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べっちーん。
とある港町の一戸建ての住宅の一つ。そこから外にも聞こえる勢いでいい音が響いた。
「ふふ……」
妖艶に笑うのはいろいろとデカイ女淫魔。胸とか態度とか。そしてそんな彼女の足元で膝を付いているのは高校生くらいの青年だ。
「よ、洋司!? 大丈夫!?」
そんな我が子に駆け寄るのは母親で、今しがたでかい胸で自分の子が横薙ぎに吹き飛ばされたからだ。
「……母さん」
「良かった、無事……」
ぼつり。子が呟いた。
「俺は今目覚めた。でかい方が正義、だと」
「分かってくれたか、我が子洋司よ。いや同士よ」
後ろから現れた父親らしき男の言葉に彼はうなずいた。無事じゃないね、きっと。
「あ、あなたまで父さんと同じことを! そんな!」
母親はショックの余り既に荷物を用意している、あ、出てく気だこの人。
「サイレーン様が現れる前にこの町を制圧しておきましょう……」
最後だけ真面目っぽいこと言ってもダメです。
●
「そんな淫魔の方が海沿いの住宅街を抑えようとしているみたいんですよ」
ラブリンスター・ローレライ(高校生エクスブレイン・dn0244)が言う。ちなみにこの淫魔はラブリンスターよりでかい。
「詳しい話をすると、みなさんがサイキックリベレイターを大淫魔サイレーンに向けたことで活発化しているんです。そしてその配下も目覚めているのですが、状況も分からず誰も命令していないので淫魔の本能で行動しています。ですがもっと上位の淫魔が復活すれば、最終的に軍団を作り上げてしまうので今のうちに灼滅して欲しいんです」
いわゆる一つの現状説明である。
「とりあえず皆さんが向かう家が一軒目なのでさくっと倒してきて下さいね。魅了された一般人の男性二人が邪魔してくるとは思いますけど」
とりあえず説得すれば目覚めて邪魔するのをやめてくれるかもしれない。面倒な時は手加減攻撃でもすればいいだろう。
「あとこの家にはもう一人母親がいるのですが、足早に家を出て行くだけなので戦闘には関わらないです、ので家庭崩壊に目をつぶればスルーしても大丈夫ですよ」
さらっとしんどいフレーズが出た気がするが気にしない。
「この淫魔のサイキックは、びんた、はさむ、よせるの3つです」
それぞれ催眠、パラライズ、攻アップの自己回復らしい。なおそれなりに強い模様。油断しなければ大丈夫らしいが。なおポジションはクラッシャーである。
「とにかく淫魔を灼滅してください。……できればこの家族も守ってあげてくださいね。それではよろしくお願いします!」
参加者 | |
---|---|
風真・和弥(風牙・d03497) |
武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454) |
戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549) |
椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137) |
十・七(コールドハート・d22973) |
茶倉・紫月(影縫い・d35017) |
マギー・モルト(つめたい欠片・d36344) |
田中・ミーナ(高校生人狼・d36715) |
●その扉を開いたら
――かつて俺は家族をイフリートに奪われた。その悲しみを誰かに味わわせたくないから。
椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)の脳裏にあの時の炎が蘇る。決して戻らないあの日。だからこそこれから淫魔に壊されようとしている家庭を見過ごす訳にはいかない。
「家族が離れ離れになっちゃうのは大問題よね。なんとかしないと」
マギー・モルト(つめたい欠片・d36344)はぽつりと呟いた。独りになるのは嫌だろうから。
「ラブリンスターさんよりでかい女淫魔さんですか。歌唱力とかどうなんでしょうか?」
