サイレーンの儀式塔～東塔を攻略せよ

■リプレイ

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　潮風に髪が揺れ、一橋・聖（空っぽの仮面・d02156）が見つめるのは先行する仲間達。
「ご武運を……」
　山田・透流（自称雷神の生まれ変わり・d17836）もまた見送り、大淫魔・サイレーンが浮上させた海上都市へと瞳を向けた。
　それは大淫魔・サイレーンが持ついくつかの海上都市のひとつ。
　サイキック・リベレイターによる作戦が本格的になってきており、この戦いはサイレーンとの戦いに向けて重要な戦いとなるだろう。
「確実に成功しなくては」
「そうね、ここで失敗する訳にはいかないわ」
　秋篠・誠士郎（夜蒼鬼・d00236）に水月・鏡花（鏡写しの双月・d00750）は頷きちらりと見れば、比良坂・柩（がしゃどくろ・d27049）が儀式塔攻略へ向かうＣチームの連絡担当と打ち合わせをしていた。
　今回の作戦は先行して上陸支援に戦うＡチーム、儀式塔を監視する監視塔の襲撃を行うＢチーム、そして儀式塔を攻略するＣチームが協力し連携する必要がある。
「淫魔のお姉さんのオッパイ、ヒャッホイでござる！　っと行かぬのが残念でござるが、大淫魔へ辿り着く重要な一手でござる。必ず作戦は成功させるでござるよ、ニンニン！」
　赤いマフラーをなびかせ、ハリー・クリントン（ニンジャヒーロー・d18314）は言いながらマフラーをぐいと上げる。
　しかも、サイレーンが浮上させた海上都市に存在する儀式塔は東西南北に４つあり、それらを全て攻略しなければならないのだ。
　一つでも失敗すれば、それはすなわちサイレーンを逃す事になる。
「……サイレーン灼滅の……下準備……必ず……成功させるの……」
　アリス・ドール（断罪の人形姫・d32721）の言葉は、この作戦に参加する全ての者達の願い。
「ボク達も頑張ろう！」
　カーリー・エルミール（元気歌姫・d34266）の声に仲間達が頷けば、Ａチームが戦闘開始の一報が入り、上陸の為にチームは動き出す。
　Ａチームの健闘もあり、敵と遭遇する事なく海上都市へと上陸を果たした。
　
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「あれが監視塔でござるか」
　ハリーの声に仲間達も見れば、監視塔は良く見えた。
　仲間達と共に近くまでやって来た鏡花は猫へと姿を変え、水鏡に映らぬよう監視塔へと近づけば、入口には誰も立っていない。やはり説明で聞いていた通り、見張りはかなりだらけているようだ。
　そんな様子を目に聖は通話状態にした携帯電話をポケットに忍ばせ、
「それでは、頑張るでござるよ」
　変装の準備を完了させたハリーと行動を開始する。
　手負いの淫魔を装う聖と共に、手負いの灼滅者を装ったハリーを見守る透流は監視に気付かせる為に拾った石を投げつけ、待つことしばし。
「……何の音？」
　言いながら出てきたのは１体の淫魔。
　ふらふらとやって来るハリーと聖を目にした淫魔は黒い髪を払い、じっと見据え眉をひそめた。
「だ、ダークネスでござる！　逃げるでござるよ！！」
　ずぶ濡れでボロボロ、しかも破れた服の隙間からセクシーな筋肉がチラ見えのハリーは慌てて逃走する振りをし、淫魔を誘き出そうと仲間達の元へ戻ろうとする。
　だが、その背に放たれたのは、鋭い言葉。
「ダークネスだと……？　待てお前、何者だ！」
　その声にひょこりと緑髪、青髪の淫魔も中から出てきた。
「どうしたの？」
「私達ダークネスを怖がる手負いの者がいた。ずぶ濡れでボロボロという事は、海で戦ったのだろう」
「ボロボロ？　フツーの人間なら海で魚類融合型淫魔に殺されちゃうし……」
　黒髪淫魔の声に二人ははっとする。
「まさか、灼滅者？」
「灼滅者がどうして、この海域を突破して水上都市に？！」
「あ、あの～」
