運動会2016~コスプレ一番星への道

    作者:朝比奈万理

    「運動会、いかにも青春という感じだな。実に結構!」
     ニコニコ笑顔の浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)の手には、針と糸。千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)に着せている衣装に最後の手直しを施し、パチンと糸を切った。
    「よし、完成だ! これで運動会はバッチリだな!」
    「これ着てバッチリなのは、女の子だと思うんだけど……」
     満足そうな千星と引き換えに、花近の表情は浮かばない。
     なぜなら、彼が身に着けている衣装は純白のプリンセスラインのドレスにヴェール付きの花冠だったからだ。
    「運動会は6月。6月といえばジューンブライド。花嫁さんのコスプレだぞ!」

     そう、6月5日は、武蔵坂学園の運動会。
     血湧き肉躍る競技の数々。
     そしてたった一つの栄光である優勝を目指して組連合ごとに力を合わせる。
     激しくアツい戦いが今、はじまろうとしていた!

     千星が用意していたのは、コスプレ競争用の貸衣装。
    「コスプレ競争って、衣装着て走る競技だよね?」
     花冠を頭に乗せたままの花近が尋ねると、千星は一つうなづく。
    「だがな、コスプレ競争はただコスプレ衣装を着て全力疾走して一番になればいいという競技ではない」
     そして明後日の方向をビシィッと指さし、声を張り上げる。
    「パフォーマンス。そう、どのように振る舞い駆けるのかが重要なのだ!」
     自分が選んだ衣装でトラック一周。その間に、そのコスプレのパフォーマンスをしながら走る。その良し悪しによってMVPが決まるのだ。
    「ということはだ、小学生から大学生まで平等! 運動得意なアイツも苦手なキミも一切ハンデなし!」
     わたしのような小さいのでも、千曲・花近に勝てるのだ! と千星は力説する。
    「去年もすごかったもんね。みんないろんな衣装着て、楽しそうだったなぁー」
     と、花近は去年の競技を思い出し。
    「ソロもいいけど、クラスや連合が一緒の友達同士でテーマ決めて一緒に走るのもいいよね」
     様々な学年の者が垣根なく楽しめそう。と思わずにっこり顔の花近に、千星はもう一度大きくうなずいた。
    「そう、この競技は楽しんだ者が勝者の競技だ。皆で楽しんで、会場を大いに沸かせようではないか!」


    ■リプレイ

    ●第一レース! 
     1レーンのこっち側と、8レーンのあっち側に白線を引き終わった。
     花嫁に扮した千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)と、花婿に扮した浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)がそれぞれ手を上げると、【糸括】の10人は各々位置に付いた。
     用意、ぱぁん。
     ピストルの音が鳴ると、トラックは彼らの舞台だ。

     鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)。水色のワンピースとエプロンドレスがなんともかわいらしく、きらきらと輝くブロンドの髪からはうさ耳が覗く。
     女装だけど……。
    「って、何で俺がアリスなんだよ!? 三蔵、そのウサ着ぐるみ置いてけ!」
     白目ひんむいて『妖怪着ぐるみおいてけ』よろしく追いかけるのは、白ウサギの着ぐるみに緑のチョッキを付けて、大きな時計を持って走る白ウサギ、三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)。
     物語でも追いかけられる役回り。
     後ろが騒がしいと振り返ってみれば、すごい形相で迫る妖怪着ぐるみおいてけ、もとい、脇差が目に飛び込んでくる。
    「うわぁ、逃げなきゃ逃げなきゃ!」
     遠ざかっていく渚緒にやきもきする脇差を踏んで転ばせたのは、狼耳をぴくぴくっとさせてニヤ~っと笑んだメイクのミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)。なぜかうさ耳装着だ。
     ぐぬぬとなってる彼に、にゃぁんとひと鳴きひと笑み。
    「だって、これ競争でしょ? 先にゴールしないとね~っ♪」
     すたこらさっさと走り去る。
    「みんな速いなぁ」
     久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)はクラシカルなドレス。胸にはたくさんの詰め物に、腰はギュギュっとコルセット。コショウのビンをもってみんなを追いかける。
     それにしてもハイヒールは走りにくいと、脱いだとたんに持っていたコショウが舞い……。
    「くしゅんっ」
     くしゃみをした拍子に、脱いだハイヒールがポーンと飛んで脇差に当たる珍事発生。
     あら、と口元に手を当てる杏子の隣に、奇抜な色のシルクハットとクラシカルなスーツに身を包む興守・理利(竟の暁薙・d23317)が並ぶ。ティーポットとカップを手に、やっと皆に追いついた。
    「帽子屋さん、紅茶くださーいっ」
     笑顔の杏子。そんな彼女のの胸元を凝視しつつも、
    「どうぞご婦人」
     と、紅茶を振る舞う理利であった。
     その先にいるのは、この物語のヒロイン。
    「お茶、どうですか?」
     理利がお茶を淹れたら、他の走者はお茶をいただかざるを得ない。
     ひと時の優雅なティータイムである。
    「もっとお茶を飲みましょう」
     脇差の後ろににゅっと湧いて出たのは、白のスーツに黒いワイシャツと深紫のチョッキとスラックスが映えるマキシミン・リフクネ(龍泉堂の左輪・d15501)。
     黄緑色の蝶ネクタイをパチンとはじいてみせるその頭にはぴょこぴょこ跳ねるうさ耳と、麦わらの髪飾りが揺れる。
    「白ウサギはあっちだよ」
     と指さすはスタートのほう。
     そちらに気を取られる彼の横をするり抜けてマキシミンは先を走る理利をターゲットに。
    「帽子屋、ワインを注いでくれないでしょうか?」
     と絡みに行くのであった。
    「自分で言ったから自業自得とはいえ、また着るとは思わなかったよ、この衣装っ!」
     うさ耳カチューシャに黒とオレンジベースのドレスを身にまとった琶咲・輝乃(紡ぎし絆を宝と想いし者・d24803)は、大きな懐中時計を抱えて走り出す。
    「ああ、もうはずかしいっ!」
     その頬は真っ赤に染まる。早くゴールしなければ、恥ずか死ねる。にどめましての衣装に爆走である。
     そんな輝乃の目の前にいたのは、咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)。ジャケットに帽子にベストに、ハートモチーフのアクセサリーをいっぱい飾って、歌い踊るのは……。
     夏の日にクイーンが一日かけてがんばってタルトを焼いたんだけど、そのタルトを盗んだのは、この私。きれいさっぱりごちそうさま。
    「はい、判決☆」
     4つのスートモチーフの衣装を着た萩沢・和奏(夢の地図・d03706)は、千尋に真っ赤なうさ耳を差し出した。
    「ちゃんとうさ耳をつけないと、女王様に怒られちゃいますヨ!」
     ちょこんと首を傾げれば、赤いバラの髪飾りと赤いうさ耳がぴょこんと揺れる。
     本来は赤いバラをつけるのだが……。
    「うさ耳のほうがいいよね☆」
    「みつけたぁー!」
     顔を真っ赤にした輝乃が千尋をロックオン。
    「ああ、女王様、ゴメンなさーい!」
     と、三人は脇差を吹っ飛ばさんばかりに爆走する。
    「お若いの、どこに行かれるのじゃ~」
     木元・明莉(楽天日和・d14267)は軽やかに、飛ばされた脇差に近づく。
     ……軽やかに……、よくここまで頑張ったものだ。明莉の着ぐるみは超精巧なウミガメモドキの着ぐるみ。その実とても重そうである。
     じじいの長い身の上話が続き、よっこいしょと伏せれば、ズゥン! と鈍い響きが地を這い。
    「はっ! そうか、海を渡りたいのじゃな!! わしの甲羅に乗るがいいぞぉぉぉぉ~~~」
    「とりあえず踏んでおくか」
     げしっと甲羅に蹴り一発。
    「いて! 踏むなよ鈍!!」
     素が出る二人なのだった。
     そんなこんなで、一番にゴールしたのは渚緒。
     その後次々と赤いうさ耳をつけてゴールしていく【糸括】のメンバーたち。
     でも、部長の姿が見えないんですけど……。
    「踏んだかもしれない」
    「あたしも踏んだかも、なの」
    「うん、踏んだ踏んだ♪」
    「きっと気のせいですよ」
     輝乃と杏子、ミカエラがそう証言する中、和奏は笑顔の確信犯だ。
    「俺は甲羅を撫でました」
     マキシミンが証言すると、微かに聞こえてくるのは聞き覚えのある声だ。
    「明莉先輩の声が聞こえてくるんだけど……」
     くるり振り返る渚緒の目に映ったのは、はるか後方でじたばたするウミガメモドキの明莉。伏せたことと踏まれまくったことにより、起き上がれなくなっているようだ。
    「誰かー、ヘルプミー!!」
     明莉は理利や仲間の手を借り励まされて、何とかゴールする。
    「いつものカオスだが。これもまた俺達らしいパフォーマンス、かね?」
     苦笑するも、満足気な脇差。
     役柄のパフォーマンスもさることながら、それぞれの個性を前面に出した走りに、会場が大きく沸いていた。

