●高知県某所
遊泳禁止になっている海岸がある。
この辺りは遠浅になっており、海水浴客がよく溺れていたため、現在では立ち入り禁止になっているのだが、いつの頃からかこんな噂が流れるようになった。
海の中から手招きをする無数の手を見た、と……。
それがキッカケとなって生まれたのが、今回の都市伝説である。
「海は人類の故郷だって言うが、さすがに勘弁したいな」
そんな事をボヤきつつ、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。
今回、倒すべき都市伝説は、無数の手。
イメージ的には巨大なマイタケといった感じの敵だ。
コイツが海の中から『おいで、おいで』をしており、その手招きに誘われてフラッと行ってしまう者が後を絶たない。
おそらく、お前達が行く頃にも、誰かが襲われている。
ただし、一度都市伝説に捕まってしまうと、脱出は困難。
そのまま無数の手に体を引っ張られ、バラバラにされてしまう。
お前達も例外ではないから、なるべく遠距離から攻撃するといいだろう。
参加者 | |
---|---|
鷲宮・密(彼方の唄・d00292) |
江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337) |
ヴァン・シュトゥルム(中学生ダンピール・d02839) |
壱乃森・ニタカ(妹は魔法使い・d02842) |
雨寺・水人(雨津風の使い手・d05295) |
尾崎・ひなた(シャープシューター・d06773) |
夕凪・呉羽(月来香・d07920) |
メルフェス・シンジリム(自称魔王の黒き姫・d09004) |
●黄泉の入口
「……海かぁ」
都市伝説が確認された海岸に辿り着き、雨寺・水人(雨津風の使い手・d05295)がその広さに感動する。
一瞬、こんな時でなければ、もっと良かったのだが、と思ってしまったが、一般人が被害を受けている以上、放ってはおけない。
即座に気持ちを切り替えて、都市伝説に襲われている可能性が高い、一般人を探し始めた。
「……急ごう。新たな犠牲者が出る前に……!」
仲間達を急かしながら、尾崎・ひなた(シャープシューター・d06773)が一般人を探す。
ここでのんびりしていて、一般人がバラバラになってしまったのでは意味がない。
その途端、どこかで悲鳴があがる。
ひなた達がいる所から、少し離れた場所で!
すぐさま、現場に急ぐ、ひなた達……。
「あっ、あそこに人がいる! マイタケ……バラバラ……ひゃぁぁ、大変だよぅ!」
青ざめた表情を浮かべながら、壱乃森・ニタカ(妹は魔法使い・d02842)が悲鳴をあげる。
海の中に巨大なマイタケ……いや、都市伝説がいた。
都市伝説は白く透き通った無数の手をすらりと伸ばし、撫でるように手招きを繰り返す。
それに誘われるようにして、海に入っていく少女。
「あ、あれは私好みの幼女!? まさか、こんなレア種に出会えるなんて……、まさに運命っ! いや、宿命というべきかしら」
含みのある笑みを浮かべ、メルフェス・シンジリム(自称魔王の黒き姫・d09004)が都市伝説を睨む。
……いたいけな幼女が触手プレイの餌食になりかけている。
何としても避けねば……。
すべてが手遅れになる前に……!
「……まだ息はあるようね」
少女の無事を確認した後、鷲宮・密(彼方の唄・d00292)がホッとした表情を浮かべる。
今なら間に合う。
助ける事が出来る……はず。
「それにしても、ゆらゆらしてますね。波の音に釣られるように……」
引きつった笑みを浮かべ、夕凪・呉羽(月来香・d07920)が都市伝説に視線を送る。
都市伝説は波を撫でるように手招きしていた。
そのせいか、ずうっと見ていると、引き込まれてしまうような錯覚に陥った。
「……とはいえ、不気味過ぎます、あのマイタケ。どこかの企業でマスコットをしているマイタケとはえらい違いよう。……愛嬌のカケラもない」
げんなりとした表情を浮かべ、ヴァン・シュトゥルム(中学生ダンピール・d02839)が乾いた笑いを響かせる。
だが、少女の方は別で『パパァ……、ママァ』と小さい声で呟きつつ、都市伝説がいる海の中へと入っていく。
「ちょっ、ちょっと、正気なの!?」
唖然とした表情を浮かべ、鷲宮・密(彼方の唄・d00292)がダラリと汗を流す。
その間に少女はボロボロと涙を流し、都市伝説を迎え入れるようにして両手を開く。
「駄目ですよ、そちらに行っては!」
少女に対して警告しつつ、呉羽が預言者の瞳を使う。
だが、少女には聞こえていない。その心には……届かない!
