サイレーンの儀式塔~西塔の攻防

    作者:三ノ木咲紀

    ●深き海底にて
     女陰の昂りを覚えずにはいられない。
     このサイレーン、大淫魔サイレーンを組み伏せようとする者達がおる。
     感じるのだ、人と闇の間に蠢く若者達の、青い情欲を。
     そのような獣性、濡れずに済ませられようか、いや、濡れる。
     その者達は、妾をどのように虐げるのか、或いは妾が逆に虐げるのか。
     いずれも想像するだけで、触手より滴る汁を止められぬ。
     つまり『宴』が始まるのだな。ならば妾はその宴席に、混沌という名の華を添えようぞ。
     海底都市よ浮上せよ。全ての淫魔よ、淫獄の宴に己が身を備えるのだ!

    「サイキックリベレイターの影響で、大淫魔サイレーンが遂に復活しようとしとるみたいや」
     くるみたは真剣な目で、集まった灼滅者達を見渡した。
     大淫魔サイレーンの海上都市の一つが、沖縄県南西沖に浮上したのだ。
    「このサイレーンの復活の予兆として出現しとった淫魔達は、みんなの頑張りのおかげで、ほとんど灼滅できたみたいや。そやさかい、復活したサイレーンの配下はそんなに多くないはずや。殲術再生弾を使用して攻め込んだら、戦力的には征圧は充分に可能や。せやけど……」
     くるみは難しい表情で、教室に貼られた世界地図を見た。
     この海上都市は、サイレーンの持つ海上都市の一つでしかないのだ。
     大淫魔サイレーンは、太平洋、北大西洋、インド洋、南氷洋にも海上都市をもっており、いつでも好きなときに別の海上都市へ転移する術を持っている事が判明したのだ。
    「まともに攻め込んだら、サイレーンは拠点を放棄して転移して逃走するやろ。このままやったら、倒すんはまず無理や。せやけど、重要なことが分かってん」
     サイキック・リベレイターの能力により、転移の要となる『儀式塔』の位置を特定することが出来たのだ。
     少数の潜入部隊で、サイレーンの海上都市に潜入、儀式塔の破壊を行うことで、サイレーンの転移を防ぐことが出来る。
     ただ、4箇所に通じる4つの儀式塔の全てを破壊しなければ、危険を悟ったサイレーンは沖縄の海上都市を放棄して、別の海上都市に逃げ込む事が予想される。
     4つの儀式塔を、同時に破壊しなければならないのだ。
     島の東西南北に配置された4つの儀式塔を、それぞれ、3チームの灼滅者チームが協力して破壊するという潜入作戦が決行される。
     儀式塔を破壊することで、大淫魔サイレーンの海上都市を制圧し、サイレーンとその組織を壊滅させることが可能になる。
     Aチームは、海上都市周辺の魚類融合型の淫魔と戦い突破口を開くことと、撤退の支援を。
     Bチームは、儀式塔を監視している淫魔達への対応と、増援が来た場合の対処を。
     Cチームは、儀式塔の中枢となっている巨大半魚人の撃破を。
     それぞれ受け持つこととなる。
    「うちらが担当するんは西塔のBチームや。西側の儀式塔を監視しとる淫魔達を制圧して、増援が来んようにするんが役目やね。増援が来るかどうかで他のチームの難易度が変わるさかい、重要な役割や」
     頷く灼滅者を、くるみは見渡した。
    「今回は敵地に潜入する、危険な作戦や。皆、無事に帰って来たってや」
     くるみはにかっと笑うと、ぺこりと頭を下げた。


    参加者
    外法院・ウツロギ(百機夜行・d01207)
    羽柴・陽桜(波紋の道・d01490)
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)
    上里・桃(スサノオアルマ・d30693)

