吸血花、そして花屋

    作者:森下映

    「このあたりでしょうか……」
     穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)は、ネット上で盛り上がっているとある噂について調査にきていた。
     その噂とは『人の血を吸って生長する花』。
     『――とある空き地。殺されて埋められた人を養分に育った花が、いつしか生き血を求めて、空き地に足を踏み入れた人を襲うように……』
     噂がサイキックエナジーと結びつけば都市伝説が発生する危険がある。そう考えた菫はその場所にやってきてみたのだが、
    (「!!」)
     空き地のある路地への角を曲がろうとして、菫は反射的に身を戻した。空き地には先客がいたからだ。もちろんそれだけなら通り過ぎれば済んだこともかもしれない。けれども恐らく灼滅者としての菫の経験が、彼女の足を止めた。
    「……そろそろいいですね」
     静かな声。高くもなく低くもない。さっきちらりと視界に入った限りでは、白いシャツ、薄い色の髪、細身の……男。
    「日没とともに現れて、生き血を吸って咲き誇る。そんな美しい花の種をまいておきましょう。……ワタクシ『花屋』の1番新しい『花』となってくれることを楽しみにしていますよ」
     独り言が途切れた。菫とビハインドのリーアは咄嗟の事態に対応できるよう身構える。
    「それではまた後で『剪定』にくるとしましょう」
     言い残し、足音は菫がいる側と反対の方へと消えていった。
     菫はすぐに学園へ急いだ。仲間に伝える為に。そして、日没前にまた戻ってくるために。

    「都市伝説は日没と同時に出現するはずです」
     経過についての説明を終え、菫は言った。都市伝説を生み出す能力のあるタタリガミのこと、都市伝説と灼滅者達が戦闘に入れば、多少の茶々をいれる可能性はあっても積極的に戦闘には参加せず、次の創造と捕食の機会を求め、適当な所で撤退するだろう。
    「ですから、都市伝説灼滅を優先するなら出現後すぐ、タタリガミを倒すのであれば、タタリガミが出現した都市伝説を喰らった直後を狙うことになると思います」
     タタリガミは現在は男性の姿をしているようだが、喰らった直後であれば、都市伝説同じ能力を使ってくると考えられる。
    「もちろん、強さは都市伝説の比ではないでしょうが……」

     流されていた噂から推測される都市伝説の攻撃はドレイン系。また捕縛や足止めにも注意が必要かもしれない。タタリガミの能力は不明だが、『剪定』という言葉を使っていたのが気になる、と菫は言う。

     都市伝説とタタリガミ。どちらとの戦いを選ぶにせよ、
    「犠牲が出てしまう前に灼滅しましょう。皆さん、どうぞよろしくお願いします」
     そう言って菫は、リボンの飾られた頭を深々と下げた。


    参加者
    六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)
    日月・暦(イベントホライズン・d00399)
    橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)
    四戸・志途(しとしと・d33823)
    桜谷・玲(桜華・d33824)
    ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖崇拝者・d35780)

