一足早いとある海辺の物語(マッチョマン)

    作者:飛翔優

    ●オイルを塗り合うマッチョマン
    「ああ、うん。頭痛いのは分かるんやけど、見つけてしまったもんはしかたないんよ」
     太陽が燦々と輝く中、涼しやかな風が潮の香りを運んでくる海岸線。クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)は砂浜を見つめながら、盛大なため息を吐いて行く。
    「おさらいすると、うちが聞いた噂はこんなんや」
     ――オイルを塗り合うマッチョマン。
     まだまだ海開きには早い季節だというのに、砂浜でオイルを塗り合っているマッチョマンがいる。
     近づくと、海にふさわしい格好になれと服を脱がされ、オイルを塗りたくられてしまう。善意で。
     そのオイルは強力で、陽射しを通すことはないだろう。しかし、強力すぎて人の肌では耐えられない、命を落としてしまう危険があるほどに。
    「……とまあ、それが目の前にいるあいつら……ってことやな」
     砂浜の中心で、互いにオイルを塗り合っているマッチョマン。遠目からでも分かるテカテカ具合がとても眩い。
    「ちゅーわけで、これから行ってぶったおす。それが大まかな流れやな」
     もっとも……と、クリミネルは肩をすくめていく。
    「戦いかたの詳細は不明や。やけど……とりあえず、海にふさわしい格好になれーと、服を脱がしては来るやろうな。後、オイルも塗ってこようとしてくると思うで」
     一方で、あるいは……海にふさわしい格好ならば、脱がされることはないかもしれない。
    「ま、予想やし外れてるかもしれん。全ては相対してから、やな」
     以上で説明は終了と、クリミネルは静かな息を吐きだした。
    「まだまだ海開きには遠く、近づくものはあまりおらん。せやけど、なんかの間違えで近づいたら取り返しの付かないことになる。冗談みたいな相手やけど……な。やから、頑張ろう。無事、この砂浜が海開きの日を迎えられるように」


    参加者
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)
    央・灰音(超弩級聖人・d14075)
    クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)
    野老・ヒナ(ブラックハニー・d36597)
     

    ■リプレイ

    ●オイルを塗り合うマッチョマン
     ――燦々と輝く太陽の下、央・灰音(超弩級聖人・d14075)が砂浜でオイルを塗り合う二人のマッチョマンを改めて見つめた後、絹を裂くような悲鳴を響かせた。
     一瞥した後、和服と包帯で身を包んでいる卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)は語り出す。
     海に関する怪談を。人を遠ざけるための物語を。
     一般人の近づけない空間を作り上げた上で、灼滅者たちは行動を開始。まずはマッチョマンたちの気を引くのだと、水着姿なクリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)が歩き出す。
    「ビルダーの方々は試合? 前に互いに塗り合っとるとは言え……ちと濃いなぁ……」
     もちろん、鍛錬や戦闘で躍動する肉体は好き。絡みあう肢体も好き。けれど……。
    「だが都市伝説よ、ヒト様に迷惑掛けんな! 趣味の世界の規制がキツくなるやろ!!」
     嘆きの言葉を紡ぎながら、マッチョマンのもとへと到達した。
     気配に気づいたらしいマッチョマンたちが、向けてきたのは笑顔な視線。
     正面から受け止めながら、クリミネルは砂浜に寝そべった。
    「……サンオイル塗ってくれるんか? いやー背中とか届かんくて困ってたんや―」
     太陽に煌めく小麦色の肌。
     傷つけるには勿体ない、艶やかさと張りを持つ肢体。
     もちろんさぁ、とでも言うかのように、マッチョマンたちはニコニコ笑顔のままクリミネルに近づいていく。
     残る灼滅者たちはそんなマッチョマンの背後に周り、忍び足で近づいた。
     戦闘を歩くのは極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)。大胆な黒のマイクロビキニではちきれそうな肉体を、これでもかというほど震わせた。
     マッチョマンたちの手がクリミネルへと伸びようとした時、舞は胸を張りながら宣言する。
    「ビキニが似合う舞ちゃん参上ー♪」
    「黒蜜の化身ブラックハニー、推参!」
     更には海に落ちる危険性を考えフローター付きの防具に身を包んでいる野老・ヒナ(ブラックハニー・d36597)が、拳を握りしめながら身構えた。
     敵意を悟ったか、マッチョマンたちはクリミネルから視線を外して立ち上がる。
     同様に起き上がったクリミネルの目の前には、マッチョマンたちの堅い桃。
     無防備な背中の、下の方。
    「……」
     瞳を妖しくきらめかせ、クリミネルはバベルブレイカーを持ち上げていく。
     狙いは無論、中心。
     桃の、真ん中!
    「往生しぃや!!」
     ――!!!
     右側のマッチョマンが恍惚の叫びを上げた時、砂浜の平和を守るための戦いが開幕した。