　険しい表情の淫魔達に聖は声をかけるが、その反応は厳しい。
「お前、怪我をしているのか？　……まさかあの灼滅者に襲われたのか？！」
　構える得物と共に鋭い瞳で睨まれる聖を目に物陰に隠れる鏡花はぎゅっと魔導槍を握り締めた。
「お前は中で待機していろ」
　万が一の事を考えてだろう。黒髪淫魔の鋭い声に青髪淫魔は頷き監視塔の中へと入ってしまった。
　監視塔からだらけた見張りを誘き出そうとしたのだが、どうやら警戒されてしまったようだ。
「囮作戦は失敗みたいだね」
　雲行き怪しい様子に待機するカーリーは言い、
「……作戦変更……強襲……」
「こちらＢチーム、誘い出し作戦は失敗。これから監視塔への強襲を行う。そちらも動いてくれ」
　絶刀を構えたアリスに鏡花は頷き、柩は通信機を手に情報を伝えれば、
「わかりました。お気をつけて」
　Ｃチームからの応答が返ってくる。
「上陸支援をしてくれたみんなが繋いでくれたバトン……儀式塔を破壊する人たちに、ちゃんと渡さなくっちゃ」
　これからの自分達の行動はＣチーム、そして作戦に参加する全てのチームにとって重要になるだろう。
　呟く透流は真摯な眼差しを監視塔、そして聖へと向ければ、作戦変更を知った聖はビハインド・ソウルペテルへ瞳を向け、
「ソウルペテルちゃん！」
　LED式の電光交通標識を構える聖の声に応じるソウルペテルと共に一撃が炸裂！
「何をする！」
「っ？！　敵襲だ！」
　声を上げる淫魔は構える武器を聖へと振り上げ――、
「いくぞ、花」
　がきん！
　きゃんと高く鳴き応える霊犬・花と共に誠士郎は地を駆け、縛霊手と淫魔の獲物が火花を散らす。そして反撃とばかりにエアシューズで黒髪淫魔へと蹴りと放ち、
「鏡花！」
「撃ち抜け、蒼雷っ！　――Blitz Urteils！」
　迸る魔力で雷を帯びた鏡花のミサイルが放たれる。
「あなた達を倒す！」
「灼滅者ごときが生意気な！」
　透流の拳が胴を打ち、
「いくでござるよ！」
　ハリーの落花生ガトリングが放たれると、黒髪淫魔は痛みに顔をしかめた。
「ドール、今だよ」
「……引き裂く……」
　構えなおす淫魔へと駆け放つ一撃はざくりと淫魔の腕を裂けば、柩は生じた隙を見逃さない。続くアリスの絶刀が閃き放たれる幻狼銀爪撃をも避けきれず、二人の攻撃に淫魔は血を流す。
「ボクもいくよ！」
　ぎり、と弓を引きカーリーは弓を放つもひらりと避け、
「ダークネスを甘く見るなよ灼滅者！」
「じゃあこれはどう！」
　誠士郎の傷を癒した聖の指示に動くソウルペテルの攻撃をもダークネスは捌き、攻撃に移る。
（「手強い相手ね」）
　戦いの中、槍を振るい妖冷弾を放つ鏡花は内心で呟いた。
　監視塔内部への突入を幾度か試みているが、警戒する淫魔の攻撃に阻まれ続けている。それは透流も同じ思いをしており、強行突破さえも叶わない。
「ありがとう」
「一番は、命を大事にだからね」
　カーリーの癒しによって傷が塞がり、痛みが引いていく。礼を言い誠士郎は柴犬と共に前を向けば、淫魔は透流とハリーの攻撃を捌いていた。
「さあ、大人しくボクが『癒し』を得るための糧となってくれたまえ」
「誰がお前の糧になるか！」
　柩の攻撃を避けようとする黒髪淫魔だが、狙い定めた一撃は足を貫いた。
「ぐあっ！」
「大丈夫？」
　あまりの痛さにと出血に膝を突く黒髪淫魔に緑髪淫魔は声をかけるが、顔を歪めるその背に迫るのはアリス。
「……斬り裂く……」
　ざぐん！
「もう一回いくよ！」
　カーリーの攻撃は淫魔達に降り注ぎ、ふらりとよろめいた。
　そして、戦いの中でダークネスは自分達の劣勢を悟り、儀式塔を監視するという自分達が与えられた任務を遂行する。
「駄目だ、このままじゃ押し切られる！」
「警報を鳴らせ！」
　切り裂かれ、血を流し傷だらけの淫魔達は声を張り上げた。
　鳴らされる事は監視塔を制圧する作戦の失敗を意味する。そして同時に増援が監視塔だけでなく儀式塔まで押し寄せるという、最悪の事態を招く事になる。
