静岡県は、マスクメロンの一大産地である。
しかしこの「マスクメロン」と言う名称は、メロンの品種名ではない。
「ジャコウ(Musk)の様に強い香りを放つメロンの総称、ムスクメロンがなまってマスクメロンになったそうです」
鑢・真理亜(月光・d31199)は一行を現地に案内する道すがら、そんなトリビアを披露する。
表面に網目が有り、それがマスク(Mask)を被っている様だからと言うのは、誤った説なのだ。
「その方がご存じなのかは解りませんが、彼女はマスクを被っていらっしゃるそうです」
彼女とはすなわち、静岡マスクメロン怪人を名乗る闇堕ち一般人の事である。
県内の高校に通う、ごく普通の高校生であった彼女――遠江・静夏(とおえ・しずか)は、静岡生まれ静岡育ち。
強いて言えば、やや郷土愛が強く、またメロンが大好物であったと言う。
「この遠江様は今、覆面を被りダークヒーローめいた活動に身を投じて居る様です」
県民の名を汚すような地元の不良、町を汚すポイ捨てをする者、果ては「将来は地元を出て東京に行きたい」と言う若者まで、地元愛に目覚めさせると言う名目で成敗していると言う。
また、スイカには強い対抗心を燃やしており、スイカ割りでは無くメロン割りを夏の風物詩にする事を目指していると言う未確認情報もある。
「今のところ、死者が出るような事態には発展していませんが、それもいつまでか……」
今のうちに対処せねばなるまい。
「彼女の戦闘能力に関しては、解っている事も少ないのですが」
一般人に死者が出ていないと言う事は、彼女が殆ど力を出していない事を意味するからだ。
明らかなのは、ご当地ヒーローに近いサイキックを操ると言う事。特にメロンビームなる技は、食らった者を果汁でずぶ濡れにする恐ろしい必殺技だという。
そして、ハンマー部分がメロンのデザインになっているロケットハンマーを持つと言う事。この二点である。
「今のところは、単独行動の様ですね」
彼女を倒せば、一件落着という事になりそうだ。
「それと彼女……胸が大きいそうです」
そう説明する真理亜も大層大きいが……。
ともあれ灼滅者一行は、マスクメロン怪人を誘い出すべく作戦行動を開始するのだった。
参加者 | |
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イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488) |
鑢・真理亜(月光・d31199) |
風上・鞠栗鼠(剣客小町・d34211) |
ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246) |
華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497) |
手折・伊与(今治のご当地ヒーロー・d36878) |
●
静岡県は食材の王国と言われている。
日本一の標高を誇る富士山から日本で最も深い駿河湾まで、その高低差にも代表される多用な地形と温暖な気候が、豊かな食材を育むのだ。
お茶やミカンなどは特に有名だが、マスクメロンの生産量も日本一を誇る。
「ほら、着いたよ。しっかりするもっちぃ」
「うう……生きた心地せんかった」
華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)は、抱えていた風上・鞠栗鼠(剣客小町・d34211)を地面に降ろし、どうにか独りで立たせる。
学園からここまでのバイク移動で、すっかりグロッキーになってしまった様だ。
「スイカにメロンに山葵だろ……それから……」
一方、イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)は普段通りの様子で、義兄から頼まれた土産物のリストに意識を向けている様子。
