黒柘榴

    作者:一縷野望

    「今から向かう先にいるダークネスについて説明しますの」
     硝子を通さぬ澄んだ漆黒を一度だけ瞬かせ、二階堂・薫子(揺蕩う純真・d14471)は早足は止めずに続けた。
    「ダークネスの名は黒柘榴。見た目は10代半ばの少年で短い丈の和装に黒出目金のように派手なふわふわ帯が特徴的ですの」
     黒柘榴は羅刹。
     大江山の鬼さながら京都の北に棲んでいたがふらり山をくだり、目をつけたヤクザ事務所にふらり立ち寄っては――皆殺し。
    「私が追った事件は全てそうでしたの」
     強ければ手下にして暴れ回る気なのかもしれないが、どうやらお眼鏡に叶わぬご様子。非常に好戦的かつ傍若無人甚だしい。
    「今回も目をつけるとしたらこの辺の事務所のはず……ああ!」
     一心に歩を進めていた薫子達は、前方のやや古びたビルの2階のガラスが砕け男が自由落下に任せ落ち地面に叩きつけられるのを目にした。
     ……手当をするのはまだ遠い。
    『こっの……ふざけとるんかぁ!』
     あとは巻き舌下品な台詞を連ねたて男は刀を支えに立ち上がるが、2階からの悲鳴に顔色を失った模様。
    『親分! 今戻ります!』
     右側の階段へ足を引きずり向かう。彼が階段を半ばまで上がったところで、灼滅者達は外観から窺える状況を大凡把握可能となる。
     1階に住居スペースはなく、豪勢な黒塗りの外車が止まるのみ。
     2階の分厚い防弾ガラスはどれだけの衝撃を受ければこうなるのやら、半分以上をギザギザに欠け失い、中の様子がぱっくり丸見え。
    『なんや、ここもアカンのんか。アンタら弱いわぁ』
     果たして薫子が話した外見そのままの少年が、やけにデカいテーブルを背に白髪の老人の左脚を掴み軽々と逆さづり。
     反対の腕には巨大な祭壇が設えられている。神薙使いの物に加えて縛霊手の技を使ってくる可能性は高そうだ。
    『親分に何するんや!』
    『許さんで許さんで』
     更に窓とは反対側、目視できるのは2名が銃を構えて狙いを定めている。
     
     ――さて。
     キミ達は今から介入するわけだが、 達成すべき目標は『羅刹・黒柘榴の灼滅』である。
     一般人の生死は問わない。
     故に、一旦は潜み、黒柘榴が構成員を皆殺しにし悠然と降りてきたところに襲いかかるなんて手も取れる。先手がとれるこちらは非常に有利。
     勿論、即座に事務所へ踏み込み『コト』を起こしても構わない。
     ただ彼らは昔気質なヤクザ。目下に見える者が多い灼滅者に助けられるなんざ面目丸つぶれ。しかもだ、捕まっている組長は現状自力での脱出は不可能である。
    「お逃げいただくにも一筋縄ではいかなそうですの」
     眼鏡をぎゅうと握りしめ薫子は唇を切り結んだ。
     ……さてさて灼滅者の判断は如何に?


    参加者
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    逢瀬・奏夢(あかはちるらむ・d05485)
    東郷・時生(天稟不動・d10592)
    黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)
    二階堂・薫子(揺蕩う純真・d14471)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    宮瀬・柊(月白のオリオン・d28276)
    水無月・カティア(仮初のハーフムーン・d30825)

