りんねの誕生日~ふつうに過ごす、きょうだから

    作者:黒柴好人

    「……なるほど……りんねさんはライブハウスの覇者になりたい、と」
    「そうそう!」
     放課後の武蔵坂学園の一室で、2人の少女が向い合って話をしていた。
    「ん、あれ? 私の話ちゃんと聞いてた!?」
     観澄・りんね(高校生サウンドソルジャー・dn0007)は、高見堂・みなぎ(高校生エクスブレイン・dn0172)に話の経緯をもう一度辿るように促す。
    「みなぎさんが私に、最近やりたいことあるー? って聞いてきたんだよね」
    「……はい。そしてりんねさんはライブハウスで歌いたいと」
    「そうそう!」
    「ライブハウスでディーヴァズメロディを爆発させてライバルを薙ぎ倒し、覇権を握る……と、そういう意味では?」
    「えっと、普通のライブハウスで普通に歌いたいって意味だったんだけど。ギター思いっきり弾きながら」
     さすがにディーヴァズメロディのみは無理があるだろう。
     しかしいつか見てみたいものだ。
     それだけで優勝する猛者が現れる、その瞬間を――。
    「ちらっ、ちらっ」
    「みなぎさん、どこ見ているんですか? セルフ効果音付きで」
    「……いえ。さておき、その願いを叶えましょう」
    「ほんと!?」
    「はい。電話一本で」
    「おお、すごいエライ人みたい!」
     世の権力者は電話ひとつで何もかも問題を打破するという。
     いつか見てみたいものだ。
     電話の力でこう、なんか、あれを成し遂げる猛者が現れる、その瞬間を――。
    「フフフ……。貸し切りの予約をするだけですが」
     つまりこれは何かというと。
    「5月28日はりんねさんのお誕生日ですので、そのせめてものお祝いに、と」
     そういう事で。
    「ついでに、ショッピングでもどうでしょう。おさえるライブハウスの周辺ででも」
    「楽しそう! ちょっと見てみたいアンプとかあったし」
    「……そこで服とかが出てこないあたりが実にりんねさんですね」
    「えっ、あ、でもほら! 気分とか曲に合わせて調整するし、アンプも洋服みたいなものだよ! うん!」
    「ほう……」
     違うと思う。
    「……とにかく、細かい事はこちらでセッティングしますので……りんねさんは色々な人に声を掛けてみてはどうでしょう」
    「ありがとう! じゃあそうさせてもらおうかな!」
     りんねは走りだし、そして。
     休日を過ごすような誕生日パーティーをする事になりました。


    ■リプレイ

    ●いざ買物!
    「今日は暑いですし、美味しいアイスでも食べてからいきましょー!」
     悠花の一声に朔耶、迦楼羅、舞姫、琴弓そしてりんねのクラス友達一行は一路持ち帰りできるアイス屋へ。
    「観澄ちゃんはどれにしたのかな?」
    「バニラとかチョコレートとか、わりとシンプルなものにしてみたよ!」
     それぞれ球状のアイスを3段重ねに乗せ、近くのベンチに腰を下ろしてしばしブレイク。
    「色々試したあと、一周回ってシンプルな構成が気に入ったんだな!」
     あるある、と朔耶もアイスを舐めながら頷く。
    「そうそう! でもちょっと冒険し足りなかったかな?」
    「ならアタシのヤツ、味見する?」
    「いいの? それじゃ私のもどうぞっ!」
     ひょんな事から皆で味くらべ大会をしたりする中、「それにしても」と舞姫が感慨深そうに呟く。
    「りんね、18歳になったのじゃのう。舞姫よりも2ヶ月先なのじゃな」
    「ぜんぜん実感ないけど、今だけお姉さんってわけだね!」
    「すぐに追いつくけどな♪」
    「でも、この中だと誕生日が一番早いのはりんねさんみたいだね」
     次いで朔耶、迦楼羅の6月、琴弓と舞姫の7月と続くようだ。
     かなり集中しており、悠花は少し離れた1月生。
    「なんだか気持ちが引き締まるかも! ふふんっ!」
     18歳に一番乗りした事が嬉しいのか、にやけ顔のりんねだった。