自身もいいものを持っている田中・ミーナ(高校生人狼・d36715)が唇に指を当てて考える。……大丈夫、シリアスさんはこの程度で死なない。彼女の姿がバニースーツを着たものであっても。
「その上のサイレーンと戦うためにやれることからやっていかないと……」
武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)が呟く。うん、こういうのでいいんだ、こういうので。そんな彼らは例の淫魔がいるという家の前に来たのであった。
「ここに居るらしいけど……どうなんだろうね」
茶倉・紫月(影縫い・d35017)が淡々と呟いて扉に手をかける。と同時に扉が開いて中からくだんのお母さんがこんにちは。
「奥さん聞きましたか!」
がばっと戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)が食い気味に踏み込む。プラチナチケットをひらひらさせながら。「関係者」は「関係者」である。それ以上でもそれ以下でもないと武流は自らに言い聞かせる。
「最近ヤクザの情婦が云々でかくかく然々だとか! 僕の友達の友達もやられたみたいでー最近物騒ですよねーー!」
「それってただの他人ですよね!? というかハートを盗んじゃう系の強盗とか実在するんですか!」
「……愛想尽かしそうになる気持ちも分かるけど、あれは一種の催眠状態みたいなものよ。元に戻してはあげられるけど多少荒療治にはなるから、終わるまで少しこの場から離れて待っててもらえる?」
「強制的に属性(嗜好)を変更する相手だ、安全な所にいた方がいい」
十・七(コールドハート・d22973)と風真・和弥(風牙・d03497)が母親を諭す。なんだろうこの二人の雰囲気。片方は恐ろしく冷静で、もう片方はえらく熱意にあふれている。多分いろんな意味で対極の二人のような気がする。
「そうだ! 離れる前にあんたの家族を取り戻すために力を貸してくれ!」
武流がそうこの母親から聞いたのは解決へのキーパーツ。……既に目からハイライトが消えつつあるがまだ序盤だ、がんばれ。
●大きいとか小さいとか誰が言い始めたの
「ふふふ……。これでまた一つ世界に真理を広めることが出来たわ……」
かしずく男二人を前に淫魔はほくそ笑む。あれなんか目的変わってない? 彼女がそんな風に悦に入っていると扉が大きな音を立てて開けられる。最初に部屋に飛び込んできたのはミーナだ。
「何奴!」
「灼滅者です。あなたを倒しに来ました」
「ふ、中々の戦闘力を持っているようだけどその程度で私に勝てると思って?」
淫魔の眼差しは揺れる彼女の胸元に注がれている、ついでに某野郎二人の視線も。早速彼女はサウンドシャッターを張る。……これからのやり取りがご近所に漏れないようにするのは英断だったろう。彼女とマギーは淫魔と魅了された父と子の間に割り込む。
「このふたりには、ちゃんと目をさましてもらうわ」
「目を覚ます……違うわ。彼らは真理に目覚めたの。出来るものならやってご覧なさい」
淫魔は己の力に絶対の自信があるようで不敵に笑う。
「……確かに巨乳の良さを分からせるのは構わない」
「へえ、貴方達の中にも分かる人がいるじゃない」
「けれど、そこにESPを絡めて魅了して強制的に属性を変更するなど言語道断」
「違うわ、いずれ世界の正しさを彼らは知るでしょう。私はそれを少し早めただけ」
和弥と淫魔がシリアスに語っていたりすますが、内容は果てしなくどうでもいいです。
「……敢えて言おう。属性というのは己の魂のあり方そのもの! ESP如きでの上書きは不可能だ! 人間の煩悩を甘く見るなよ!」
「ならばやってご覧なさい、定命の半端者達よ!」
胸を揺らし襲いかかってくる淫魔をミーナとマギーが食い止める。二人共耐えるのに向けた準備をしてきているので耐えるのだけならば何とかなるだろう。2人が作る時間を活かすために残る者達は説得に赴く。
「じゃまをするならばそこをどけっ! 手加減攻撃!」
「………」
蔵乃祐がいきなり武器を振り下ろそうとしたところで七に蹴り倒され踏まれる。説得するためつーとるやろうが。七も七で突き刺すような視線を下に向けているが。
「……そこの(馬鹿)二人」
