雄々しき肢体

    作者:小茄

    「アタシは、ヒョロくて生っ白いモヤシ男と一緒に歩きたくないワケ」
    「あぁうん」
     出会いを求めて、一足早く海に行こう。そして夏までに彼氏を作ろう。
     そんな発案で、一泊二日の旅行に出たOL二人。
    「アタシらの事、凄いジロジロ見てるのも居たけどぉ、全然ダメ」
    「うん」
     が、海に行けば素敵な男性にナンパされて、トントン拍子に彼氏が出来る……などと言う都合の良い話は無かった。
    「あーほんと、海外でも行こうかな。日本の男とか魅力感じないわぁ」
    「うん」
    「そもそも島国なのが良くないんだよ」
     貴重な休みを無為に過ごしてしまった苛立ちを多方面にぶつけつつ、未練がましく夕暮れの浜辺を歩く二人。
    「ん?」
     そんな彼女達に、どこからともなく聞こえてくる旋律。
    「何あれ?」
    「なんだろ?」
     ステージの様に海上に浮き上がる岩礁で、歌いながら踊る三人と、それを見つめる観衆達。
    「……いや、ヤバイわ」
    「……うん」
     近づいてみれば、ステージ上には小麦色の肌をした、逞しい体躯の男達。身につけて居るのは腰布一枚だ。
     歌詞は無かったが、低く響く魅惑的な重唱。そして荒々しさの中に艶っぽさを秘める、力強くも淫靡な踊り。
     分厚い大胸筋や、シックスパックと呼ばれる六つに割れた腹筋。水泳選手を思わせる僧帽筋、広背筋。それらを惜しげもなくアピールしている。
    「……」
     OL二人は先客に混じり、食い入る様に彼らを見つめる。
     観客達の身体には、魚の鱗の様な物が生え、次第に全身を覆い始めていたが、それを気にしてステージから視線を外す者は一人も居なかった。
     
    「サイキック・リベレイターによって、大淫魔サイレーンの力が活性化しているのはご存じの通りですわ。今回もその影響で、配下の淫魔が一般人を半魚人に換えようと言う事件が起きていますわ」
     有朱・絵梨佳(中学生エクスブレイン・dn0043)の説明によると、現場は沖縄本島の某海岸。淫魔三体が歌とダンスのステージを行い、地元や観光客の女性を魅了しようとしているらしい。
    「半魚人になる前に阻止する事は、一応可能ですわ。ただ、対抗手段は歌と踊り……理性的な説得は届かないでしょう。また、先制攻撃も半魚人化を誘発してしまうと考えられますわ」
     淫魔を凌駕する魅力で女性達を惹き付ける事が出来れば理想だが、単純に相手のステージを妨害すると言う手も、時間稼ぎにはなるかも知れない。
     また、ひとたび半魚人になった女性を救う手は無い。
     純粋に人命を救う意味でも、戦闘の優位性を鑑みても、一人でも多くの半魚人化を阻止したい所だ。
     
    「淫魔達はいずれも、かなり体格の良い男性型ですわ。いわゆるマッチョですわね。サウンドソルジャーに近いサイキック、そしてバトルオーラを駆使して来ますわ」
     見た目に違わず、タフネスと力に長けるパワータイプだ。一方で、敏捷性や精密性には劣る部分も有る様だ。
    「歌や踊りも、男らしさや逞しさを前面に出した内容で、観衆の女性達もそう言うのを好む人達なのかも知れないですわね」
     半魚人化した女性達は、戦闘時はディフェンダーとして淫魔達の盾となる。
     戦闘力自体は高く無いが、身を賭して淫魔を守ろうとするだろう。
     
    「これ以上被害を広げ、相手の戦力を拡大させるワケにはいきませんわ。何としても、阻止して下さいまし」
     そう言って、絵梨佳は灼滅者達の後ろ姿を見送るのだった。


    参加者
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)
    倉澤・紫苑(パンチングマシン・d10392)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    月叢・諒二(月魎・d20397)
    ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)
    上里・桃(スサノオアルマ・d30693)
     