    ■リプレイ

     白昼堂々の討ち入りというには力の差が哀れな程にあきすぎて、約束された未来は全員無残な肉塊、命の終焉さようなら。


    (「ヤクザさんとはいっても一般人ですから……」)
     肩までの金をまとめあげ黒のスーツに身を包む水無月・カティア(仮初のハーフムーン・d30825)は、二つ目の飛翔で到達し指をかけるも危うく硝子で指を切りかけひやり。
     キノ連れ階段へ走る逢瀬・奏夢(あかはちるらむ・d05485)と2階へと踏み切る紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)の間で交わされる視線に籠もるは信頼感。
    「悪ぃねー」
     刀の男を壁に押しつける宮瀬・柊(月白のオリオン・d28276)の後ろを、明らかにこの場にそぐわぬ若者が駆け上がるが違和はない。
    「俺らの方がそいつにはお世話になってんのよ」
     傷を気遣いつつも突き飛ばされた男を、東郷・時生(天稟不動・d10592)はじっと見据える。
    (「その義侠心、無駄死にさせるには惜しい」)
    「薫子さん、ここでけりを」
    「はいお姉さま」
     頷き合う二階堂・薫子(揺蕩う純真・d14471)と黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)の脇で、志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)がノブを捻る。
    「開けます」
     まるで地獄の顎門が持ち上がるが如く溢れ出した殺気は罪深き遊びたがり。だが灼滅者達は一切の躊躇なく飛び込んでいく。
    「東藤組三代目・東郷時生! 躾けてやるからそこに直れクソガキ!」
    「弱い者いじめじゃなくて、正々堂々と勝負、なんてどうだ?」
     時生と奏夢の踏み込む速度は緩まず眼差しは鬼へ。だが拍子は一歩窓の外の仲間へ譲る。
    「ああ」
     木々を駆け回る獣が如く飛びかかった謡は足絡め掌で目隠し、鬼さんこちら。
     き……ちり。
     貝殻が合わさる硬質の音にて帯を巻き付け謡は口元を小さく綻ばせる。こちらが本命、命おくれ。
    「弱い者虐めとは。名の如き優美とは程遠いね、鬼」
     侮蔑滲む背後、奔る金は既に残像。
    「たぁ!」
     転がり入ったカティアの可憐なかけ声と共に繰り出される膝蹴り喰らい完全に虚を突かれた黒柘榴、その隙は逃さない!
    「先代の仇! 覚悟!」
     吠え猛る時生の拳は果たしてほどかれ老人の躰を奪い取った。同時に、奏夢はねじ込んだ躰を盾に追撃を完全阻止。
    「はやく逃げてください」
     血で煙らせ護るは隊列的に難しいと判断、ならば阻害手の役割を果たす所存。カティアはつま先で床を叩き重力狂いをより馴染ませる。
    『親分!』
    『てんめぇ、なんじゃわりゃ!』
     状況がつかめず喚き出す男達の鼻先へ薫子とりんごは抜き身の刃を突きつけた。
    「失せるですのソイツはこちらの獲物ですの」
    「この獲物は譲れません。手を引いていただけますか?」
     キッ……。
     指つなぐよに掠めあった刃はほどけ天井へ半円描き――まず、りんごの一閃は鬼柘榴が身を隠した机を豆腐のようにいとも容易く斜め切り。
     ごとり。
     落ちた三角錐の音はあくまで重たくこの場の『人間達』の耳を打った。
    「黒柘榴、その魂貰いにきたですの」
     つぷり。
     鋭さに避ける捨て腕斬らせ気性荒い宣告にただただ面白気に口元を歪める少年より、奏夢は唯ならぬ邪を気取る。
    (「こいつ、未だに彼らを巻き込む気か」)
     故に挑発。
    「こんな奴らより、俺らの方が強い……ってのは、お前にはわかるよな?」
     痺れる右腕厭わず左で掴んだ聖別剣を胎に受け入れ嗤う鬼。滴り落ちる血にますます彼の右腕が温度を亡くしていく。
    『テル! ヤス! 開けいあほんだらぁ!』
     尋常ならざる空気に柊が背中で蓋する扉がけたたましく震える。肩竦め触れた胸元には愛銃。
    「――」
     一方、この場でただ一人ヤクザ者の生死を問わぬ藍はその意図を隠そうともせず、全方面への殺意を放った。
    「ここからは修羅の道。志穂崎藍、参る!」
     すれ違い様娘が産んだ風は老人の萎れた頬を薄く裂く、そして後は――閃光。
    「早く外へ! 手当してやれ!」
     閃光の三発目は掌で受け止め嗤う鬼を背に、時生は老人を押しつけ未だ動かぬ舎弟を叱咤する。
    「手前のメンツと親分の命、どっちが大事だ!?」
     女任侠に完全に呑まれたのを確認し柊は後ろ手にノブを捻り引き開けた。
    『なっ……』
    「そら、お外に親分をお持ち帰りして、自分と合わせて手当しなー」
     チャラけた声は天井側から。
     もんどり打って事務所に戻った刀の兄貴が見たのは、宙返りで白熱灯蹴飛ばし着地した彼が鬼の胸に銃をねじ込み、
     ガンッと、
     それでいて顔を鷲づかみにして後頭部を机に喰わせる音だった。


