サイレーンの儀式塔~討て、西塔守護者

    ●深き海底にて
     女陰の昂りを覚えずにはいられない。
     このサイレーン、大淫魔サイレーンを組み伏せようとする者達がおる。
     感じるのだ、人と闇の間に蠢く若者達の、青い情欲を。
     そのような獣性、濡れずに済ませられようか、いや、濡れる。
     その者達は、妾をどのように虐げるのか、或いは妾が逆に虐げるのか。
     いずれも想像するだけで、触手より滴る汁を止められぬ。
     つまり『宴』が始まるのだな。ならば妾はその宴席に、混沌という名の華を添えようぞ。
     海底都市よ浮上せよ。全ての淫魔よ、淫獄の宴に己が身を備えるのだ!

    「サイキック・リベレイターの影響で、遂に大淫魔サイレーンが復活の時を迎えたようだ。そして、サイレーンの拠点とする海上都市が、沖縄県南西沖に浮上するのが確認された」
     髪をなびかせ、急ぎ教室に現れた初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)の報告が、灼滅者達に緊張を走らせた。
    「だがな、復活の先触れとして各地に出現していた淫魔達は、ほとんど灼滅されている。サイレーンの配下は、現状、恐れる数ではないな。この分なら、殲術再生弾を使用して攻め込めば、勝算は十分」
     ただ、問題がないわけではない。
     1つは、沖縄に現れた海上都市が、サイレーンの持つそれの1つに過ぎないということ。
     そしてもう1つは、大淫魔サイレーンは、太平洋、北大西洋、インド洋、南氷洋にも海上都市を所有しており、自由に他の海上都市へ転移する術を持っているという事実である。
    「このままでは、いかに戦力を投入したところで、転移という退避手段を持つサイレーンを撃破する事は難しいだろうな。そこでだ。サイキック・リベレイターに活躍してもらう」
     リベレイターの能力により、転移の要となる『儀式塔』の位置を特定する事に成功したという。
    「これを元に、少数の部隊を編成し、沖縄の海上都市に潜入。儀式塔を破壊して、転移を不可能にしてしまおうではないか」
     島の東西南北に存在する4つの儀式塔の全てを破壊すれば、サイレーンの逃走経路を完全に断つことができよう。
     この作戦を成功させれば、後は海上都市に攻め込み、サイレーンと雌雄を決するのみである。
    「1つの儀式塔につき、ABCの3チームで攻略する手はずになっている。大まかな役割を説明しよう」
     まず、Aチームは、海上都市周辺の魚類融合型の淫魔と戦い、他チームの突入、及び、撤退の支援を行う。
     次のBチームは、儀式塔の警戒を行う監視塔、そこにいる淫魔達への対応と、万が一増援が来た場合の対処。
     そしてCチームは、儀式塔を破壊し、転移能力を奪う事が任務となる。
    「君達が担当するのは、西側の塔のCチームだ」
     具体的には、儀式塔の中枢となっている、巨大半魚人の撃破である。
     突入や撤退は他のチームの役目なので、君達は巨大半魚人との戦いに専念して欲しい、と杏は言う。
    「今回の任務では、直接サイレーンと相対する事はないだろうが、場所は海上、そして敵地だ。皆で力を合わせ、無事帰還してくれる事を願っているぞ……!」


    参加者
    フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    桜井・夕月(満ちゆく月・d13800)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    シグマ・コード(デイドリーム・d18226)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)

