彷徨う少女に救済を、悪夢の使徒には灼滅を

    作者:飛翔優

    ●夢世界の駅迷宮
     夜闇が射し込む駅の構内で、一人の少女が泣いていた。さまよっていた。
     何処かへと消えた両親を探して、居場所のあてなどないままに。
     トラブルに巻き込まれたくないのだろう、誰一人として声をかける者はいない。駅員すら彼女を無視していた。
     当然だ。彼らは少女が駅で迷子になるという悪夢から生じたもの。彼女を追い詰めるためだけのもの。
     少女の耳に、ヒソヒソ声が聞こえてくる。誰も助けてくれないという事実を改めて心に植え付けられ、更に大きな涙を流していく。
     もしこれが普通の悪夢なのならば、眼が覚めれば消えるもの。すぐにでも両親の下へと駆けつけることができただろう。
     しかし……この夢は、全てダークネス・シャドウが見せるもの。永久に覚めぬ無限の地獄。
     ――少女……ナナはただ探している。温もりをくれる両親だけを……。

    ●夕暮れ時の教室
     ひと気のない教室に灼滅者たちを迎え入れ、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は口を開く。
    「エクスブレインの未来予測が、宿敵たるダークネスの行動を察知しました」
     ダークネスにもバベルの鎖による予知がある。が、エクスブレインが予測した未来に従えば、その予知をかいくぐりダークネスに迫ることができる。
     ダークネスは強力で危険な敵。だが、ダークネスを灼滅する事こそが、灼滅者の宿命なのだ!
    「厳しい戦いになるかもしれませんが……どうか、よろしくお願いします」
     小さく頭を下げた後、葉月は具体的な説明へと移っていく。
     この度の相手はシャドウ。ソウルボードを主な住処とし、一般人の精神世界に侵入し、悪夢で満たして荒廃させて蹂躙……を繰り返していくダークネス。
     名をムアレド。ムアレドはナナと言う名の幼い少女の夢へと侵入し、悪夢で満たさんとしているのだ。
    「皆さんにはまず、このナナちゃんの下へと赴き、ソウルアクセスを利用して悪夢の中に入ってもらうことになります」
     見ている悪夢は、少し前に行われた家族旅行での少し悲しい思い出。広い駅の中で迷子になり、寂しい想いを抱いたひと時。歩いても両親が見つからず、泣いても誰も助けてくれない。そんな記憶が具現化した世界。
    「恐らく、ナナちゃんは入ってすぐの場所にはいません。なので、探して下さい。お母さんお父さんを泣きながらも探しているナナちゃんを」
     見事探し当てたなら、次はナナを救うために行動しよう。
     両親の見つからぬ彼女を宥めたり、解決策を示したりして、悪夢をただの夢へと変えてしまおう。
    「すると、悪夢を邪魔されたムアレドが、配下である若者風の男女一組を連れて皆さんを排除しにかかってきます。そこを迎え撃って下さい」
     ムアレドの力量は、配下を排除した上で八人で戦うのならば十分に対処できる程度。しかし、指先から放ってくる波紋はそれなりの破壊力を持つ上に、プレッシャー、怒り、催眠、トラウマと言ったバッドステータスの内二つを引き起こす。決して油断の出来る相手ではない。
     一方、配下足る男女の力量はあまり高くはない。だが、ジグザグとブレイクの魔力が秘められたナイフによってムアレドの力を最大限に発揮できるよう立ちまわってくるため、こちらも注意しておく必要があるだろう。
    「以上で説明を終了します。どうか油断せずムアレドと戦い、撃破し、ナナちゃんを救って下さい。命だけではなく、幼い心も……。……そして何よりも、無事に戻ってきてくださいね、約束ですよ?」


    参加者
    鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)
    古関・源氏星(オリオンの輝ける足・d01905)
    フィズィ・デュール(麺道三段・d02661)
    鍋島・妙子(中学生ストリートファイター・d03753)
    辰峯・飛鳥(高校生ファイアブラッド・d04715)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    津守・皓(スィニエーク・d08393)
    黒淵・真夜(希望の夢を見る・d09667)

