運動会2016~超絶笑顔☆三輪車レース!!

    作者:陵かなめ

     6月5日は、武蔵坂学園の運動会だ。
     組連合ごとに力を合わせ優勝を目指すチーム戦。その熱い戦いが今、始まろうとしている!!
     
    ●超絶笑顔☆三輪車レース
    「三輪車レース? 学園の運動会だし、きっと凄い三輪車が用意されているのかな?」
    「いえ、普通の三輪車です」
     生徒の疑問を聞いて、教師がきっぱりと言い切った。

     この競技は、三輪車に乗ってゴールを目指すレースだ。小学生であろうが、ガタイの大きな大学生であろうが、使う三輪車は同じ。
    「え? 身体が大きい人は不利? まあ、そこは何とか頑張って!」
     何とか?! どう頑張るの?! 戸惑う灼滅者達をよそに、教師は笑顔で説明を続ける。
     15名の参加者が同時にスタートすると言う。トラック半周してゴールだ。狭いトラックだが、そこは、何とか自分の走る場所を勝ち取って欲しい。当然、普通の三輪車を使用するのだから、速度はそんなに出ない。頑張って漕ぐしかない。そして、MVPは最速タイムの者に与えられる。
     なお、転ぶのはいくら転んでも失格にはならない。
     だが、三輪車のペダルから足を離したら失格だ。片足をペダルにつけて、片足で地面を蹴るのも失格。漕いでゴールする必要がある。
    「最後に、これが一番大切なことなのですが、競技中は必ず笑顔でお願いします」
    「笑顔?」
    「ええ、レース中に笑顔が2秒以上消えた人も失格です」
     とにかく、笑顔で! 転んでも競っても、笑顔であることが絶対の条件となる。
    「勿論、敵の進路を妨害したり、笑顔を消したりする工夫をしても良いです」
     とりあえず、ESPの使用だけは禁止されているらしい。が、笑顔を消して失格を誘うのも手だということ。
     ともあれ、灼滅者達よ。
     笑顔で三輪車を漕ぎまくるのだ。
    「な、なるほど。優勝を目指すためにも、ぜひ笑顔でそれから最速でゴールしたいよね!」
     説明を聞いていた空色・紺子(大学生魔法使い・dn0105)が、ぐっと拳を握り締めた。勿論、笑顔で。


