サイレーンの儀式塔～監視塔を襲撃せよ

■リプレイ

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　波の音。
　船で海上都市に着いた灼滅者らは、今、海岸付近にいた。近くには、監視塔が立っている。
　シェスティン・オーストレーム（小さなアスクレピオス・d28645）は服や白髪から海水を垂らし、
「た、助け、て……誰か……助けて……！　お化け、が……！」
　と震え声。
　隣には、フィアッセ・ピサロロペス（ホロウソング・d21113）。困惑顔で辺りを見回し、声を張る。
「誰かいませんか。誰か助けてください」
　二人の行動は、淫魔を誘う演技。
　淫魔はなかなか現れなかったが……やがて塔の入り口から女一人が現れる。
　胴体に黒布を巻き、胸元や足を大胆に露出した姿。髪は青色、ウェーブがかった長髪。瞳は赤く輝いている。淫魔だ。
「イケメンじゃないし、面倒ー。でも確認しないとー」
　淫魔はぼやきつつフィアッセとシェスティンへ近づいてくる。

　塔制圧班四人は、動物姿で岩陰に隠れていた。淫魔が塔から出たのを見て動き出す。
　ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ（黒紅・d36355）、神宮時・蒼（大地に咲く旋律・d03337） 近衛・一樹（創世のクリュエル・d10268）は蛇や猫の姿で、陰から陰へ。塔入口を目指す。
　一方、石弓・矧（狂刃・d00299）は、誘き出し班の忍長・玉緒（しのぶる衝動・d02774）と備傘・鎗輔（極楽本屋・d12663）が隠れている場所へ移動。
　矧は『塔に淫魔が二体残った以上、四人での制圧は困難』と判断したのだ。
（「制圧に加わってください」）
　蛇の姿で、目で塔を示す矧。玉緒と鎗輔は矧に頷き、蛇の姿で塔へ。
　玉緒と鎗輔は振り返り、フィアッセとシェスティンを見る。声に出さず、仲間に言葉を送る。
「（引き留めをどうかお願いね）」
「（うまくいくよう祈ってるよ）」
　
　一方。淫魔はフィアッセとシェスティンまで数メートルの距離にいた。
　フィアッセは目を見開き歓喜の顔。シェスティンは涙を浮かべた目で相手を見つめる。
　淫魔は二人の顔をまじまじ見つめ、
「私の攻撃が、確実にはあたらなさそう？　お前ら、ただの漂流者じゃないなー？」
　言葉につまるフィアッセとシェスティン。
「嘘つきー！　死んじゃえー！」
　途端、淫魔の青く長い髪が伸びる。生き物のように動き、フィアッセの腕や首に絡みつく。動きを封じられるフィアッセ。
「大丈、夫、だから……！」
　シェスティンは純白のメス『白蛇の慈愛』を振り上げた。振り落すと同時に光を放つ。光で、フィアッセに巻き付いた髪を振りほどく。
　フィアッセはシェスティンに目礼。そして前進、軽やかな足取りで。そしてナイフを振る。ジグザグな刃で淫魔の肩を抉る。
　流れる血、傷口を押さえる淫魔。
　フィアッセは淫魔を見たまま、ごく小さな声で言う。
「こちらは持ち堪えます。ですから……お願いいたしますね」
　塔に行った制圧班の仲間のことを想うかのように。

●
　制圧班は、二名を加える過程でタイムロスをしたものの、塔への侵入に成功。
　今は塔の最上階に辿り着いていた。
　最上階の中央には、外を映す水鏡。壁には赤い警報装置のボタンがある。
　水鏡の横に、女淫魔二体がいた。髪はそれぞれ赤と茶。
　二体の瞳が灼滅者らに向けられる
「わっ。侵入者ー」「わわっ。どうしよー」
　灼滅者は今は人の姿。
　監視を掻い潜るため猫や蛇に変じていたが、淫魔と戦闘できる距離では変身の意味がない。故に人の身に戻っていたのだ
　一樹は眼鏡を外す。警報装置に目をやり、壊せそうにないと確認してから、淫魔に目を向けた。
「どうしようと言うてたな？　おまえらには、何もさせへん」
　跳ぶ。輝く蹴りを赤髪淫魔の顔面に叩き込む！　一樹の蹴りは鋭く、赤髪淫魔を仰け反らせる。
　隣の茶髪淫魔は、
「イケメンに蹴られて羨ま……警報を押さないとー」
　警報スイッチに向かう。が、茶髪淫魔の左右に、ロードゼンヘンドと蒼が立つ。
「行かせるわけにはいかなくてね」
「……そう、です。……絶対、いかせ、ません」
　うっすら笑うロードゼンヘンド。ベルトをぎゅっと握る蒼。二人は赤と金の瞳で合図しあう。
　次の瞬間。ロードゼンヘンドが切りかかる。白い剣から光を放ちつつ。蒼もベルトを槍の如く伸ばした。
　二人の技が茶髪淫魔の腹を斬り、肩を貫く。
　茶髪淫魔と赤髪淫魔は体から血を流しつつも、跳びはね、走り、ロードゼンヘンドや蒼や一樹をなんとか迂回。警報装置へ向かおうとする。
　玉緒は二体の進行方向に陣取った。
「邪魔ー」「どけー」
　淫魔二体の口から音波が出る。玉緒に音の塊がぶつかった。玉緒の心を惑わそうと、脳内で響く音。
　玉緒の額に大粒の汗。
　玉緒は歯を食いしばる。手に力を入れた。戦闘開始直前に鍵を握った手で、今は鋏を強く握りしめ――切っ先を茶髪淫魔の首元に突き立てる。
　顔を想いきり顰める茶髪淫魔。数秒後には玉緒を攻撃せんと腕を振り上げ――が、動きを止めた。
　霊犬わんこすけが茶髪淫魔の足の甲に刀を刺したのだ。
　一瞬遅れ、鎗輔が跳躍。足で茶髪淫魔の頭を挟む。相手ごと体を縦回転させ、古書ダイナミック。茶髪淫魔の頭を床に衝突させる！
　矧は倒れた淫魔を見下し、クロスグレイブを担ぎ上げた。
　矧は唇をかすかに動かす。詠唱。全砲門から、光を撃つ！　矧の放った光が淫魔どもを灼く！
　矧の力に淫魔たちは絶叫する。
「うがああー。おのれーゆるさないー」
　赤髪淫魔は両手を胸の高さにあげ、構える。その隣で、倒れていた茶髪淫魔も立ち上がる。
　二体の瞳は爛々と輝き、灼滅者への殺意をむき出しにしていた。

