●深き海底にて
女陰の昂りを覚えずにはいられない。
このサイレーン、大淫魔サイレーンを組み伏せようとする者達がおる。
感じるのだ、人と闇の間に蠢く若者達の、青い情欲を。
そのような獣性、濡れずに済ませられようか、いや、濡れる。
その者達は、妾をどのように虐げるのか、或いは妾が逆に虐げるのか。
いずれも想像するだけで、触手より滴る汁を止められぬ。
つまり『宴』が始まるのだな。ならば妾はその宴席に、混沌という名の華を添えようぞ。
海底都市よ浮上せよ。全ての淫魔よ、淫獄の宴に己が身を備えるのだ!
「サイキック・リベレイターの影響で、大淫魔サイレーンが遂に復活しようとしているっす」
湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)は、厳しい顔でそう切り出した。
「どうやら、サイレーンは別の場所に封印されていた配下の帰還を待ったり、新たに配下となった淫魔達の招集、先に復活していた配下が生み出した半魚人型眷属を迎え入れるといった勢力を拡大させる策を行ってるようっす」
その本拠地となっているのが、沖縄県の海底から浮上した海上都市だ。このサイレーンの復活の予兆として出現していたサイレーン配下の淫魔達は、その殆どの灼滅に成功している――今なら、殲術再生弾を使用して攻め込めば戦力的には征圧は充分に可能だ。
「……でも、問題はこれが海上都市のひとつにすぎないってことっす」
大淫魔サイレーンは太平洋、北大西洋、インド洋、南氷洋にも海上都市を所持しているのだ。現状ではまともに攻め込めばサイレーンは拠点を放棄、他の海上都市へと転移で逃げられるのだ。
「でも、サイキック・リベレイターの能力でこれに対する対応策が判明したっす、転移の要となる『儀式塔』の位置を特定することが出来たんすよ」
東西南北の四箇所にある『儀式塔』を、同時に破壊しなければサイレーンは他の海上都市に逃亡する恐れがある。
少数の潜入部隊でサイレーンの海上都市に潜入、儀式塔の破壊を行うことで逃亡を阻止する、そういう作戦だ。
「島の東西南北に配置された4つの『儀式塔』を、それぞれ3チームの灼滅者チームが協力して破壊する、そういう作戦っす」
今回、みんなに担当してもらうのは南の『儀式塔』の破壊だ。
「『儀式塔』の中心、転移塔の破壊をみんなに頼みたい……んすけどね?」
翠織の歯切れが悪い、その理由は明白だ――間違いなく、困難が予想されるからだ。
「転移塔の内部には『体長10メートルほどの巨大な半魚人』が接続されてるんすけどね、こいつが転移塔の守護をしてるんすよ」
巨大半魚人を撃破した時点で、転移塔は使用不能になる――とにかく、みんなにはこの半魚人の撃破を目指してもらいたい。
「他のチームの成否によっては、淫魔たちの援軍があるかもしれない場所っす。加えて、半魚人自体もタフで強いっすからね……心して、挑んでほしいっす」
強敵を相手にして、援軍までとなっては明確に手が足りなくなる。他のチームの協力が重要な作戦だ。
「敵は油断しているとはいえ、敵地っす。仲間たちと協力して、無事に目的を果たして帰ってきてほしいっす」
参加者 | |
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千布里・采(夜藍空・d00110) |
ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268) |
天方・矜人(疾走する魂・d01499) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965) |
オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189) |
大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988) |
饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385) |
●
海上都市を、その人影が駆け抜けていく。
(「これは、随分と奇怪な……」)
その建築様式を見て、饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)は感動して目を細める。その文様も形式も、言葉にするのは難しい。どうやって構築されているのか、人目では理解できず考え込む時間がないのが惜しいばかりだ。
(「もうすぐやわ、ええか?」)
千布里・采(夜藍空・d00110)が、小さくハンドサインで仲間達に確認する。建物の物陰、そこから見えるのは一際高い高い塔だ。転移の要となる『儀式塔』――東西南北の、南に位置する塔だ。
(「今は仲間が切り開いてくれた道を進むのみ!」)
鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)が一つうなずき、足音を殺して駆け出した。『儀式塔』の入り口、どう考えてもあまりにも大きすぎる縦穴へと灼滅者達は踏み入り――。
「あー、こりゃあ入り口もでかいよなー」