    ■リプレイ

     二十四人の灼滅者達を乗せた船は、沖縄の海を目的地へ向けてゆっくりと進む。
     遠くに臨む巨大な海上都市に、椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)は我知らず武者震いに震えた。
    「あんなでっかいのを攻略するのか……」
     巨大な海上都市は、主である大淫魔サイレーンの実力を物語っている。
     危険な戦いだが、これは世界をダークネスの支配から解放するためのでっかい喧嘩だ。
    「序盤でビビってたら、つとまらないよな!」
     自分に喝を入れた武流の後ろで、羽柴・陽桜(波紋の道・d01490)は他班の連絡役と打ち合わせをしていた。
    「どんな結果でも、確定したらすぐに日和さんに連絡しますね」
    「心得た。朗報を待っているぞ」
     無線機の周波数を合わせ終えた天草・日和の隣で、ヴォルフ・ヴァルトは静かに言った。
    「戦闘に入り次第連絡する。できるだけ多くの敵を引きつけておくよ」
     決意を持って頷くヴォルフに深く頷き返した陽桜もまた、海上都市を遠くに臨む。
     あの海上都市のどこかに、大淫魔サイレーンはいる。
     サイレーンと同じ何かが、もしかすると自分の中にもあるのかもしれない。
     そう思うと、どこかおぞましいと思ってしまう自分がいる。
     認めたくない、と思う……けれど。
    「……」
     陽桜は唇を噛むと、近づいてくる儀式塔から視線を逸らした。


     魚類融合型淫魔との戦いに赴くA班を見送り、接敵の報と共に行動を開始した。
     儀式塔へと向かうC班と別れ、探索を開始することしばし。
     しばらく進むと、監視塔の足元の船着き場のような広い空間に行き当たった。
     漂着した一般人のように周囲を見渡す巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)は、儀式塔に目をやった。
     警報を鳴らされずに淫魔を灼滅する。これが失敗しては、C班が危機にさらされてしまう。
    「行くぞ。……気を付けろよ」
     決意を込めた冬崖は、後ろを歩く武流を振り返った。
     小さく頷いた武流は、うっかり漂着してしまった観光客のように周囲をきょろきょろと見渡した。
     水鏡から、こちらが見えているかは分からない。
     だがここが、港のような役割を果たす場所であるならば、水鏡で監視されているはずだ。
    「奥には、何があるんだ……?」
     好奇心に駆られたふりをしながら、武流はゆっくりと奥へと歩み寄った。
     最後尾を蛇の姿でするりと進む雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)は、ちょっと怯えた様子でニョロニョロと先を行く三人を追いかけた。
     海蛇役に徹して床を滑る丹は、立ち止った陽桜の足にぶつかった。
     場所を移して先を見ると、そこには三体の淫魔が品定めをするような目で三人を見ていた。
    「……わたくし、あのアニキなマッチョさんは譲らなくてよ。青海さん、黒絵さん。どちらになさいます?」
     背中までの赤髪を揺らしながら、長身の淫魔が冬崖に流し目を送る。
    「紅子姉さんも好きねぇ。私はやっぱり美少年! あのウブな感じがたまんなぁい!」
     体をくねくねさせながら送られる短い青髪淫魔のウインクに、武流は思わず一歩下がった。
    「……美少女美少女美少女……」
     病んだ目をぎらつかせながら、小柄な長い黒髪美少女が陽桜をじーっと見つめて視線を離さない。
     陽桜はおびえた弱者のように体をちぢこませると、足元にいる丹を抱き寄せた。
     三体同時に来たのを確認した武流は、一歩下がりながらも仲間に連絡を送った。
     品定めし、勝手なことを言い合いながら近づいてくる淫魔は、何かに気付いたように足を止めた。
    「お待ちなさい、あなた達。あの方たち、変ですわ」
    「……そういえば。人間じゃないわね。でもダークネスでもなさそう」
     こそこそと話し合う紅子と青海には構わず、黒絵がカッと目を見開いた。
    「そこの海蛇! 美少女にすり寄っていいのは私だけよ!」
     黒絵の足元から伸びた刃のような影が、丹に向かって突き進む。
     突然のことに身動きできない丹を、影が切り刻む。
     器用に海蛇だけを狙った攻撃に弾き飛ばされた丹は、受け身を取りながら人間形態へ戻った。
    「いたた……」
    「やっぱり、こいつら灼滅者!」
     目を見開いた青海は、口を開くと歌声を響かせた。
     心を揺さぶるような甘い歌声が、武流の耳に流れ込んでくる。
     思わず聞きほれた武流に駆け寄った青海は、しなだれかかるように武流にのしかかった。
    「ねぇ、戦いなんてやめて、私と遊ばなぁい?」
    「け、け結構です!」
     何故か敬語になりながらも何とか青海を跳ね除けた武流は、耳まで顔を真っ赤に染めている。
    「ふふ、ウブねぇ」
     その様子に、青海は満足そうに微笑んだ。
    「その血……もっと見せてくださいませ!」
     蛇のようにざわついた紅子の髪が、丹の腕を絡め取る。
     ぎり、と腕を締め付けてくる紅子の髪に、丹は眉をひそめた。
    「んぅー、淫魔さんのその目ぇ怖いやねぇ」
    「失礼ですわよ!」
     何とか髪を振りほどいた丹に、紅子は腹立たしげに腰に手をやった。