　一分後には、
「絡めとるー」
　茶髪淫魔の髪が蠢いた。髪が急速に伸び、蛇のように動き灼滅者へ迫る。
　蒼は髪の前に立つ。仲間を庇う為。髪は蒼の足首に絡みついた。
　鎗輔のわんこすけが蒼に近づく。清らかな瞳で蒼を見上げた。
　蒼は瞳の力を受け取った。片足を髪からひきぬき、半歩前へ。細い腕を巨大化させ茶髪淫魔を殴りつける！
　蒼は視線を動かした。蒼が茶髪淫魔と攻防を繰り広げている隙に、赤髪淫魔が警報ボタンへ走っていた。
「……そっち、おねがい、します。……赤髪の、淫魔、が……」
「了解。僕が押さえるよ」
　鎗輔は淡々とした声で蒼に応えた。銀のポニーテールを揺らし、赤髪淫魔を追う。
　鎗輔は赤髪淫魔に追いつく。淫魔の側面をとり、回し蹴り。断裁靴から炎を出し、淫魔を焼く！
　数分が経過。
　玉緒は、まだ健在な敵二体を見る。
　戦力では灼滅者が優勢。が、灼滅者が敵片方に集中攻撃する度、もう一体が警報スイッチを押そうとする。故に攻撃を集中させきれない。
「厄介な状況だけど――それでも、私たちだって、簡単にはひけないの」
「ひけないなら倒れちゃえー」
　淫魔は玉緒の声に怒鳴り返してくる。そして、淫魔は踊る。腕が玉緒の体を打つが――それでも、玉緒は倒れない。
　玉緒は、腕をぶつけてきたばかりの相手の前で、体を横に回転させる。漆黒の髪を揺らし、ナイフを一閃。敵の皮膚を斬り裂いた。
「いたああ」淫魔の悲鳴。
　灼滅者は畳みかけるべく、攻め続ける。が、淫魔の反撃も強力。ディフェンダー三名を中心に体力を削られ――さらにしばらくの時が経過したころには、一樹は足をふらつかせていた。
　今も、淫魔二体が音波を放つべく口を開けている。
　一樹はひかない。『冷妖槍-氷茜-』の柄を握り、足を半歩前に。
「凍り付きぃ！」一樹は穂先から氷の塊を出現させた。
　淫魔たちと一樹の攻撃はほぼ同時。一樹の氷が茶髪淫魔の腹にあたった直後、二体の音波が一樹を打った。
　一樹は音に吹き飛ばされ壁に激突。うつ伏せに倒れる。顔を上げ、
「渾身の一撃は打ったった……あとは、任せた、でっ」
　目をとじる一樹。
　ロードゼンヘンドは一樹に応えた。
「任されたよ。一樹は安心して休んでいてね」
　ロードゼンヘンドは淫魔たちに視線を移す。
　茶髪淫魔は真っ青な顔で震えている。一樹は倒れたものの、茶髪淫魔に大きな一撃を与えていたのだ。
　ロードゼンヘンドは、地面を蹴り茶髪淫魔の背後へ。涼し気な笑みのまま、ロードゼンヘンドは剣を首元へ振り落す。茶髪淫魔に死を、与えた。

