世界平和の為に伊勢海老を強奪せよ

    作者:魂蛙

    ●強盗などではない
    「お集まりいただき、ありがとうございます」
     三重県内にあるデパートの入り口付近で、火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)は集まった灼滅者達に一礼する。
    「三重県のご当地怪人が何やら不穏な活動をしているようで調査した所、ロブスパイカーという伊勢海老怪人が伊勢海老の買い占めを行っているらしい事が分かりました。ロブスパイカーは伊勢海老を大量購入する為にこちらのデパートに現れる筈です。奇襲を仕掛け、ロブスパイカーを灼滅しましょう」
     組織立った活動ではなく、ロブスパイカー個人の活動のようだ。大きな事件の前触れである可能性は低そうだが、放置しておいてもロクな事はしでかすかすまい。
    「きっとご当地パワーを集めて、何やかんやで世界を征服するつもりなのでしょう。いつものように」
     どうせいつもの事である。

    「入店前に攻撃を仕掛けると逃走される可能性があり、デパート内で戦闘を仕掛けると周囲の一般人の方々を巻き込んでしまう危険性があります。周囲の被害を抑えつつロブスパイカーの逃走を防止する為、ロブスパイカーが伊勢海老を購入するのを待ってからその伊勢海老を奪って逃走、ロブスパイカーをデパートの外まで誘き出しましょう」
     デパートに金銭的な損害を出させない事を考えても、やはり購入直後を狙うのが望ましい。
    「ロブスパイカーは伊勢海老の購入時、配下を連れて複数の台車を持ち込んでいます。伊勢海老は発泡スチロール製のケースに1尾ずつで、保冷材込みの重さは1キログラム程度、台車1つあたり最大20ケース程乗ると思います。確認できた限り台車は多くて3台、強化一般人らしき配下は5人です」
     最低でも1つ奪えればいい。勿論、全部奪ってもいい。
    「奪取の際、デパートの外に誘き出すまでは反撃の危険があるので、サイキックによる攻撃を行わないようにしてください。ロブスパイカー達は伊勢海老の奪還を最優先にするので、万が一逃走中に捕まっても、伊勢海老を放棄すれば隙を突いて逃げる事は難しくないでしょう」
     デパートは西側国道沿いに正面口を含む3つの入り口があり、反対の東側には駐輪場や駐車場に繋がる裏口もある。フロア中央やや南寄りにエスカレーター、その向こう南端に階段、ほぼ反対の中央北端にエレベーターがあり、これらで食品売り場の地下1階とを行き来することになる。
     伊勢海老が売られる鮮魚売り場は東側にあり、階段、エスカレーター、エレベーターのどれを使ってもほぼ等距離の最奥に位置する。更に東側には南北の角に位置する場所にそれぞれ非常口があり、これらも奪取後の逃走ルートの候補に加えられるだろう。
    「ロブスパイカー達の戦闘力ですが、ロブスパイカーの使用するサイキックはご当地ヒーローや断斬鋏のサイキックとの類似性が多くみられ、配下は海老の甲羅を模した縛霊手のような武器を使う事が確認できました。防御に優れるロブスパイカーが自ら盾となり、配下達が支援や妨害を担当する、という布陣で戦うと考えられます」
     配下の強化の度合いは浅く、ロブスパイカーを灼滅できれば元の一般人に戻れる可能性が高そうだ。

    「伊勢海老を手に入れ……もとい」
     明が1つ咳払いしてから、改めて一礼する。
    「ロブスパイカーの野望を挫く為に、皆さんのお力をお貸しください」
     そう、これはご当地怪人の世界征服を阻止する為の戦いなのだ。
    「……まぁ、持ち主のいなくなった伊勢海老は勿体ないですし、有難く頂戴してもいいでしょう」
     断じて強盗などではない。


    参加者
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)
    化野・十四行(徒人・d21790)
    天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)
    宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)
    穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)

