●男の娘はいいぞ
ソロ魔な男の娘をあがめる教団があるらしいと、経津主・屍姫(無常ノ刹鬼・d10025)がいう。
教祖お前じゃねえだろうなと思ったがそんなことはなく、こっそり覗いてみれば……。
●わぁい!
「オオオオオオオオオオオオオオ――ットコノコォ!」
「オトコノコォ!」
「「ハァイ!」」
ふんどし姿の屈強な男たちが無数の絵画に囲まれて狂喜乱舞していた。
その動きたるや、よっぱらった阿波踊り。いやトチ狂ったパラパラダンスである。
だが最も狂っていたのは彼らの被った麻袋である。
『オト娘』の文字が焼き印された麻袋の下は誰が誰だか分からぬ仕様。まさに地下教会の典型と言えよう。
「せいしゅくに!」
手を叩く美少女。
否! 人を見た目で判断してはだめだって言われたデショ!
見目麗しき男の娘である。
彼が手を叩くやいなや、男たちはぴたりと踊りをやめ、傾注姿勢をとった。
誰とも分からぬ視線を浴びつつ、胸一杯に空気を吸い込むオト娘。
彼がソロモンの悪魔だということは、なんとなーくみんな察していることだと思う。
オト娘はため息のように語った。
「男の娘はイイ」
「「イイ……」」
声に続く麻袋たち。
「純朴な美少女の皮を被った男の娘がイイ」
「「イイ……」」
「無理矢理女物の服を着せられて男言葉を禁止されてる男の娘がイイ!」
「「イイ!」」
「可愛い自分は可愛い服を着るのが当然だと主張する男の娘がイイッ!」
「「イイッ!」」
壁に飾られた男の娘のピンナップ的絵画を眺め、オト娘はほうっとため息をついた。
「こんな素晴らしい世界があるんだ。過去の世界なんて捨ててしまおう」
「「イイッ!」」
「女装した男とトランスセクシャルを一緒にする世の中なんて捨ててしまおう!」
「「イイッ!」」
「ついてたってイイじゃない!」
「「むしろそれがイイじゃない!」」
「僕たちは!」
「「男の娘しか愛せない!」」
「「……」」
この様子を窓の隙間からのぞき見ていた灼滅者一同は、なんともいえない沈黙の中にいた。
おそらく中央のオト娘がソロモンの悪魔。
まわりの麻袋たちはほぼ一般人だが、数名だけ強化一般人が混ざっているのがわかる。なんでかって、バベルの鎖でバベ視ったからだよ。
「これは完全な暴走。このまま行くとこの場の全員どんどん堕落していっちゃう。なんとか止めてやらないと……!」
参加者 | |
---|---|
アリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・d02341) |
経津主・屍姫(無常ノ刹鬼・d10025) |
嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475) |
アトシュ・スカーレット(護るモノを知った死神・d20193) |
黒絶・望(月亡き夜に咲いた比翼の花・d25986) |
七那原・エクル(クオヴァディス・d31527) |
貴夏・葉月(地鉛紫縁は原初と終末のイヴ・d34472) |
シャオ・フィルナート(いらない子・d36107) |
●エビバディセイ、男の娘はいいぞ
「オオオオオオオオオオオオオオ――ットコノコォ!」
「オトコノコォ!」
麻袋の一団が奇っ怪な儀式に興じるさなか、ゴギィーと音を立てて両開きの鉄扉が僅かに隙間を見せた。
「あのぉー」
一斉に動きを止め、振り返る麻袋たち。
扉から顔を出したのは三人の少女である。
ってコラ、人を見かけで判断したらダメって教わったでしょ!
「なんかすごい声が聞こえて……」
経津主・屍姫(無常ノ刹鬼・d10025)、黒絶・望(月亡き夜に咲いた比翼の花・d25986)、シャオ・フィルナート(いらない子・d36107)。いずれも男の娘である。
いや、決して属性を一括りにしたわけではない。尺の問題で割愛するが、三人とも全く趣の異なる男の娘である。人類を有機物って呼ぶくらいのカテゴライズだと思って頂きたい、いいね?
