――ガコン! と空き缶が削り取られた。
「……ふむ」
女は小さくうなずく。穴どころか上下に分かれてしまった空き缶を拾い、満足気に笑みをこぼした。
「よし、銃弾っぽいわね。そもそも、私のようにか弱い女が素手で戦うなんて――品がないものねぇ」
女は自身の右手にオーラを集中させる――そのバトルオーラは女の思考通りに無数の銃弾の形をなした。
「ほい」
それを無造作にばら撒くように投げ放つ。オーラの銃弾の雨は高速道路の柱に無数の小さな銃痕を穿った。
「コツはあれね、実際の銃弾のように回転するのを明確にイメージする事っと……うんうん、私のような淑女はこういうエレガントな手段で戦わないと」
年の頃なら二十代半ば。大人びた容姿の美人なので、淑女と言っても通りはするだろう――外見だけなら。
「さて、今度は実地で試しましょう」
んー、と背伸びをして女は満面の笑顔で言った。
「人間を的に試し撃ちよ!」
「――いや、淑女はそんな事言わない」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はもう耐え切れないという表情でツッコミを入れた。
ヤマトが今回察知したのはダークネス、アンブレイカブルの行動だ。
どうやらそのアンブレイカブルは深夜の高速道路下の空き地で『試し撃ち』をしているらしい。
「ダークネスは殲術道具使わなくてもサイキックは使えたりするからな。淑女が拳で戦うのは美しくない、という考えから銃系のサイキックを手に入れたらしい」
それなら銃器を装備すればいいのに、とも思うがそこはこだわりらしい。こだわりならば仕方がない。
「こいつは試し撃ちで手応えを感じると今度は人を的に試し撃ちしようとする。こうなればどれだけの被害が出るかわからない――頼む、止めてくれ」
時間は深夜。高速道路下の空き地で試し撃ちをしている時に襲撃をかければ周りに被害を出さずに戦う事が出来るだろう。アンブレイカブルが試し撃ちに選んだ場所だ、広さもあるし戦う分には申し分ない。
「後、電灯もあるからそっちの問題もないぜ? 問題は、このアンブレイカブルの淑女が強敵だって事だな」
無数の銃系の殲術道具から得たサイキックを使って来る、単体ではあるがこちらの全員に匹敵する戦闘能力を持っていると思っていい。
「淑女に似合うかどうかは別として、かなりいやらしい構成のアンブレイカブルだ。こちらも役割をきちんと決めて未来予測の優位を活かして戦ってくれ」
気をつけてな、とヤマトはサムズアップ、灼滅者達を見送った。
参加者 | |
---|---|
橘・瞬兵(蒼月の祓魔師・d00616) |
後籐・恋(ポップロックトリックスター・d01111) |
字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787) |
ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954) |
暁吉・イングリット(明鏡獅錐・d05083) |
山崎・余市(拳炎一如・d05135) |
冴凪・勇騎(蒼黒の弦影・d05694) |
黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362) |
●
深夜の高速道路下――そこで純白の流星が瞬いていた。
カカカカカカカッ! とその流星は並んだ空き缶を次々と蜂の巣にしていく。それを見て呵呵大笑する純白のバトルオーラをまとう女を見て橘・瞬兵(蒼月の祓魔師・d00616)がしみじみとこぼした。
「えっと、上品とか品格とかはよくわかんないけど……少なくとも「しとやか」ではないよね、あの自称淑女さん……」
その瞬兵の呟きに、暁吉・イングリット(明鏡獅錐・d05083)が肩をすくめる。
「淑女ねぇ……じゃじゃ馬の方が合ってっと思うけど」
そのあまりにも適切な表現に仲間達も納得した。
何にせよ、アレが危険な相手である事は確かだ――山崎・余市(拳炎一如・d05135)が仲間達とうなずき合い、その左の拳を突き出し言った。
「行くぜっ!」
近付けば女はその動きを止める。近付いて来た灼滅者達を怪訝な表情で見回した。
「……何よ、あんた達。私、忙しいんだけど?」
「試し撃ちに行く筈が、いきなり実戦なんて幸運だね? お姉さん」