    ■リプレイ

    ●夢の中の駅迷宮
     絶え間のない喧騒を響かせて、階段へと向かっていく人の群れ。階段から降りては散っていく人の波。旅行か、仕事か、そんな一日を終えた人々が集う只中で、鍋島・妙子(中学生ストリートファイター・d03753)は覚醒した。
     キョロキョロを周囲を見回せば、同様にナナの精神世界へと降り立った仲間の姿。及び、地下通路とまばらな商店を主とする駅構内。
     シャドウ・ムアレドに弄られ、駅迷宮と化した場所。
    「はあ、ここが精神世界の中なんですね不思議な感じです」
    「そうね。駅にしては所々おかしい所があるわ。……ほんと、性格が悪いにもほどがあるわね」
     笙野・響(青闇薄刃・d05985)は盛大なため息を吐き出して、苛立たしげに目を細める。
     人並みに隠れ端など見渡せぬほど広大な道へと視線を移し、拳をぎゅっと握り締めた。
     そんな折、手を打つ小さな音が響く。
     注目を集めた黒淵・真夜(希望の夢を見る・d09667)が、静かに口を開いていく。
    「それでは皆さん、よろしくお願いします。ナナさんの悪夢を終わらせて、素敵な夢へと導きましょう」
    「ああ。そうだな。悪夢を倒して、ナナちゃんを助けだそう!」
     力強く頷いて、辰峯・飛鳥(高校生ファイアブラッド・d04715)は響、妙子と共に動き出す。残る者たちも二つに……計三チームに別れた後、ナナの捜索が始まった。
     幼い心を救うため、本来の笑顔を取り戻すため。ムアレドを完膚なきまでに滅ぼすため……。

    ●彷徨う少女の待つ場所は
    「ナナちゃーん、あなたを迎えに来ました、一緒に帰るですよー」
    「ナナサーン」
     絶え間なく名前を呼びながら、構内を歩きまわるフィズィ・デュール(麺道三段・d02661)と鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)。合間合間に周囲を隈なく見回していく古関・源氏星(オリオンの輝ける足・d01905)。
     近くにはいないのだろう、声は虚しく雑踏に紛れ消えていく。
     見回しても行き交う人の他は朧気な広告の張られた壁やホームの位置を示す案内板程度しか発見できず、ナナの姿はおろか人波が途切れていたりする様子も見つからない。
    「ナナサーン、迎えに来たよー、ナナサーン」
     探している方角が違うのだろうか? と、来栖は名を呼びながらも首を傾げていく。されど通路はまだまだ続いていて、道中左右に設けられていたホームですら未探索の領域がある状態だ。
    「ナナサーン」
     こうしている間にもナナは泣き続けている。寂しさを募らせ心を摩耗させている。
     瞳を細めることすらもしなかったけれど、自然と来栖の足は早まっていた。
     置いていかれそうになってしまったから、源氏星は彼女の背中を軽く叩く。
    「っ?」
    「大丈夫だって、見つかるさ!」
    「そうそう、皆さんで探しているのですから、きっと見つかるのですよー」
     彼と共に、フィズィも元気な笑顔を浮かべていく。
     一拍の間を置いた後、来栖は小さな息を吐き出した。
    「そうだな。ああ、見つけよう」
     歩調を戻し、改めてナナの名を呼び続ける。
     人々の喧騒に負けないように、少しでも早く言葉を届けることができるように。
     言葉を聞いたナナが、自分たちの姿を見つけることができるように……。

