真夜中のエクストラダンジョン

    作者:聖山葵

     小学生の噂というのは時に突拍子もない。
     しかもコンシューマーゲームなんかの影響を受けていたりして、時々ゲームの中と現実がごちゃ混ぜになったようなシロモノになっていたりもする。
     そう、例えばこのように――。

    「1階の階段の裏に地下に続く落とし戸があるって話ホント?」
    「あー、夜中しかないってやつ」
    「中にはボスが居るんだよな」
    「えっ、異界の戦士が猛者を求めてなかにいるんだろ?」
    「つーか、ゲームのやりすぎ。あるわけねーじゃん、そんなの」
    「でもさ。よしき、見たって言うぜ落とし戸。夜中学校にこっそり入って」
    「まじか?!」
     掃除の時間、箒を片手に中庭で話す彼らは知らない。噂が都市伝説という形をとって既に実体化していることなど。
     
    「都市伝説が実体化した、今回はとある小学校に存在するらしい」
     都市伝説とは、一般人の恐怖や畏れなどのマイナスの思念の塊が、サイキックエナジーと融合して生じた暴走体であり、バベルの鎖を持つが故に灼滅者でなければ対応が出来ない。
    「噂の内容は真夜中の校舎に地下へ続く落とし戸が出現するというものだな」
     落とし戸の先にあるのはダンジョンで、異世界の戦士が猛者を求めてうろついているらしく、一般人が迷い込めばその猛者に襲われてしまう可能性があるとのこと。
    「この手のゲストキャラと遭遇するとやりとりの後ほぼ自動で戦闘になるのがデフォだろうからな」
     そう言う訳で、解決にはダンジョンへ侵入してダンジョンのボスである異界の戦士を撃破すれば良いとのこと。
    「で、相手なんだが……剣を持ったぬいぐるみだ」
     微妙に引きつった顔のエクスブレインによると、このぬいぐるみはもこもこした丸っこくかわいらしい外見に似合わず相当な猛者であるとのこと。
    「「とある魔女が作り出した子守用のゴーレムの一種で、自我があり現在は騎士団をを率いて国防の一端を担っている』と言う設定のゲームキャラだな。ちなみにしゃべれないのでジェスチャーで意志を伝えてくるらしい」
     マイペースで戦いを好むような性格ではないものの、次回作にゲストキャラとしてエクストラダンジョンに出されたキャラの定運命か。
    「で、奴は噂に混入された元のゲーム通りの行動をしてくると思う」
     ジェスチャーで意思表示をしようとするも伝わらず、なし崩しに戦闘へと言う原作通りのパターンへと。
    「戦闘は原作でも避けられなかったからな、どういう形でも戦闘には必ずなる。だったら腕試しに来た主人公のノリで戦いを挑んだ方が色々都合が良いんじゃないか」
     ちなみにぬいぐるみの攻撃手段は無敵斬艦刀のサイキックに近い。
    「数は一体だが、ボスという設定のせいかけっこう手強い」
    「油断だけはしないようにな」
     そう言って少年は灼滅者達を送り出した。
     


    参加者
    天羽・瑠馨(もふん・d00772)
    上河・水華(中学生神薙使い・d01954)
    深影・慈乃(宵鶫・d01968)
    一之瀬・梓(月下水晶・d02222)
    近江・祥互(影炎の蜘蛛・d03480)
    神薙・法子(きらきら星・d04230)
    神楽・雄介(壊れた心の歯車・d04467)
    滝摩・翔(中学生殺人鬼・d06109)

