静電気とか灼滅者なら超余裕(フラグ)

    作者:芦原クロ

     とある廃ビルに、流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)と灼滅者たちが集まっていた。
     都市伝説は……宙に浮いている、小さな物体。
     ドアノブ、というやつだ。
    「僕が聞いた噂によると、このドアノブは静電気を放って来るらし……いったぁああ!」
     灼滅者たちに説明をしている知信に、バチッと静電気が走る。
     痛みは強く、一般人ならショック死レベルらしい。
     灼滅者なら激痛ぐらいで済む。
     痛みで床を転がりながら、知信はなんとかそう説明した。
    「イオンバランスや帯電体質なんてものは関係無いんだ……誰でもバチッとされる。考えただけで、苦しいというか、つらくなるというか……痛ぁあ!?」
     またもや静電気が、知信を襲う。
     口から魂的なものが出掛かっている知信だが、これだけは、なんとしてでも言わなければならない。
    「痛い戦いになると思う……一般人の死者もまだ出ていない……だから今、倒すしか無いんだ。死者を出さない為にも」
     知信は力強く、灼滅者たちに向けて声を掛けた。


    参加者
    皇・銀静(陰月・d03673)
    天草・水面(神魔調伏・d19614)
    流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)
    春野・透馬(全て謎に包まれた者・d36606)
     

    ■リプレイ


    「静電気なんかに負けやしない! 灼滅者であると同時にドMな私なら、超を超えて余裕である」
     天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)が凛々しく主張するが、完全なるフラグだ。
    「たかがドアノブで、しかも静電気でしょう? 下らない」
     余裕の笑みを浮かべて言い捨てるのは、皇・銀静(陰月・d03673)。
    「静電気……アレは普通のでもモロに食らうとキッツイんだよねぇ……」
     春野・透馬(全て謎に包まれた者・d36606)は痛みを思いだしたのか、口元が少しゆがむ。
    「とりあえず戦闘力は皆無なんスよね。前の依頼を教訓にして、痛みに耐えて速攻で倒す!」
     ビハインドのペケ太に視線を向け、天草・水面(神魔調伏・d19614)は戦闘の合図を送る。
    「っていうか、何でドアノブだけ浮いてるんだろう? ドアは何処へ……? まあ、たかが静電気。ちょっと痛い程度でしょ」
     サウンドシャッターを展開し、流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)は軽い気持ちでドアノブに手を伸ばす。
     瞬間、バチッと派手な音が響き、鋭い痛みが全身を駆け巡る。
    「痛ぁぁぁっ! ぁぁああ!?」
     油断していた知信が叫び、悶絶する。
     痛みで床を転がる知信の姿は、都市伝説の静電気がどれほど強烈かを物語っていた。


    「たかがドアノブ……常に抗雷撃等で、雷光を纏った僕がそんな物に怯むはずもありません。そんな物に怯むはずは……!」
     銀静は知信の苦しみ悶える姿を横目に、心の底がざわつくのを抑えようとする。
    「こんな小さなドアノブ等、サイキックなど使わず舌っぺらだけで倒してやろう!」
     日和はなんとも勇ましく、ドアノブに舌を近づける。
     が、ドアノブに触れる直前で、静電気が舌にバチバチと走る。
    「ひぎいぃぃぃいいい!!」
     廃ビル内にこだまする、日和の絶叫。
    「おのれおのれおのれ! 電気責めとは素晴ら……ちょこざいな都市伝説め!」
     日和はドアノブを睨みつけ、強気の姿勢に戻る。
    「ついこの間、手に入れた肘ガッデスクの言霊で回復したら、直ぐに反撃である!」
     自分を含む前衛メンバーを回復しようと、日和は心温まる話を語る。
     だがドMの日和が所持している都市伝説だ。
     肘ガッデスクは、ドM御用達の机である。
    「ギャァアアアア!?」
    「ひぎいぃぃぃいいい!?」
     ダメージは回復したが、激痛も走る。
     水面と日和の叫びが同時に響き、他の前衛メンバーも痛みをこらえている。
    「おぃいいいい! それこの間のヒノキ机じゃねーかァアア!? なんで回復するのと同時に激痛が走るんだよ! 意味ねーだろ!」
     ワンブレスで一気にツッコミを入れた水面は、ゼイゼイと呼吸を乱す。
    「なんで激痛の部分だけ抽出してんだ、アホか!? 前門のドアノブ後門の机とか、なんて悪夢……」
     ドアノブ、そして姉の日和を交互に見てから、水面ははっとする。
    「いや自分でも言っている事おかしくね? どっちもそういう用途の道具じゃねえから!」
    「ああそういえば……鞭って実は肌という神経の入口にダメージを与える事で、ショック死させるのが目的だった気がします。実際にむち打ちでは、精神に障害をきたす程の激痛が走るんでしたっけ?」
     水面が必死にツッコミを入れていると、銀静は激痛がいかに危険なものかを語り出す。
     灼滅者たちに掛かる、プレッシャー。
     激痛だけでなく、プレッシャーまで掛かるとは、ツラすぎるものだ。
    「一般人ならショック死レベルで襲いかかってくる、なんて考えただけで怖いよ……早く倒さなくちゃだね」
     透馬はスレイヤーカードを取り出し、封印を解いた。