    ■リプレイ


    「怪談をお話するのは苦手なのですが……少しでもお役に立つのであれば」
     桜めいた銀の髪。茜色の瞳を伏せ気味に桜谷・玲(桜華・d33824)が言った。
    (「語らざるをえません、か。仕方ありません」)
     怪談が苦手な語り手。それは過去家族を失った理由のせい。故に自分を灼滅者としては出来損ないとも思う。けれど。
    (「語る事で、誰かの為になるのなら……」)
    「大切なものを護れるように……もう、後悔はしたくありませんから、ね。気を引き締めて参りましょう」
     玲が語り始めた。それは淡々と起伏なく、だが確実に人の足を遠ざける。
    「人の血を吸って養分にする花、吸血花ね。まぁ怪談としては割とよくあるものよね」
     長い金色の髪のサイドを、瞳の色に似た青色のアクセサリーで留めた、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)。
    「星の精が如き花。星を摘むが如き存在。既知」
     かつて彼が啜った怪奇小説にもあったのかもしれない。白衣姿のニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖崇拝者・d35780)。
    「未知なる恐怖とは違う。俺の崇拝する宇宙的恐怖とは違う。灼滅の華を齎すべき」
     連れは『0』と書かれたプラカードを掲げたナノナノのぜろ。それはニアラの正気度を表す数字。
    「まだ、犠牲者は居ないのですよね」
     蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)。ポニーテールの蓬色の髪が、不思議と夕陽を集めつやをのせる。
    「ええ」
     語り終えた玲が答えた。
    (「七不思議は確かに、哀しい話が多いかもしれない」)
    「けれど、哀しいままで終わらせたくないのです」
     四戸・志途(しとしと・d33823)はモコモコの毛をもつぽっちゃり猫のウイングキャット、晴を抱え、
    「被害が出ると言うのならば、タタリガミごと倒すのです」
    「そうね。此処で討つ機会があるのなら逃がすべきではないわ」
     タタリガミは都市伝説を喰って強くなっていく。多少危険でも叩ける時に叩いておくべきだとエリノアは考える。
    「普通のお花を扱う花屋さんなら良いのですが、ダークネスとなれば話は別なのです」
     榛名が言った。
    「奇襲出来ればと思いますが、難しいでしょうかね」
     自分では時代遅れといいながら、書生姿に下駄を履き、大きめの丸眼鏡を指先でずりあげる。橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)。実は度の入っていない眼鏡は瞳の橙だけでなく『歪んだ狂刃』をも隔てているのか。
    「先制したいわね。不意打ちとして決まればよし、そうでなくても主導権を向こうに握られなければ十分よ」
     エリノアが言う。
    「頑張りましょうね、志途さん。それに晴さんも」
     玲が志途に声をかけた。同じ施設で育ち今も同居する志途は玲にとって志妹のような存在。晴は志途の腕の中で、任せなさいとでも言いたげにでーん、もふっと余裕。が志途はといえば、
    「もやしのくせに、うるさいのです」
     大切な家族なはずが、素直になれないのはいつものこと。玲もツンには慣れたもの、微笑み、頷き返して、空き地へ視線を移す。
    (「血染めの花は美しい……赤花の少女を名乗り、赤椿の『誇り』の花言葉に着物に飾る以上、それを否定はしませんよ」)
     鮮やかな赤色の着物と羽織り、赤華誓舞に黒く長い髪が落ちる。六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)。愛の色で咲き誇るユメ、背徳的であれ、百噺と流れ心揺らす。
    (「でも、その血が幸せだったら?」)
     静香は、傍らの日月・暦(イベントホライズン・d00399)を見る。静香と同じ暦の黒く長い髪は1つに結い上げられ、首にさげたロザリオには薔薇の紋様。薔薇は静香の耳に在る、暦が贈ったイヤーカフスにも咲く。
    (「他人の幸せ、自由、情熱に愛。血と赤に含まれる悉くを吸い尽くす吸血の仇花なら」)
     飄々と、白い長袖のシャツを着た男が歩いてきた。
    (「認めたくはない。暦は私のもので、私が暦のものである以上。明日への誓い、その欠片も奪わせない」)
     男は空き地の前で足を止めた。そして日没。触手のような茎を蠢かせ、まるで頭部のような位置に集う紅い花びら毒々、吸血花が現れる。
     と、男はすっと右腕を伸べた。当然のように巻き付く茎。拍子、手元のカードの束から数枚が落ちたが男は動かない。
     一瞬後、今度は別の茎が腹を貫く。ドクンドクンと血を飲む茎の脈動とともに紅は濃く、花びらの連なりが増した。が、
     ――ジャキン。
     男が左手の鋏で、腹に刺さっていた茎を断った。
    「合格です。ワタクシの花にふさわしい」
     口の笑み、目の冷酷。鋏には高揚を漂わせ、軽々と攻撃を避け、花屋は茎を、花びらを切り刻む。そして、
    「さあ。『店頭』へお並びなさい」
     突如男の顔の上半分が、あわや落ちるのではないかというくらいに裂け、バクリと花を飲み込んだ。
    (「これが、タタリガミ……」)
     初めてみるその姿に緊張を隠せない志途。自分はこうはなりたくない、『二度と』なりたくないと思う志途を、玲はそっと見守る。
     男の顔が閉じたと同時、姿が変化した。男ではあるが花。花ではあるが男。顔の半分から半身にいくつもの紅い花を咲かせ、手足は吸血花が生やしていたのと同じ何本もの茎へ。カードの束はそのうちの1本が巻きこみ、1本ある人の腕には鋏が握られている。
    (「血吸い花を咲かせて喰らうタタリガミ」)
     九里は、湧き上がる興奮を留めた指先で眼鏡をずり上げ、
    「其れではもう一つ彼に咲かせて頂きましょう――彼自身の、血の華を」
     花屋の視界を避ける様体勢低く駆け出した。