思わず、ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)が呟いた理由がゆっくりと振り返った。
『…………』
――魚人、そう呼ぶしかない。魚の頭に人間の手足。その鱗は一つ一つが金属板のような不思議な光沢を持つ、凶悪なフォルムだ。加えて、大きい。体長10メートルと言えば、三階建てのビルサイズなのだ。見上げんばかり、という表現がこうもふさわしい敵もない。
「え、半魚人? クトゥルフ? すみません、SAN値って何ですか?」
オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)が、そうボケたくなるのも仕方がない。それこそこんな化け物、神話ぐらいにしか存在しそうもないからだ。
「お前を倒せば……絶対、負けないよ!」
重要な役割に気を引き締め、大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)が言い放つ。侵入者を見下ろし、ズシン……! と半魚人が、動いた。たかが一歩、しかしサイズがサイズだ。
「来るよ」
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)の言葉に、タクティカル・スパインを振るいながら天方・矜人(疾走する魂・d01499)は構える。
(「確か半魚人は一般人が変化させられたんだっけか……、まさかコイツも――?」)
脳裏に過ぎった考えを、矜人は振り払う。それは、ダークネスとの戦いすべてに言える事だから――今、ヒーローが言うべきは、ただ一つだ。
「さあ、ヒーロータイムだ!」
『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
まるで地の底から響く呼び声のごとく、半魚人の振り上げた手に生み出された白銀の槍が回転しながら振り払われた。
●
ゴパァ!! と地面を穿つ一閃が、灼滅者達を薙ぎ払う。
「サイキック・リベレイターに突如蘇らされ戦うことになった身には若干の同情も有る。なれど戦場の習いなれば、全力でお相手致そう」
「行くよ、みんな!」
ヒュオン、と神羅の足元から吹き抜けた清めの風が背を押し、ヴン! と彩の掲げた身の丈程もある白く輝く炎の盾が拡大、前衛を包み込んだ。彩の白焔照壁・天照によるワイドガード、それに合わせて霊犬のシロは浄霊眼による回復を――。
「でかいな、やっぱ!」
受けた矜人が、疾走。雷を帯びた拳を、跳躍の勢いそのままに半魚人への腹部へと叩き込んだ。ズドン! という打撃音、しかし、半魚人は構わず矜人へと肘を落とす。
「ッ!」
金色の巨大な鞘で、矜人はその肘打ちを受け止めた。しかし、空中では踏ん張りが効かない――そのまま、地面を砕きながら着地に成功する。
「やらせないゾっと!」
続けて踏みつけようとした半魚人の足を、ポンパドールはれじゅれくしおん! に破邪の白光を宿して振り抜いた。足首を切り裂かれ、半魚人の踏みつけの軌道が逸れる。ウイングキャットのチャルダッシュがリングを光らせると、オリシアが低く構えて駆け抜け――ラビュリントスを腰から翼のように広げて半魚人のアキレス腱を切った。
「後に続く皆の為にも、此処で必ず務めを果たします……!」
ヒュオン! と半魚人が振り回した白銀の槍を、灼滅者達は間合いを開けてやり過ごしていく。横へ横へと回り込みながら樹斉は右手をかざし、ダイダロスベルトを射出した。
「――――」
今です、そう樹斉がハンドサインを送る。半魚人が樹斉のレイザースラストを槍で受け止める間隙に、霊犬の浄霊眼による回復を受けて采が駆けた。
「あんじょう、合わせましょ」
「あぁ」
その横を駆けるのは、エアンだ。半魚人の死角へと二人は滑り込むと、同時に螺旋の軌道を描く槍を繰り出した。
『!? オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
采とエアンの螺穿槍に貫かれ、半魚人が暴れる。その槍の動きに合わせて生み出されたのは、巨大な氷柱――それに、神羅が目を見張る。
「妖冷弾か、あれは」
あまりにも巨大すぎる氷柱が、高速で落下した。ズガン! と砕け散る氷と地面。10メートルという圧倒的サイズから繰り出される一撃一撃が、軽いはずがないのだ。
「そうかおまえはタフで強いのか」
その冷気の中、白い吐息と笑みをこぼしてポンパドールは言ってのける。
「でもな、おれがいる限りみんなはやらせないし――」
「そのタフさ、必ず打ち倒します」
オリシアが強い決意と共にそう言ってのけ、灼滅者達は怯む事無く巨大な半魚人へと挑みかかった。
●
ズズン……! と塔が、軋みを上げる。
「おっとっとー」
塔の壁を疾走しながら、ポンパドールはGebruell der Flammeで加速を得る。それを追いかけるのは、半魚人の槍の穂先だ。その太さは、人間の胴体よりも太い槍だ。巻き起こる風も、尋常ではない。
「――っしょっと!」
チャルダッシュがリングの尾を光らせると同時、ポンパドールはその槍へと跳び乗った。そのまま槍を駆け上がり、スターゲイザーの蹴りを胸部に叩き込む!