     一服の清涼を得、向ったのは黒岩・いちごと裳経・いちごがオススメする服屋。
    「私たちもステージ衣装を買おうと思ってまして」
    「りんねちゃんも一緒に衣装選ぼー♪」
     ふたりのいちごに手を引かれ、店内に踏み入るりんね。
    「わあ、かわいい服いっぱいあるねー!」
     清楚からガーリー、ふわっとしたものからクールなものまで、様々な服が目の前に飛び込んできた。
    「それだけじゃねえ。こんな服もあったぞ!」
    「周さん?」
     店の奥から歩いてきた周がバシッと広げたのはいい感じにダメージの入ったデニムや鋲の入った強そうなライダースジャケットなどなど、パンキッシュな品々。
    「ほ、本当に同じお店の中から持ってきたの?」
    「ああ。なんだここ、混沌すぎるだろ!」
     深く考えない方が良さそうだ。
    「こういう服はアタシ得ではあるんだが、りんねは欲しい衣装の方向性の希望とかあるのか?」
    「んー、それがまだ思いつかなくて」
    「では少しまわってみますか?」
    「そうしよっか!」
     りんねと共に店内を歩く翡翠。
     既にあたりを付けていたのか、りんねと話をしながらもいくつかの服を確保していく。
    「キュロットはこれで、と。りんねさん、こんなコーディネイトはどうでしょう♪」
    「あ、爽やかでいいね! あとで試着してみるねっ!」
    「りんねさんに似合うと思いますよ。そうだ、良かったら私に似合いそうなものも教えてもらえませんか?」
    「翡翠さんに似合う服かー。あ、ファッションはそんなに詳しくないから期待しないでね!?」
     しばし考え、
    「こういうサマーニットとか、薄い色のワンピースとか合いそうかなって!」
    「なるほど。りんねさん自身の服は決まりましたか?」
    「それはまだかなー」
    「ま、気分や曲に合わせて色々変えてみるのも悪かねえ。よし!」
     話を聞いていた周はパチンと指を鳴らし、胸を張った。
    「欲しいと思った服は全部持ってきな! アタシの驕りだ!」
    「ってわけだからりんねちゃん、どんどん一緒に試着してみよー!」
    「!?」
     周が振り返ると、両手に衣服を山のように携えた2人のいちごの姿が。
     もしあれら全てをりんねが欲したとしたら……?
    「いや、アタシに二言はねえ!」
    「大丈夫ですよ。私たちもプレゼントする予定でしたし、あの中から更に厳選して実際に試着する服はそんなに多くならないと思いますから」
    「そっか。ならアタシも……ん? いちご、あっちのいちごが呼んでるみたいだぞ?」
     周に礼を述べ、試着室へと向ったはずのいちごとりんねの方へ向うと。
    「ほら、いちごちゃんも一緒に試着室入っていいよ?」
    「へ!?」
     試着室のカーテンから顔だけを出したいちごがイタズラっぽい笑顔を向けてきた。
     『美少女ユニット』と公言しているが、今カーテンの外側にいるいちごは……。
    「さすがにそれはまずいですよ……? 私といちごさんだけならまだしも、ね、りんねさん?」
    「んー、3人はちょっと狭いかなー。ごめんねいちごさん、ちょっと待ってて!」
    「いや、その……はい」
     微妙に的を外した答えが返ってきた。
    「やっぱりりんねちゃんの胸のサイズ、私と同じくらいだね! これならおそろいできるかもっ」
    「ホントだ! サイズ選び、大変だよね?」
    「だねー。普通のお店だと限られちゃうよねー、この大きさだと」
     そんな会話が漏れてきて、いちごは何となくその場から離れる事にするのだった。

    「ストッキング専門店?」
    「そうなの! 寛子はタイツとかストッキングむっちゃ好きなの! りんねちゃんは!?」
    「冬場はよく履くかな? 制服だと履かないけど、でもいろんな服にも合わせやすいし好きだよ!」
     寛子に連れられやって来たのはストッキングやタイツの専門店。
     タイツひとつとっても種類はかなり豊富。
    「あ、これ最近よく見るよね。猫の!」
    「りんねちゃんにも似合いそうなの!」
    「へー、他にも色々あるんだね」
    「あ! レギンスとかトレンカは邪道だから、気を付けてね!」
    「そ、そうなんだ」
     要は爪先まですっぽり覆われているタイプでないとダメらしい。
    「そんなわけでー、りんねちゃんに似合いそうなの探してみよっかー」
    「おー!」
     色々と悩んだ結果、りんねは明るい色合いのしましまタイツをチョイス。
    「ハイテンションなロックとか弾くときに合いそうだよねっ!」
    「うんうんなの。寛子からは、はい!」
     寛子は新雪のように白く滑らかなタイツをりんねに進呈した。
    「これをセットでプレゼントなの!」
    「さっそく装備しなくちゃ!」