    ●オイルを塗るマッチョマン
     クリミネルが機先を制した後、灼滅者たちは総攻撃を仕掛け戦いの流れを掴んでいった。
     若干の余裕があるからだろう。ヒナは腕を獣化させながら、ちらりと仲間たちの様子を伺っていく。
    「何か、敵も味方も際どい水着着てるけど……」
     マッチョマンたちは言うに及ばず、舞もクリミネルも、一見無防備に思える水着姿で戦っている状況。
     それでも守りは堅いのだろうと小さな息を吐きながら、一跳躍で右側のマッチョマンへと近づいた。
     爪を敵肉体へと突き立てていく中、舞が足に炎を宿しながら背後へと回りこんだ。
    「えーいっ!」
     豊満な果実をぷるんと揺らしながら、数少ない布地を妖しく歪ませながら、足を振り上げ放つハイキック。
     側頭部を強打し炎をもたらすも、マッチョマンは欠片ほども揺るがない。
     ならばとばかりに、灰音は踏み込む。
     腕を獣のものへと変えながら。
    「順調に攻めているはずですが、どうもこう……変化が薄いですね」
     変わらぬ笑顔と崩れぬ姿勢を見つめながら、喉元に向かって獣化させた爪を突き出した。
     クロスした腕で受け止めたマッチョマンは、すぐさま灰音を押し返す。
     まるで鼻歌でも歌っているかのような軽やかさで右へ、左へとステップを踏み、気づけば泰孝との距離を詰めていた。
    「っ!」
     素早く飛び退こうとした泰孝の両肩を、マッチョマンは掴みとる。
    「我を狙うか? 海に似合わぬ存在は許さぬと申すか」
     マッチョマンはとびきりの笑顔を浮かべながら、和服に包帯に手をかけ始めた。
    「ぬおお! おのれ、闇に蝕まれ戻せぬ我を白日の下に晒すか!」
     瞬く間に剥かれた泰孝は、細マッチョなイケメンだ。
     マッチョマンが笑みをより深くしていく中、泰孝は渾身の力による腹パンを。
     腹筋は硬く、内臓をえぐった手応えはない。
     ただ、押されるがままに海の方角へと退いていくマッチョマンの横、もう一人のマッチョマンが舞に襲いかかっていた!
    「もう! 私の体に興味ない癖にー!」
     腕に、足に腿に……舞の芳醇な肉体に、オイルを塗りたくってく左側のマッチョマン。
     舞は頬を赤らめ、唇はツンと尖っている。
    「ど、どうせ誰にでもオイルを塗るだけの存在なんでしょ! わかってるんだから!」
     けれども鼓動は高鳴っている、呼吸もどこか早まっている。
     自慢の膨らみがむにゅりと形を変えるたび、瞳が僅かに潤み出す。やがて吐息にも湿り気が混じり、熱い視線をマッチョマンに送り始め……。
    「あぁん♪ その逞しい腕で、私のおっぱいにオイル塗ってぇ♪」
     体中がてかてかになった時、マッチョマンに抱きついた。
    「もっとぉ♪」
     幸せそうな笑みを浮かべながら、なすがままになっていく舞。
     左側のマッチョマンが更に動きを激しくしていく中、クリミネルもまた右側のマッチョマンにオイルを塗りたくられていた。
     ――……あくまでコレは囮やからな? 決してヌルテカがどんなのか実際に体験したいとかそんな気持ちは……なくもないけど、あっ、結構気持ちエェなぁ?! って、そんなトコまでー!!
     ぬるぬるテカテカになりながら、小麦色の肌を更に輝かせていくクリミネル。
     混沌としていく戦場で、一足先にオイルにまみれていた泰孝は咆哮した。
    「喝!! 汝ら用いし油など、我の体蝕む事出来ぬと心得よ」
     吹き飛ぶ汗、もといオイル。
     精細を取り戻してく動き。
     これより反撃だと示すため、泰孝は氷の塊を生み出していく……。