真ピンクの解体ナイフを引き抜きそう後籐・恋(ポップロックトリックスター・d01111)が言えば――女の表情の変化は劇的なものだった。
「あら? あんた達が的になってくれるの? 確かにラッキーね」
「ただの喧嘩好きならいざ知らず……人間相手に試し撃ちってのは、流石に許容出来ねぇな」
まさに血に餓えた肉食獣――イメージで言うなら豹辺りだろうか? 剣呑な笑みをこぼす女に冴凪・勇騎(蒼黒の弦影・d05694)が言い捨てる。
「試し撃ちしたい気持ちはわからないでもない。俺だって人に歌を試しに聴かせてやりたいくらいだし」
ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)は神妙な表情でそう告げた。それは確かに似た欲求だろう――しかし、決定的に違う部分がある。
「だが、人を傷つけるのはダメだ」
「馬鹿ねぇ、歌と武器を一緒にしないでよ」
ファルケの言葉に女は呆れたように肩をすくめ、半眼して続けた。
「銃ってのは殺すためにあんのよ? なら、それ使って殺さないでどうすんの? あんたらだってナイフを箸にして蕎麦食べないでしょ? 人を殺す道具なんだから、人を殺さないでどうすんの」
暴論であり、真理だ――暴力によった人間でも同じ事を口にするかもしれない。
だが、彼女はダークネス――アンブレイカブルだ。
「華麗に敵を倒せるぐらい強くなる、言ってみればそれだけの事なのよ。拳で殺すより、よっぽど華麗でしょ? こっちの方が。ほら、私って淑女だし?」
「あなたが淑女? 気に入らないわねっ。そんな暴論で人間で試し打ちなんてさせないわ!」
ビシリ、と黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)がその指先を突きつける。その気勢に女はいじけたように鼻白み、肩をすくめた。
「だからー、目指して努力してんじゃないのー」
「本当の淑女はきっと自分で自分の事、淑女とかアピールしない気がするよ……」
瞬兵も女のそのいい加減さに苦笑する。
「拳じゃなくて銃なら淑女なのか? その理論なら僕も銃を使うから淑女になるかもしれないけど」
字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)がわずかに目を細め、自分の武器を見た。だが、すぐに言い捨てる。
「……まぁ、どっちでもいいか。迷惑掛けるダークネスは倒すだけだ」
「うんうん、そういうシンプルなのは大好きよ?」
女の表情が変わる――それに、思わず灼滅者達が身構えた。
そこにいたのは、武に狂った探求者――アンブレイカブルだ。強さを求め戦いに狂うダークネスが、その本性を現した瞬間だった。
「Sweets Parade」
あんずが解除コードと共にカードを握った右手を振るう――すると、巨大泡立て器の形ろしたロケットハンマーが現れ、唸りを上げた。
「拳炎一如」
そして、余市がスレイヤーカードを中に放り、その拳で打ち抜く。その直後、その身をその名の通り陽炎のようなバトルオーラが包んだ。
「アンタの嫌いな格闘技の完成度が如何に高いか教えてやるぜ」
「やってみせないさい」
ギュオン! とアンブレイカブルのバトルオーラから無数のオーラの銃弾が生み出される。
ここに、壮絶な死闘の幕が切って落とされた。
●
殺気を抑える事もしないアンブレイカブルへと挑む灼滅者達の陣形はこうだ。
前衛のクラッシャーに余市とあんず、ディフェンダーに恋と望、中衛のキャスターに瞬兵、ジャマーにファルケ、後衛のメディックに勇騎とイングリットのサーヴァントであるナノナノのイヴ、スナイパーにイングリットといった布陣だ。
「まずはこれでも試しましょうか!」
ドドドドドドドンッ! と銃弾と化したオーラがアンブレイカブルの周囲から前衛へと撃ち込まれた。
「輝く御名の下、道を違えし者に降り注げ、裁きの光条……」
それに対して、後衛から瞬兵がジャッジメントレイの光条を放つ。その輝きに続くように、スカートをひるがえし恋が駆け込んだ。
「新しい武器が手に入ったから試し撃ちー、ってふざけんな! そういうのは液晶の向こうでやってろ」
ピンクの解体ナイフが炎を宿す――恋がレーヴァテインを横一閃に振り抜いた。それはアンブレイカブルの胸元をかすめるのみに留まるが、その瞬間には望が真横に回り込んでいた。
「淑女らしからぬかもしれないけど……燃え散れ!」
