ダンシング・オブ・セキゾウサタデーナイト

    作者:飛翔優

    ●廃墟となったクラブの中で
     とうの昔に人が去り、シャッター街と化してしまった商店街。その外れへと繋がる道を歩きながら、彼岸花・深未(石化系男子・d09593)は語っていく。
    「こんな噂を聞いたんですぅ」
     ――石像たちのダンスパーティー
     商店街の外れにあるクラブ跡。バブルが弾けるとともに閉店し、その後は倉庫代わりに使われていた。けれどやがて持ち主もいなくなり、廃墟となった広い建物。
     その中で繰り広げられている。
     倉庫として使われていた時に置かれていた石像達による、サタデーダンスパーティーが!
     日時は土曜、深夜帯。心躍るサタデーナイト、夜が明けるまで踊りましょう!
     けれど、決して人が近づいてはならない。石像達は仲間を求めてる。もしも近づいてしまったなら……動く石像にされてしまうだろう……。
    「調べた結果、事実だということを確認しましたぁ」
     故に、解決しなければならない。
    「今、向かっているのが舞台となっているクラブ跡。今の時間帯ならもう、ダンスパーティーが行われているはずなので……」
     入り込めば、戦いを挑むことができる。
     後は倒せば良い、と言う流れになる。
    「戦闘能力などについては……ごめんなさい、わかりません。でも、噂の内容を考えると、石化に関する力は使ってくるかと思いますぅ」
     後は実際に相対してから対応する事となるだろう。
     以上で説明は終了と、深未はうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。
    「怖いですけど……でも、誰かが被害にあったらことですし……頑張りましょうぅ」


    参加者
    彼岸花・深未(石化系男子・d09593)
    シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)
    河本・由香里(中学生魔法使い・d36413)
    神山・美佳(芝刈り機は待ってくれない・d36739)

    ■リプレイ

    ●それは静かなサタデーナイト
     月が天へと昇り、土が日へと変わる狭間の時間。誰も居ないはずのクラブ跡から漏れ聞こえてくる軽快な音色に誘われた者を見つけては、河本・由香里(中学生魔法使い・d36413)が力を用いて言い聞かせる。
    「いい子ですから、しばらくここには近付かないでくださいね」
     甘く響く声音に促され、人々は瞳をうるませ頬を赤らめ立ち去っていく。最後の一人を送り出した時、彼女は誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
    「あ、これ癖になりそう……」
     どことなく切なげな吐息を紡いだ後、意識を切り替え仲間たちへと向き直る。
     準備が整った旨を伝えたなら、眠そうに目をこすっていた彼岸花・深未(石化系男子・d09593)がペコリと頭を下げた。
    「みなさん、ご協力ありがとうございますぅ! 踊る石像の都市伝説……動かなければいいのですが、踊っていますぅからね……。さらには仲間を増やすために石化……となると尚更危ないですぅからね!」
     これより向かうは、楽しげな音を弾ませているクラブ跡。一時は倉庫として使われていたものの、とうの昔に放棄されたはずの場所である。
     改めて入り口へと向き直りながら、神山・美佳(芝刈り機は待ってくれない・d36739)は小首を傾げて行く。
    「石像がダンスか……タップダンスやバレエみたいなのは踊れなさそうだよね。石なんだし~」
    「ですが……」
     シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)は耳を澄ませ、目を細めた。
    「聞こえてくる音楽は、より激しいダンスのような……?」
     扉を開くと共に完全なものとなった音楽は、スタッカートの効いたとても楽しげなもの。もしも廃墟でなかったなら、天井でミラーボールが輝いていただろうことを予感させるもの。
     奥へと進み、灼滅者たちが目の当たりにした光景は、その予感にさほど違いがない。
     服までもが石で作られた男女三体ずつ合計六体の石像が、激しくも心躍る音楽で土曜の夜をフィーバーしている光景で……。

