幼き炎獣の願い その先に続く道の果て

    作者:長野聖夜

    ●幼き炎獣
    「ヤット……ヤット……」
     鶴見岳の山頂、その一角。
     幼い小学生くらいの外見をした周囲に炎を展開している獣が、自分の量の掌の上で浮遊している炎を、恍惚とした表情で見つめている。
     ――やっと……一緒になれる。
     自らの両の掌の上の炎が、次第に幼い少女の体を包み込んでいく。
     程なくして、まるで地獄の血の池を思わせる様な真紅の炎の塊となった娘が大地に吸い込まれて消えていく。
    (「ガイオウガ」)
     融合できる主の名を心の中で呟きながらも、棘が刺さったようなチクチクとした痛みを胸に感じた。
     ――ハラリ。
     その心に刺さる何かを暗示するかの様に、少女の姿をした炎獣が消えた後、老婆が幼子を抱く若い女性を幸せそうに見つめている写真と、連絡先、と思しきメモの書きこまれた紙が何かを訴えかけるかの様に、その場に静かに零れ落ちた。

    ●選びし道は、全てが正しく
    「……星の正位置、か。この戦いに何らかの希望が見いだせる様に、と言う願いが込められているのかな……」
     現れた星の正位置のカードを見つめながら、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が誰にともなく小さく呟く。
     優希斗の呟きに何か気になることがあったのか、何人かの灼滅者が、何時の間にか優希斗の周りに集まっていた。
    「やぁ、皆。サイキック・リベレイターがガイオウガに射出されたね。その影響だろう。……ガイオウガの復活を悟ったイフリート達が、鶴見岳に向かっている」
     優希斗の説明によれば、鶴見岳の頂上でイフリートは自殺し、ガイオウガの力と1つになろうとしているらしい。
    「イフリートが、ガイオウガとの融合を繰り返せば、それだけガイオウガの力の回復は早くなり、こちらの戦う準備が整うよりも先に、完全な状態で復活してしまうかも知れない。……だから、頼む。どんな方法でも構わない。鶴見岳に現れるイフリートを撃退して、ガイオウガとの融合を防いでほしい」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で返事を返した。
    「今回、現れるイフリートは鶴見岳の8合目辺りで戦うことになる。タイミングとしては、夕方位。少女の形を取っている」
     僅かに怪訝そうな表情になる灼滅者達に小さく頷く優希斗。
    「そのイフリート、アスカと言うらしいんだが……どうやら最近になって闇堕ちしてイフリートになったらしい。ただ、イフリートになってからまだそれほど年を重ねていないのかも知れないね」
     尚、アスカはファイアブラッドのサイキックの他に、シャウトや影業に似たサイキックを使用してくるらしい。
     灼滅者達が彼の説明に理解した表情になるのを確認し、それから、と言葉を続ける優希斗。 
    「ガイオウガと融合し、その一部になるイフリート達なんだけど、そのイフリート達はどうやらその経験や知識をガイオウガに伝える役割もあるみたいなんだ。だから、もし、学園に友好的なイフリートならば……ガイオウガへの伝言を伝えて、敢えてガイオウガとアスカを融合させると言う選択肢もあるかも知れない。最も、その場合、イフリート達との友好を深めたいと言う皆の想いや、伝えたい内容を確実にアスカに理解して貰う必要はあるけれど」
     後……と僅かに目を細める優希斗。
    「アスカは、イフリートになっているから、既に灼滅者として救出することは出来ないけど、人の頃の『記憶』には執着があるらしい。もし、その記憶を刺激することが出来る強い絆を持つ誰かがいれば……ガイオウガの一部となることを止めることも出来るかも知れないね。最もガイオウガの影響の強い場所で戦うのだから、手加減攻撃等で確実に負傷を蓄積させて、アスカの力を弱めることは必須だけれど、ね」
     軽く息をついた優希斗に、灼滅者達が其々の表情で頷き返した。
    「正直に言ってしまえば、一番安全で確実なのはアスカを灼滅することだ。でも、天海大僧正の例もあるし、クロガネを止める為に決して分かり合うことの出来なかったタカトとの共闘も一度している。……だから、ガイオウガと友好的な関係を築く為、或いは、イフリート達個人との縁を深める為に戦うことは、決して悪い事じゃない、と思っている。其の辺りの判断をどうするかは、現場に向かう君達に任せるよ。……どうか、気を付けて」
     優希斗の見送りに小さく頷き、灼滅者達は、静かにその場を後にした。