    「うぅ……この、何すんのさ! ってまた痛いぃぃぃ!」
     涙目になった知信が反撃しようと、素手でドアノブを殴った瞬間、またもや静電気が知信を襲う。
    「最近、痛い都市伝説ばっかり……。もう痛いのは嫌だ! ……距離を取れば、静電気は来ないはず」
     知信は激痛に耐えながら、用心して数歩後退する。
     そこへ、ドアノブが突進して来た。
    「……って何でぇぇ!?」
     突っ込んで来たドアノブによる、強烈な静電気攻撃。
     悶絶する知信。
     あいつぐ静電気攻撃からかばおうと、透馬が知信の前に出る。
    「痛いのはヤだよね」
     短くだが心を込めて、透馬は知信に語り掛ける。
     知信は涙目のまま、こくこくと頷いていた。
    「……く……上等です……ドアノブはこの僕が握りつぶす!」
     怯まない、と言ってしまった手前、後には引けない銀静が、超硬度の拳でドアノブに殴りかかる。
     バチィッ! っとすくみ上りそうな音が響き、静電気を食らった銀静は、口元をなんとか笑みに変える。
    「……ええ、平気ですよ?」
     仲間たちに告げる銀静だったが、涙目だ。
     壮絶な表情を見せる銀静。
     激痛に苦しみ、床をころげまわりたくなるが、なんとかそれを抑えている銀静は、冷や汗をだらだらと流している。
     銀静の一撃を食らって怒ったのか、ドアノブは無差別に静電気を放ち始めた。
    「ひぎぃ! ビリビリ熱いのぉ!」
     静電気を何度も受けた日和が、ビクビクと体を震わせる。
    「ゼイゼイ、貴様私を本気で堪能……じゃなくて怒らせたな!」
     日和はそう言うものの、内心、大歓喜である。
    「今回、ねーちゃんに対するツッコミばかりじゃねーかクソ!!」
     水面がガーベラで殴りつけた瞬間、霊力が網状になって広がり、敵を縛る。ペケ太は事前の指示通り、霊撃を敵に食らわせる。
    「これは私を怒らせた礼だ、受け取るが良い!」
     連携した日和が、影で敵を覆い尽くす。
     その間も、敵の無差別な静電気攻撃が灼滅者たちを襲う。
    「ドアノブの都市伝説め……!」
     強烈な痛みに耐え、汗を伝わせながら、知信が繰り出すのはレーヴァテイン。
     己の血を燃えたぎる灼熱の炎に変え、体内から噴出させた炎を宿した武器で、敵を叩く。
     燃えるドアノブ。なんともシュールな光景だ。
    「知信さん頑張ってるねぇ~、僕も頑張るよ」
     透馬はのんびりと声を掛け、励ますように知信の頭をぽんぽんっと柔らかく叩く。
     それから、激しく渦巻く風の刃で、敵を斬り裂いた。
     敵は、最後のあがきとばかりに静電気攻撃を盛大に放つ。
    「あ……これは動けないなぁ、大人しく倒れていよう」
     透馬が、パタリと倒れた。
    「別にMという訳ではありませんが……この程度の痛み……心の痛みに比べればどうという事はありませんよ!!」
     痛いものは痛いのだが、銀静は自分を奮い立たせるように、声を上げる。
    「人は痛みを感じてもそれに耐える……それでも尚通す一念という物があります。易々と蹂躙されると思ったら大間違いだ!! ……く、舐めるなぁ! こちとら何度も死線をくぐってきているんですよぉ!!」
     銀静が勇ましく吠え、力の限り拳を叩き込む。
     それがトドメとなり、ドアノブの都市伝説は完全に消滅した。


    「うーむ、この都市伝説は欲しい。しかし、私の七不思議は満席。とは言え、此処までの逸材は滅多に……あ、あーっ!? も……勿体ない……」
     日和が思案し、迷っている間に、戦闘は終わってしまった。
     心底残念そうに、肩を落とす日和。
    「……僕が戦っていたのは何だったのですか? 取りあえず、抗雷撃が使えなくなると洒落にならないので、後で再度使用して恐怖心を消さないと……」
     後片付けをしながら、半ば放心状態の銀静。
    「お疲れ様~、大変だったねぇ」
     透馬は仲間たちをねぎらい、持っていた飴玉を配る。
    「もう痛い都市伝説は嫌だ……しばらくは、ドアノブを握るのを躊躇しそうだ」
     疲れ切った様子で、溜め息を吐く知信。
    「ドアノブだけだったから、今度はドアが……いややっぱ考えないようにするッス」
     水面は一瞬浮かび掛けたフラグを、掻き消そうと、首を横に振る。
     痛みとの壮絶な戦いを終え、灼滅者たちは、その場を後にした。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月5日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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