強引なセールスにご用心!

    ●都内某所
     頻繁にセールスマンが訪れる住宅街があった。
     彼らが売るものは、怪しげな器具から保険まで様々。
     それがどんなに粗悪な物でも関係ない。
     とにかく売る、売って、売って、売りまくる!
     売れれば、それで問題なしっ!
     相手がどんなに拒絶しようが関係ない!
     押して、押して、押しまくる。
     相手がうんざりしたところで、捲し立て!
     『この商品は他とは違います!』、『あなただけに特別サービス』と……。
     それでも、相手が首を縦に振らなければ、居座る。
     御泊りセット持参で、寝袋持参で、居座り続けた!
     そして、ハンコをポンと押してもらえば、契約成立!
     そんな事を繰り返していたせいで、『あいつらは人間じゃねえ。きっと、この世のものではないんだ』という噂が流れ、都市伝説が生まれてしまったようである。

    「セールスと、幸せのお裾分けはカンベンな!」
     訳の分からない事を言った後、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。

     都市伝説は商品を売るためには手段を選ばず、それがどんな欠陥品で問題があろうとも、クーリングオフを受け付けない!
     今回ヤツが売るのは、怪しげなトレーニング器具。
     これを身に着けていると、一か月で10キロは確実に痩せるスーパーアイテム。
     しかも、今ならもう一個ついてくる!
     ただし、すぐに壊れる粗悪品!!
     おそらく、お前達が都市伝説を見つけた頃には、主婦を捕まえてこの商品を売り込んでいるはずだ。
     主婦の方も早く帰ってほしいから、契約を交わすつもりでいるが、そんな事をすれば確実に損をする。
     最初に手渡された名刺に書かれた連絡先も、消費者センター的なところだから、払った金を回収する事も難しいだろうしな。
     都市伝説は例えお前達が攻撃を仕掛けたとしても、商品を売る事をやめようとしない。
     『この商品で全米が泣いた』、『これを使って車いすの女の子が立った』、『おじいちゃん的な何かが生き返った』、そんなすごいアイテムだから、とにかく買えと迫ってくる!
     まあ、鬱陶しいだけで倒すのは簡単だから、とりあえず頑張ってくれ。


    参加者
    ポンパドール・ガレット(休まない翼・d00268)
    本郷・大和(中学生シャドウハンター・d01918)
    瑠璃垣・恢(キラーチューン・d03192)
    蒼氷・メイ(蒼竜戦士・d03669)
    玖珂島・蓮也(高校生ストリートファイター・d04694)
    クラウィス・カルブンクルス(朔月に狂える夜羽の眷属・d04879)
    狗神・千歳(中学生ストリートファイター・d05852)
    エリカ・ファッケッティ(紅き悪魔・d09069)