    ●石像たちのダンスフィーバー
     石造りとは思えないほど軽快に軽妙に、ステップを踏み手足を振っている石像たち。人との違いといえばその色合いと重々しい足音くらいといった様相を前に、シエナが率先してダンスの中心へと躍り出た。
     ライドキャリバーのヴァグノが見守る中。
     自らを、スレンダーな大人姿へと変化させ。
     ロングスカートにペチコート、黒タイツといった踊り子姿を取りながら。
    「お母さま直伝のフランスの踊りですの」
     刻むは、石像たちとは少々毛色の違う……けれども時にハイキックでスカートを巧みに蹴り上げ、両手でペチコートをまくりあげて中を魅せつける……土曜の夜に相応しい、激しくも刺激的なもの。
     情熱は伝わったのだろう。石像たちのダンスは止まらない。
     だからこそ仲間にする……とでも言うかのように、六体の瞳が一斉に輝いた。
    「っ!」
     不意に手足に重さを感じるも、シエナが舞踏をやめることはない。
     ただ、肌が硬質化していく感覚を……石化していく感覚を覚え、徐々に離脱を始めていく。
     触れられた覚えはないのに、石化されている。恐らく、それが石像たちの持つ力の一つ。
     身を持って情報を伝えてくれたシエナと視線を交わした後、外部への音を遮断するために水着姿となった美佳が得物を握りしめながら駆け出した。
     石像たちの視線を避けるかのように奥の方へと回りこみ、お立ち台で扇子を振り回していた女性型の背後へと回り込む。
     背中に斬りつけるも、刃は硬い皮膚に食い込むに留まった。
     引き抜こうとした刹那、振り向いた女性型に笑顔を向けられて……。
    「っ!」
     不意に両肩が重くなり、たたらを踏む。
     手足をばたつかせながら身を支え、壁際へと後退した。
     その頃には深未が光を放ち、お立ち台の上にいる女性型の扇子を貫いて――。
    「っ!?」
     ――貫いた直後、他の二体の女性型に距離を詰められた。
     バックステップを踏む暇もないままに、邪気のない視線を向けられていく。
    「あ……」
     足が、両腕が重くなるのを感じた。
     石化の呪いを受けたのだと、確認せずとも理解した。
     不意を打たれて緊張の糸が切れたのか、押し込めていたはずの眠気が襲ってくる。
     うつら、うつらとする中、気づけば視界も狭くなり……。
     ……少しずつ、けれども確実に石像と化していく深未の横、由香里もまた男性型の視線を浴びて腰や左肩を硬質化させていた。
     けれども、さして気にした様子はない。
     動く石像にされるなら。石像になっても敵を倒せば良いだけなのだから。
    「ダンスは苦手ですけど別にダンスで戦うわけじゃ無いですし……」
     石像たちの中心へと躍り出て、炎を走らせた刃を振るっては距離を取る。
     時には音楽に合わせた歌声を響かせて、仲間たちの石化進行を遅らせた。
     けれど……石像たちの数が多く、治療を役目としているわけではないため全てを癒すとは中々行かない。
     気にせず戦い続けていた由香里の体も重さを増し、徐々に動きを鈍らせて……。
     ……それでもなお響く歌声を聞き石化の危機から脱した深未は、目をこすりながら石像たちへと向き直った。
    「が、頑張らないと……ふぁ……ですぅ……」
     あくびを交えながら魔力の矢を浮かべ、お立ち台の上にいる女性型を……。
    「あ」
     貫いた直後、他の五体の視線を一斉に受けた。
     見た目だけなら完全な石像と化してしまった深未の横、踊りながら戦っていたシエナはヴァグノと行動を共にしていた。
     石化と通常の状態を繰り返しながら戦っていた影響か、はたまた別の理由からか……虚空を蹴るたび、激しき音色を奏でるたび、石となった服がぴしりと砕ける。果てには一線を越えさせぬための布地も砂と散り、数年後に獲得するかもしれない生まれたままの姿を晒してしまったから。
     もっとも人目に……特に男性型の視線にさらされることはない。
     ヴァグノが忙しそうに動いて隠していたから。
     それが囮として動いているように見えたのだろう。シエナは特に気にした様子もなく……羞恥心を駆り立てられた様子もなく、虚空を蹴り無数の赤薔薇の蔦が寄り集まる帯を差し向ける。
     時には交通標識を掲げ、石化からの脱却をサポートした。
     加護を受け取りながら、由香里はお立ち台の上で踊っていた女性型を切り倒す。
     ほっと息を吐いた瞬間、体中が鉛のように重く動かなくなっていくのを感じた。
    「……」
     握れぬ拳を震わせながら、朗々たる歌声を響かせる。
     加護の力に重ねながら、自らに施された呪縛を解いて行く。
    「どうやら、私を仲間に入れてくれる気は無いようですね……ダンスが苦手なのがバレたのでしょうか」
     あるいは、ただ単に石像たちが好き勝手やった結果、今の状態に陥っているだけか。
     一方、美佳は得物を振り回す傍ら一体の……見目麗しい男性型と手を取り合っていた。
     腕も足も重いけど、そんなことは気にならない。今はただた軽快なリズムに身を委ねようとでも言うかのように。
     石化してなお健康的に見える体を、これでもかというほど見せつけながら……。