    ■リプレイ

    ●いちについて~
     三輪車レースに参加する選手控えスペースでは、玉砕・覚悟(フレイムハート・d36501)が緊張した面持ちでグラウンドを見つめていた。周囲の生徒達も、覚悟と同じように可愛い三輪車を構え座っている。
    「何故かはわからないが、今の俺は未来予知を行える気がしてならない」
    「え、それはどのような事でしょうか?」
     隣で出場の準備をしていた四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)は、その鬼気迫る雰囲気にゴクリとのどを鳴らした。
    「そう――競技後に足がつる未来が見えるんだ!」
    「あ、はあ」
     そして、曖昧に頷く。
     確かに、自分達が手にしている三輪車は小さい。本当に、ただの普通の三輪車だ。おそらく、この三輪車で前に走る人を追い抜くのは相当難しいはずだ。そうなれば、やはり最初が肝心だろうか。悠花はそのように戦略を練りながら、スタートを待っていた。
    「三輪車なんていついらいだろね~」
     ころころと車輪の転がり具合を確かめながら霞・闇子(小さき闇の竹の子・d33089)が元気な声を上げた。いや、良く考えたらあんまり乗ったことが無いかもしれない!
    「がんばって一位を狙うぞー!」
     そして、何より楽しんで!
     闇子がわくわくと期待を込めた笑顔で握りこぶしを掲げる。
     さて、日下部・優奈(フロストレヴェナント・d36320)は周囲の参加者の様子を確認し、そしてどこか遠くを見つめた。
    「ペア参加の競技は選べなかったとはいえ……情報を見ずに適当に選ぶとこんなに悲惨な結果を招くのだな……」
     ぴんと伸ばした背筋が、今はどこか落ち着かない。
     凛とした雰囲気も、おそらくだが、三輪車にまったく不釣合いな気がする。
     それから、気のせいかもしれないけれど、想像以上に周囲からの目がキツい……ような。
     優奈はキッと周囲を睨みつけ凄んだ。
    「……おい、今私を見てキツいって言った奴、後で屋上に来い」
     周囲の生徒達は揃って首を横にぶんぶんと振る。
    「おーい。レースはじまるって~!」
     その時、紺子が皆を呼んだ。
     レース紹介のアナウンスと同時に大きくファンファーレが鳴る。
     参加者達は身を屈めて三輪車を押しながらスタートラインに立った。
    「去年は一輪車で大暴走してしまいましたが今年は三輪車なのできっと大丈夫です」
     フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)は去年の種目の事を思い出していた。だが、大丈夫。きっと大丈夫なはずだ。三輪車は後ろに爆走しない……と良いなぁ。
     スタート係が三輪車に搭乗する様指示を出す。皆一斉に三輪車のペダルに足をかけた。やはり、普通の三輪車だ。想像以上に窮屈で、サドルに乗っかることさえ苦戦する参加者の姿もちらほら見える。
    「よ~し、いくぞ~!」
     しかし、その中でも久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)は明るい声を上げた。
     こう言う事は、参加することに意義があるのだ!
     三輪車は小さいけれど、頑張れば何とかなりそうだし。
     スタートラインに参加者が並び終わった。
    「三輪車なら、あまり苦にならないで操縦できそうなの」
     小さい三輪車は、小さければ小さいほど動かしやすい。
     このレースは身長が低いほど有利とも言えよう。
     古室・智以子(花笑う・d01029)はしっかりと三輪車に乗りスタートの号令を待ち構えていた。
     後は笑顔で走りきるのみ。笑顔は得意分野なの、と、智以子が口の端を持ち上げる。
    「笑顔……笑顔ですか。これはなかなか難しいですね」
     ごそごそと自分の顔にテープを貼りながら東海林・風蘭(機装庄女キガネ・d16178)が呟いた。顔にテープを貼り付けて笑顔の形にすれば良いのではと考えたのだが……。
    「はいそこー! それは笑顔じゃなーい!」
    「む。やはり、反則擦れ擦れでしたか」
     指摘を受けて素直にテープをはがす。
     こうなれば、考えてきた作戦で何とかするしかない。
     風蘭も覚悟を決めて三輪車に足をかけた。

    ●よぉ~い、どん!
     仰々しく旗が振られ、号令係がスターターピストルを空に向けた。
    「それでは、三輪車レース、よぉ~い」
     拍手も、応援の声も、鳴り物の音も、一瞬止み、グラウンドが静まり返る。
    「どーーーーん!!」
     号令と破裂音。
     参加者達はペダルに足を乗せ、一斉に……キコキコ走り出した。
     気合は十分、皆真剣に参加している。真剣に慣れない三輪車を駆り、真剣に笑顔だ。
     その中で飛び出したのは悠花だった。
     三輪車のスピードはほぼ横並び。それ故、前の走者を抜かすのはやはり難しいと思う。
    「ので、スタートダッシュにすべてをかけます!」
     このレースは、2秒笑顔が途切れると失格と言うルールだ。
     つまり、最初の一漕ぎに気合を注ぐ間はあるはず。
     気合を入れた一漕ぎで、悠花の三輪車が一歩抜きん出たのだ。
     その背後にはぴったりと付ける智以子の姿がある。やはり、身長の低さが有利に働いたようだ。
    「背の低いことが、こんなところで役に立つなんて……なんだか、複雑な気持ちなの」
     口元にニタリとした笑みを浮かべ、智以子は複雑な思いに駆られる。
     いや、これは勝負なのだ。
     とにかく思い切り漕いでゴールを目指すのみ。
    「あはは。みんな、凄い笑顔だねー!」
     ニコニコと、自らも笑顔を浮かべながら闇子も走る。それに並んでフリルも順調に前へ進んでいた。
    「えっと、とりあえず慎重にこいでいけばいいでしょうか?」
     笑顔を浮かべ、器用に三輪車を乗りこなしている。
     それもそのはず、この日のために鏡で笑顔の練習をしてきたのだ。ああ、三輪車がとても楽しそうだ。観客はフリルの笑顔を見てそう思った。その笑顔は、三輪車の楽しさを伝えるのに、十分な笑顔だった。
    「よーし! 勝負だよ。お互い頑張ろうね」
    「あ、はい。頑張りましょう」
     闇子とフリルは顔を見合わせ、互いに競いながら進んで行った。
     やはり上位陣は小柄な者達が固まっている。そこから少し開いて、他の生徒達が団子状態で追いかけていた。
     その混戦の只中で、風蘭は笑顔を保ちつつ考える。このままでは勝てない。何とかして、周囲の進路を妨害せねばならないだろう。
     だから仕掛けたッ。容赦無くッ。周囲の生徒の笑顔を消すためにッ!!
    「布団が吹っ飛んだー」
    「ん?」
    「えーと。鶏肉は取りにくいー」
     周囲の空気が凍り付く。
     冷ややかッ。
     笑顔なのにッ誰もッ何もッ反応できないッ。
     寒い空気が風蘭に突き刺さる気がするッ。
    「あ、あは」
     風蘭の頬が何となく赤く染まった気がする。
     これは、作戦なのだ。つまらないダジャレを言って、周囲の笑顔を奪うと言う作戦!!
     だが、恥ずかしさのあまり、風蘭はうつむかざるを得ない衝動に駆られた。
    「あ、あはは。あはははは」
     いや、こんな時こそ、笑ってごまかす!
     自らの作戦により、心理的ダメージを受けた風蘭は、誤魔化し笑いを浮かべるのだった。