　敵一体を倒したことで、戦況は大きく灼滅者側に傾いた。
　茶髪淫魔が倒れ少し経ち。傷だらけの赤髪淫魔は、
「シチューにカツをもとめるー！」
　叫び跳んだ。高く高く跳び上がる。灼滅者の頭を跳び越えようというのだ。
　矧は赤髪淫魔を追って自らもジャンプする。
「活を求めて跳ぶなら――叩き落とすだけです！」
　同じ高さになった所で、矧は赤の標識を上から下に振る。標識と己の力で赤髪淫魔をはたき落とす。
　はたして、赤髪淫魔は床に崩れ落ちた。が、まだ生きている。顔を上げる赤髪淫魔。
　瀕死にも関わらず、淫魔は笑っていた。
「しらせ……サイレー……ン様、ばんざ……」
　淫魔の顔と体が、輝き出した。そして、淫魔の全身が爆発する。
　灼滅者の体を爆発の衝撃が襲う。防御の姿勢で踏みとどまる灼滅者たち。
　次の瞬間、巨大なサイレンの音。警報装置が鳴っている。
　淫魔は自爆することで警報装置のボタンに衝撃を与え、装置を作動させたのだ。

　警報の鳴る中、鎗輔はいつになく真剣な口調で、皆に告げる。
「警報が鳴ってしまったけど、今は悔やんでも仕方がない。早く外の二人と合流して、一匹でも多く敵を引きつけよう」
　鎗輔の言葉に、矧は決意の表情で、
「急ぎましょう。外に出たら殿は私が勤めます」
　灼滅者は階段へ走るが――。
　玉緒の無線から声が流れた。Ｃ班のエアン・エルフォード（ウィンダミア・d14788）の声だ。
「こっちは撃破出来たよ、そっちは大丈夫？」
　その声を聴いた灼滅者たちの顔に喜びが浮かぶ。自分たちは警報を鳴らすのを阻止できなかったが、それでも、Ｃ班が任務成功させるための時間を稼ぐことは、できたのだ。
　玉緒も安堵の息を吐き、応える。
「ええ、戦闘が終わった所。私たちも今から撤退するわ……警報を鳴らしてしまってごめんなさい。成功してくれてありがとう」
　無線での応答が終わる。警報は鳴り続いていた。部屋を観察する余裕はなさそうだ。一行は階段を駆け下りる。外の二人に合流するために。

●
　少し時間は遡り、警報が鳴る少し前。場所は塔の外。
　シェスティンはフィアッセの背中を見ていた。
　フィアッセの先には、青髪の淫魔。息を吸い歌いだそうとしている。フィアッセを攻撃するつもりだ。
　敵と対峙し続けたフィアッセは傷だらけで、この一撃に耐えきれるかわからない。
　シェスティンは手を胸の高さで組んだ。相手より早く歌う。柔らかな声で真摯に。
　シェスティンが歌った直後、青髪の淫魔がフィアッセを音波で撃つが、シェスティンの歌声がフィアッセを癒してくれていた。フィアッセは淫魔の音波にかろうじて耐えることができた。
　フィアッセは呼吸を整える。唇をゆっくり開く。淫魔の音波の余韻を打ち消すように、ディーヴァズメロディ。青髪淫魔の心身に苦痛を与えた。
　が、フィアッセとシェスティンの顔に余裕はない。
　誘き寄せ班からは、制圧班の戦力不足を補うため、二名が抜けていた。残った二人で相手どるには、目の前のダークネスは強大な相手。
　フィアッセは既に消耗しきり、シェスティンも無傷ではない。戦況は不利。
「あなたは強い方。フィアッセたち二人では、倒すのは難しいかもしれません。けれど――」
「けれど、皆さんが、戻る、まで、堪えます」
　フィアッセとシェスティン、二人のピンクの瞳には、それぞれの強い意志。
　その時、サイレンの音がした。
　青髪淫魔は瞬き。
「警報？　くっ。ここは去らないとー」
　二人に背を向け、走り去る。
「……塔に行った皆さんが心配ですね。早く合流しませんと」
　フィアッセは焦りを声に滲ませた。二人は塔へ急ぐが、シェスティンが歩を止め塔入り口を指す。
「……見て、ください！」
　そこには、戦闘不能の仲間を担ぎつつ、意気揚々と引き上げてくる、仲間の姿。
　ロードゼンヘンドは声を出す。
「無事でよかった。安心してほしい、Ｃ班は成功したそうだよ。二人の引き留めのおかげでもあるね。さあ、帰ろう」
　ロードゼンヘンドの言葉に頷く一行。一行は学園へ戻るべく船のある方へ走る。警報と波が激しく鳴るなか、懸命に。
　蒼は一度だけ監視塔を振り返った。自分にだけ聞こえる声で、言う。
「（……サイレーン様、と、名前を、呼んで、ました）」
　自爆した淫魔の最期と、過去に思っていたのと違った異形のサイレーンを、思い出したか。
　けれど、今は学園に帰るのが大事というように、蒼は走り続ける。学園へ戻る道を。仲間とともに。

作者：雪神あゆた	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年6月17日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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