     灰音の拳が突き刺さった時、素敵な笑顔を浮かべながら右側のマッチョマンは消滅した。
    「よし、ようやく一体目。後は……」
     もう一体を倒すだけと、腕を獣化させながら向き直る。
     さなかには、ヒナが手のひらをかざしていく。
    「喰らえ、黒蜜ビーム!」
     黒いビームは陽光を浴びて輝きながら、マッチョマンの胸板へと突き刺さる。
     されど揺るがぬマッチョマン。
     ならば揺るがすまでと、泰孝は縛霊手をはめた拳を握り踏み込んだ。
    「片割れを失った以上、勝ち目はない。早々に諦めよ」
     懐へ入り込むと共に、土手っ腹へと突き刺した。
     二歩、三歩とマッチョマンが後ずさる中、灰音が背後へと回り込む。
    「おっと、下がらせたりはしませんよ」
     背中に獣の爪を突き立てて、前方へと押し返した。
     待ってましたとばかりに、頬を高調させている舞は炎に染めた足を振り上げる。
     オイルで輝く肢体を妖しく艶めかしく震わせながら、首筋に向かって蹴りを放った!
     勢いを殺しきれなかったのだろう。マッチョマンは炎に抱かれながら膝をつく。
    「やった♪」
    「そこや!」
     すかさずクリミネルが踏み込んで、手を滑らせぬよう注意しながらマッチョマンの体をつかみとった。
    「トドメは任せたで!」
     全身の力を込めて、クリミネルは上空へと投げ飛ばす。
    「私が繋ぎます」
     太陽を背負っていた灰音が、剣を用いて叩き落とした。
     地面に落下してくるマッチョマンを、ヒナが黒いオーラを用いて包み込む。
     高く、高く飛び上がる。
    「決めるよ……黒蜜ダイナミック!」
     頂点に達すると共に投げ落とし、マッチョマンを地面へと叩きつける。
     黒い水柱めいた爆発が巻き起こり……そのマッチョマンもまた、消滅した。

    ●平和を取り戻した砂浜で
     静かな波音、潮の香り。風のざわめき、煌めく水面……海が本来持つ輝きを放つようになった砂浜で、灰音は安堵の息を吐き出した。
    「無事、倒せましたね」
    「恐ろしき都市伝説よ……肌晒す事、恐怖持つ者にとって早期に駆逐す対象か」
     泰孝は頷き、ひとりごちる。
    「如何なる欲望にて生まれたか……されど灼滅す事が我らの務めよ」
    「油と汗でエライコトになっとる……」
     一方、クリミネルは深い溜息を吐き出して、キョロキョロと周囲を見回した。
     海で洗い流す訳にはいかないが、かと言って海開きには早い今の時期。海の家が開いている気配はない。
     どうするべきか……と悩み始めているクリミネルの横、舞は呟いた。
    「うぅ……塗られるなら、恋人に日焼け止めをとかが良いなあ……」
     嘆きにも似た言葉は、波音に混じり消えていく。
     そんな仲間たちを眺め、ヒナは静かな息を吐きだした。
    「まあ、何はともあれ無事でよかったわ」
     誰ひとりとして欠けることなく、マッチョマンを打ち倒すことができた。
     砂浜の平和を取り戻せた。
     喜びを示すかのように……波もまた、優しく打ち寄せて……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月8日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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