    ■リプレイ


    「こちら天枷。誘導を開始するわ」
     天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)の声が、宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)の持ち込んだ無線機を通じて、伊勢海老を買い占めるご当地怪人ロブスパイカーを見張っていた灼滅者達に届く。
     プラチナチケットで警備室に侵入した雪は監視カメラを管理するモニターの前に立ち、手元のデスクにデパートの見取り図を広げる。
    「では、手筈通りに……でいいでしょうか?」
     火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)の問いに、雪はモニター上の複数の映像に目を走らせながら頷く。
    「現状、確認できる配下は台車を持っている3人だけ。距離的にも非常口から脱出するのがベストだと思うわ」
    「んじゃ、俺も戦場確保に移るとしようか」
     雪に続いて無線機から聞こえてきたのは、デパートの非常口に面した裏路地で待機する化野・十四行(徒人・d21790)の声だ。十四行は既に戦場の候補に当たりをつけていた。
    「非常口を出たら右に曲がってすぐだ。川沿いの路上になるが、広さは充分だろ」
     元々交通量は少ないが、十四行が殺界形成を使えば充分戦場として使えるだろう。
    「了解しました。では、始めましょう」
     明が頷き、灼滅者達が動き出す。
     穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)、秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)、陽坐はフロアを迂回して、ロブスパイカー達の背後に回り込んだ。明は今まさに支払いを済ませようとしているロブスパイカーに接触を図る。
    「随分とたくさん買いましたね。伊勢海老ですか?」
     懐から札束の入り封筒を取り出したロブスパイカーが振り返る。その金を稼いだロブスパイカーの努力を、調査の過程で垣間見てきた明はちょっぴり胸が痛むが、これも世界平和の為である。
    「伊勢海老がお目当てか? すまんな。この店の伊勢海老は買い占めさせてもらった。これも世界征服の為、ひいては三重と伊勢海老の為なのだ……!」
     明はいえいえ、と首を振りつつ、
    「伊勢海老おいしいですよね。同じ伊勢海老好き同士、手伝いますよ」
     台車の取手に手を掛け、さりげなくロブスパイカーから遠ざける。
    「有難い申し出だが、それには及ばん。ご覧の通り、俺には同志がいるのでな」
     ロブスパイカーが紹介すると、配下達が台車の傍を離れて並んだ。
    「今よ!」
     雪の合図で、清美達3人が一斉に飛び出した。3人は3つの台車にそれぞれ飛びつき、猛ダッシュでその場から走り去る。
    「ど、泥棒ーっ!」
     ロブスパイカーの叫びもむべなるかな。
     清美はある程度距離を取ったところで振り返り、ロブスパイカーを挑発する。
    「私は秘密結社ゴムゴムの者です。この伊勢エビはもらいます」
    「これは、私達がいただきました。返して欲しかったらついてきてください」
     後退して清美達との間を阻む様に立った明の言葉で、謀られたと知ったロブスパイカーが怒りの声を上げ、それから札束を店員に押し付ける。
    「奴らを捕まえろ! 受け取れ、釣りはいらん!」
     男前である。


