運動会2016~もふって勝ち取れ、しっぽ王!

     6月5日は、武蔵坂学園にとって、重大な戦いの日だ。
     仲間との絆が試されると同時に、血で血を洗う死闘が繰り広げられたり繰り広げられなかったりする。
     それすなわち……運動会である!

    「どの競技に出たものか……ん?」
     運動会のプログラムを眺めながら廊下を行く初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)は、気づいた。奇妙なものを付けた生徒に。
     しっぽである。
     持ち主が歩くたびに揺れるそれを見るうち、杏の中に眠るもふもふ欲が刺激された。
    「うずうず……えいっ」
    「うあっ!」
     悲鳴を上げたのは、しっぽを触られた狗噛・吠太(中学生人狼・dn0241)。
    「なんだ、吠太か」
    「後ろを取られるとは……こんなんじゃ『しっぽ取り合戦』では生き残れないっす!」
     『しっぽ取り合戦』。
     戦場は学園のグラウンド。
     参加者は作り物のしっぽを付け、他の人のそれを奪い取っていく。しっぽを奪われた時点で失格。
     そして、しっぽを最後まで守り抜いた1人には、栄えある『しっぽ王』の称号が与えられるのだ!
     しっぽのデザイン自体に決まりはない。猫でも犬でもタヌキでも。
     ウサギのように短いしっぽでも、引き抜くのに十分なサイズさえあればOKのようだ。
    「しっぽを服に縫い付けて取られないようにするとか、しっぽに触ると電気が流れるとか、爆発するとか、仕掛けを仕込むのはもちろんアウトっす。あ、自分のしっぽに触るのはガード行為とみなされ、失格っすよ」
     サイキックやESPや殲術道具の使用、そしてサーヴァントの協力を封じられた中、自らの肉体と知恵のみで戦う……ファンシーさと殺伐さをあわせ持つ、仁義なき競技である。
     基本的には、参加者すべてが敵。同盟を組んで戦う事も可能だが、『しっぽ王』になれるのは1人だけ、という事を忘れてはいけない。
    「ところで、いつまでしっぽに触ってるんすか!」
    「よいはないか。にしても吠太、なぜ猫のしっぽを付けてるのだ?」
    「自分、人狼っすからね。他のしっぽの気分を味わういい機会だと思ったっす。さあ、頑張って『しっぽ王』を目指すっすよ! 自分の組連合の勝利に貢献するためにもっ!」
    「きっと世にも素晴らしいもふもふパラダイス天国になるだろうな……よし、私もやるか!」
     それぞれの決意を胸に、拳を固める吠太と杏。
     さあ、目指せ『しっぽ王』!