望がガンナイフの刃を燃やし突き出した。それをアンブレイカブルは銃弾の雨を降らせ相殺、牽制する。
「本当に元気ねぇ――!」
感嘆のからかいが途中で止まる――あんずがそのロケットハンマーに炎をまとわせ、豪快に振り下ろしたのだ。
「ブリュレにしてあげるわ!」
ガゴン! と轟音が鳴り響く。頭上で両腕をクロスさせてアンブレイカブルはあんずのレーヴァテインを受け止めるもその両腕に炎が燃え移るのを防げない。
「人を相手に試し撃ちなんてくだらねぇ! それより、俺の歌を試し聴きしていきやがれいっ」
ファルケの力強い歌声が高架下に響き渡る。そのファルケのディーヴァズメロディにアンブレイカブルは顔をしかめた。
そして、胸の前で右の拳を左の掌に合わせ意識を切り替えたイングリットが駆ける。イヴのしゃぼん玉がアンブレイカブルの銃弾に打ち抜かれる中、その長い金髪をなびかせイングリットは低く懐へ潜り込んだ。
拳に闘気を変換させた雷をまとわせ、突き上げる――イングリットの抗雷撃が、アンブレイカブルの顎を打ち抜いた。
「……ったく、やりたい放題してくれるわね」
しかし、アンブレイカブルは素早く体勢を立て直す。イングリットはすぐさま真横に跳ぶ――そこへ入れ替わるように余市が突っ込んだ。
「拳で戦う女に品が無い、だなんて酷い勘違いだぜ!」
再び違う軌道で放たれる抗雷撃――アンブレイカブルは両手を下へ突き出し、その拳をオーラキャノンで迎撃、相殺した。
「っと」
「気をつけろ、やっぱ並じゃないぞ? こいつ」
オーラで弾かれた余市が素早く間合いを開け、自身にヒーリングライトを施して勇騎はそう言い捨てた。
アンブレイカブルの顔にあるのは笑みだ――歯応えのある得物に出会えた、その事への歓喜、それに満ちていた。
「そうよね、的も活きがいい方が当て甲斐があるわよね。ええ、淑女らしく粛々とやってあげるわ」
「淑女ってのは気品があってしとやかな女性の事だ。人間相手に無差別に攻撃するような輩は、淑女なんて言わねぇんだよ」
勇騎の言葉に、アンブレイカブルがきょとんと目を丸くする。そして、肩を震わせて言ってのけた。
「やぁねぇ――アンブレイカブルにとって、この程度慎ましやかな部類よ」
そう言い切り、アンブレイカブルはオーラによる銃弾の嵐を撒き散らした。
●
高速道路下の空き地で、剣戟が加速していく。
「メレンゲになりなさい!!」
ゴウ! とあんずの巨大泡立て器がロケット噴射で加速する。そのロケットスマッシュを脇腹に受けて、アンブレイカブルは膝を揺らした。
アンブレイカブルがその顔を上げる――そこにはバスターライフルを構えた望の姿があった。
「銃対決だな。シュート!」
アンブレイカブルはそれをオーラの銃弾で相殺しようとするが――間に合わない。右肩を撃ち抜かれ体勢を崩したところを恋が逆手に構えた解体ナイフが燃え上がり、振り上げた。
恋のレーヴァテインがアンブレイカブルの背中を切り裂く――それをピンク色のサングラス越しに見ていた恋がその目を丸くした。
「――ッ!」
振り返り越しに、アンブレイカブルがその右の拳へオーラを集め突き出したのだ。余市の背筋に戦慄が走る――空手一筋で生きてきた彼女だ、だからこそその拳が修練の果てに身につけた一撃なのだと理解出来た。
「ぐ、う……!?」
「え、えっと……!?」
「堪えろ!」
その鋼鉄拳を受けて恋は膝を揺らす。途切れそうになる意識を無理矢理引き戻した恋へ瞬兵と勇騎がすかさずヒーリングライトで回復させた。
「ああ、もう! あんまり使いたくないのよ、これ。返り血はつくし、すぐに終わってつまらないし、品がないって言うかさー」
右の手首を振るい、アンブレイカブルは渋い表情を見せる。それにイングリットがぶっきらぼうに言い捨てた。
「アンタの言う品って見てくれだけなんだな」
「うん?」
「品っていうのは所作だけじゃない、心だってばあちゃんが言ってた」
イングリットのその真っ直ぐな言葉に、アンブレイカブルはあっさりと首肯した。
「良い事言うばあさんじゃない。でもね、やっぱ形から入らないと駄目なのよ、私みたいのは」
「空手が野蛮で、銃撃が優雅? 勘違いもいいとこなんだぜ!」
余市が拳を突き出し、叫んだ。そこには隠し切れない悔しさがある。あの一撃は、ただの暴力でたどりつける領域ではない――研鑽を詰んだ果てに届く拳だと言うのに。