「ほら、その前にやる事があるやろ」
「むぐっ」
鞠栗鼠は、そんなイヴの口にお菓子を咥えさせて、本来の目的を思い出させる。
そう、彼女達は単に胸部が豊かな観光客では無いのだ。
武蔵坂学園から、この地を……ひいては世界を守る為にやって来た灼滅者なのである。
「それにしても、噂が本当だったとは……」
こちらは普段通りの物静かな態度を崩す事無く、ぽつりと呟く鑢・真理亜(月光・d31199)。
彼女が耳にした情報によれば、ここ静岡県のマスクメロンをより一層全国に広め、長らく続いてきた「夏と言えばスイカorメロン」論争の完全決着を目論む、メロン至上主義のご当地怪人が現れたと言う。
「メロンソーダとか美味しいから好きだけど、ダークネスの世界征服は阻止しないと……しねぇとな」
ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)は相手を誘き出す変装として、特攻服を羽織った古典的な不良ルック。
ちなみにその豊かな胸部にはサラシが巻かれている。
「私もついこないだ救われたばかりだけど、同じ境遇の闇堕ち者が居るなら手をさしのべたいわ」
頷きつつ言うのは、手折・伊与(今治のご当地ヒーロー・d36878)。
彼女もまた、郷土愛の強さ故に闇堕ちし、ご当地怪人となっていた身を真理亜達に救われた過去を持つ。
今は武蔵坂の生徒となり、姉妹の家に居候しつつ灼滅者として成長中だと言う。胸も成長していると言う説もある。
「あのコンビニなんかどう?」
「うん、良さそうだな。化粧室も使えるし」
広い駐車場を擁するコンビニエンスストアを見つけた一行は、早速そのメロン怪人を誘き出す為の作戦を開始するのだった。
●
「今は~♪ メロンよりスイカがイケてるみたいな? スイカの方が夏やん♪」
「うんうん、やっぱり日本の夏はスイカだよな。彩りも綺麗だしさ、後味もベタベタしなくて爽やかだよなー」
コンビニ前でたむろしながら、季節感のある話題に華を咲かせているガングロコギャル達。
2000年代にタイムスリップしたのかと見紛わんばかりの光景である。
「超解るー。大体メロンって糖分多いしー、スイカの方がカロリー低くて良い感じじゃん? 私ダイエットしなきゃだし」
そんなコギャルメイクのイヴと鞠栗鼠の話題に、相槌を打つ伊与。
(「さすが元オムソバギャルやな。コギャルに扮するんも上手いもんや」)
鞠栗鼠は感心するが、伊与もまた東京見物の際に見たと言うガングロコギャルの真似である為、どこまで真に迫っているのかは不明である。
「それにしても……早く静岡出て、東京行き一旗あげたいもっちぃ。東京なら、きっと美味しいスイカも一杯あるもっちぃ」
と、静岡とスイカの両方を話題に盛り込みつつ、玲子が言ったその直後であった。
「そこの貴女達! そう、やたら胸の大きい貴女達ですよ!」
明らかに怒っている様子で、一行に近づいてくる声の主。
覆面にメロン色のレオタードコスチュームを身に纏っており、まるで色物レスラーの様。ガングロコギャルメイクの一行が普通に見えてくるレベルだ。
そして噂にもあったとおり、その胸部はメロンの如く豊かであった。
「静岡に暮らしながらメロンの良さを解さず、その上東京なんかに夢を持つとは言語道断! その腐ったスイカの様な性根をたたき直さねばなりません!」
マスクメロン女はかなり一方的な口上を述べ、今にも襲い懸からんばかり。
「随分と威勢の良い娘さんじゃないか。あたい達とナシつけたいって言うんなら……ちょいと顔、貸してくんないか?」
ルイセはギター片手にゆっくり立ち上がると、場所の移動を提案。
「素人さんを巻き込むわけにはいかないだろ。あたいらにもルールってのはあるのさ」
「なるほど、良いでしょう。私も地元の方に迷惑を掛けるのは本意では有りません」
マスクの女もこの提案を承諾し、一行はひとけの無い場所へと移動する。