    ■リプレイ


     低く響く歌声。力強く大地を踏みしめながら舞う男達。
     OL二人を含む十人程の女性達は、その雄々しくも妖艶な舞台に目を奪われていた。
     ――プァー!
     が、突然鳴り響く異音。
    「ちょ、何?!」
    「歌が聞こえないんだけど!」
     踊りの世界に没入しかけていた女性達だが、余りの大音量によって我に帰り、音の主へ非難を浴びせる。
     ――ブォオオオ、プヒー、ブオォォーッ!
     だが、音の元凶であるブブゼラを吹く少女達――上里・桃(スサノオアルマ・d30693)と倉澤・紫苑(パンチングマシン・d10392)は、全く意に介さず、益々大きな音を響かせるばかり。
    「まずは私から行かせてもらいますね」
     笛の音と抗議の声が入り交じる中、岩礁のステージに飛び入るのは室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)。
     男達の猛々しい踊りとは対照的に、しなやかで優美な舞を踊り始める。
     のみならず、彼女の身につける清廉と背徳の羽衣は、煌めくように炎の光を反射して輝く。
    「一体何の真似だ?」
    「俺達と一緒に踊りたいのか、このお嬢ちゃんは」
     舞台上の男達は、飛び入り参加の彼女を捕まえようと手を伸ばす。とは言え、歌と踊りを中断する訳にはいかない。
     のぞみもそれを知って、スルリとかわしつつ踊り続ける。
    「やるじゃないか……そんなに踊りたいなら、バックダンサーにしてやっても良いんだぜ?」
    「私……半魚人とかになるつもりはありませんので……」
     迫る男の横を、のぞみは紙一重ですり抜ける。
    「こ、コイツ……ちょこまかとっ」
    「挟むんだ!」
     とは言え、狭いステージ上では動ける範囲にも限界がある。男達は彼女を追い詰め、その腕を掴もうとする。
     ――ばさっ。
    「ぶはっ!? な、何だ?」
     その瞬間、男の顔面に浴びせられたのは細かく刻まれた小さな紙の破片。
    「さぁ、盛大に盛り上げていこう」
     パタパタと扇いで紙吹雪を舞い散らせるのは紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)。
     目の前でひらめく紙と羽衣に幻惑され、男達は再びのぞみを取り逃がす。
    「……これも演出なの?」
    「さぁ……そうなんじゃ?」
     一方観衆達は、目の前で展開される光景がまさかアドリブとは思わず、呆気に取られたようにポカンと眺めている。
    「どんたったーどんたったー♪」
     そんな中、歌い踊りながら新たにステージ上へ飛び入るのは、ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)。
     そして、抱えていた木の柱をドスンとステージのど真ん中に打ち立てる。
    「トーテム……ポール?」
     それは圧倒的な存在感を誇る、柱状の彫像。
     ファムはタカアシガニの鋏脚を掲げ、まるで儀式の如くその周囲を回りつつ唄い踊る。
    「次は私ね!」
    「おおっ……?!」
     ダメ押しとばかり、舞台上に飛び入ったのは月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)。
     燃えさかる松明を両手に持ち、回転させながら華麗にファイヤーダンスを舞う。
     気付けば舞台上は、歌い踊りながら筋肉をアピールするマッチョ、羽衣を纏って優美に舞う少女、祖霊に踊りを奉納する巫女に、ファイヤーダンスを舞う妙齢の女性と、カオスなごった煮状態。
     その上、紙吹雪が舞い、ブブゼラの音が鳴り響き続けているのだから観客ももはや何を目にしているのか解らない。
    「一体何なんだ、このガキどもはっ!」
     すっかり脇役の立ち位置に成り下がってしまったマッチョ達は、ポールを引き抜き、彼女達を舞台上から降ろさせようとするが……
     ――ジャーン! ジャーン!
    「さあさあ、本命が来たよ! こっちも見て行ってよおねーさん!」
     舞台を降りた玲は、銅鑼を力一杯打ち鳴らしてオーディエンスへ呼びかける。
    「真打ち登場だ! 私達の用意した最高の……なんだっけ、最高のアイドル? なんかそんな感じの! とくとご覧あれ!」
     ここぞとばかり、しゃぼん玉を吹いてファンシーな雰囲気を追加する紫苑。桃もダイナマイトモードを発動し、ブブゼラの響きを一層ダイナマイトな物へ変えて行く。
    「な、何が始まるの?」
     ――バァーンッ!
    「げぇっ?!」
     恐ろしいまでに高まるハードルの中、一同の前に姿を現したのは、月叢・諒二(月魎・d20397)。
     更に詳しく言うならば、セクシーコスチュームを身につけた月叢・諒二、その人であった。