    ●みんな、えがおで、がんばって
     レースも中盤に差し掛かる。集団は未だ混戦状態だ。
     その中でも、後方に位置している織兎はのんびりとマイペースに三輪車を漕いでいた。
    「いや~三輪車ってちっちゃいな~」
     確かに小さくて足元は窮屈だけれど、慣れれば案外何とかなるものだ。
     ふと空を見上げると、良い天気なのが分かる。
     グラウンドの外からは、声援が聞こえてくる。
     みんな楽しそうだ。運動会を楽しんでいるのだろう。勿論、織兎も楽しい。
     やっぱり学校行事は楽しくてたまらないと思う。
    「三輪車乗ることになるとは思わなかったけどな~」
    「本当に……まさかこの年で三輪車に乗ることになるとはな……」
     その横で、乾いた笑いを浮かべているのは優奈だ。
     いや、背が高くて漕ぎにくいというハンデはともかくとしてだ。三輪車と高校生という組み合わせがもうおかしいし、やはり周囲からの目がキツイ。
     しかしだ。
    「しかし武蔵坂に来て初めての運動会、やるしかあるまい」
    「そうだよな~。行事に参加できるの、嬉しいよな~」
     三輪車を転がしながら、織兎が相槌を打つ。
    「よしいくぞ~! 前へ前へだな! 笑顔でな~」
    「そうだったな。笑顔を忘れず……うふ……うふふ……」
     足が余って回し辛いし、身体を大分屈めないと三輪車から落ちてしまいそうだ。
     だが優奈は三輪車を漕いだ。
     ぎこちない笑顔を浮かべながら優奈は三輪車をひたすら漕いだ。やるからには試合に負けるつもりは無い。完走を目指し、前を向く。
    「おー! 頑張れよ~」
     ペースを上げた優奈に織兎がエールを送った。
     その声に励まされるように、優奈は上位陣へ向かい走っていく。
     集団の先頭付近で覚悟に追いついた。
    「おし、直線来たぜ!!」
     慎重にカーブを曲がりきった覚悟は、その先の直線でスピードを上げるようだ。
    「なるほどな」
     置いて行かれまいと優奈もペダルを漕ぐ足に力を入れた。
     互いに、そろそろ変な箇所に力が入り続けている足が限界に近い。筋が悲鳴を上げているのが分かる。つる。きっとつる。足が今にもつりそうだ。
    「しかーし、足がつっても笑顔!」
     一に笑顔、二に笑顔、三四も笑顔で五も笑顔!
     覚悟は弾ける様な笑顔で顔を上げ、気合を入れるように声を上げた。
     レースの参加者達は、それぞれ試行錯誤しながら三輪車を頑張って漕いでいる。妨害もあったが、それは覚悟には性に合わないから、やり返すよりもバネにして頑張ってきた。空は青くて良い天気だ。三輪車の速度は、風が流れるには少し足りない気もするけれど、それだけゆっくりと運動会を感じられる気がした。
     ああ、楽しいんだと思う。
     楽しくて、笑顔でまだまだ頑張れそうだ。
     集団から覚悟と優奈がやや抜け出し、上位陣との距離を詰めた。
    「あはは。三輪車、楽しいな!」
     そんな二人を見送って、織兎はやっぱりマイペースで集団後方を進んでいく。
     笑顔で走れば、本当に楽しいんじゃないかと思った。
    「ちょっと前にサーヴァントのまーまれーどがライキャリだったときのこと思い出すよな~ちょっとな」
     直線が終わり、最終コーナーの途中にゴールが見える。
     楽しいレースも終盤に差し掛かろうとしていた。