    ■リプレイ

    ●暗き校舎を進みて
    「夜の学校っていつもと雰囲気違うわね」
     静まりかえった校舎の前、神薙・法子(きらきら星・d04230)の呟きが小さく漏れた。
    「夜の学校ってだけでワクワクなのに、ダンジョンとかボスとかもうテンションあがる要素しかないよね!」
     もしこの場に深影・慈乃(宵鶫・d01968)が居たならそう応じていたかもしれない。
    「夜の小学校なんてなかなか入る機会がないからちょっとわくわくするな」
     ただ、一般人から姿を隠せる面々は警備員の居る可能性を考えて先行しており、かわりに口を開いたのは黒いローブを羽織った神楽・雄介(壊れた心の歯車・d04467)で。
    「あー来た来た。こっちこっちー」
     校舎に入り、渡り廊下経由であっさり落とし戸があるという階段に至ったのは、わくわくしていた面々からすれば拍子抜けだったかもしれない。ぴょんぴょん跳ねながら先行組の天羽・瑠馨(もふん・d00772)が呼ぶも声を聞きつけて誰かが来ると言った様子はまったくない。
    「ゲーム世界の体験、か……わくわくしないと言ったら少し嘘になる」
     落とし戸に視線を落とし、近江・祥互(影炎の蜘蛛・d03480)はしゃがみ込むと輪っか状になった取っ手をつかみゆっくりと引く。
    (「エクストラダンジョン、なんて心躍る響きなんだ」)
     滝摩・翔(中学生殺人鬼・d06109)からすればその心躍るものが内部をあらけ出そうとしている訳だが。
    「だがこれはあくまで都市伝説だ。きっちり灼滅して、本来あるべき形に戻さないとな」
    「そ、そうだな。思ったよりも平和な都市伝説みたいだが、都市伝説は都市伝説。しっかり討伐させてもらうぜ」
     戸を開けた祥互の言葉はもっともで、翔は頷き返して真顔を作る。
    「あとは、中がどうなってるかだな。ダンジョンに入って、雑魚敵が出てくるようなら逃げてやり過ごしたいけどよ」
    「問題無いんじゃないかな、雑魚が居るならエクスブレインの人も何か言うだろうしー」
     ねーと同意を求めた瑠馨の声に内容を理解しているのかは不明だが、ナノナノのなーは「ナノナノ」と鳴いて。
    「だろうな。神薙はどう思う?」
    「え、あ、あの、行きます……」
    「ちょ、ちょっと待て」
     一之瀬・梓(月下水晶・d02222)から急に話を振られた法子はいきなりダンジョンへ飛び込もうとして止められる。人を助けるため、救うための仕事は初めてで緊張していたらしいのだが。
    「す、すみません」
    「べ、別に謝る必要はないっ」
     頭を下げる法子へそっぽを向いて見せた上河・水華(中学生神薙使い・d01954)だがこれはが所謂ツンデレだからで。
    「ごめんなさい、嫌いにならな」
    「わかったし嫌わないから頭を下げるな、高校生だろう」
     他人と仲良くしたいのに上手くいかずいつもペットに泣きついている法子の様なタイプはある意味天敵だったと思われる。落ち着いた口調ですがられるとある意味迫力満点ではあるし。
    「ゲームか、俺もまぁ、やることにはやるがな……」
    「面白いの?」
    「ふ、ふん、遊びの一つとたしなんでて何が悪いっ」
     この後、物珍しそうに周囲を見回す梓と霊犬コンビのやや後方で、ややちぐはぐながらもたぶん楽しそうなやりとりが続いていたのだ。
    「出てこないねー」
     とりあえず、道中雑魚敵らしきものと遭遇することはなく。
    「ゲームクリアおめでとうございます。ここからは開発スタッフの遊び心が産んだおまけのダンジョン――」
     とやけにメタ的な説明がどこからともなく聞こえたのみ。
    「何やってるんだ?」
    「……こう、罠探知っぽいことができないかなと」
    「戦闘用のサイキックをそれ以外に応用するのは無理があるんじゃねぇの?」
    「やっぱりか」
     祥互が謎の検証をしたりしつつ進む程度の平和な道中が終了したのは、慈乃が痺れを切らしたからか。
    「頼もー!」
    「お」
     張り上げた声に反応したのか。遠くに動く何かが見えて。
    「っ、これが……」
     そして、灼滅者達が出会った相手こそ探していた敵だった。