     陽坐と白雪はアイテムポケットに伊勢海老の箱を詰め終わっている。
    「エレベーター付近から2人近付いている、恐らく配下よ。南側に怪しい動きをする者はいないわ」
     雪はモニターに目を走らせつつ指示を出す。
    「サム、周りの手下に気をつけて下さい」
     清美がスレイヤーカードからナノナノのサムを呼び出すと、白雪もライドキャリバーのクトゥグァを出現させた。白雪はクトゥグァに乗ると、威嚇するようにアクセルを吹かす。
    「どいた、どいた! 海老の王様のお通りだ!」
     人々が道を開けるように下がると、白雪は清美達とは逆方向へクトゥグァを発進させた。
    「穂村、追手が右から来ている。正面は人が多いから――」
    「――問題ねえ!」
     雪の警告を遮った白雪は、人混みに向かってクトゥグァを加速させる。曲がり角から配下が飛び掛かってきた瞬間、白雪がクトゥグァのハンドルを引き上げた。
    「人のいない所を――」
     配下を躱しジャンプしたクトゥグァがショーケースに着地する。
    「――走るまでだ!」
     白雪はそのまま疾走、ショーケースの切れ目で再び跳んで人混みの頭上を越えた。着地からドリフトでターンすれば、後は非常口まで一直線だ。
     雪は白雪の荒業に驚きつつも、すぐに3人で行動する明達に指示を飛ばす。
    「エレベーターの2人が二手に分かれたわ。1人は売り場の向こうから回り込んで、挟み撃ちにするつもりよ。迂回している余裕はないわ。包囲される前に突破して!」
    「分かりました!」
     頷いた明は後ろを振り返り、手近に積み重ねられた買い物カゴを引き倒した。散乱するカゴが追手の足を止める間に、3人は北東の非常口へ急ぐ。
     非常口に繋がる階段まであと数メートルというところで、回り込んでいた配下が追いつく。と、すかさず陽坐がアイテムポケットに入れず抱えていた箱をその場に置いた。
     一瞬迷った配下だったが、箱を選んで回収する。すぐさま顔を上げた配下の視界を埋め尽くしたのは、サムのまるいお腹だった。
     サムが足止めする間に、清美達は階段までたどり着く。
    「階段ですけど、手伝いますか?」
    「大丈夫です」
     明に首を横に振る清美は、心配無用とばかりに発動している怪力無双で積まれた箱ごと台車を持ち上げるのだった。
     外に飛び出した明達に、十四行が咎人の大鎌の苅豆を振りつつ声を上げる。
    「おーい、こっちだこっち!」
     十四行の傍らには先にデパートを脱出した白雪もいる。明達が向かってくるのを確かめ、十四行は無線機で雪に呼び掛けた。
    「あとは天枷、お前さんだけだ」
    「了解したわ。すぐに合流する」
     明達を追ってロブスパイカー達も外に出てきた。
    「ここまで来れば大丈夫ですね。あなた達の野望はここまでです」
     十四行と合流した清美達と対峙し、人の姿を取っていたロブスパイカーが二足歩行の海老とも、赤い甲冑を着込んだ武者ともつかない怪人本来の姿を現した。
    「物盗り風情が偉そうに! バラバラにして、フィロソーマのエサにしてくれる!」
     かくして、灼滅者達は伊勢海老一本釣りに成功した。