    ●いよいよ、ゴールだ~!
    「くっ、皆さん、速いですね」
     上位陣も少しずつばらけてきている。
     スタートダッシュこそ成功したものの、悠花は四位に甘んじていた。やはり、スピードを出すには、滑らかにペダルを漕がねばならず、その為には小柄なほうが有利なのだ。
     前に居る三人は、やはり速い。覚悟や優奈も追い上げてきているが、寸差で届きそうに無い。
    「慣れてくると、思い切り漕げるの」
     そう言って、智以子はいっそう足に力を込めた。
     勿論笑顔も忘れない。
     笑顔は得意分野なのだ。
     さあ、見よ!この満面の笑みを! と。
     智以子の口元は歪んで……いや、ぎりぎり笑っていた。少々目つきが悪い感じなのは何故なのか。顔に影がかかっているし、何か企んでいるような印象さえ受ける……笑顔だ!!
     また智以子がスピードを上げた。印象的な笑顔で、疾走する。ゴールは目の前だ。
    「もうすぐゴールですね」
    「そうだね。最後まで頑張ろう」
     フリルと闇子は並んで懸命に三輪車を漕いでいた。
     今や三輪車にも慣れ、スムーズに足を運べるようになっている。智以子に遅れまいと、二人もどんどん加速した。
     三輪車がカーブに差し掛かる。
     その時、後ろから誰かが追い上げてきた気配を感じた。
     思わず振り返る。いつの間にか、風蘭が悠花を抜いて迫ってきたのだ。
    「はあ、ようやく、追いつきそうです。紅葉を見に行こうよー」
     そのタイミングで風蘭が声を上げた。
    「ええ?!」
    「えっと、何でしょうか?」
     闇子とフリルが首を傾げる。純粋な瞳たちが説明を求めているのだ。風蘭はこうなればと、潔く説明することにした。
    「つまりです。紅葉と、見に行『こうよー』をかけているダジャレです」
    「あ、そうですね」
     フリルは風蘭の速度に合わせて三輪車を漕ぎながらなるほどと頷く。
    「そっかー。それで、こうようなんだねー!」
     闇子も、ニコニコと相槌を打った。
    「はははは。あはは。あはは」
     色々な恥ずかしさを誤魔化すように、風蘭もまた笑い声を上げた。
     皆必死に三輪車を漕ぎながら、三様の笑顔だ。
     だが、そのダジャレ攻撃に惑わされない者が居た。
     他の参加者を気にせず突っ走っていた智以子だ。
     グラウンドの外から、更に大きな声援が上がる。ゴールまで後一漕ぎ。
    「もう少し、もう少しで優勝なの!」
     他者の妨害に負けずただひたすら優勝を目指した。
     そして、智以子の三輪車が、ついにゴールを潜った。
    「古室・智以子さん、ゴーーーーーール!!」
     派手なアナウンスが流れる。
     振り返ると、他の参加者達も次々にゴールしていた。
    「皆さん、お疲れ様でした! 素敵な笑顔をありがとう!!」
     レースを応援していた人達から、参加者に盛大な拍手が送られる。
    「そして、一番にゴールしMVPを獲得したのは古室・智以子さんです!!」
    「本当に嬉しいの。優勝したの!」
     智以子は三輪車を降り、小さくガッツポーズして見せた。
     レースに参加していた仲間達も集まって、皆健闘をたたえた。
     皆無事完走したのだ。
     こうして、超絶笑顔☆三輪車レースは古室・智以子の優勝で幕を閉じた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月5日
    難度:簡単
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