    参加者
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    獅子鳳・天摩(ゴーグルガンナー・d25098)
    十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    月影・黒(八つの席を束ねる涙絆の軍帥・d33567)

    ■リプレイ

    ●迷いし炎獣『アスカ』
     ――某月某日。
     全身に炎を纏った少女が、頂上に向かって獣道を登っている。
     ――ヤット……ヤット……。
     ガイオウガと1つになれる。
     それは、炎獣としての本懐。
     けれども……。
     脳裏に浮かぶのは、『人』であった頃の思い出。
     そして結局捨てられなかった、胸の中にある写真とメモ。
     ――ワタシハ……。
     何を、求めている?
     そんな時。
     不意に、目の前に8人の人影が現れた。
    「……っ?!」
     息を呑む、少女。
    「女の子の心の声を聞くのもヒーローの役目ってね!」
     目つきの悪いクロネコの着ぐるみを身に纏い、その上からヒーローの様な赤いスカーフを巻き、黒い刃に赤いラインをしたウロボロスブレイドを持った聞き覚えのある声の青年が気合を入れている。
    「クロネコレッド、見参!」
     それは、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)。
     ――少女の脳裏から離れない人としての『記憶』の中にある人々の1人。
    (「倒さなきゃ……」)
     本能的にそう思い、周囲の炎を燃え上がらせ戦闘態勢を取る。
     けれど、彼女は気が付かない。
     それがガイオウガの力の影響下にあるが故の行動であることに。
     ……今は、まだ。