途中、すれ違った一般人達から好奇の眼が向けられた事は言うまでもない。
「さて、それじゃあ静岡のマスクメロンの素晴らしさについて嫌と言うほど教え込んで上げましょう。そもそも、マスクメロンのマスクとは……」
空き地へやって来た灼滅者とメロンマスクだったが、相手は到着するなり堰を切ったようにマスクメロンを語り始める。
「メロンのお話ですか? 私も静岡のメロンは大好きです。香りと言い、味と言い、素晴らしいですよね」
先ほどから姿の見えなかった真理亜は、先回りしてこの空き地に到着していた。
偶然話が耳に入った様に装い、メロンマスクへ歩み寄る。
「おぉっ、貴女は解っている様ですね! 静岡と言えばマスクメロン。日本の夏と言えばマスクメロン! 豊かな胸はメロンカップなのです!」
「素晴らしい郷土愛、メロン愛ですね。静岡ミス・メロンやメロンカップ賞など、数々の名誉に輝かれるだけの事は有ります」
「い、いやいや……それ程では! あはは……」
突然現れた理解者に褒められ、表情を緩めるメロンマスク。いや、マスクを被っている為正確には解らないけれど、緩んでいるに違いない。
「ただ……」
「ただ?」
「行き過ぎたメロンや郷土愛の押し付けは、メロンや静岡の為にならないのではないでしょうか」
頃合いを見計らい、相手の問題点に斬り込む真理亜。
「なっ?! 私の活動がメロンや静岡の為になっていないと言うんですか……そ、そんなハズ有りません! 現に今だって、こうして郷土愛を忘れスイカの手先に堕ちた若者達を教育してやろうと……!」
「そうやってこれまでに何人も痛めつけて来たワケだ。素人さん泣かすのは……外道ってモンだよ」
「くっ……」
ルイセの言葉に、視線を泳がせるメロンマスク。
アウトローとも言える出で立ちの彼女から指摘される事で、改めて己の行いを省みたのかも知れない。
「い、いえ……私は、正義のヒーローでなくても良いのです。静岡とマスクメロンによりこの地上を征服する為なら……もはや手段は選びません。メロンの前にひれ伏すが良いのです!」
自らを鼓舞する様に声を張り上げ、ファイティングポーズを取るメロンマスク。
ここからは拳で語り合うより他に無さそうだ。
●
「震えるバスト……国宝級のメロンだぜ」
僅かに動く度に、大きく揺れるメロンマスクの胸。それを凝視しつつイヴは、絶対に助け出して学園にスカウトする意思を固める。
「行くぜ、メロンの姉ちゃん!」
イヴの身に纏ったダイダロスベルトが、あたかも数匹の蛇の如く解き放たれてメロンマスクへと襲い懸かる。
「私達も参りましょう。闇さんは前衛を」
これに呼応する様に、真理亜もまた翼を広げるかの様にベルトを展開。ビハインドの黒巫女も、指示を受けてメロンマスクとの間合いを詰める。
「な、何?! まさか、私と同じ様な力を……きゃあっ!?」
これまで一方的に相手を叩きのめしてきたメロンマスクだが、予期せぬ先制攻撃に不意を突かれ、その身を絡め取られる。
「メロンもいいけど、見聞は広めや」
「くうっ?!」
更なる追撃を掛けるのは、鞠栗鼠のレイザースラスト。
無数の帯がメロンマスクの豊満な肉体を縛める――が、
「こ、この程度で……静岡のマスクメロンは負けません!」
彼女が取り出したのは、巨大なメロンを模したロケットハンマーの様な武器。
「駿河湾スマッシュ!」
――ドゴォン!
渾身の力で地面を打ち据えるメロンハンマー、直後に強烈な衝撃波が灼滅者達を襲う。
「うわっ!」
「皆、大丈夫よ。ギャル子さん、援護をお願いね」
伊与は黄色の標識を掲げて仲間の傷を癒しつつ、元カリスマギャルであったと言うビハインドのギャル子さんに援護を指示する。
「白餅さんも手伝うもっちぃ。……確かにメロンは美味しいけど、不義理な正義は正義じゃない!」
玲子も自らのナノナノに命じながら、バベルブレイカーのジェット噴射で一気に間合いを詰める。
――ガキィンッ!