いろいろと覚めた様子で七は父と子に話しかける。
「あれは、さすがに大き過ぎでしょう。正直邪魔だと思うわよ、生活の上でも」
「修行というものは、常々労苦を伴うものだと私も我が子も悟ったのだ!」
「胸が大きいと、膝枕された時に相手の顔が見えないだろ。あと乳窒息する。俺はそんな死に方は御免だ」
「それで死ぬのなら本望だ。俺たちをその程度で止められると思うなよ!」
紫月の言葉にも耳を貸さない。なんというかただの狂信者っぽい。
「あなたたち二人とも、元々の好みは大きいのじゃなかったんだよね。「目覚めた」とか言っているけど、それってあなたたちが本当に思っていることなのかな?」
「……ほ、本当だ! 本当にそう思っているんだ!」
叶流の言葉に父の方が少したじろぐ。彼女のサイズが小さめなのが関係しているかも知れない。
「それに胸は大きさだけがすべてじゃないんだよ。小さい胸にもいいところはあるんだから!」
叶流自身何を言っているのか良くわからない。表情も釈然としていない。だがそんな様子に心の中で紫月が親指を立てて援護射撃をする。
「そう小さい事には価値がある。大きくなることはあっても、小さくなることは無い。つまり価値のある胸は微~貧。大きくなったら拝めない」
「ぐっ……そんな言葉で俺達が惑うと思うか!」
そんな論戦の最中部屋に入ってきたのは武流だ。手にはここでは表現できないあれこれが袋詰で下がっている。既に彼の目は虚ろだ。それでも事前に用意した文句を彼は述べる。
「……好みに口出しするつもりはないけど、それを貫いたからこそあんた達の今があるんだろ?」
「巨乳属性に目覚める事自体は悪いとは思わないけど、それは本当に己の魂が求めているのか?」
父と子は武流の持ってきた自分だけの宝物に言葉を失い、和弥の言葉に答えられない。
「……だとしたら、これはもういらないよな?」
和弥が火を取り出して秘蔵のブツを燃やそうとする。
「あんた達は裏切るのか? その愛を! そして人生を!」
「「うう……うあぁぁあ!」」
武流の言葉で父と子の中の何かがせめぎあう。
「それらはその……む、胸よりも大きく、そして重いはずだ!」
心を殺していた武流の顔が真っ赤になる。こちらもそろそろ限界のようだ。恐らくここにいる灼滅者の中で最も純情な彼にはここまでも荷が重かったのだろう。家探しとかも。そんな苦労の甲斐もあって男二人はそこで気を失ってしまう。
「まさか、目覚めを拒否するとは……」
前線で様子を伺っていた淫魔が驚愕する。そんな彼女に紫月は冷たく言う。
「彼らは自分の好みに素直になった。それは大事な事だ。……お前なんかに惑わされずに、自分を偽らなかっただけ」
色々面倒なことが終わったことを察した蔵乃祐がやっと立ち上がった。
「待たせたな! あとは僕に任せろ!」
ものっそい勢いで前線に飛び出していく彼の後ろで七が小さく剣呑な事を呟いた。
「死ねばいいのに。誰がとは言わないけど」
●我儘は漢の業、それを許さないのは
さて。蔵乃祐が何故父子を瞬間的に黙らせようとしたか。それを説明するために彼の内面を語らねばなるまい。
(「ヤッッッターーーーーーサービス回だーーーーーーー!!!! おっぱいサイコーーーー! ちちびんたばんざーーーーい!」)
うわあ。
まあこんな感じなので、ディフェンダーなのであろう。攻撃受ける回数が多いから。だがしかし、同じ魂胆を持つものがもう一人いた。……二人も居るのかよ……。
「うおおお! 俺が先だーっ!
和弥である。嗜好パラメータなんてものを設定している彼もまた(どうしようもない)漢であった。彼のポジションはクラッシャーであるが、本人の理性がクラッシュしている。
彼らを迎え撃つ淫魔は、先程まで手堅く戦っていた相手とは全く違う勢いを持つ二人に対して微笑む。
「そうよ! 来なさいボウヤ達! たっぷり素晴らしさを教えてあげるわ!」
大きな胸を揺らし二人を迎える。……その二人はどちらが先に受けるかで醜い争いをしていた。
「まずは先制を俺が取る!」
「いや! ここはディフェンダーの僕が!」
既に二人共セルフで催眠かかってるじゃないですかやだー!