    ●その想いを届ける為に
    「予知の通り、先ずは弱らせる必要があるようだな」
     直哉の名乗りを聞いた後、まるで何かに操られる様に周囲に纏う炎を強めて戦闘態勢を取ったアスカの姿に、音を遮断する結界を張った十文字・瑞樹(ブローディアの花言葉のように・d25221)が小さく呟き、愛刀『十文字』を上段から振り下ろす。
     数多の戦を共に潜り抜けてきた愛刀が、袈裟懸けに相手を斬り裂いた。
    「……言葉を尽くすのは、任せましたよ、文月さん」
     アンネスフィア・クロウフィル(黒い一撃・d01079)がすり抜け様に軽く直哉の肩を叩き、原罪の名を持つ大鎌エルプズュンデで、アスカの死角から右足を斬り裂く。
    (「人とダークネスは分かり合えない。だから、こんな事態になっています。けれども……」)
     もし、共存できる道があるのなら叶えたい。
     それに力が必要ならば、今は、その為に力を振るう。
     そう、決めていたから。
    (「人と、ダークネス……。友好的に付き合える可能性があるならば、其れを探しても良い」)
     想いを乗せた調べを奏でながら、天使の様な白翼を展開したセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)はふと、思う。
     最近の武蔵坂学園は、灼滅派と共存派の様に多くの思惑が入り混じっている。
     メイヨール子爵の灼滅を阻止できなかったあの時の事が特に顕著だ。
     自分の信じる道が本当に正しいのか、今のセレスティには分からない。
     けれども……。
    (「今回は、上手く行けばいいのですが」)
     心の裡で祈りを捧げるセレスティの攻撃によろけるアスカを冷静に観察していた月影・黒(八つの席を束ねる涙絆の軍帥・d33567)が、彼女の死角から、左足を血獄刀・怨嗟で斬り裂いた。
    (「もし君にガイオウガとの融合を留まらせることが出来なければ、その時は……」)
     堕ちてでも、融合を止める。
    「アスカ……お前に一体何があった? 俺は、どうしてお前が人としてのアスカの記憶に興味があるのか、知りたいんだ」
     ヒトマルの体当たりに合わせてAR-TYPE99からアスカを追尾する弾丸を射出、その肩を射抜きながら、興味深げに問いかけるのは、平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)。
    (「不必要に傷つけたくはない。話を聞いてくれよ……?」)
    「久しぶりだぜ、アスカ。連絡先の紙、持っていてくれたんだな。ありがとう。また会えて嬉しいぜ」
     和守の問いかけに、顔を上げたアスカに笑いかける直哉。
     そんな直哉に向けて、その手に炎を籠めた拳を叩きつけようとするが彼はギリギリまでその攻撃を引き付け負傷を最小限に抑え、ウロボロスブレイドでアスカをみね打ち。
    「分かってるさ。融合は炎獣達の悲願だよな。でも、その前に少しだけ話がしたいんだ」
    「ハナ……シ……?」
     直哉が炎獣の本能に理解を示しつつも続けた言葉に首を傾げるアスカ。
    「オレ達は、なにがなんでもガイオウガの復活を阻止しようとしているわけでも、君がガイオウガと融合するのを止めに来ている訳じゃないんすよ。ただ、できるならお互いを大事なお隣さんとして仲良くできる道がないかと探しているんす」
     口調こそ軽薄だが、獅子鳳・天摩(ゴーグルガンナー・d25098)が、ある戦いで得たOath of Thorns……どんなことがあろうとも、前に進むという誓いを籠めてそう名付けたエアシューズで星の力を帯びた回し蹴りを叩きつけながら告げたその想いは、並大抵のものではない。
    (「リードっちは、自分の意思を最期まで貫いた。全力で誠意を尽くして話した海っち達には想いが通じた。勿論、いつも上手く行く筈がない。それでも……」)
     今、出来ることをしなければ何も変わらない。
     儚い可能性を捨てる事なんて、絶対にできない。
     ミドガルドの機銃掃射に援護されながら、天摩はアスカを観察する。
     アンネスフィア達数人が攻撃しただけだが、炎の勢いが先程よりも弱い。
    (「彼女を、死なせたくない」)
     天摩の目配せを受けまだ大丈夫、と判断した葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が接近し、抗雷撃。
     その一撃によろけるアスカに向けて、直哉が静かに頭を垂れた。
    「闇堕ちする前に支えてやれなくてごめんな。それでも、ここで会えたことが俺は嬉しいよ。……家族や、仲間、アスカを想うみんなの心がここへ導いてくれたのかな」
    「……カゾク……ナカマ……ミンナ……」
     彼の言葉を反芻しながら掌から全てを焼き払う炎を放つアスカ。
     ミドガルドが瑞樹を庇い、天摩が統弥を庇う。
     直哉は、自らの拳に炎を纏って受け止めた。
     そうしてアスカの力を減殺しながら接近して閃光百裂拳。
    「あの時の写真の赤ちゃんはアスカかな。家族皆が誕生を喜んで、アスカの幸せを願ったんだよな」
    「ワタシノ……シアワセ……」
     セレスティがダイダロスベルトで直哉を包んで癒しつつ、胸の前で両手を組んだ。
    「あなたが融合するのは否定しません。でも、あなたが抱えているあなたの気持ちも大切にして欲しいんです」
    「……キモチ……タイセツニ……」
     セレスティの祈りに小さく呻くアスカに黒が再び黒死斬。
     攻撃を避けないだけでなく、先程よりも手応えが大きい。
    (「弱まってきているのか」)
     ガイオウガの影響が。
    「何か、胸がモヤモヤすることがあるのではないか?」
     疲弊が見えてきているアスカに、瑞樹が手加減攻撃。
     瑞樹の攻撃と問いかけの影響か、アスカが掌で自分の左胸の辺りを押さえている。
     ――貴女が闇に堕ちた過去は変わらない。でも、そこからどうするのかは、まだ決まっていない未来ですよ。
     同じく手加減攻撃でアスカを弱らせながら、アンネスフィアが行動で其れを説く。
     アスカの動きは、確実に止まりつつあった。 
    「お前が直哉の言葉に反応するのは、それだけ家族に思い入れがあると言う事だ。無理強いするつもりはないが、融合する前にその話だけでも聞かせて欲しい」
    「アスカちゃんは、イフリートになったけれど、大切な家族を想うことが出来るなら人間と同じだよ。もういないけれど、僕が忘れない限り僕の心の中で生きている僕の大切な家族の様に」
     これ以上の攻撃は危険と判断し、ヒトマルにフルスロットルを使用させながら和守が問いかけ、統弥が自分の過去を語ってアスカへと共感を示す。
    「オレは、ダークネスでも分かり合える奴がいることを知っているっす。だから……きっと、君とも話せば分かり合えるって信じたいんすよ」
     ミドガルドに攻撃を停止させ、天摩が率直に自分の想いを告げた。
    「アスカ。俺は願っているんだ。アスカの心が、明日も、その先も幸せであることを。その為にも、俺達はもっとアスカと話をしたいんだ」
    「幸せは、意外と身近にあるものだ。……もしかしたら、俺達と話すことで、君は幸せを見つけられるかも知れない」
     直哉の想いと黒の諭しが、アスカに届いたのだろうか。
     気付いた時、アスカは攻撃の手を止めていた。
    「……イタイ……」
    「なにが、痛いんだ?」
     呟くアスカを気遣う様に、問いかける和守。
    「ムネガ……イタイ……デモ……ドウシテカ……ワカラナイ……」
    「それならば、もう少し話をしましょう。話すことで痛みが和らぐこともありますから」
     今の武蔵坂の在り方に迷いを覚えながらも、自分が信じている道を貫く為に。
     セレスティが差し出した提案に、アスカは小さく首を縦に振った。

