サイレーンの儀式塔～北部監視塔制圧作戦

■リプレイ

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　『Ａチーム、海の淫魔と遭遇。戦闘開始だよ。ボク達はこのまま戦い続けるから――あっちはよろしくね』
　嬉しそうに聞こえる声はＡチームの黒木・唄音のものであった。
　浮上した海上都市。
　その北部の海上。波にゆれるモーターボートの上に八つの人影があった。
　二十歳前後の少女たち。灼滅者だ。
「始まりましたね」
　ややあって迷彩服をまとった、二十歳ほどの娘がつぶやいた。
　灯屋・フォルケ（Hound unnötige・d02085）。元軍人という過去をもつ娘だ。
　Ｃチームの連絡係である赤松・あずさ、そしてサブである白星・夜奈の番号を確認して後、フォルケは双眼鏡を目にあてた。その目は異様な光景をとらえている。
　それは戦いであった。魚類融合型の淫魔と灼滅者たちとの。Ａチームの灼滅者たちは他の二チームのための突破口を開かんとして戦っているのであった。
「他に魚類融合型の淫魔の姿はないようです」
　同じく双眼鏡を目にあてた少女が告げた。
　一房だけ黒が残った灰色の髪を腰まで伸ばしている。十六歳ほどなのだが、その年齢には似合わぬ落ち着きがあった。名を狩野・翡翠（翠の一撃・d03021）という。
「今です」
　翡翠はボートでの接近を促した。淫魔たちは完全に突破班の陽動にかかり、他の警戒を怠っているようである。
　すぐにボートは海上都市北部の岸壁に接岸した。上陸しようとし、しかし一人の少女がとめた。
　艶やかな黒髪をツインテールにした、ややツンとしたところのある、気の強そうな美少女である。名を神夜・明日等（火撃のアスラ・d01914）というその少女は辺りを見回し、警戒を促した。
「気をつけた方がいいわよ。敵は油断しているようだけど、それで逆に私達が油断して失敗するわけにはいかないから」
　刹那である。明日等の身が変化した。人から猫へ。サイキックによる分子レベルでの細胞の分解、再構築であった。
　猫と変じた明日等が上陸した。周囲を見回し、耳を澄ませる。
　何ら異変はない。監視役の淫魔は気づいていないようだ。
　明日等が促すと、他の灼滅者たちも上陸した。物陰に走り込み、身を隠す。
「物陰を伝えば、少しは近づけそうですね」
　荒谷・耀（罅割れた刃・d31795）という名の少女が、物陰から生真面目そうな顔を覗かせた。紅珠を溶かしたような鮮やかに紅い目をすがめる。
　やや遠くに石造りの塔が見えた。おそらくは監視塔であろう。崩れた建物や塀の陰を伝えばわずかであるが接近できそうだ。
　その時、耀はごくりと唾を飲み込んだ。緊張しているのであった。
　無理もない。此度の作戦は大きな意味をもつものであるのだから。大淫魔サイレーンを灼滅できるか否かはこの作戦にかかっているといってもよい。そして、その作戦の一翼を担っているのは耀であった。
　生きて何を為すか、死んで何を遺したか。普段、その命題を耀は大切にしているだが、この戦いこそは世界に耀という人間が『生きた証』を刻み付けるに違いなかった。
「私が先導します」
　フォルケが走り出した。猫族の身ごなしで物陰を伝い、接近。建物の陰に飛び込んだ。
　フォルケは双眼鏡を目にあてた。監視塔の様子を探る。
　フォルケが合図した。灼滅者たちが動き、フォルケと合流。何度かこれを繰り返し、やがて灼滅者たちは建物の陰に身を潜めた。
「これ以上の接近は無理のようだな」
　十七歳ほどの少女がいった。凍りついたような静かな声音。遠夜・葉織（儚む夜・d25856）という。
　彼女の指摘通り、物陰はここで途絶えていた。まだ監視塔には距離がある。
「そうですね」
　うなずいた翡翠であるが。監視塔を見つめる葉織の横顔を見つめ、訝しげに眉をひそめた。
　雪のように白い髪の下。謎めいた暗紫の瞳の眼差しは遠い。葉織は何を見つめているのか――いや、もしかすると何も見ていないのかも知れなかった。闇堕ちした家族を灼滅したあの日から。
「囮班に連絡しますね」
　携帯電話を取り出すと、配置についたと耀は告げた。了解しました、という声音は穏やかで深窓の令嬢もかくやと思わせるもの。耀が所属するクラブ先輩、神無月・佐祐理（硝子の森・d23696）の声であった。
「神無月先輩。あの……」
　耀は口ごもった。囮は危険な役目である。その役目を負った神無月のことが耀は心配でならなかったのだ。
　その耀の想いを読み取ったのだろう。佐祐理は安心させるように一笑に付した。
「大丈夫です。心配はいりません」
　通話を終えると、佐祐理は傍らの二人の少女にむかって花のように微笑みかけた。
「さあ。始めましょうか」