「ここにカリスマ男の娘さんがいるって聞いたんですけど」
「……」
三人の振る舞いに、麻袋たちはティンときた。
ワインソムリエが香りだけでその銘柄を言い当てるように、彼女(あえて彼女と呼ばせて頂く)たちの振る舞いから男の娘と察したのである。
ひときわ屈強な麻袋がシャオに歩み寄る。
「君は、オトコノコかい?」
「よくいわれるけど……わかんないや……」
「「グアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
数人の麻袋が血を吹いて倒れた。それも鼻からである。
「む、むじかく……だと……?」
「否定でも肯定でも事情を話すでもなく……むじかく……」
「むくなる……たましい……」
むくりと起き上がる屈強麻袋。
「こ、恋人や好きな人はいるかい?」
「……うん……かれし、いる」
顔を赤らめるシャオ。
何人かの麻袋が尊さのあまり笑顔で絶命した。
となると注目すべきは残りの二人。
麻袋たちは荒い息を整えると、血をぬぐって振り返った。
「こいつは、おもしろくなってきたぜ……!」
「なんでアイツら戦う前から激戦状態なの? なんで既に何人か死んでんの?」
その様子を穴からのぞき見る嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)。彼女の上下に五人ほど重なって中を覗いている。
「つうかなんだ男の娘って。意味がわからん」
「女装男子の何がいいんだよ。ネタで着るだけだろ?」
同じく覗き込むアトシュ・スカーレット(護るモノを知った死神・d20193)。
「彼女出来なさすぎて頭沸いたんじゃねえの?」
「…………」
そんな二人をアリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・d02341)がすごい目で見ていた。
下手すると宗教戦争になってしまうのでおいといて、貴夏・葉月(地鉛紫縁は原初と終末のイヴ・d34472)と七那原・エクル(クオヴァディス・d31527)が望の様子をガン見していた。
「大丈夫でしょうか」
「心配だよね」
エクルの視線を穴ごしに浴びつつ、望は後ろ手を組んでしなを作った。
「私は女の子ですけどね。彼氏? いますよ?」
「「ふむ……」」
麻袋たちが眼力を働かせた。
強化腐女子たちが男性カップリングを幻視できるように、強化男の娘フリークたちも同様の幻視が可能なのだ。
「トランスセクシャル……」
「の中でも無自覚なパターンか」
「美しき歪み」
「バロック……!」
数人が血を吹いて倒れた。あと数人が笑顔で爆発した。
なぜなら彼らは望きゅんが自身女の子であることを疑わないだけでなく彼氏と呼ぶ人も男の娘なうえ恐らく女扱いされるたびにかたくなに否定するタイプであることに思い至ってしまったどっかのTRPGで言うところのSUN値チェック失敗からのアイデア成功状態に至ったからである。
「つらかろうて……美少女に見える男が男だと主張するロールはつらかろうて……」
「長老!」
年老いた麻袋がプルプルしながら前へ出てきた。
首を傾げる屍姫。
「おぬし、なぜそのような格好を」
「可愛いカッコ好きだからだけど? 男だってキャミとか着きたいの、変かな」
「「ギャアアアアアアアアアアア!」」
長老が尊さのあまり昇天した。
ついでに何人かも垂直発射で天に召されていった。
「たった一日でこんなにも多くの男の娘に出会えた……」
「今日死んでもいい……」
「いや死のう」
石を投げると男の娘に当たる武蔵坂とは違って、世間では男の娘なんてツチノコレベルで見かけないのだ。
麻袋たちが自主的に縄をもんで天井からぶら下げた所で、それまでやけに黙っていたオト娘さんが立ち上がった。
「静まれ者ども! あんまり男の娘たちがカワイイから黙っていたが……この者たちは恐らく囮にすぎんぞ」
「何ッ!? もっと男の娘が!?」
「そういう意味じゃない」
オト娘は扉を杖で指し示し、ギラリと目を光らせた。
「我がバベルの鎖がバベっておるわ! なんかヤバい気がするとな!」
「「ということは……!」」
途端、扉が勢いよく開いた。アトシュと葉月(んとこの菫さん)が飛び込んでくる。
「てめぇら叩き斬られてえか。うちの子らの教育に悪いだろうが……」
ギラギラと殺界形成を放つアトシュ。それに乗じて王者の風を吹かせる望む。
「変態には容赦しませんよ。全員立ち去りなさい!」
「ばかめ! それが通用する一般麻袋は全員尊さのあまり気絶したわ!」
「その台詞の方が馬鹿っぽいぞ」
余談。
アトシュは線の細さからよく女性と間違われるらしいが、麻袋たちは『線の細い男性』と『男の娘』を完全に区別できる能力を持っているので完全にスルー対象だった。
もっと言うと武蔵坂に日本人眼鏡率くらい大量にいる『ありえないくらい美少女っぽく女装したことがある男子』もスルー対象である。
彼らの後ろからちらちと顔を覗かせるエクルと絹代。
「ボクはあんまり出て行かないほうがいいんだよね……」
「下がってろ」
「えくるんには指一本触れさせません」
「もぐもぐ」
