ピーマン、大嫌い!

    ●都内某所
     子供達の間で語り継がれる都市伝説。
     それが、ピーマンお化け。
     ピーマンお化けは、子供の肝が大好物。
     特に自分の事を嫌う子供の肝が、大好き!
     そんな噂から生まれたのが、今回の都市伝説である。

    「みんなはピーマンが好きか? 嫌いなら今のうちに慣れておけ」
     ピーマンを山のように積んだ後、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。

     今回、倒すべき敵は、ピーマンの姿をした都市伝説。
     ただし、人間サイズの大きさがあるピーマンに手足が生えた劇画タッチの化け物だから要注意だ。
     コイツは人間を頭からバリバリと食べちまうほど強靭な牙を持っており、人間の子供……自分の事を嫌う奴は、嬲り殺して肝を食らってしまうらしい。
     おそらく、お前達が行く頃にもピーマン嫌いの子供達が襲われている事だろう。
     都市伝説が確認されたのは、幼稚園。
     一応、保母さん達が身を挺して子供達を守っているが、食われるのは時間の問題。
     子供達が『ピーマン、大好き!』と言えば、都市伝説も食らうのをやめるかも知れないが……。
     まあ、無理だろうな。


    参加者
    レイラ・アルビス(高校生ストリートファイター・d00827)
    風間・司(中学生殺人鬼・d01403)
    高坂・由良(プティムーランルージュ・d01969)
    秋庭・小夜子(空色オーバーフロウ・d01974)
    シェレスティナ・トゥーラス(中学生魔法使い・d02521)
    桃野・実(瀬戸の兵・d03786)
    八月朔・修也(色々とアレな人・d08618)

    ■リプレイ

    ●幼稚園
    「……ピーマンの逆襲か。ちゃんと食べねーのがいけねーんだよ」
     険しい表情を浮かべながら、レイラ・アルビス(高校生ストリートファイター・d00827)が都市伝説の確認された幼稚園に向かう。
     この幼稚園では、子供達が嫌いな食べ物を積極的に食べる日があり、園児達にとっては恐怖の一時であった。
    「でも、ピーマンの苦味は大人の味だと思いますの……。だから、今はまだ子供たちに理解できずとも仕方ないと思うのですわ。ただ、今はまだ無理でも、いつかその苦みを好きだと言う様になる子供もいると思いますの。それをバリバリと食べちゃうだなんて、自らで自らの可能性を壊しているようなものですわ!」
     不機嫌な表情を浮かべ、高坂・由良(プティムーランルージュ・d01969)が叫ぶ。
     実は由良もピーマンは苦手だが、園児達の見本にならねばならないため、そんな事は言えない。……言える訳がない。
    「ま、食えないもんっつーのは、誰にでもあるしなぁ? どうせなら食えるようになったら幸せになる都市伝説とかならいいのによ」
     どこか遠くを見つめながら、秋庭・小夜子(空色オーバーフロウ・d01974)が愚痴をこぼす。
     もしかすると、そういった都市伝説も存在しているかも知れないが、いまのところそういった情報は届いていない。
    「どちらにしても、ちびっ子には苦々しくも恐ろしい怪人だよねー」
     苦笑いを浮かべながら、シェレスティナ・トゥーラス(中学生魔法使い・d02521)が口を開く。
     おそらく、園児達にとっては、トラウマ物。
     こんなモノに襲われれば、一生ピーマンが嫌いになってしまう事だろう。
     その途端、幼稚園の中から園児達の悲鳴が聞こえてきた。
     すぐさま室内に飛び込む、シェレスティナ。
     ……そこには都市伝説と、保母に守られ怯える園児達がいた。
    「ピーマンめ……。おのれ、ピーマンめ……。このヤロー、ピーマンめ……。お前さえいなければ……。この前のスープカレー、食べれたのにー! あの時のチャーハン、食べれたのにー! 復讐だ、復讐だー!」
     妙に殺気立った様子で、アリスエンド・グラスパール(求血鬼・d03503)が都市伝説を睨む。
     要は自分もピーマンが嫌い、大嫌い。故に倒す、必ず倒す。
     ……そんな意気込み、満々。
     ピーマンも園児達を食べる気満々で青臭い息をアリスエンド達に吐きかけた。
     その臭いを嗅いだ園児達が『ドブ臭ぇ!』、『食えるかァ!』、『あっち行け! 野菜の国に帰れ!』と罵っていく。
    「……ストップ! ピーマンが嫌いなのは分かった。だけどちょっと静かにしてくれ、保母さんの為にもな?」
     霊犬クロ助に園児達を守らせ、桃野・実(瀬戸の兵・d03786)が困った様子で頭を抱える。
     園児達は決して罵る事を止めない。
     本当は怖くて仕方がないのだろう。みんな、涙目になっていた。
     それでも、罵る事を止めようとしなかったのは、保母を守るため……なのかも知れない。
    「……そこまでや。ピーマンにも心がある! 嫌いなんて言ったらあかん! ……ちょっと苦手かも……ぐらいにしとき!」
     都市伝説を牽制しつつ、風間・司(中学生殺人鬼・d01403)が園児達に声をかける。
     だが、園児達は罵る事を止めない。
     そのせいで、都市伝説の顔が真っ赤、赤ピーマン。
     今にも園児達に食らいつきそうな勢いで涎を垂らしている。
    「その青臭い顔、近づけるんじゃねぇっての」
     嫌悪感をあらわにしながら、八月朔・修也(色々とアレな人・d08618)が都市伝説に言い放つ。
     しかし、都市伝説は唸り声を響かせ、物凄い勢いで襲いかかってきた。

