●彼女は山からやって来る
交差点を行き交う車、昼食を求めて商店街を練り歩いていく人々。晴れやかな太陽が映し出す山麓にある街の、どこにでもある平和な光景。
乱されようとしているのだと、蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)は山の方角を眺めながら説明を開始する。
「噂を聞きました。まるで貴婦人のような姿をした、残酷な羅刹の噂を」
その羅刹の名は、メアリー・B。花を沢山あしらったドレスと金髪碧眼が特徴的な女羅刹。
立ち振舞は穏やかかつ優雅だが、血の花を見るのが大好き。欲望を満たすため、時々配下を引き連れて山から下りて来るらしい。
「その、山が下りて来る日が今日だという情報を察知し、こうして集まってもらったのです」
山の方角にある町の入口で待ち構えれば、問題なく羅刹たちを迎え討つ事ができるだろう。
後は灼滅すれば良い、と言う流れになる。
「戦力は不明です。想像できるのは、血を流させることを主眼にした攻撃をしてくること。そして、羅刹らしくたくさんの取り巻きがいるだろう……といったところでしょうか」
もっとも、具体的なことはわからない。
故に、何があっても大丈夫なように作戦を組み立てる必要があるだろう。
以上で説明は終了と、榛名は目を細めていく。
「放置すれば、たくさんの血が流れてしまう羅刹です。ですので、全力を尽くしましょう。この街の平和を守るためにも……」
参加者 | |
---|---|
李白・御理(小夜鳴鳥の歌が聞こえる・d02346) |
壱越・双調(倭建命・d14063) |
四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781) |
月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644) |
霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832) |
蓬野・榛名(陽映り小町・d33560) |
桜谷・玲(桜華・d33824) |
斎藤・陽介(風と音の操り手・d36849) |
●貴婦人は山からやってくる
「……」
桜谷・玲(桜華・d33824)が悲しげな表情で怪談話を語り始めた時、街をゆく人々は離れ始めて。
山へと繋がる道路から。これより、血に飾られると考えられる場所から。
ひと気のなくなった道路を、涼し気な山風が吹き抜ける。汗ばむほどの熱を、程よいほどに和らげていく。
それを楽しむ時間は、さほどない。
程なくして、山道に影が見えたから。
花のあしらわれたドレスを着込んでいる女性を……羅刹メアリー・B中心とした執事風の集団が、歩いてくる姿が見えたから。
霧亜・レイフォード(黒銀の咆哮・d29832)が道路の中心に歩み出て、集団の足を止めさせていく。
「悪いがブラッディパーティの開催は中止となった、何故かは分かるな?」
「あら、それは残念」
さほど驚いた様子もなく、メアリー・Bは口元を抑えて微笑んだ。
その瞳の奥に鋭い光を感じた時、壱越・双調(倭建命・d14063)は音を遮断する力を展開する。
「もっとも、はじめなければならない事があります」
「メアリー・B、あなたを倒すための戦いを……」
李白・御理(小夜鳴鳥の歌が聞こえる・d02346)は優しい風を招き入れ、メアリー・Bの執事たちへと差し向けた。
執事たちは三名を除き、夢の世界へといざなわれる。
即座に前に出ていくその三名の後ろ、メアリー・Bは冷たく目を細めた。
「そう、ならば改めてはじめましょう」
口元には笑みを浮かべたまま、スカートの裾をつまんで優雅に一礼し……。
「貴方がたを主演とする、血の花を咲かせるためのパーティーを……」
●血の花を咲かせる貴婦人は
両者の言葉が途切れると共に訪れた沈黙。
仲間たちがしかける機会をうかがっていく中、玲は煙を立ち上らせていく。
「僕は次から仕掛けます」
「……行きます」
それが合図となったのだろう。四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)が棒をに炎を走らせつつ、先頭に位置する配下の懐へと入り込んだ。
突き出した先端がクロスした腕に受け止められていく中、最前線一歩手前で立ち止まった斎藤・陽介(風と音の操り手・d36849)が虚空に向かって回し蹴り!