    ■リプレイ

    ●強引なセールス
    「勧誘とか、セールスは……大体居留守でやり過ごすんだけど……。強引なのは、ちょっと……」
     事前に渡された資料を眺めつつ、狗神・千歳(中学生ストリートファイター・d05852)が都市伝説の確認された住宅街に向かう。
     この住宅街は金持ちが住んでいる事で有名だったため、平日の朝から夕方まで頻繁にセールスマンが訪れていたようである。
     ひとり断っても、またひとり……。
     断っても、断っても、次から次へとセールスマンがやってきた。
     そのため、居留守を使っても『奥さん、いるんでしょ。いますよね。入りますよ。話だけでも聞いてくださいよっ!』といった感じで家の中に入り、商品を売るまで帰らなかったようである。
    「まったく、とんだセールスマンも居たものだ」
     半ば呆れた様子で、玖珂島・蓮也(高校生ストリートファイター・d04694)が頭を抱えた。
     都市伝説がいるだけでも、厄介な事になっていると言うのに、それを上回るほどの問題を抱えているセールスマン達。
     こちらも何とかして解決したいと思ったが、相手が人間である以上、倒すわけにもいかなかった。
    「汚い商売と、悪の栄えた試しはない……。うちの婆ちゃんが、そう言ってた」
     険しい表情を浮かべながら、本郷・大和(中学生シャドウハンター・d01918)が口を開く。
     ちなみにセールスマン達が主に扱っていたのは、海外で人気のサプリメントや、トレーニング機材。どれもシャレにならないほど高いが、それに比べて効果がないものばかり。
     それでも、セールストークを聞いていると、『効果があるかも』と思ってしまうところが怖い。
     しかも、高い金を払ってしまったせいで、『これは良いもの、良いものなの!』と自分自身に言い聞かせてしまうケースが多く、被害者が多い割にはその事がまわりに伝わっていない事が多かった。
    「こんなものをむりやり売りつけるなんて……、許せませんね」
     資料の中に入っていた商品の写真を眺め、クラウィス・カルブンクルス(朔月に狂える夜羽の眷属・d04879)が怒りで拳を震わせる。
     しかも、被害を受けている大半が、主婦。
     その中には誰にも言えず、泣き寝入りした者も、少なくはないだろう。
    「家計の敵、死すべし バイトで生計を立てる苦学生としては、見過ごせない話だよ。きっちり片付けて、悪徳商法に悩まされる人達を解放しよう」
     ヘッドフォンを被ってガムを噛みながら、瑠璃垣・恢(キラーチューン・d03192)が閑静な住宅街を歩いていく。
     どの家もシャンデリアやら、シカの頭飾りやらがありそうなつくり。
     その途端、近くに家で悲鳴から悲鳴が響く。
    「押し売りもあそこまで来ればいっそ呆れてくるな……」
     悲鳴の聞こえた現場に駆けつけ、蓮也が呆れた表情を浮かべる。
     都市伝説はドスの利いた声を響かせ、主婦を脅して精神的に追い詰めていた。
     そのため、主婦も涙目になりつつ、契約書にサインをしようとしている。
    「落ち着きなさい、あんな物を買ったらダメよ。それに、押し売りは立派な犯罪。まあ、都市伝説にそんな事を言っても無駄でしょうけど……」
     都市伝説と主婦の間に割って入り、エリカ・ファッケッティ(紅き悪魔・d09069)が溜息をもらす。
     だが、都市伝説は決して退かない、諦めない。
     意地でも契約書にサインをするため、凄みを利かせて『早くサインしろや!』と迫っている。
    「だったら、その商品……俺達が買ったッ! それで問題ないだろ!」
     都市伝説から強引に契約書を奪い取り、ポンパドール・ガレット(休まない翼・d00268)が契約書にサインをする。
     そこに書かれていたのは、適当な名前。
     都市伝説も確認する事が出来ないため、ホクホク顔で契約書をしまう。
    「今のうちに逃げてください。後はあたし達が何とかしますから」
     怯える主婦にコッソリと声を掛け、蒼氷・メイ(蒼竜戦士・d03669)が都市伝説をジロリと睨む。
     それら気づいた都市伝説が『おいおい、ちょっと待て。まだ売り物があるんだぜ。それを見ずにここから去るなんて、認められるわけがねえだろ』と言って不気味な笑みを浮かべて、次々と商品を並べ始めた。

    ●胡散臭い商品
    「んー……、もっとこう、イカした物はねえのか? なんか全部地味で面白くねえよ」
     並べられた商品を眺め、大和が不満を述べていく。
     しかし、都市伝説も負けてはいない。
     目の前に並んでいる商品がいかに素晴らしく優れているか、物凄く大袈裟に褒め倒してアピールし始める。
    「その商品……、私が買ってあげてもいいよ? 御代は、拳で」
     スレイヤーカードを左手人差し指と中指で挟み、千歳が水平に伸ばしたポーズで『纏え』と解除コードを口にした。
    「……玖珂島蓮也、参る!」
     続いて蓮也が自ら名乗りを上げながら、手を熊手の様な形にしてオーラを掌に纏わせ、一気に間合いを詰めていく。
     だが、都市伝説は商品を売るため、命懸け。
     素早い身のこなしで攻撃をかわすと、『とにかく、金は払ってもらうぞ』と吐き捨てた。
     主婦の方も自分の家から離れる訳にはいかないため、こちらの様子を物陰から窺っている。
    「おっと、忘れていた。俺達は誰も『金で買う』なんて言ってねー」
     都市伝説の懐に潜り込み、ポンパドールがロケットスマッシュを叩き込む。
     その一撃を食らって都市伝説が派手に吹っ飛び、『な、何を寝ぼけた事を……。契約書にサインをしたじゃないか』と反論をする。
     その契約書にはきちんと現金で支払う事が書かれていたが……。
    「実はそれ……偽名なのよ」
     苦笑いを浮かべながら、メイが契約書を指差した。
    「な、な、なんだと!? 貴様ら、俺を馬鹿にしているのか! 商品が売れるまで一歩も動かん、動かんぞおおお」
     都市伝説の叫び声が辺りに響く。
    「喧嘩なら買うよ。押し売り、してくれるんだろ?」
     首を傾げてゆるりと笑い、恢が都市伝説に視線を送る。
    「な、何故だ。何故、買わない」
     それでも、都市伝説は納得がいかない様子。
    「買う訳ないでしょ。何よ、これ。全米が泣いたって、某ハリウッドの大作映画かっ!! こんなモン買った人間でしょ、泣いたのは!!」
     その場にあった商品を手に取り、エリカが都市伝説にツッコミを入れる。
     だが、都市伝説は『嘘はついていない』の一点張り。
     おそらく、エリカの言っているような意味で、正解と言う事なのだろう。
    「……買って欲しいと言うのであれば、それなりの誠意を見せるのが筋ってものでしょう……? ……まぁ、貴方に何を言っても無駄でしょうが……」
     主婦を守るようにして陣取りながら、クラウィスが皮肉混じりに呟いた。
     その途端、背後で声が聞こえた。
    「これ以上、家を壊すのなら、警察を呼ぶ」
     と……。
     よく見れば、先ほど都市伝説が吹っ飛んだ壁がひび割れ、崩れ落ちている。
     ……マズイ。非常にマズイ!
     脳裏に過るのは、ケタ外れの請求額。
     しかも、都市伝説はこの場から離れようとしない。
     自分が弱い事を知っているが故の行動、ある意味作戦。
     それを理解しているのならば、効果範囲の狭い攻撃で、都市伝説を仕留めねばならない。
     ここは玄関、主婦の目がスナイパー並みに鋭く光っている。
     都市伝説はそれを見て、ニヤリと笑った。

