです！と叫びたい気分だが、あれは灼滅者として滅するべき相手。
「とあるお歌を思い出しましたが歌いませんよ……桜子は淑女目指しておりますゆえ」
　桜子はぐっとカードを握り締める。
「うわぁぁぁん、あのおじちゃん気持ち悪いのです～！　あの変なぶらぶら何ですか～？」
　優希那の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
「た……たぬたぬさんはそんな格好じゃありませんっ、もっと可愛らしく、そんなぶらぶらしたものはつけてないのですー！！　い、いきますよ優希那さん！」
　智恵美が半泣きになりつつも、隣に立つ優希那を勇気付けるように声をかけ、スレイヤーカードを掲げる。
「っ、ぷあ！　全くだよ！　おっさんがタヌキってても全然愛らしさがねえよ！！」
　健が、頭から布袋を脱いだ瞬間に目にしたぶらぶらに対して、思わず布袋をペチーンと放り捨てて叫んだ。
「ぽんぽこー！！」
　智恵美の決意を籠めた言葉と共に、封印が解除され、そして戦闘が始まる。

●ぶらぶらぶらぶ
「タヌキーック！」
　タヌキングのキックをオイスターソードでガードした健の、眼前で、ぶらぶら。
　もちろん、ぶらぶらしているものは作り物。見たところタイツ系の伸縮性のある布で作った長い袋に、重みのある球体を２つ入れてある。しかし不快は不快。
「当たらなくても目に痛い！　つか、やってて虚しくならないのかよオイィィ！！」
　健はキックの威力を受けて微かに痺れる手でチェーンソー剣の柄を強く握り、お返しとばかりにご当地ビームを放った。
「あうっ！」
　ぶらり。攻撃を受けてふらつけば、当然揺れるのである。
「たぬきには恨みがあるのです……」
　刑一から、鏖殺領域によりどす黒い殺気がまるでオーラのように、無尽蔵に放出されタヌキングを覆う。足元からの影業の黒さとも相俟って、とにかく黒く、黒い。
「きれいなたぬきなら恨むべくもないが……」
　ウルフラムの広げる殺気も、黒い。とても黒い。
「タヌキはばかすもの！　お前ら全員ばかされろ！」
「ばかされてやろう。だが――僕の名も刻んでもらう」
　どす黒い殺気に負けず哄笑するタヌキングに、平人は言いつつ胸元にシャドウの象徴であるトランプのマークを具現化させ、大鎌を構えた。一時的に闇堕ちへと傾いた魂そのままに、眼鏡の奥の瞳が暗く光り、大鎌の刃を映す。
「絶対に許さないのです！　退治しますー！」
「成敗！」
　智恵美と桜子の神薙刃が、中衛と後衛から次々とタヌキングを襲った。ホーミング効果つきの技に時間差で来られて、タヌキングは回避しようと左右にもたつく。あ、なんとか片方避けた。ぶらぶら。
「あんなのタヌタヌさんじゃないのです～」
　優希那は契約の指輪を光らせて、制約の弾丸を放つ。あの、行動のたびにぶらぶらする、目に毒な動きにせめてもの制約が――かかってくれればいいのだが。
「ゆっゆっゆっ……優希那さん落ち着いてください！」
　そう言う智恵美も、前衛に隠れてなるべく上半身だけが見える状態にしようと努力しているもののなかなか上手くいかなくて涙目だ。
　女子たちの悲鳴に、なるたけタヌキングの下半身あたりに隙間を作らないよう意識しつつ、イナサク号と充則が動く。
「こっちゃあ畑からタヌキ追っぱらうのなら慣れてんだ！」
　充則が、龍砕斧を軽やかに操り龍骨斬りでタヌキングの太鼓腹を絶った。ばらり、と全身タイツっぽい衣装の一部が破れた。
「汚いな」
　ウルフラムは顕になった腹の生肌に低く呟くと、ガンナイフを構え素早くタヌキングの死角へと回り込む。ティアーズリッパー！　破れ目がまた一箇所増えた。
　危険な香りがする……。
「月をギラギラ映したる、今宵の一閃、今ここに！」
　そこへ平人が懐に飛び込み、影を映した鎌でトラウマナックルを叩き込む。
「うぉ……っ！　やめてくれ！　踏むな！　蹴るな！」
　以降、タヌキングを苛むことになる彼自身のトラウマがいかなるものかは、あまり想像しないほうがいいかもしれない。
「なんのぉ！！　千畳敷ダイナミーック！」
　雄叫び上げて、タヌキングは怒りも顕に健に駆け寄ると、持ち上げてぶん投げた。
「い……っ！」
「桜子にお任せください！」
　衝撃で、地面の上でしばらく苦鳴すら上げられない健に桜子から防護符が飛ぶ。ああ、更に見苦しいことになっているタヌキングの姿が視界に入る恐れがあるというのに、前衛の味方の状態をきちんと観察する少女の健気さよ！
「うりゃあ！　もげろお！　毒に侵されるのですー！」
　刑一の放った漆黒の弾丸が、タヌキングを蝕んでゆく。
　毒とトラウマに苛まれながらも、ぶらぶらは続いている……。
「サンキュー！　……こんにゃろ、こんにゃろ、もげろ！」
　桜子にお礼を言ってから、健はぶらぶらを必死に攻撃した。うなるチェーンソー剣オイスターソード！　チェーンソー斬りによって追加されてゆくバッドステータス！
　戦闘はしばし続く。
「くらえ！　ぽんぽこビーム！」
「ぶべっ！　いってえけども、田舎根性でくらいつくぞ～……！」
　充則はタヌキングが腹から放ったぽんぽこビームを受け、対抗するようにご当地ビームを放った。グォン！イナサク号のスロットル音も高らかに鳴り響く。
　前衛たちは攻撃を受ける回数が多かったが、ディフェンダーの２人がタヌキングに与えた怒りの効果で主に引き受けていることもあり、危なげなく耐え切っていた。
　とはいえ、応酬が続き、回復しきれなかったダメージが嵩んでゆくとメディックの桜子１人では回復が追いつかないこともでてくる。
「羽坂さま、古土さまの回復をお願いします！　桜子は信濃さまを回復します！」
「了解です！」
　桜子の声かけに応じ、智恵美が攻撃の手を止め防護符を投げた。
「宵の影から、この一太刀、その御立派を、掻っ捌く！」
　平人が大鎌を振りかざし、タヌキングの死角からティアーズリッパーをきれいに決める。
　タヌキングのスーツがまた派手に破れ……。
　ぼろり。
　そんな不吉な予感は序盤からしていたのだが、衣装の一部であるぶらぶらが、ついに千切れ落ちた。
　破れた布から覗いたのは恐らく下着。
「女子に見せんなぁあああああ！！」
　健がチェーンソー剣にレーヴァテインの炎を纏わせて、大慌てでタヌキングの真正面に突っ込んでゆく。やった！　ゆらめく陽炎で、ちょうど隠れたぞ！
「お気遣いありがとうございます～！」
　優希那は前方に男子３人が立ちふさがってくれていることに感謝しながら、マジックミサイルを放った。
　高純度に圧縮されたな魔法の矢を腹に受け「ぐふう」と身体をくの字に曲げたタヌキングは、ぶらぶらの不在に気付き嘆き悲しむ。
「これではタヌキングではない！　ただの可愛いたぬきおじさんではないか！」
「シナノ！？」
　ただの、の一言を聞き間違えた充則が「はっ」とした顔で聞き返し、会話がカオスになりかけたところに。
「今です！　誰得たぬき縛り！」
　刑一の影縛りが、ナイスなタイミングでタヌキングを絡め取ってゆく。
「というわけで余りにも気持ち悪いので影で飲み込んで……見せられないよ！」
　ちょうど、見たくない部分が影に隠れ、とてもいいかんじだ！
「もうダメだ……ぶらぶらはこのタヌキングの力の源……それを失っては……！」
　タヌキングは遠い目で呟いた。地面に転がったぶらぶらは、ただの作り物で、タヌキングは単に灼滅者たちから与えられたダメージでふらふらなのだが……怪人のお約束的に、弱点を突かれて倒されたということにしたいのだろう。
「ああ。そろそろ狸狩りもフィナーレだ、目障りなブツにお別れを告げるんだな！」
　ウルフラムがヴリッツシュバルツと共にその懐に飛び込み、マテリアルロッドを振り渾身の力でフォースブレイクを叩き込む。
　どこに叩き込んだか、その結果どうなったかはわからない。
　確かなのは、タヌキングが終わったことだけ。
「フ……フハハハ……この阿波の国には狸合戦の伝説が残る……このタヌキングが倒れようとも、第２第３のタヌキングが……」
　むき出しの太鼓腹を揺らしながら、よたよたと男は歩き、地面に落ちていたぶらぶらを拾い上げた。
「これ……よかったら記念に持って帰るかね？」
　そして、灼滅者たちに向けて差し出す。
　もちろん、誰もが首を横に振った。
「飴を差し上げるので勘弁してください……今日見た光景だけでトラウマものなので……」
　平人の言葉は、つまり飴あげてでももらいたくない、ということ。
「そうか……ぶらぶらはアカンか……」
　何ともいえない、切ない表情になったタヌキングは。
「ぐあらば！！」
　秋の夕日の空の下、爆散した。