すぐさま空飛ぶ箒に飛び乗って少女の腕を掴んだが、『は、離して!』と必死に抵抗。
「早く、こっちに来るんだ。手遅れになる前にっ!」
江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)も少女に手を差し伸べるが、やはり拒否。
「パパとママに会うの!」
少女は真剣であった。
彼女の身に何があったのか分からないが、おそらく父親と母親の海の底……。
……それ故に覚悟が出来ているのだろう。
例え、ここで命を奪われたとしても構わないという覚悟が……。
●少女
「人をバラバラにしちゃうなんて絶対だめー!」
すぐさま少女を守るようにして陣取り、ニタカが都市伝説にセイクリッドクロスを放つ。
その途端、少女が『や、やめて! いやあああああああああああ! パパ、ママー!』と悲鳴を上げた。
「あれはあなたの両親なんかじゃありません。あなただって、本当はわかっているはずです。既にあなたの両親は……」
都市伝説にフリージングデスを放ち、呉羽が言葉に詰める。
ハッキリとは……、言えない。言えるわけがない。
この状況を見れば、それがいかに酷な事か、分かってしまう。
「パパァ、ママァ」
少女の声が虚しく響く。
都市伝説のところに行くため、冷たい水を掻き分けて……。
「それ以上、あれに近づいちゃダメ!」
少女をギュッと抱きしめるようにして、メルフェスが必死に引き止めた。
その途端、柔らかい肌の感触が伝わり、何とも言えないイケナイ気持ちになった。
このまま連れて帰りたい。連れて帰って何かしたい!
……という気持ちが脳裏に何度か過ぎったものの、依頼中である事を思い出してグッと我慢。
「当たれよ」
予めヴァンパイアミストを使っておき、八重華が都市伝説めがけて、バスタービームを放つ。
その一撃を食らって、大量の腕が宙を舞う。
何本か仲間達に命中して辺りに響いたが、とりあえず気づかないフリをした。
何となく、心の中で謝りつつ……。
「なんかアレ気持ち悪いよぅ……! はやくなくなっちゃえ!」
今にも泣きそうな表情を浮かべ、ニタカが都市伝説にヴォルテックスを放つ。
それと同時に竜巻が発生し、都市伝説の腕が再び宙を舞っていく。
そして、雨の如く降り注ぐ大量の腕。
それは子供から大人まで、男性から女性まで様々。
……途端に込み上げてくる胃液。
「う……、流石に腕が飛ぶ光景は不気味ですね……」
思わず口元を押さえつつ、ヴァンが鏖殺領域を展開する。
海に落下した腕はしばらくワシャワシャと不気味に蠢き、そのままブクブクと沈んでいった。
「とにかく落ち着いて」
少女に、そして自分に言い聞かせるようにしながら、密が冷たい海の中に飛び込み、助けに向かう。
その拍子に浮かんでいた都市伝説の腕に掴まれて一瞬ヒヤッとしたが、すぐに力を失ってちょっと小粋なストラップのように揺れている。
「説得は……、難しそうだね」
険しい表情を浮かべながら、ひなたが都市伝説めがけて、ジャジメントレイを使う。
ひなたの背後で少女が悲鳴を上げている。
完全に都市伝説を自分の両親だと思い込み……。
「ここから先は危険です。だから……、離れていてください」
覚悟を決めた様子で、水人が都市伝説に、虚空ギロチンを放つ。
再び都市伝説の腕が舞い、少女が悲鳴を上げている。
だが、ここで攻撃をやめる訳にはいかない。
そんな事をすれば、少女は確実に……、死ぬ。
……それだけは間違いなかった。
●都市伝説
「だいぶ冷えてきましたね。早く助けてあげないと……」
冷たい海の中にいたせいで体温が奪われ、呉羽がぶるりと体を震わせる。
おそらく、少女も同じ状況……いや、それ以上に体が冷えているはず。
そのため、残された時間は、あまりない。
「ひょっとして……」
戦っている途中で何かに気付き、ひなたがマジックミサイルを放つ。
……それは無数の手が密集している部分。
それに気づいた都市伝説が後ろに下がるようにして潜ったが、明らかにその部分を庇っているようだった。
「さて、本気でいこうかしら?」
意味ありげにセリフを吐きつつ、メルフェスがブラックフォームを使う。
途端に、シャドウの象徴である『トランプのマーク』が胸元で具現化する。
それに気づいた都市伝説が恐怖に慄くようにして海の底に沈んでいく。
「お前が引き込んだ人間の手に抱かれて、地獄に堕ちろ」
都市伝説の中心核と思しき部分に狙いを定め、八重華がバスタービームを撃ち込んだ。
その一撃を食らった都市伝説が勢いよく弾け飛び、バラバラとその場に降り注いで溶けて行った。
「これで……、海は平和になったね」
悲しげな表情を浮かべ、ニタカが仲間達に確認する。
確かに海は平和になったが、少女は……泣いていた。
「亡くなってしまった人達の、魂鎮めになればいいのだけど……」
泣き笑いのような顔で、水人が小瓶の神酒を撒く。
こんな時、なんて声をかければいいのかわからないが、偽りの存在に、明らかに両親と異なる異形に存在に、安らぎを求める事は間違っている。
「恐らく怖い夢を見たのでしょうね。大丈夫、夢は夢ですから」
ほんのりと笑顔を浮かべ、密が落ち込む少女を慰めた。
もちろん、そんな事で少女の傷が癒えるとは思っていない。
だが、今回の出来事を夢だと思わなければ、そう受け止めておかねば、少女が救われることは永遠にないだろう。
その事も踏まえた上で言葉に含みを持たせたが、そこまで少女に伝わっているか分からない。
「こんな所に長居は無用、帰りましょうか」
心配した様子で少女に視線を送り、ヴァンが優しく声をかける。
もうしばらく少女と一緒にいた方が良さそうだ。
少しでも話を聞いて、心の傷を癒さねばならないと思いつつ……。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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