    「丹さん!」
     敵の先制攻撃をやり過ごした陽桜は、周囲に浮く光の輪を丹へと解き放った。
     小さな輪が丹を守るようにくるくる回りながら、その傷を癒していく。
     傷を癒した丹は、交通標識を構えた。
    「催眠も怖いし、色々注意ー!」
     丹が持つ「色々注意」と書かれた黄色い標識から溢れ出す光に、武流は力を得たように腕を回した。
    「サンキュー!」
     目が覚めたように明るく笑った武流は、バーンブリンガーを起動させると一気に駆け寄った。
     流星を纏った踵落としが、青海の肩を強打する。
    「美少年の癖に、生意気よ!」
     強がるように肩を押さえる青海に、紅子は踵を返した。
    「わたくし、警報を鳴らして参りますわ!」
    「ストップ」
     紅子の行く手を遮るように【絶望】を解き放った外法院・ウツロギ(百機夜行・d01207)のレイザースラストが、紅子を切り裂く。
    「我が前に爆炎を!」
     怯んだ紅子を押し戻すように、月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)のエアシューズが翻った。
     グリープに炎を纏わせてからの跳び蹴りが、紅子の脇腹に突き刺さり青海達の方へと押し戻す。
     唇を噛む紅子に、ウツロギはどこかつまらなさそうに【蹂躙】を担ぎ上げた。
    「なんだ。普通じゃん。サイレーンがアレだから、部下もSAN値をゴリゴリ削られるような、ふんぐるむぐるでいあいあな感じなのかと思ったのに」
    「言ってる意味はよく分からないけど……ま、今の情勢を知って厄介な敵になる前になんとかしないと……だね」
     くるりと回転して勢いを殺し、ステップを踏むように着地した玲は、三体の淫魔たちの動向を注意深く睨んだ。
    「そこを、おどきくださいませ!」
     うねるような髪を鋭い鋼糸へと変化させた紅子は、ウツロギに向けて鋭く髪を突き出した。
     体を守るように突き出した腕に、髪が深々と突き刺さる。
     溢れ出し滴る血に、紅子はうっとりとした表情でウツロギを見つめた。
     その視界を遮るように飛び出した玲のライドキャリバー・メカサシミが、紅子に突撃を仕掛ける。
    「ウツロギさん、大丈夫?」
     ウツロギに駆け寄った上里・桃(スサノオアルマ・d30693)が、ジグザグに傷ついた腕に癒しの光を放った。
     傷が癒えていくのを確認した桃は、淫魔たちを見た。
     海底遺跡の出現まで多くの淫魔と戦ってきたが、どれも灼滅者の現在の強さに戸惑う淫魔ばかりだった。
     今回の淫魔は……。
    「なんか……個性的だね」
    「ま、どんな淫魔でも別にいいんだけどねー」
     治った腕を確かめるようにぐるりと回した時、青海が動いた。
     青海は勢いよく駆け出すと、情熱的なダンスを踊った。
     思わず見とれてしまいそうなダンスでウツロギに迫る青海の前に、冬崖が躍り出た。
    「させるか!」
     繰り出される鋭い蹴りや激しい手刀を、繰り出す腕や足で踊るように受け切り、捌ききる。
     共に踊るようなダイナミックな二人の殺陣に思わず見とれた瞬間、青海は叫んだ。
    「今よ! 行きなさい黒絵!」
    「美少女の為に!」
     息をひそめていた黒絵は、青海の背中を駆け上がり飛びあがり、冬崖達の頭上を飛び越し着地した。
    「待ちなさい!」
    「美少女のお願いでも……聞けないわ」
     振り返った桃は、黒絵を止めようと腕を伸ばして黒絵の髪を少し掴む。
     黒絵は一瞬だけ立ち止ったが、構わず駆け出す勢いに逃げられる。
     その一瞬の隙で良かった。
     駆け出す黒絵が突然転倒した。
    「一凶、披露仕る……」
     声よりも早く死角より斬りこんだ叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)の巨大な爪が、黒絵を薙ぎ払う。
     注意深く敵の動向を見守りながら物陰に潜んでいた宗嗣の攻撃に、黒絵は胸を押さえながらよろりと立ち上がった。
    「美少女でもないのに……傷つけるなんて最低」
    「淫魔相手に最低も何もない!」
     黒絵の行く手を遮りながら指を差す宗嗣の指を、黒絵は悔しそうに睨んだ。