    ●土曜の夜もいつかは終わる
     討伐への強い意志、施された加護……様々な力を束ね、由香里は石化の呪縛を振り払う。
    「あまり時間をかけてはいられませんね。一気に決めますよ」
     深い息を吐いた後、得物に炎を宿して先頭に位置していた男性型との距離を詰める。
     なおもダンスを続ける男性型を、腰の辺りから一刀両断。
     地面に堕ちるとともに砕け散り砂と課した直後、深未が呪縛をはねのける。
    「けほっ、けほっ……」
     咳き込みながらも後方に位置する女性型へと視線を向け、光を放った。
     広範囲へと広がる力もあった影響か、光に貫かれた女性型は光の粒子とかすかのようにして消滅する。
     直後、ヴァグノが機銃を唸らせて、男性型を一体葬り去った。
     残るは男性型と女性型一体ずつ。
     男性型へと向かおうとしたシエナはヴァグノに進路を妨害され、仕方なく女性型へと向き直る。
    「こっちも、もう倒せそうですの」
     得物たる帯を軸に逆立ちし、回転蹴りにて激しき突風を巻き起こした。
     吹き飛ばされ、壁にたたきつけられて砕ける女性型。
     残された男性型へと、美佳が得物を握りしめながら近づいていく。
    「貴方の遊びに言い訳はいらない。言い訳を決して言うな」
     もしも仮に、ただ遊んでいるだけだったのなら、あるいは――。
    「……」
     ――こうして切り裂かれ、消え去ることはなかったのかもしれない。
     言葉が通じたか、切り裂かれた男性型は晴れやかな笑顔を浮かべたまま、塵と化して消滅する。
     同時に、軽快な音色も消え去った。
     音のない、殺風景な廃墟だけが、灼滅者たちには残されて……。

     体についた埃を払いながら、シエナは静かな息を吐く。
    「無事、終わりましたね。……ヴァグノ、どうしましたの?」
     トランクを……恐らくはその中に入っている白衣などを示していくヴァグノを前に、小首を傾げて行くシエナ。
     意図に気づいたかあるいは最初からそうするつもりだったのか……いずれにせよ着替え始めていくシエナを横に、被害がほぼない面々は廃墟の中を探索した。
     石像の一欠片も残っていない光景を前にして、由香里が安堵の息を吐く。
    「残っている石像はないみたいですね」
    「うん、そうだね。……ほんとう、ダンスの相手で害がないなら、一体ぐらいは欲しかったんだけどな―」
     更には踊り足りないと、美佳は物欲しげに仲間たちに視線を送った。
     けれど、すぐに首を横に振る。
     深未がうさぎのぬいぐるみを抱きしめながら、船を漕ぎ始めていたから。
    「……解決して一安心……安心したら眠気が……」
     すでに、子供は寝ているべき時間は過ぎている。
     世界もまた、大人の時間へと移っている。
     だから、今は帰還しよう。
     ゆっくりと体を休めよう。
     街の平和を守れたことを、心に抱きしめながら……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月28日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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