    「……」
     完全に凍り付き、ニューカマーに注目する一同。
     諒二の肉体に関しては、単純に筋肉量のみを言えば、それは男達とは比べものにはならない。せいぜい、細マッチョという程度である。
     が、その踊りには静と動、雄々しさと繊細なしなやかさが同居していた。マッチョ達の踊りが大味に思える程の、洗練された舞踏の形が存在したのである。
     ちなみに振り付けは本人の創作だ。
     ――パチ、パチ……パチパチパチ。
     タムタムとファムの叩く太鼓の音に合わせ、初めはまばらに、次第に大きくなる手拍子。
     一見カオスに思えたステージも、気付いてみれば様々な要素が渾然一体となって作り上げられた、ごった煮の様な、深い味わいを醸し出すに至っていた。
    「いや、認めるかぁっ! 俺達のステージを滅茶苦茶にしやがってぇっ!」
     これ以上続けたとしても、観衆全員を魅了する事は出来ないと判断したマッチョ達。堪忍袋の緒も切れたとばかりに、灼滅者達へ怒鳴りつける。
    「と、舞台はこれにて閉幕だよ」
    「皆さん、海から上がって下さい!」
    「え、終わりだって」
    「もう終わりなの?」
     すかさず呼びかけた謡と桃に従い、多くの女性が海を上がる。
     残ったのは、僅かに二名。既にその身体には、鱗が覆っていた。
    「くっ、俺達の獲物を……」
    「我々のステージを邪魔するとは許せん!」
     怒髪天を衝く勢いで血管を浮き上がらせるマッチョ達。
     淫魔である彼らにすれば、異性を虜にする最高の瞬間を邪魔されたのだから、並の憤りではない。
    「おじさん怒らないでー!」
     ――ばしゃっ。
     そんな彼らにファムが掛けたのは、赤茶色の何か。
    「こ、これは……泥?」
     泥を肌に塗ることで、日焼け止めの代わりにすると言うのは古来より行われてきた生活の知恵である。
     先ほどのトーテムポールや踊りから観ても、いずこかの部族出身と思しき少女が、お詫びに日焼け止めを塗ってあげたのだと考えれば、いかに淫魔と言えど、多少は和やかな気持ちになっても不思議は無い。
    「い、いや……違うッ!? この匂いは……」
    「み、味噌だッ!!」
     男達の身体に塗りつけられたのは、味噌であった。
     言うまでもなく、味噌というのは主に大豆等を発酵させて作る、日本の代表的な調味料である。
    「なんじゃこりゃあっ!?」
    「おミソ嫌い? じゃあこれペッタン!」
     荒ぶるマッチョ達を鎮める様に、その大胸筋に飴を貼り付けるファム。
    「そうそう、塩っぱい物だけじゃアレだから甘い物もねって何でやねん!!」
    「おなごには優しい俺達だが、もはや容赦せん!」
     さすがの淫魔達も、一層ブチギレてファムへ殴りかかる。
     ダークネスの中では武闘より謀略を得意とする傾向にある淫魔だが、彼らは鋼のような筋肉を纏うマッチョ淫魔。
     その渾身の一撃は、想像を絶する威力を誇るに違いない。
    「そうは、いきませんっ!」
    「ぐはぁっ!?」
     そんな淫魔の巨体が、流星の如き発光体の直撃を受けて吹き飛ぶ。
    「ありがと、桃さんっ」
    「ファムちゃん、皆さん、行きましょう!」
    「早くご退場願おっか……我が前に爆炎を」
     着地しつつ言う桃の合図に応じ、灼滅者達は一斉にスレイヤーカードを解放した。