「くっ、勝った者が正義! 勝者が歴史を作るのですよ!」
こちらもハンマーのロケット噴射によって、突進を受け止めるメロンマスク。
「だったら、ボク達が勝たせて貰うしかないね」
スレイヤーカードを解放し、普段の姿に戻ったルイセは、ギターを掻き鳴らして旋律を紡ぐ。
「さ、させません……スイカ割りをメロン割りに、スイカップをメロンカップに変えるまでは……!」
「そんなにメロン割りがしたいなら、受けて立つぜ! でも、メロンって中が空洞になってるからスイカみたいに割れないんじゃないか?」
「えっ?」
イヴの疑問混じりの問い掛けに、凍り付くメロンマスク。
そう、メロンを叩いても潰れるだけで、綺麗に割れてはくれない。純粋にスイカの方が安価だと言う理由の他にも、メロン割りが行われない理由は存在するのだ。
「と言う訳で、いくぜ爆発♪ 尖烈ドグマスパイク!」
精神的な衝撃から立ち直れないでいる彼女に対し、高速回転するイヴのバベルブレイカーが唸りを上げる。
「う、くあぁっ!」
吹き飛ぶメロンマスク。いや、衝撃で覆面が破れ、今やただのメロンだ(?)。
「こ、この程度でへこたれません……割れないなら、鋭い刀の様な物で切れば良いんです! メロン斬りを夏の風物詩にすれば良いじゃないですか!」
が、すぐさま立ち上がり、尚も主張するメロン。
「いや危なすぎるやろ……頭冷やして貰うで」
鞠栗鼠は短くツッコミを入れてから、伊与にアイコンタクト。
「OK、援護するわ」
これを受けた伊与は、ギャル子さんの霊障波と共にクロスグレイブの砲門を全開放。
「うぐうっ……!?」
無数の光条に射貫かれ、更には鬼神の力を宿した鞠栗鼠の腕が叩きつけられる。
相手もメロンハンマーで必死に防ごうとするが、体勢を維持するだけで精一杯と言った状態。
「し、静岡のマスクメロンは不滅……絶対に負けたりしない!」
よろめきながらも、メロンの心はまだ折れていなかった。
「必殺の、メロンビーム!」
ハンマーを投げ捨てると、その両手からメロン色に輝くビームを放つ。
シャワーの如きそのビームが、容赦無く灼滅者達に降り注ぐ。
「……やれやれ、どうせならメロンジュースじゃなくてメロンソーダが飲みたいんだけどな」
ルイセはメロン果汁を振り払いつつギターを持ち直し、玲子と真理亜に目配せ。
「ボク達に出来るのはここまで、後はキミ次第だよ!」
バイオレンスギターを振り上げ、叩きつけるルイセ。
「せめて地元の力で決めるもっちぃ。安倍川もちキリモミキック!」
玲子は静岡のガイアパワーを吸収するや、間髪を入れず天高く跳躍。
高速のキリモミ回転をしながらメロンへ急降下する。
「遠江様、どうか人の心を取り戻して下さい」
地上から距離を詰めるのは真理亜。鬼神の力を宿した腕を振り下ろす。
「ぐっ、うわあぁぁーっ!!」
集中的な攻撃を受けたメロンは、断末魔の悲鳴と共に、ついに地面へ倒れ伏した。
●
「皆様には、面目次第も有りません……あのままだったら、取り返しの付かない事をする所でした」
「正気に戻れて良かったよ。あー、のどが渇いた! メロンクリームソーダ飲みたいね」
深々と頭を下げるメロン……もとい、遠江・静夏(とおえ・しずか)の肩をポンと叩くルイセ。
「あ、それでしたら良いお店が」
「それから安倍川もちも食べたいし、漱石が愛したと言う温泉にも入りたいもっちぃ」
「修善寺温泉ですね。じゃあ先ず電車で……」
「その前にほら、イヴちゃんが遠江さんの為に着替えを持って来たんでしょ?」
玲子のリクエストに応えようとする静夏へ、割り込んで告げる伊与。
この流れは、彼女も経験済みのパターンである。
「ヌフ……闇堕ち成長の特注品服だぜ」
待ってましたとばかりにイヴが差し出したのは、巫女風装束とマイクロビキニ。
「そんなん着て移動したら目立ってしゃーないやろ……ただでさえ胸がなぁ」
ややあきれ顔でツッコミを入れる鞠栗鼠。
「ところで遠江様……静岡とメロンの為に、学園に来ませんか」
「静岡とメロンの為?! 行きましょう!」
最後に眼鏡を差し出しつつ、誘うのは真理亜。少し天然なのか、静夏は何の疑問も持たず二つ返事でそう応える。
かくして、闇堕ちより一人の少女を救い出し、仲間に加える事に成功した灼滅者達。
彼女の案内で静岡のご当地グルメや温泉などを満喫しながら、ゆるりと帰路に就くのであった。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年6月28日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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