     一斉に光源がつけられる。
    「『Cosmicism』」
     ニアラは封印を解除、
    「花屋に花ね。ふん、ならその店は今日を持って閉店よ」
     エリノアはバベルブレイカーを駆動させ、
    「花も店主も全部狩らせてもらうわ! 悪趣味な花共々、此処で散りなさい!」
     ジェット噴射を起こすと金糸なびかせ飛び込む。その影を追うように下方、
    「花よ。咲くが好い。俺は貴様を屠るのみ」
     ニアラの放った黒に染まった二枚貝が花屋へ向かった。
    「その花は、生き血を吸ってはいないのですよね」
     榛名は黄色標識を掲げて前衛に耐性をつけ、
    「なら今ここで、『摘んで』しまうのです!」
     可愛らしい言葉ながら、その実なかなか。そして志途の傍らには年は力の源となるべく少年が現れた。親友を待ち続けた氷雨の少年タカオ。今は志途の大切な友達、ともに乗り越え彼の春へ歩き出すべく与えた力を存分に込め、志途は玲とともに帯群を操り、盾役を強化する。
     と、立ち上る黒い気配に花屋は1つ残った目をギロリと動かした。途端、
    「弱肉強食。貴様は灼滅される運命」
     ニアラの二枚貝が噛みつき、花屋の動きを止める。と、
    「鋏に気をつけてなのです!」
     榛名が、花屋の手元で鋏が握り直されたことに気づいた。花屋に接近していた九里は了解の合図を返す。確かに返した。が、九里は軌道を変えない。口元には薄ら笑いさえ浮かべ、襲いくる鋏へ向かっていく。まるで吸血花を試した花屋のように。
    「花屋に剪定挟とは誂え向きに御座いますねェ……さァて、どの様に愉しませて頂けるのでしょう」
     九里は腹を貫かせたりはしなかった。花屋も容易に避けさせはしなかった。鋏の先はジャキンと九里の髪を切って飲み込んだ。
    「こんな汚い物を飲んで何が愉しいのやら」
     自嘲の笑みを浮かべつつ九里は、腕をかいくぐり、
    「然し、御代は頂きますよ」
     此方に血を寄越せとでもいうように鬼の腕を振り上げる。そして異形の腕が、花屋の異形側の半身を叩き潰し、九里が身を翻した瞬間。
    「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
     エリノアが白い杭を撃ちこみ、『串刺し』にする。
    「ナノ!」
     ぜろがとばしたハートはふわり九里へ届き、杭を引き抜いて飛び抜けたエリノアの残滓にまみえ、黄昏の願い込められた緋願刀・散華を上段に構えた静香が立つ。
    「紅イ……紅アア……」
     花屋が耳障りな高低のある言葉を吐きながら、ズズ、と茎を蠢かせた。咄嗟に暦は静香の前に出る。
    「日没とともに現れて、生き血を吸って咲き誇る。そんな花が美しいと言うけども」
     花屋と対峙し、暦が言う。
    「血の赤だけを、美しいというな」
    「ふ、フフ、美しいじゃアないですかあア」
     花屋が異形の姿を捩って笑う。
    「ほラ、そこノ紅いお嬢さンもオ」
     パチンと鋏が鳴った。攻撃手達は構え、玲は片腕を伸ばして志途を下がらせる。晴も志途を守るよう陣取った。
    「ワタクシならあア、もッと美しクうう、咲かセるコトおができるウ」
    「……あんた、何も知らないんだなって。血の赤は不幸の象徴じゃないんだよ」
     絡んだその二つのアカを、受け継ぐことがその本質。血の意味も考えず、その外観だけに溺れているような小物なら、
    「俺はお前を認めはしないし、赦しもしない。だってそうだろ?」
     暦は一歩間を開けるように動き、
    「俺の最愛の赤い花を、お前は冒涜してるんだから」
     何かを操るように、命じるように、片手を動かした。
    「その命を持って、償ってもらおうか」
    「ナ」
     知れず地を走っていた暦の影が、花屋を足元から縛り上げていく。
    (「夜、夢の時刻にて血を吸い咲き誇る狂い花」)
     もし静香が同じく血染花だったときならば、感じたであろう自己嫌悪。その欠片も今はないのは、
    (「共にいる暦のお陰」)
    「緋華斬闇――夜の剣詩の中で、『花屋』の最後は灼滅の想花剣であると結びましょう」
    「ギヤあア!」
     重い斬撃とともに緋色の花びらが舞い散った。