    ■リプレイ

    ●しっぽを巡る物語
     グラウンドに、たくさんのしっぽが揺れている。
     開戦を今や遅しと待つ、しっぽファイター達のものだ。
     そのうちの1つは、髪の色に合わせた黒ネコ耳としっぽ。武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)は、ネコ好きパワーで、絶対に取られたくないという気持ちを高める。
     【落椿】の雪音は、ネコ耳カチューシャをメンバーに被せるのが1つの目的であった。しかし!
     珈薫はネコ耳ネコしっぽ、ルティカは赤いウサ耳ウサしっぽを、既に着けているではないか!
    「……まあ可愛すぎるからよし!」
     そう納得すると、雪音は自らにカチューシャを装着した。柴犬の太刀尾風のしっぽと合わせると、犬と猫のキメラ的な。
    「皆違うて面白いのう」
    「2人のしっぽもよく似合うなぁ」
     【落椿】の面々が互いのしっぽを愛で合う一方、白金は、ウサギのしっぽに合わせ、ウサ耳を装着。
    「うむ、これで完璧だな」
     雰囲気は大事、とお師匠様が言っていた。間違いない。
     ライオンのたてがみとしっぽで王者の風格を醸し出しているのは、ちから。
     ドラゴンの着ぐるみに身を包んでいるのは、千影。これなら全身がもふもふしているから、肝心のしっぽの方に目がいかない……。
    「……って用意してくれた人が言ってた」
     そんな、ある意味壮観な光景に、夕月は、すっかり心奪われていた。
    「そうか、ここが天国か」
     夕月のもふもふ好きを証明するように、自らもまた、もっふもふな黒の狐しっぽ。
     しかし、人々の『もふ欲』を刺激するそのかわいらしさは、ある意味、仮面にすぎないのかもしれない。その下は、闘争心で満ち満ちている。
    「今年もしっぽ取り、頑張るです」
     蒼は、赤いリボンを結わえたふわふわの白いしっぽ。
    「目指せキングオブクイーン!」
     ふっさぁ……! ゆいなのオレンジ狐しっぽが揺れる。
    「今年こそ! しっぽ王になるんだよ!」
     イフリートのしっぽを付けた毬衣も、覇気に満ちている。
    (「――信じれる人がない、ここにいるのは全員敵」)
     警戒心の塊となった紅葉のお尻には、レッサーパンダの華やかなしっぽ。
    「これはもう競技ではない! しっぽを奪われれば死、一瞬の油断も許されない戦場なんだ!」
     雪豹のしっぽの悠が、拳を固める。運動会だからといって油断はない。3度目の正直である。
     智以子は、ミニチュアダックスフントのしっぽに耳、更には肉球付グローブまで装着。今回は、逃げて逃げて逃げ回るつもりだ。
    (「みんな、お互いに潰し合うがいいの!」)
     笑みが黒い。
    「色んなしっぽが見れる楽しい競技だと……違う、のか?」
     参加者から立ち上る闘気に当てられ、兎斗が首を傾げた。先がへにょっと曲った犬耳。そしてしっぽは、霊犬とお揃い。
     思った以上に殺伐とした空気を感じ取り、並もビクビク。タヌキのしっぽも、若干縮こまっているような。しかし、「こういう時は直感」という祖母の言葉を思い出し、腹をくくる。
     そう、しっぽハントには気持ちも大切。それだけでなく、作戦も重要だ。
     【しっぽハンターズ】の作戦は、互いの背中に注意を払い、追って来る相手を見つけたら声を掛けあう。これだ。
    「第一目標は、クラスで残る事!」
     ほのかが、高らかに宣言する。そのお尻には、律儀に体操服に合わせた、赤いうさぎ系のしっぽ。
    「もし最後まで生き残ったら、クラスで潰し合いね。あんまやりたくはないけど……」
    「そこは恨みっこなしですね。年に一度の大会ですし、楽しまないと」
    「勝ちにこだわるすぎるより、全力で楽しく、だね。せっかくクラスの皆と参加だし」
     ネズミのしっぽを付けた藍蘭に、うさぎしっぽの桃子が頷く。
    「もちろん、やるからには勝つつもりで頑張るけど」
    「うん、僕も頑張ろう」
     当然エミリオだって仲間と同じ気持ち。こちらは黒猫のしっぽに付け耳。無表情だけど、気合は十分。
     さて、木乃葉のお尻には、作りもののしっぽと自身のしっぽ、2本。根元をまとめることで許可は得た。それ以外にも作戦は用意してある。
     スポーツウェアに、白くまのしっぽ、耳まで付けた闇霧。基本逃げつつ、ターゲットに決めた相手のしっぽを、気づかれる前に奪い取る! これが闇霧の作戦である。
     【チームなの王】の作戦は、3人で敵を包囲した上での同時攻撃。加えて、ゴールデンレトリバーしっぽのエミーリアと、ふっさふさのネコしっぽ……お揃いの毛長猫耳付き……のフローレンツィアが協力して、瑞葵のちょこんとしたナノナノしっぽを守る算段だ。
     ましろの黒ネコしっぽと、倭のこげ茶色のネコしっぽには、それぞれお揃いのウイングキャット風リング。
    「グループの連中を片づけるまで、共同戦線といかないか?」
    「勿論おっけーだよ! でも、2人残ったら……」
    「ああ、勝った方が『お願い』1個、な」
     こくり、うなずき合う、ましろと倭。
     ふわふわタヌキしっぽの梨鈴とネズミしっぽの悠里は、違う組連合同士。だけど、今は共闘。生き残ることが最優先だ。
     もふもふに触る事が出来るのは、相手のしっぽを取る時だけ。梨鈴のもふ欲を満たすためにも、ここは頑張らなければ!