●夕焼け空は美しく
「やった……ようですね」
「みてぇだな」
　刑一に、充則が頷く。
「……色々な意味でつらい戦いでしたが、お疲れ様でした」
　桜子が、ぺこりと皆に頭を下げた。
　終わったのだ。空気が緩む。
　イナサク号とヴリッツシュバルツが、勝利を喜ぶようにエンジン音を吹かした。
「もうやだ、目と脳に深刻なダメージ受けたわ俺……」
　健は眼鏡を外して、疲れた目をほぐすようにぐりぐりと眉間を揉んでいる。
「キミ、飴舐めるかい？」
「さんきゅー……」
「飴はねー糖分がねー頭にいいんだよね」
　平人に差し出された飴玉を口に入れると、確かに脳のダメージが和らぐ気がする。
「よし！　さっさと片付けて、帰って寝て、今日の事は忘れようぜー」
　健は元気に、パイロンとロープの撤去を手伝いに行った。
「どうぞ、安らかにー」
　桜子が、タヌキングの爆散したあたりに向けて両手を合わせる。
「ごめんなさい、どうか安らかにお眠り下さい…」
　優希那も、一緒に冥福を祈って。
「タヌタヌ……」
　泣きべそかきながら、智恵美の服をきゅっと握った。
「大丈夫ですよ優希那さん、悪いたぬたぬはどこかに行ってしまいました。帰ってお鍋でもつつきましょう」
　智恵美が、優希那の手をそっと握って優しく言う。
　暗くなり始めた秋の夕方。
　風が少し冷たくて、確かにお鍋の季節の到来を感じる。
「そろそろ、コンビニおでんも美味しいな……」
　ウルフラムは手洗い場でマテリアルロッドを洗いながら呟いた。それはもう念入りに洗う、その手は止めないまま……。
　皆の心にさまざまな思いを残し、タヌキングは消えた。
　徳島の平和は守られた。
　ありがとう！　ありがとう、灼滅者たちよ！
　また、新たなる怪人が現れるまで、せめて今は、安らかに――。

作者：階アトリ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2012年10月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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