    「そう言えば一。あなたはどんなお店を回るのが好きなの? 聞いた事なかったわね」
     どこへ行こうか相談をしていたリュシールが、一に顔を向ける。
    「ん? なんでオレに聞くんだ?」
    「偶には一についてって見ようかなって。私はりんねさんへの贈物は用意してあるし」
    「店って言ってもオレ普段駄菓子屋とか位だからなぁ」
     腕を組み、首を捻りながら思案する一。と、視界の端に一件の店が映った。
    「んじゃあそこ行ってみるか」
    「え、あそこって……一!?」
     即決即行動の一は有無を言わさずリュシールの手を引き、可愛らしい雑貨屋を目指した。
    「へぇ、あなたにしては素敵なお店を選んだわね」
     店内は細かい細工の置物や小洒落た文具など、心躍る品がところ狭いしと並んでいる。
    「買ってきたぞー!」
     買い物を済ませた一が持っていたのは飾りが施された小さな紙の袋が2つ。
     その一方をリュシールに手渡してきた。
     困惑するリュシールに、一は「開けてみ?」と促す。
    「キーホルダー……?」
    「普通の女の子な気分はどうよ?」
     にやけるように笑う一に、この犬の肉球があしらわれたキーホルダーが自分へのプレゼントだと気が付くと。
    「……素敵ね」
     あまり人には見せない年相応の笑顔を零すのだった。
    「2人とも見-っけ! なにしてたの?」
    「り、りんねさん!」
     急に背後から声が掛かり、慌てて表情を引き締めるリュシール。
    「おっ、丁度いいところに。ハッピーバースデーりんね!」
    「お、ありがとう! これ、開けてみても?」
     一はもう一方の紙袋をりんねに渡した。
     中から出てきたのは、クマがプリントされた可愛らしい単語帳。
    「あはは、ありがとう。これは勉強がはかどっちゃうナ!」
    「気が利いているプレゼント、ね。私からは後ほど、お渡ししますね」
     そうして――。

    「あそこの古い感じの楽器店、アタシのオススメ!」
     大きなリュック型の楽器ケースを背負いながらも軽快に駆ける迦楼羅が指差した先には、落ち着いた佇まいの楽器屋があった。
    「へぇ、こんなところに楽器のお店があったんだね」
    「ま、入ってみてよ!」
     迦楼羅に続いて扉をくぐったりんねは、思わず「ほわぁ」と息が漏れていた。
     独特の香りが鼻をくすぐり、飛び込んできたのは手入れが行き届いた渋い楽器の数々。
    「アタシ消音ミュート探してるのよー……」
    「みゅーと?」
    「ほら、トランペットとかの先に付けて音を小さくする道具!」
    「あっ、家で練習するときとかに使うアレ! じゃあそのケースって」
    「え? これ? テナーバストロンボーンよ!」
     重々しい音と共に開かれたケースの中には燦然と輝くトロンボーンが!
    「かっこいいー!」
    「フフ、これの演奏は私の隠れた趣味なの!」
    「もしかして今日、披露してくれるの?」
     その問いに、迦楼羅は意味あり気な笑顔を返した。
    「あとは筋トレも兼ねて、ね……」
    「あー。楽器持ち歩くのって、結構大変だよねー」
     ふと、りんねは物珍しそうに店内を眺める舞姫に目が留まった。
    「ギターにもいろいろあるのう」
    「この子たちみんなそれぞれ個性が違うんだよ。面白いよねっ」
    「ふむ。ところでりんねはアンプ……というのを探したいのじゃろう?」
    「そうそう、こういう箱みたいなのなんだけど、ちょっと良いのを見たくて」
     良いものとは、それはもうとてもお高いので大抵はウィンドウショッピングになってしまうのだが。
    「いつか買おうって目標になるよねっ!」
     ぐっ、と拳を握るりんね。
    「りんねよ、ならば、弦をプレゼントしようではないか」
    「わ、いいの? すごく助かるよー!」
     弦はギターの最も基本的かつ重要な構成要素といえる。
     奏者の想いを最もダイレクトに伝えるのが弦であり、これが消耗すると当然音もへたれてしまう。
     疎かに出来ず妥協できない消耗品こそ、弦なのだ。
    「舞姫さんからのプレゼントならきっといい音が出せそうだよ!」
    「何か楽しそうね」
    「迦楼羅、そちらは探しものを見つけたのかの?」
    「バッチリ!」
    「よしっ、それじゃ行こっか!」