　警報を鳴らせてはいけない。阻止せねば！
「まずい！」
「させないわ！」
　誠士郎と鏡花は叫ぶび動くが間に合わない。
　その行動を防ごうと灼滅者達は行動するが、それもまたダークネスに防がれ、監視塔への侵入はできず――、
　けたたましい音が、響く。
　
●
　耳を塞いでも響くその音を聞きつけたのか、被虐要塞を任されている淫魔、被虐のルサルカが増援を率いて駆けつけてきた。
　やってきた、淫魔ルサルカは、
「敵襲ね？」
　と、胸を揺らして監視塔の淫魔に問いかける。
「はい、灼滅者です」
「一人残さず片付けてください！」
「はいはーい、お任せあれっ♪」
　ぽよーんと胸を揺らしてびしっと指さした。
「さあお前達、サイレーン様にイイトコ見せるチャンスよ！」
　まずい。このままでは増援に取り囲まれてしまう！
「貴方達の襲撃は元より全てお見通し。ふふふ……」
「ギョギョッ」
「う、嘘じゃないし！　この淫蕩なる性の化身たる私は、類まれなる洞察力を……」
「ギョギョ、ギョギョギョギョ？」
「ギョ、ギョギョ？　ギョギョ～？」
「……だから、この淫蕩なる性の化身たる私がそんな訳ないでしょ！」
　半魚人達から何やら突っ込まれたルサルカのやり取りで生じる大きな隙を灼滅者達は見逃さなかった。
「……撤退を……」
　絶刀を手にするアリスは猫のようにしなやかに動けば、仲間達は逸れに続き、
「だいたいねえ……って逃げた！　追うわよ！」
　目の前からいなくなってからルサルカは声を張り上げる。
「こっちでござるよ！」
「早くしないとおいてくよー」
　駆けだすハリーとカーリーが声を上げれば半魚人を率いてルサルカも追いかけてきた。どうやら監視塔の見張りは自分達の役割もあり、追いかけては来ないようだ。
「……こっちよ……ついてきて……」
　アリスの後を追い、魔導槍を構え鏡花もまた声を上げた。
「私達を捕まえたければ、早く追ってきなさい！」
　木々の間を駆け抜け、ちらりと見れば増援があちこちからやって来る。そっとポケットの携帯に触れ、聖も駆ける。
　増援を引き付け監視塔から離れつつあるが、警報の音はしっかりと聞えてくる。恐らく儀式塔にもそれは響いているだろう。
　そして、Ｃチームは警報鳴り響く今も撤退する事なく覚悟と共に戦い続けている筈だ。
　――だから。
「増援はボク達が何とかする、頼んだよ」
　連携していることを悟られないよう、言動や行動に気を配る柩は手にする無線へそれだけ伝えて回線を切り、Ｃチームが任務を遂行する事を願う。
　
　警報が鳴ってからしばらくの時間が経ち、灼滅者達は儀式塔へ増援が向かないよう一定の距離を保ちながら移動を続けていた。
「類まれなるナントカを持っているなら簡単に捕まえられる筈じゃない？」
「もっと仲間を呼んだほうがいいんじゃないのか？」
「う、うるさいわねっ！」
　鏡花へと向いた攻撃を防ぐ誠士郎の声にルサルカは声を上げる。
「あんた達、もうちょっとヤる気出しなさいよ！」
「ギョギョ！　ギョギョッ！」
　少し戦っては逃げられ、ぴたりと止まって戦ったかと思えば大きな音を立て派手に逃げていく。そんな事を繰り返されたルサルカは苛立ちを隠せないでいた。
「――Blitz Urteils！」
「もう！　うざったいわね！」
　鏡花が放つミサイルをばしんと弾くルサルカはぐるりと見渡し、
「ホラ、さっさと捕まえちゃいなさいよ！」
　その指示に半魚人達が飛び掛る！
「アリスさん、そろそろ」
「……そうね……」
　護符を放つ透流だが、そろそろ頃合だろう。木々を利用し戦っていたアリスはこくりと頷くと、再び駆け出した。
「ほらほら、こっちこっち！」
「遅いわよ」
　透流と鏡花は声を上げ、見れば増援はいつの間にか最初より倍の数になっている。
「それにしても、かなりの増援を引きつけたでござるな」