    「ナナさーん、どこですかー? ナナさーん」
     真夜もまたナナの名を呼びながら、津守・皓(スィニエーク・d08393)と共に探していた。
     捜索場所は、予めあたりを付けていた改札やホーム、駅員の近くなど人が集まる場所を重点的に。時には人波にも逆らって。
    「あ……」
     五番ホームと六番ホームに繋がる階段に差し掛かった時、己等の存在に関わらず人の流れが乱れている通路を発見した。皓は真夜と静かに頷き合い、その中心へと向かっていく。
    「お父さん……お母さん……何処……?」
     少女が独り、泣いていた。
     人々は彼女を避けるように歩いていた。駅員すら注意を払う様子を見せてはいなかった。
     大きな音を立てないようにゆっくりと、二人は少女の下へと向かっていく。
     皓がゆっくりとしゃがみ込み、優しい微笑みを浮かべながら口を開いた。
    「ナナ……だね?」
    「……え?」
     肩をびくつかせて顔を上げたナナの頭を、皓は優しく撫でていく。
     真夜も膝に手を載せ身を屈め、不安に揺れる瞳を覗きこんだ。
    「私の名前は黒淵真夜」
    「ぼくは津守皓。もし良ければ、どうして泣いているのか教えてくれないかな?」
     二人分の優しい笑顔を前にして、ナナは涙を拭いながら迷う素振りを見せていく。
     やがて覚悟を決めたのか独り小さく頷いて、ポツリ、ポツリと語りはじめた。
     両親とはぐれてしまったと。何処にいるのかもわからないと。
     誰も助けてくれなかったとは語られない。皓は軽く目を瞑り、緩く頭を横に振る。
     真夜と視線を交わし、頷き合い、力強く手を伸ばした。
    「良ければ、ぼくたちも一緒に探すよ」
    「一緒に探したほうが早いでしょうし……それに、お母さんもお父さんもきっとナナさんのことを探しているはずですからすぐに会う事ができると思いますよ」
    「……ホント?」
    「ええ」
     力強く頷き返す真夜もまた手を伸ばし、小さな左手を掴みとる。皓と共にナナの手を優しく引いて、この世界の出発点へと戻ろうか。
     さなかには笛を吹き、携帯電話も響かせ仲間たちへと合図を送る。ひと通りやるべき事が終わったから、真夜は改めてナナに語りかけた。
    「そういえば、ナナさんはどうして駅に?」
    「えっとね、りょこう! お家に帰るところだったの」
    「そうなんですか、それはそれは……だったら、そうですね。これも、かくれんぼだと思って楽しく探してみませんか?」
    「かくれんぼ?」
    「ええ。ナナさんが鬼で、ご両親を見つけるのです」
     少しでも気持ちが前向きになるように、少しでも心が癒せるよう。
     若干優しい響きも聞こえるようになったと思える雑踏をかき分けながら……。

     合流する頃には、ナナも若干の笑顔を取り戻していた。しかし、仲間が集うに連れて加速度的に優しさを増していく温もりを前に両親の事を思い出したのか、全員の自己紹介が終わる頃には再びぐずり始めてしまっていた。
     必死に涙を抑えている彼女の体を、妙子が優しく抱きしめる。静かに頭を撫でながら、耳元にささやきかけていく。
    「大丈夫ですよお父さんもお母さんもナナちゃんの事大好きですからね、今もナナちゃんの事を必死で探していますよ」
    「うん……でも……」
     口を開けば想いが溢れてきてしまうのか、搾り出された言葉もすぐに嗚咽に変わってしまう。
     妙子は一度見を話した後、ナナの瞳を見つめながら己の耳に手を当てた。
    「ほら聞こえませんか? ナナちゃんを探すご両親の声が、きっと聞こえるはずですよ…あの時もそうだったのですから」
    「え……あ……!」
    「よしっ、それじゃ行こうか! 一緒にお父さんとお母さんを探しに行こう!」
     表情を輝かせていくナナの肩を、飛鳥が優しく叩いていく。
     顔を上げたナナに各々静かに頷き返し、いざ、声の聞こえた方角を探そうと飛鳥が音頭を取って歩き出した。
     ――ジャマモノドモメガ。
    「っ!」
     刹那、耳障りな声が聞こえてきた。
     ナナ以外の者たちは素早く呼応し、身構える。
     人々の姿が消えていた。
     壁と階段、広告くらいが彩りとなる寂しい構内と化していた。
    「来たわね」
     響が赤い瞳を細め睨む先、空間が大きく歪んでいく。
     金色の仮面と禍々しき体を持ちしシャドウ・ムアレドと、その配下たる一組のカップルがナイフをぎらつかせながら出現した。
    「それじゃ、行くよ。ナナちゃんを守るために」
     髪を優雅にかきあげて、響は静かに武装する。ナナの保護を皓に任せ、素早くナイフを抜いていく。
     ――アラガウカ、オロカモノドモメ!
     歪な叫び声が響く頃、両者は靴音を高らかに響かせた。
     少女の心を守るための戦いが、偽りの駅構内にて開幕する……!