     音の壁に囲われた中、戦闘は続く。
    「!」
     志途が目を見開いた。茎が伸びてきたのだ。が、
    「……通させません」
    「玲!」 
     志途が名前を呼んだ。にゃー! と晴もないた。もとより志途に怪我などさせる気はない玲の胸へ茎が突き刺さる。脈打ち血を吸い上げるに合わせ、花の紅がさらに鮮やかになり、ついにはボコボコと花の数まで増えていく。
    「玲、今回復するのです」
     氷雨の少年の言霊は雨。雨は嫌いな志途。けれどもこの雨はしとしと心温め、玲や他の仲間の傷を癒やす。玲の傷の深さに晴も回復を補い、その間に九里の鋼糸、濡烏が花屋を捕らえた。そして体勢を立て直した玲はロッドを掲げ、自身とロッドの魔力を操り雨のち雷。標的逃さぬ雷を轟かせ落とす。
    「なんンと」
     雷に花は焦げ、顔は焼け爛れ。逃さずニアラは赤黒い蟹じみた体の鋏を手に襲いかかった。
    「喰らえば喰らわれる、と解く」
     ニアラの白衣が勢い風を孕む。『蟹』は花びらを食いちぎり、飲み込んだ。次いで榛名が白に瞳の銀を映したような大鎌を振る。黒い波動に薙ぎ払われ、後ずさる花屋。さらに後退して間合いを抜けようとするが、
    「ア」
     『串刺し嬢』の串は武器だけに非ず。エリノアが槍の妖気から作り出した氷弾が花屋を背中から串刺し、地面に縫い止めた。
    「ハは、おモしろイ、美シいモノたチ」
     半身からは血、半身からは粘液を流し、身のあちこちをカチリと凍らせながらも花屋は立ち上がる。
    「さア、みナミな、ワタクシ花屋の、花ニ、」
    「貴方に、私の愛しい暦の血をあげたりはしませんよ?」
     暦を狙ったのを見逃さず、静香が仕掛けた。
    (「例え性質であるだけでも、暦の何かを奪われたくないから」)
    「私を祈りの赤花に変えたのは暦」
     羽織の赤が緋色のオーラに絡んで舞う。
    「ならばこそ、彼の心を守る為、私は歌いて赤花の剣舞を」
    「はハ」
     花屋が静香へ向き直った。後に続くと暦を信じ、避けず緋色の刀を閃かせる静香。
    「あんたなんかに、静香の血をやると思ってるのか?」
     思い通じ、暦も緋色をナイフの刃に纏う。
    「だからと言って俺の血を盗られるのも面白くない。だって、」
     ――俺は静香んもので、静香は俺のものなんだから。
     重なる、静香と暦の信じる、赤い夢の色。
    「返してもらうよ、奪わせてもらうよ。今まで吸った、その全ての血を」
     2人の刃が花屋から生命力を抜き取ると、いくつかの茎と花びらが乾ききり、落ちた。
    「スば、ラしい」
     それでもまだ花屋は笑う。
    「ぜろさん」
    「ナノ!」
     深い闇夜の様な長い髪が、続く攻撃の間を縫うように志途は駆け、月の光が灯った様な瞳は必死に状況を見極める。時に盾となる帯を飛ばし時に浄化の雨をふらせ、ぜろと手分けして回復に奔走。そんな志途を玲と晴が守りぬき、榛名も応じて黄色標識で浄化を重ねる。吸血には吸血とばかり紅蓮斬を用いる者も多く、短期での決着は叶わずも攻撃の継続には成功、盾役の体力は限界間近ながら花屋を追い詰める。