    ●都市伝説
    「さあ、どうする? 俺はここから一歩も動かんぞ。ここから出ていってほしいのなら、あの奥さんに頼んで契約書にサインしてもらうんだな」
     邪悪な笑みを浮かべながら、都市伝説が契約書をチラつかせる。
     都市伝説が外にいるのであれば、一気にカタを付けてしまうところだが、都合の悪い事にここは家。
     しかも、主婦が壊れた壁を見て、こめかみをピクつかせているような状況。
     都市伝説から助けてもらった分、ここまでなら我慢はするが、これ以上の事をすれば、自分達の身が危うくなってしまう。
     それが分かっているのか、都市伝説は強気。
     無駄に強力な力を手に入れた雑魚並みに強気であった。
    「敵は大して強くないって聞いていたが……、まさかこんな事になるとはな」
     険しい表情を浮かべながら、大和が都市伝説をジロリと睨む。
     これが広い場所であれば、都市伝説を倒す事も容易だが、玄関となれば話は別。
     しかも、都市伝説は動かない。商品が売れるまで動かない。その上、現金払いのみ。
     逆にここで戦えば被害が出るのは必至。主婦ぶち切れ。現金払い。
     どちらにしても、最悪な展開。
     よくよく考えてみれば、素直に金を払って都市伝説がホクホク顔で外に出た瞬間を狙って、フルボッコにすれば済んだ事。
     その後、払った金を回収すれば、楽に依頼を解決する事が出来たのだが、いまさらである。
     思わず、どうでも良くなってライドキャリバーで突っ込もうかと思ったが、そんな事をすれば一生レストランで皿洗いをしても間に合わないくらいの請求をされてしまう。
    「とにかく、みんなで頑張るわよ、特に皿洗いを……!」
     何やら訳が分からない状況になりつつ、メイが覚悟を決めた様子で鏖殺領域を展開する。
     既に頭の中は弁償する気満々。
     皿洗いだって、みんなでやれば怖くない。
     もちろん、そんな状況は何としてでも避けたいのだが……。
    「お、おい、ちょっと待て。お、おれを殴ったら、た、大変な事になるぞ!?」
     青ざめた表情を浮かべ、都市伝説が苦笑いを浮かべる。
     ……さすがにこれは予想外。
     メイ達が攻撃する事を躊躇っているうちに、商品を売りさばいてしまおうかと思ったが、それも不可能。
    「時に諦めも、肝心。貴方は引き際を見誤った」
     都市伝説に冷たい視線を送り、千歳が除霊結界を展開する。
     その間も都市伝説が何か言っていたが、おそらく命乞い的な何かだったので、とりあえず聞かなかった事にした。
    「……抉る!」
     都市伝説の懐に潜るようにして、蓮也が閃光百裂拳を叩き込む。
    「おっと、危ねえ」
     その途端、ポンパドールが都市伝説の背後に回り込んで、何とかキャッチ。
     ……幸い壁にもダメージはない。
    「……無駄遣いを誘う悪魔は、俺の鉄槌を喰らうといいよ」
     ポンパドールから離れた都市伝説を狙い、恢が大振りな影のナイフを振るう。
     一瞬、都市伝説は何が起こったのか分からず、口をパクパクさせていたが、それを理解した時には完全消滅。
     その光景を目の当たりにした主婦が、ポカンと口を開けていた。
    「これで、もう大丈夫です。悪い夢を見ていたんですから……」
     呆然とする主婦を慰め、クラウィスが壁に視線を送る。
     さすがに夢というのは無理があるかも知れないが、都市伝説の事について説明したところで、信じては貰えないだろう。
    「とにかく、壁は弁償するわ。さすがにこのままだとお互いに気分が悪いと思うから」
     何やらモヤモヤとした気持ちが晴れなかったため、エリカがタイミングを見計らって主婦に声をかける。
    「その必要はないわ。主人にはガラの悪いセールスマンが来たって言っておくから。それに、ほら……これが残っているし」
     都市伝説が持っていたカバンを掲げ、主婦がニコリと微笑んだ。
     色々と納得のいかないところもあるようだが、エリカ達が助けに来なければ命を落としていたのかも知れないという気持ちがあったのだろう。
     壁の代金は弁償しないでいい、と言う事で話が纏まった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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