    ●園児達
    「これ以上、ピーマンを怖がらせてどうすんだよ、あほかっ!?」
     都市伝説を叱りつけながら、小夜子がマジックミサイルを撃ち込んだ。
     その一撃を食らって都市伝説がバランスを崩したが、園児達を食らう気持ちは衰えていない。
     むしろ、『食らってやる、頭からバリバリとなっ!』という声が聞こえてきそうな勢いで、何度も向ってきた。
    「絶対にやらせませんの」
     霊犬のアレクシオと一緒に園児を守りつつ、由良がジャッジメントレイで攻撃をする。
     だが、都市伝説は怯まない。
     自分を馬鹿にした園児達を頭からバリバリと喰らうまでは……!
    「まあ、確かにピーマンはまずいし、苦いし、青臭いし、調理法は限られてるし、パプリカの方が、まだマシだよねー」
     出来るだけ園児達から注意を逸らすため、シェレスティナ・トゥーラス(中学生魔法使い・d02521)がピーマンの欠点を上げていく。
     それを聞いた都市伝説が怒りで肩を震わせ、突き刺すように鋭い殺気をシェレスティナに放つ。
    「下手に喋られると、ピーマンがこっちに来るかも知んないから、喋らないで」
     園児達に警告しつつ、レイラが後ろに下がっていく。
    「安全なとこに逃げるから付いてきてくれっ!!」
     そのタイミングに合わせて、小夜子が園児達を安全な場所まで誘導する。
     園児達もさすがに怖くなってきたのか、保母に引き連れられて、その場を後にした。
    「さあて、それじゃあ片づけるとするか。うちらはピーマンを滅ぼす為にやって来たニューヒーローやで!! ピーマン怪人、堪忍しや!! まあ、さっき何か言ったかも知れんが……、気のせいや」
     都市伝説の行く手を阻み、司が大声で叫ぶ。
     信じられない様子で、司に視線を送る都市伝説。
     てっきり味方だと思っていた相手からの裏切り。
     信用していた分、怒り100倍、丸齧り。
    「まあ、これで園児達から注意が逸れたな」
     どこかホッとした様子で、修也が園児達に視線を送る。
     先程まで、ただ強がっていたらしく、今に保母にしがみついて、泣きじゃくっていた。
     これが原因になって余計にピーマンが食べる事が出来なくなるような状況は避けたいが、ここまで怖い思いをして好きになる事は難しそうだ。
    「……たくっ! 何て事をしてくれたんだ。みんな怖がっているじゃないか。これは園児達の分! これは保母さんの分! これがスープカレーの分! これがチャーハンの分! そして、これが……、これからの分だー!」
     一気に間合いを詰めながら、アリスエンドが黒死斬を叩き込む。
     その途端、辺りに漂うピーマン臭。
     ……臭い。物凄く臭い。通常のピーマンと比べて、倍……それ以上に臭い。
    「ピーマンがなんぼのんだー! あんな中身がスカスカで苦いわ、変な緑色だわ、種は食えねえわ、あんなの食いモンじゃねえよ!!」
     都市伝説に対してキッパリと言い放ち、実がご当地ビームを放つ。
     それでも、都市伝説は倒れない。
     全身から青臭い緑色の血を流していても、全く戦意を喪失させていなかった。
    「その青臭い顔、近づけるんじゃねぇっての」
     嫌悪感をあらわにしながら、修也が都市伝説めがけて、抗雷撃を叩き込む。
     次の瞬間、都市伝説が断末魔を響かせて崩れ落ち、ピーマン独特の焦げた臭いが辺りに漂った。