　フォルケは携帯を取り出した。通信相手はＣチームのあずさである。
「チームＢ。作戦開始。健闘を祈ります」
『了解よ。引き付けてくれてありがとう！　お互い頑張りましょうね！」
　あずさの声が響いた。

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「あーあ」
　少女が退屈そうに欠伸をもらした。
　地につくほど長い黒髪と輝く紅瞳をもつ可憐な美少女だ。
　他に二人の少女がいた。一人は金髪に蒼の瞳。モデル並の均整のとれた肢体の持ち主だ。
　もう一人は赤い髪に黒の瞳の持ち主。生意気そうな顔立ちをしていた。
　三者三様であるが、共通していることが二つあった。いずれもが息を飲むほどの美少女であることだ。
　彼女たちは淫魔であった。それぞれに名をキャロル、ジュリア、ローラという。
　キャロルにつられたか、ジュリアとローラも欠伸をもらした。
「退屈ね」
　ジュリアがいうと、ローラがうなずいた。
「灼滅者でもこないかな」
「来るわけないでしょ」
　ふんとキャロルが鼻を鳴らした。
「何人か上陸したみたいだけれど、沿岸警備の淫魔に阻止されたみたいだし。――うん？」
　キャロルは水鏡を覗き込んだ。

　監視塔に歩み寄る三つの人影があった。
　一人は十四歳ほど。混血であるのか、彫りの深い顔立ちの美少女であった。が、果たして人間であるのか、どうか。
　少女は輝くような裸身をさらしていた。たわわに実った乳房も、淡いピンク色の乳首も、股間の淡い翳りも隠そうとはしていない。そして桃のような真っ白な尻も――その尻の割れ目の上部辺りから異様なものが生えていた。尻尾である。さらに頭には獣耳まで備えていた。
　二人めであるが。これは少女よりもさらに異様で、かつ美しい姿の持ち主であった。
　上半身は裸だ。動くたび、砲弾のような乳房が揺れている。そして下半身。魚のようにヒレ状であった。その姿はまさに人魚――いや、翼をも備えているところから見てギリシャ神話に登場するセイレーンのようである。
　そして、最後の一人。これは獣耳の少女と同じ年頃であるのだが、まともであった。いや、美しさだけをとれば他の二人に決して負けてはいない。ただ、普通の人間のようであった。楚々とした風情の滲む肢体を水着で包んでおり、二人の美少女の後ろをふらふらと歩いている。
「サイレーン様」
　監視塔の近くまで行き着くと、全裸の美少女が叫んだ。
「私に力と若さを与えて下さいました、サイレーン様の宴……！　この身を華の一輪とするため、馳せ参じましたわ！」
　告げると、美少女は踊り始めた。身をよじり、激しく腰をくねらせる。乳房がぶるんと揺れ、尻がぷりんと震えた。もし見ている男がいたら息を飲まずにはいられない、それはあまりに淫らな踊りである。
「まだまだね」
　突如、声がした。はじかれたようにサイレーン様の娘が目をむける。
　彼女は見た。監視塔から舞い降りてきた三人の淫魔の姿を。