    ●悪夢との戦い
     キャハハと狂ったように笑いながらナイフを振り回すカップルの横を走り抜け、源氏星はムアレドへと向かっていく。
     悠然と佇むムアレドを前に拳を固く握りしめ、勢いのままに殴りかかる!
     ――フン!
     手応えはあれど、ムアレドは揺るがない。禍々しき体で源氏星の拳を包み込み、全身から波紋を放っていく。
    「そんなヘナチョコな技じゃあ俺は倒せねえぞ!」
     ――ナニヲ!!
     抗うついでに挑発し、注意を己へと引きつける。さなかにはライドキャリバーの黒麒麟が後方へと回りこみ、突撃の準備を始めていく。
    「わたしたちは取り巻きを片付ける。ムアレドへの牽制は任せたよ!」
     飛鳥はムアレドと交戦する仲間たちを横目にナイフの群れをくぐり抜け、腰に差したままの刀に手をかけた。
    「これ以上、この子を苦しめるなー!」
     抜きざまに放ちし一閃で、ナイフのまもりを突破し男に深い傷を与えていく。
     されどナイフの勢いは弱まらず、頬に首筋に数本の赤い線を刻まれた。
    「はっ、その程度がなんだってんだ!」
     怯まず、退かず、飛鳥はその場に留まり男の動きを押さえ込む。仲間の影を、拳を斬撃を導く中、抜き放った刀に体中から吹き上がる炎を宿していく。
     させぬとでも言うのか、横合いから女が切り込んできた。
    「はいやー!」
     フィズィがその横っ面を張り飛ばし。飛鳥に近づくことを許さない。
    「ありがとう! ナイスアシスト!」
     改めて刀を下に構え、飛鳥は思いっきり切り上げた。
    「っ!?」
    「まずは……」
     盛る炎に包まれながらよろめく男の背中を、妙子の両腕が掴みとる。
    「一体目……です!」
     脚を払い、脳天を地面へと叩きつける。手を離せば崩れ落ち、程なくして消滅した。
     仲間の消滅に怯んだか、女がナイフを振るう手を止めた。
    「たぁっ!」
     掛け声とともに懐へと入り込み、フィズィは腰元を掴みとる。かと思えば背後に周り、姿勢を崩そうと試みる。
     彼女だけに対応しようとしても、仲間の技がそれを許さない。前後からの攻撃、牽制に翻弄された末、女は体勢を崩して膝をついた。
    「えいやっ!」
     バランスを崩した体を無理やり立たせ、フィズィは肘鉄をぶちかます。
     くの字に折れた所で脚を払い、明後日の方角へと投げ飛ばす。
     壁にたたきつけられてなお立とうとする女を討つために、フィズィは再び地を駆けた。
    「迷子になった幼児をネチネチいじめて何が楽しいですかこの――野郎!」
     ――ナンダト!
     近づくさなかにはムアレドへの暴言を吐き出して、注意を僅かに逸らさせる。
     隙を付く形で唸るエンジン音を聞いたから、彼女は女に意識を戻した。
     女の斬撃に勢いはなく、追撃をいなす動きも弱々しい。飛鳥の斬撃をまともに受け、更なる炎に包まれてもいる状態だ。。
    「はいっ!」
     素早く跳躍し、フィズィは懐へと入り込む。
     拳を驟雨が如き勢いで浴びせかけたなら、女は壁に埋もれるようにして消滅した。
    「それじゃ……」
    「いよいよ本命をやっつけるよ!」
     後はムアレドを滅ぼすだけ。彼女たちは戦場の中心へと向き直り、得物を構えながら走り出した!