    「花屋さん!」
     榛名が言う。
    「あなたは他にもお花を育てたのですか?」
    「くク、無論ン、ウツく、しい花を」
    「だれかを傷つけたのですか? もしそうなら、わたし達は許す訳にはいかないのです!」
     とん、と跳び上がった榛名は上方から花屋へ狙いを定め、
    「その物語は、此処で終わらせるのです!」
     蓮の葉舞うビームを放った。
    「ぐ、愚カ」
     ビームが命中した花屋の片目が怒りに燃え、着地する榛名を全ての茎で捕まえようとする。が、
    「生きるためでもなく、ただ娯楽と言って。誰でもいいなんて、そんな生き様故の誇りもなく」
    「ウ」
     茎が榛名に届く前に、花屋の全身が斬り刻まれた。
    「そんな吸血の仇花、剪定してしまおうか」
     花屋の前に回り込み、暦が言う。
    「だって美しい花が好きなんでしょう? 己の姿も分からないような醜い花が、店先に並べるなんて思ってないよな?」
    「散り逝きなさい。胸に抱いた花の物語、全てと共に夜の中へ」
     振るわれる静香の刀。その隙ニアラの飛ばした符が花屋を幻夢へ落とした。
    「花……は、ナ……ワタクシは……花、屋ア」
     玲の手にした蝋燭から炎の花がはらはらと流れて届き、ふらつく花屋が燃え上がる。その花屋の身体を片手の槍を回転して制し、もう片方の拳を叩き込むエリノア。強烈に撃ち飛ばされた花屋に、さらには鋼糸が巻き付いた。
    「花屋の名に相応しく、花の如く消え去るのが御似合いで御座いましょう。例えば……」
     九里が自信の顔の前を横切るように、濡烏操る手を動かし力を込める。
    「……首から落ちる椿の様に」
    「ギヤア!」
     花屋は強く斬り裂かれ、ぼとぼとと茎が、手が落ち、
    「ワタクシは、花」
     ごろん、と花咲く頭部も地に落ちた。
    「成程。花は華に果てる。素敵な言の葉」
     消滅していく花屋を見下ろし、ニアラが言う。
    「花は必ず散るモノ……其れが今日だったと云うだけの御話に御座いますね」
     眼鏡をずり上げる九里。
    「晴、お疲れ様だよ」
     晴を抱きしめて労う志途に、
    「志途さん、怪我ありませんか?」
     心配そうに玲が言った。
    「ですから、うるさいといっているのです。もやしのくせにナマイキなのです」
     いつもの志途。問題なければそれでよし。玲はへらりと微笑んだ。
    「紡ぐのならやさしい物語が良いのに、どうして上手くいかないのでしょう」
     榛名が呟く。
    「わたしにはまだ、わからないことだらけなのです……」
     月に見送られ、灼滅者達は空き地を後にした。

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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