    ●レディ・ゴー!
     そして、戦いの幕は上がった。
     皆が地面を蹴るなり、蒼は前線から離脱していく。敵影を視覚でしっかりとらえつつ、背後は聴覚を駆使して、砂を踏む音に耳をそばだてる。
     躍動するしっぽの群れ……しかし、夕月は気を引き締める。しっぽを愛でるのは、競技が終わるまで我慢……!
    「そのしっぽ、もしかしてサモエドですね!」
     もふもふというか獣好きの夕月に見破られた兎斗は、薄く笑う。
    「この毛の塊が何なのか当てるとは、な。お前は動物好きか、そうか」
     そう言って兎斗は、夕月にターゲットとして認めた。
     始まる熾烈な争い。体力と速力でかく乱する夕月。
     だが、兎斗はどこか楽しげだった。たとえ負けても潔く。遠吠えなどしてやるものか。
     しかし、吠太は吠えた。
    「さあ、自分も負けてらんないっす……って、なんだかお尻がスースーするっす!?」
     振り返れば、蒼の手に、吠太のしっぽがにぎられていた。こっそり忍び寄られていた。
    「これも勝負なんです、ごめんなさい……」
    「うう……」
     落胆する吠太。
    「大丈夫? おっぱいもむ?」
    「なななな何言ってるっすか!?」
     胸に仕込んだメロンパンで、吠太をからかうちからであった。
    「しっぽ……むふふふ……」
    「ごめんなさい!」
     並が、杏のしっぽをかすめとる。しっぽに見とれていたのが命取り。
     だが、攻撃に神経を集中させ過ぎたせいか。直後、並もしっぽを奪われる。
     自分より背の高い人を狙っていた、木乃葉の一瞬の技であった。
    「慣れない事するもんじゃないなぁー……」
     クスリと笑う木乃葉を見て、並がぼやく。
     だが、明日は我が身、どころか、一瞬後は我が身。
    「ひゃあああああ!?」
    「とったどー……って言わなきゃダメって」
     ゲットした木乃葉のしっぽを、高らかに掲げる千影。
    「しまった!? 油断しました……」
     これが、これこそが、しっぽ取り合戦である!
     攻防を繰り広げる中、智以子も気づいていた。グローブだとうまくしっぽがつかめないという事実に。盲点!
     そこへ、ゆいなが襲い掛かって来る。
     股下をくぐったり、しっぽで鼻をくすぐったり、女豹のポーズで威嚇したりは朝飯前。とにかくトリッキーさ全開で、参戦者達を翻弄してきたゆいなだ。
     これはまずいと、身を翻す智以子だったが、反対側から来た白金に阻まれた。
     ゆいなは、手を組もうという白金の誘いに乗ったのだ。その場のノリとか勢いでね!
    「ずっこいの! ぼっちにだって、生きる権利はあるの~!」
    「さあ大人しくしっぽ取られるか私のファンになるか好きな方を選びなさいっ!」
    「じゃ、じゃあファンなの!」
    「答えは聞いてませんけどね!」
     ひどい!
     闇霧もまた、乱戦の中を駆け抜けていた。
     何度もしっぽを狙われるも、辛くも魔手から逃れてきたのだ。
    「ぬぉ!」
     だが、突然転倒してしまう。
     身を起こすと、闇霧の白クマの尻尾が、叶流の手に渡っていた。カップルで戦うリア充に気を取られていたとでもいうのか……!
     目立たぬよう戦っていた甲斐があった。しかし叶流の喜び方は、あくまでこっそり。内心はとても嬉しいのだけれど。

    ●求めよ、しっぽ!
     グラウンドの一角で激戦を繰り広げているのは、毬衣と悠。
     両者とも、しっぽ王にかける意欲には、並々ならぬものがある。
    「獣のように、俊敏に、迅速に、なんだよー!」
     四つん這いの姿勢になり、果敢にしっぽをつかもうとする毬衣! 隙を見せれば即、死。悠も抗する!
     だが、その戦いは、唐突に終わりを告げた。
     死闘を制し、しっぽをもぎ取ったのは、悠だった。
    「この戦場に、先輩、後輩、性別など何の意味もない! 奪わねば奪われるのみ!」
    「うぅーっ……悔しいんだよー……」
     がくり。へたりこみうなだれる毬衣。
     戦場は、非情だ!
     それを示すように、ちからは、【チームなの王】と相対する羽目になっていた。1対1が理想的だったのに。
     王者の風格VSトライアングルアタック。
    「メロンパンだけにウチの魅力にみんなメロメロぉぉぉってあああウチのおっぱあぁぁい!?」
     ちからのメロンパンがポロリした。
     しっぽは奪われた。
     敗因、メロンパン?
     けれど、響くちからの笑い声はすごく楽し気だ。
    「きしゃーっ!」
     威嚇につぐ威嚇。グラウンドを疾走する紅葉。カップルやグループに注意を払い、低い身長を生かした全力回避が功を奏し、しっかり生き延びている。
     その視界に、フラフラ歩くドラゴンが入り込んでくる。すっかり暑さにやられた千影である。
     これはチャンスと、しっぽをもぎとろうとした紅葉は、急に止まった千影のしっぽを踏んでしまう。
    「うきゅー……」
     倒れた千影は、くるくる目を回していた。
     今日は晴天。着ぐるみには、きつかったようである……。
     さてさて、熾烈な争いを抜けた叶流は、【落椿】に囲まれていた。
     珈薫がチームメイト2人と背中合わせで、相手に対抗する。3人寄れば文殊の知恵!
     だが周りでは、他の参加者も、隙が出来る時を待ち構えている。
     そして自分が狙われたとみるや、ルティカが動いた。三つ編みにした長髪で後ろを牽制しつつ、手を伸ばす……あろうことか、背中を守ってくれていた雪音のしっぽへと!
    「な、わ、わたしのしっぽ……!」
     がくり、膝をつく雪音。そのまま逃れていくルティカを見送る。後は、最後の2人になるまで逃げきるつもりだ……!
    「ああっ、ルティカちゃん抜け駆けずるい!」
    「勝負は非情なのじゃふふふ」
     自分も逃げようとした珈薫だったが、そうは叶流がさせてくれない。
    「あのー……チョコレートあげるからあきらめない? ダメ?」
     ダメだった。