    「やっと見つけたよー。俺らの親分ヤってくれちゃって」
     ゆで卵を押しつけて殻を割るような軽い音と共に顔全面から染み出した血が細く伝い床を湿らせる。
    「どうなるかわかってんのー? あ、わかんないよねー? お・し・え・てあげるねぇ!」
     掴みあげ叩きつけを残忍に繰り返す柊は、頬に跳ねた血に舌をのばす。その実、こんなモノは効いてなくて、零距離に詰め刺し入れた蒼くるみの銃剣が本命なのはお互い了解済み。
     だが、
     ――バケモノとなり損ないの殺しあい、素人さんにわかりやすい喧嘩を見せないとねぇ!
     更に更にやられっぱなしの黒柘榴ではない。夜闇色の袖ひらり、持ち上げた腕はしばし空をかくもサラシであらわなりんごの胸をわしづかむ。
    「お、お姉さま!」
    「うろたえないで」
     ひゅ。
     吊り上げた躰を気軽に振り回し天上へと叩きつける。
    『ひ、ひぃ……』
     轟音引き連れ発泡スチロールめいた軽さで落ちる建材に怯えるヤクザを眼下に、りんごはバランスを取る。こんなものは灼滅者にとってはこけおどし。本番は次、覚悟は完了!
    「――ッく」
     たしっ。
     猫が金魚を弄ぶように軽く軽く、しかし祭壇の中で握った拳の一撃は芯へ痛みと軋みを膿みつける。とはいえ仲間がこれしきで心折るわけがない、されば気掛かりは巻き込まれるヤクザ。と、謡は落下地点で伸び上がり確とその身を抱き留めた。
    「極道なりの筋もあるだろうけれど、鬼相手に散らずとも良いだろうさ」
     一応は包帯を巻く素振りを装い腕にて遊ぶ帯を伝わせて迷宮鎧の癒しを施す。
    「埒外には埒外が当たる。成る丈筋は通す故、化生退治は任せて貰おう」
     滾々と説き伏せる謡は間違いなく逸脱者。
    「……そいつの言う通りだ。はやく去れ」
     紫苑と結ぶ金。
     紫苑は釣り下げた右腕に気遣わしげに注がれていて、金は気怠さ帯びる手を振り返し影に乗り斬りかかるキノへ視線を移した。
    『テル、ヤス……親分連れて、逃げぇ。面子はわしがッ!』
    『アカン、ヒコ! お前が1番手負いやないけ、置いていけるか阿呆!』
    「そうです、親分さんの言う通りです。あなたも逃げてください」
     何処までも漢として振る舞う刀の男と恥を呑んで組の者を護る判断した老人の姿は、カティアの紅に羨望孕みの像を結ぶ。
     もし。
     もし……自分が7歳の誕生日を無事超えられていたならば、こうはならなかったとしても『男』としての在り方をきちりと手にできていたのだろうか。
     血の記憶。
     自分が壊した両親(ふたり)
     カティアは切り結んだ唇をほどき、叫ぶ。
    「命を無駄にしないでください」
     彼らから死角となるよう掲げた腕は爆ぜ、先程重力を狂わせた綻びへと酸を着弾させた。
     二人に抱え上げられて退出する老人を背に踏み込んだ時生の翡翠は、憤懣やるせなく刀を震わせる男と突き当たる。
    「親分はなんて言った?」
     ごづり。
     ネクタイ引きぶち当てた額の痛みは今日感じる一番の強さだと間違いなく時生は言える。彼が面子を砕かれた痛みなのだから。
    『……引けるか阿呆ぅ』
    「先にインネンつけられたのはこっちだ」
     男の『義』に訴えるようにほんの僅か気配を緩め、
    「この場は譲れ」
     請うた。
    『ぐッ! 好きにさせたらぁ』
     叫びなのにむせび泣くような声音を背負い翻した黒の裾から迸るは、焔。
    「任侠の親子関係はお安くないんだ!」
     業火に巻かれる少年へ吐き捨てた台詞は引いてくれた男へのせめてもの手向け。
    『ほったらなんなん?』
     未だ燃える肉の成れの果てを自ら引きはがし灼滅者達をぐうるり。いつの間にやら白目は頭頂の黒曜色に変じていた。化物隠す必要ないと言わんげに。
    『ほんで? 仇てどれや?』
    「どれとは……」
    「……巫山戯てますの?! あれだけ沢山手にかけておいてその言いぐさ赦せませんの!」
     りんごの抗議を奪い薫子の声が迸ったのは黒柘榴を追い続けた執念故。来る日も来る日も無残な任侠の屍を目にし、次こそはと誓った日々が破鐘の叫びとなる。
    「……っお姉様、ごめんなさいですの」
     りんごは頭を振ると灰桜の柄を握る指へほっそりとした手を重ね撫でた。
    「薫子さんの無念は痛い程にわかります。もう無駄に生命を散らせるわけにはいきません」
     ひゅ、ひゅひゅり……。
     風圧が啼き、血飛沫が壁に描くは煉獄図。重い一撃は乗り出し肩口で受ける、次の鋭い一撃は首へと流し堪えきる。
    『……はっ』
     芝居を打って人間逃がし、その間ぴたりとも手管を緩めぬ面々へ鬼は口元吊り上げる。
    『しゃあない、のったるわ』
     そもそもが、鉄砲玉を使って『そういうの』に突き当たるのを愉しみにしていたわけだから、手間が省けて有り難いぐらいだ。
    「――俺達は、強いよ?」
     いつの間にか忍びより机に半身預け銃を突きつけるは柊。台詞が真実なのは避けられぬ定めが物語る。
     彼的に『最良』のリザルトは確定、後は其れを得るために勝負に勝つだけとグリップで鼻っ面を思う様打ってやった。
    『……ッ!』
     仰け反った所を後ろから蹴り落とすは藍の踵。
    「とことん戦いを楽しみましょう」