「ほな、こっちはこっちの仕事しましょか」
采の足元から、影が形彩る動物の翼や爪牙が躍り出た。それと同時、霊犬も青い炎の軌跡を残して斬魔刀で切りかかる。
采の影縛りに食らい突かれ、足を取られた半魚人の巨体が傾いた。そこへ、反対側の足へオリシアが回り込みサンテミリオンで殴打していく!
「倒れて――ください!」
さしもの巨体も、両足を取られては耐え切れない。ゴォ! と塔を揺るがしながら、半魚人が地面に転がった。
「今だよ!」
「そうだね」
彩とシロが同時に駆け込み、樹斉もそれに続く。大きく跳んだ彩の跳び蹴りが半魚人の額を踏みつけるように強打、シロの斬魔刀が突き立てられた。
そして、樹斉の天雲による大上段の斬撃が放たれる! ズザン、と斬り裂かれ半魚人の血が舞う――しかし、彩がハっと息を飲んだ。
「まず――みんな、気を」
つけて、と続くはずの言葉は間に合わない。瞬時に起き上がった半魚人の手足が踊るように振り払われる――あまりのサイズの違いに、それがパッショネイトダンスである事に気づくのさえ、時間が必要だった。
「まだ、耐え切って――ッ!?」
即座に回復させようとした神羅が、息を飲む。災害がごとき舞が、止まらないのだ――再行動による、パッショネイトダンスが再び後衛に重ねられた。
「――――」
采を守り、霊犬が。オリシアを守って、シロが。そして、チャルダッシュが。サーヴァント達が、耐え切れずに打ち砕かれる。それを見ながら、神羅はWOKシールドを拡大、後衛を回復させた。
「ここは支えてみせよう!」
「まだ先があるのに、ここで負けてはいられないしね?」
そのシールドに包まれながら、エアンは跳躍。全体重を乗せた前蹴りを半魚人へと放ち、重圧で動きを制した。
「まだまだ、これからだぜ!」
矜人が、ダイナマイトモードでゴウン! とエンジン音を轟かせ聖鎧剣ゴルドクルセイダーを振り抜く。それを、半魚人はその槍で真っ向から受け止めた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
(「一撃で、ひっくり返してくれたね」)
駆けながら、エアンは思う。その耐久力、攻撃力、どちらを取っても異常――否、過剰と言うべきものだった。その巨体に等しい腕力と体力は、並のダークネスなど、問題にならない。
「だが――そこまでだ」
神羅は、そう断ずる。強くはある、しかし、恐さはない。全うであるからこそ、予想を覆してくるほどの恐さがないのだ。
一瞬で戦況を覆せる相手ならば、覆す余裕を与えなければいいだけの事。この儀式塔の攻略を担当した時から、全員が覚悟を決めていたのだ。サーヴァント達は、散るその時まで自分達の役目を果たしてくれたのだ。
「チルたちの分まで、おれたちがやんなきゃうそだぜー」
ポンパドールが、そう言い捨て駆ける。半魚人は、ドス黒いオーラを両手に――ヒュガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガン! とその連打をポンパドールへと打ち落とした。地面を穿ち、砕けて舞う破片――しかし、その拳の風圧の中をポンパドールは紙一重で掻い潜りかわし切る!