    ●待っていたぞ異世界の戦士達よ
    (「都市伝説もピンキリあるなぁ……。見た目は和む相手だが、逆にこいつに負けるとかなり恥ずかしいかもしれない」)
     梓は眼鏡に手を当てた状態で一瞬固まり。
    (「っ、もこもこのぬいぐるみ……もふもふしてみたいけど、我慢しないとね」)
     瑠馨は心の中で何かと戦った。
    「キュッキュッ」
     ゴムの擦れるような音は鳴き声ではなく、足音。遭遇した灼滅者達を前に毛もこもこのぬいぐるみは一人一人の顔をじーっとみて身体を傾ける。
    「何やってるんだ、あれは?」
    「たぶん首を傾げたんじゃねぇか? 首ねぇけど」
    「うぐっ」
     思わず漏れかけた声を慈乃は噛み殺し、胸を押さえた。首傾げのポーズから指のない手で自分をさし、地面をさし、時には灼滅者達に向け、ぶんぶん振る。必至で何かを訴えようとしているようなのだが、慈乃にとってはその頑張りがある意味でクリティカルヒットになっていた。
    「見た目がかわいいからって手加減なんかしないんだぜ! 全身全霊をもってお相手致す!」
     ずきゅんと心を撃ち抜かれつつもビシッと指を突きつけて宣戦布告したのは、灼滅者としての意地か。
    「っ」
     対してぬいぐるみは肩をすくめたような動きをすると刃を抜いて軽く一礼する、まるで決闘に挑む騎士のように。
    「ボスを名乗るぐらいだ、伊達じゃないか」
     そして、礼の動きから即座へ攻撃に繋げる。一瞬刃を受け止めた影が相手を粉砕せんと放たれた斬撃に崩され、刃が祥互に達した。初速、威力、申し分なし。
    「けど、これでこっちのターンだよね」
     敵はそのぬいぐるみのみなのだ。瑠馨はなーに祥互の回復を頼むとダンジョンの床を蹴り無敵斬艦刀を振りかぶる。
    「祥互、行けるよね」
     狙うべきは連携。視界に入った影の刃が祥互の答えを言葉よりも雄弁に語って。
    「壁役、ファイト」
     二人に合わせる形で動き出した慈乃がオーラを癒しの力に転換し、なーと共に味方の傷を癒す。実質的には半数が回復に回っているがそれでも二人同時攻撃による挟み打ち。
    (「……どこからが服かはこの際考えないようにしよう」)
     もこもこの毛が何本か切り落とされ宙に舞うのを見ないようにしつつ、祥互は影の刃を振るい。
    「さぁて、始めるぜ!!」
     ここからが本番だと言わんがばかりに翔は宣言する。味方の連携に続こうとする仲間を援護するべく、漆黒の弾丸を放ちながら。
    「行けよ!」
    「ここでフェニックスドライブが発動出来たら良かったんだがな」
     ぬいぐるみ向かって飛翔する弾丸は呟く水華の上を通過し。
    「出来ることやれば良いんじゃね?」
     水華に応じながら雄介は霧を展開する。
    「悪いが搦め手だ、その動き、縛らせて貰う!」
     と言うか、攻撃こそがこの場合正しい判断だっただろう。
    「頃合いだろうな」
    「ええ」
    「いけ」
     バベルの鎖を瞳に集めて戦況を見る梓と法子。梓が霊犬をけしかけはしたが、援護射撃が空回りしかけていたのだから。
    「っ、ここからが本当の戦いね」
     あらゆるものを断ち切るかのように刃を構えたぬいぐるみを見ながら、法子は身を固くした。おそらく戦いはまだ始まりに過ぎない。