●
「迎えに来てあげたわよ。貴方たち、淫魔ね」
　キャロルが問うた。と、ローラがけらけらと笑った。
「闇堕ちしたばかりとはいえ、こいつら弱すぎ～～」
　ローラがいった。彼女の見るところ、少女たちの力量は下級のダークネス程度である。驚くべきことに彼女は相手の戦闘力をはかることができるのだった。
「貴方、名前は？」
　セイレーン様の娘に目をむけ、ジュリアが問うた。
「神無月・佐祐理です」
　新米淫魔らしく、娘――佐祐理はおずおずとこたえた。
「そう」
　うなずくと、次にジュリアは水着姿の少女にむかって名を問うた。
「……ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー（白と黒のはざまに揺蕩うもの・d33129）です」
　水着姿の少女――ウィルヘルミーナは微笑みながらこたえた。すると、すぐに佐祐理が付け加えた。
「彼女はサイレーン様への供物として連れてまいました」
「良くやったわね」
　口の端を吊り上げると、キャロルは残る少女に視線をむけた。
「で、貴方は――」
　さすがのキャロルが声を途切れさせた。
　彼女の眼前、大変なことが起こっている。踊って興奮してしまったのか、自らを慰めるため少女は股間に指を這わしていたのであった。
「……お姉さま」
　切なげに喘ぐと、少女はキャロルににじり寄り、その股間に顔をうずめた。ぴちゃぴちゃという淫靡な音が響く。
「……なんていうの、この娘？」
　瞳を輝かせ、ローラが問うた。やや呆れたように佐祐理がこたえる。
「ストレリチア・ミセリコルデ（白影疾駆の呑天狼・d04238）」
　そう。ストレリチアと佐祐理、ウィルヘルミーナの三人。彼女たちこそ残る三人の灼滅者であった。
「ああん」
　キャロルの口から甘い声がもれた。ローラが歯ぎしりする。
「先輩淫魔がおされてどうすんのよ」
「私たちは負けないんだから」
　ジュリアが佐祐理に飛びかかった。続いてローラがウィルヘルミーナにむかって。
　二人の淫魔が二人の灼滅者たちと肉体をからみあわせ、唇を奪った。恐ろしいほどの甘いキスである。脳が蕩けそうになるのを必死になって佐祐理とウィルヘルミーナはこらえた。
「このままじゃ……ああん」
　佐祐理は唇を噛んだ。このまま淫心にとらわれてしまうとどうなるかわからない。
　それはウィルヘルミーナも同じであった。快楽に抗う彼女の心に、別の声が呼びかける。もっと快楽を貪れと。
　三人の灼滅者が快楽の海に沈みかけた。その時だ。何かが空を疾った。

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　それは五つの人影であった。潜んでいた灼滅者である。
「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
「刃、心に忍ばせ」
　翡翠と耀の手に刀が現出した。翡翠のそれは彼女の背丈を超すほど巨大、そして肉厚な刃をもつ無骨な大刀であった。耀のそれは光散らす刃の日本刀だ。それを耀は暁と呼んでいる。
　豪風をまいて翡翠と耀は刀を薙ぎ下ろした。
「きゃあ」
　悲鳴をあげ、まるで子猫のように二人の淫魔が吹き飛んだ。が、刀はとまらない。勢いのままに打ち下ろし、二人は地を陥没させた。
「なっ」
　愕然とし、残るローラはウィルヘルミーナから唇をもぎはなし、跳んだ。いや、跳べない。その足にからみついているものがあった。
　影でできた触手。それはフォルケの影からのびていた。
「拘束完了」
「くっ」
　ローラが触手を引きちぎった。が――。
「遅いわ」
　明日等の手から帯が噴出した。空を裂く奔流。鉄槌にも似た一撃を腹に受けてローラは身を折った。
「悪いが、サイレーンに転移されると厄介だからな。お前たちにはここで灼滅されてもらう」
　するすると滑るように葉織がローラに迫った。はっとして顔を上げたローラの脚がはねあがる。
　葉織が身を沈めた。ローラの脚がその頭上を薙いで過ぎ、ちぎれた髪が空に舞う。
　刹那、葉織の目がぎらりと光った。いや、閃光はもう一つ。たばしる刃が放つ光だ。
　葉織が放った瞬速の一撃はまさに一刹那のうちにローラの胴薙ぎしていた。ローラが倒れた時、すでに葉織は何事もなかったかのように佇んでいる。
　ざくり。
　倒れたローラの首をフォルケが解体ナイフで切断した。飛び散る血を平然と受け、フォルケはうなずいた。
「撃破、完了」