    ■リプレイ


    「大淫魔の海上都市とは、とんだ竜宮城も有ったもんだね」
    「サイレーンの大姉様の言う宴が、乙姫様の歓待じゃなく淫魔陣営との決戦なら、この戦いはさしずめ前座や前菜みたいな物かしら?」
     口々に告げる白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)やフレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)の視線の先には、巨大建造物……サイレーンの海上都市がある。
     亀に招待されたわけでもなし、歓待はお断りして、目的を果たしてとっとと帰りたいと、ジュンは思う。
     皆がいるのは、サイレーンの海上都市へと向かう船上。そこでは、西側儀式塔の制圧を担う3つの班が、最後の打ち合わせをしていた。
     A班が先行して敵を引きつけ、B班が監視塔に対処し、そしてC班が儀式塔内部の巨大半魚人を撃破する。どの班が欠けても、今回の作戦を完遂する事はできないだろう。
     それぞれの班の状況は、連絡役が伝え合う手筈になっている。
    「どんな結果でも、確定したらすぐに日和さんに連絡しますね」
    「心得た。朗報を待っているぞ」
     無線の周波数を合わせながら、B班の羽柴・陽桜に応じる天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)。
    「戦闘に入り次第連絡する。できるだけ多くの敵を引きつけておくよ」
     A班のヴォルフ・ヴァルトの言葉に、桜井・夕月(満ちゆく月・d13800)がうなずいた。その決意を感じ取りながら。
     そして、決行の時は来た。
     A班が小型の船に乗り換え、先行するのを見送る。
     しばらくすると、A班から連絡が届く。早速、魚類融合型淫魔と接敵したという。それを受け、残り2班も海上都市を目指した。
     無事、上陸を果たすと、監視塔へと向かうB班とは別れる。互いに健闘を祈りつつ。
     C班が目指すは、儀式塔だ。
     猫に変身したエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)が斥候役として進むが、敵の姿は見当たらない。都市の警戒は監視塔に一任されているのかも、と仮説を立てるエリノア。
     目立たぬ出で立ちのレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が、エリノア猫に続く。
     崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)や夕月は、周囲に目を配るのも忘れない。警戒の意味もあるが、脱出時に備え、周囲の地形などを把握するのが目的だ。降伏はあくまで選択肢の1つであり、帰路の確保は重要。
     やがて、儀式塔にたどりつく。後はB班からの連絡を待つばかり……突入のタイミングをはかるシグマ・コード(デイドリーム・d18226)。
     塔に到着してから、さほど経過していないはずだが、時間の流れが遅く感じられるのは、緊張感の表れだろうか。


     たとえ警報が鳴ったとしても、フレナディア達の作戦に、別段変更はない。巨大半魚人の撃破は、絶対だ。たとえ、その後、降伏するような事態になったとしても。
     すると、暗い色のフードの下、塔をうかがっていた日和の無線に、一報がもたらされる。
    『B班です。警報、鳴らされずに済みました! あたし達は撤退します。後はお願いしますね』
    「了承した」
     日和の凛々しくも短い返事は、敵地ゆえ。別働班の奮闘に感謝を述べるのは、学園に帰投してからでも遅くはあるまい。
     そして日和からの報告を受け、儀式塔に突入するC班。後は、自分達が成果を挙げるだけだ。
     程なく、開けた空間が、皆を迎えた。この広大さは、転移装置の規模ゆえ……というより、そこを守る存在の事情だろう。
     巨人……否、正確には巨大半魚人。
     10メートル超過……言葉で聞くのと、実際見るのとでは、大違いだ。
     正直言ってシグマは、淫魔が苦手だ。しかし、こういう相手なら気兼ねない。戦闘に集中できるのは、大歓迎だった。
     それほど、怪物めいた容貌である。絵に描いたような、二足歩行の魚類。ぬめるような光沢を放つ鱗には、嫌悪感を覚える。別の塔の半魚人とは夫婦らしいと聞いたが、夕月にも男女の別はわからなかった。
    「サイレーンも酷い姿だったし、こんな奴らに投降したらどうなることやら」
     その姿に、思わず感想をこぼすエリノア。たとえ降伏したとしても、狂気を植え付けられた挙句、体を半魚人のそれに変貌させられてしまいそうである。
     もっとも、そんな怖気が走る想像も、圧倒的な体長も、レオンの闘志の起爆剤だ。
     侵入者の出現に、半魚人のまぶたが開く。眼前の人間達は、力こそダークネスには及ばぬが、さりとてただの一般人でもない。そのような存在は、灼滅者しかありえぬ。
     すると、上方より何かが降って来た。
     真っ直ぐに床に突き立ったのは、槍。その長大さが、巨大半魚人用である事を教えてくれる。
    「犠牲者を少しでも減らす為にも全力で挑むだけだよ! 一般人の人達の、僕の第二のご当地の学園の皆の笑顔を守る為にも全力で!!」
     決意と共に、來鯉が軍刀拵え・法華一乗を抜いた。
     まとった軍服を、戦艦を模した甲冑が武装する。霊犬のミッキーもまた、甲冑姿で勇ましい。
    「マジピュア・ウェイクアップ!」
     敵が三叉の槍を手に取るのを待たずして、ジュンが変わる。魔法少女少年に。
    「希望の戦士ピュア・ホワイト、呼ばれてませんが今、参上です!」
     ジュンがポーズを決めた直後、槍が振り下ろされた。