     奥へ行かせまいと行く手を遮る灼滅者達に、青海は不安そうに紅子を見上げた。
    「ねえ、紅子姉さん。こいつら変。灼滅者ってこんなに強かった?」
    「灼滅者……ひとひねりして遊んでポイだったのに……」
     悔しそうな黒絵に、紅子は首を振った。
    「わたくし達が眠っていた間に、何かあったようですね。……仕方ありませんわ。全力を出しましょう!」
     言うが早いか、紅子の髪が変化した。
     細く長い髪が変化し、蛸のような触手へと変化する。
     大淫魔サイレーンを想起させる触手に、丹は魂の内より声を聞いた。
    (『サイレーンの名と豹の目と耳。貝と蛸の硬と柔。獣と人。それは言葉無き世界にて見聞き肉を抱く理』)
    「ズルい気ぃもするけど、言わんとアカンもんもあるもんねぇ」
    「丹!」
     耳を裂くような冬崖の声に、丹は我を取り戻した。
     目の前に迫るのは、紅子の触手髪。
     意識を声に取られ無防備に立つ丹は、迫る触手髪を見守ることしかできない。
     丹の体が、宙に浮いた。
     強引に丹を突き飛ばした冬崖は、触手髪の直撃を受けて吹き飛ばされる。
    「巨勢さん! ごめんなぁ、ウチ……」
    「気に……するな。無事で良かった」
     丹を気遣い気を失った冬崖にそっと触れた丹は、両手で両頬を叩くと立ち上がった。
    「頑張らなね!」
     立ち上がり駆け出した丹は、妖の槍を構えると紅子の懐深くへ潜り込んだ。
     死角より放たれる一撃に呼応して、武流はヴァリアブルファングを振りかぶった。
    「無茶は承知の大喧嘩。俺達の出来る限りをしてみせる!」
     袈裟懸けに切り裂かれた紅子は、大きくのけぞる。
     そこに、玲のエアシューズが迫った。
     炎を帯びたエアシューズは紅子を捉え、炎に包み込む。
    「蛸の丸焼き……なんてね!」
     軽口を言いながら微笑んだ玲の後ろで、紅子の体が脆くも崩れ去った。
    「紅子姉さん! よくも!」
     灼滅される紅子に、青海は狂ったような声を上げた。
     最初に歌った時の甘い歌声ではない。憎悪と殺意の籠った暗い歌が、玲の耳を裂き精神をひっかいていく。
     憎悪の歌に呼応するように、影の刃が迫った。
    「美少女だからって……容赦しないわ!」
     思わず耳を塞いで動けない玲を、黒い刃が切り裂いていく。
     膝をついた玲の耳に、美しい歌声が響いた。
     暗い歌で引っかかれていた精神が、陽桜の美しい歌で癒えていく。
    「陽桜ちゃんの歌の方が、百万倍上手だねー!」
    「いえ、そんな……」
     立ち上がった玲の姿に安心した陽桜は、残った二体の淫魔に対して注意深く殲術道具を構えた。
     残された青海に、ウツロギは【蹂躙】を振りかぶった。
    「ぶったぎりー」
     楽しそうな声で放たれる強烈な一撃が、青海を蹂躙する。
     大ダメージを受けてよろりとよろける青海に、宗嗣の大神殺しが閃いた。
    「今だ! 行け!」
     宗嗣の声に、桃は右手を掲げた。
    「恰好いいところ、見せないとね!」
     桃の体中から溢れ出す桃の畏れが集約し、青海を貫く。
     宙を見上げた青海は、何も言わずに海水となって消えていった。