    ●第二レース!
     ぱぁん。
     ピストルが鳴ると、全身包帯ぐるぐる巻きの彼は乗っていたチャリを降りた。そして右片足立ちでけんけん。
     あれは何だ! ミイラだ! 透明人間だ!
     いいや、
    「ウオオオオオトンカラトン! トンカラトンと言え! 老いも若きも老若男女も、オールウェイズエニタイム、トンカラトンと言え!」
     中の人は撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)の、トンカラトンだ!!
     ゴツ目の模造等が重そうだけど、決して右傾きを崩さない。
     これぞトンカラトンの構えだ!
     その後ろには【アムドシアスの音楽隊】。
     4人全員が美しいグラデーションのウィッグをかぶり、白と黒を基調とした夜会服を身にまとい、額には立派な角を付けている。
     彼ら分裂体が征くは、遥かな演武の場。
     目指すは7G蘭の勝利なり。
     メイクももちろんバッチリな長身のアムドシアス、アンカー・バールフリット(彼女募集中・d01153)が青緑のつけまつげで瞬きすれば、風が起こるよう。
    「♪これは驚嘆ときたものだ。運動会にコスプレ戦とは!」
     ヒップホップ調の歌に合わせて可愛らしいアムドシアス二人組、立花・奈央(正義を信ずる少女・d18380)とローラ・トニック(魔法少女ローライズ・d21365)が、ステップを踏んで回るアンカーに倣ってくるりと回れば、優雅な雰囲気のアムドシアス、ステラ・バールフリット(氷と炎の魔女・d16005)も同じように周り踊る。ただ欲を言えば、奈央やローラに比べてお胸が寂しいくらいか……。
    「♪我らはソロモンの悪魔、アムドシアス! 余興の遊戯だとしても、それが勝負であるならば、負けるわけにはいきませぬ♪」
     4人は盾に並ぶフォーメーションをがっちり組むと、拳を回して千手観音っぽくぐるぐるまわるダンス。
     これ、ロールダンスっていうらしい。
     毎年悩みながらも用意するけど、これがとても楽しい。
     片倉・光影(風刃義侠・d11798)は扮するのは、山伏風の烏天狗。装束に大きなヤツデの扇子。背には体に負けないほど大きいカラスの翼を背負う。
     一本歯の高下駄を器用に操り、片手を前に、片足でトントントンと飛び六方を踏んでみる。
     とても様になっているところを見ると、相当特訓をしたようだ。
     その後ろから聞こえてくるのは、美しい笛の音色。
     白い水干に葛袴。頭にかぶった被衣から顔をのぞかせるのは、カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)。いつも頭に付けているフクロウの面も、今回は鴉。
     カンナがふと横に跳ねるように逃げると、彼女がいた場所を薙刀の刀身が掠める。といっても、模造刀なのだが。
     だんっ。と足を踏み鳴らし薙刀をもう一度構えたのは、法師風の衣装に身を包んだ水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)。頭巾から見える表情は、とても楽しそう。
     二人は息の合った立ち振る舞いを見せる。雁之助が薙刀を高く振るうと、カンナが笛で受け止める。低く振るわれれば軽やかに飛んで交わす。
     牛若丸と弁慶、そして烏天狗。三人並ぶと、時代絵巻のようだ。
    「トンカラトン! トンカラトンと言え!」
    「♪我らはソロモンの悪魔、アムドシアス!」
     ダークネスとの組み合わせで、カオスですが……。
     トラック半分過ぎたあたりでカンナは早着替え。受け取った甲冑を身に纏って、悠々と歩く雁之助の肩の上に。
     鈍足のレースは混戦を極めたが、1位は歌舞伎のような足捌きや飛び、舞を披露した光影。
     特訓の甲斐があったと一つ頷き。
     するとトンカラトン・娑婆蔵の体から紫の煙がもくもく立ち上がる。
     これは、トンカラトン大王……!!
    「トンカラトンと申すがいいトンカラトン!」
     大王、ゴール。
     続いてゴールした仲良し親子の雁之助とカンナ。
    「楽しかったんだな?」
     尋ねる雁之助に、カンナは笑顔。
    「父上と一緒じゃったから、とっても楽しかったのじゃ」
     最後までぐるぐる、回りながらやってきたアムドシアスの4人は、ゴールラインを踏むと――。
    「♪これにていとまを頂戴し、しばしのお別れ名残惜し」
    「♪されど我らは不死の者、また会うこともありましょう」
    「♪学園諸氏の健康と、多幸を祈っていざさらば」
    「♪次にまみえる戦場で、再び演舞を競いましょう」
     アンカー、ステラ、奈央、ローラの順にくるりとお辞儀。
     聞いて心地いい、見て楽しい。
     エンターテイメント性の高いレースに拍手が鳴り、歓声が沸いていた。