     海老にも見える腕鎧を装備した配下が、ロブスパイカーの背後からばらばらと散開する。
    「うっ、こんなに配下がいるなんて」
    「なぁに、頭数じゃ負けちゃいない。怯むこたないさ」
     身構える陽坐の隣で、自分のペースを崩さない十四行は苅豆を肩に乗せる。
    「世迷言を。こちらは6人、貴様らは5人ではないか!」
     直後、閃光が走る。
     ロブスパイカー達の背後より飛来したそれは足元で炸裂し、雷撃を撒き散らす。
    「6人目なら、ここにいるわよ」
     ロブスパイカーの背後に立つ雪が構えたマテリアルロッドの落涙が、放った電撃の余波と硝煙にも似た蒸気を纏いながら空薬莢を排出した。
    「ほら、な?」
    「ええい、力で勝るのは我々だ!」
     怒るロブスパイカー。してやったりの十四行。
    「おまえの分のごちそうだ。存分に食って、暴れろ」
     白雪がクルセイドソードの猟犬ロイガーで腕に傷を入れ、流れ出るファイアブラッドの燃える血を吸ったクトゥグァが回転数を上げたエンジンで吠える。
    「伊勢海老の前におまえを料理してやるよ。もっとも、消し炭になるから食えたもんじゃねえだろうがな」
     炎熱に歪む空気を破り、白雪を乗せたクトゥグァが飛び出す。最高速からシートを蹴り跳んだ白雪が振り下ろす猟犬ロイガーの一撃を、ロブスパイカーは開いた鋏で真っ向から受け止めた。
     同時に配下達が動き出す。が、その時既に明の仕掛けは始まっていた。
    「できる限り広範囲を……」
     明が右手をかざすと、配下達の周囲の空気が急速に冷えていく。明は冷却の中枢、魔力の収束点を配下達の中心に重ね、かざした右手を引き込みながら握り締める。
    「そこです!」
     瞬間、熱を無に帰す極低温が配下達を纏めて凍結させた。
    「先ずは回復役から潰します」
     清美がクロスグレイブを地面に突き立てやや仰角に構え、同時にサムが飛び上がりしゃぼん玉を吹き付ける。クロスグレイブが十字架先端へウェーブを起こすように全砲門を展開、光線を斉射した。
     上空へ伸びる無数の光線が放物線を描く。しゃぼん玉の群れが着弾、直後に光線が敵陣を焼き払った。
     混乱する敵中に陽坐が飛び込む。踏み込み繰り出す右ストレートを配下が腕鎧で受けた瞬間、陽坐の右手の契約の指輪が発光、ペトロカースを発動した。
     鎧の装甲が、石化魔法に侵食されていく。
    「できればあんまり動かないでくださいっ」
     たたらを踏んだ配下に陽坐の廻し蹴りを叩き込み、石化した腕鎧を粉砕した。
     白雪と斬り結んでいたロブスパイカーが鋏を打ち鳴らすと、鋏を覆う棘がヤマアラシさながらに伸びる。鋏を振り回して白雪を弾き飛ばしたロブスパイカーは、反転して陽坐に襲いかかった。
     鋏の不意打ちを受けた陽坐が後退る。追撃せんと突進するロブスパイカーに、十四行が投げた苅豆が直撃した。
     跳躍した十四行は跳ね返る苅豆を空中で掴み、そのまま飛び掛かり様に苅豆を振り下ろしてロブパイカーを追い払う。振り返った十四行の防護符が、切り裂かれた陽坐の傷を覆い塞いだ。
     雪が右半身を戒める包帯状のダイダロスベルト、天枷を解き放つ。天枷は空を切り裂きながら飛翔し、配下の胸を直撃して吹っ飛ばした。
     清美が右手の縛霊手を地面に押し当てる。縛霊手が展開した祭壇から光を走らせ地面に霊力を打ち込んだ直後、地面を突き破った光の柱が配下達を囲む結界を形成した。
     同時に飛び込んだ明が銀の剣を横薙ぎに振り抜き、身動きを封じられた配下を斬り捨てた。
     続いて十四行が突入、振り下ろす苅豆を配下に突き刺し、そのままフルスイングで配下を上空へ打ち上げる。
    「ほれ、オマケだ!」
     十四行が真上へ放り投げた苅豆を、七不思議奇譚が生み出したボロ布を纏った人影がキャッチする。人影は一直線に配下に襲い掛かり、苅豆を振り下ろして配下を地面に叩き付けた。
     配下を一掃されたロブスパイカーは、激昂しつつ鋏を十四行に向けて突き出す。開いた鋏から放つ光線で十四行を狙うが、そこに割って入ったクトゥグァが光線を受け止めた。
    「なるほど、良いバイクだ」
     十四行は称賛の言葉をそのまま七不思議の言霊に繋げ、仲間達を癒した。
     飛び掛かる白雪を迎え撃つロブスパイカーの鋏の棘が頬を掠める。白雪は頬を伝う熱に寧ろ口角を吊り上げ犬歯を見せ、チェーンソー剣の狂犬ツァールのスターターを引いて唸らせた。
     白雪の打ち込みをロブスパイカーは右の鋏で受け、左の鋏を突き出す。これを白雪は猟犬ロイガーで打ち落とす。白雪は踏み込みつつ旋転、狂犬ツァールと猟犬ロイガーの横薙ぎを立て続けに叩き込んだ!
     後退るロブスパイカーに陽坐が飛び掛かる。が、ロブスパイカーは踏ん張り堪え、陽坐の両腕を鋏で掴んで捕獲した。
    「貴様らに伊勢海老をくれてやるわけには……!」
    「俺にはあなたを止める事しかできません」
     ロブスパイカーの目を真っ直ぐに見据えた陽坐が、その顎を蹴り上げる。
    「……だからせめて、伊勢海老のPRを約束します!」
     鋏が緩んだ隙に脱出した陽坐は、体をくの字に曲げたロブスパイカーの頭を両脚で挟むようにロック、そのまま覆いかぶさりつつロブスパイカーの股に両腕を通し、相手の腕を交差させるように掴んでクラッチする。
     陽坐は上から包む様に固めたロブスパイカーを抱え上げ様に高く跳躍し、落下の勢いそのままロブスパイカーを地面目掛けて――、
    「伊勢海老、いただきます!!!」
     ――叩き付けた!
    「畳み掛ける!」
     雪が己の首筋に注射器が刺す。薬液の注入に震えた雪の右肩から手先まで氷結が走るように結晶化した。
     陽坐と入れ代わり飛び出した雪が落涙を振り上げると、杖でありながら砲に近い機構を備える魔導カノンのチャンバーに、魔力を弾頭とする弾が装填される。落涙は振り抜く一撃毎に排莢、次弾装填しながら魔力を炸裂させ、ロブスパイカーを打ち上げる。
     落ちるロブスパイカーを見据え、雪は落涙を大上段に構えた。
    「撃ち砕け」
     振り下ろした落涙のインパクトの瞬間、集束した魔力の爆裂がロブスパイカーをブッ飛ばした!
     ロブスパイカーは、尚も執念深く立ち上がる。
    「火土金水さん!」
    「いけます!」
     清美が担ぐように構えたクロスグレイブが炎を纏う。その先端に明が飛び乗ると、クロスグレイブを包む炎が明のエアシューズに宿る。
    『これで終わりです!』
     清美が渾身の力でクロスグレイブを振り抜き、カタパルトの要領で飛び出した明が蹴り足を突き出す。炎の弾丸と化した明の飛び蹴りが、ロブスパイカーを――、
    「あの伊勢海老、粗末にしたら許さんぞ……!」
     ――ブチ貫いた!!
     爆散するロブスパイカー。黒煙を見上げ、陽坐が呟くのだった。
    「約束します。必ず……!」