    ●ばすでーぱりぃ!
     ライブハウスに到着した一行を待ち受けていたもの。
    「観澄よ。ディーヴァズメロディだけでライブハウスの覇者になりたいとは、敢えて困難な茨の道を歩もうというその心意気やよし」
     ゴゴゴゴゴ。
     それは、濃いスモークと上手い具合に顔だけ見えないライティング、そして黒いマントを靡かせた謎の男であった!
     ご丁寧に緊迫したBGMまで流れている。
    「まずは2016年一学期現在秋葉原地区七位、2015年三学期は秋葉原地区一位だったこの俺――」
     カッ! とついにその顔に照明が当たる!
    「貴女の覇道を阻む中ボス、風真和弥が相手になろう」
    「大ボス級の実力なんだけど!?」
     りんねが和弥にという事は、拳銃一丁で重戦車に挑むくらい無茶だ。
    「でも、ここで諦めるわけにもいかないよっ!」
    「本当にやるのか?」
    「うん。決めよう、頂点を」
     りんねはゆっくりとその手を和弥へと向けた。
    「じゃんけんで!!」
    「……じゃんけんで」
     和弥が勝ちました。

     いよいよライブ!
     の前に機材準備の時間。
    「もし良かったら……一緒に作曲してみないか? ジャンルは任せるよ」
     そんな碧の提案によりステージの準備が整う間、曲を考えてみる事になった。
    「作曲かー。どんな曲にしようかなー」
    「りんねは、どんな音楽のジャンルが好きなんだ?」
    「やっぱりポップスはよく聴くかな。テクノとかダンスミュージックも好きだよ!」
    「テンションが上がるタイプだな……俺はロックやエレクトロが好きだが。ヘビメタもいけるな」
    「エレクトロ! いいよね、電子の海に飛び込む感じ!」
     その時、りんねの頭上に電球が点る!
    「EDM風のロックカスタム、ギターアレンジが効きやすい感じミュージック!」
    「つまり……そういうのか。良し。それじゃあ、この創作意欲を五線譜に紡いでいこうか」
     とにかくそういう曲を創作してみる事になった。
    「俺もベースなら弾けるから、リードギターはりんねが担当するとして……」
    「ううむ。いつも大体感覚で曲つくってるから、こうしてちゃんと楽譜やタブ譜に落とすとなるとドキドキだよ!」