　むくりとキャロルとジュリアは身を起こした。その眼前、立ちはだかったのは佐祐理とウィルヘルミーナだ。
「まさか貴方たちが敵とはね」
　キャロルが苦く笑った。すると佐祐理がニヤリと笑み返した。
「悪かったわね、騙して。でも私は仲間の無念を晴らすため、貴方たちを駆逐しなければならないのよ」
　瞬間、キャロルとジュリアが跳んだ。舞うように旋回、佐祐理とウィルヘルミーナに蹴りをぶち込んだ。
　跳び退ろうとして、すぐに佐祐理とウィルヘルミーナは諦めた。二人の淫魔の急襲はあまりに速い。
　咄嗟に二人は左腕プロックした。ベキリッと骨の砕ける異音がした。苦痛に顔を歪める佐祐理とウィルヘルミーナの頭部めがけ、今度は淫魔の回し蹴りが疾った。
　ギンッ。
　鋼と鋼が相搏つような響きを発し、二人の淫魔の脚がとまっていた。佐祐理とウィルヘルミーナの眼前にのばされた刀の刃で。翡翠と耀であった。
　瞬間、佐祐理の朱唇から神秘的な歌声が流れ出た。ジュリアがびくりと身を竦ませる。
　同じ時、ウィルヘルミーナは見えぬ刃を疾らせていた。神霊剣。その霊的刃は敵の肉体ではなく、魂そのものを斬ることが可能なのだった。袈裟に斬られたキャロルがよろける。
　その時だ。刀の刃が光をはねた。翡翠と耀が刀を薙ぎ上げたのである。さすがにたまらず二人の淫魔は吹き飛んだ。
　いや、空にあるうち、さらにジュリアの身ははじかれた。着弾の衝撃によって。
　バスターライフルのかまえを解いて、明日等はニッと笑った。
「もうこれで退屈しなくて済むよ」

　そしてキャロルは――。
　倒れた彼女の口を別の口が塞いだ。侵入した舌がキャロルの舌にからみつく。――ストレリチアだ。
「楽しませていただいたお礼に、一息に殺してさしあげますわ」
　ストレリチアの影が刃と変じ、キャロルの胸を貫いた。

　その後のことだ。Ｂチームの灼滅者たちはＣチームを助けるべく転移の儀式塔まで駆けつけた。するとフォルケから連絡を受けたＣチームの灼滅者たちが転移の儀式塔から姿をみせた。すでに彼女たちは儀式塔の中枢となっている巨大半魚人の撃破に成功していたのであった。
「心配して来てくれたんだね、ありがとっ☆」
　神崎・結月がいった。すると明日等が怒ったように、しかし頬を赤らめてふんと鼻を鳴らした。
「お、お礼なんていってほしくないんだからね」
「無事倒す、しました……よ、あとは、撤退するです、ね」
　ユエファ・レィがいった。うなずくＢチームの灼滅者たち。が、ここで問題が起こった。ウィルヘルミーナが都市に残り、サイレーンに降伏すると言い出したのだ。
「このまま帰ってもおそらく殲滅させる戦争になるでしょう。私はそれを望みません。ここに残りサイレーンと話し合いしてみたいと思います」
　ウィルヘルミーナはいった。無論他の灼滅者たちは慌てた。その想いはわかるが、しかし仲間をおいておくことなどできるはずがなかった。
　そして――。
　灼滅者たちは去った。ウィルヘルミーナもまた。かくして伝説の戦いは終を告げたのであった。

作者：紫村雪乃	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年6月17日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 1／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 8
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