    ●今、決着の時!
     観戦席から、おおっ、と声が上がった。
     視線が注がれる先では、【しっぽハンターズ】と【チームなの王】が、お互いの連携を駆使した対決を繰り広げていた。
     互いの背中をかばいあう【しっぽハンターズ】の守りは鉄壁だ。特に、ほのかのうさぎしっぽは防御系っぽい!
    「あっ、危ない!」
     とっさに飛ばしたほのかの声に、藍蘭が振り返った。普段あまり運動していなかったせいで、ちょっときつい。
     けれど、エミリオの助けもあり、何とかかわすと、桃子と一緒に反撃に出る藍蘭。
    「こっちも負けてられないの。トライアングルフォーメーションからのデルタアタックなの」
    「りょーかい、よ」
    「よくわかんないけどシッポよこせなのです~!」
     瑞葵の合図で、フローレンツィアとエミーリアが動く。
     ターゲットは桃子。仲間を狙う相手を牽制していた分、目につきやすかったらしい。
     瑞葵が、奪った桃子のしっぽの感触を楽しむのを見て、は【しっぽハンターズ】も黙ってはいられない。
     ほのかと藍蘭、そしてエミリオは、瑞葵を守ろうとするフローレンツィアにアタック。それを見たエミーリアが、さりげなく身を投げ出し、犠牲となる!
    「わふふふ……わたしは『四天王』の中でも最弱……たとえわたしがやられても第2第3のわたしが……ガクリ」
    「いや、来る頃にはゲーム終わってるわ? きっと」
     倒れるエミーリアに、フローレンツィアがすかさずツッコミ。
     ちなみに【チームなの王】は3人のチームであることも付け加えておこう!
     痛み分けとなった【チームなの王】は、その直後、ましろと倭のコンビと交戦に入った。
     間合いに入ったり、足さばきを生かして回り込んだり。喧嘩や武術で慣らした倭の挙動は、手ごわい。
    「ほーら、鬼さんこちら、だよっ」
     ならば、ちょこまか動き回るましろを先に倒そうと、狙いを定める【チームなの王】。
     だがそれは、相手の思うつぼであった!
     倭が反対に、フローレンツィアのしっぽを奪い取る!
    「ましろの動きに釣られたのが命取りだ」
    「むー。やられたわ……がんばって、瑞葵ー!」
    「エミちゃんとレンちゃんのためにも、1つでも多く戦果を挙げるの~」
     これは不利と、いったん撤退していく瑞葵に、手を振るフローレンツィアだった。
     いよいよクライマックスが近い。
     それを感じた悠里と梨鈴は、距離を置いて対峙した。
     これまでは2人協力してきたが、遂に決着の時。
    「勝ち残った方がしっぽ王に近づくってことだよな! ……いくぜ!」
    「私も負けないよ」
     梨鈴へのガードを解き、一転、真正面から迫る悠里。
     1対1では、隙を見出すのも難しい。それでも梨鈴も、あきらめることはしない。
     果たして、軍配が上がったのは、悠里の方だった。
     その後も、戦いは続いた。
     勝敗を決するのは、しっぽへの愛、しっぽを奪う体力、技、そして……時の運。
     最後に残ったのは、【しっぽハンターズ】のエミリオと、白金。
     必死に、相手の隙を見出そうとする白金。しかし、これまで強者の動きを観察していたエミリオだって一歩も譲らない!
     刹那の攻防……交錯する2人!
    「ごめんね? しっぽもらうよ?」
    「あっ、取られたか……」
     白金は、潔く、ウサ耳も差し出した。……特に意味はない。
    「勝負あり!」
     審判の声が飛んだのを確かめ、エミリオの元に【しっぽハンターズ】の仲間達が駆け寄る。
     栄えある2016年度のしっぽ王の栄光は、【6F菊】連合、エミリオ・カリベの手に!
     その脳裏には、最近忙しくて遊べずにいる、気になる女の子の顔が思い浮かんでいたのであった。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月5日
    難度:簡単
    参加:29人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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