     最後に残された黒絵は、破れかぶれと言わんばかりに影喰らいを放った。
    「これでも食らいなさい、美少女!」
     真っ直ぐに伸びた影は、陽桜の眼前でサイレーンの姿を取った。
    「嫌!」
     豹と蛸、貝と女のおぞましさに嫌悪を示す陽桜に、心の中の冷静な陽桜が静かに指摘する。
    (『その嫌悪、自分が同族だと感じてる証拠じゃないですか?』)
     その声に、陽桜は目を見開いた。
    「陽桜さん、しっかり!」
     桃の声と共に降り注ぐ温かい光に、陽桜は我を取り戻した。
     目の前には、心配そうな桃の顔。
     耳の奥に、あの声はもう聞こえない。
     癒してくれるその優しさに、陽桜は息を吐き出した。
    「大丈夫? 顔、真っ青だよ?」
    「大丈夫、です。ありがとうございます」
     笑顔を返した陽桜は、ゆるりと首を振った。
     今は何も考えてはいけないのだ。
     役立たずで無力な自分の事なんて、何一つ。
     陽桜の前に立ったウツロギは、手にした【恐怖】を無造作に掲げた。
    「火」
     ウツロギの一声に呼応して、大輪の牡丹が溢れ出す。
     炎に溺れ、今にも灼滅されそうな黒絵に、ウツロギは肩を竦めながら【恐怖】を掲げた。
    「今回も出番はなさそうかな、兄弟」
     ウツロギの声に答えるように、蝋燭の炎がゆらりと揺れた。
     牡丹の炎に巻かれ、黒絵は狂ったように笑う。
     真っ直ぐ駆け出した宗嗣は、無銘蒼・禍月を手に黒絵の懐に潜り込んだ。
    「眠れ……凶方の彼方で」
     静かな声と共に、鋭い刃が閃く。
     炎に巻かれ切り裂かれた黒絵は、黒い消し炭のようになって風に乗って消えていった。


     戦闘が終わり、辺りに静寂が訪れた。
     桃はふと、海を見た。
     海と空と水平線しか見えないが、半魚人達が来ないということはA班がうまく引き付けてくれたのだろう。
     退路はきちんと確保されている。
     戦闘は勝利を収めたが、殺傷ダメージは深く、癒しきれない。
     これ以上の戦闘はやめた方がいい。
     そう判断した桃は皆を見渡した。
    「後はC班に任せて、撤退しよう」
    「そうだな。最低限の戦果は上げた」
     宗嗣の声に頷いた陽桜は無線機を取り出すと、通信のスイッチを押した。
    「B班です。警報、鳴らされずに済みました! あたし達は撤退します。後はお願いしますね」
    「了承した」
     天草・日和の短く歯切れ良い声と共に通信が終わる。
     灼滅者達はC班の武運を祈りつつ、脱出ポイントへ向かう。
     見上げた監視塔は、誰もいないかのように静まり返っている。
     その静寂を戦果に、灼滅者達は帰途についた。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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