    ●道を選ぶのはあなただから
    「キミは胸のモヤモヤに、何か心当たりの様なものはあるか? もし、あるようならば、私達に見せて欲しいのだが」
    「ソレハ……」
     瑞樹の問いかけにアスカが懐から2枚の紙を取り出す。
     1枚は、先程直哉が話をしていたメモ。
     もう1枚は予知にもあった写真だった。
     写真に映る老婆の姿を確認し、瑞樹が優しく聞く。
    「お祖母ちゃんは、元気になったかい?」
    「……イナク……ナッタ……」
     記憶を辿り顔を俯けるアスカ。
    「……すまない」
     静かに謝罪する瑞樹。
     そのまま、ダークネスであることも忘れて近付き火傷も恐れずアスカを抱きしめた。
    「……お祖母ちゃんがいなくなって、寂しいのだろう? 私も少しだが、その気持ちは分かる」
     アスカとしての記憶に執着しているということは、その記憶が無くなれば寂しいのだと思うから。
     瑞樹の抱き締めをアスカは解こうとしない。
     ――まるで、その温もりに縋る様に。
    「僕の心の中に僕の家族が生きているのと同じように。アスカちゃんのお祖母さんも、アスカちゃんの心の中で生きている」
    「……ココロノナカ……」
     反芻するアスカにそうだよ、と頷く統弥。
    「でも、アスカちゃんが死んでしまったら、お祖母さんはまた死んでしまうよ」
    「……シヌ……」
     ガイオウガと融合するとアスカがどうなるのかは、正直統弥には分からない。
     ただ、大切な……大切だったの方が適切かも知れないが……家族のことを、今も尚大切に想えるのならば、『アスカ』として生きて欲しいという切実な願いが統弥にはあった。
    「だから、お祖母さんと一緒に、もう少し生きてみないかい?」
    「今の話を聞いて、貴女はどちらを選びますか?」
     統弥たちの話を聞き終えたアスカに語り掛けるのは、アンネスフィア。
     瑞樹から離れたアスカがアンネスフィアへと視線を移す。
    「貴女の中の大切な人を消してでも、炎獣としての本懐を遂げますか? それとも……私達と共に来て、今の自分を残して行きますか?」
     アンネスフィアの問いに俯くアスカ。
    「ソレハ……デモ……」
    「でも? 何か、気になることがあるのか?」
     和守が続きを促すが、アスカは答えず俯いている。
     ただ……。
    (「震えている?」)
     その震えが、先程までとは違う何かを訴えかけているように感じる天摩。
     そう、まるでそれは……。
    (「何かに怯えている様だな」)
     天摩と同様に何かを感じて直哉に目配せする黒。
     思い当たることがあるのだろう、直哉が、そっと口を開いた。
    「もしかしてアスカは、あの時の炎獣の様に、自分が大切な人を襲ってしまう可能性が怖い?」
     家族を傷つけたくないから御社に隠れていたにも関わらず、大好きだから襲わずに居られなかったかも知れないあの炎獣のことを思い出して問いかける直哉に、アスカが頷く。
     やはり、という想いが直哉の胸を過り、その時は、と続けた。
    「俺達が止めるから」
    「そうですね。あなたに、大切な人を傷つけさせるような、哀しい想いをさせない為に」
    「俺のすべき事も変わらん。一般人に害をなすなら倒す、それだけだ。もし、アスカがその炎獣の様に一般人を傷つけようとしたら、その時は、俺達が倒す」
     セレスティと、和守の同意を背に受けて、言葉を重ねる直哉。
    「必ず、止めるから」
    「……トメテ……クレル……?」
     表情を和らげるアスカに頷く。
    「ああ。だから俺は、統弥や皆と同じで、アスカに、アスカとしての生を精一杯生きて欲しいと思うんだ」
    「ワタシガ……ワタシデ……」
    「アスカちゃんが暮らせる場所は用意する。だから、一緒に生きよう」
    「俺達もアスカと共に生きたい。だから、一緒に行こう、俺達の学園へ!」
     統弥が手を差し出し、直哉が笑顔でそう告げた。
    「君が学園に来てくれるなら絶対に誰にも手出しさせないっす。オレ達がなにがなんでも君の安全を保障するっすよ」
    「アイドルを目指し、今も活動を続けている淫魔達もいるからな。お前を保護するくらいなら問題ないだろう」
     天摩の誓いと、和守の言葉。
    「学園に来てくれたら、キミを一人にしない。私達が必ず一緒に居る」
    「ああ、そうだ。学園に来て下さるなら、最近建てた私の小屋にでも来てください。誰も話し相手がいなくて、暇なんですよ?」
     瑞樹の約束と、アンネスフィアの誘い。
     それは、彼女達全員の想い。
     その全てを受け取った時、アスカは幸せそうな微笑みを浮かべた。