「邪魔なんだよ、てめぇらは!」
腕をクロスさせている配下も、その他の配下も、まとめて後方へと後ずさらせた。
息つく暇も与えぬと、狼耳をなびかせている月夜野・噤(夜空暗唱数え歌・d27644)が腕をクロスさせている配下の懐へと飛び込んでいく。
非物質化させた剣を突き出して、偽りの力そのものを貫いた。
「いっぱいいます……負けません……です……!」
手首を返し、横に切り裂いていく噤。
表情を曇らせながら、手を伸ばし始めていくメアリー・B。
その眼前に、光が迫る。
メアリー・Bの眼前にて霧散するも、二歩ほど後退させることには成功した。
発生源をたどり始めたメアリー・Bの瞳の中、蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)がまっすぐに見つめ返していく。
「メアリー・B、あなたの相手はわたしが努めます」
求めているという血の花を、咲かせるわけにはいかないから。
穏便に帰ってくれない以上、ここで倒さなければならないから。
「……」
メアリー・Bは光の残滓を軽い手振りで振りほどいた後、榛名に向けて手を伸ばす。
「っ!」
次の刹那、榛名は胸元に強い痛みを感じた。
手で抑えながら視線を向ければ、薔薇のように赤い花が咲いていて……。
「ふふっ、綺麗ですわ。貴女の、赤」
「……」
唇を噛みながら、榛名は強引に花を抜き投げ捨てる。呼吸を整えながら大鎌を横に構え、メアリー・Bに狙いを定めていく。
「……わたし達は負けたりしないのですっ」
痛みを押しながら、大鎌で虚空を斬り裂いた。
黒き風が生み出され、メアリー・Bに襲いかかり……。
「っ!?」
直後、メアリー・Bの背後に影がさした。
振り向く暇も与えずに、玲は悲哀化した拳を叩き込む。
「素敵な貴婦人、さぁ、おひとつ僕達のお相手をしていただけませんか?」
「……」
言葉なきまま振り向く、メアリー・B。
玲は視線を受け止めながら一歩下がり、守りの構えを取っていく。
仲間たちが配下を倒しきるまで抑えるのだと、二人は強い意志の元にメアリー・Bと対峙し続ける……。
配下たちは、メアリー・Bを守るように動いていた。しかし、灼滅者たちは多くが配下へ、二人がメアリー・Bへ……と、分断するように動いていたためだろう。守るように動けたことは少なく、自らの役目を果たせない焦りからか動きも乱れ……灼滅者たちの技の前に、次々と倒れていった。
悠花が棒に込めていた魔力を爆発させた時、最後の一人となっていた配下が吹っ飛んだ。
その配下が電信柱にたたきつけられ昏倒していくさまを横目に捕らえた後、メアリー・Bへと向き直っていく。
「さあ、後はあなただけです。覚悟してください」
「……あら?」
状況に気づいたのか、榛名と玲に抑えられていたメアリー・Bは華麗な足取りで距離を撮り始める。
逃さぬとばかりに、双調は帯を放った。
「……」
もとより逃げる気はないとでも言うかのように立ち止まり帯を打ち払っていくさまを見て、双調はすかさず距離を詰める。
直後、花の香が世界に満ちた。
視界がほのかにかすみ始めた。
甘い匂いの残滓を嗅ぎながら、御理は優しい風を招いていく。
「大丈夫、花の香気に惑わさせたりなどしませんよ」
風は、香りごと呪縛を拭い去る。
双調が動きの精細を取り戻していく中、余波を受け取った噤は脚に炎を宿しながら駆け出した。
「まだまだここからです……! です……!」
側面へと回りこみ、腰の入ったハイキック。
白い手袋をはめた右腕に阻まれるも、炎を与えることには成功した。
チリチリと花が焦げ始めていく中、レイフォードが交通標識を握りしめながら距離を詰めていく。
弾きあうメアリー・Bと噤の間へと割り込んで、大上段から振り下ろした!
「っ!」
クロスした腕に阻まれるも、力比べへと持ち込んでいく。
まっすぐに瞳を見つめながら、言葉を投げかけていく。
「しかし、ボス自身が積極的に戦闘に参加しないとは……、血の花を見るのが好きと言う割には結構控えめなんだな」
「あら、主は控えるもの。最後に剣を振るうものではなくって?」
返答とともに弾かれるも、視線を逸らすことはない。
「聞こう、血の花何てどこがいい? 赤一色で美しくもないし、バリエーションも無くて早々に飽きてしまうと思うんだがな?」
「……」
瞳を細め、微笑むメアリー・B。
レイフォードに向けて手を伸ばし、小鳥が囁くような声音で紡いでいく。
「飽きることはないわ。だって、違うもの。人によって、血の色は。血には、その人の人生が刻まれているのだから……」
伸ばされた手から、力が放たれることはない。
ライドキャリバーのゼファーが、割りこむように突撃したから。
避けるため、メアリー・Bが後ろに飛んだから。
着地際を狙い、榛名は大鎌で虚空を切り裂いていく。
「血の花なんて、咲かせるわけにはいきません。この街の平和を守るため。鬼退治をさせてもらうのです」
黒き風を浴びながらも、微笑み絶やさず手を伸ばしていくメアリー・B。
その視線の先、玲の胸元に花が差した。
すかさず、御理が光を浴びせていく。