    「音楽だ! 情熱だ! ロックだ! ……よし、セッションだ!」
     迦楼羅のシャウトと共にライブ、スタート!
     テナーバストロンボーンの太い管を軽々振り上げ、ガツンと低音を決める。
     そこへ周のツインネックギターがイン。
     ギター界の二刀流は、扱いこそ難しいがそれを乗りこなす周のサウンドは広大さが特徴。
     寛子のDJプレイ、そのミックスには一切の淀みはない。
     曲調がコロコロ変わるアドリブ満載のステージでは、DJの本質が問われる。
     奏者の雰囲気に合わせての曲選びと違和感の欠片も感じさせないカットインには感服する他ない。
     そして今回はりんねのギターに合わせたハイパーテクノやユーロビートをメインにセレクト。
     ステージ衣装――翡翠が選んだグレイのシャツに空色パーカー、そして白のキュロット。脚は寛子と選んだポップなストッキング。更にはリュシールから贈られた銀の星が仄かに煌めくイヤリングが光る……てんこもりのフル装備――姿のりんねのギターも加わり、しかし宴はまだ最序盤。
     トロンボーンのベースラインに加わるのは琴弓の三味線。
     跳ねるように弾ける和のサウンドは、洋楽器との調和を乱す事もなく、しかし埋もれる事もない。
     琴弓からプレゼントされたピックを掲げ、りんねは三味線のベースにずずいとライド。
     勿論、照明を眩く反射する弦は舞姫のものに張り替え済み。
    「練習を重ねてきたギターテクニックを披露しましょー!」
     歌いやすいチューンに悠花はりんねに合わせてギターと歌声を披露する。
     歌ならと飛び出すのは一とリュシール。
     リュシールが母語であるフランス語で何かを……それが『大好きな貴方達に日々の感謝を込めて』という意味である事を伏せつつ宣言し、彼女が創ったテーマ曲を心を込めて炸裂させていく。
     一とりんねに聞いた「好きな単語」を詰め合わせた「好き」がたくさん詰まった歌。
    「双子の美少女ユニット【ダブルいちご】!」
    「今日は特別ステージだよっ♪」
     早速おニューのステージ衣装で登場の2人のいちご。
     毎度お馴染みながらも毎度目を見張るツインボーカルで今宵もステージを盛り上げる!
     2人が歌うはバースデーソング。
    「りんねちゃんも一緒しよ?」
    「ダブルいちご幻の3人目として!」
    「おっけ!」
     いちごと選んだ衣装、彼女たちに合わせたキュートな衣装に超急いで着替えたりんねは幻の輝きを放つのだった。
    「陽坐さんもどうかな?」
    「え!? ええと、俺は……」
     客席側で手拍子を打っていた陽坐にりんねは誘いの言葉を掛けた。
     何やらごにょごにょ言っている陽坐だが。
    「歌とか、好きかな?」
    「ああ、はい! りんねさんの歌は聞くとなんだか元気になるので……じゃなくて! 俺は歌うのはちょっと……いや、ええと、お祝いになるなら『県民の歌』とか、なら」
    「大丈夫。これからやる音楽はさっき碧さんと考えた完全オリジナルのだから、適当に歌えるよっ!」
    「それはそれでハードル高いような!?」
     これは好機と悠花も友人たちに手招き手招き。
    「朔耶さんに舞姫さん、翡翠さんもかもんかもん!」
    「ふむ、ドラムセットなら叩くだけでできそうじゃの。少し教えてはもらえぬじゃろうか」
    「とにかくノリで!」
     一も二もなくテンションをブチ上げ、底抜けな明るさしかない曲フューチャリング栃木県民がいつの間にやら刷り込まれている謎の歌が混ざりつつ、様々な楽器が飛び交う滅茶苦茶で破茶目茶な、しかしストンと収まるひとつのサウンドで大いに盛り上がるのだった。

     一段落し皆、翡翠のこれもお馴染みチーズケーキとヨーグルトケーキを頂きながらまったりとクールダウンしていた。
     嬉しそうに頬張るりんねに「笑顔が一番似合います♪」と微笑む翡翠。
    「もしよかったら俺が頼んだものも食っていいから」
     ライブハウスでは軽食の類を頼める所がある。
     ここもそうで、和弥の必殺の呪文「メニューにあるもの全種お願いします」が発動していた。
    「いつの間にこんな大量の食べ物が!?」
    「あっ! 持ってきた餃子もあります。食べますかっ?」
     焼きたての陽坐の餃子も追加で!
    「りんね、これを受け取って欲しい」
     朔耶がプレゼントは『鈴蘭の形の髪飾り』。
    「りんねの誕生日の誕生花なんだって!」
    「ありがとう、朔耶さん。大切にするね!」
     贈った、そして贈られた当人たちが知っているかどうかは定かではないが。フランスでは鈴蘭を贈られた人は。
    (「幸せが訪れる。そんな言い伝えがありましたね」)
     それを見ていたリュシールは、くすりと微笑んだ。
    「そーいや高校卒業も近くなってきたけど、夢とかは見えてきたのか?」
     周の言葉に、りんねは笑顔で遠くを見た。
    「私は、皆とずっとこんな感じで音楽を楽しみたい。こうできる未来にするために、私ができることをしたいんだ」
     不定形な夢だが、しかしそうと決まればそれを貫けばいいだけだ。
     りんねの顔には迷いが無いように思えた。
    「……さて、さっきのオリジナル曲が誕生日プレゼントってことで。プレゼントついでに曲名も付けてやってくれ」
     その最初の仕事とばかりに碧が問う。
     りんねは。
    「『あしたを歌う、きょうだから』! 未来を変える力がある。それが、音楽だから!」
     今日の感謝を。そして純粋に思う。
    「誰か英訳してそれっぽくしてほしいな!」

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月12日
    難度:簡単
    参加:15人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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