    ●都市伝説
    「食えないものが一種類潰れるだけで、色々味わえるようになるぞ」
     プラチナチケットを使って保母を説得した修也は、幼稚園の食堂にある厨房を借りて、園児達を呼び集める。
     厨房では仲間達がピーマンを使った料理を作っており、食堂の中にはほんのりと香ばしい匂いが漂っていた。
     だが、匂いを嗅いだだけで口を押える園児もいるため、食べさせるのはやはり難しそうである。
    「まあ、この匂いが駄目だって気持ちは分かるかなー。強烈でしばらく残るんだよね……。例え食べてる時は美味しくても、あとの匂いがなー……。そういえば緑色のピーマンって未成熟なんだってねー。ちゃんと熟したピーマンなら匂いキツくないのかも」
     苦笑いを浮かべながら、アリスエンドがピーマンについて語っていく。
     しかし、園児達はピーマンの話を聞くだけでも駄目らしく、口を押えて激しく首を振っている。
    「さすがにあんな怖い思いをした後でピーマン料理は酷か」
     厨房で作ったピーマンの肉詰めをテーブルの上に置いた後、小夜子が残念そうに溜息をもらす。
     おそらく、園児達は目の前に置かれたピーマンの肉詰めが、都市伝説を使って料理したものだと、勝手に思い込んでいるのだろう。
     中には怯えて泣き出してしまう園児もいた。
    「おいおい、それはあんまりじゃないか。試しに食ってみろ、うまいぜ?」
     園児達に見せつけるようにして、レイラがピーマンの肉づけを食べる。
     それを見た園児が次々とピーマンの肉詰めにパクつき、『美味しい♪』と喜んでいたが、ごく一部。
     『嫌いなものは嫌い、食べたくない』と言って食べる事を頑なに拒否する園児もいれば、『……怖い!』と言って身を強張らせる園児もいた。
    「やはり先程の事がトラウマに……」
     心配した様子で園児達に視線を送り、由良が悲しげな表情を浮かべる。
     だが、あれほど怖い思いをして、さらっと忘れられるほど、園児達の心は強くない。
     完全に心の傷が癒えるまでは、しばらく時間が掛かるだろう。
    「ピーマンを食べんかったら、ちょっと脅してやろうかと思っていたんやけど、この状況でそんな事をしたら、完全にトラウマやな」
     困った様子で頭を抱え、司がボソリと呟いた。
     都市伝説が現れる事さえなければ、ここまで園児達もピーマンに対して、拒絶反応を示す事はなかったはずだ。
     自分を傷つけようとした相手を好きになると言う事は、大人であっても難しい事なのだから……。
    「まあ、ピーマンが嫌いであっても大人になるにつれて味覚が鈍ってくるから食べられるようになるもんだよ。機が熟すのを待ったら?」
     園児達の気持ちを察した上で、シェレスティナがフォローを入れる。
     そうしていくうちに都市伝説の事も忘れ、ピーマンに対する抵抗も薄れていく、と信じて……。
    「……いい事を教えてやるよ。ピーマン好きな友達を作って、こっそり食って貰え。その代わり、友達の苦手な食べ物は食べてあげろよ?」
     落ち込む園児達を慰めるようにして、実が耳元で囁くようにしてアドバイスをする。
     そのアドバイスを聞いた園児達の表情がぱあっと明るくなり、『……うんっ!』と力強く頷いた。
     どちらにしても、ピーマン嫌いを克服するまでには、しばらく時間が掛かりそうだ。
     だからと言って急げば余計にピーマンが嫌いになってしまう。
     そういった事を踏まえた上で、園児達を見守る事が今は最善に思えた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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