     近接戦闘を仕掛ける灼滅者達に、半魚人は淡々と迎撃を開始した。
     巨大槍を振り回せば、起きるのはもはや風ではない。嵐だ。
     ジュンらとともに、吹き飛ぶレオン。とっさにクルセイドソード、トバルカインを壁面に突き立て、なんとか耐える。
     傷ついたエリノアに、ミッキーが駆け寄った。庇いつつ、傷を回復する。
     そして日和の示す黄色信号が、皆の生存確率を引き上げる中、攻撃に移るC班。
     普段なら相手を圧倒する夕月の鬼腕も、今は相手の指程度のサイズ。槍による薙ぎ払いをかわし、カウンター気味に脇腹を打つ。
     手応えはあった。しかし、半魚人は無反応。その事実に、若干の口惜しさを覚える夕月。
    「強さを決めるのは大きさだけじゃありません!」
     夕月の奮起に応えるように、霊犬のティンが床を駆け回る。敵の攻撃の兆しをとらえては仲間の盾となり、傷つく仲間がいれば癒しの力を振るう。
     容赦なく槍を突き出す半魚人へと、來鯉が果敢に飛びかかった。
    「うおおおおお」
     普段相対するダークネスとは、サイズがまるで違う。だが、來鯉は顔を真っ赤にしつつも、相手の足を持ち上げた。巨体が浮いたかと思うと、どぉんと、床に叩きつけられた。
     響く轟音は、レオンのサウンドシャッターに吸収される。
     B班の作戦が成功した今、増援はないと想定されるが、何かの拍子に淫魔に事態を把握される可能性もゼロではないのだ。
     來鯉が離れるのと同時、レオンが次の攻撃に出る。それょ阻もうと迫る巨大な手に、ジュンの腰からリボンが伸びた。虚空で軌道を描いたそれは、相手の中指を容赦なく斬り飛ばしてしまう。
     ジュンの一撃によってできた手指の隙間を、レオンがくぐり抜ける。こちらを睨む半魚人の額に、斬撃を浴びせた。
     それでも、半魚人の表情は変わらない。そもそも、魚の表情など、そうそう読めるものではないかもしれないが。
     シグマが予想していた通り、随分とタフな相手のようだ。守護者の名は伊達ではない。
     ならば、こちらはからめ手で行くまでの事。
     槍より得た破壊の加護を、エリノアは拳に集中した。敵の巨腕を駆けあがると、相手の頭突きをかわして後ろに回る。拳の雨が、敵の後頭部を叩く。
     半魚人が振り返る気配を察すると、離脱するエリノア。打撃の反動を生かして。
     入れ替わるように半魚人の視界に入ったのは、フレナディアだった。その身は舞い、踊る。解体ナイフ、イグナ・グルカを手に。
     情熱的に、時に扇情的に。フレナディアの激しい舞に翻弄される半魚人が気付いた時には、回し蹴りが炸裂していた。それほど、ダンスと攻防は一つの流れを作っていた。
     炎舞の間に、シグマが射撃場所を定めていた。敵の死角から砲を放つ。
     命中直後、生じた氷結が、表皮を覆う。威力は十分に発揮されたはずだが、やはり表面積が圧倒的過ぎた。効力を実感するには至らない。……今は、まだ。
     すると、終始無言だった半魚人の口から、音がこぼれた。醜い外見からは想像しようのない美声が、受けた損傷を修復していくではないか。
     だが、敵の回復の隙は、こちらにとっても同様のチャンスとなる。日和の癒しが、皆の態勢を立て直す。
     いつもなら痛みも望むところの日和も、今回ばかりはそうも言っていられない……!