「……ごめん。俺もうこのノリについていけない」
「大丈夫です、私ももういいかなって思ってます」
顔面を手で覆ってしゃがみ込む武流にミーナがつぶやく。前線では幸せそうな表情で和弥がふっとばされていた。
「ハァーーーッ!? ちちびんただぞ! こんな機会一生に一度有るか無いかだぞ!?!?」
蔵乃祐が双丘に挟まれた状態で振り返る、器用だなおい。
「君らは経験あるのか世!? けしからーーーーん!!!! 何時何処で誰にされたんだ言え!教えろ下さい!!!!!」
「ねえよ! 色々な意味で!」
思わず武流は突っ込んだ。決して彼女の胸がどうのこうのという話ではない。
「なるほど、俺の同志ですね」
紫月がメガネを光らせた。あ、こいつも面倒くさい系だ。
「胸が小さい事を気にしている。それが可愛いんだよな」
「いや別にそういうところをで好きになったわけじゃなくて」
「格差なくて、いや隠さなくていい。寄せて上げたり出来る下着とか付けたり、大きく見える服を着たりとかして隠れて努力している姿が最高なんだよ。でも水着だと素の大きさが明らかにだな……後はわかるな?」
「分からねえよ……」
この男性陣の惨状を見てマギーと叶流は視線を合わせた。
「……胸……」
「えーっと、うん、わたし達は真面目にやりましょう」
まあ二人共小さめであることは確かである。
「やっぱり男の人って大きい方がいいのかしら……」
マギーがぽそりと呟くと男性陣が反応する。
「「おっぱいに貴賎はない!」」
いいから黙ってちちびんた受けとけよ、前線の男二人。そんな二人を襲う胸を見てマギーは思考を巡らせる。
「……でもあそこまで大きいと……」
「……防御力も高そうだしね。……やっぱり釈然としないなあ」
度々、叶流とマギーの攻撃も飛んでいるのだがその度に揺れて衝撃がだな。どちらからともなく溜息をつく、彼らを慰めるようにネコがにゃあと鳴く。そんな二人の心情を思うつもりも無く紫月が語る。
「そう! 今の二人みたいに気にしていないフリしてるけど強がって」
「……スレンダーよ」
紫月が妄言を吐こうとしたところで、ここまで押し黙っていた七が口を開いた。その口調はまるで氷のナイフのような冷たく鋭利なものである、こわい。
「そう、スレンダー」
あまりの彼女の威圧感に紫月が押し黙る。ふと彼の脳裏に彼女の姿が思い浮かぶ、……怒り心頭の時の。淫魔とあれこれしている蔵乃祐と和弥は、真の恐怖がそこにいることをまだ気づかない。
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「こ、ここがヘブンか……!」
「ぐはははははは痛え! でもなんだか楽しい! きもちいい!!」
「この手に感じる柔らかさ、弾力……まるで王侯貴族の寝台のようだ!」
「やっぱスゲエぜ! おっぱい!」
この二人これでもダメージ受けてる上に同士討ちしてます。何してんだ。あとなんで二人揃って闇堕ちチェックしてるんですかね。まあそんな雰囲気も相まって傍目には三人揃ってイケナイ事をしてるようにしか見えないわけで。そんな彼らの背後に立つ影が一つ。
「うひゃゃゃひゃひゃゃもっとだ! もっと打ち込んでこい!」
「………それで? 満足した?」
「「「………え?」」」
ここからの戦闘、いやもっとおぞましい何かのシーンは割愛させていただく。とりあえず七の活躍で戦闘不能者や重傷者を出しつつ淫魔を灼滅した、と言うところで一つ〆させていただく。
●スレイヤーは傷だらけ
言葉にできない戦いは終わり、残されたのは荒れた部屋と目覚めた父子、そして灼滅者だ。七は母親に終わった旨を伝えに行き武流とミーナは散らかった部屋の後片付けをしている。
「大丈夫、目が覚めた?」
マギーが父子の意識が目覚めたのを確認する。
「え、ええ……」
「なんか悪い夢見てたような……」
「二人は覚えていないかもしれないけれど、父子には母親に謝った方がいいかも」
叶流がおおまかに事態を説明したり、息子と紫月がロリ巨乳の是非で共感したり。その内に母親が帰ってくる。とりあえず後は家庭の問題だろう。そして残る野郎二人は、というと。
「強敵だった……。これ以上戦っていたら、倒れていたのはおれだったのかもしれない。う、鼻血が。……ところでここどこ? なんでこいつがいるの?」
暗くて狭いどこかに蔵乃祐と血まみれの和弥がいた。まあ気絶してる彼の顔は幸せそうだからいいか。
「まあ今日は得難い経験が出来たからいいか……」
満足気に彼も眠りに落ちる。そしてミーナの声が外から聞こえてくる。
「それではお騒がしました」
ぺこりと彼女は頭を下げて、ゴミ袋を担いだ。その中には大きな何かが2つ入っていたという。
こうして灼滅者達の心と体を傷つけていった事件は幕を閉じるのであった。
作者:西灰三 |
重傷:風真・和弥(仇討刀・d03497) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 23/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
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