　スカーフをなびかせハリーも見れば、目立つよう動いている事もありってか、駆けるこの道中にも半魚人の数は徐々に増えていた。
　引きつけた増援は増え続けている。しかも、上陸時とは違う経路で撤退する以上は海上にも敵はいるだろう。
　全力で戦ったＡチームからの援護はない。それは打ち合わせの時点で聞いていた。
「大丈夫、全員で帰ろう」
「そうだね、全員で」
　仲間達の傷を癒す聖とカーリーは言葉を交わし、撤退を先導するアリスも無言で頷いた。
「もうひとがんばりだ、花」
　共に戦う人懐っこい花へと誠士郎は声をかけ、
「どんな手段を使ってでも、ボク達は……」
　無線機を手に柩は呟き、攻撃する。
　
　戦い、逃げ。
　増援を引きつけ続けた灼滅者達は、遂に海岸までたどり着く。
　
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　波音を背に、灼滅者達を取り囲むのは１００を超す増援。
「ふふん、よくもちょこまか逃げ回ってくれたわね」
　ばさりと髪を振り払い、ルサルカは豊かな胸を揺らしながら半魚人達へと声を上げる。
「サイレーン様に歯向かう灼滅者はここでイッちゃいなさい！」
「させるか！」
　大切な花を失いつつも仲間達へ向かう攻撃を防ぎ続けた誠士郎だが、既に限界が近く――いや、もう限界だった。
「まだ……俺、は……」
「誠士郎さん！」
　だらりと下がる腕から血が流れ、膝をつく誠士郎。その姿にカーリーは回復を図るも間に合わない。
「目障りなそのコもイカせておやり！」
「ギョギョ！　ギョギョギョ！」
「ギョギョギョ～！！」
「……ぐ、っ！」
「カーリー！」
　防ぎきれぬ攻撃に倒れたカーリーの前に立った鏡花はちらりと海へと視線を巡らせ、頬を伝う血を拭う透流も見れば、それはこちらの様子を伺っている。
　海面から微かに見えるのは、敵の頭。
　ここはＡチームが上陸支援に戦っていた場所ではない。Ｃチームの脱出の妨げにならぬようやって来たのは、脱出路とは違う場所。
　海に飛び込めば、魚類融合型淫魔との戦いが待ち受けており、強行突破しようものなら戦いの中で増援に追いつかれてしまうだろう。
「ギョギョギョ！　ギョギョギョ！」
「なに言ってるの？　ナマイキな灼滅者はミナゴロシよ！」
「ギョギョッ！　ギョギョ～！！」
　ルサルカ率いる敵増援に囲まれ、背後には魚類融合型淫魔。
　ここまでか。
　いや……まだだ。
「……今度こそ、拙者が囮になるでござるよ」
　決意の瞳と共にハリーは前に出るが、それを柩が遮った。
「ここはボクが引き受ける」
　意識を失う寸前、かすむ誠士郎の目に飛び込むのは被るフードを外し、潮風になびく柩の銀髪。
　そして――ざん！
　放つ一撃は取り囲む増援達をなぎ払う。
「無事に皆と撤退を……頼んだよ」
「柩さん！」
「柩ちゃん！」
　声を上げる透流と聖だが、アリスへ通信機を渡したその姿はあっという間大軍の中へ。
「……柩……わかったわ……」
　仲間達を逃がす為に最後の手段を使った柩の行為を無駄にする訳にはいかない。
　託された通信機をぎゅっと握り、アリスは海へ入ると仲間達もそれに続いた。
　
　一人欠け、灼滅者達は響く警報を背に戦い泳ぐ。
　儀式塔は無事に破壊できただろうか？　警報によって妨害はされていないだろうか？
　そして上陸を支援してくれた仲間達は――。
　今はそれを考える余裕もない。
　灼滅者達はただひたすらに、作戦を共にした仲間達と戻っていくのであった。

作者：カンナミユ	重傷：秋篠・誠士郎（夜蒼鬼・d00236）  死亡：なし 闇堕ち：比良坂・柩（がしゃどくろ・d27049）
種類： 公開：2016年6月17日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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