    ●最終レース!
    「なんでこんなフリフリなの……しかもミニスカートだし……」
     モノクロの魔法少女、黒木・白哉(モノクロームデスサイズ・d34450)は、ミニスカートの裾を前後で押さえながら走る。なのでものすごく遅い。
     女性にみられる白哉だが、顔はひたすら真っ赤。男子だもの。
     対して、ふんわりとした衣装の魔法少女、鈴鳴・真宙(蒼銀の自鳴琴・d26553)は、肩に乗る使い魔役のぬいぐるみの頭をひと撫で。
    「がんばっていきましょう」
     クラシック音楽が流れるラジカセを片手に、神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)が扮するのは、クラシカルなドレスを身にまとった珈琲狂いの女性。
     これもカフェの宣伝。みんなも楽しみにしている。そう思わなければやっていられない。自棄である。
     着付けとメイクは、彩瑠・さくらえ(三日月桜・d02131)が施した。可愛らしい出来栄えに、さくらえは大満足だ。
     さくらえが扮するのは、貴族風の衣装。勇弥が扮する女性の父親だ。
     両手に持った鳴子をチャッチャと鳴らしながら踊り進むのは、日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)とミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)。ワンピースの上に着るのは、晴れ着をジャケット風にアレンジした衣装。もちろんお揃いだ。
    「翠はさすが。よく似合ってて素敵♪」
     普段から和装を着こなす翠をミルドレッドがほめると、翠は目をキラキラさせて。
    「よさこいの妖精さんがいるのです!! お持ち帰りしたいのですー!!」
     と、抱きつこうとする。
    「こんなところでお持ち帰りはだめだよっ!?」
     こんな二人の後方。
     今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)の服は赤茶と黒のもふもふ。ぷにぷにの肉球付きの靴と手袋に、頭からすっぽりとレッサーパンダ耳のフードを被る。
     何よりも目を引くのはふさふさなしっぽ。とてとてと走るとゆらゆらと、大きく揺れる。
    「アピールしなきゃ」
     小さくつぶやくと可愛らしい肉球の手をむにむにふりふり。
     最後にふらふら~と走る……歩くのは、天渡・凜(心の声の導くままに・d05491)。衣装は足元まですっぽり隠れるTシャツワンピースは異様に膨らんで、斜め掛けしているウサギのポシェットは少し重たそう。
     目をトロンとさせてふらふら、今にもそこら辺にばったりと倒れてしまいそうだ。
     ステッキをさっと振ったり、くるくるっと回したり。
     たとえ疲れても、ゴールが遠くてめげそうになっても、真宙は笑顔。本当はちょっと恥ずかしいけど……。
    「魔法少女はいつでも笑顔なんですよ」
     隣で元気いっぱいにパフォーマンスするもう一人の魔法少女をさりげなく見、白哉はトラックの中で作業をしていた花近を捕まえた。
    「……花近、これパフォーマンスしないとだめ?」
    「もっちろんだよ☆ 俺、超期待してるっ♪」
     親指を立ててサムズアップのいい笑顔。しかもウィンク付きだ。
    「えぇ……」
     げんなりするが、ここは覚悟を決めて。
    「……魔法少女マジカル☆ハクヤッ! ここに参上っ!」
     投げやりにポーズをとるけど、美形さんがやると、決まってしまうもので、本人の予想に反して歓声が沸いてしまう。
     恥ずか死ねるとはこのことか。
     白哉は涙目で爆走するのだった。