    ●見事だ、ならば私も本気で相手をするとしよう
    「さて、炎はどうだ?」
     武器に宿った炎が都市伝説の刃とぶつかって火の粉を散らす。
    「よそ見してる暇はないんじゃないか?」
     間をおかず梓が契約の指輪から放った魔法弾が襲いかかり。
    「助かった」
    「わう」
     灼滅者達が攻撃に出るのと同時に、梓の霊犬は浄霊眼によって味方の傷を癒していた。
    「これなら、いけそうね」
     法子が口ずさみ始めた歌が灼滅者達の集中攻撃に対処していたぬいぐるみ騎士を一歩追い込み。
    「無理すんじゃねーぞ」
     仲間に声をかけながら、雄介は緋色のオーラを宿した日本刀を振るった。相手は一体、味方がフォローに回ることで攻撃の前後に生じる隙を埋めれば戦いは優位に運べる。
    「そらよっ」
     考えを体現するように飛び込んで斬りつけた刃は都市伝説の刃と噛み合い止められるが、これもだれかがフォローすれば良いだけで。
    「脇ががら空きなんだぜ!」
     にぃと笑った慈乃は拳にオーラを集中させ猛烈なラッシュを繰り出す。
    「キュッ」
     振り向けば、拳、拳、拳。かみ合っていた刃を振り払い、ぬいぐるみが連打へ対応しようとした時には遅く。
    「ぬいぐるみだけによく燃えそうな……って落ち着け俺」
    「祥互」
    「っ、ああ」
     頭を振った祥互は瑠馨に応じ、噴き出した炎を影に宿して跳躍した。
    「いくよ、せぇいっ!」
     レーヴァテイン、二つの炎が拳に踊るぬいぐるみへ叩き付けられ。
    「これだけの集中攻撃を受けて」
     身を焼かれながらも刃を振るう姿を目にした祥互は。
    「ぐあっ、く……」
     瑠馨を庇い着地と共に膝をつく。
    「なー、お願いするんだよ」
     即座に瑠馨は指示を出し。
    「おっと、てめぇの相手はこっちだろ?」
     翔は回復のタイミングを作るべく漆黒の弾丸を撃ちつつ笑む。
    「ホーミングバレットと援護射撃もありゃ良かったんだがな」
     ないならばないで対処のしようはある。
    「これで大丈夫だ、思い切りやってこい!」
     浄化をもたらす優しき風に髪を揺らしながら水華は身体を傾け。
    「しかし」
     味方の陣ごと切り裂こうとしたぬいぐるみの斬撃をかわすと、仲間と戦う都市伝説の姿を眺め、呟いた。
    「なんで、こんな姿なんだ……?」
     激しい戦いを見た目シュールな状況にしている要因、それは紛れもなく都市伝説の見た目。
    「流石に燃えてるともふもふするのは無理だよね」
     灼滅者達の攻撃で炎に包まれ、一層酷いことにもなっているのだが。
    「真夜中の学校と言ったらホラーが定番だが、こんなファンタジーも大歓迎だぜ!!」
     翔が楽しそうで何よりです。
    「まぁこの状況、確かに少し楽しいけどな」
     相づちを打ちつつ、梓は石化をもたらす呪いをぬいぐるみへとかける。
    「ここまでだ」
     八対一という人数差に一歩も引かず、戦い続けていた都市伝説の動きは、ここに来てようやく鈍りはじめ。
    「これで終わりなんだよっ!」
     トドメとばかりに瑠馨が無敵斬艦刀を振り上げて跳躍する。戦いの終焉。
    「凍って眠れ」
     恐るべき死の魔法がぬいぐるみの体温を奪い凍り付かせ行く様を見ながら、誰かがふと思う。
    「ぬいぐるみに体温はあるのか」
     と。ともあれ、繰り出された集中攻撃の中に晒された都市伝説はよろめくと。
    「あっ」
     ぽてりと倒れ込んで動かなくなった。
    「勝ったのか……」
     うっすらとぬいぐるみが消滅し始めたところを見るにそれは間違いなさそうで――こうしてダンジョンのボスとの戦いは終了したのだった。

    ●戦士達の帰還
    「なーもよくやったんだよー!」
    「ナノナノ」
     瑠馨に褒められ頬ずりされるなーが嬉しそうに鳴く中、祥互はぬいぐるみな都市伝説の消え去った場所を見ていた。
    「また会おうぜ……今度は本来の方法でさ」
     相手が実在するゲームのキャラなら出会う方法はあるのだ。
    (「まずは、元ネタのゲームのタイトルを調べよう。そうしたら、お金を貯めてゲームを買って――」)
     会いに行くつもりだった、何時になるかは分からなくとも。
    「あっ、ダンジョンが」
     都市伝説の核たるボスの消滅によって消え始めたエクストラダンジョンは。
    「ここは……」
     落とし戸のあった階段の裏へと姿を変えていた。いや、都市伝説の消滅によって戻ってきたのか。
    「さてと、怪我がないなら長居は無用なんだぜ」
     周囲の面々に深手を負った者が居ないことを確認した慈乃は踵を返し。
    「確かに」
     頷いた水華は一度だけ振り返って落とし戸のあった場所に目をやる。
    「しゃべられればよかったのにな」
     結局あのぬいぐるみは何を伝えたかったのか。
    「内容については製品版をご確認下さい」
     なのだろうが。
    「水華さん?」
    「な、何でもない。急ごう」
     呟くところを法子に見られた水華は、頭を振ると早足でその場を後にする。残されたのは、ただの静かな夜の校舎のみ。ただ秋の虫の合唱を聴きながら無言のままに佇んでいた。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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