「大振りすぎるってー!」
そのまま、跳躍。ポンパドールの燃え盛る後ろ回し蹴りが、半魚人の肘を切り裂いた。
『ア、ガガガガガガガガガガガガガガガ――ッ!?』
「――ようやっと、見せはったな、隙」
思わず肘を抱えた半魚人の顔面へ、すかさず采の妖冷弾が放たれた。バキバキバキ、と顔の半分を氷に覆われていき、半魚人がのけぞる――その時には、樹斉は既に次の攻撃へと移っていた。
「そう重心が移動するよね」
よろけるように下がった足へ、天雲の正確無比の斬撃――殲術執刀法が襲い掛かる。血を吹き出しながら、踏ん張ろうとした半魚人が、地面へ倒れた。それでも、咄嗟に片手をついて半魚人は片膝で耐える。
「その腕が、邪魔です」
ギュイン! と唸りを上げて、オリシアのチェーンソー剣が半魚人の体重を支えていた腕を削いだ。バランスを崩した巨体へ、神羅が飛び掛かる!
「その隙は見逃せぬな!」
ゴォ! と炎に燃える神羅の爪先が、半魚人の顎を蹴り上げた。ガギン、と歯を鳴らして、半魚人の背中が塔の壁へと叩き付けられる。
『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
それでも、半魚人の闘志は折れない。前のめりに振るった拳、それを彩が真っ向から受け止めた。
「そんな攻撃、通さないよ!」
白焔照壁・天照の白い炎に、真紅の炎が混じる――彩は、レーヴァテインの一撃で強引に半魚人の拳の軌道を逸らした。
「あとは、任せたよ……!」
「ああ、任せて」
答えて、エアンが鋼糸を振るう。ヒュガ! と大きく腹部と胸部を斬弦糸で裂かれ、半魚人の動きが鈍ったその刹那。
ロングコートをひるがえし、タクティカル・スパインを振りかぶった矜人が吼える!
「一足先に向こうへ逝ってな! ダイナマイト・ブランディング!」
全体重と渾身を乗せた横回転の一撃、矜人のフォースブレイクが半魚人を吹き飛ばした。そして、空中で襲った追撃の衝撃が止めとなる――ズシン……、と地面に伏した半魚人が立ち上がる事は、二度と無かった……。
●
半魚人が倒れたその直後だ、不快な警報が鳴り響いたのは。
「これは、Bチームが……やろか?」
采の言葉に、無線機を使ってエアンがBチームへと連絡を入れた。
「こっちは撃破出来たよ、そっちは大丈夫?」
『ええ、戦闘が終わった所。私たちも今から撤退するわ……警報を鳴らしてしまってごめんなさい。成功してくれてありがとう』
Bチームから、玉緒の安堵の息と共に語られた謝罪とお礼にこちら側でも、安堵の息がこぼれた。
「ようし、ズラかるぞ!」
矜人の提案に、異を唱える者はいない。灼滅者達は、塔を後にして全速力で駆け出した。
「深海に消えた大都市の伝説世界各地にあるらしいけどその大元になったのがサイレーンなのかなー……」
改めて海上都市を見回し、樹斉は呟く。ここを去るにしても、感慨は浮かばなかった――そう遠くない未来、再びここを訪れる事になるだろう。そんな予感がするからだ。
(「次は決戦だろうか」)
エアンが思い浮かべたのは、家で心配して待っているだろう恋人の顔だ。その時は彼女の隣で戦いたい――そう思いながら、海上都市を走り抜ける。
海上都市の戦いは、まずは目的を達成できた。しかし、それはあくまで次に訪れる本当の戦いのたえの一手に過ぎない。
彼等が予想する通り、そう遠くない未来にサイレーンと雌雄を決する戦いを行う日が来るだろう……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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