    「愛する娘のリースヒェンを想って説教しているのに、あの子はまったくわかっちゃいない。朝夕構わず何倍も飲み続ける珈琲狂いをどうすれば止めることができるのか」
     足を進ませながら演技口調でセリフを言うさくらえは、あぁと頭を抱える。
    「リースヒェン、まったくお前は何度説教しても正そうとしないのか? その珈琲狂いをやめないか!」
     勇弥の肩を引っ張るさくらえ。すると勇弥は小悪魔的にステップを踏んで、
    「ああ、千のキスよりも甘く、ワインよりも柔らかな、そんな珈琲を止めろだなんて」
     目いっぱいの裏声で、コーヒーの素晴らしさを訴えてさくらえを往なした。
     ひきつる笑顔。ざわわわと体中に走る鳥肌。つれそうになってる足元。
     だけど勇弥は最後の力を振り絞った。これもカフェのため!
    「そんな素敵な珈琲、ぜひ『カフェ:フィニクス』で」
     んちゅっ。と両手で飛ばすのは投げキッス。
     さくらえは隣で笑いをこらえるのに必死だ。おなかいたいっ!
     よさこいを踊るミルドレッドと翠。
     二人の息はぴったり。
     鳴子を鳴らしてジャケットを翻して踊れば、そこだけ華やか。お祭りのよう。
    「観客のみんなもボクらと一緒に! ついてきて!」
     ミルドレッドがハイテンションに観客をあおると、翠も派手なアレンジで踊り、舞う。
     ぼふっ。ころんっ。
     転んだ拍子に一回転する紅葉の顔はぽっと赤くなるけど。
    「まったく紅葉ってば……」
     ペロッと舌を出しておどけてみせると立ち上がって、ぽんぽんと肉球お手々で服のほこりをパンパン叩き落として。
     そしてまっすぐ見据えると、またとてとてぽてぽて走る。
    「あと少しなの。頑張るの!」
     ぐっと手を握ると、しっぽもふさふさ揺れる。
     ばたりっ!
     こちらも案の定。寝こける凜。
     このままトラックの真ん中で寝入ってしまうのか……!
     と思ったそのとき、ウサギのポシェットから可愛らしいメロディが流れる。アイドルソングだ。
    「……寝てる場合じゃないっ!」
     パチッと目を開け跳び起き、Tシャツワンピースを脱いだら。
    「学園アイドル☆天渡・凜!」
     制服風アイドル衣装で、キラッとキメポース。
     残りのトラックは、ドーム公演の花道。ポシェットからマイクを取り出すと、小走りながらも明るい歌声を響かせる。
     次々ゴールする灼滅者達。
     ゴールテープを切るとばたりと突っ伏した勇弥。
    「やー、さいっこー!さっすがだね、とりさん!」
     さくらえは大笑いしながら幼馴染の勇士に拍手喝采。 
    「みんな、応援ありがとー♪」
     ゴールした凜も四方に手を振るが、あっと声を上げ、
    「脱いだ服、片づけなきゃ……」
     と、トラックを戻っていくのであった。
     メルヘンで賑やか、可愛らしい走者達に、観客からは惜しみない拍手が上がっていた。


     全走者が走り終えて、残るはMVPの発表だ。
    「みんなすごくすごかったよねっ」
     ブーケ片手に発表を今か今かと待つ花近。その隣で千星が少しの呆れ顔。
    「千曲・花近よ、語彙がやばいぞ。でも皆、とても楽しそうではあったな」
     千星が笑顔になると、そのタイミングで放送が入った。
    『今年のコスプレ競争。MVPは、撫桐・娑婆蔵さんの、トンカラトンです』

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月5日
    難度:簡単
    参加:26人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