     階下に逃れし彼らは、常識外れの衝撃を受けてかつての城が崩壊への王手をかけたのを目にした。巨人が外から掴み地上から引き千切り揺らしたとしか言いようがない。辛うじて残っていた硝子が爆ぜ投げ出されたのは、黒衣の任侠三代目。
    「……ッ! やってくれるねぇクソガキ!」
     受け止めた電柱は飴細工のようにひしゃげるも一向に手折られぬ様子なき時生は灰色でくの坊を蹴飛ばし室内へ、同じ膨れ手でご返杯。
     再び起こる類似の暴虐振動。
     今度は隣のビル壁に水喪って割れた大地の如き罅割り叩きつけられたのは、先程まで玩具のように自分達を壊していた小坊主だ。
    「成程、ボクを潰そうとするとは力任せだけではないわけか」
     疵負いの時生を受け止めるように謡から伸びた帯が絡みつく。駆け込むキノが眼差しで零れ落ちる血を繕った。
    『アンタ、同類やのに殴ってけぇへん』
     窓から悠然戻った少年は、今や血が跳ね柘榴と為った黒帯を後ろ手で整えほくそ笑む。
    『そやしもうええか思て……死にぃよ』
     しゃん……しゃんしゃん……。
     帯と同じ色した祭壇の中、霊糸がふれあい鈴音をたてる。
     滑るように来る鬼をつっかえ棒で止めるよに床に刃を刺して迎え撃つは、奏夢。絡みつく霊糸が介入する自身を護るようにぎゅうと拳握り、
    「謡、一発デカイの入れてやれ……って言いたいところだけどな」
     友へと笑みかける。
    「叶わぬようだ、奏夢さん」
     ――任せたよ?
     応と返せば右腕の痺れが如何ばかりか消えた。その癒しを代償に招聘した罪の十字は着物を掴み開き脱がす見目で胸肉を抉る。まさに名は体を表す、柘榴めいた傷を刀の姉妹任侠が切りわける。藍が掴みとるように拳をねじ込んだ。
    『はぁ、はぁはぁ……こんな傷、平気の平左や』
    「そうですか」
     ざきょり。
     処刑人の首刈りは無慈悲にカティアの遂行する軌跡に掲げた祭壇が揺らいだ。的と謂わんげに打ち抜き毒を挿すは柊。
    (「もう何処を塞いでいいかわかんないね」)
    『良かったなあ、仕切り直しの1回休みや』
     とはいえ、傍若無人な力を攻撃手に膨らませれば負けぬとタカを括った少年は未だ勝ち夢の中、逃げる気などないから退路断ちも不要とくる。
     嗚呼しかし、祭壇の光はカティアの記した呪いのせいで随分見窄らしいモノと成り果てているのだが。