     戦闘の経過と共に、半魚人の体は、あちこちから氷や炎を噴いていた。
     灼滅者達による弱体効果の蓄積だ。シグマの狙い通り、ボディブローのようにじわりと半魚人の肉体を蝕んでいた。
     だが、相手に『撤退』の2文字はない。
     三叉槍に結集した冷気が、レオンを穿つ。その氷、もはや電柱サイズどころの話ではない。
    「先輩!」
    「これで、この程度で……取れると思ってんじゃねぇぜデカブツ」
     夕月の心配を払うように、レオンは氷を砕いて立ち上がる。その口元には笑み1つ。
     意志の強さに体の大きさなど関係ない。鋭い眼光で、ミッキーが半魚人を威嚇した。
     直後、半魚人の足に、來鯉がキックを決めた。流星落下の如き衝撃は床すらえぐり、相手のバランスを崩す。
     体を支えようとした半魚人の腕に、獣が食いついた。剥離した鱗を足場に、跳躍した夕月の影業だ。
     跳ね除けようとしても、それは影。自在に伸長するそれは、獲物を簡単には解放することはない。
     やがて影の獣は、鱗を食い破る。そこへ、シグマの斬撃が集中した。一見でたらめな太刀筋は、しかし相手の防御を崩し、傷口を、炎を、氷を全身に広げていく。
     傷付け、傷付く中、レオンのテンション上昇は、天井知らず。
    「見くびってんじゃねえぞォ、この俺をよォォォオオオ――――ッ!!」
     連続する仲間の剣舞に、フレナディアが彩りを添える。
     踊りにはドレスがつきもの。イグナ・グルカのそれは、炎だ。仲間と共演するフレナディアの舞から繰り出され、緋色の軌跡を描く。鱗が、肉片が、次々と弾け飛ぶ。
     半魚人は反撃として、口を開いた。後方にいた日和の体を、歌声が叩く。
    「くっ」
     骨格や神経すら震わす衝撃。思わず声がもれそうになるのを、日和は堪える。ダイダロスベルトでガードを固めていなければ危なかった。
    「!」
     不意に目を刺す光に、半魚人が目を細めた。光源は、ジュンが掲げたマジカルロッドだ。
     くるり、魔法少女めいた可憐なターンから、腹を叩く一撃が繰り出される。弾ける魔力の光が、塔内を照らす。
     ぐらり、かしぐ巨体……しかし。
     仰け反らせた上半身を、強引に立て直す半魚人。だがその時には、バベルブレイカーでブーストしたエリノアが迫っていた。
     投じられた槍を、身を回して回避すると、
    「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
     必殺の一撃が、胸を穿つ。一瞬後、派手な衝撃が、半魚人の背中へと突き抜けた。
    「……!」
     硬直する巨体。
     皆が、次の攻撃に備えるも……2度と動くことはなかった。
     半魚人が動きを止めたのと同時に、塔も転移機能を失っていく。
    「長居は無用ね。大人しく尻尾を巻いて逃げるとしましょ」
     舞いを終えたフレナディアは、レオンとともに殿を務め、脱出に移る。
     B班はもとよりA班も既に撤退しているようだし、こちらも急いだ方がよさそうだ。
     傷ついた仲間を担ぐ來鯉。先頭はエリノア、迎撃態勢を維持するのはシグマの役目。
     そしてC班は、海上都市を後にする。任務の成功を手土産に。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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