    「……コイツら、最初から俺達を邪魔するつもりだったのか!」
    「ご名答。さて、肉達磨の狩りといこう」
    「か、狩りだと? ははは、貴様等如きがサイレーン様の配下である俺達を狩ると言うのか。面白い!」
     謡は、涼やかな鈴音を響かせる錫杖――Mimoseに影を纏わせ、立ち上がろうとする男の頭部を強かに打ち据える。
    「ぐばぁっ?! な、何だ……この力は!」
    「何を遊んでいるの! 暫く寝ていたからと言って、たかが灼滅者が少し群れた程度でしょう! 貴女達も、かかりなさいっ!」
     先ほどまで歌を歌っていたリーダーと思しき淫魔が、微妙にオネエ口調で命じる。
     半魚人が命令を受け、手槍を構えて突貫してくる。
    「誰も……傷つけさせません」
     が、その攻撃を阻むのはのぞみが展開した光の翼。
     仲間を護らんとする彼女の意思を具現化した様に、無数の光条が格子の如く展開し、半魚人達の行く手を塞ぐ。
    「女の子に酷い事しようとするやからには、きつーくお仕置きしてあげるんだから!」
     言うが早いか、紫苑の縛霊手から広がる結界が、瞬間的に半魚人や淫魔を呑み込む。
    「ぐっ?! 灼滅者風情が、俺達と対等に戦うと言うのか!」
     彼らの活動期、灼滅者は害を為す存在であるとは言え、ダークネス勢力にとって脅威とまでは看做されていなかった。
     それが数を揃え、連携を取って戦闘を仕掛けてくると言う状況に、彼らは混乱している様だった。
    「マッチョ淫魔かぁ……色んなニーズに対応してるのは面白いけど、私の趣味じゃないんだよね」
     灼滅者にとっても、男性型の淫魔は目に新しい。が、玲のお眼鏡には適わなかったらしい。
     キャリバーの機銃が火を噴くのに合わせ、玲は火を纏うエアシューズで砂浜を疾走する。
    「馬鹿な、この完璧な肉体美を解さぬと言うのか!? この時代は一体どうなっているのだ!」
    「時代は関係無いと思うなぁ。とにかく、燃えちゃってよ!」
    「な、何をぐぶぁっ!」
     滑走の勢いもそのまま、跳躍しマッチョの顔面を蹴りつける。
     巨体をよろめかせつつも、何とか踏み留まる淫魔だが、瞬間的にその身体を炎が包む。
    「一人一人は所詮雑魚だろうが! 何を手間取る! 現に、筋肉量も圧倒的にこちらが上ではないか!」
    「確かに。力強さのみを見れば劣るは必定」
     筋肉を基準にしか物を考えられない脳筋淫魔だが、諒二は静かに同意を示す。
     多くの男の子がそうである様に、彼もかつてマッチョに憧れ、筋トレに励んだ過去を持つからだ。
    「でも、敢えて言おう。君達の筋肉、この月叢諒二に劣るとね」
    「な、何……だと? 少しくらい器用に踊ったからと言って、調子に乗るなぁっ!」
     逆鱗に触れられた淫魔達は、一斉に諒二目掛けて飛びかかる。彼らにとって、筋肉を貶されることは何より許しがたい事なのかも知れない。
    「かぁっ!」
     唸りを上げて振るわれる拳。命中すれば、一撃で頭蓋骨が砕けてしまうのではないかと思える程の迫力。
     だが、それは虚しく空を切った。
    「何っ!?」
    「しなやかさも速さも失い、ただ見栄ばかりが肥大化した君達の筋肉では、僕達に勝つことは出来ない」
     ダンピールの魔力を宿した霧が、諒二を含む灼滅者達を覆う。
    「許さん、許さんぞ! 我々の筋肉を愚弄する輩はぁっ!」
    「アタシね、マッチョな人すきだよ」
    「っ?!」
     激昂する淫魔に、率直な気持ちを伝えるのはファム。
     先ほどワンパクっぷりをこれでもかと見せつけていた彼女だが、まさかの好意を示す。
    「でも、それ見せつける人、きらーい!」
    「!」
     いや、やはり淫魔達の事は嫌いだった様だ。先ほどのトーテムポールを抱える様に構えると、全ての砲門を開く。
     目も眩むばかりの光条が無数に迸り、半魚人もろとも淫魔をなぎ払う。
    「ぐあぁっ、目が……」
    「これまでです!」
     間髪を入れず、掌に闘気を集中させる桃。苦悶する淫魔目掛けてそれを放つ。
    「ば、ばかなぁぁーっ!」
     オーラキャノンの直撃を受けた淫魔は、その場に大の字に倒れ、やがて跡形も無く消滅した。
    「アドーンッ!」
    「う、狼狽えるな! 奴は所詮、我がトリオ最弱……バルク(ボディビルの世界では筋肉量の事。筋肉の質を指す場合もある)も足りていなかったわ」
    「見せかけの肢体なんて無用の長物。サイレーンとの前哨戦と言うには些か締まりが足りぬけれど……」
    「っ?!」
     動揺する彼らに立ち直る隙も与えず、淡々と呟く謡。
     彼女の纏う包帯――紫鬼布は音も無く広がり、淫魔達を捕食せんとする。
    「くうっ……この程度の布、我等の筋肉でっ!」
    「女性として、あなた達の行いは断固阻止します」
     引き千切ろうと力を籠める彼らだが、すぐさまのぞみの羽衣が、それを補強するように二重の縛めをもたらす。
    「ぐぬっ……ま、待て……話せば解る。七人程度なら、我々の口利きで何とか見逃してやる事も……」
     旗色が完全に悪くなった事を認め、提案する淫魔。
    「問答無用! 淫魔死すべし」
     武蔵坂の存在を知るべくもない淫魔が示す見当外れな提案を無視し、紫苑は一気に間合いを詰める。
    「なっ、ごふぁっ!?」
     摩擦で高熱を帯びたエアシューズのブレードが、淫魔の顔面を切り付ける。
     彼もまた、炎に包まれながら崩れ落ち、突っ伏したきり動かなくなった。
    「これじゃまるで、こちらが狩られる側じゃない……悪い夢でも見ているの?」
     気付けば、残るは一体の淫魔のみ。
    「覚悟してね。……月叢くん!」
     助走を付け、高く跳ぶ玲。
    「あぁ。戦いにおいて魅せるべきは、パワーと精密動作性、敏捷性の高度な融合だ。見せ掛けの筋肉と共に、滅ぶと良いよ」
     これに応じ、既にスタートを切っていた諒二。
    「ぐ、おぉぉっ……サイレーン様ぁぁーっ!!」
     正面から炸裂する玲のスターゲイザーと、背後より閃光の如く繰り出される諒二の拳。
     いかな筋肉の鎧を纏う淫魔達と言えど、灼滅者達の波状攻撃の前に抗う術は無かったのだ。