だからこそ、余市は言ってのけた。
「結局拳に頼るのかい? ……けど、そんな軸のブレた半端者が扱える程、格闘技は甘くないんだぜ!」
そんな拳を認めてなるものか――その言葉に、アンブレイカブルは笑みをこぼした。それは懐かしむような、眩しいものを見るような笑みだった。
「あっそ――なら、いらっしゃいな。今、この時は淑女をやめてあげるから」
アンブレイカブルが身構える。左半身前のめり、打撃を主とする構えへと――そこへ、余市とイングリットが駆け込んだ。
――アンブレイカブルと灼滅者達の戦いは、より苛烈なものになっていった。
バレットストームや援護射撃に鋼鉄拳が混じる事により、灼滅者達は追い込まれていく。しかし、それを勇騎と瞬兵にイブ、それにファルケまで回復に回り持ち堪えた。
(「ちっくしょう、強ぇな!!」)
ファルケが調子外れに歌いながら内心で舌を巻く。元より、拳で戦うタイプのアンブレイカブルだったのではないか? ファルケにはそう思えてならなかった。
何故なら、鋼鉄拳を混ぜてからの動きに躍動感があるからだ。それは自分が歌う事で気分を高揚させた時に似ていた――だから、厄介だと判断する。
「――ォオッ!!」
アンブレイカブルがその右の拳を振るった。あんずはピンクの長い髪をなびかせその拳へとオーラを集中させた両の拳を放った。
一撃の威力の低さを数で補う――その閃光百裂拳が火花を散らし、アンブレイカブルの鋼鉄拳を相殺、受け止めた。
「やったわね!」
あんずの拳の動きが止まらない。相殺した直後、更に加速させた無数の拳がアンブレイカブルを殴打した。
「その命、奪わせてもらう!」
その直後、真横へ回り込んだ望が真紅のオーラに包まれたガンナイフを薙ぎ払った。ザン! と紅蓮斬の一閃に切り裂かれ、アンブレイカブルは踏み止まる。
「このチャンス、逃さないぜ!」
そこへ勇騎は異形化した巨大な拳を振り下ろした。勇騎の鬼神変にアンブレイカブルは両腕をクロスさせてガードを試みるも、その両腕が弾かれ大きくのけぞる。
「よっと」
アンブレイカブルがのけぞったところへ恋がそのスカートから伸びるスラリとした足を払った。体勢を崩したところをそのまま地面へと叩きつける――地獄投げだ。
「逃がし、ません……」
そこへ瞬兵の左手が閃く――バラリ、とばらまかれる鋼糸、結界糸がアンブレイカブルを捉えた。
そして、ファルケが跳んだ。
「俺の歌に賭ける情熱をこの一撃にかけてやるっ」
ファルケがクルリと空中で前転――その右足を伸ばし、真っ直ぐにアンブレイカブルへとその蹴りを叩き込む!
「くらえ、必殺! 俺の歌は宇宙一ーっ!」
ドゥ! とファルケのご当地キックがアンブレイカブルの腹部へ命中した。しかし、アンブレイカブルは倒れる事を拒む――すぐさま起き上がり、身構える。
「――――!」
アンブレイカブルが起き上がった直後、余市が拳を繰り出した。今、自分に放てる最高の正拳突き――渾身の鋼鉄拳だ。
アンブレイカブルが右の拳でそれを迎え撃つ。まるで金属と金属がぶつかり合うような轟音が鳴り響き――アンブレイカブルの拳を弾き飛ばした余市の拳が、その胸へ届いた。
「が、は……ッ!」
それでもアンブレイカブルは倒れない。そこへイングリットが迫った。
アンブレイカブルの体が宙を舞う。イングリットの地獄投げに、アンブレイカブルはアスファルトの上を転がり、そして二度と起き上がらなかった……。
●
「…………」
胸の前で右の拳と左の掌を合わせ、イングリットはようやく緊張を解いた。
仲間達もようやく安堵の息をこぼす――結果ほど、楽な相手ではなかったのだ。まさに綱渡りを渡り終えた、そんな気分だった。
「これ、どうしたらいいのかしら……?」
あんずが周囲を見回し、笑顔を引きつらせる。そこに残った戦いの痕跡を見ての言葉だが……出来る事といえば、アンブレイカブルの持ち込んだ空き缶を持ち帰るぐらいだろう。
「最後に勝利のエンディング曲を歌ってやらないとな」
先刻まで戦闘音が鳴り響いたそこへ、今度はファルケの調子外れの歌声が鳴り響く。心の底から楽しむその歌声は、戦いを終えて聞く者の心へと染み渡った……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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