アトシュと望と葉月が同時に応えた。
「おら死ねー!」
容赦なくフォースブレイクを繰り出すアトシュ。
容赦なくレイザースラストを繰り出す望。
容赦なく菫さんを投げる葉月。
次々蹴散らされていく強化麻袋たちだが、めげずにケケーとかいいながら飛びかかってくる。
「うわこっち来んな! こわっ! リアルにこわ!」
絹代は葉月たちの後ろに隠れてひたすら魔法弾を乱射。今日は表に出たら乳をもがれかねないと思っている彼女である。
男の娘フリークの全部がそうってわけじゃないが、女性恐怖症の反動や女性へのリアルな嫌悪感からきていることもあるので、あながち間違っていない。
「うん、でも地下でワクワクしてる連中に踏み込んで襲撃って……いやいや正義は我にありでしょ。大丈夫大丈夫」
絹代は自分に言い聞かせながら魔法弾を延長コール。
その後ろから悠然とアリスが歩み出て、適当に影業ぶっぱして麻袋たちを蹴散らした。
こうして灼滅者たちによって瞬く間に全滅した強化麻袋たち。
親切心なのかお約束なのか知らんけど黙って様子を見ていたオト娘はやっと動き出し、階段を一歩ずつ下ってきた。
「よく来たな、灼滅者たちよ。ここで悪の正義めいたことを語るのもいいが、それはどうも私らしくない。むしろ話を聞いてやろうではないか」
「別に何も言いたくな」
「言わせて貰うわ!」
絹代たちがノーサンキュージェスチャーをする中、アリスがここぞとばかりに身を乗り出した。
「貴様は男の娘ではない! 女装子だ! 定義が違うんだよ定義が!」
「ナニィー!? 聞き捨てならん! 詳しく!」
「いいか!」
アリスは薄い本を机に並べると、机をばしばし叩いた。
「男の娘ってのは恥じらいがないと成り立たないんだよ! 受け入れてる時点で男の娘じゃないんだよにわかが!」
「オールドファッションめ! いつまでもぴこたん世代が頂点だと思うなよ! タクミ様の威厳を知れい!」
オト娘が薄い本を大量に取り出して振りかざした。
「そんなのゼロサムでしか通用しないでしょ!」
「いいから読め! 読んで知れ!」
「なにこれ、宗教論争?」
「聞くな聞くな、とって喰われるぞ」
キシャーとかいいながら飛びかかるオト娘と、触手プレイよーとか言いながら飛びかかるアリス。
ディスク購入特典としても収録できるかあやしいシーンが繰り広げられる中、仲間たちは壁を向いて会話していた。
特にアトシュと絹代辺りは耳さえ塞いでいる始末である。
あと屍姫さんちの鍔姫さんが体育座りで待機していた。
ふと首を傾げる屍姫。
「まって? アリスの定義だと、ボクって男の娘にカウントされないの?」
「そうなんじゃないですか? 私女の子なんで分からないですけど」
しれっという望。その後ろで回答に迷っているエクル。
すると長老の麻袋がむくりと起き上がった。
「かつて戦争があった。男の娘という言葉が生まれる前の時代じゃ」
「長老!」
背景でアリスが『見せられないよプレート』に隠されている中、語り続ける長老。
「女の子として育てられた少年と、女の子の姿をまねようとした少年。その二つの伝説的作品の是非を巡る争いは熾烈を極め、多くの社会的死者を生み出した。しかし――」
「じいさん話長い。巻いて巻いて」
「あと野菜スティックおかわり」
腕を回す絹代やアトシュたち。関係ないこと言う葉月。
「屍の山を積み上げた彼らは悟った。敵軍の掲げる旗もまた、美しかったのじゃ」
「…………」
シャオが椅子に座ってだまーって話を聞いていた。
「少年であるからには否定は必要だと主張した将軍と、性の鎖から解き放たれし少年は堂々としているべきだと主張した将軍。彼らは互いの手を握りあい、ある言葉を作った。少年にも少女にもとらわれぬ、新たなる概念。それが男の娘じゃ……」
「起源は……どちらでも、なかったんだね……」
なんか起源人類種を争う戦争の終結みたいなことを言い出すシャオ。
長老麻袋も雰囲気で頷いて、そしてもっかい絶命した。
「男の娘が見せる未来に、幸あらんことを」
さて、別のシーンを写すことでなんとか直視を避けることができたアリス戦は、マニアックなエロ漫画のラストページみたいな様相で決着がついていた。
具体的には言わない。絶対に言わない。挿絵とか絶対挟むなよ、絶対だからな。おすなよ。
「ふふ、ごちそうさまでした☆」
かくして、地下組織男の娘教はソロモンの悪魔と共に壊滅し、さんざん絶命したって書かれていた麻袋たちは元気に起きてそれぞれの仕事に出かけていった。
ソロモンの悪魔が起こしたこととはいえ、社会の激流に晒される彼らにとっては必要な堕落だったのかもしれない。
適度な男の娘は、過酷な現場で過ごす人々の心を救い、ひいては社会を正常に回しているのかもしれない。
そう、思ったとか思わなかったとか。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年6月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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