    ●思い出を遺して
    「アリガトウ……」
    「アスカ……?」
     微笑みながらのアスカの御礼。
     けれどもそれに何かを感じて、統弥と共に直哉が手を差し伸べる。
     だが、アスカはその手を取ろうとはしない。
    「コレデ……オモイノコスコト……ナクナッタ……」
    「……そうか。お前は……」
     和守が何かを悟り、静かに首を横に振る。
     例え、闇堕ちしたばかりでもイフリート。
     ガイオウガとの融合は、イフリートの『本懐』。
     誰もが原始的に抱えている『生きたい』という願いと同質のもの。
     彼女の想いを悟った和守に、静かに頷くアスカ。
    「ミンナトテモヤサシイヒト……ソンナシャクメツシャガイルコト……ガイオウガニハ……カナラズツタエル……」
    「……」
    「黒さん、駄目です。此処で堕ちてアスカちゃんを灼滅しても、誰も幸せになれません」
     黒が堕ちようとしているのを察し、自分の心に刺さる痛みを堪えながらセレスティが制止する。
    「……」
     セレスティの言葉に目を瞑り、顔を俯ける黒。
    「ミンナ……コレ……ダイジニシテクレル……?」
     アスカが差し出したのは、あの時のメモと写真。
    「……分かった」
     写真は瑞樹が受け取り、メモは、アンネスフィアが受け取った。
     重苦しい沈黙を抱えたまま、鶴見岳の頂上へと向かうアスカと天摩達。
     この時間が、何時までも続けばいい。
     きっと、此処に集った誰もがそう思ったに違いない。
     けれども、時は訪れる。
     ――頂上に辿り着く、その時が。
    「サイゴニ……ミンナニアエテ……ヨカッタ……」
    「アスカ……!」
     堪え切れずに涙を零す直哉。
     アスカの微笑みは幸せそうだ。
    「アリガトウ……」
     その言葉を最期に。
     アスカは、炎の塊となり大地に吸い込まれた。
     
     ――そよ風がまるで優しく慰める様に静かに彼等の頬を撫でていった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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