    「桃さんお疲れ様っ。いっぱい笛吹いて頭いたくない?」
    「えぇ、大丈夫ですよ」
     常に巨大なブブゼラを吹き続けていた桃を気遣うファムに、彼女も笑顔で答える。
    「諒二さんも踊り、お疲れ様でした!」
    「うん。皆がステージを温めてくれたお陰で、上手くやれたかな」
     男性は諒二のみと言う中、淫魔とのダンスバトルを圧倒出来たのは、全員の創意工夫の結果だろう。
    「全員を助ける事は出来ませんでしたが……」
     のぞみは、半魚人化して果てた女性達に暫しの祈りを捧げる。
     出て良い犠牲者など居ないが、十人と言う数を考えれば、被害はやはり最小限に抑えられたと言って良いだろう。
    「あ、あれ……何か私達、凄い物を観ていた様な……?」
    「さぁ、そこのおねーさん達も帰った帰った。悪い男に浚われちゃうよ」
     淫魔の魅了をからくも逃れた女性達に、ひらひらと手を振って促す玲。
    「何なら、私と一緒に遊んでも良いけどね?」
     と、冗談めかして言う紫苑。彼女も自他共に認める(?)女の子好きである。
    「では、ボク達も行こう。地元の人達の安眠を妨げてはいけないからね」
     謡の言葉に頷き、一行は踵を返す。

     かくして灼滅者達は、肉体美を誇る男淫魔の魔手より多くの女性を救い、また彼らを灼滅する事に成功した。
     月明かりと波音のみをステージに残し、七人は帰途についたのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月6日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
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