花は消滅した。
傷は、癒えない。
「なるほど、薄々感づいてはいましたが……癒せない傷とは器用な技を使いますが。こちらもそれを修繕する準備はしてきました!」
花を消してから治療すれば良いと、再び光を集める準備を始めた。
治療までの時間を稼ぎより多くのダメージを与えるのだと、悠花は炎に染めた棒を突きだしていく。
胸を反らす形で回避されたから手首を返し、先端を左肩へと触れさせた。
更なる火力に焼かれていくメアリー・Bを確認しつつ、手元に棒を引き戻して飛び退る。
「かさねます……です!」
入れ替わるように、噤が自らを回転させながら飛び込んだ。
尻尾を振り乱しながら断罪の輪を振り回し、メアリー・Bの腕を肩を切り裂いていく。
戦いの優位は掴んでいる。
その優位を手放さずに戦えば、きっと……。
●貴婦人は花を求めていた
治療を欠かさず、守備を漏らさず、攻撃の手を止めず……灼滅者たちは配下を倒した際の優位を保ったまま、メアリー・Bへの攻撃を重ね続けていた。
既にドレスもボロボロで、あしらわれていた花も見る影もないメアリー・B。されど瞳に宿る光は陰らず、笑みが曇ったこともない。
あくまで優雅に立ち振舞い血の花を求めていくさまを見て、双調は目を細めていく。
本来の意味での貴婦人を、知っている。最も親しい、愛しい女性がそうなのだから。
だからこそ、目の前にいるメアリー・Bは……貴婦人の名誉を汚す存在は、許せない。だから……。
「……」
腕を肥大化させ、殴りかかる。
クロスした腕に阻まれるも力を込め、二歩。三歩と後ずらさせる事に成功した。
後を追いかけるかのように、陽介が矢を放っていく。
「避ける暇なんかやらねーよ!」
街の平和を守るため、目の前の羅刹を倒すため。
意志の通じた矢は、誤ることなく左肩を貫いた。
更にはレイフォードが帯を放ち、右肩を切り裂いていく。
「さあ、そろそろ終わりにしよう。もっとも……血のパーティーなど、もともと開かれてはなかったのだがな?」
呼応し、ゼファーが機銃を唸らせる。メアリー・Bの足を打ち据え、逃げるすべを奪っていく。
痛みもまた感じていたのだろう。たたらを踏み始めていくメアリー・B。
その隙を見逃さぬと、悠花は棒に魔力を込めて踏み込んだ。
まっすぐに振り下ろし、左肩へと叩きつけていく。
「……」
腕に衝撃が伝わるとともに、込めていた魔力を爆発させた。
爆風に乗せながら退く中、メアリー・Bが膝をついていくさまを……。
「っ!」
すがるように手を伸ばし自らを示している事に気がついて、悠花は空中にて身構えた。
その体を、帯が抱いていく。
帯が小さく震えた時、メアリー・Bは何かを諦めたかのように手を下ろした。
「上手く弾けたみたいですね」
担い手たる御理が安堵の息を吐き出した。
さなかには双調が爆煙の中へと飛び込んで、非物質化させた剣を突き出していく。
「貴女は凄く醜い。人の心を無視した心の持ち主は真の貴婦人とは言えません。心の美しさを兼ね備えているからこそ、美しいと言えるのです」
「……」
刃は、誤る事なく力そのものを貫いた。
それでもなお、微笑みが崩れることはない。
立ち上がる気配も見せている。
戦いは終わっていない……と、噤は爆煙が晴れると共に跳躍した。
炎を宿した足を伸ばし、立ち上がろうとしていくメアリー・Bに向けてジャンプキック!
「血は流させません……! です……! ここで倒します……!」
つま先は、右肩へと突き刺さる。
衝撃に負け、メアリー・Bは尻もちをついていく。
「畳みかけるぞ」
即座に、陽介が虚空を斬り裂いた。
駆け抜けていく風刃の後を追う形で、玲が帯を放っていく。
風刃に押され、帯に首筋を裂かれていくメアリーBから視線を外し榛名へ目配せした。
榛名は頷き、指に力を込めていく。
立ち上がる事もできないメアリー・Bに狙いを定め、指し示し……。
「蓬餅ビーム!」
正義のビームを打ち出して、メアリー・Bを打ち据えた。
衝撃に促されるがままに、メアリー・Bは倒れていく。
「負けるのね、私が……血の花を……愛でることなく……」
……最後まで微笑みを絶やさぬまま瞳を閉ざし、花粉のような粒子となりて消滅し……。
眩い太陽に照らされて変わらぬ日々を過ごしていく、山麓にある小さな町。
これまでもこれからも変わらず描かれていくだろう光景を眺めながら、陽介は安堵の息を吐き出した。
「つっかれた……。でも、これで、街は守られた……んだよな」
メアリー・Bは打ち倒した。
元配下たちも、目覚めれば各々の日常へと戻っていくだろう。
だから、今は休息を。
勝利を、平和を喜びながら。
冷涼な山の風が心地よい、木々の香りも運ばれてくる街の入口で……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年7月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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