    『ああもう、邪魔や邪魔や!』
     斯様に黒柘榴がダダをこねるのは何回目だろうか。互いの役割に呼応し畳みかける灼滅者に封じられ苛つきは最高潮である。
    「義理も人情も分からないガキに、アタマは務まらないよ!」
     三日月に吊り上げた時生の唇から溢れる血は、足元から吹き上がる清浄の風にて虚空に舞う。花びらひらり、更に奏夢の照らす祭壇からの光にて夜に浮かぶ桜とまで変じる命の血潮。流された其れは尊い、先程主残すためつかの間散った忠犬のモノも等しく。
     砕けたテーブル、建材、誰かの血……雑然と散らかる暴力の痕跡がふうわり持ち上がり風に巻かれる――其れは、天上蓮の花のように清廉に。
    「……大丈夫、ですね」
     謡の風で癒し得る仲間を視界に納め、カティアは足元に燻らせた風を宥めるように指を握る。
    「ああ、ボクが治すから思う様いっておいで」
    「はい」
     攻撃的射手二人の戦陣、故に黒柘榴の足を止めたのは妨害手の彼の双肩に掛かりカティアは見事果たした。
    「逃がしませんよ」
     祭壇に縋る鬼を捉える紅はきっかりとした口調で宣告し、バレエの演目が如く清楚で流麗なつま先を撓らせる。
    『くるな阿呆!』
     と。
     顔面庇う鬼は二の腕に軽く触れられただけなのに腕をだらり落とし蹈鞴を踏む。
    「腰が震えてるよー?」
    『アンタだけでも殺したる、どこや?!』
     声で引き既に机と呼ぶのも難しい物体へ身を屈め姿消す柊、苛つき露わな鬼へ黒髪の娘二人が頷き合った。
    「薫子さん、畳みかけます」
    「はい、お姉さま! 先へ参ります」
    「任せます!」
     朱に桜の黒肌着の妹薫子が先を行き胴を薙ぐ。振り抜き踊る袖を分け入り胸元に爪痕刻む姉のりんごが、クる。
     くるりん。
     マヌケな人形の如く回る鬼へ逆まわしの、斬!
     チリ、チ、ィ……。
     後ろ手に捻り置いた切っ先が触れあい謳うはつかの間、左右からえいや! と刺し貫く。そうして全くの同じタイミングで引かれる刃はまるで、芝居の幕があがるかのよう。そして絢爛舞台に躍り出るは、藍。
    『ばぁか、お前の動きは直線的で……ッ』
     愚弄であがる顎を柊の銃弾が撃ち抜いた。
    「自分より強い者に倒されるなら、本望ってやつでしょ?」
    『……まだ倒れてへんはボケェ!』
    「そうです、全力で来なさい」
     足を止め腕組み顔を逸らす藍へ黒柘榴は薪を無尽蔵に放りこまれた竃の如く怒りで頬を爆ぜ上がらせる。
    『舐めおってからにいい!』
     渾身を乗せた腕へ躊躇いもなく走り込む藍、狙いは――。

     ――どん。

     膨れた腕で殴り合い、しかし鬼の手は二人の姉妹に封じられナマクラ刀――とはいえ此処まで動きを見た以上喰らうは無様。
    「……」
     僅かに貌を逸らしできた空間を掴まされた拳は解け、
     ばさり。
     鬼の躰は無様に砕けた。
     嗚呼其れは、彼が莫迦にした人よりも儚く脆くひたすらに無様を晒した最期であったという。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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