     ――グ……ヨクモ……ヨクモ……キサマラァ!!
    「ひっ……」
     怨嗟の叫びを耳に震えるナナの頭を、皓は優しく撫でていく。大丈夫、大丈夫と囁きかけながら、影をムアレドへと伸ばしていく。
     影に裂かれ、闇へと帰れ。貴様にはそれがお似合いだと。
     ――ハッ!
     仮面を削がれながらもムアレドは退かず、源氏星に向けて波紋を放った。
    「っ!」
     そう何度もかわしきれるわけではないというのか、源氏星の動きがわずかに鈍る。
     されど傷による影響の方が大きいと感じたから、響は声を張り上げた。
     ほのかに頬を赤らめながら紡がれる、透き通った優しい声。暖かい詩を紡ぎ出し、傷も心も言えていく。
     雰囲気も和らげる事ができたのだろう、皓に守られているナナの震えも若干だけれど収まった。
     源氏星もまた元来の笑顔を弾けさせ、拳に雷を宿していく。
    「みみっちい攻撃してねえで、ガチの殴り合いでも楽しもうや!」
     同時に黒麒麟も走らせて、後方へと回らせる。
     殴りかかると同時に突撃させ、どちらかは受けなければならない状態へと追い込んだ。
     ――チッ!
     黒麒麟の突撃を対価に、源氏星は拳をぶち当てる。
     雷撃に震えている隙を、来栖の漆黒の弾丸が貫いた。
     ――グ……。
    「……ナナサンを悲しませるような悪夢は、潰す」
     ――コシャクナ……。
     明らかに姿勢を崩しながらも、ムアレドは力を緩めない。
     再び放たれた波紋は、動きを封じる類のもの。源氏星が身に受けて、されど動かんとあがらいゆく。
     ならば彼を助けよう。
     ムアレドを滅ぼすための歌声を届けよう。
     響は息継ぎと共に髪をかきあげて、高らかに喉を震わせる。傷を癒し、心を駆り立て、決着への道標を示していく。
    「あなたを灼滅します。ナナさんが、素敵な夢を見られるように」
     いち早く真夜の影が道を辿った。
     黄金の仮面に食らいつき、存在そのものを削ぎとった。
     フィズィは足元へと潜り込み、足と思しき場所を水面蹴りでぶった切る。
     ――グ……ガガガガガ……。
    「自分が足ぶった切られて動けない気分はいかがですかー?」
     ――オ……オノ……。
    「ブッ飛ばせ、黒麒麟!」
     怨嗟の声を、黒麒麟の突撃が断ち切った。
     宙に浮いた体を掴みとり、源氏星ははるか後方へと投げ飛ばす!
     壁へと叩きつけられていく、禍々しき体。余波を受けた黄金の仮面が砕けし時、ムアレドもまた消滅する。
     さすれば戦いの残滓も消え失せて、行き交う人々が戻ってくる。彼らの奏でる喧騒が、戦いの終わりを教えてくれた。

    ●心に宿りし光の名は
     武装を解き、呼吸を整え、来栖はナナに向き直る。
     呆然と口を開ているナナに歩み寄り、優しく頭を撫でていく。
    「終わったよ、全部」
    「え……」
    「うん、終わった。きみが探していた、そしてきみを探していた人たちには、目覚めたならすぐに逢えるさ」
     要領を得ない様子の彼女と目線を合わせ、皓は優しく笑いかける。
     言葉重ねていく内に悟ったか、心が晴れたのか道行く人々も駅構内もぼんやりと朧気なものへと変化した。
     ナナの瞳には仄かな涙が浮かんでいく。
     しかし、それは悲しみではない。晴れやかな笑顔が全てを物語っていた。
    「うん、そうだね。ありがとう、おにいちゃんおねえちゃん! えっと……」
     紡がれゆく幼い感謝。続けられようとした問いは全てを語らずとも分かると、源氏星が己を示し口を開く。
    「俺たちは、お前の心のなかにいる勇気さ」
    「ゆうき?」
    「ああ!」
     彼らに出会ったとしても、彼女自身の心が救われなければムアレドが姿を表し悪夢を砕くことなど出来なかった。
     だから、勇気。一歩を踏み出すための。
     ――そうして、彼らは帰還する。少女に希望と、一欠片の勇気を残して。
     もう二度と、悪夢にとらわれてしまわぬように。目覚めた時、笑顔で両親と出会えるように。
     これより紡がれゆく夢が、素敵なものであるように!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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