    「どうぞ、食べてみてください」
     明がデパートの入り口前で通行人に配っているのは、ロブスパイカーより譲り受けた伊勢海老を餡に使った蒸し餃子だ。
     灼滅者達はデパートの正面口前に戻り、餃子の試食会を開いていた。清美の姿がないのは、その生真面目さ故に、譲り受けたのだと己を誤魔化せず辞退した為である。
     つい先ほど大立ち回りをしたデパートに戻る大胆な行動がまかり通っているのは、ロブスパイカーが消えた事に加えて、バベルの鎖と十四行の殺界形成による灼滅者の情報不足、雪のプラチナチケット等が絶妙な相乗効果を生み出した結果の奇跡と言っていい。
     調理の中心である陽坐の指示の下、次々と海老餃子が作られていく。
     ちなみに、伊勢海老の箱の3分の1は空であった。ロブスパイカーが購入時に店員に何やら注文をつけていたが、このダミーの為だったらしい。根こそぎ譲り受けた灼滅者達には関係なかったが。
    「火力はこんなもんか」
     それでも伊勢海老40匹分だ。お土産の分を差し引いても陽坐の持ち込みの調理器具だけでは足りず、白雪のクリエイトファイアまで使ってのフル回転である。
    「まぁ、たまにはこういうのもいいか」
     滅多になさそうな炎血の使い道に、白雪は神妙な顔をしつつも火力調整に集中する。
    「割り箸買ってきたぞ。他に何すりゃいい? できるだけ単純な作業で頼むわ」
     デパートで足りない物の買い出しをしてきた十四行が、冗談めかして笑う。
    「こっちの餃子、蒸し上がったわ」
    「でしたら、そろそろ気付く頃でしょうし元配下の人達にお裾分けしてきてもらっていいですか?」
     陽坐の頼みに頷いた雪が、意識を失い駐車場に寝かされている元配下達の元へ向かう。
     陽坐は蒸し上がった餃子を見つめる。
     もちっと艶のある皮は、餡の薄紅色を透かす。立ち上る湯気に乗って、海老の旨味がほのかに香った。
    「ロブスパイカー……約束は、守りましたよ」
     ロブスパイカーが愛した伊勢海老の餃子を手に、陽坐は胸を張るのだった。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月18日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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